推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第二話 裏 B小町

 

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 それはB小町全体でのダンスのレッスンの休憩中のことだった。ハードな振り付けの多いB小町の曲を2時間ぶっ通しでやったこともあり、私を含め、みんな疲れて座り込んでいると、声が聞こえた。

 

「あれっ、珍しいね、ミヤコさんだ」

 

「しかも、赤ん坊連れ。なんか見たことある」

 

 そんな声を聞こえて、扉の方を見ると、1年くらい前に販促ライブで会った双子だった。オタ芸をする双子の赤ん坊なんて本来ありえない光景にアイドル界隈はもちろん、SNSでもバズりにバズった。未だにSNSであの動画を貼り付けてるファンがいるくらいだ。

 

「はい、練習中ごめんね。ちょっとみんなに紹介しないといけない子達がいるから」

 

 ミヤコさんがそう言うと双子にほらっと挨拶を促す。

 

「斉藤アクアマリンです。よろしくお願いします」

 

「斉藤ルビーです! よろしくお願いします!」

 

 ずいぶんとはきはきとしっかりとした挨拶が出来る赤ちゃんだな~。と思ったけど、同じ頃くらいの年齢の子を見たことがないので、こんなものなのかも知れない。それよりも注目するのは二人の容姿の良さだった。

 

 二人とも煌めく金髪を靡かせていて、瞳はそれぞれ名前の宝石のように輝いていて、そこだけは現実ではないような独特な風格を漂わせていた。私はそれをよく見てきた。隣で話を聞いているアイの瞳と見比べるとあまりにそっくりで、まるで小さなアイみたいな子たちだった。

 

 斉藤姓は、この事務所所属で社長とミヤコさんだけなのでどちらかの親戚の子かな。と思っているとミヤコさんが爆弾を投げ込んだ。

 

「えーっと、私の息子と娘になったアクアマリンとルビー。これから事務所の方にもたまに顔を出す事になるから仲良くしてね」

 

 当然だが、ひそひそとどういう事なのか話し始めた。だって、私達はミヤコさんが妊娠している様子を見たことがない。なので、実子ではない事は明白だった。

 

「詳しくは言わないけど、社長が外で作って来たのを引き取った子だからべらべら吹聴しないように。外聞悪すぎるから外では私の子って事にしてるし、戸籍上もそうするから。そういう風に扱って」

 

 ため息をつきながらミヤコさんが続けるが、さすがにやばすぎる爆弾だった。

 

「どう見ても一歳くらいでしょ。ってことは結婚して直ぐの頃じゃん」

 

「うわ、社長、最悪すぎ、新妻に自分の愛人の子供の世話させるって何考えてるの?」

 

「みやこさんかわいそー」

 

「いや、さすがにありえないんだけど」

 

 社長の若い子好きにはどん引きしているメンバーは居たが、婚外子作ってくるレベルだと引く。しかも愛人が産んだ子を新妻に世話させているのは軽蔑しかない。

 

 ミヤコさんはしばらく、質問に答えていたが、一応、事務所の人間には手を出していないらしいので安心した。まあ、社長と二人きりになんてことならないように今後は態度を改めないとだけど。

 

「はいはい、あの人のことは好きなだけ軽蔑していいけど、外では話さないようにしてね」

 

 と締めくくった。ミヤコさん、もっと軽い人だと思っていたけど、意外と責任感強いんだなあと思った。新婚早々、浮気発覚して子供のお世話なんて。離婚しても許されるというか、離婚しかないと思う。

 

「今回はアクアマリンとルビーがB小町のファンでね。1度会いたいって言うから連れてきたの」

 

 

 

 

 こういう時、みんなアイの下にばかり行くのに、二人は特にそんな様子もなくみんなに話しかけていた。なんでもアイは事務所の社長が後見人みたいなのになっているからか、以前から知っていたらしく面倒を見ていて仲がいいみたいだ。今日はいつも会えるアイではなく、私たちとお話をしたいという事らしい。

 

 ああ、それで憧れのお姉ちゃんのファンになって、オタ芸踊っていたのか。と納得した。そこから箱推しになっていったと思うと、赤ん坊からドルオタなエリートオタでも育てているのかと思うところはあるけど、まあ、可愛いしいいか。と思った。

 

