推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第十話 裏 アクア⑨

 

 

 CM撮影の仕事が終わって、苺プロへ帰ってきた時、持っている携帯が鳴った。

 

 画面を見るとあかねからだったので出ると、焦っている声で俺に助けを求めてきた。

 

「アクアくん。かなちゃんから、親と喧嘩したから泊めて欲しいってメッセージが来たんだけど、すぐに消されちゃって。それから何回か、電話をかけたんだけど、繋がらないんだ。どうしよう?」

 

「わかった。こっちからもかなに連絡してみて、駄目なら家の方にも確認してみる」

 

 そうして、壱護さんを呼んで車を出して貰って、かなが行きそうな所を片っ端から探しに行った。

 

 かなの家に連絡をしたが、連絡が付かず、はじめは警察へ捜索願いをしようとしたが、友人や知人では捜索願いは受理されない為、かなの事務所経由で電話をして貰おうとしても駄目だった事から、出来る事は車でかなの行きそうな場所を探すことしか出来なかった。

 

 かなの母親へ連絡が付かず、行きそうな場所などに連絡をしても見つからず、家に押し入ってでも捜索願いを出させようと考えている途中で、ちょうどかなを見つける事が出来た。

 

 それからは、かなをうちの事務所に保護をして、風呂に入れて、ルビー用に用意していた服に着替えさせた。

 

 その間に壱護さんたちはかなの母親に連絡をしたりしていたが、繋がらないようで、あかねのお父さんが誘拐扱いにならないように、警察などに連絡を入れたり、なんだりしてくれていた。

 

 法律の事は俺はそこまで詳しくないが、家出をした子供を預かると最悪、誘拐として訴えられるケースもあって危険らしい。日本の親権はとても強く、特に母親の場合は厄介な事になる可能性が高いらしいので任せることにした。

 

 俺は、かなの側にいるが…………かなは死んだような目をして、「ええ」とか「大丈夫」など最低限の言葉以外、口を開かないでいた。こんな小さい子が、あの有馬かながこんな事になってしまう状態になるまで気がつかなかった自分の無力さを思い知らされる。

 

 さりなちゃんの時と同じだった。

 

 俺はさりなちゃんが、実の母親に諦められて…………見捨てられていた事を知らなかった。それでさりなちゃんが苦しんでいた事を最後まで気がつかなかった。

 

 天真爛漫でアイの事が大好きで、思い通りに動かない体を引きずって病状の悪化で様々な苦痛も受けながらも、アイみたいなアイドルになりたいと夢見る女の子としか認識出来なかった。

 

 さりなちゃんの最後に一緒にいたのは家族でもなんでもない俺だけだった。両親はとっくにさりなちゃんを見捨てていて、最後に顔を見ることすらしないくらい興味が無くなっていた。

 

 さりなちゃんが地獄に居た事を認識出来たのは、彼女が死ぬ直前で…………結局、俺はなにも出来なかった。

 

 俺がもう少し寄り添えて居れば、さりなちゃんは俺に家族から捨てられてしまった事を相談してくれたのだろうか? 俺がもう少し彼女の環境に気を遣ってあげられれば、俺がもし、産婦人科ではなく、外科医だったのなら、治療チームとしてもう少し時間を取れて、彼女の置かれた状況を察してあげられたのではないか? そんな事を抱えて生きていた。

 

 その時と一緒で、俺は何も気づかず、何も出来ずに、地獄に居た女の子を眺めていただけだった。

 

 何度も、何度も話しかけても通じている気がしない。信頼されていないのだから仕方ない事だ。それでも、力になれる事もあったはずという思いが募っていく。だから…………

 

「なんでこんな事になってるのに、相談してくれなかったんだ?」

 

 だから、つい、そんな言葉を吐いてしまった。言うべきじゃない言葉なのは分かっている。責められるべきは周りであり、かなじゃないのに。

 

「だって…………アクア、大変そうだったじゃない」

 

「えっ…………」

 

 それは俺が想定していない答えだった。

 

「アクアはアイやルビーの為に…………家族の為にたくさん頑張っていて、ルビーだってアイドルになる為に毎日、毎日、役者もやりながら歌もダンスもあんなに頑張ってた!」

 

