インフィニット・ストラトス-Eyes Glazing Over- 作:REDALERT
六月の頭、IS学園の食堂では何時ものように多くの生徒が選択式の定食から思い思いのものを選んでテーブルを囲んでいた。食堂中央には天井から吊るされたモニター四基が四方向にそれぞれ向けられており、何時も朝のニュースを英語字幕付きで放送している。しかし生徒のほぼ全員が十代の女子生徒ということもあり、基本的にモニターが注目されるといことはない。だというのに今日に限っては、皆食い入るようにそのモニターに注目していた。
「みんな何見てるんだ? 誰か亡くなったりでもしたのか?」
「さあ、知らない。お、居た居た、セシリアー」
食堂へ連れ立ってやって来た一夏と鈴はその様子に一度は注目するも、すぐに視線を動かして既にテーブルに着いていたセシリアの姿を見つける。その隣では、既に食べ終えたのか丼二杯に空皿三皿をおぼんに重ねている京介の姿もあった。反対側には箒の姿もあり、こちらは器用に食べ終わった焼き魚の骨を皿の隅に集めている。
「鈴さん、織斑さんも。遅かったですわね」
「一夏の特訓に思いのほか熱が入っちゃってねー、で、あれ何の騒ぎなの?」
「ISに関してフランス政府から何やら重大発表があるそうだ。何でもラファールを開発したデュノア社が大きな発見をしたらしい、ほら、始まったようだぞ」
一層ざわついたギャラリーに釣られるように一同がモニターへ注目すると、会見場のような場所で初老の男性が正に口を開こうとしているところが映し出されていた。男性の隣には、長い金髪を後ろで一房にまとめた少年とも少女とも取れる歳若い人物が並んでいる。既に何かしら語り続けていたのか、男の額には若干の汗が浮かんでいた。
《------これまで我がデュノア社では、ISが女性にしか反応しない原因を研究してきました。現在ではイチカ・オリムラ、キョウスケ・ウラキといった例外も出現し、そして今回、我々は実験の結果
男性の紹介と共に、シャルル・デュノアと呼ばれた少年は首から提げていた琥珀のような色をしたペンダントを掲げてみせる。そして次の瞬間、橙色の光と共にその身体が同じ色をした装甲に包まれていった。モニターの奥に居たマスコミは一斉にどよめき、そしてその姿を写真に、映像に収め始める。同時に食堂に居た生徒達も一斉に騒ぎ出し、京介やセシリアの視線もモニターに釘付けになった。
「今、三人目の男性とおっしゃいました……?」
「俺達の耳が腐ってなけりゃあな。ちょっと席外すぞ」
セシリアの独り言のような問いに答えつつ、京介は携帯端末を取り出しながら席を立った。食堂の出入り口へ向かいながら連絡先の中からある名前を選び、通話を掛ける。ワンコールも経たないうちに通話は繋がり、京介は周囲の人間が皆モニターに注目しているのを確認してから食堂を出た。
「レッシィ、俺だ。姉さんに内密で頼みたいことがある」
《既に調査を開始しています。デュノア社の三人目の男性とされる存在についてですね》
「助かる。一先ず、日本時間の今日正午までにデータを送信してくれ」
《御意》
昔宛がわれた世話役の女性との通話を終えると同時に、京介は廊下の向こうからこちらへやって来る千冬の姿を見た。携帯端末をポケットに押し込み、京介は相手の視線が自身に向けられるのを見る。
「フランス政府の発表は聞いたか?」
「ISを展開するところまでは」
開口一番問い掛けてきた千冬に京介が答えると、彼女はそうかと短く反応し、腕を組んで言葉を続けた。
「シャルル・デュノアという少年がISを起動させた、IS国際委員会による公表前の事前身体検査でも男性であると確認されている。・・・・・・表向きはな」
「随分胡散臭い言い方をするんですね」
「お前には隠しても仕方がないから言うが、シャルル・デュノアに関する情報が無さ過ぎる。公開されている情報以外で、という意味だが」
「実は女、とか」
「態々姿形をそっくりにした男を用意してまで嘘を公表する理由が何処にある? デュノア社はラファール・リヴァイヴの生産で一定の利益を上げている。確かにイゾルデ社や他の企業と比べて第三世代の開発には難儀しているようだがな」
