インフィニット・ストラトス-Eyes Glazing Over-   作:REDALERT

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IS、しかも専用機と呼ばれるタイプにはある演出が設定されている。待機状態と呼ばれるアクセサリー状のISは登録された操縦者の意志に応じて、予め設定されている演出を経てその装甲を操縦者に装着させるのだ。これはISがスポーツであるという面を強調させる為に決められたもので、各国の専用機は皆派手であったり華麗であったりと様々な演出を行っている。

 

 

黒い渦から開放された黒百合は荷電粒子砲を左手に構えるとピットを飛び出し、山田と共にアリーナの内側を回っていた一夏にその頭部装甲のカメラ・アイを向けた。黒百合に近づいたところで山田が先に止まり、その後指示を受けて同じように止まった一夏の前で京介はずいと一歩踏み出して声を掛ける。見慣れぬISから京介の声が聞こえた為か、一夏は少し戸惑っていた。

 

 

「お前……京介か? 何でここに?」

 

「気が変わった。一々説明するのも面倒臭え、ISの操縦は身体で覚えろ。良いですよね、山田先生。指示は先生に出して頂きますから」

 

「えっ。あ、はい、それは良いんですけど……浦城君は何をするつもりなんですか?」

 

「何をって、ただ只管避けてもらうだけですよ」

 

 

そう言って京介が荷電粒子砲を構えれば、その厳つい獲物の砲門が一夏にはギラリと輝いて見えた。瞬間、閃光が瞬いたかと思えば一夏の腹部に鋭い衝撃が走り、装甲に包まれた彼の身体は大きく吹き飛ばされる。グルグルと視界が二転三転する中で、背中を思い切り地面にぶつけた一夏はそのまま全身を装甲越しに打ちつけながら地面に転がった。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「次」

 

 

何が起こったか理解する間も無く京介の言葉が耳朶を打つと、正面を向く一夏の視界に再び閃光が瞬く。今度は顔面をハンマーで殴ったような衝撃に身体を吹き飛ばされ、もんどりうった一夏は再び後方へと吹き飛ばされた。

 

 

「次」

 

 

再び響く怒声、身体に走る衝撃。一夏の身体は何度も荷電粒子砲のビームの直撃を喰らい、アリーナの一番端まで追い込まれた。京介の操る黒百合は相変わらず荷電粒子砲を一夏に向けたまま、地面に立っている。その隣に立つ山田が何かしらの注意を行っているようだったが、京介は全く聞いている素振りを見せない。痛む身体に耐えながら一夏が立ち上がると、頭部ハイパーセンサーを通じて京介の顔が視界に表示された。

 

 

「まだ生きてるか? 織斑」

 

「生きてる……けどっ……いきなり何するんだよ!」

 

「実際のIS同士の戦闘ってのはこれよりもっと速く多方向から実弾やらビームやら飛んでくるんだ。場合によっては近接ブレードや拳だって直接叩き込まれるんだぞ、それを避けれるようにならなきゃ話にならないんだ」

 

「だから俺を一方的に撃ちつけて避け方を覚えろって……?」

 

「そうだ」

 

 

返事をすると同時に京介の顔が視界から消えると、打鉄のハイパーセンサーが再び黒百合が自分をロックオンしてきたことに警報を鳴らした。すぐに一夏は攻撃を避けようと身体を動かすも、その身体は一夏の予想を遥かに超えて大きく横に飛んだ。

 

 

「あっ------」

 

 

急加速によりアリーナの壁に突っ込んだ一夏の身体は大きく跳ね、そこへ更に京介の追い打ちを示す警報が鳴ると、一夏は続けて身体を大きく反らした。それだけで打鉄は再び大きくその身体を動かし、一夏の身体は上空へと飛び上がる。

 

 

(動きが派手過ぎて……身体が制御出来ない!? っと、初めてISに触れた時の感覚を------)

 

 

目の前に京介から放たれたビームがアドレナリンの影響かゆっくりと迫ってくるのを目の当たりにした時、一夏はフッと息を短く吐くと僅かに状態を反らしてその光条を避けた。続けてやってきたビームも必要最低限の動きで避けるも、一発だけ時間差で放たれていたビームが直撃。山田と京介の前で一夏の打鉄がゆっくりと墜落していく。だがその二人の前で一夏は器用にスラスターを噴かすと、体勢を立て直し地面に着地した。

