推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第十話 裏 アクア⑫

 

 壱護さんとの会話の後、自分の部屋に俺は戻っていた。壁を背もたれにして、今後の事を考えていると電気を点けていない部屋の扉が開き、光と共に小さな人影が見えた。

 

「お兄ちゃん?」

 

 そこには心配そうな顔をするルビーが居た。かつての自分の過去を思い出し、心は沈んでいたが、心に仮面をつけ、表情を作る。ルビーにこれ以上心配をさせるわけにはいかない。

 

「ルビー? どうした? 少し一人で考えたいんだけど」

 

「どうしたもこうしたもないよ。帰ってきてから部屋で3時間以上も引きこもって…………考え事があるって聞いてはいたけど、ずっと戻ってこないから心配になって見に来たんだよ」

 

 目の前の時計を見ると、思っていた以上に時間が過ぎていた。時間を忘れて考え込んでいたようだ。

 

「ああ、本当だ。少し、考えすぎてしまったかもしれない。そろそろ寝るよ。アイも今日は遅くまで帰って来ないらしいから、ルビーも早く寝ないと」

 

 そう言うと、ルビーは何も言わずに俺の正面に座って話しかけてきた。誤魔化されてはくれないようだった。

 

「かなちゃん、どうなるんだろうね。お母さんがあんな人で…………事務所の人も本当に酷い人達みたいだし」

 

 ルビーは黒川さんからの連絡の話は聞いていないはずだ。今日の事を聞いていなければ答えていただろう会話を心がける。

 

「ああ、でも壱護さんも、黒川さんも動いてくれている。事務所の方も壱護さんが釘を刺しに行くみたいだし、今回みたいな件があった事を考えるとスケジュールの調整をすると思う。黒川さんも児童相談所へ動けないか確認したり、知り合いの弁護士の人へ相談へ行ったりしてくれてるみたいだし、きっといい方法が見つかる」

 

 心にもない事でも言わなければならない。かなの事を考えず、自分の事ばかり考える母親をどうにかしないといけないなんて現実は、前世で母親に捨てられたルビーには重すぎる。

 

「嘘だよね」

 

「えっ?」

 

「そんなに上手くいくならお兄ちゃんはそんな顔してないし、部屋に引きこもってなんかいない」

 

「…………ああ、事務所も、かなの親の問題も簡単に解決できるのかは五分五分かと思っている。だから上手くいかなかった時の事を考えていたんだよ。まあ、いい手は浮かばなかったけど」

 

「それも嘘。ただ、やり方が見つからないだけなら、昨日とか一昨日みたいにお兄ちゃんはかなちゃんの為に走り回っているはず。それをしていないのも、暗い顔をして動かないのも上手くいかなかったから? 違う?」

 

「…………」

 

「お兄ちゃん、わたしたちは生まれた時からずっと一緒に居たんだよ。お兄ちゃんが嘘をつく時の癖くらい分かってるし、せんせだった時からも含めてどんな性格だったかも分かってる。だから今、お兄ちゃんがおかしい事くらい分かるよ」

 

 ルビーはそう言って俺を真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「私はお兄ちゃんがそういう人だっていうのは分かってる。お母さんから捨てられて、病院で死を待つだけだった私に優しくしてくれた。担当でもなんでもない私が死んじゃうその瞬間まで私に寄り添ってくれた人が簡単に諦めたり、他人任せになんてしない。そんな事をする事があるとするなら…………私かママ、それかその両方にとって不利益がある事だから。違う?」

 

 どきりと心臓が跳ねたような音がしたように感じた。

 

 ある元有名子役が言った言葉を思い出した。

 

『演技の世界で子供の頃から大成するやつは、大抵、虐待を受けている。子供の時期に周りの人間の顔色を窺うような生活をしていて、周りの顔色を観察し、再現する能力。それを生かす事がしやすいのが演技の世界だからだ』

 

 なんて偏った物言いなんだろうと思ったが、当たっている事もある。

 

 児童心理学の世界でも、子供は、親が感情的、暴力的だと、顔色を窺い言葉を発するようになることが認められている。周りの顔色を窺い「いい子」であろうとしたさりなちゃんがその能力に長けている事は疑うべきだったのかもしれない。

 

「大丈夫、さりなちゃんに迷惑をかけるようなことにはならないよ」

 

 優しく、心配要らないと言うが、さりなちゃんは頭をふって否定してきた。

 