「まあ確かに、企業としての注目を集めるにはISを起動出来る男ってのは良い宣伝材料になるでしょうけど。ばれた時のリスクが大き過ぎるんじゃないです?」
「それに
「そもそも俺が乗れる理由は全うなモンじゃないですし、織斑に関してはどうなんです。何か理由があるのか、それとも何も理由が無いのか」
「……」
「だんまりですか。言いたくないなら別に無理に聞こうって訳じゃないですけど」
「すまない」
「別に良いですよ。姉さんにも色々言われてるのに、当事者にまで文句言われちゃ先生もやってられませんもんね」
「厭味か?」
「よくご存知で。……それで、これからどうするんです?」
「……シャルル・デュノアは明日、この学園に転入する。お前と一夏は奴を出迎え、午後の合同実習時にチームを組んでもらう」
「部屋割りはどうするんです? 俺は企業代表だから一人部屋ですけど、一夏と同室とか」
「それは無いな。シャルル・デュノアも肩書き上はフランス国家兼デュノア社専属の代表候補生だ。割り当てられる部屋は個人部屋になる、最もお前か一夏のどちらかの部屋の近くにはなると思うが」
「俺の方は勘弁してくださいよ。面倒事に巻き込まれたくないんで」
「お前が回避しても、一夏が巻き込みにくるだろうさ。兎も角、もしシャルル・デュノアに対してお前が何か情報を掴んだとしても、不用意に口外するな。いいな」
「そんな事は言われなくても分かってますよ。まあ、織斑先生には内密に伝えるかもしれませんが」
「それならそれで別に良い。後はオルコットや凰、篠ノ之にも変に悟られるなよ」
「了解。じゃあそろそろ、教室に行くんで」
「ああ」
そう言って京介が千冬の隣をゆっくりと通り過ぎると、少し距離が離れてから、千冬は京介を呼び止めた。呼び止められた少年は少しだけ身を捻って視線を女教師へと向けると、彼女は彼に静かに言葉を投げつける。
「校内での携帯の使用は校則違反だ」と。
少年は肩を竦めて見せると、再びゆっくりと歩き出すのだった。
朝に行われたデュノア社の発表による騒動が最も高まる昼休憩、一組の教室でも至る所で携帯で調べた情報を交換し合っている。二組から顔を出した鈴も一夏や箒と話し合っていた。そんな中で京介は一人、教室の隅で時間通りに送られてきたシャルル・デュノアに関する情報を携帯で閲覧している。出生地、身長及び体重に血液型、出身校から何まで厳密に記載されているそのデータを流し見しながらも、京介は自身の中にある違和感を拭えないでいた。
「何を難しそうなお顔をしていますの?」
そんな京介に近づいて来たセシリアに、彼は端末に表示されていたデータを消してポケットに押し込んだ。
「別に。明日フランス人を迎えに行くのが面倒なだけだ」
「またそんな事を」
「……胡散臭いんだよ、こいつ」
ため息を吐きながら教室の中を見回すと、京介はセシリアだけに聞こえるように声量を落として話し出した。
「ISに乗れる男性を生み出したなんざ言ってるがよ、それを実際どうやったかなんてのはノータッチだ。何かしらの実験か、或いは虚偽の存在か知りたくもねえが……あのシャルル・デュノアを俺は好意的な目で見れない」
「もしかするとこのクラスに転入されるかも知れませんものね。京介さんや織斑さんはどうしても関わらざるを得ないでしょうし……けど、もしかしたらということもあるのでは?」
「そうだったらそうでまた距離を取るさ」
「取り付く島も無いんですのね。相手が歩み寄ろうとしても拒絶する気ですの?」
「ああ、引き寄せた覚えも無いからな。お前くらい信用出来るなら、構わねえんだけどよ」
「あら、思っていたより好印象ですのね。私」
「ああ、お前みたいな奴は好きだぜ」
「なっ!」
「冗談」
顔を赤くして踵を返すセシリアを尻目に、京介はスッと視線を窓の向こうへと向ける。いつの間にか曇っていた空模様がまるで自身の心を代弁しているかのようで、京介はすぐに視線を自らの手元へと落とすのだった。
翌日、京介は千冬、一夏と共に空港のロビーに立っていた。周囲には三人目の男子を一目収めようとマスコミ関係者が多数詰め掛けており、空港警備員が壁となってその侵入を防いでいる。マスコミには事前に何かしらの話が通っているのか、京介達三人を無遠慮に撮影している様子は見られなかった。