 双子が私の歌が好きだと言うので話しかけると、すごく饒舌に語り始めた。特に妹のルビーちゃんは私達がデビューしてすぐの曲から最新の曲まで余すところなく知っていて、メンバーみんなの好きな所とか得意なことなんかを事詳しく語っていた。

 

 B小町といえばアイという事が多くて、私のここまでのファンとなると指で数えるほどしか知らない。チョロいかもしれないが、可愛い妹みたいに思えてきた。

 

 この間、B小町の歌とダンスを覚えたんだ! と笑顔で言うルビーちゃんに見せてと言うと、お兄ちゃんのアクアくんを近くに居てと言って歌い出した。

 

 そう言ったことを私は後悔した。

 

 ルビーちゃんの歌を、ダンスを少し見ただけでぞわっと背筋が凍った。

 

 そこには拙いダンスに音程も合っていないような歌を歌っている子供が居た。だけど、それは正真正銘アイドルだった。

 

 アイみたいだった瞳は、歌と同時に太陽のように一層に輝き出し、表情からは今が楽しくて幸せで仕方ないとばかりの笑顔で溢れていて、私達に対してのものなのか、感謝とか好きという感情がどんどん伝わってくる。

 

 ああ、これは本物だ。

 

 何人もアイドルを見てきたけど、これは違う。アイドルへ対する熱量が段違いで、可愛いという気持ちと、ずっと見ていたいという気持ちでいっぱいになる。眩しすぎて、嫉妬するのも嫉むのも馬鹿らしくなる。これからどんどん可愛くなってどんどん技術が上がっていったら、どうなってしまうんだろう。

 

 ずっとアイが完璧なアイドルだと思っていた。アイが一番だと思っていた。事務所が小さいだけで、注目度が低いだけで、もし今からでも大手の事務所なんかに行けば直ぐにでもトップになってしまうようなアイドルだと思っていた。でも……

 

 つい、隣のアイを見てしまう。これを見てどう思うのか気になってしまった。鏡を見てないけど、私は顔を真っ青にしているのが分かる。

 

 それに対して、隣のアイは微笑ましいものをみるかのように笑っていた。

 

 想像はついていた。アイは嫉妬をしない、他人と比較してどうこう思ったりはしない。超然としていて、誰にも縋らず、奔放で、孤高で、強くて、後悔なんて一度もせず、無敵で最強で唯一無二なアイドルだ。

 

 分かっていたはずなのにすこしほっとしてしまった。自分の中のなにかが崩れてしまいそうになった。唯一無二の存在だったはずなのに、それが違ったみたいな言葉に出来ないなにかが壊れそうになった。

 

 そうしてしばらく見ているとルビーちゃんがバランスを崩していた。B小町の曲はハードなものが多い。疲れればそうなってしまうことも少なくない。

 

 転んでしまうかな。と思うと、先に動いていたお兄ちゃんのアクアくんが慣れた手つきでルビーちゃんが倒れそうになるのを受け止めていた。

 

 その姿をみて美しいと思った。容姿が綺麗なのもあるけど、物語の王子様がお姫様を助けるシーンそのものが具現化したような、手を出してはいけないような神々しさのようなものがあった。 

 

 そして、兄妹の美しい絆があった。妹は兄に絶対の信頼を寄せていて、その妹の信頼に答える兄の姿があった。そうして見ていると隣で信じられない声が聞こえてきた。

 

「……いいなぁ」

 

 そんな姿を心の底から羨ましいという表情でつぶやくアイの姿があった。私の中の何かが壊れる音がした。

 

 

 

 

 それからの事は覚えていない。それほどまでにアイの表情に、言葉に私はショックを受けていた。

 

 誰にも縋らず、奔放で、孤高で、強くて、後悔なんて一度もせず、無敵で最強で唯一無二なアイドルだったはずのアイの弱い、縋るような姿を見てしまった。

 

 そういえば、昔はアイの事をそんな風に思っていなかったと思った。私はいつからアイの事をそんな風に思っていたんだろう? と思い返すと一つのブログを思い出した。

 

 まだ皆が仲良くしてた頃に、共同アカウントのブログを作ろうという話があった。子供が4人で、無邪気に。明るい未来を夢想しながら作ったブログが。

 

 ネットに接続し、検索しログイン画面に移る。登録したメールアドレスは、私のサブアドレスだった筈だ。そして……

 

