めっちゃ面白かったので衝動のままに書きました。反省も後悔もしていない。
多分細かいとこガバガバだけど許して
スワンプマン、という言葉がある。
一言で言えば、「一度死んで蘇った人間は本当に当人なのか?」と言う思考実験だ。
思考実験である以上、明確な答えなど存在しない、のだが。
──俺が思うに、一度死んで蘇った人間は、どこまで行っても別人で。しかしそれでも、悲しいほどに、同じ人間なのだ。
◆◆◆
わいわい、がやがや。
時刻は正午過ぎ、ちょうど昼休み。俺は教室の喧騒を聞き流しながら、自分の席で独りもぐもぐと持参したおにぎりを咀嚼していた。ちなみに具無し。
『日本人たるもの、パンも悪くないがやはり三食米を食べるべき』というのは父親の言。特に拒否する理由もないので今まで従ってきたが、その理屈だとうどんやそばなんかはどうなるのだろうか。
小ぶりのそれを完食して、ほう、と一息。昼休みはまだ始まったばかりで、かなりの時間がある。
さて、どうしようかと思ったその時。
がこん。
突然の大きな音。どうやら音源は教室の左後方のようだ。
そちらを見てみると、転がるバレーボールに床に落ちたスペシャルドッグ。そして硬直する薄紫色の髪の少女と赤髪の少年。
それぞれ、学年で人気一、二を争う完璧美少女こと新条アカネと、今朝から記憶喪失とやらでクラスを賑わせている響裕太。
「ごめん、マジごめん!マジ反省します!しました!」
そして必死で謝るバレー部の少女問川さきる。
状況は掴めた。おおかた、記憶喪失の影響かただの天然か、昼食を忘れた響に新条がスペシャルドッグを恵もうとしたところ、教室の後ろで遊んでいた問川のボールが直撃したのだろう。
それはともかく、として。
まあ、
そんなことを頭の片隅で考えつつ、俺が注目しているのは、必死に謝り倒す問川でも、気にしていないようで内心ブチ切れているであろう新条でもなく、特に気分を害した様子もない響だ。俺の予想だがまあ
ともあれ、一度話を聞いておきたいところ。しかし教室で堂々と話しかけに行けば少しばかり面倒なことになりそうだし、新条に目をつけられると厄介だ。
はてさてどうしたものかと考えていると、響が席を立った。どうやら友人の内海将と共に外に出るようだ。
これ幸いと席を立ち、2人を追いかけようとして。
「おーい天野ー!」「天野くんちょっと……」「天野来いよー!」
クラス中から掛けられた声にいちいち対応する羽目になった。やれやれ人気者は大変だ。短気な神サマは何を思って『俺』をこんな設定にしたのやら──。
◆◆◆
「響、少しいいか?」
昨晩、原因不明の記憶喪失になってしまった俺、響裕太は、昼食を終え、内海と2人で渡り廊下屋上にて駄弁っていた。
その時声をかけられ、振り向くと、そこには同級生らしき男の子が立っていた。
身長はかなり──内海よりも高い。顔と目は墨のように真っ黒。顔立ちは整っていて、十人に聞けば十二人がイケメンだと答えるだろう。露出した腕は目立たないながらも筋肉がついている。一言で言うなら『イケメンスポーツマン』と言った感じ。おそらくはクラスメイトなのだろうけど、例によって俺は知らない。
「天野トウジ。容姿端麗成績優秀品行方正スポーツ万能。うちの学年で新条さんと並んで人気のある羨ましいやつだ」
少し戸惑っていた俺に内海が耳打ちしてくる。若干妬み嫉みがこもっているように聞こえたのは気のせいじゃないと思う。
「ご紹介ありがとう内海」
バレてるし。
「その様子だと記憶喪失というのは本当らしいな。改めて天野トウジだ。以前の響とは数えるほどしか話したことはなかったがな。改めてよろしく」
「うん、こちらこそよろしく。それで、用って?」
俺がそう尋ねると、天野はそういえばそうだった、というふうに目を見開いたあと、なんでもないように笑った。
「いや、響が記憶喪失だ、と聞いてね。できれば詳しい話を聞かせてくれないだろうか、と思ったんだ。無論、話したくなければ拒否してもらって歯まわない」
「別にそれくらいお安い御用だよ、えっとね……」
俺は昨日の夕方目を覚ましてからのことをできる限り事細かに説明した。天野だけでなく、内海も耳を傾けていた。そういえば内海にも細かい話はしていなかったっけ。
「──というわけなんだ。……こんな感じでいいかな?」
「ああ、ありがとう。手間をかけさせて悪かったな」
「いや、気にしないで。でもなんでわざわざ?」
そう尋ねると、天野は少し迷うようなそぶりを見せた後、バツの悪そうな表情をして言った。
「あ〜、その、なんだ。ただの野次馬根性だよ。わざわざ時間取らせて申し訳ない」
「ううん、全然大丈夫だから」