「……そろそろ時間だな」
腕時計が待機状態の黒百合で時刻を確認し、京介はそう一人呟く。背後の噴水の水の音や物珍しげに二階や三階の吹き抜けから見下ろしてくる一般利用客のざわめきを耳にしながら、大きな自動ドアのガラスの向こうからやってくる集団をジッと見つめ、京介は両手をズボンの両ポケットに押し込んだ。
「初めまして。シャルル・デュノアと言います」
「ようこそ日本へ。織斑千冬だ」
千冬がしっかりとその手を握り返した時、タガが外れたかのようにマスコミが一斉にフラッシュを焚く。横殴りにやってくるその光を避けるように京介が視線を上の階へと向けると、ある男と目が合った。正確には、合ったような気がした。黒いベースボールキャップに黒いジャケット、グレーをしたデイバッグを肩に掲げ、ミリタリーテイストのサングラスを掛けたその男と。見ればその男の周囲に似たような風貌の男が五人、ちょうど京介達を真上から見下ろす位置に立っている。そこから左右に十メートル程離れたエスカレーター辺りにも三、四名の男達がそれぞれ陣取っていた。
そのまま、そのまま京介は背中を逸らす振りをしながら左手を腰のホルスターへと移した。代表として外出時の銃の携行許可は許されていたが、千冬からは出発前に必要無いと釘を刺されていた。だが自身の癖と心情として、京介は愛銃のP229を持ち出していたのだ。右手で上着のジッパーを下ろし、視線をゆっくりと正面へと移す。シャルルと何事か話し込んでいる千冬の背後に立つ一夏の傍にそっと近寄り、再び視線を左のエスカレーターへと向ける。足元にデイバックを広げ、何かを取り出している男達。次の瞬間、京介は一夏の襟を掴んで後方の噴水へとぶん投げていた。そしてそのまま自身も背中から倒れ込むと、その顔の右側を銃声と共に砕けた床の破片が飛び散った。刹那、宙を舞った一夏が噴水に叩き付けられる水音と共に、P229を引き抜いた京介は頭上の男達に向けて発砲していた。
頭上からM4カービンと思わしき銃を持ったまま落下した男が床に叩き付けられた瞬間、ロビー内はマスコミや利用客の混乱と悲鳴で騒然となった。シャルルの護衛として来ていた男達も即座に柱の影に隠れ、シャルル本人や千冬も同じように庇われながら頭上から死角になる位置に連れ込まれていく。しかしその手にライフルを持ち、左右のエスカレーターを駆け下りて来た男達は人の区別も付けず、矢鱈滅多らに撃ちまくった。マスコミも警備員も一般客も関係無く、血飛沫を上げて倒れこんでいく。その銃弾の中を京介は立ち上がり、背後の噴水に向けて駆け出した。先程放り投げた一夏が頭だけを水面から出して呆然としていたが、京介は噴水の円形の台座を背面で滑りながら、右手で一夏の頭部を再び水面に押し付けながら正面頭上へと銃口を向ける。
「おぶっ!」
溺れた様な一夏の声を無視しながら、京介は片手で乱射している男達に狙いを付けた。数発の銃声の後、男達に命中したかも確認せずに噴水の陰に隠れると、京介はそのまま右手を水面に突っ込んでもがく一夏を引きずりだした。水を飲んだのか咽込みながら水を吐き出している一夏の頭を押さえつけながら、京介は噴水の陰から顔を覗かせる。それと同時に台座の表面が銃弾によって砕け散ると、即座に顔を引っ込めて一夏に顔を近づけた。
「織斑、無事か?」
「っほ、……げほっ、ごほっ! 何とか……何が…」
「いいから走れ! 先生のところまで全力でだ!」
未だ事態の飲み込めていない一夏の襟を引っ掴み、京介は左右のエスカレーターに向けてそれぞれ乱射しながら一気に駆け出した。正面には被弾した何人かの警官達と柱の陰からこちらに何かを叫んでいる千冬の姿が見える。左右からの弾幕が呆然としているか逃げ惑う無関係の人間達に阻まれる中、京介は一夏と共に何とか柱の陰に滑り込んだ。二人を更に奥まで引っ張り込もうと身を乗り出した警官が撃たれると、京介はすぐにその重装備の身体を掴んで力任せに柱の陰に引きずり込む。着込んでいたプレートキャリアの御蔭か警官が荒い息をしているのを確認すると、京介はそのまま男が持っていたHK416を奪って千冬の傍へ転がり込んだ。
「お前は一体何をしているんだ!」
