推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
「アクアとルビーには謝らないといけないことがあるんだ」
アイは俺の頭を撫でながら、言葉を続けた。
「B小町のみんなには結構前からアクアとルビーの事。貴方達の父親の事なんかを話してあったんだ」
「えっ?」
アイの言葉に一瞬、頭が真っ白になった。アイとB小町メンバーとの仲はそれほど良くなかったように見えた。少しずつ改善していっていったとは思っていたけど、そういう事まで話せる関係になっているなんて思っていなかった。
「まあ、話したというよりはルビーが私とすっごい似てきて、誤魔化しきれなくなっちゃったんだけどね。B小町のみんなから詰め寄られちゃって、社長が私の相手なんじゃないかってみんな怒って怒鳴り込みしそうになっちゃって、話さないと酷い事になりそうだったんだ」
アイの表情は明るかった。
「バレちゃった時はやっちゃったな~。アイドルも駄目になっちゃうかな。とか最初は思ったけど、みんな私のことを心配してくれてさ。むかしのこと、みんなが私の悪口を言っていて、それを聞いて居場所がなくなっちゃったと思って、恋人を作って、子供を作って、みんなに隠して育てたって話して…………今思うと、ほんとうに身勝手な事してたし、自分だけの事しか考えずに、みんなに迷惑をかけるような事をして謝るのは私の方なのに、みんな謝ってくれて、仲直りできて…………」
当時を振り返っているのかアイは少し嬉しそうな顔をしていた。
「もし、ヒカルくんが私との関係を暴露したりとか、アクアとかルビーの事がバレたりしても気にしなくていい。こうなった責任は私達にもあるから、これはアイだけの問題じゃなくて、B小町の問題だからみんなで解決しようって言ってくれたんだ。あと、最近、契約とかそういうのを色々変えていたから、もしかしたら、そういう事なのかな? って思ってた」
まさか私を殺そうなんて思っていたなんて思ってなかったけどね。と少し悲しそうな表情を一瞬したあと、言葉を続ける。
「だからこういう日が来ることはみんな覚悟はしてて、地下アイドルから成り上がった私達なら、スキャンダルを乗り越えてまたトップにだって立てる! って言ってさ。やれるところまで走り抜けようって一生懸命やってて。私もそれが嬉しくてさ。お仕事に夢中になっちゃって、そしてアクアが大変な事になっているのに…………私の、私達のためにすごく頑張っていた事にも気がつかなくてアクアが追い詰められてるのにも気がつかなかった。ごめんね。アクア」
「いや、謝らないでほしい。結局、なにも出来なかったんだから…………」
そうだ。俺は結局の所、この問題を解決出来なかった。頑張るだけでは意味がないんだ。
「ううん、そんなことない。アクアが気がついてくれなかったら…………私はせんせの事をずっと知る事なく過ごすところだったんだよ」
アイが目を伏せる。
「せんせは私がわがままばっかり言うから見限っていなくなっちゃったんだと思っていたんだ。だから、私の為に亡くなっていたなんて思わなかった…………だから、もしそうなら、今すぐにでもきちんと埋葬してあげないと。せめてそれくらいのことはしないと」
「アイ…………」
「みんなにもそれは話したよ。納得してくれたし、みんなもそれで良いって言ってくれてる。だからアクア、ありがとう」
やめて欲しかった。おれなんかの為にそんな事をしないで欲しい。
「あいつに…………あんなやつにそんな価値ないよ」
「アクア?」
特定妊婦の条件を幾つも満たしていたアイを放り出して家庭崩壊を起こす寸前までいった男にそんな価値はない。キミを信じられなくて診断でも嘘をついていた医者失格な男だ。どうせ、死ぬまで親の、周りの言う通りに動くだけのつまらないやつが死んだところで誰も気がつかない。結局、誰も俺のことなんて死後、探しもしなかったんだ。別に俺の死を悲しむやつもいないどうでもいい人間だ。
「だから…………」
雨宮吾郎のためなんかに動かないで欲しい。そう言おうとしたところでアイの制止がかかった。