「今までずっと頑張ってきたルビーにとって一番大切な時期だった。アクアだって、ずっとこのときの為にお金にもならない仕事を沢山抱え込んで頑張ってきたのを知っていたわたしが邪魔をするなんて出来るわけないじゃない!」

 

「わたしが魅力が無いのは、仕事がないのはわたしのせいであって、アクアが悪いわけじゃない。それどころか、今までアクアに人気もなにもかも依存してたことも分かって! …………なのに都合の良いときだけ頼って、迷惑をかけられるはずがないわよ。YouTuberやる用の企画書みたけど、なにあれ、なにからなにまで一人でやって、わたし以上に仕事をして、B小町のフォローまでして、しかも、あかねが言ってたけど、ずっと悩んであんまり寝てないから心配だなんて言われて…………そんな中、わたしにまで気にかけて、ばかじゃないの! あんたは家族のアイとルビーの為にだけ頑張ってればいいのよ!」

 

 かなは顔を下に向けて、拳を強く握りしめ…………ぼろぼろと涙を流しながら、そんな言葉を発していた。

 

 ああ、俺はこんな小さな子供を心配させて、自分の辛い気持ちを我慢させてしまったんだな。そう思った。

 

「それに、相談ってなにをすればいいのよ。お父さんもお母さんもどうにもならなくて、離婚して騙されて、お金がなくなっちゃって、それでいっぱい稼がないといけないのにかせげなくなっちゃって、怒られて…………事務所の人も仕事はとってきてくれないのにお金の事ばっかりになって…………責められて。そんなこと、相談して困らせたくなかったのよ」

 

 小さくなる声。たしかに親子間の問題や事務所の問題は難しい。でも、それでもかつて出来なかったように何もしないで見捨てるなんて選択肢は俺にはない。

 

「たしかに、俺に出来る事は限られているかもしれない。何も出来ない可能性だって捨てきれない。けど…………少しでもかなの力になりたい。もし力になる事は出来なくても、力になる人を紹介出来たりもできるはずだ。話してくれないか? 出来るだけの事をしたいんだ」

 

 かなの手を握りしめる。小さい手だ。こんな小さな子供を一人になんてしておけない。それに…………

 

「俺達は友達だろ?」

 

 もう4年以上一緒に居た。友情のような、年齢こそ上だが、妹のような感情を抱いていた。そんな子を、見捨てるなんてありえない。今度こそ、力になってあげたい。

 

 しばらく、見つめ合いを続けるとかなは少し諦めたような、観念したような顔を一瞬した後、ぽつりぽつりと話し出した。

 

 そして、かなの話を聞いて…………

 

 やっている母親本人も、されているかなも自覚しない虐待だ。

 

 そう思わざるを得なかった。

 

 そして、そこに追い込んで、逃げた父親はかなり悪質といっていい人間である事も分かった。

 

 相手の住所、勤め先が分からないと強制執行されないのを見越して、離婚したあとに養育費を払わない。もしくは払わなくなる親はたくさんいる。というより、そっちの方が遥かに多い。払っているだけで額はかなり少ないなんてことは良くあるし、適当な額を払っている親は驚くほど少ない。日本の法律のゆるさによって子供の権利が守られない現状がある。

 

 しかし、話を聞く限り、かなの父親のケースは明らかにはじめから払わないことを前提に養育費などの離婚条件を設定している。住宅ローンも、この場合だと母親を連帯保証人にしているケースかもしれない。

 

 こういってしまうとなんだが、離婚してもダメージを受けないように立ち回っている。

 

 普通に単体での住宅ローンを組んでいて不倫で有責の離婚となると、不倫の慰謝料はもちろん、住宅ローンは自分持ちで、養育費の支払いもあり、あとはかなの給与を抜いて贅沢をしていた件もバレると自己破産すら出来ずに人生終わることになる可能性すらある。

 

 自己破産の原因って大抵ろくでもないから、反省文で終わる可能性の方が高いので、あくまで可能性でしかないのだが。言ってしまうとなんだが、かなの母親があまり賢くないのを良いことに、離婚時にうまく逃げようとしている。

 

 話を聞く限り、慰謝料を減額というか払わない事を条件に養育費を増額したみたいだが、養育費なんて簡単に逃げられる事を知らなかったのだろう。俺も産婦人科医として、子供が出来ると養育費を払わず逃げる父親を沢山見てきて、話を聞かなければ知らなかった。

