推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第十話 裏 アクア⑬ ルビー好感度100イベ

 

 

 初めて、かなと共演した時、「ああ、この子はすぐに干されるな」と思った。

 

 まず、ADを荷物持ち扱いしていた時、それをいつもの事のように接する人の多さ、そしてそれに対する陰口の多さ。スタッフに嫌われて居ることがすぐ分かった。直接、注意する人が誰もいない。ここまで行くと利用価値があるうちはいい。だけど無くなったら、一気に干される未来が見えた。

 

 子役の干される理由で最も多いのはスタッフに嫌われる事。

 

 テレビ関係のスタッフは拘束時間が長い。だが、常に仕事があって忙しいという訳ではない。だから、隙間時間によく会話をする。拘束時間の長い仕事ばかりしていると、プライベートの話がなく、話の内容も仕事中心になり、横のつながりからそういった噂がどんどん広がっていく。

 

 ADを経験して数年でチーフADやAPになっていき、キャスティング権を持つようになる。パシリにされたAD、その話を聞いたADがキャスティング権を持った時に、その役者を推薦しようとするかどうかなんて考えるまでもない。それは10年、20年後の話ではなく、1年後、2年後に起こりうる話だ。

 

 だから、注意をして、改めさせて、庇って、干されないようにした。将来、ルビーとキャラかぶりをする事を、手強いライバルになる事を分かって居ながら。そういった事を教えられずに、ルールもなにも知らない子供が理由も知らされずにいきなり干されても改善もされず、ただ使い捨てられたという経験をするだけで本人の為にもならないと思ったからだ。

 

 でも、もしかしたら、その方がかなにとって幸せだったのかもしれない。

 

 ほどほどに売れて、ほどほどに成功して…………途中で干されたとしても、子供という事で将来的には許されるだろう。実力もあるから、そういった性格なんてどうでもいいなんて監督も少なくない数が居る。そうしている内に自分で気がついて、自分で改めるようになるかもしれない。過度に期待もされずに、その方が幸せだったのかもしれない。

 

 それでも、庇わずに居られなかったのは、かなの目がかつてのさりなちゃんの目にそっくりだったから。

 

 あの目を見ると、俺はかつて守れなかった、力になってあげられなかった事を思いだして、力を貸さずには居られなかった。目の前に、近くにかつて守れなかった少女が居るのにそんな事をしていた。その結果が、今だ。

 

 自分のかつてした後悔を思い出さないため…………そんな自分の為にした行動がさりなちゃんを不幸にするのはアイの出産の時にした失敗だけで十分すぎるはずだ。

 

 手を伸ばす。今ある奇跡を優先する。かつてなにも力になれず、死なせてしまった少女と再会し、やり直す機会に恵まれた。これ以上なにかを求めようとする事自体が傲慢だった。使える物は全部使って、目的を果たす。もうこれだけを考えれば良い。

 

 そうして伸ばした手をルビーは両手の掌で包み込んだ。

 

「ルビー? …………」

 

「本当にせんせはすけこましだなぁ…………」

 

 そういうと、俺の手をなでるように触るとこちらを見つめてくる。

 

「私の力になってあげられなかったって、ずっとそんな事思ってたの?」

 

「…………だって、そうじゃないか。俺が出来たのはさりなちゃんの話をたまに聞いてあげたくらいで、あとは何も力になれなかった」

 

 俺がさりなちゃんにできた事なんて本当に些細な事しかない。

 

「私がお母さんに見捨てられた事を認められなくて…………ずっとずっと一人で病室で待っていた私の側に居てくれて、いつも励ましてくれたでしょ。知ってるよ。せんせは研修医だからって休みもなく病院に来て、仕事も勉強も沢山して、疲れてるはずなのに、サボりに来たなんて言って、私に会いに来てくれていた事」

 

 そして、昔から悪ぶってたけど、バレバレだったよ。と付け加えた。

 

「せんせが来てくれるようになる前の私にはお母さんしか居なくて、そのお母さんに捨てられちゃった事を認めちゃうと、生きている意味が無くなっちゃうから、認めたくなくて、ずっとずっとただ待っていて。そうやって待ってるけど、毎日、毎日苦しくて、気持ち悪くて、どんどん出来る事も少なくなって…………そんな中、ずっとお母さんが私の事を本当に愛しているのかどうかとか、そんな事ばっかり考えてた」