「道が混んでて遅れただけですよ!」
右側-----今は左側-----のエスカレーターの陰から飛び出てきた男に拾ったばかりのHK416 で銃撃を加えながらそう叫ぶと、京介は落としていたP229のマガジンを抜いて残弾が少ないことを確認する。そして千冬の傍でしゃがみ込んでいるシャルルを一瞥すると、ベルトに挿していたマグポーチからP229用のマガジンを取り出して交換した。
「アイツら何なんです! こいつを殺しにでも来たって言うんですか!」
HK416を構え直しながら叫ぶと、京介達が隠れている柱に銃弾が叩き込まれた。
「分からん! だがお前はこれ以上何もするな! これ以上の危険は-----」
千冬の叫びに耳朶を打たれながら、京介は自動ドア付近で固まっていた一般客の方へ視線を向けていた。日本人以外にも数人紛れている外国人、その中の一人がジッとこちらを見つめている。そしてその男が懐に手を差し込んだ途端、京介はHK416を向けて発砲していた。シャルルがヒッと小さく悲鳴を漏らし、千冬が京介の肩を掴んで動きを止めさせる。だが胴体から血を噴出しながら仰け反る男の手から拳銃が空高く舞い上がると、それと同時に撃ち方やめ!とフランス語の叫びがこだました。
一時間後、救急隊員と日本の警察官でごった返した空港ロビー内で、京介は一人両手に手錠をされた状態で椅子に座っていた。千冬や一夏、シャルル達は少し離れた場所で迎えに着たIS学園の保安要員達と共におり、全身が濡れた一夏は頭からバスタオルを掛けられている。シャルルも怪我は無いようだったが、脅えた様子で自国の警官達と何事かやり取りをしていた。
「浦城京介」
そんな様子を眺めていると、京介はふいに投げかけられた声に視線を動かした。その先には黒いスーツに身を包んだ男達が数人立っており、先頭に立つ男は何かしらの情報が書かれた紙を挟んだボードを手に持っている。
「情報の確認が取れた。一般人への殺傷は無し、他国の管理下にある武器を奪ったことについては緊急時での対応の為、厳重注意となる。既に敷島重工へ連絡は入っている」
「……俺への処分は?」
「君の銃は証拠品として暫くこちらで預からせてもらう。そして一ヶ月間IS学園からの外出禁止、その間、毎週末にこちらが指定した機関のカウンセラーとの面談をしてもらう。主な対応はその機関に任されるが、面談でのやり取り等は我々警察にも提供されるからそのつもりで」
「……分かりました」
「ここまで大いに暴れた候補生は君が初めてだよ、全く。……手を出しなさい、手錠を外す」
そうして手錠を外された京介は、手首の違和感を脱ぎ去るようにそれぞれ摩りながら、千冬達に合流した。三人の反応はそれぞれで、千冬はやや安堵したような表情を浮かべつつもその頭を軽く叩き、シャルルは警官達に周囲を固められながらも脅えたような視線を向け、肩にバスタオルを掛けた一夏は京介が戻ってくるなり信じられないものを見たかのような顔で言葉を投げかけた。
「京介、どうしてお前……あんなに簡単に人が撃てたんだ……?」
「……そういう訓練をしてたからだよ。それより、お前怪我はしてないのか」
「えっ、あ……ああ、ちょっと背中を打ったくらいだけど……」
「なら良い」
それだけ言葉を交わして、京介は銃撃戦の中心となった噴水近くを見やった。大分片付けられてはいたが、未だそこには巻き込まれた人々を収めた遺体袋が並べられている。生き残った人々も別の場所で警察に保護され、順次病院へ送られるだろう。今回の事件で恐らく、自分の事については全く出てくる事は無いだろうと京介は確信していた。頼んでいようが頼んでいなかろうが、自分は何よりも
「……よし、織斑、浦城。デュノアを連れて学園に戻るぞ。道中は警察の護衛が付く」
「……うす」
千冬に促されIS学園のランドクルーザーに乗せられた後、京介は窓際に座り無言で外を見続けた。隣でシャルルを安心させようと一夏が何かしらの話題を振っていたが、その言葉も何を言っているのか全く分からないくらいに、京介の意識は遥か遠くにあった。複数の報道ヘリがけたたましく旋廻する音を遥か後方に置き去りながら、ほんの十五分程度の銃撃戦を行った手の感覚だけが、京介の意識を釘付けにしている。それから京介の意識が漸く次の対象に移ったのは、IS学園に到着し、出迎えに来ていたセシリアからの抱擁を受けた時だった。
