推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第十話 裏 アクア⑰

 

 カミキヒカルが死んだ。

 

 カミキの親に、俺、雨宮吾郎の殺害容疑がある事を伝えて殆ど時間が経っていないのにも関わらず、そしてニュースになってしまっているのがおかしい。連続殺人をもみ消すのが難しいと判断すれば、向こうでそういう処理をする事もあるだろうとは思っていたが、それが直ぐ判明して、ニュースになるというのは想定していなかった。なにかがあった。そう思って、壱護さんは金田一さんに連絡をして確認したが、繋がらず、真相が分かったのは、それから10日が過ぎた頃だった。

 

 死因は自殺だ。

 

 自首を勧める父親を殺して、自分も死んだ。説得に同行した金田一さんはそれを見ていることしか出来なかった。簡単に言えばそういう事らしい。金田一さんは、当初は二人の殺害容疑も出たらしく、ようやく解放されたらしい。壱護さん曰く、かなり疲れた顔をしていたとの事だ。

 

 カミキヒカルはララライでは、昔は天才と呼ばれていたらしい。顔も良ければ、頭も良い、演技のセンスもある。10歳の頃から入団し、中学生になる頃には一流どころの技術を身につけていたとか。だが、一つだけ欠点を持っていた。感情演技が出来ない。演技に感情を乗せることができない為、心に訴えかけるものがない。だからなのか大成することがなく時が過ぎ、希望の学部に内部進学するのに、上位の成績を維持しないといけないからと言って、ララライを辞めた。

 

 もったいない。これがカミキヒカルに対する周りの評価だった。それ以外の全てを持ち合わせているのに、感情を外に出せないことから、その才能が生きなかった。

 

 アイがカミキと自分が似ていると言っていたのを思い出す。俺たちが生まれる前のアイはまさに同じような問題を抱えていて、それに悩んでいた時期があったと言っていた。アイと同じように、それっぽく振る舞う事は出来ても、感情を表に出すことが出来なかったのだろう。あかねも、カミキの演技については、なにか物足りないと言っていたが、これが原因なのかもしれない。

 

 あの神の遣いを名乗る少女があらゆる才能を持っていたが、それを生かさなかった。というような事を言っていたが、生かさなかったというよりも生かせなかったのだろう。分からない、理解出来ないものを理解出来るように努力する事は苦痛が伴う。それから逃げてしまうのはよくある事だ。

 

 初めは才能を生かして表舞台に立つ女性を抱く事で、恵まれた才能を生かせなかった自分のコンプレックスを埋めていたのかもしれない。だが、自分よりも才能がない女性が、自分が理解できない理由で自分が成功出来なかった道を進んでいるのが気に食わずに殺していた…………そんな風に考えてしまうが今となっては分からない。コンプレックスは人によって違うし、その人にしか分からないようなこだわりがある事が多いので、直接聞かないと判断が出来ない。

 

 金田一さんはカミキの留守の時に、管理人に鍵を借りて、部屋を調査した所、わざわざ殺人の感想なんかを日記のようなものにつけていたそうだ。それを見て、複数の殺人をしているという確証を得て、自首を勧めてこんなことになったらしいので、後で聞けるかも知れないが…………知ったところでどうしようもない問題だ。

 

 金田一さんは俺たちのことは黙っていてくれて、カミキの身の回りの女性の失踪と自殺が重なっていて、調べていたという事にしてくれたらしい。結果的にだが、これで大体の問題はクリアされた。

 

 警察は押収した日記を見て、その調査に乗り出すだろう。問題は、貝原亮介。俺を殺して、アイを殺そうとした男だけ。裁判は原則は傍聴自由。そこで、アイを殺そうとしていた事を自白して、それが記事になったりする可能性がある。

 

 未成年時の犯罪が成人後に見つかり、裁かれる時は死刑を除いて刑法上の罪は成人と変わらないが、少年法で実名報道規制がかかるので、その犯人に殺されそうになった当時、未成年かつ被害者だったアイの名前だけを出してニュースにするなんて場合は相当に悪意があるケースになる。

 

 6年近く前の殺人事件だ。本来、報道をしないものをアイが関わっていたというだけで出すという事なのだから、アイのスキャンダル目当ての報道だろう。

 

 カミキの父親の腹違いの息子が居て、広告代理店の社長をしている。その人が色々と動くとは言ってくれた。さすがにサイコパスの腹違いの弟がやらかし、それに金をあげて犯罪を助長していた父親の事をべらべらとしゃべって欲しくないらしく、倫理的にもアウトな案件を潰すくらいならしてくれるらしい。

 

 これ以上出来る事はない。これで駄目なら仕方ないと割り切るしかない。

 

