推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第三話 裏 アクア②

 

 推しのために生きる

 

 

 転生して、アイとルビーと一緒に暮らすことで前世での俺は医者として失格だったんじゃないか。と、思うようになった。

 

 担当医をしていた頃に感じたアイはカラッとした明るい性格の女性だった。そして、約1年半、アイと一緒に過ごして分かったことは、その実はとても繊細で傷つきやすく、臆病な性格を隠すための擬態であるという事だった。

 

 アイは他人と接するとき、常日頃から演技をしている。嘘をついている。あまりにも自然すぎて、あまりにも日常的に溶け込み過ぎていて、長い時間一緒に生活をしないと気がつかなかった。

 

 気がついたのも、俺たちと話すときと他の人と話す時での微妙な違和感を感じ取って、その違和感の正体を探ろうと、アイとその周りの人の観察をし始めたからだった。そうでなければ、今でも気がつかなかっただろう。

 

 アイは発達障害を抱えていた。そしてそれは日々の生活で支障をきたすレベルであり、それを演技でカバーしている。それが性格であるかのように見せかけている。

 

 しばらく俺とルビーの名前を覚えられなかったように、斉藤社長の名前を覚えられなかったように、身近な人や深く関わりを持ったはずの人の名前や顔を覚えられない。これは自閉スペクトラム症では珍しくない症状だった。

 

 これが常人であれば、孤立して、仕事をなくしたりして、うつ病や不安障害などの他の精神疾患を併発していたかもしれない。だが、アイはアイドルとしての才能があり、そういうキャラのアイドルとして許されていた。

 

 自由奔放で明るくて、強くてみんなが憧れるアイドルなんてそこには居なかった。ただ、生きにくさを抱えながらも、懸命に生きる少女の姿があった。

 

 女性の自閉スペクトラム症の人は、独自に対処戦略を構築し、「普通のふりをする」傾向がある。そして、普通のふりをしつつも葛藤をより内面に向けやすいから、産後うつになる可能性も考慮しないとだし、養育不全に陥りやすい。妊娠期からケアプランの提示と社会福祉との連携をさせないと駄目だった。

 

 俺とルビーが子供であったから面倒事なんて普通の半分もなかったし、ミヤコさんが子育てをしていたから問題がなかっただけで、アイがシングルマザーとして普通に育てていたら、そういう未来だってあり得た。

 

 本当なら担当医である俺が気がつかなくてはいけなかった。妊婦で気をつけなければならない事の一つだろ。なんで気がつかなかった。

 

 彼女のファンだったからだ。そういう性格なんだと思い込んでいたからだ。彼女には輝かしい存在であってほしいと願っていたからだ。アイドルと母としての幸せを両立して欲しいという個人的な感情を持ち込んでしまった。

 

 なにが俺はこのために生まれてきたのかもしれないだ。

 

 ヤブ医者め。

 

 俺は今、アイが復帰直後に行っていたライブ配信のアーカイブを見ている。

 

 

 画面の中で母親が投げたグラスの破片が、白米の中に入っていた話をしており、その後からは見た事もないくらいに弱音をこぼしていた。

 

 愛着障害という言葉を思い出す。

 

 子供の頃に虐待などによって長期にわたってトラウマにさらされる事で、脳に変化が起きてしまい相互関係のないうつ病や不安障害、そして発達障害に繋がるケースも報告されている。

 

 俺は精神科医ではない。詳しい検査をしないと適切な対応も出来ないが、今、アイを医者に診せる事も難しい。

 

 俺がフォローしていくしかない。

 

 この時のようにアイが精神的に不安定になった事は俺の知る限りではない。とはいえ、これからならないとも限らない。そうならないように大人である俺が彼女を守らないといけない。

 

 シークバーを動かして彼女の発言を改めて聞く。これがアイの願いの根幹にあるのではないか。と思った。

 

「変な感じ。私あんまり自分の事、話すの得意じゃないし、変な事、言って嫌われるもイヤだし。でも別に自分の事話すのって嫌いじゃないんだよね、矛盾してるみたいだけど。知って欲しい。私の汚いところとか、やなところも全部ひっくるめて、それで良いって言って欲しい」

 

 嘘つきな彼女は素の自分を好いて欲しいと言う。彼女はそう言いながらもどんどん嘘を重ねている。嘘で塗り固めた姿しか見せない。それを愛だと言って、誰からも愛されるアイドルという仮面をかぶっている。

 

 これは素の自分は受け入れられないという不安から来るものなのではないかと思った。アイは幼少期に皆が当たり前に受けている母親からの無償の愛を受けずに育っている。

 

 それゆえにかつて貰えなかった無償の愛を求めているが、それを本当の自分では受けられないと思っている。本当の自分では愛されなかったという実体験ゆえにそう思ってしまう。だから本当の自分を愛して欲しいのに、嘘の自分を作っている。

 

 その結果が、今のアイなんだろう。

 

 嘘の自分が愛されても、自分が愛されるわけではないから、満たされない。嘘の自分だけが求められるから本当の感情を出せなくなる。人と接する時は愛されている嘘の自分を出す事が当たり前になる。

 

 それと似た人を俺は知っている。

 