 

 

(……やるじゃねえか)

 

 

思考を途中で切り上げた京介は荷電粒子砲を持ち変えると、その刃を大きく振り上げて一夏へと吶喊した。それを見た一夏は咄嗟に右手に打鉄用の近接ブレードを展開すると、振り下ろされた刃を受け止める。強い衝撃に身体が下がるも、一夏は両手でしっかりと柄を握りこんで京介の刃を弾いた。がら空きになった京介の胴体目掛け一夏がブレードを振るうも、ブレードを握る手そのものを京介は咄嗟に踏みつける。

 

 

打鉄の指が僅かに拉げる光景が視界に入り込むと、一夏は自分でも驚く程に冷静に刃を動かすルートを考えていた。幼少期より始めていた剣道、それにより培われた技術は様々な事情から止めてしまっている今でも彼の中に残っている。一夏はグッと身を沈めると、京介の足が自分の手の上から離れたと同時に鋭く腕を振るい------大きくブレードの斬撃を外した。

 

 

「えっ!?」

 

 

ハッとして周囲を目視で確認するも京介の姿は無く、打鉄のハイパーセンサーが上空からの危険を知らせた時には既に一夏の頭部に黒百合の爪先がめり込んでいた。ヘッドセット状のハイパーセンサーにヒビが入り砕けて行く音を耳元で鳴らされながら吹き飛んだ一夏は、すぐに自分のミスに気がついていた。いくら剣道でブレードによる近接戦闘に応用出来る技術を発揮出来たとしても、複雑な三次元的機動が可能なIS同士の戦闘では所詮に地に足をつけて戦う方法では通用しないのだということを。

 

 

それでもまだ完全には機能を失っていないハイパーセンサーから送られてくる膨大な情報から取捨選択されたものを頼りに、一夏はブレードを構えて京介と何度も刃をぶつけ合った。その成長速度は凄まじく、二人の戦闘を遠くからボンヤリと見ていることしか出来なかった山田は、一人小さく呟くことしか出来なかった。

 

 

「えーと……、私はどうしたら良いんですか……?」

 

 

 

 

 

一時間が或いはそれ以上か、装甲の80%以上を損失した打鉄の装甲が粒子と消えた時、一夏はがっくりと膝から崩れ落ちた。息は上がり、肩を大きく揺らしている一夏。そんな彼を見下ろしていた京介は黒百合の頭部ヘルメットを外すと、それを適当に地面に投げ捨てる。連動して頭部ヘルメットと全身の装甲が黒い粒子を消えて左手に腕時計型の待機形態を形成すると、黒いISスーツ姿の京介は一夏の腕を掴んで無理矢理立たせた。顔面に玉のような汗を流す一夏の顔を見ながら京介が手を離すと、一夏は再び項垂れて手を膝に乗せる。

 

 

「思ってたよりやるじゃん、お前」

 

 

返事すらままならない一夏に一方的にそう声を掛けると、京介は一度だけ彼の背中を軽く叩き、タオルだの水だのとあたふたしている山田に一声掛けてからその場を後にしたのだった。

 

 

 

------一夏のとの()()を終えて着替え終わった京介の前に現れたのは、ピットで篠原と共にその様子を見ていたセシリアだった。アリーナのロッカールームから外へと繋がる通路の途中にある自動販売機の傍に立っていた彼女は、京介の姿を見つけるや否や持っていたペットボトルを彼に向かって投げつける。宙を舞うそれを見つめながら京介が器用に片手でキャッチすると、青いラベルが眩しい清涼飲料水だった。

 

 

「……珍しいもんだな、奢りってことでいいのかい」

 

 

「ええ、遠慮なくどうぞ」

 

 

ペットボトルのキャップを捻りながらセシリアの目の前まで歩くと、京介はその中身を飲みながら彼女の顔を一瞥した。不敵というか自信満々と言うような表情のセシリアは、ジッと清涼飲料水を飲む京介の顔を見つめている。何処と無く居心地の悪さを感じた京介は呑み口から口を離すとキャップを締め、気味の悪そうな顔をして彼女の顔を見返す。そうして彼女は京介の意図が分かったのかやや大げさに手を振ってみせ、肩を竦めて見せた。