《-----空港でシャルル・デュノアを襲ったと見られる連中は最近勢力を伸ばしてる反ISグループよ。どうしてシャルル・デュノアを襲ったのかは分からないけど、状況的に男性でありながらISを操れるアンタ達三人をまとめて始末しようとしたのかもしれないわね》
夜、京介は自室のベッドに寝転がりながら、枕元に放り投げた端末から流れる姉の声に耳を傾けていた。
《現場に居た日本のマスコミ連中はほぼほぼ全滅、生き残ったのは海外の
「……ああ、分かってるよ」
弟からの気のない返事に思うところがあったのか、夏希は一度大きなため息を挟みながらも、そのまま言葉を続けた。
《ハァ……。今更二、三人殺したところで、気に病むような性格してないでしょアンタは。それとも自分以外の同世代の子達とのギャップにやられちゃったのかしら?》
「んな訳ねーだろ」
《知ってるわよ、そんな事くらい。兎に角今は大人しくしてなさい。来週こっちに来るイゾルデの護衛にレッシィ、ロザミア、アナスタシアを付けたわ。三人はそのまま日本の残らせて今回の件の調査と身辺警護に当たらせるから、アンタからは動かないこと、絶対にね》
「分かってるっつってんだろ!」
語尾を荒げながら端末を掴み上げた京介だったが、そのまま二の句が告げずに一方的に通話を切ると端末を再び枕元に放り投げた。そしてそのまま立ち上がると、机の引き出しを乱暴に引き出した。その中に収められていたのはパーツ単位でバラバラにされた一挺の銃と丸められたメンテナンス用のラバーマットに9mmパラベラムの弾薬箱。卓上にラバーマットを広げ、パーツを乱雑にその上にばら撒く。そして一心不乱に銃を組み立て、それがイタリアのM92FSのライセンス生産品であるPT92へと姿を変えると、チャンバーに一発だけ弾を送り込み、そして右手を自身の心臓の上に置いたかと思えば、そのまま右手の甲に銃身を押し付け引き金を引いた。
ドンッという強い衝撃と共に吐き出された銃弾は手の甲の肉と骨をぐちゃぐちゃに貫き、着込んでいたISスーツの防弾繊維によって鳩尾に突き刺さってその動きを止める。だがその衝撃によって座っていた椅子ごと背後に倒れこんだ京介は強かに後頭部を強打するも、少しの間を空けてまるで何事も無かったかのように立ち上がって顔に散った自身の血を
(何やってんだ俺……)
床に落ちた弾丸を拾いながらそう一人ごちると、もう何の痕跡も残っていない右手をジッと見つめる。そしてそのまま弾丸をゴミ箱に投げ捨てると、部屋の電気を切り、目覚ましもセットせずにベッドに転がり目を瞑る。眠りに付くまでの間に京介の脳裏に浮かんできたのは、銃撃戦の恐怖に脅える悲鳴と、全てが終わった後に自分に向けられた一夏とシャルルの脅えた顔、そして学園で自分達を出迎えたセシリア、箒、鈴の心配そうな顔。それらがグルグルと渦巻いて、最後には涙目になりながら飛びついてきたセシリアの顔が浮かび消え、そうして京介の意識は虚空へと消えていった。
翌日、IS学園では空港の件、つまり反ISグループによるテロ事件という話題で持ちきりだった。生徒達は京介達三人を事件に巻き込まれた被害者として見て、当の三人は真実を知る一部の者として、語る事が出来ないもどかしさを事件の恐怖からと片付けられ、ただただ哀れみと同情の感情をぶつけられる。転入早々の事件ということで、その風貌も相まって女子生徒達から一気に寵愛の対象のようになったシャルルは、午後からは保健室で過ごし、一夏もまた、その日は同じように保健室で過ごすこととなった。一人残された京介だったが、セシリアや箒が気を回したのか特に誰からも触れられることもなく、ただ呆然と無為に一日を過ごした。
そんな何かがズレていた日々が週末を迎えると同時に、ドイツからの転入生がやってくるという話が舞い込んできた。この時はまだ、京介も、一夏も、シャルルも、誰もが新しい空気で何かが変わると漠然と考えていた。狂い始めていた何かが、もっと捻じ切れてしまうほどに壊れていくなど、誰も想像すらしていなかったのだった。