推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第十話 裏 アクア⑦

 

 

「俺を転生させた神の遣い?」

 

 この高千穂にはたしかに天鈿女命伝説がある。だが…………

 

「信じられない? なら貴方の今、探しているものの場所を教えてあげる。それが当たっていたら、信じて貰えるかな?」

 

「俺がなにかを探していたってなんで分かる? そしてそれがなにか分かっているのか?」

 

「分かるよ。ここでなにがあったのかを知っていれば」

 

「………………」

 

「付いてきて」

 

 そう言って、こちらに振り返ることもなく少女は歩いていく。二分か三分ほど少女を追いかけていくと、小さな祠があった。後ろには洞窟のような空間があり、少女の周りを飛び回っていたカラスが入っていく。

 

「ほら、中にキミの捜し物があるよ」

 

 少女に示された祠の先に入ると、俺の、いや、雨宮吾郎の死体があった。白衣と白骨だけでは分からなかったかもしれないが、生前にさりなちゃんに貰ったキーホルダーが見える。間違い無いこれは雨宮吾郎だ。

 

「あったでしょ。これで信じて貰えるよね」

 

「ああ、一先ずは信じよう。それで? 話ってなんだ?」

 

 少なくとも、普通の子供ではない事だけは確定した。超常の存在は転生なんて経験をした以上、否定出来ない。

 

「じゃあ、まず、認識のすり合わせをしようかな。キミはなぜ星野アイの息子として転生をしたと思っている?」

 

 転生した理由…………考えた事はあるが、考えても仕方ないと結論づけて考えるのをやめていた。

 

「…………たまたま生まれるタイミングで俺が死んだからとかか?」

 

「あんなタイミングで死んだから転生したのは事実だけど、それが理由じゃない。理由は天童寺さりながキミと一緒に生きたいと願ったから。せっかく、近くに居たのに再会をする事なく、キミは死んでしまった。だから再会させる為にキミは彼女の一番近いところである双子としてキミは転生したんだよ」

 

 この子はなにを言っているんだ? さりなちゃんが望んだから? 

 

「さりなちゃんは俺が転生した事を知らなかった。そんなはずはない」

 

「彼女は願っただけだからね。それを神様がどう叶えたのかどころか、そもそも願いを叶えて貰った認識すら彼女にはないよ。それでも神様は彼女の願いを全て叶えてあげたはずだよ」

 

 少女は淡々と語り続けた。

 

「彼女は芸能人の子供として生まれたいと願っていた」

 

 さりなちゃんがかつてそんなことを話していたことを思い出した。

 

「彼女はアイドルをしたいと願っていた」

 

 そうだ。俺と何度もそんな未来を話していた。

 

「彼女は健康な体になりたいと願っていた」

 

 願わないはずがない。ずっとベッドの上の生活をしていた彼女は健康に生きられる事がなによりも欲したもののはずだ。

 

「そして、最後の願いは…………彼女はキミと一緒に生きたいと願っていた」

 

 もし、16歳になったら、そんな約束をしていた。

 

「アイという憧れの芸能人の子供でアイドルになれるような容姿と健康な体を与えられた。そして最後の願いを叶える為にキミの下に導いた。もし、キミが生きていたら、彼女は入院している間にキミに話しかけて、キミはそれに答えたんじゃないかな?」

 

 ああ、そんな未来があったなら、彼女がアイドルになって成功する瞬間までずっと支えようとしたはずだ。

 

「まあ、キミはアイの出産日に死んだから、その魂を魂のない双子のもう片方に入れるような結果になったけど、彼女の…………キミの妹の夢は全て叶えたはずだよ」

 

「まて! 魂のないってどういうことだ?」

 

「元々は死産するはずだったんだよ。アイの子供は。それを優しい神様がキミたちを導いてあげたんだ」

 

 俺は本来なら無事に生ませることすら出来てないのか。

 

「そういう運命だった。それはどんな名医だったとしてもひっくり返すことが出来ない運命だ。まあ、それを神様が導いて変えたわけだけどね」

 

「…………転生した理由はわかった。でもそれが今後の話に関係あるのか?」

 

「そうだね。キミの転生した理由は天童寺さりなの願いだったけど、キミに期待しなかったわけじゃない。キミはアイのストーカーに殺されたわけだから、アイの近くに居ればストーカーを警戒してくれるかもしれないとは思っていた」