「駄目だよ。アクア。それは駄目」
それはとても真剣で、怒っているようにも見えた。
「アクア…………アクアが私の為に色々しようとしているのは分かるよ。でも、私の為に頑張ってくれて、寄り添ってくれた人を悪く言っちゃ駄目」
アイは諭すように続ける。
「私、本当はね。せんせの所に行く前にオンラインとか電話で相談はしてるんだよ。今って、本当に子供に手厚くてさ。そういう風にバレたくない妊婦さん用のサービスとか色々あってそれを使ったんだ」
知らなかった。アイはそういうのに疎いイメージがあったから。
「そうすると、行政機関に登録して特定妊婦? っていうのにするから来てとか、保健師さんとか、社会福祉なんとかの人とかが家庭訪問したりするから住所を教えてくれとか、支援事業をしている施設を紹介しますね。とか色々言ってくれて…………でも、誰もお仕事を続ける事に賛成してくれるところは無かったんだ。多分、夜のお仕事だと思われたのかもしれないけど、生活保護になって子育てに集中した方がいいよって」
でも、私はどっちも諦めたくなかったから、そういうのは全部断って、着信拒否しちゃった。そんな風にアイは続ける。
この電話を受けた人達の対応は間違ってない。東京の福祉支援なら、家事支援サービスや定期的な訪問をして無理がないかのチェックもできるし、母子支援事業とも繋がれる。辞めるかどうかはともかく幼稚園入園くらいまでは働かず育児に専念した方が良いと判断したのだろう。どんな仕事かを詳しく話してはいないだろうが、働き方からそういう仕事だってことは分かる。普通はそういう対応をすることが正しい。
「せんせはね。みんなお仕事をやめるか、アイドルを続けるかの二択しかくれない中、私のわがままを聞いてくれた。ほんとうは駄目なのに書類を誤魔化して、他の病院の先生に怒られても、私を信じて、私のわがままを聞いてくれた。だからすごく嬉しかったんだよ。私のためにそうやってしてくれた人が居たことが…………だから、せんせの事は大好きだった」
でも…………と続ける。
「出産の時、本当は恐くてさ。そんな時に、ヒカルくんが立ち会いをしたいって言ってくれて…………もしかしたら、私を愛してくれるのかもしれないとかそんなふうに思ってもいたと思う。それで病院の場所とかを教えちゃって…………そのせんせが私のせいで亡くなってしまったのなら、それを公表して何が起きるとしても、アイドルを続けられなくなってしまったとしても、直ぐにでもせんせをちゃんと埋葬してあげないといけない。私はそうしないといけないと思うんだ」
「…………アイ」
「心配しなくても大丈夫だよアクア。昔みたいに、ファンの人達に私の全部を話して、それを受け入れてくれる人が本当のファン! なんて考えて無いから」
アイの自己破壊行動はそれだった。なにからなにまでぶちまけて自分の全てを受け入れてくれる人かどうかを見極める。ある意味、受け入れてくれない人を見限るような決断だ。アイドルとしてのキャリアとかその全てと引き替えに自分を本当に愛してくれるファンを見つける試し行動。アイはそうしたい願望とそれはいけない事だという理性で揺れていた。
「アイドルになった時はみんなが当たり前に誰かに愛されて、その道を応援して貰っている姿に、将来、私もそんな人達を手に入れるぞ! って、前向きな気持ちがあったんだ。でも、どんなにどんなに頑張ってもアイドルとしての私しか愛して貰えなかった。年頃の女の子としての私としてしか見てくれなかった。だから、同じような境遇の人なら私の事を理解してくれるんじゃないかって思って付き合って、求められたこともした。そこまでしても愛してくれないって、落ち込んだし、怒ってたし、ふてくされてた時もあったかな」
そんな時に貴方達が産まれた事を知ったんだよ。と続ける。
「私の事を愛してくれる存在が欲しかった。私が愛していい存在が欲しかった。みんな持っているものが欲しくて欲しくて仕方なかった。だからずっとずっと、言えなかったけど、私は自分が愛して貰える存在が欲しくてあなたたちを産む事に決めたんだ。みんなが産まれた時から持っているものなら、私も母親になれば欲しかったものを…………愛を貰えるんじゃないかって」