 

 かなの母親が無知な事を差し引いても、本来ならうまくいくはずがない。だが、かなの母親がかなのお金を使って、ローンの支払いをするだろうみたいな確信めいた考えがある。実際、しようとしている辺り、人をみる目はあるのかもしれない。収入が減ってそんな事できなくなるなんて考えは無かったあたり、芸能界の不安定さはよく分かって居なかったのかもしれない。

 

 いや、2歳とか3歳の頃から数千万稼いでいる子がそんなに一気に年収が下がらないだろうって考えるのが普通なのかもしれない。実際、そんな予測をしていた芸能関係者は居なかったわけだから、特別に頭も悪かったとは言えない。

 

 金の卵を産むガチョウをおいていったんだから、家のローンくらい払えくらいの感覚だったのかもしれない。

 

 あきらかに、家族間の金銭トラブル、特に子供の財産を奪っても刑事事件化する事が出来ないのを知っている奴の動きだ。こうなると話し合いの解決なんて出来ないだろう。分かっていて逃げてるのだ。

 

 だが、大丈夫だ。このパターンの妊娠、出産をサポートした事は何度もある。住宅ローンは連帯保証人で無ければ支払い義務はないし、連帯保証人でも自己破産して、生活保護でいける。生活保護は弁護士もしくは、それに類する人が居ないと水際対策で拒否をされてしまうが、東京ならそういった人を保護するシェルターもしくは保護団体がいくつもある。あかねの父親に紹介をして貰うことも出来るだろう。

 

「それならいけるかもしれない」

 

「えっ…………」

 

「金銭的な問題なら、かなの母親が働いていなかったなら普通は家のローンの連帯者なんかになってないはずだし、返済義務そのものがない場合が多い。ある場合でも弁護士を挟んで借金返済を免除できる。もちろん、家に住み続ける事は出来ないけど、生活の支援は特別区なら厚い保障がある。あかねのお父さんが伝手をもってるはずだから確かめてみるよ」

 

「えっ、だって、借りたお金なのよ。返さなくていいの?」

 

「ああ、ローン契約ってそういうものだから。返せなくなる場合のリスクは貸した側も持つものだ。そもそも、そういう支払いはかなのお金って使っちゃ駄目なんだよ。むしろ、事務所も止めさせないといけない立場だ。かなが押しつけられる理由は何一つない。事務所の事も事情は詳しくは知らない。けど、事務所の失敗をかなに押しつけるなんて大人としてありえないことだ。間違っているのは大人だ」

 

 かなが悪い要素なんて何一つない。これはかなの才能に集って失敗した大人が責任を負うべき問題だ。

 

「あきらかに労働基準法を無視した事をやってるし、社長に組合に話を付けて貰えばいい。かな、最後に契約をしたのはいつか覚えてる?」

 

「多分、もう少しで一年だったはず…………今月、契約更新があるって言ってた」

 

「なら、かなの事務所の再契約も手札として使えるはず。最悪、契約を更新しないでこっちに来ればいい。社長にはこっちが話しておく。かなの母親を説得できれば、いいだけだ。かなの母親もいきなり裏切られた事で精神をおかしくしてるみたいだし、専門家にケアして貰えばいい。事務所の問題は契約しなければいいから、かなの母親がどうにでも出来るはずだ」

 

 契約の期間が短いのはありがたい。契約を盾に出来なくなるからだ。

 

「今までよく頑張ったな。あとは俺がなんとかする。だからあと少しだけ待っていてくれないか?」

 

「アクア…………ありがとう」

 

 その縋るような瞳を見て、俺はかなの事を助ける為に動く事に迷いは無くなった。

 

 こういった問題には黒川さんを通してもらった。無駄かもしれないが一度、相談実績を作った方がいいとして、児童相談所へも連絡を入れていた。

 

 黒川さんも専門ではないから今は違うかもしれないが、と言っていたが、児童相談所がこういった事例にあまり力を入れないことも分かっていた。だからNPOなんかも通してみてもいいかもしれないとは言っていた。

 

 NPOの場合は漏洩リスクが跳ね上がるので、知り合いに聞くとは言っていたがどうなるか。日本の法律の場合、親権が強すぎるので、結局の所、親を説得するという形になるので時間はかかるだろうとの事だった。

