「なんじゃこりゃー!?」
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!俺はいつも通り朝を起きたと思ったらいつの間にか女になっていた。な……何を言っているかわからねーと思うが俺の何が起こっているのか分からない。頭がどうにかなりそうだ。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ
ドン!
「うひゃあ!」
隣人に壁ドンをされてしまった。一応補足しておくが少女漫画的な壁ドンではない。隣人トラブルでされる方のやつである。
「すみません!」
俺は咄嗟に謝る。しばらく様子を見てみるが何もされないので許されたのだろう。多分。
さて軽いトラブルはあったが現状を把握しないことには始まらないだろう。
まずなぜ女の姿になっているのか。その原因は直ぐに思いつく。昨日の夜に違いない。
あの時化け物に殺されそうになった時、謎の声が聞こえた。思えばその時から違和感はあった。なぜ直ぐに気が付かなかったのか……。疲れてたんだろうな。
では今からやるべきことは一つしかない。あの声の主を見つけることだ。まずどのような声だったか思い出してみる
「んーどんな声だったか……ん?」
聞き覚えのある声が聞こえた。その声は自分の口から発せられている。いや、いやいやいや、たまたま……聞き間違いであろう。そう思い確認のため昨日聞いた言葉と同じ言葉を言ってみる。
「さてすまないが少し借りるね」
昨日聞いた声と細部の違いはあるもののほとんど同じである。つまり昨日聞いた声は自分の口から発せられたものということになる。
それは声の主は俺だったことを意味する。これは……
「詰んだー!!」
ドン!
「ひぃ、すみません!」
いや冷静に考えよう。あの時俺は自分の意思で体を動かしていた訳じゃない。つまり別の何かが俺の体を動かし、喋っていたのである。その何かと接触することができれば……
どうやって接触すればいいんだ?
「と、とりあえず呼びかけてみよう。あ、あの〜昨日私の体を操っておられた方いらっしゃいますでしょうか」
さっきの壁ドンのせいであまり大きな声も出せず謎に丁寧口調で呼びかけてみる。
「呼んだかな?」
「うひゃあ!」
ドン!
「ごめんなさい!」
今度菓子折りを持って行こう。しかし呼びかけてすぐに返事が返ってくるとは思ってなかった。しかも……頭の中に直接語りかけてきたのだ。
(えーと、聞きたいことがあるんだけど)
心の中でそう呟いてみる。しかしいくら待っても返事が返ってこない
「?用事があって呼んだんじゃないのか?何もないならまた眠らせてもらうが」
「あー待って待って、聞きたいことあるから待って」
「なんだ、あるんじゃないか。ほらなんでも聞いてくるといい」
どうやら頭の中に語りかけてくる存在は思考まで読めないらしい。
さて色々聞きたいことはあるがまずどうにかしなければいけないことが一つある。
「どうすれば元の体に戻れるんだ?」
「知らん」
崖から突き放されるように声の主はそういう。折角の希望が直ぐに落とされてしまう。あぁ、人って3文字だけでこんなにも絶望できるんだな。
「肉体が魂に引っ張られるなんて本来ありえないはずなんだけどね」
「魂ってそんなオカルトな」
「信じるも信じないも勝手だが、君の体が私の体になっている以上受け入れてもらわなければ困るけどね」
それはそうである。今俺の目の前では普通じゃ考えられない事態が起きている。ならばどのようなことでもそれを事実として受け入れるべきである。
というかそれしか選択肢がない。ん?そういえば今こいつ……
「なあ今この体があんたの体って言ったか?」
「ああ、そうだよ。昨日君が殺されかけた時私の魔法を使ってね。魂の主導権を一時的に私の方に移した。そうしたら肉体も私のものになったわけだ。アーハッハ、いやー不可思議なことも起こるものだね」
「笑い事じゃないんだよ。ていうか魂によって肉体が変化するならなんで戻らねぇんだよ」
