推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
かなの移籍が正式に決まって、壱護さんが動き出してから、俺がずっとしていた事。それは…………
「あ~、そんな事になっていたんだ」
「ええ、かなの事務所なんですが、休み無く働かされていて、労働基準法はおろか、医者からドクターストップがかかるような状態で…………それでも無理矢理働かせようとしていて、見ていられなかったんです」
かなの移籍の話を正当化する為に現場関係者に話をつける事だった。
芸能界は反社会的団体と距離を置いたのがここ数年の話で、それまで、平気で冠婚葬祭に参加していたりしていたし、そもそも、元々がそういう団体の下部組織だったりする関係上、関係を断てないケースも多々ある。そして、その文化も継承していて、法律なんて関係ないとばかりの所も少なくない。ただ、契約で関係が切れただけなのに、金で仲間を裏切る事のように見る老人たちが沢山居たりする。これは時代の価値観なのでしょうが無い。
なのでせめて若い世代というか、30代、40代の今、働き盛りかつ、そういう価値観でやってない業界関係者、特に監督やPを中心に話を通しておいて、干されないようにする必要があった。
「僕はかなと1歳からずっと一緒にやってきています。実の姉弟のように育っていたので、そんな姿を見たくないと、父と母に相談をして、B小町の人達にもお願いをして移籍させて貰ったんです」
対外的には壱護さんとミヤコさんは俺の親だ。溺愛している息子のわがままを聞いてもらった。そういう事にしてある。
「なるほどね。かなちゃんの元事務所の人は、お金と出番ほしさに裏切ったから、そんな奴を出さないで欲しいなんて言ってたけど…………」
「そんな事実はありません。それにかなの事務所の人は契約を守らずに不当に取っていて、本来、貰える金額の半分も貰えてなかったみたいです。そして、その貰えるはずのお金も親に搾取されていて、かなの手元の貯金は殆ど無くて、多分、税務署の調査も入るかもしれない…………と父と弁護士の人も言っていました」
「それは…………酷いね。契約はその期間中は守らないといけない。子役の給与から抜いて贅沢をする親なんて珍しくないけど、今だと、子役の子に絶対に渡すように取引をするし、かなちゃんの給与が残ってないって相当だ」
「ええ、親を抱き込んで、そんなことをしていて…………かなもまともに学校も行けていない上に食事もまともなものを用意して貰えず、ボロボロであまりにも可哀想だったんです。多分、収入に合っていない消費をしているので、数年以内には税務署が動いてしまうだろうと。そうなったら、父には自分が金銭負担を持つ。かなを助けてほしいと言って、頼み込んで認めて貰ったんです」
これはあくまでも、お金の問題じゃなくて、仲の良い友達を助ける為に立ち上がっただけなんですよ。と念を押す。待遇が悪かったからではなく、不義理を行ったから逃げたなら老人の納得もさせやすい。
かなの母親の悪行というか迷惑行為は有名だ。そんな親を抱え込んでいるのはメリットよりデメリットが大きい。現場の人間だからこそ、そのヤバさは伝わるし、そういう事もしかねない人物だという信頼にもなる。
「…………なるほどね。分かった。かなちゃんの元事務所の人の話はそういう事だって、周りのみんなにも話しておくつもりだ」
「ありがとうございます。この借りは必ずお返しします!」
「いやいや、そんな事考えなくていいよ。若い子がそんな事になっているのなら力になって上げるのが大人の役目だからね。かなちゃんを使いたいような作品があったら、出演依頼を出すよ」
こんな会話をして、何十回目かも忘れたが、とりあえず、昔ながらの価値観をしていない業界の人には話をつけた。
あんな事を言っているが、まあ、かなの出演依頼の前に1度、苺プロのだれかの出演依頼を出してくるだろう。そして、了承したら追加でかなの出演依頼を出す。条件はそれを見越して、配慮したものになる。