 

 

「特に何があるという訳ではありませんわ。ただの御礼代わりですの」

 

「礼?」

 

「織斑一夏の実力の程を見せていただいた礼ですわ。やはりどうして、あの程度の実力では私が本気を出すまでもありませんわねぇ。貴方も勿論、本気を出して相手をしていた訳ではないでしょう?」

 

 

本気、セシリアから放たれたその単語に京介は僅かに反応する素振りを見せると、彼はそのまま歩きながらセシリアへの返事を行った。その語尾は、少しばかりの怒気を孕んでいる。

 

 

「……最初の方で俺がアイツの頭を思い切り蹴り飛ばしたとこ、あったろ」

 

「え、ええ」

 

「あの時だけは、本気だった。あの時だけの一夏は本気を出す価値が十分にあったんだよ」

 

「偶然ではなくて?」

 

「偶然ならあそこまで叩き潰したりしない。……()()()()()()()()だけはあるって認識は、お前も持っておいて良いだろうよ」

 

「御忠告感謝致しますわ。ですが……()()()()()()()である貴方の言う言葉ですから、分かりますわね?」

 

「知らないね」

 

 

互いにイライラした様子で別れると、京介は気だるげに欠伸をし、セシリアはつまらなさそうに壁に背中を預ける。結局の所、二人の間にはこれといった仲が深まることはなかった。そして件の織斑一夏の下に専用機【白式】が届けられたのは、それから三日後の事なのであった。

 

 

 

 

 

【白式】、日本国内にて敷島研究所と双璧を成す倉持研究所から織斑一夏のデータ収集用機として開発されたこの機体は、専用の近接用ブレード以外の装備が一切不可能という出鱈目なものであった。射撃管制に必要な一切のシステムを排除し純粋な操縦能力を求められるこのISは、確かにある意味一夏にとってはうってつけの機体と言えた。単純な操縦能力が足りていないのならば、()()()()を求められる機体で鍛えれば良い。代表候補生相手に近接戦を挑むというだけで笑い話にはなるが、そもそも素人な時点で敗北の事実は変わらない。どんな機体であろうが織斑一夏はセシリア・オルコットに敗北する、そんな周囲の視線を他所に精一杯だったのはその織斑一夏当人だった。白式が届いた日には山田と共に機体設定を一から調整し直し、第一次移行(ファースト・シフト)と呼ばれる操縦者登録による機体の最適化を早々に完了させたのだ。

 

 

弱ければ弱いらしく、せめて今の自分に出来る最大限の事を、それが一夏の心情であった。京介に半ば無理矢理付き合わされた形で行った軽い戦闘、その時の自身のやられ具合に頭では分かっていても身体が震えてしまった一夏は、ただ只管山田によるレクチャーを受けてありとあらゆる戦闘軌道を身体に叩き込んだ。只一太刀を浴びせる為に、只一筋の傷を与える為に。織斑千冬、浦城京介、セシリア・オルコット、篠原、一夏に関わる彼彼女らはそのひたむきな姿を見ながら、微笑み、笑い、呆れ、そして心を振るわせた。

 

 

そんな中京介が寮の廊下でセシリアと遭遇したのは、金曜日の晩のことだった。セシリアが指定した勝負の日を明日に控えた彼女の何処か緊張した顔に、京介は少しだけ笑みを零した。その笑みに反応してセシリアが表情を強張らせると、京介は肩を竦めながらその隣へと並ぶ。

 

 

「何だ、緊張してるのか?」

 

「……貴方には関係無いですわ」

 

「分かってるよ、訊いてみただけさ」

 

 

そう言って京介がズボンのポケットから携帯端末を取り出してその画面に視線を落とすと、暫くしてからセシリアがわざとらしくため息を零した。それを聞いた京介が画面を見つめたまま鼻を鳴らすと、セシリアは再び大きなため息を零してみせた。

 

 

「……ええ、ええ、貴方の言う通りですわ。このセシリア・オルコット、恥ずかしくも素人相手の勝負を前に緊張しています」

 

