推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第二話 裏 ルビー①

 

 星野ルビーは走り出す

 

 

 

 私、天童寺さりなはいつもいい子を演じていた。

 

 物心がついた時から病院で暮らしていて、ひ弱で人の助けが無ければ生きていけないと嫌というほど分からされて育った私は、助けて貰えるように自分の気持ちに蓋をして、わがままを言わず、病気に向き合い、健気に生きる少女を演じた。私の存在自体を邪魔に思っていた両親の気持ちに応えて、仕事だから仕方ないと、お見舞いに来ない両親に対して理解があるように振る舞ってた。

 

 本当の私は健気でも両親に理解があるわけでもなかった。ただ、誰かに助けて貰えない事が恐ろしくて、なにも返すことができない私が助けて貰えるように、醜い気持ちに蓋をして生きてきた。

 

 だけど、気持ちを我慢して良い子を演じた私は愛して貰えなかった。

 

 健気で理解のあるいい子を演じて、辛い気持ちを我慢して我慢して我慢して演じても、パパもママも私が死ぬ時にすら来てくれなかった。最後まで愛してもらえなかった。最後だけでも、嘘でもいいから私を心配してほしかったのに、それすらもしてもらえなかった。

 

 私に最後まで寄り添ってくれたのはせんせだけ。たくさん診ている患者さんの中の一人でしかなかった私の為に最後までずっと励ましてくれた。会いに来ない両親を怒ってくれた。最後まで私のわがままを聞いてくれた。

 

 ずっと部屋の外に出れない生活。治る見込みもなく、ただ苦しいだけの生活が続く私は未来に希望なんてなかった。それでもアイちゃんっていう推しを見つけて、せんせに恋をして、せんせの言葉でアイドルへの夢をみて、その夢の為にどんなに苦しくても頑張って生きてきた。最後の一年だけは二人のおかげでなんのどきどきもわくわくもない人生が楽しくなった。

 

 世界に色彩をくれた人たち。誰にも愛されず、誰からも必要とされず、なにも出来ず、ただまわりに迷惑をかけることしか出来ない私が生きようと思えたのはこの二人のおかげだ。

 

 死んだ時は悲しかったけど少し嬉しかった。私はいらない子じゃなくて、私のために泣いてくれて、怒ってくれて、大切に思ってくれる人がたった一人でも居たんだって思えたから。

 

 だから、転生を本当にした時はすごく驚いた。しかも、大好きだったアイちゃんの子供に産まれたなんて、せんせと一緒に語った夢そのものだったから。

 

 叶わなかった夢を叶えられると、わくわくした気持ちで私はしゃべれるようになると直ぐにアイちゃんから電話を拝借して、せんせに電話をした。声を聞きたかったし、私が生きている事を知らせたかったから。

 

 けど、せんせは居なかった。行方を知らせず居なくなったらしい。

 

 その後、私は少し荒れた。だって、せんせは女の人からモテてたし、お医者さんはよく女の人に言い寄られて大変だという話はきいていた。せんせは押しが弱いから、押し切られそうになってそのまま逃げた姿がすぐに想像できたからだ。

 

 だからその鬱憤をはらすようにSNSでアイちゃんのアンチとレスバしたりしたけど、そのうち飽きて、私は赤ん坊に許されるわがままをいっぱいするようになった。甘えるという事がこんなに幸せだなんて知らなかった私はアイちゃんに甘えることが楽しくて仕方が無かった。せんせと話せなかったさみしさを、もう会えないんじゃないか。という不安を埋めるように夢中になっていった。

 

 だから、双子の兄の苦言がどうしても耳障りに聞こえた。

 

 双子の兄も転生者らしく、私から見るとかなり年上の男の人で、アイちゃんのオタクだった。

 

 人生の殆どが病院生活だった私は男の人は病院の先生とパパくらいしか話したことがなかったから少し怖かったし、アイちゃんのライブであったアイドルオタクの男の人は、本来ならその年齢くらいの子供がいるであろう大人がアイちゃんたちを気持ち悪い目で見ていて、そういう人は変なことを押し付ける発言をする人たちで苦手だった。

 

 あんな大人かもしれないと思うと嫌悪感が隠しきれなかったし、隠す気持ちもあまり沸かなかった。これからそういう人と十数年も過ごすことを考えると気が重くなった。

 

 ただ、初対面の印象は最悪だったけど、話していくうちに、悪い人ではないということも分かってきて、人生で初めて軽口の叩き合いをする仲になった。お互い寝る時間以外は暇すぎてしゃべって暇を潰すしかなかったから、アイちゃんという共通の話題で何時間、何十時間と話した。私が死んでから、4年の月日が流れていたから、その4年分の軌跡を聞くのは楽しかったし、私と違って甘えることは極力控えていたので、口煩かったけど、そこまで嫌悪感は沸かなかった。