事務所移籍はそれくらい大きな借りを作ってしまう。だが、今のうちに処理をしないと何年干されるか分かったものではないので仕方ない。
かなの事務所も散々好き勝手な事を言っているが、時間の問題だ。B小町のメンバーには仕事仲間にそういう話をして貰っているが、アイドルや女優はもちろん女性スタッフの間で今の話がどんどん拡散されているらしいし、一部では、ぼかしてネットに拡散されているらしい。
B小町も同世代は既に子育てをする世代になる。同世代の間のネットワークでどんどん噂は広まっていくだろう。子役事務所に預ける親世代に思いっきり広がる事になる。
芸能界に入れたいと思う親は大概は、業界の知り合いとかから話を聞くか、ネットで情報を調べるものだ。そこに、色々と悪い噂があると入れたくはならないだろう。
こういうのは、俺たちが流すと問題だが、噂を聞いて、それをだれかがポロッとしてしまったという形なら責任を問えない。あくまで、自分達は業界内で説明する為にそういうことをしましたけど、そういう事を大々的に流したりはしてませんと言える。
こっちの方は順調と言える。だが、問題なのは別にある。どうにかしないと…………そんな事を考えているとあかねが近づいてきた。
「アクアくん、お話は済んだ?」
「うん、監督には時間を取って貰って、分かって貰えた」
「よかった。こっちもスタッフさんに事情を聞いて貰って納得してくれたみたい」
「ごめんね。こういう事も任せちゃって」
「ううん、いいの。かなちゃんを助けたいのは私も一緒だから」
問題は、目の前の女の子にある。
俺は、カミキの事を調べる為にあかねを利用した。そして、相手が複数の殺人を行っていると知ってからもあかねがカミキの事を調べるのを止めなかった。これは人としてやってはいけないことだ。直ぐに止めるべきだったのに、俺はなにか見つかるのではないかとわらにも縋る思いで放置をしてしまった。
その件を謝罪すると自分が勝手にやったことだからと言われてしまい、いまも、かなの件に巻き込んでしまっている。
あかねとかなは女の子の子役として2トップ。主演やメイン級を取り合う立場だ。同じ年齢で同じ性別、同じ役者となると、事務所のリソースを分け合う関係になってしまう。あのまま、かなが脱落すれば、圧倒的な1トップになってお金も立場も今とは全然違うものになっていたはずだ。かつてのかなの立場にあかねが居る事になったかもしれない。
性格的にそんな事はしないし、考えないだろうが、あかねに不利益な行動をしている事は事実だ。それに協力させてしまっているのは、あかねの善意につけ込んでいるようで、心苦しいものがある。しかし、そういう立場のあかねが友情を優先して助けようとしているというのは、大人には効く。
こんな事は芸能界でやる人は居ない。だからこそ、これはこんな事が起きるくらい酷い事をされていたんだと、利益を考えた移籍ではないと伝わるので、好意に甘えてしまっている自分が居る。
本当にいい子だし、いい子過ぎて心配になるくらいだ。だれかに騙されないかとか、いいように使われてしまうんじゃないかと思ってしまう。かなとはまた別の意味で心配だ。
かなを実際に受け入れた日から暗い表情をする事があるように見える。なにか思うことがあるのだろう。やっぱり、今みたいに自分の利益にもならないことをさせ続けているし、自分のせいなんだろうなぁと思う。原因に思い当たる事がありすぎて絞れないくらいだし。
「あかねちゃん、ありがとう。仕事も忙しいのにこんな事ばっかりさせてしまって。あかねちゃんには甘えてばかりだ」
せめてもう少し、俺くらいにはわがままになってくれても良いのに。と思う。貸し借りの借りばかりが増えてしまっている。
「もう、何回目? そんなに何回も言わなくていいよ。私もかなちゃんと友達でライバルなんだから。かなちゃんがこんな事で脱落しちゃう事なんかあっちゃいけないって事は分かるよ」