「そりゃまたどうして」

 

「私にも分かりませんわ。ただ……そう、何となく、何となくですの」

 

 

何となく、その言葉がセシリアの口から出た途端京介は大声で笑い掛け------そしてもう就寝時間が近いことに気付き------止めた。代わりの軽い咳払いをこなしつつ、京介は端末の電源を切ると再びポケットに入れ壁に背を預けてセシリアに向き直った。

 

 

「何となくか。そりゃあアイツが専用機を貰ったって言うのが影響してるのか?」

 

「訓練機より劣るかもしれない装備の機体など……」

 

「けど、織斑が白式に乗って訓練を始めてから急激に動きが良くなっているのは確かだろう。先生の教え方も良いにしても、織斑自身が何かあるのは……そう思ってるんじゃないのか」

 

「彼自身が……何か、それはそうですが……私にも分かりませんわ」

 

「なら何も考えなくて良いじゃないか。あれだけエリート風吹かせてたお前が素人相手に緊張してるなんて、お笑いだ」

 

「ならお笑いになればよろしいでしょう?」

 

「廊下に響く」

 

 

それだけ言うと京介は口元に手を当てて欠伸をかみ殺しながら壁から離れ、セシリアに背中越しに手を振りながら自分の部屋へと戻って行った。その姿に今の自分の悩みが馬鹿らしくなったのか、セシリアもまた頭を振りながら自らの部屋へと戻って行く。そしてその耳から下がる蒼く小さな水晶が、窓から差し込む月明かりに映えていたのだった。

 

 

 

翌朝、セシリアと一夏の勝負が行われる第一アリーナの観客席は何処からか話が流れたのかクラスメイト以外の野次馬達の姿が多くあった。それを遠くから見つめる京介の姿はピットの中に、その目の前には操縦者を待つ胴体部の開いた白式と一夏の姿。周囲には織斑千冬や山田、篠原の姿もある。白い特注のISスーツに身を包んだ一夏はというと、床に座り込んで念入りに柔軟を行っていた。その目は真っ直ぐで、迷いが無く、緊張していて、尚且つ------輝いている。

 

 

一夏が柔軟を終えたと同時に、アリーナの観客席がワッと盛り上がる。一同の視線が動けば、そこには蒼い装甲を身に纏い優雅にアリーナ内を舞うセシリアの姿があった。流線型のパーツが続くスカートに日の光が反射し、一夏は僅かに顔をしかめる。それから彼は周囲にいる人物の顔を一瞥すると、ゆっくりと白式の装甲に手を掛けて脚部装甲にその両足を突っ込んだ。操縦者が入り込んだのを感知した白式の装甲が稼動すると、一夏は脚部に固定されていた腕部装甲がせり上がると同時に自身の腕を突っ込む。それから腕部脚部の装甲が身体に固定され、一夏の頭部にバイザー状のハイパーセンサーが白い粒子と共に展開された。スラスターユニットが起動すると同時にPICにより浮かび上がり、一夏の視線を受けたマニピュレーターが一本ずつ正確に動いて行く。そして一夏の右手に白い粒子と共に一振りの太刀が握られると、京介の左手首に付けられた待機状態の黒百合が反応した。白式の準備が完了し、システムが全てオンラインになったのだ。

 

 

「織斑、勝敗については何も考えるな。お前はただ、この一週間で得た事を実践するだけで良い」

 

「分かってるよ、千冬ね……織斑先生。本当は俺、こんな勝負なんかしたくなかったけど、今はその……凄いワクワクしてるんだ。京介にやられた時はただ辛くて苦しかったけど、それがこれから先ずっと続くなんて嫌だしさ。そう思ったら、あの時の辛さなんて何でもないんだ。だから俺、精一杯楽しんでくる」

 

「……なら良い、全力でやってみせろ」

 

 

一夏は正面を見据えたまま小さく頷くと、京介とその隣に立つ篠原へと視線を向ける。腕組をする京介と指をモジモジとさせている二人の目の色は正反対で、一夏はまず京介に声を掛けた。

 

 

「見ててくれよ、京介。どれだけやれるか分からないけど、俺の成長具合をさ」

 