 

 そして、いつも通り、からかっていると兄はせんせが私を見ているときのような目をして話しかけてきた。

 

「昔、お前みたいにアイのことが大好きな女の子がいたんだ。毎日、アイのライブ映像を見て、毎日、アイについて熱く語ってた」

 

「へー、すごく気が合いそうな気がする! なになに、前世の彼女? ドルオタなのに?」

 

「違う。研修医の頃に担当していた患者さん」

 

 ドキッと、した。それはかつての私みたいだったから。

 

「患者さん?? へー、前世お医者さんなんだ」

 

「ああ、前世は産婦人科医で、アイの主治医だった。アイがアイドルとしての幸せと母親としての幸せ両方欲しいなんて言うから、ファンとして助け船を出さないわけにはいかないからな。出産までのサポートもしたんだ。まあ、出産予定日にアイのストーカーに殺されたから、出産に立ち会えないどころか転生して子供になっていたんだが……」

 

 産婦人科医。せんせが希望していたところだった。男の人でなろうとするのが意外だったから、色々と聞いたのを覚えてる。そしてせんせがいなくなったのと同じ時期だった。

 

「ねえ、どこで働いてたの?」

 

 そんなわけがないと思いつつも聞いてしまう。

 

「ん? 宮崎総合病院……といってもわからないか。まあ、なにもない宮崎の片田舎だ」

 

 それはあまりに出来すぎていて、あまりにも現実味がなかったけど、聞かない選択肢は私にはなかった。

 

「もしかして……ごろーせんせ??」

 

「えっ、なんで俺の前世の名前を」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は叫ぶように伝える。

 

「うそ、本当にごろーせんせなの?? わたしだよ。さりなだよ!」

 

「さりなちゃん??」

 

「夢みたい、アイちゃんの娘に産まれられて、せんせにも再会できるなんて」

 

 それはあまりに自分の都合の良い夢だった。死んだと思ったら私の世界で二人だけの大切な人たちと家族になれるなんてあまりに出来すぎている。でも、これが死ぬ前の私が見ている夢だったとしても、この気持ちだけは本物だから、止めどなく溢れる涙を押さえるなんて出来なかった。

 

 

 

 

 それからせんせは私が泣き止むまで胸を貸してくれて、落ち着いたら私が死んだ後の話をしてくれた。私が死んだ後は病院を転々として、病院に戻ってきたこと、ドルオタを続けていた事、そうしたらアイちゃんが患者として来たこと、出産までのサポートをしていたこと。そしてストーカーに殺されてしまったこと。

 

「えっ、じゃあ、秘密だったはずのアイちゃんの妊娠の情報を得られる立場かつ人殺しをするような危険なストーカーがアイちゃんの周りにいるかもしれないってこと?」

 

「……そう言われるとそうだ。なんで俺はその可能性を考えなかったんだろう。なんとかしないと」

 

 アイちゃんを守る為にせんせと相談していると、お世話をしてくれている社長夫人の人が部屋に入って来て、いきなり叫び始めたと思うと母子手帳を撮り始めたのを止めるために一緒に一芝居うつことになった。

 

 神の遣いを名乗って、その時にアイが命を狙われている事、それを止めるために私たちに協力することなどを約束させた。

 

「すごいね。せんせ、全部せんせの言うとおりになったよ」

 

「いや、俺もあんなに上手くいくなんて思っていなかったよ。さりなちゃんの演技が本当に凄かった。まるで役者みたいだった」

 

「そう? 嬉しいな」

 

「別に演技とかやったことないでしょ?」

 

 演技ならしていた。それも毎日。でもそれは言わない。

 

「うん」

 

「なら、才能だ。将来はすごい女優にだってなれるかもしれない」

 

「……将来」

 

 せんせの言葉で思い出した。私は、アイちゃんみたいになりたいって、そして、せんせにそれを応援して貰いたいって思っていた。だから治療も頑張って受けて、でも駄目で、死んでしまった。けど、今ならどうなんだろう? 将来は分からないけど、特に病気も持っていないし、アイちゃんの子供だから顔はどんどん可愛くなると思う。芸能事務所のところで育っていくことになるからコネもある。

 

 私の夢だけど、挑戦することすらなく終わってしまった。アイドルになりたい。そして先生の推しになりたいって夢が叶うかもしれない。

 

「せんせ、あのね。アイちゃんの事が終わった後、もし、もしだよ。私がアイドルになりたいって言ったら、応援してくれる?」

 

 アイちゃんより優先してほしいなんて言わない。でも、せんせが応援してくれるなら私はいくらでも頑張れる。

 

 どきどきしながら聞くと、せんせは笑顔で私に語りかけてきた。

 