「そこなんだよ!さっきも言ったけど普通肉体が魂に引っ張られることはないんだよ。だから君の肉体の存在強度が低いせいだと考えたのだけれど、魂の主導権を握っても元に戻らない!つまり魂の存在強度もかなり低いんだろうね!そこに私という存在が目覚めてしまって君の魂より私の魂が優先されてしまった。それで……」
質問した途端、急に興奮し早口で説明し出す。
こいつ結構な説明したがりだな。
そして聞こえる声から察していたがこいつ女だったのか。
「まぁまとめると、君の肉体と魂の存在強度が活性化してない私の魂の存在強度に負けているという訳だな!」
10分ほどの説明を聞き、ようやく要点が出てきた。途中から意味不明な単語ばかり出てきて理解できてなかったがつまるところ
「お前が俺の中にいるせいで元に戻らねーんじゃねえか!」
「うん!仮説だけどね!」
「ならあんたが俺の中から出ていけば解決するだろ」
「私もそうしたいんだけどね。そう簡単にはいかないんだ」
直ぐに思いついた解決案は直ぐに却下されてしまった。
だができないとは言わず簡単ではないといった。つまり可能ではあるが事情があって今はできないということである。
「……どうすればいいんだ?」
「話が早いのは好きだよ。まあ簡単さ。私が分からないなら詳しい人に聞くといい」
なるほど。つまり魂について詳しい人に聞けばいいのか。
「神社ってどれくらいお金を払えばいいんだ」
スマホを取り出し軽く調べてみる。こういう時情報化社会は便利である。
「断言はしないが無理だろうね。魂という分野において私より上の者は誰もいない。だから別分野に詳しい者に話に行く」
「なるほどな、じゃあ誰に聞きにいけばいいんだ?」
「私の双子の妹、テオ。昨日君のことを襲った者だね」
さらっと重大なことを言う。
あの怪物が妹?さっき言っていたがこの体はこいつのものらしい。なら妹も人間じゃないのか?
いや今俺は非現実にいるんだ。現実に思考を囚われちゃいけない。俺が導き出した結論は
「お前の妹もしかして呪いとかで姿を変えられたのか?」
「違うが。私の妹は可愛い可愛い女の子だぞ」
「違うかー」
駄目だった。やはり非現実に足を踏み入れたばかり、いやつま先でしか入っていないような現状では非現実について考察することなんて無理であった。
「じゃああの怪物はなんなんだ?それに俺のことを襲ったのに聞きに行くことなんてできるのか?」
「あの怪物はテオが作り出したものだね。テオは色々な物を作ることができるからその成果物だろう。そして会えば間違いなく話を聞いてくれるよ。テオはとても優しい子だから」
優しい、そう言われても納得はできない。俺は昨日その優しい子に殺されかけたのだから。
だけども俺はこの言葉を信じることにした。
こいつとしばらく話してわかった。こいつはいいやつで人を騙すようなやつではない。
そう確信できる根拠もあった。
「それじゃテオって子を探しにいくか。姉なんだからどこにいそうとか分かるか?」
「ああ勿論だとも。……だけどいいのかい?まだ説明してないことかなりあるが、それに危険も伴うぞ?」
「説明は探しながらしてくれたらいい。それに……あんたも妹と会いたいんだろ?だったらそれに協力させてくれ」
「……ふふ、肉体で繋がっているから分かったのかな?それとも別の要因かな?」
「お前好きなものを話すとき興奮するだろ」
短いながらも関わってみて分かった。こいつは口調から受ける印象とは逆に子供っぽいのだ。好きなこと分からないことに興奮する子供。だから手伝いたいと思ったし信頼できると思った。
「そうだったのか……」
「ほら、善は急げだ。とりあえず行動しようぜ。当てはお前頼りなんだから」
「あ、ああ。そうだね。うん足は任せたよ
「おう、任せてくれ……」
名前を呼ぼうとして気が付く。そういえば自己紹介をしていなかったと。相手はこちらの名前を知っているようだが俺は知らない。
「そういえばお前って名前なんて言うんだ?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。私の名前はオクトラ・コンク。操魂術を得意とする魔術師だ。よろしく頼むよ」