俺は今繁華街に一人で立ち尽くしている。いや、正確に言えば一人ではない。頭の中から語りかけてくるこの体の持ち主、オクトラがいるのだから。
「なあ、本当にこんな人がいっぱいいるところにいるのか?」
「ああ、血のつながりというかなんというか私はなんとなくだが妹の位置が分かる。そしてそれはこの場所にいると言っているんだよ」
「お、おう。そうなのか……」
小声で話しながら頭の中の存在に話しかける。そっちは脳内から話しかけてくるのになんでこっちからは通じないのか。さっきから小声で話しているせいで周りからの視線も多い気がする。少し周りの方に意識を置いてみる
「ねえ、あの子服のサイズ全部あってなくない?勿体無いなぁ。あんなに可愛いのに」
「モデルみたいな子いるじゃん。話しかけに行かね?」
「いや、あんなダボダボの服を着てるんだぜ?絶対だらしないやつだぞ?」
ああ、なるほど。自分の体だから意識してなかったが今の体は彼女オクトラのものであった。顔は小さく整っておりそんじょそこらのアイドルより可愛らしい。さらに肌も陽の光も負けそうなほどに白く、長く白い髪がそれをさらに際立たせている。さらに体は出るところもしっかりと出ておりカメラ映えしそうな体型である。
そしてその体を隠している服というと黒い服に青いジーンズという男子大学生としてみたら普通の格好。だが今の体は女性。身長も一回り以上小さくなっているためサイズはあっておらずダボダボ。顔とその下が釣り合っていない。アンバランスなのだ。
「……まずは服を買いに行こうか。流石にこの視線は堪える」
「ふ、全員を魅了するこの肉体は罪だね」
オクトラはナルシストか。どうでもいいこと脳の一部に刻み込みつつ服屋を探してみる。服は大きなモールにある安めの服屋で済ませていたためここのお店については詳しくない。そのため辺りを見渡してみる。
「お、あったあった」
10mくらい先にガラス越しでマネキンが服を着ているのが見えた。俺は極力気配を消すことを意識して店へと入る。その様子はさながらダンボールで隠れながらスニーキングミッションを行う工作員のように。そして客や店員にすら気配を悟られないようレディースの服が置かれている方に──
「あ、お客様!本日はどのような服をお求めに」
あぁ、やっぱりダメだったよ。この顔と服の存在感は素人のスニーキング技術では隠しきれなかったようだ。いやうん分かっていたけどね。
「疲れた……」
「アハハ!いやー君も大変だねぇ。まるで子供に与えられた着せ替え人形のように好き勝手されたね」
あの後店員に地味な服はありますかと頼んだら10着くらい服を持ってきてとりあえず試着してみましょう!と強く言われその熱気に押されてしまい全部試着する羽目になった。勘違いでなければあの後も5着くらい持ってこられてた気がする。
それだけならよかったが試着の途中ブラをしてないことがバレ、下着まで買わされた。あの店員いつか大成するな。あの押しの強さは大阪のおばちゃん以上だろう。そして下着と服のセットを持っていきレジに移された金額を見てさらに精神に来た。
「俺のバイト半月……」
そう、まさかの服と下着それぞれ一着ずつでバイト半月分のお金が飛んでいった。女性ってお金がかかるんだな。
「まぁ動きやすくなったからいいか」
下着をつけたことで胸も固定され動いても揺れて違和感を感じなくなり、服もピッタリのサイズになったことで動きやくすなった。お金を払った価値はあっただろう。いや嘘、いつもの店で済ませてたら絶対にもっと安く済ませれた。
「……自分で言うのもなんだが、君男だろう。私の体を見てなんとも思わんのかね。は、まさか君そっちの毛が」
「ちげーよ!ん、でも確かに。さっきの試着や家で着替えた時もこの体の裸は結構見たが特に何も思わなかったな」
「肉体が魂を引っ張っているのか?今は女性の体だから性的趣向も女性のものに?おい十流、約30m先にいる胸の大きい女性を見てみろ」
オクトラに言われて前に意識を向けてみる。……うおでっか!何カップだあれ!?
30m前方めちゃくそどでかい胸を持った女性がいた。しかも美人だ。この体と比べたら流石に下だと思ってしまうがそれでも並のアイドルほどの可愛さである。この街にあんな女性がいたとは……
「どうだ?興奮するか?」
「めっちゃする」
「最低だな。キミ」
すっごい冷えた声で言われた。その言葉で興奮している脳は賢者モードのように冷めてしまった。うん、ごめん。でも仕方ないと思うんだ。あんなのがいたらどんな男も興奮する。しないやつは同性愛者か精神異常者のどちらかだろう。
「まぁいいか。とりあえず君の性的趣向は変わらなかったわけだ。なら次に考えられるのは自己の認識か。既にこの体が馴染んで自身の肉体であると認識している。だから興奮もしない」
「考え事をするのはいいが、早く妹のテオだったか。そいつのところまで案内してくれよ」
「むぅ、仕方ないだろうこんな経験二度と味わえるものではないからな。時間があるうちに色々検証してみたくなるのさ」
「さいですか」
短い付き合いでも分かることはある。こいつは考え出したら止まらない。今でも仮説を考えそれを言葉に出している。まぁ何言っているか全くわからないが。日本語喋ってないなこいつ
そんな風にこちらは思考を止めて、近くにあった椅子に腰をかける。精神的にも肉体的にも疲れた。近くにアイス屋もある。季節は既に夏。燦々とこの白い肌を照らす太陽が鬱陶しくて仕方ない。アイスも買って休憩しようか。そうしてアイス屋に並ぶと考え事をしていたオクトラが話しかける
「アイスを食べるのかい?だったらチョコミント味にしてくれ」
「味分かるんだな」
「ああ、ある程度はリンクしているからね。肉体が傷付いたら精神も傷つくんだよ。それと同じ原理で肉体が刺激を受けると精神も同じ刺激を受ける。それで味がわかるんだよ」
「なるほどなー」
ある程度俺にでもわかるように説明してくれた。なるほどつまり
「俺が怪我したらお前も痛いんだな」
「そうだよ。だから怪我だけはやめてくれよ。君が怪我したら君だけじゃなくて私も傷つくからな」
「痛いの嫌いなのか。やっぱり子供だな」
「は?痛いのは誰だって嫌だろう。老若男女が誰だって忌むべきものだとするものだぞ。だからその子供という発言は訂正しろ」
「はいはい。ごめんなさいね」
そういうところだぞ。まぁこういう所がこいつを信頼している一番の理由ではあるのだが。なぜか俺はオクトラのことを疑えないし、好意的に思ってしまう。相性がいいのかね。
「よし、休憩終わり。あと2時間くらいで日も落ちてくるだろうしさっさと妹を見つけ出そうか」
「ふぅ、美味しかった。とそれじゃあ再開していこうか。妹がいる方角は……」
アイスを食べ終わり椅子から立ち上がる。体を伸ばしてオルトラの言葉を待っていると突然後ろからドサと物を落とす音が聞こえた
その音に反応し後ろを振り返ってみる
「な、な、な……なんでオクトラ様が……!」
20後半の男と目が合った。そしてその瞬間男は何かから逃げるかのように走り去っていった。というかあいつ
「追って!あいつのことを追って!そうすれば妹の場所が分かる!」
オルトラは大きな声で俺に言う。こいつのこんな焦った声は初めて聞いた。その声に釣られて俺も焦って男を追いかける。走りながらも考えることを一つだけだった。
なんであの男はこいつの名前を知っていたんだ