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 高峯、ニノ、アイ、渡辺の結成メンバーの頭文字を、フリックで入力した時の数字を入れた。

 

 すると、そこには非公開になっているページが1つあった。投稿者はタグで分かった。アイだ。

 

 私はプレビュー画面を開いて文章を読むと、最初期に仲良くしていた事を懐かしむアイ、今はギスギスするようになったB小町に対して責任を感じているアイ、また仲良くしたいと思っているのに言えなくて、こんな所に書き残すしかない……無敵でも最強でも唯一無二でもないただのアイが居た。

 

「あれっ、なんで、どうして……私は」

 

 つい言葉が漏れた。だって、どう考えてもこれはアイからの私たちへ向けたSOSだった。日付はアイの休養する1年ほど前になっている。この頃から精神的に追い詰められていて、それで鬱病や適応障害で休養することになったのではないか。と思ったが、記憶を引き出すと最悪の妄想をしてしまった。

 

 アイはその頃、練習中に何度か吐いていた。そこらへんからいきなり休養の話になっていたけど、あれは悪阻だったんじゃないか? その後、社長が外出が多くなっていたけど、あれは口の堅い産婦人科を探していた? とかだったり、しないだろうか? そして出産した後にミヤコさんに押しつけた。この事がバレれば会社は終わりだし、ミヤコさんも職を失う。だから協力せざるを得なかったのではないか? 

 

 アイは施設出身だ。後見人との関係が破綻すれば施設に戻されるからそれで……考え出すとなにもかもがぴったり嵌まるような気がした。なによりあの双子の瞳はアイの瞳に似すぎていた。

 

 なんで産む決断をしたのかは分からない。社長ならぜったいに堕ろさせたいはずなのに、アイが強行して産みたいと思わないとこうはならない。

 

 確かめないと。アイが今も助けを求めているなら、今度こそ助けないと。そう思い私はアイに話があると電話で連絡をした。

 

 

 

 

 事務所の近くにある業界人が使っている紹介制の個室で待っていると、アイが来た。

 

「こうやってニノとプライベートで会うのは久しぶりだね。二人きりは初めて?」

 

 アイはいつも通りだった。相変わらずとぼけたような声をしてマイペースな姿に力が少し抜けた。

 

「うん、そうだね。最後にプライベートで会ったのは4年くらい前かな。ごめんね。急にこんな所に呼んじゃって。どうしても話したいことがあって」

 

「うん、いいよ。で、なにかな?」

 

「……単刀直入に言うと、あの四人で作ったブログのアイのメッセージを見たんだ」

 

 その言葉を聞いて、アイはなぜか少し気が緩んだ感じがした。

 

「あー、あれね。なんかごめんね。あの時、すごくギスギスしててつい書いちゃったんだ。結局、ニノ以外は辞めちゃったし、もう昔の話だし消せば良かったね」

 

 そうだ。もう初期メンバーは私達しか居なくなってしまった。アイがあれを書いてから3年……今更だ。

 

「うん、それで、その後、しばらくしてからアイ変わったじゃない?」

 

「…………そうかな?」

 

 そうだ、思い出すとアイが15歳の頃、この頃からアイがアイでは無くなっていった気がした。なんという元々アイには無かった要素がどんどん増えていった。というか外付けされていた感覚だった。

 

「なんというか女性的になっていて、表情を取り繕うのが上手くなっていて、それで、男の人と関係をもつようになったんじゃないかな。と思ってて。そして、半年くらいしたら、アイ休養する前に何度か吐いていたけど、あれって、悪阻だったんじゃないかと思ったんだ」

 

 そう言った後、アイの顔を見てたけど、なにを考えているのかよく分からなかった。

 

「あの双子のアクアくんとルビーちゃんって本当はアイの子供なんじゃない? ミヤコさんは社長に命令されて、それを知っていてそのサポートをしていて、戸籍とかそういうのを整えて誤魔化そうとしてるんじゃない?」

 

 のどがカラカラに渇いていた。でも言わないといけない。

 

「アイ、本当は未成年後見人って事を利用されて斉藤社長の愛人にされてるんじゃないの? 愛人は事務所外なんて嘘で本当はアイが愛人にされているんじゃないの? それで、妊娠することになっちゃってるんじゃないかって私は……」

 

 そこまで言うと続きを言う前にアイの笑い声がした。

 