 こっちとしては、殺人犯二人がこっちに来ないと確定してくれるなら良い。最悪なのは、スキャンダルよりも、アイが殺されてしまう事。だから、最悪の結果は回避された。カミキが死ねば、もう一人はただの一般人だ。こっちは逮捕されるまでそういうやつが近づけるイベント自体を避ければそれでいい。カミキがなにを考えて、なにをしたかったのかなんてどうでもいい。死人を裁判にかける事なんて出来ないのだから。

 

 あとは目の前の問題を解決するだけだ。

 

「…………これは法律上は問題ないですかね?」

 

 目の前には俺と壱護さんで考えた、かなの親を説得するのに使うカードが使えるのかどうかを法律相談という形であかねのお父さんに見て貰っている。

 

「う~ん、まあぎりぎり…………グレーかな。やり方次第だと思う。でもこんな事しなくても児童相談所に相談を何度もして、財産管理権を取り上げてもらう方が正攻法だと思うけど」

 

 かなの母親の金使いの荒さは酷い。重すぎる住宅ローンを抱えているのにまだ生活を改められていないし、契約更新の事もあり正攻法はあまりにも遅すぎる。

 

「それ、どれくらいかかるかってわかります?」

 

 意地悪だが、聞くとため息が聞こえた。

 

「斉藤さんも本当にこれで良いんですか? お金を溝に捨てるようなものですよ。これは法的に問題ないようにすると、相手が不誠実な対応をするだけで一方的に負債を押しつけられますよ」

 

「とはいえ、契約更新をされるともっとやっかいな事になるんだよな。芸能界なんてスポーツの移籍なんかとは比べものにならないくらい移籍は嫌われるからな」

 

「移籍金ないですもんね」

 

 二人が同意したが、まあ、事務所移動は嫌われる。

 

 移籍金なしのフリー移籍なんてスポーツの世界でも歓迎されず、裏切り者扱いをされる事も少なくない。芸能界の事務所としても許したくないに決まっているわけで、はい、わかりました。なんてしてくれるのは、どうでもいい子だけだ。

 

 子役はそもそも儲からないので殆どの子はゆるい。圧力なんてないが、一部の稼げる子は違う。だが、法律上、むりやり働かせるなんて出来ないし、未成年は親が契約をひっくり返すことも可能だ。だから、今後の活動に支障をきたすような嫌がらせをたくさんできるようにして、移籍をさせないようにしている。

 

「日本はアメリカみたいにエージェント法すらないからな。エージェントとマネジメントどころか制作も兼任で出来るんだよ。他の事務所なんて社長に嫌われたやつは嫌がらせなんてやりたい放題だ。そんなことになった方がやっかいだからな」

 

 大体の仕事の相場価格は業界に居れば分かる。かなのここ最近の仕事を見ると違和感しかない。黒川さんに渡した紙には、そういった情報を渡してあるが、一目見ると、嫌なものを見たような顔になった。

 

「あくまで憶測でしかないですけど、かなちゃんの事務所は相当酷いですね。あれだけ仕事をしているのに、相場を考えるとかなちゃん側にあまりお金が入っていかないのはどう考えても、会社の利益の為にタレントの給与を抑えて、裏で抜いてるとしか思えない。事務所がどれくらい抜いているのかは分からないですけど、明らかに報酬の比率がおかしいですね。利益相反の関係の立場を兼任出来るのを利用して、利益誘導をしているとしか思えない。弁護士が双方代理するようなものだからこうなるのは必然なのかもしませんけど」

 

 黒川さんがため息をつく。

 

 日本の芸能事務所はアメリカでは認められないくらい大きな権力を持っている。利益相反の関係にある職業を兼任出来てしまうと、所属先に利益誘導するのは当たり前になる。タレントの最大利益を図るのが仕事の人が事務所に所属する人の場合、事務所の利益の為にタレントを安売りし始める。

 

 人気タレントが月収15万とかそういった事をされるのは、固定給なら何千万の仕事をしようがコストが15万で済むからとか、そんなとんでもない理由でそんな事をする。一応、法律違反ではない。そういう契約をしただろう。と言って使い倒す。

 

 移籍なんて法律すら守らない。基本、有期契約は労働基準法で1年以上経過すれば、いつでも契約を解除できるのだが、そんな事許さないとばかりに、莫大な契約解除金を要求して、寄越さなければ業界から干すと言ってくる所もある。そんな滅茶苦茶な世界だ。

 

「契約を結んじまえば、そこは事務所の力でごり押せる。あっちなんてあと数年もすれば潰れるし、今、有名なタレントも抱えていないから、有馬かなと共演NGなんてしたってなんのダメージにもならない」

 