「違うよ。私に影響がある事を心配してるんじゃないよ。せんせ、今のわたしは星野ルビーだよ。いつまでも病院のベットから動けずに、せんせから与えられる優しさに縋る事しかできない天童寺さりなじゃない。そしてお兄ちゃんも私と同い年の子供なんだよ。いつまでも守られるだけの関係でなんて居たくない!」

 

「ルビー…………」

 

「頼ってよ。相談してよ。わたしはお兄ちゃんみたいに頭は良くないかもしれないけどなにか力になれるかもしれない。お兄ちゃんがそんな顔をしてるのを黙ってみているなんてできるわけないよ。それに私もかなちゃんとは1歳の時からずっと友達なんだよ。心配して力になりたいと思うのは駄目な事なの?」

 

 そう問いかけるルビーの姿をみて、俺は誤魔化すのは無理だ。と諦めた。

 

 俺は彼女をずっと子供扱いしていた。彼女には何一つ苦労することなく、汚いことを見せず、ただ楽しく生きていけるならそれで良いと思っていた。でも、それはある意味、ペットのような扱いをしていたのも同然だった。自分で餌を取ることなく、安心安全な場所で元気で居てくれればいい。なにも苦労せず、ただ可愛がられていればいい。そんな傲慢な考えだ。

 

 子供はずっと成長しないわけじゃない。10年、20年もすれば彼女も異性とつきあい、結婚をしたりもするだろうし、今のように何百万、何千万も稼ぎ続けられるのならルビーを利用しようとする他人は多いだろう。そもそも芸能界という汚い世界で純粋無垢な子供で居られるわけがない。優しいだけの世界とはどこかで決別しないといけない。

 

 いつか、人の汚さに触れ、その中で生きていかないといけなくなる。

 

 でも、その時が来なければいい、ずっと守っていきたいという気持ちが抑えきれなかった。

 

「ルビーはもう、十分すぎるほど苦労したじゃないか。物心がついた頃から病気で動けなくて、歩く事も満足に出来なくなって、頭痛や吐き気と闘って、苦しみに耐えて…………そして、最後には親にも見捨てられて、俺しか居ない病室で死んでしまった。だから今世ではその分、幸せであって欲しい。なにも苦労なんてせず、幸せでいて欲しい。一生分の苦労をしたんだ。その権利があるはずだ」

 

 なにがカミキヒカルを排除する為だ。あんな神の遣いもどきの子供の言うことなんて聞く必要なんてない。俺が全部片を付けてしまって、ルビーには、そんな事なんて関わらず自分の夢を追って欲しい。それは間違っている事なのか? 

 

「お兄ちゃん…………」

 

「今、苺プロそのものが危険な事になってる。今ある仕事が全部なくなるかもしれないくらい大きい問題を抱えていて、その時の為に俺も壱護さんも準備を進めてきた。だから、かなを助けるだけの余裕がない。かなを助ける方法はある。けど、それをすれば、その問題に対応出来なくなるかもしれない。それは今のうちに貸しを作って、仕事が無くなった時に返して貰うためのものであって、みんなが幸せになるためのものだ。それなのに俺のわがままで使っていいものじゃないんだ」

 

「じゃあ、かなちゃんは見捨てるの?」

 

「…………そうだ。俺は、前世でさりなちゃんの力になってあげられなかった。そして、今ある幸せも俺のわがままで壊しかけた。だから、かなより、いや、誰よりもキミを優先する。今度こそ間違えない為に。今度こそ幸せに生きて貰うために」

 

 拳を握りしめると血が流れるのを感じる。本当は救いたい。それでも、俺には優先すべきことがある。

 

 おれはさりなちゃんに寄り添う事もできず、助けることも出来なかった。病によって物心つく頃には全てを奪われたにも拘わらず、病室の中で苦しみにもがきながらもキラキラとした目をしながらまっすぐに夢を見ていた少女の夢を…………救いたいと思った初めての患者の夢を力不足でただの夢で終わらせてしまった。

 

 今、奇跡が起きて、夢のつづきを見せてあげられている。

 

 何度思っただろう。何度考えただろう。もっとなにか出来たんじゃないか? と。

 

 そんな都合の良い妄想が実現した。ならその為に生きるしかないじゃないか。

 

「だから、この件だけは俺に任せてくれないか。かなの事も直ぐには無理かも知れないけど、3年、いや、2年以内に全部解決する。さっきは見捨てるなんて言ったが、かなの事務所は長くない。潰れた後なら、なにも失うことなく、解決することができる。それまでかなをできる限り支える。その為にルビーも協力して欲しい」

 

 俺はそう言って、ルビーに手を伸ばした。

 

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