 

「俺は番犬代わりってわけか」

 

「まあ、それ以上の働きをしてくれた結果、アイは死の運命から一時的に逃れることが出来たのは事実だ。さらに本当なら天童寺さりな。いや、今は星野ルビーかな。その役目を果たそうとしているキミと話しておきたいと思っていたんだ」

 

 ひっかかる言葉がある。一時的? それはまるでアイが死ぬような運命にあるような言い方だった。

 

「いや、まて、一時的ってなんだ?」

 

「キミも分かってるだろう? 星野アイは死の運命にある。その原因はキミの調べているカミキヒカル。そして、キミの妹の星野ルビーの役目はカミキヒカルの排除だよ」

 

 少しの間、沈黙が流れる。

 

 カミキヒカルはあくまでもそういった可能性がある。というだけでしかなかった。それがアイを狙い続ける事になると、目の前の少女は断言した。そして、死の運命を乗り越えたアイがこれからもアイが死ぬ運命にあると言いつつも、ルビーがカミキヒカルを排除する役割があると言う。

 

 これは、アイが死んだ後にルビーをぶつける考えを持っていたという事だろう。

 

 ルビーはこいつとこいつの神様の手駒という事なのか? 願いを叶えてやったから、自分の言うとおりに動けとか言うつもりなのか? 分からないが…………信用できる味方ではない事だけはたしかだ。

 

「…………そんな事までして排除したいカミキヒカルは何者なんだ?」

 

「アレは、容姿やコネクション、才能、運、その他全てのものを生まれ持ちながら、人を愛さず、人に寄り添わず、人を見下して過ごし、有り余る才能がありながらも芸能の世界で失敗した。それだけなら良かったんだけど、それからは自分以外の自分と似た才能のある人間、愛される人間を壊すことでしか生を実感できない壊れた存在になった。そんな化け物は生まれ持ったその才能を壊す事に使い始め、才能のある人間をどんどん壊して殺していく。そんなやつだよ」

 

「………………」

 

「芸能の神様としては、これから力をつけていくとともに増えていく才能ある子が壊されていくのは忍びないから、排除したいというのは当然のことだと思うけど?」

 

「つまり、これから、カミキヒカルは才能がある人間に手当たり次第にアイにしたような事をしていくという事か?」

 

「いや、もうすでに何人も殺してるし、それがより加速していくことになるよ」

 

「なら、いつか捕まるんじゃないか?」

 

 日本の警察の殺人事件解決率は世界でも屈指のレベルだ。九割以上の確率で捕まる。複数犯の場合、捕まらずに寿命を全う出来る確率はかなり低い。特に今は科学調査が発達したから過去の未解決事件を解決していく事すら可能になっている。

 

「キミはアレに唆されたストーカーに殺されたわけだけど、それが見つかったのかな?」

 

「いや、でもそれは、俺に身内がいないから捜索依頼が出されなかったのと、相談した警察の判断する人間の不手際が重なったからだろ?」

 

「そうだね。アレはそんな偶々が続く人間だからこうして平然と人を殺せるわけなんだけどね。まあ、人の感情を操って、殺させる事をしたり、本人なりに手は尽くしているようだけど、本来ならとっくに捕まってるよ。キミの死体の扱いを見ても分かると思うけど、こういった雑なやり方を繰り返しても捕まらないんだ。本人は選ばれた人間なんて思っているだろうね」

 

 目の前の少女の言うことが事実なら、カミキヒカルは本当にそういった犯罪をしていて、オカルトじみた幸運で逮捕されないらしい。

 

 なら、どうするのかを考えていると、一羽のカラスが腕時計を咥えて、雨宮吾郎の死体の隣に置いた。

 

「さて、これはカミキヒカルがこの地に来たときにつけていた…………アレの名前が彫られた腕時計だ」

 

 目の前に置かれた時計は有名な高級腕時計だ。そういった時計には大抵、シリアルナンバーがあって、盗難品かが分かるようになっている。名前入りなら特注になる。遡ることは簡単だろう。

 

「どうやって確保したんだ?」

 

「キミの死体を処理する時に外していたから、その時に盗っただけだよ」

 

 なんてことがないように少女は告げる。

 