 さりなちゃん。今は俺の妹になったルビーは前世では同じような状態であったと今更気がついた。

 

 俺はさりなちゃんの事を物わかりがよく、病気に向き合い、健気に生きるドルオタの少女として見てきたし、実際にそういう子に周りからも見られていた。

 

 だけど、俺の事を雨宮吾郎として認識せず、素に近いさりなちゃんに接してみて分かった。彼女は年相応のよく居る思春期の女の子だった。

 

 さりなちゃんも、年頃の女の子なら当たり前に持っている異性への嫌悪感をもっていた。彼女はもっと純粋であり、俺に懐いてくれていたのはそういった方面での知識や感性が長い病院生活で育っていないのではないか? と当時の俺は推察していたがそれは誤りだった。さりなちゃんは年齢より成熟しており、だからこそ、周りからどう見られるのかという事に敏感で、どうすれば人に好かれるのかという事を理解していた。

 

 さりなちゃんの場合、虐待ではない。しかし、物心が付く前から病気になっていた事で、両親から邪険にされていた。彼女が病院を転々としており、医療設備が整っていて会いやすい都心部ではなく、なにもない地方病院に居たことを考えると育児放棄に近い扱いを受けていた事は想像がつく。

 

 そんな彼女の生存戦略が「いい子でいる」事だったのだろう。周りから愛される、好かれる人物像として、素の自分では無く、わがままを言わない素直で明るい子の虚像をかぶっていた。

 

 死ぬ最後の最後まで……

 

 今のさりなちゃん、いや、ルビーは雨宮吾郎に対する態度と、今まで星野アクアマリンにしていた態度が混ざっている。

 

 以前は推しのアイドルの子供に転生したおっさんキモオタだから嫌われても良いから言えた事も、俺だと分かった時点で言えなくなった。だが、完全に以前に戻すようなこともしていない。嫌われるか嫌われないかどうかのラインを見定められている気がする。

 

 そんな今、俺が出来る事はさりなちゃんのどんな言動も受け入れる事だった。

 

 もちろん、傷つくような言動があれば、やめてくれと言うようにはするが、オーバーリアクションを取ってみたり、軽く仕返しの言動をしてみたりして、その後に無視をしたり、怒ったり、しかったりなどはしないように心がける。

 

 転生してルビーとなった彼女は、好かれたい、愛されたいという思いを持っているが、それ以上にありのままの自分の考えを受け入れて欲しいという欲求もある。

 

 良くも悪くも、俺もルビーもお互いに転生した事を知らなかった事で、ルビーが気がつくまで素でのコミュニケーションを取ってから、互いの素性を知れたのが良かった。

 

 ありのままの自分でも、受け入れられる経験を一人でも積めば、あとは次からより上手に上手くやろうとする。ルビーは今、まさにその真っ最中だ。

 

 俺はルビーの夢を応援し、ルビーの支えになることでルビーに「いい子」でなくても周りから受け入れられると分かって貰えるようにしてきた。もちろん前世で妹のように可愛がっていた子を応援したい、夢を掴んで欲しいという気持ちが強いが贖罪でもある。

 

 ルビーは死ぬまで、誰にも泣き言も怒りも言えず、「いい子」として死んでしまった。最後まで、ルビーに本当に寄り添えていたのかは分からないし、今でも彼女に聞けていない。

 

 でも、夢に向かって走る彼女は楽しそうで幸せそうで、ちょっと口が悪くて、偏見も多く、オタクっぽさも感じさせるがとにかく明るい素のルビーを見て、昔よりも好きになっている自分が居る。

 

 今度こそつらいときや苦しいときなんかには、その気持ちを言葉にして欲しいと思う。俺なんかが心の支えになるとは思えないが、出来るだけ力になってあげたいから。

 

 アイにもルビーのようになって欲しかった。

 

 アイの嘘に気がついて、本当のアイを愛してくれる人が現れてくれる事を祈りつつも、素の彼女を受け入れるように、素の自分を出しても良いと思える人になりたいと思う。アイはかつて思い描いたアイドルでは無かったけれど、俺とルビーに対して見せる愛情は本物で、彼女の優しさを日々感じている。

 

 アイは自分に自信がないようだけど、俺はテレビで見て、聞いただけのアイよりも、今、この瞬間のアイの方が好きになったのだから、自信を持って欲しいと思った。どんな過去を知っても、彼女がどんな考えを持っていたとしても、彼女を好きな気持ち、力になりたいという気持ちは変わらないと思うから。

 

 目の前にいるお昼寝をしている二人に掛け布団をかける。幸せそうに眠る彼女達を見て、この光景をずっと見守っていたいと思った。

 

 

 

 俺は二人の患者の心に寄り添えて居なかった。

 

 力不足で力になってあげられなかった。

 

 だから、前世では出来なかったことを今世でしよう。

 

 この器用なようで不器用な二人を支えよう。二人の未来が明るいものであるようにしよう。彼女達が愛を知り、幸せに生きていけるように。医者として、家族としてサポートしよう。

 

 

 そのために俺は生きていこう。

 

 





 アイは虐待からの愛着障害・ASD想定で書いてます。多分、多動性とか知的障害描写ないのとあかねの考察からASDの特徴が出てきているので。
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