「そうだとしてもだよ。今回の件で一番、損をしたのはあかねちゃんなのは事実だ。それなのに、俺はあかねちゃんになにも報いてあげることが出来ていない。なにか俺に出来る事があるなら言って欲しい」
せめて、俺が出来る事なら何でもしてあげたいと思う。
「…………そうだね。じゃあ、一つ聞きたい事があるんだけど。聞いて良いかな?」
「良いけど。なに?」
「これからかなちゃんとどうするつもりなの?」
そういえばあかねには具体的に言っていなかったかもしれない。なにせ、事情が事情だ。子供には刺激が強すぎるし、法律とかの絡みもあるし、依存症の回復待ちみたいな曖昧な答えしか出せていないというのもある。
「18歳になるまでは、かなの親の事で問題はたくさん起こると思う。それまでは庇ってあげないといけないって考えてる。だからかなの家族の代わりに守るつもり。今は同じマンションに住んで、母親がなにかをする、もしくはなにもしてくれないことで困ることがあるなら助けて、仕事も…………今回の件で困る事がないようにサポートをしていく事を続けていくことになるかな」
「18歳…………そうだね。それまでは家族の代わりの人が必要だよね」
「ああ、そこまでいけば、親との関係も殆ど清算出来ると思う。特に今は世界が18歳成人になる所が殆どだから、それに合わせて18歳成人に法律が変わるかもしれない。そうなれば完全に親の意見を無視できるようになる」
「…………えっ? 18歳で成人になるとなにか違うの?」
なぜかあかねが驚いた表情をしていた。ああ、そうか、その歳で労働基準法なんて分からないよな。かながあっさり納得していたみたいだから忘れてた。もしかしたら知ったかぶりしていた可能性もあるな。あとで説明しとくか。
「ああ、そうだよね。労働基準法って法律があって、それで18歳になると親が勝手にうちとかの雇用契約を破棄出来なくなるんだけど、親の許可なしに契約は出来ないから、難癖をつけて18歳以降も揉めるかもしれないんだ。まあ、そうならないとは思うけどね。もし18歳で成人になるなら、親の許可なしで契約自体もできるようになるから、完全に親から自立できるようになる。そこから完全に自由意志でかなは生きていく事ができる。だからそこまで支えればいいって目標が明確になる。まあ、それくらいの違い」
意味としてはそこまでない。18歳以降の契約で親が出来る事は、過度の不当雇用の場合だけで、そういう契約を結ぶ事はないんだから。
「18歳ってアクアくんじゃなくて、かなちゃんの?」
「?? いや、それ以外ないと思うけど…………」
俺って一貫して、かなの話しかしてないように思う。してないよな?
「…………うん、ちょっと勘違いしていたかもしれない。でも大丈夫」
「なら良かった」
あかねは納得したような顔をしていたし、顔色も少し明るくなったように思う。なにか分からないけど、明るくなったなら良いだろう。そんな事を思っているとあかねの顔が少し近くに来た。
「もし…………」
「うん?」
「もし、私がかなちゃんみたいに大変な事になったら、アクアくんは私をかなちゃんみたいに助けてくれる?」
「もちろん助けるよ。当たり前だろ」
即答した。こんなに世話になっている子の困った時に助けないなんて言えるほど、薄情ではない。
「そっか。それなら良いよ…………そうだ! なにか出来る事がないか? って言ってたけど、一つ、わがまま言って良いかな?」
「もちろん。俺が言い出した事だしね」
そうやって念を押されると少し恐いが、ルビーみたいに結婚してとか無理なことは言わないだろう。長いとは言えないつきあいだけどそれくらいは分かる。
「私の事もあかねって呼んでほしいな。ルビーちゃんやかなちゃんみたいに」
「良いけど…………それだけでいいのか?」
それだけでわがままって言うのはさすがに謙虚すぎだとおもう。
「良いの。今はそれだけで」
それだけ言葉を交わすと、またいつも通り並んで歩く。いつもより少しだけ近い距離で。