 個人が法律で闘ってどうしようもない世界だから、向こうの嫌がらせから事務所の力で守った方が手っ取り早い。

 

「…………移籍させてしまえば、業界ルール内での対応でなんとか出来るから、かなちゃんのお母さんを説得して、移籍させたいという事ですね。ただ、あの人、かなりやっかいですよ。下手にお金を渡した所で使い切ってしまって、かなちゃんを交渉材料にしてゆすってきたりする可能性もあります」

 

 黒川さんの懸念はもっともだが、目的はあくまでもかなの環境を変えることだ。別に数千万損しようがどうでもいい。

 

「それならそれでいいです。一先ず、あの事務所から、かなを引き離したい。あの環境のままでいると状況が悪化していくだけです」

 

「…………それはそうなんだけどね。アクアくんからしてみれば、簡単に稼げた額なんだろうけど、本来は人が道を踏み外すようなお金だ。それを簡単に渡すと、そういう事をすればお金をくれると勘違いをしてしまう人も居る。かなちゃんのお母さんはそういう人だ」

 

「そうなる前に、児童相談所や区役所の相談員さんなどと話を進めてフォローして貰うつもりです」

 

「正式な手続きの時間稼ぎだけのためにアクアくんの今までの努力の結果が消える事になると思うけど」

 

「はい、それでかなの助けになるなら構いません」

 

「…………」

 

 視線が厳しい。まあ、子供の言うことだからな。お気に入りのおもちゃ感覚で大金を渡そうとしているように見えるのかも知れない。だが、まあ、これは本心だ。お金なんて使うものだ。こういう時の為に使わないでいつ使うんだって話だ。

 

「ふぅ、仕方ない。こっちでも動いてみるよ。こういう芸能界うんぬんの話も不動産系の事も僕は専門ではないし、もっと良い方法を知っているかもしれない。かなちゃんの友達の父親として、あちらに接触して、いまの話に興味を持つように誘導してみるよ」

 

「良いんですか?」

 

 正直、これらの事はかなり面倒くさい事になりやすい。相談してなんだが、かなの母親につきまとわれるリスクだってある。法律相談は本来、1時間1万円くらいはかかるが、あれが払いそうにないので、ただただ、時間を取られるだけ。休みの日とかにそんなものに付き合わされたくはないだろう。

 

「娘からも頼まれているからね。かなちゃんを助けてって。娘の頼み事に父親は弱いんだ。あと、いちおう、かなちゃんのお母さんとうちの嫁はママ友らしいからね。やるだけの事はやるよ」

 

 黒川さんはそう言って、苦笑した。

 

「ありがとうございます。でも、…………」

 

 本来は言わない方が良いのかも知れない。だが、ここまでして貰う以上、話さないのは相手を騙しているのと一緒だ。話そう。

 

「言っていなかったことがあります。俺はララライに所属していた俺の父親の情報を探ろうとして、娘さんに近づいて、最終的にはカミキヒカルを探らせていました。金田一さんが味方だったから良かったものの、もし、カミキヒカルの事を調べている過程で目をつけられる事があれば、もしもの事もあった可能性もありました。申し訳ありません」

 

「…………その事は娘に聞いているよ。近づいた事は確からしいけど、カミキヒカルについては娘が自分で勝手にしたことだと言っていた」

 

「それを自分の利益の為に止めませんでした。あかねの善意につけ込んだのと一緒です」

 

 あかねの身を危険にさらしたのは事実だ。黒川さんからしたらたまったものではないだろう。

 

「正直、その話を聞いた時は怒りたかったよ。でも娘が自主的にやった事だからと言っていたから、胸のうちに止めていた。相手のして欲しい事を率先してやってしまっただけで、キミは娘に頼んですらいない。それを責めるわけにはいかないからね。それで一つ聞きたいんだけど、キミはララライの事を調べる為に近づいたらしいけど、なんであかねに探らせなかったんだい。キミはまだララライに入れない。ララライに居る娘に頼んだ方が情報が手に入りやすかっただろうに」

 

「えっ、だって危ないじゃないですか」

 

 さすがに、そんな事までさせようとは思っていなかった。あくまで自分が入るまでの事前情報が欲しかっただけだ。アイに執着しているストーカーならともかく、複数の殺人をしているサイコパスをまだ幼い少女に調べさせるなんて出来るはずがない。危険な事をさせてしまったのは事実だが、使い捨てになる駒としてあかねに近づいたと思われていたのか。と少しショックだ

 

 そういうと、黒川さんが苦笑しながら俺の肩を叩くと事務所を去って行った。

 

 数日後、黒川さんはかなの母親に契約を更新せず、こちらの事務所への移籍をすることを了承させてくれた。

 

 

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