「えっ?」

 

「あははは、ニノ、相変わらず面白いなあ。私が佐藤社長とそういうことになるわけないじゃん」

 

 ケラケラと笑うアイは心底おかしそうにしていた。

 

「いや、だから斉藤ね。斉藤社長。って、えっ、えっ? 違うの?」

 

「ありえないよ」

 

 そう断言した。いつもの外向きの態度ではなくガチの否定だった。という事はあれ、全部私の被害妄想というか、ただの考えすぎって事? ついさっきまであった頭の熱が冷めていく気がした。

 

「ご、ごめん、ごめんね。なんか先走って変な妄想して。突っ走って。こんな風に呼び出しちゃって」

 

 私は顔を真っ赤にして謝罪するしかなかった。

 

「でも、嬉しいよ。ニノ、私の事、心配してくれたんでしょ?」

 

「本当にごめんなさい。今までアイのSOSを全部見逃していたから、今度は見逃してなるものか。みたいになって、熱くなっちゃって。周りが見えなくなって……」

 

「…………」

 

「本当に今更だよね。アイはさ。誰にも縋らず、奔放で、孤高で、強くて、後悔なんて一度もせずに生きてるみたいに見えて、私たちとは違うなあとか、私達の気持ちなんて分からないくらい強いんだと思ってたんだ」

 

 私はアイを理想のアイドルみたいに見ていた。アイの弱い所なんかを見ないふりをして。

 

「でも、今日のアイを見て思ったんだ。ああ、アイもあんな顔するんだって。アイだって、人を羨んだりもするんだって。そして思ったんだ。私はアイの事を追い詰めていたんだって」

 

 アイに対する態度は仲間にするようなものじゃなかった。酷い態度をとってもどこかアイならどうも感じないだろうみたいな感覚でいた。テレビの有名人に対するSNSの中傷みたいな感覚でやっていた。

 

「私たちはアイを傷つけてさ、そしてあなたからのSOSを受け取らなかった。このブログのことだけじゃない。アイのお母さんの話をしていた時も、アイはずっと苦しそうにしていたのに、弱音を吐いちゃうくらい追い詰められていた事なんて想像がついたのに私達はみんなアイのことを嫉妬したり、妬んだりして助けなかった。だから、謝りたかったの。力になりたかったの。ごめんなさい。私達は仲間だったのに、あなたを傷つけてばかりだった」

 

 言わなくて良いことまで言ってしまった。これはただ贖罪をして楽になりたいだけの私のわがままだった。いじめっ子がいじめられた子に謝ったから、今後はチャラな。みたいな感覚に近い。最悪だ。

 

「謝らなくていいよ。私のせいでもあるから、でも……もし出来るなら」

 

 そういうとアイは手を伸ばしてきた。

 

「私はニノちゃんと仲直りしてもう一度昔のように仲良くなりたいな」

 

「えっ?」

 

「本当はニノちゃんと仲直りしたかったんだ。でも迷惑かなって思って言えなかったんだ」

 

 都合のいい言葉だった。でもアイの昔のような笑顔を見て、断るなんて出来なかった。

 

「うん、私もアイと仲直りしたい」

 

 

 

 

 それから私達は少しずつだけど、会話も増えて、昔の思い出話、黒歴史のアイドル活動について話したり、双子ちゃんの可愛い写真を一緒に見て、感想を言い合ったりするようになったり、別に意味の無い雑談なんかをするようになった。

 

 アイの事は今でもうらやましいと思っているし、嫉みがないかと言われればある。でも隣にいるのは完璧なアイドルなんてものではなく、かなり天然で、不器用で、嘘つきな友達なんだと思うとどうでもよくなってしまうので、人間って不思議だった。

 

 そんな私達の様子を見て、話しかけてくるメンバーも居て、和気藹々なんてことはなくても、少しだけみんなが仲良くなったように感じた。

 

 

 




 B小町についてはよく分からない部分が多いのでほとんど妄想です。でもアイが幸せになるには双子との関係だけでなくて仕事面でも人間関係を改善したいなあと思って独自設定、独自解釈てんこ盛りな話を入れました。後見人とかあそこらへんどうなってるんでしょうね? 

 アイは子供の事は教えてないですし、会話を誘導して誤魔化しています。ニノちゃんは好感度がまだ足りないので要努力ですね。
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