「……ああ、見といてやるよ。ボコボコにされてこい」

 

「はははっ。……ありがとうな、京介。それと……箒も」

 

 

箒、そう呼ばれた篠原が身体を大きくビクつかせると、一夏はピットの加速用カタパルトに白式の脚部を固定した。本来PICによってISはカタパルトが無くとも十分な加速を自ら生み出す事が出来るが、まだ機体制御になれていない操縦者の為に過剰な初速を出させない為にカタパルトを用いて安定した速度でアリーナへと出させるのだ。リニアモーターによる電磁式カタパルトに接続された白式はプログラムによって自動的に膝を曲げて前屈みの状態となり、京介達はピット上の観戦スペースに移動した。カタパルト周辺に誰も居ないのを改めて確認してから、一夏はアリーナ内にて飛行しているセシリアの姿をジッと見据える。

 

 

「……よし、行くぞ白式!」

 

 

掛け声と同時に白式ごと一夏の身体はカタパルトで射出され、白亜のISはアリーナに初陣へと飛び出した。

 

 

 

 

「言葉はいりませんわ! 良いですわね!」

 

 

アリーナへ飛び出した一夏にセシリアが掛けた言葉は、挑発でも何でもなかった。既に自身の獲物であるエネルギーライフル、【スターライトMk-Ⅲ】を右手に持っているセシリアは、一振りの太刀を持っている一夏へとその銃口を向けている。

 

 

「ああ! 望むところだ!」

 

 

対する一夏も威勢良く言葉を返すと、互いのその視界にハイパーセンサーから送られてくる相手のISに関する情報が小さなウィンドウとして表示されていく。セシリアには一夏の白式が、一夏にはセシリアのブルー・ティアーズが。

 

 

(遠距離射撃型のIS……普通にやっても勝ち目なんてない。なら少しでも近づいて------!)

 

 

柄を深く握り込む一夏の拡大映像をハイパーセンサーから見たセシリアもまた、一メートルを越す自身の獲物のグリップを握り締め、空いている左手を添えた。ISコアが操縦者の思考に追従して反応すると同時に膨大な電力が発電され、Eライフル内に膨大なエネルギーを発生させる。それはプラズマ粒子を圧縮させて磁界で包み込み、スターライトMk-Ⅲの銃口から一筋の閃光として放たれる。一夏の初の実戦は、自身の腹部を焼くような鋭い衝撃に弾き飛ばされることによって始まったのだった。

 

 

「ッ------!」

 

 

衝撃に吹き飛ばされ上下が反転する一夏目掛けて、セシリアは続けて第二第三とプラズマ粒子の塊を放つ。耳朶を打つ警報に意識を引き戻された一夏は自身の状態も考えずにスラスターを噴かすと、白式は一気に地面に向けて加速していった。当然、一夏は頭から地面に激突するもののスラスターの噴射は止まらずに、白式は大きくアリーナの地面を削りつつも、一度地面から跳ね上がってから地上スレスレを滑走していく。一夏が目を開いたのは、付近に自身を狙うセシリアの攻撃による振動が届いた時だった。開けた視界に映るのは、土煙の上がる地面だけ。

 

 

「地面!? 俺、何処に飛んで------うぐっ!?」

 

 

ハイパーセンサーからの情報を確認する前にアリーナの内壁まで到達した一夏は、そのまま壁に全身を打ちつけながら上昇した。足が上で頭が下という格好で。

 

 

「俺……下に飛んでるのか!?」

 

 

混乱し続ける脳を何とか稼動させようと、一夏は思い切り内壁を蹴り上げて大きく跳び上がった。スラスターの出力を調整し、機体を安定させる。だがその直後、その背中をセシリアのスターライトMk-Ⅲが射抜いた。

 

 

「貴方の下手糞なサーカスに無償で付き合っている訳ではありませんのよ!」

 

 

スラスターの黒煙越しに見えるブルー・ティアーズとセシリア・オルコットの姿に、一夏は強く柄を握り締めていた右手の力を少しだけ抜いた。刹那、白式が警報音を鳴らすと同時に大きく右へと飛んだ一夏は、セシリアからの射撃を潜り抜けるようにして一気に加速する。銃口の向きから導かれる射線をセンサーで計算し、直感で動く。そうして出来た回避行動に、一夏は驚きよりも喜びを感じていた。初めは散々だったが、少しずつ練習の成果を出せてきている気がするからだ。

 

 

(せめて……一太刀!)