アイは俺とルビーを引き寄せて抱きしめる。
「その時は分からなかったけど、今は分かる。私は私のそんな考え方をする自分が嫌いだった。愛して貰いたいからアクアとルビーを都合よく扱っている。そんな行為が本当の愛なのかって。アクアとルビーの事を本当に愛しているのか分からなくなっちゃったんだ。アクアがずっと私を支えようとしてくれて、ルビーが私みたいになりたいって思って頑張っている姿が愛おしくてたまらないのに。どこかでその愛を受け入れるのは駄目なんじゃないかって思ってた。そんなものは偽物で本当の愛じゃないんだと思った。そして、そんな偽物の愛なんて要らないんじゃないかって、拒絶されちゃうんじゃないかってどこかで思ってた」
アイの独白が続く。俺はそれをただ黙って聞いている事しか出来なかった。
「でも、そんな風に考えなくても、探さなくても、みんなは私を愛してくれていた。私が望んでいたのは、無償の愛とかそういう一変の曇りもない綺麗で素敵なものだけで、それ以外は愛じゃないと思っていたけど、違っていた。みんな、私の為に、色々な形で応援したりしてくれていた。それだって立派な愛だって気がつかなかっただけだった。そういう凄いものでなくても、誰かの為になにかしたいな。って思って、なにかをすることが出来ればそれが愛なんだって気がついたんだ」
「今、思うと、私はわがままだったんだよね。私はアイドルとしての私しか見せてこなかった。だからアイドルとしてしか愛されないのは当然だったし、B小町のみんなともあいさつとかはしてもプライベートのことなんかも話したことは殆どなくて、私達はただのチームメイトだったから、仲間にも友達にもなににもなれなかった」
「わたしは否定されるのが嫌だった。失望されるのが嫌だった。どこまで話して良いか、何を話して良いかよく分からなくて、これを話したら嫌われちゃうんじゃないかって思って。適当にはぐらかすばっかりになってた。だからファンの人達も、B小町のみんなにも私について知っていることなんて殆ど無かった。なのに私の事を分かってくれないって怒ってた」
「今はB小町のみんなとは、アクアとルビーと話すみたいにいっぱいいっぱい話して、何が好きとか、何が嫌いとか、今日はどんな一日を過ごして、どんな事をして、どう感じたとかそういう事を知っていくうちに、みんなの事が好きになっていった。私もそういう事を話していって、受け入れて貰って、好きになって貰っていった。ファンのみんなにも何が好きなのかとかそういうことを知って貰って、すこしずつ私を分かって貰って、私がなにを感じて、なにを思っているのかを伝えてきた。その中でも大丈夫かな? って思うものもたくさんあった。でもそれでも沢山の人が受け入れてくれる。もちろん離れてしまった人も居ると思う。けど、沢山の人が私を愛してくれてるんだって分かったんだ」
「だからさ。今回の事も今までやってきた事と一緒だよ。今回の事はさ、みんなの期待を裏切ってしまった。私の事情にせんせを巻き込んでしまった。それで嫌われてしまうのかもしれない。でも、それを知っても、好きで居続けてくれる人も居ると思うし、今は駄目でも将来的にはまた好きになってくれるかもしれない。そうなってくれるように頑張ればいいと思ってるんだ…………」
そう言うと、アイは抱きしてるのをやめて俺の肩を掴んで、顔をまっすぐこちらに向けた。
「だからさ、アクアはアクアの好きな道を選んで。今のアクアはこうしなきゃいけないとか、そういうのばっかりになっちゃってて、自分の幸せとかそういうのを考えてないようにみえて心配なんだ」
「…………かなを助けてあげたいんだ」
「うん、いいよ。私もみんなも手伝うよ」
「でも、みんなにも迷惑をかけたくないんだ」
「いくらでも迷惑をかけていいよ。B小町のみんなだって、アクアの事を本当の弟みたいに思ってるんだから」
「俺にそんな資格はないよ」