「もちろん。約束しただろ。君がアイドルになったら、君を推しにするって。もしかしたら、前世で出来なかったアイをストーカーから守ることと、さりなちゃんの夢を支える事のために俺は君と一緒に転生したのかもしれない。アイの事は俺に任せて、さりなちゃんはさりなちゃんのやりたいことをすればいい。俺は全力で応援する」

 

 その言葉を聞いて、私はまた泣いてしまった。さりなちゃんは泣き虫になったねなんて言う朴念仁のせんせに「せんせのせいだよ」と返すことしか出来なかった。

 

 

 それからは私の人生はアイドルになるための行動一色になった。もちろん、ママの出演番組を見たり、オタ活以外の話だ。せんせと一緒の時間もアイドルになるのと同じくらい大事な時間だから。

 

 一緒に興奮してしまって、ママのライブでオタ芸をして三〇万リツイートを超えるような騒動を起こしてしまったりしたのは今ではいい思い出だ。

 

 せんせ、いや、お兄ちゃんは本当に私の夢に献身的になってくれた。

 

 私は前世できちんと歩けなかった。歩くときは常に受け身の準備をしないと怪我をして痛い思いをするから。それが癖になってしまっていて、だからダンスを真似しようとすると体をかばってしまい転んでしまう。

 

 それを解消するための方法をお兄ちゃんは探してきて、教えてくれた。そして、常に私の近くに居て、転びそうになると支えてくれる。私たちの体はまだ赤ちゃんで体のバランスが崩れて他人を支えることが出来ない事も多くて私に潰されてしまうことも何十回もあった。

 

 それでもお兄ちゃんは何時間でも何日でもつきあってくれた。

 

「約束したからね。踊れるようになるまできみを支えるって」

 

 そこまでしなくていいよ。と言うときまってそう言って私が怪我をしないようにかばってくれた。

 

 練習を始めて一週間で、私は転んでもお兄ちゃんが支えてくれると信じて思いっきりダンス出来るまでになった。お兄ちゃんのそばでなら出来るようになって、お兄ちゃんのそばで何回も出来たという自信が私を支えて、お兄ちゃんがそばに居なくてもダンスが出来るようになった。

 

 その後はママに出来るようになったダンスを披露すると「さすが私の娘。天才だね」と褒めてくれた。嬉しかった。あの憧れたダンスを少しだけど出来るようになって、憧れのママから褒めて貰えて、あまりに嬉しくて熱を出して心配をさせてしまうほどだった。

 

 

 それから、私はママにどうすればママみたいになれるのかを聞くようになった。ママは努力家で色々なレッスンを受けていて、そのやり方を私に伝授してくれた。

 

 呼吸の仕方だったり、声の出し方、笑顔の作り方だったり、アイドルになるために必要な事は沢山あったけど、どれも楽しかった。おにいちゃんも巻き込んでママと一緒に大好きな人と一緒に過ごして、そして出来るようになるとママとお兄ちゃんに褒めて貰えるのがうれしかった。

 

 兄妹だからおにいちゃんと結婚できないことだけが不満だけどそれ以外はきらきらした幸せな生活。大好きなママの娘として育って、大好きなお兄ちゃんにアイドルとして応援してもらって過ごす毎日は楽しくて楽しくて仕方ない。

 

 

 

 だから、あまりに幸せすぎて、楽しすぎて、これは夢なんじゃないかと、ふと、考えてしまうことがある。特に寝る前は、このまま寝て目を覚ましたら病院で、これは死ぬ前に見ている自分の都合の良い夢なのかもしれないと思うと怖くて眠れなくなることもあった。

 

 それでも私は夢に向かって走るのをやめない。やめられない。だって、こんな気持ちになれたのは初めてだから、例えこれが夢でも、これから夢から覚めてしまって死んでしまうしかないのだとしても、今、私が感じている幸せは本物だから。ママとお兄ちゃんを愛してるっていう気持ちはどんどん溢れてきて、こぼれてしまいそうなくらい受ける愛情が心地よくて、例え、一秒後に夢から覚めて死んでしまうのだとしても私の人生は幸せだったと自信を持って言えるから。

 

 これが死ぬ前の私が見ている泡沫の夢だったとしても、私の最後のわがままで一緒にいてくれているせんせに楽しかった夢の話をするために、幸せだったと伝えるその時の為に、今日も私は夢に向かって走り出す。

 

 

 

 

 




 あまりにうまくいきすぎて、あまりに理想的すぎて、あまりに幸せすぎて現実感のないルビー。明日には夢が覚めてしまうのではないかと思い日々を噛み締めて、1日、1日を懸命に生きる彼女の瞳は太陽のように輝いている。もし、明日、夢から覚めたとしても、彼女には、最後に幸せだったと言いたい大切な人がいるから今日も走り出す。みたいなイメージです。
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