 

 でもね…………とさりなちゃんが続ける。

 

「せんせが退院してアイドルになったら良いって言ってくれて。アイドルになったら推してくれるって言ってくれて。ママの事をただ憧れて見ているだけじゃなくて、ママみたいになりたいって…………ママみたいになるために頑張って生きようと思えるようになったんだ。このまま何も出来ずにただ苦しくて、痛みに耐えて、お母さんを待つだけの生活が、ママみたいなアイドルになって、せんせに応援してもらうって夢の為に生きる生活に変わったんだ」

 

 俺の知るさりなちゃんは明るくて、前向きで、苦しみの中でもアイドルを目指そうとする女の子だった。それは、俺が言ったから? そんなはずは…………

 

「せんせが居なかったら頑張って生きようなんて思わなかったし、アイドルになろうなんて思わなかった。せんせが私に生きる意味をくれたんだよ。力になってあげられなかったなんて嘘だよ」

 

「でも、さりなちゃんは俺の前でもいい子で居ようとしていただろう?」

 

 わがままを言わないで、素直で明るい子であろうとしていた。辛かった、苦しかったなんて、相談を受ける事はなかった。それは俺が信頼出来なかったからなはずじゃ…………

 

「せんせ、好きな人の前でかっこつけたくなるのは、男の人だけじゃないんだよ。それに大好きな人とのデートなんだもん。楽しい話をしたいじゃん。せんせは相変わらず女心が分かってないなぁ」

 

 さりなちゃんはそう言ってやれやれと言うような仕草をした。その姿を見て、がくっと脱力した。

 

 そうか…………俺はさりなちゃんの力になれていたのか。

 

 なにもしてあげられていないと思っていた。俺が話しかけにくる事は実は迷惑で、いい子を演じていただけだったのかも知れないと思うと、心が苦しくなった。

 

 俺は周りの言う通りに生きて、周りの望むことだけをしていた人生だった。自分がやりたい事やしたい事を我慢して、周りの言うことだけを聞いていればいい人生は楽だったが、なにも張り合いのない空虚さがずっとつきまとっていた。

 

 だから、苦境にあっても好きな事に夢中になれる…………夢を追う子に憧れた。もし、なにか辛いことがあって、夢を諦めてしまうような事があるなら応援したいと思った。

 

 ただの代償行為でしかない事は分かってる。自分が出来なかったから、出来なかった事を頑張っている子を見ると応援して、自分がそういうことを選択した未来をすこしでも感じようとしているだけだってことは。

 

 でも、そんな俺の身勝手な行為でも、さりなちゃんの力になれていたのであれば、良い。俺のただ流されて、惰性で生きていた人生にも意味があったんだと思う事が出来る。

 

「だからさ。前世で力になれなかったとか言わないでよ。死んじゃう前はたしかに夢が叶えられずに終わっちゃって悲しかったけど少し嬉しかったんだよ。私はいらない子じゃなくて、私のために泣いてくれて、怒ってくれて、大切に思ってくれる人がたった一人でも居たんだって思えたから」

 

 そう言うとさりなちゃんは笑顔で語り出した。

 

「たしかにアイドルは私の夢だよ。ママみたいに格好いい衣装を着て、可愛い歌を歌って、皆にコールを貰ったりして、大きなステージに立ってみんなに喜んでもらって…………その夢が叶った時、たしかに嬉しかった。でも、それよりもせんせが隣に居て、私の姿をみて喜んでくれる方がずっとずっと幸せに感じたんだよ。これからアイドルを続けて、どんなにたくさんのファンが居ても、どんなにお金を稼げても、せんせが暗い顔をしている方が嫌だよ。小さなライブハウスからやり直す事になったって、隣にせんせが居るなら何度だってやり直すことになったとしても楽しいと思うから。ママも前に言ってたんだ。もし今の事が全部夢だったとしても、またやり直せばいいって。全力で応援してくれるって。だからさ…………」

 

 さりなちゃんの手を握る力が強くなる。

 

「前世で力になれなかったと思って、私を優先しようとしているならやめて欲しいな。今のかなちゃんは、ひとりぼっちで、それでも諦めきれなくて、認められなくて、ずっとずっとお母さんを待ってるだけの昔の私だから…………助けてあげられるなら助けてあげて欲しい。あの時は本当に辛くて、悲しくて、毎日が苦しかったから。それを見捨てようなんてせんせに言って欲しくないから」