「そんなことないよ。アクアがB小町のみんなの為に、アクアが出ている番組とかのスタッフさんにお話して出して欲しいってお願いしたり、忙しい中でも演技とか教えたり、どの監督さんがどんなことを好きとかそういうのを教えたりして、みんなが成功できるように、仕事を貰えるように頑張ってるでしょ?」
「それは…………あくまでアイやB小町の知名度の為とかそういう打算ありきのものなんだ」
「でも、みんなのために頑張ってくれたのは本当でしょ? 私の為だったとしてもアクアはみんなの為にそういうことをずっとずっと4年以上やり続けてくれてたって言ってたよ。みんなアクアのそういう優しいところが好きなんだ。それは打算があったとしても変わらないよ。今のB小町の成功だってアクアの力があってこそだってみんな言ってる。誰にでも手を貸したいってわけじゃないよ。みんな、ずっとずっと私達のために手を貸してくれたアクアだから、アクアが困った時には手を貸したいって思ってる。だから、なんでも言ってよ」
アイはそう言って頭を撫でる。俺はその顔が直視できず、壱護さんに話を回した。アイやB小町のみんなが良いと言っても、やるのは壱護さんだ。一番危険が多い。
「壱護さんは…………本当はどう思ってるんだ? 数億の損害になりかねないだろ? それどころか、最悪、会社が潰れかねないことになるかもしれない」
「…………まあ、たしかに社長としてはその決断は馬鹿なんだろうな。でも、お前は俺のことをなんだと思っているのかは知らないが、お前は俺にとってくそ生意気な息子みたいなもんなんだよ。ただの戸籍上そうしてるってだけだが、アイとお前とルビーと一緒に家族みたいに過ごす今の生活は嫌いじゃ無いんだよ」
そう言うとため息をついて俺の頭を叩いた。
「それに、なに俺が失敗する前提で話してんだ。今回の件、もちろん、親代わりをしていた金田一のやつにも責任を取らせるし、今回の交渉にもあいつは同伴だ。もしなんかされるなら道連れにしてやる。アイがあのくそガキに食われたのを知っていて黙っていた鏑木の野郎には大好きな金やコネを使って今回の件をなんとかさせる。黒川にもまあ、法的にどうこう出来るなら頼るつもりだ。こっちはくそみたいな業界で長くやってるやつらばっかりなんだ。なんとかするし、なんとかさせる。それに馬鹿な息子が女に助けるなんて言っておいて、やっぱりできませんでしたじゃ格好つかないからな」
そして、残ったミヤコさんの方を向くと…………なぜか泣いていた。
「なんで、ミヤコさんが泣いてるの…………」
「だってぇ…………アクアがそんなに思い詰めてるのって、みんなに迷惑をかけないとか考えちゃうようになったって思うようになったのって私がアクアとルビーを捨てて週刊誌に売ろうとしたからでしょ」
「あの時は仕方ないよ。ミヤコさんもいっぱいっぱいだったのは知ってるから。俺も騙して散々こき使って、利用しちゃったし、謝るのはこっちのほうだよ」
「ううう、ごめんねアクア~! ルビー! アイ!」
俺に抱きついてくるミヤコさんに向かって壱護さんが「まあ、一番高い週刊誌でも高くても5万で大した額にならないから出戻ってきてただろうけどな」と煽っていた。
本来ならため息が出る光景なのになぜか涙が出てきた。
雨宮吾郎の人生は祖父と祖母の敗戦処理が上手くいったのかいかなかったのかの結果を示すものでしかなかった。だからなにをするにも周りの顔色を窺っていたし、夢を追いかけることもせず、言われたことをただやっていた。そして、星野アクアの人生は雨宮吾郎の失敗の償いの為の人生だった。前世で失敗した事を取り返す。そんな人生だと思っていたし、それでいいと思っていた。
でも、俺の周りの人達はそんなこと望んでなかった。俺が失敗だと思っていた事は俺が守らないといけないと思っていた少女達にとって糧になっていて、いつしか立派に成長し、俺よりもしっかりしていると感じるくらいだった。守っているつもりが、いつの間にか守られていた。ここには雨宮吾郎が失敗した結果、今なお苦しんでいる患者なんていない。普通とは違う形だが、かつて子供の頃の俺が欲しかったはずの家族が目の前に広がっていた。
俺はこの日、初めて家族というものを手に入れた。