 

 

調子の上がらないスラスターによる加速、その先にいるセシリアに一撃を加えるべく、一夏は柄を握り込む。既にスターライトMk-Ⅲでは対応し難い距離に入り込んでいる。後は腕を振るえば------当たるかもしれないはずだった。上から思い切り振るわれた一夏の太刀を受け止めたのは、何とそのスターライトMk-Ⅲ自身だった。銃身部を横に向け、セシリアは涼しい表情で一夏の攻撃を受け止めている。その腰のスカートから()()が外れたのと、一夏がその()()の突撃を喰らったのはほぼ同時だった。

 

 

「ッ!?」

 

 

腹部の衝撃に耐えながらも視線はセシリアから外さなかった一夏の視界に飛び込んできたのは、ブルー・ティアーズのスカートから外れて宙に浮く、六基の蒼いフィンのようなパーツだった。それらは後部の小さなスラスターを噴かしながら、それぞれが独自の動きをしながらセシリアの周囲を飛び回っている。その先端には小さな穴------それが砲門だと気付くには遅く------そこから一斉に放たれたプラズマの塊が、白式の装甲を焼く。そして攻撃を受け後退する一夏を更に追撃するその六基のフィン・パーツは、グーンッと一気に加速するや否や一斉に一夏の背後へと回り込んだ。

 

 

「ッ、やば------」

 

 

言うが遅く、再び背部スラスターにプラズマの直撃を受けた一夏の身体は逃げた方向へと押し返され、そこで待っていたのは銃身に傷の入ったスターライトMk-Ⅲを構えるセシリアの姿。

 

 

「チェック・メイトですわ。織斑一夏さん」

 

 

そう冷たく言い放つセシリアの表情を見た一夏の目には、ハイパーセンサーがISのシールドバリアーの残量低下と各部損傷を示す警告も同時に映し出されている。撃たれれば負ける、その単純な事実だけが一夏の脳裏に浮かび上がる。一太刀も浴びせる事が出来ずに敗北する、それだけなら最初から頭の隅にあった。しかし実際のところ繰り出せたのは防がれた一発だけ、大したダメージにもなってはいない。それが一夏には、たまらなく悔しかった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

【管理者からのシステム開放許可を確認。各プロテクト解除、第一次形態移行の完了を確認。操縦者情報をアップデート、機体状況診断------損傷度C。装備の最適化を提案------許可。エネルギー分配率平均化------成功。近接ブレード保護機能を解除、リミッター開放、エネルギー充電120%、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)開放、プログラム名変更要請------変更許可。今後近接ブレードを専用装備《雪片弐型》と呼称。全ての工程を終了しました、管理者からのメッセージを表示します。------Sit back, relax, and enjoy your flight.】

 

 

 

突如視界に浮かび上がる謎の文字列、セシリアのトリガーを引くマニピュレーターの動き、観客席から聞こえる小さな歓声、自身の早まる心臓の鼓動、その全てが一夏の中でゆっくりと減速していく。アドレナリンが分泌された時のような光景の中で、一夏の右手に握られた太刀もまたゆっくりと輝きだした。刃が上下に分かれた後柄に向けてスライド後退したかと思えば、開いた刃の間から一筋の光刃が溢れ出す。そしてセシリアがトリガーを引き切った時、その銃口の先に一夏の姿は無かった。

 

 

「なっ------」

 

 

ブルー・ティアーズのセンサーが警報を鳴らした時には、既にセシリアは己の直感に従い全てのフィン・パーツ------ブルー・ティアーズだけに搭載された専用E装備《Bluetears(ブルー・ティアーズ) Innovation Trial(革新型試作機)》------B.I.T.の砲門をそれぞれ全方向に向けてプラズマの塊を放っていた。だが直後、セシリアの頭上に陣取っていた二基のB.I.T.が一瞬にして同時に破壊される。警告を示すブルー・ティアーズに従いセシリアがプラズマを乱射させながら一気に後退すると、B.I.T.を破壊した()()が姿を現す。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!!」