「これで全て解決するはずだ。カミキヒカルは、キミの死体の発見と同時に犯人の可能性が最も高い人物になる。キミと仲良くしていた看護婦さんがアレを目撃している事もあって、直ぐに調査は進むだろうね。アレの周りには不審死が多い。調査が進めば、それらの証拠も出てくる。死刑にならなくても残りの生涯を刑務所で過ごして終わることになるか、出られたとしても、影響力なんてなくなる。これがキミにとってもちょうど良いと思うけど」

 

 目の前の少女は、これを使ってカミキヒカルを排除しろと言っていた。なんだ。これで終わるのかと思うと、一瞬、気が抜けた気がした。

 

 だが、これを表沙汰にすると問題がある事に気がついた。

 

 犯人の第一候補にカミキヒカルの名前があがるがカミキは犯人ではないし、真犯人は今、刑務所に居る。もし、カミキが捕まったとして、そのまま殺人の罪を認めるのでは無く、真犯人の事を売って、罪を軽くするために証言するだろうし、真犯人の男だって黙っていないだろう。裁判で、カミキとアイの関係など、そういった諸々が公表されることになる。

 

 アイの恋人がアイのファンをたき付けて、アイを殺そうとした。そんな事件ならまだマシで、被害者になれる。アイドルなのに恋愛して出産までしていた事でも燃えるだろうが、致命傷ではない。だが、無関係の医師が死んだなんて事になれば、ネットで叩かれないはずがない。

 

 トップニュースで報道されるなんて事になればアイの芸能人生命なんて簡単に消えかねない。

 

 そうなれば、もちろん、俺もだがルビーにだって影響はある。必ず、放送自粛になるし、その自粛した分のCMやドラマ、バラエティーの損害賠償で苺プロが破綻する。そんな爆弾だ。

 

「これは使えない。少なくとも今はまだ。アイのスキャンダルが公表されれば、苺プロそのものが吹き飛ぶ。せめて、そういった非犯罪のスキャンダルの損害賠償請求が無い、もしくは少ない契約に切り替えないとアイだけじゃなく苺プロ全員が破綻する」

 

 少女を見ると強い視線を感じる。しばらくにらみ合うと少女は少し投げやりになって、言い放った。

 

「なら、仕方ない。頑張って、そこら辺の事はなんとかしなよ。だけど、時間は無限にあるわけじゃない。アレは化け物だ。そして、環境そのものがアレに味方をする。アレの父親も芸能界でも影響力がある存在で、それがもうすぐ死ぬ。一年、二年保つかな? それが死ねばアレは自由に動けるようになるよ。そうなれば絶対にアイは殺される。それは覚えておくと良いよ」

 

 歩いて消えていった少女を俺は追いかける事が出来なかった。

 

「俺は…………」

 

 目の前の俺の死体とカミキを追い詰める為の時計を見つめる。

 

 これを使えばアイの命を狙う奴は居なくなる。けど、それはアイとルビーの芸能生命を絶つ行為になりかねないし、必ず、苺プロが破綻するような事になる。

 

 まずは、壱護さんにそういった契約に変えて貰えるように相談して、破綻を回避する。その後は炎上した後に復帰出来るようにする準備をしないといけない。テレビなどに依存しない収益を作らないと、復帰までの時間を耐えられない。特にリアルイベントなんて出来なくなるだろうから、ネットの重要性は高くなる。ネット関連の仕事を作らないといけない。

 

 でも、俺はそれを仕方ない事だと割り切れなかった。アイとルビーをよく知りもしない人間に叩かれ、仕事を失い、未来すら奪われるなんて受け入れられない。壱護さん、ミヤコさんも、苺プロの人達も、B小町の人達もみんな不幸せになる。俺が身勝手な理由で関わったあかねも巻き込まれるだろう。

 

 あの少女の言うことが真実だとも限らない。あの少女は目的の為ならアイの死を許容し、ルビーを巻き込むことも厭わないような態度だった。心から信頼できる味方ではない。こちらを騙している事だってありえるから、話した事が真実だとまずは確定させないと、壱護さんの説得だってできないだろう。

 

 分かっている。これが俺のわがままだって事は。でも俺は受け入れられなかった。神だかなんだか知らないが、死ななかったんだからいいだろう。夢を叶えてやったんだからいいだろう。で、簡単に終わって良いはずがない。

 

 みんなには幸せになって欲しい。例え、俺がどうなろうとも。

 

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