 

「さりなちゃん…………」

 

 さりなちゃんの顔を見ると涙を流していた。

 

「あれっ、覚悟をしてきたのにな。せんせが私を特別に思ってくれるのが…………もし、私がせんせの特別な理由が困っている子を助けたいって気持ちのものなら、次に困っている子を助ける時に邪魔をしちゃいけないって。今度は私がせんせの背中を押してあげるんだって思ってたのに。笑顔で送りだそうって思っていたのに…………」

 

 涙を流しながらそういうさりなちゃんを抱きしめた。

 

「せんせ…………」

 

「さりなちゃんの言う通り、はじめは、長くお見舞いにきてくれない患者さんのさみしさを少しでも紛らわせられればいいと思って始めた事だった。でも、いつからか、キミに会う時に、そういったものとは別の特別な気持ちを持っている事に気がついたんだ」

 

「特別?」

 

「さりなちゃんは知らないと思うけど、俺は地元だとそこそこ有名で…………優秀な産婦人科医になることを周りに望まれて育ったんだ。そんな周りの目線が気になって、逃げようとした事もあったけど、仕方ないと諦めて、言われるがまま、望まれる通りにするだけの空虚な人生だった。でも、キミと出会って、産婦人科医としての俺じゃなくて、ありのままの俺を見てくれるキミとの時間が大切になった。そして、いつかキミの夢が叶うように全力で応援しようって決めていた」

 

 アイドルという夢に向かって目を輝かせていたさりなちゃんを見て、死んだ目をして夢を捨てて周りの言うことばかりを聞いて働く俺にとって、その目はあまりにも眩しかった。だから、何人もの死を見てきたはずなのに、さりなちゃんの死だけは受け入れられなかった。

 

「さりなちゃん、キミがアイドルになって誰よりも輝く姿が見たくなったんだ」

 

 抱きしめるのを止めてさりなちゃんの顔をじっとみる。

 

「うれしいな。そんな風に思ってくれてたんだ。でも、一番はママだよね…………」

 

「今でも思ってる。さりなちゃんはアイよりも輝けるって」

 

「…………えっ?」

 

 さりなちゃんは信じられないものを見るような顔をしていた。

 

「病室の中で苦しみにもがきながらも目をキラキラさせながらまっすぐ夢をみていた…………あの頃から俺はキミを推すと決めていた。あの時からキミは俺にとってアイよりずっと眩しいアイドルだった。それは今でも変わらない」

 

「ママは…………アイは今は日本一のアイドルなんだよ」

 

「知ってる」

 

「アイは凄いんだよ。テレビでも引っ張りだこだし、CMも、雑誌も、ネットでもそうで」

 

「知ってる」

 

「みんなから認められてる。世界でも注目されてて、これからどんどん有名になっていく。本当のアイドル」

 

「知ってる」

 

「だから、私なんかがアイに敵うはずないよ…………」

 

「どんな肩書きがあっても、どんなに知名度があっても関係ない。おれはずっとそう思っていたし、そう思い続ける。オタクは自分の推しを一番可愛くて、一番凄くて、一番輝いてると思ってるものだからね」

 

 さりなちゃんの頭をなでる。

 

 うつむいて俺に頭をなでられているさりなちゃんを見て、この子を守らないといけないと覚悟をきめた。ここまで言われて、その気持ちに応えないわけにはいかない。

 

 どっちを選んでも推しが幸せになれないのなら、どちらかを選ぶ必要なんてないし、カミキなんかの為に犠牲になる必要もない。どうにかできないか足掻いてみないといけない。あの神の遣いを名乗る少女に言われた通りにするんじゃなく、あいつを利用するなりすれば、なにか手が見つかるかもしれない。

 

 今はなにも思い付かない。それでも、推しの子が幸せになれる道が他にないのなら戦うしかない。

 

 それから、さりなちゃんには全て話した。

 

 神の遣いという子供に会った事、転生した理由、カミキの事、俺の死体の事、アイの命を狙った男が居る事、俺がこれまでやってきたこと。これからの事。

 

 そうしていると、ガチャリと鍵が開く音がして、アイと、ミヤコさん、壱護さんの三人が部屋に入って来た。

 

 

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