 

 それは俺も同感だった。警察沙汰にしても誰も救われないので、説得するしかない。全面対決なんて事はこの国では出来ない。この国で親から子供を引き離すのはよほどの事が無いと出来ないし、そんな事が出来る法律なんて機能していないのだから。

 

 児童相談所が動く時は親権剥奪並のなにか。子供の命を奪いそうな状態までされないと養護施設行きなんかにはならないらしい。小学校低学年が、祖父や祖母の介護の為に学校に行けないなんて事例があっても、親が支援を拒否してしまえば、そのままになってしまうなんて事も当たり前のようにある。

 

 数ヶ月前になるが、相談所に医者から虐待の通報があって、それから3ヶ月以上、放置して死亡していたなんて事もあってニュースになっていた。それからも一週間程度ご飯を食べさせなかったなんてケースでも保護されていない。暴力を受けていても、注意をしただけで返してしまって、より虐待を悪化させるような事を数え切れないくらいあるとか、地元の新聞で載っていたりして、改善の糸口すらない。東京でも特別区は各区に児童相談所を置くようにしようなんて話は出ているが、都との予算の配分で揉めているらしく、いつかは解決されるかもしれないが、いつになるのかは分からない。

 

 子供を親の虐待から救うのは子供本人もそうだが、近所の人間や教師、医者なんかでは無理だ。健康診断などで判明しても、児童相談所はスルーしてしまう所があまりに多すぎる。児童相談所は解決件数を毎年最高記録を更新して予算を確保する為にかなり雑に対応をする所と真面目にする所の差が大きすぎる。

 

 だからこそ、産婦人科医は児童虐待リスクの高い、貧困や発達障害などをもった妊婦に対してのフォロー体制を複数の役所と連携してはじめから作らないといけない方針に変わっていった。

 

 児童相談所が正直、求められる機能に対して、人が少なすぎる上に専門家が居ない、そもそも法的な権限がなさ過ぎるなど、問題が山のようにあってセーフティーネットのはずが穴だらけで機能してない。俺が死ぬ前と変わらず、根本的な問題が改善されていないようだった。

 

 例えば、かなの財産で散財をしていた事で裁判をして財産管理権の剥奪までいけても、一緒に住むのは変わらない分、より状態が悪化する可能性が高いだろう。

 

 破綻させた相手と一緒に住むとか無理だろうし、養護施設へ行くなんて手もあるが、かなの知名度とかを考えるとどうなるか分かったものではないし、芸能人として生きていくことは不可能になる。あと、東京の児童相談所の入所基準が命に関わる問題ですらはいれていない事を考えると、金銭トラブルだと話し合いで解決してください。で終わるだろう。日本でも一時保護なども数年内に法律で規定されるかもしれないとは言われているが、今はない。

 

 解決するなら、連帯保証人になっていたのならかなの母親に自己破産なりしてもらって、そうでないのであれば支払い義務はないので、弁護士に間に入って貰って完結させる。あとは生活保護を受給させるだけでいい。仕事も学業優先だと言って、調整できる。

 

 子持ちの母親を助ける為に動く団体は多いし、使える支援制度も多いから、大抵は弁護士を介せば通るし、それだけで全部解決してしまう問題だ。親の許可なしに子供を無理に働かせるなんて出来ないのだから、事務所の問題行動はかなの母親に止めさせればいい。

 

 さすがに専門家が今の異常な環境について、そして行動について指摘すれば改めるだろう。自己破産、生活保護までいけば、あとは上がるだけだ。そこからやり直せばいい。

 

 相手との関係が思わしくなくなったのにも関わらず、産まざるを得なくなってしまった女性は少なくない。周りに頼れる人が居ない人達のフォローとして、やることはやってきた。シングルマザーは苦難の道で、周りのサポートがないとやっていけない事が多いが、それでも支える為の仕組みはある。

 

 そこに繋げてあげれば、やっていけるようになった人は多い。かなの母親もお金の事を1度精算すれば、今のやり方を反省するはずだ。そう思っていた。

 

 だが、数日が経って、黒川さんから壱護さん宛てにどうなったのか連絡が来たので結果を聞くと

 

「自己破産と生活保護を拒否して逃げた」

 

 という意味が分からない回答が帰ってきた。

 

 

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