 

 

光り輝く刃を武器に雄たけびを上げる一夏の姿に、セシリアは額に嫌な汗が流れるのを感じた。突然の謎の動き、そしてB.I.T.を破壊されたことで彼女は頭に血が昇るのを押さえている。考えの追いつかない出来事に混乱してはいるが、それでも彼女は英国の顔となる次期代表候補生なのである。ギリギリまで温存していた隠し玉------その割には敗北直前までスラスター等に致命的なダメージを漫然と受け続けていた------事実から目を背けつつも、セシリアはスターライトMk-Ⅲを乱射しつつB.I.T.をスカートに戻しエネルギーの充電を行う。いくら高威力の武器を持っていたとしても所詮は近接装備、近づかれなければどうということはない。

 

 

(それにこちらにもまだ……奥の手はありますのよ!)

 

 

繰り出される斬撃をギリギリで回避してみせると、セシリアはそのまま捻りこみの要領で一夏の背後に回りそのまま一気にスラスターを噴かした。獲物を狙う一夏が振り向いた時点では既にセシリアは充電は不十分なものの再び残ったB.I.T.を射出しており、更に二基のB.I.T.が追加されている。六基のB.I.T.はその砲門から光条を放つことは無く、ただ不規則に動きながら一夏へと向かって行った。セシリアの奥の手、それはプラズマ粒子砲内蔵型ではなく、B.I.T.と同じ形をした通常の対空ミサイルだ。通常のB.I.T.に混ぜ、直撃を加えれば損傷具合からして白式はエネルギー切れを起して機能停止するだろう。そうすればセシリアの勝ちだ。

 

 

だが一夏は素人では決して不可能なプラズマの光条による網目のような射撃を避け、更に二基のミサイルB.I.T.すらも斬り捨ててみせた。ミサイルの爆煙を背後に光刃を握りなおす一夏の姿に観客席が沸き立つと、セシリアはその自らの耳朶を打つ歓声を掻き消すかのようにスターライトMk-Ⅲを構えなおす。だがトリガーを引こうとした瞬間、ブルー・ティアーズのハイパーセンサーが射撃を取りやめる警告を発した。

 

 

「っ……あの時の傷が!」

 

 

最初に受け止めた一夏の一振り、その時に生じた銃身の傷が今になって銃本体に影響を及ぼし始めたのだ。怒りを隠す素振りもせずに舌打ちをしたセシリアは、スターライトMk-Ⅲを投げ捨てると、この戦いで使うことはないだろうと思っていた武装を展開する。

 

 

「インターセプター!」

 

 

その掛け声と共にセシリアの右手に灰色の長剣が握られると、彼女はそのまま刃を振るい頭上から迫っていた一夏の光刃を受け止めた。磁場による反発に腕を持っていかれそうになりながらも、セシリアは左手でも柄を握ると思い切り剣を前へと押し出していく。

 

 

「うおおおおおおおおおおッ!」

 

 

「はああああああああああッ!」

 

 

 

雄たけびを上げる一夏の顔を睨みつけながら、またセシリアも雄たけびを上げた。有り得ない、こんな素人だったはずの相手に追い込まれるなどと。そんな強い屈辱に後押しされたセシリアの剣は一夏の光刃を押し返し、そしてその背後に残ったB.I.T.四基を結集させた。このまま四つの砲門が火を噴けば白式は行動不能になる、そうすればこの茶番は終わり自分は勝者となる。

 

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

 

随分苦い勝利もあったものだとセシリアが若干の落ち着きを取り戻し始めた時、そして同時にB.I.T.がいざ最期の攻撃を行おうとした時、突如一夏の持っていた太刀から輝きが失われて行った。見る見る内に光刃は小さくなっていき、遂には柄とスライドして展開したままの元々刃だった部分だけが残ってしまっている。困惑する一夏とセシリアだったが、次の瞬間アリーナ内に響き渡ったブザー音によってすぐさま現実へと引き摺り下ろされた。

 

 

「これは……」

 

 

アリーナの大きな電光掲示板に表示されていたもの、それは織斑一夏のエネルギー切れによる敗北を知らせるものだった。

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