実際大した労力ではなかったし、むしろこっちとしても一度整理するちょうどいい機会になったのでむしろ感謝したいくらいだ。
「そうか、そう言ってもらえるとありがたい。礼と言っちゃなんだが、困ったことがあったら言ってくれ、力になろう。これ連絡先」
そう言って天野はスマホを取り出し、連絡先を交換した。水色のガラスのようなものがストラップになっているスマホだった。
「俺は教室に戻る。お前らも遅れないようにしろよ」
天野はそう言って踵を返すと、校舎へと入っていった。
「聞いたか裕太。存分にこき使ってやれ」
「内海、嫉妬は良くないよ」
◆◆◆
時は流れて放課後。バレー部に助っ人としてお呼ばれしていた俺は、練習を適当に流しつつ、昼間の響のことを思い出していた。
まあ話した限りでは、まあ効いた通りの記憶喪失のようだった。しかし、なんとなくだが、以前の響と今の響では、何かが違うように感じられる。記憶喪失なのだから当然といえば当然だが、何か引っかかる。昨夕のアレのことも考慮に入れると、やはり何かしら関係があるのだろう。
そんなことを考えているうちに男子バレー部の練習が終わった。今日は女子が遅くまで残る日なのだ。
一緒に帰ろうという誘いを受けるが、適当な理由をつけて断る。まあ響のことはこれ以上の情報はないし、今考えても仕方ないから置いておこう。今考えるべきことは他にある。
と、いっても今すぐに事が起こることはなさそうなので、警戒しつつ女子バレー部の練習をぼんやりと眺める。件の問川が見当たらないが、おそらく外でサボっているのだろう。彼女は双葉先輩が不在だと不真面目だ。……というかあの2人は結局付き合っているのだろうか、いないのだろうか。
そして何やら女子たちの動きや声出しが良くなったのにも見て見ぬふりをする。その辺は男も女も変わらないらしい。全く現金な奴らだ。特に一年。
そうして時間を潰しているうちに段々と日が傾いていく、その時だった。
突如、警戒していた俺の感覚が異常を察知する。慌てて外に飛び出すも、視界が悪くて遠くが見えない。仕方なしに体育館の屋根へと登り──見えた。
「出たな怪獣……」
俺の目線の先には、派手な色をした首の長い巨大生物──怪獣がいた。そしてそいつは進路をこちらへと取り、近づいてきていた。
さてどうするか、とりあえず女子たちを避難させるか。そう考えた時だった。
唐突に上を向いた怪獣は、そのまま巨大な火の玉を吐き出した。その火の玉はバウンドし──こちらへ一直線!
「いかん!」
慌てて屋根から飛び降りるも、もう間に合わない。諦めて俺だけ離脱しようと考えた、その時。
「ちょ、え、天野!?」
「っ!問川か!!」
それからの俺の行動は我ながら最善だったと思う。
「すまん問川!」
俺は謝罪もそこそこに、問川を姫抱きにすると、何やら顔を赤くして喚く彼女を無視し、全力で地面を蹴り、体育館から離れる。
そして、着弾。
爆風に煽られつつも、俺with問川は無事離脱に成功したのだった。
「ふう、なんとかなったな」
結局、救助できたのは問川1人か。ちょうど彼女がいたところに寸分のズレなく着弾したおかげか、体育館は半壊で済んでいる。生存者もいるかもしれないが……今こちらはそれどころではない。
怪獣の目が、ジロリとこちらを睨む。もとよりメインターゲットは問川なのだから当たり前だが、さてどうするか。
「え、待って、何、今の。ていうか体育館が──」
ひとまず、先ほどまでは羞恥で真っ赤になっていた顔を真っ青にした問川を落ち着かせる。……なかなか落ち着かないので軽く頭突いてやってから声をかけると、またしても顔を赤くしたものの、落ち着いた。この手に限る。
そして顔を上げると、怪獣が再びこちらへ向かって火の玉を撃ち出そうとしていた。
今更ながら厄介ごとに首を突っ込んだと思いつつ、ひとまず逃げようとして──
突如現れた巨人の飛び蹴りが、怪獣を吹き飛ばした。
「何、あれ……」
「そうか、あれが昨日の──!」
真逆の反応を見せる俺と問川を置き去りに、謎の巨人は怪獣との戦闘を始める。
その姿はまるで、いつの日か『俺』が見た、テレビの中のヒーローのようで──。
「っとしまった、分析分析と」
ふと大事なことを思い出した俺は、抱いていた問川を降ろそうと──
「ご、ごめん、腰が抜けて立てない」
……仕方ないので体勢を変え背負う形にし、ポケットから
「そ、そんなことしてないで、逃げなきゃ」
「大丈夫だ。それにいざとなったらまた守ってやるから」
背中で声を出す問川をうまいこと言って黙らせる。……客観視して理解したのだが、以前の『俺』はとんだ無自覚天然タラシ野郎だったらしい。今のようなセリフをシラフで言ってしまうのだから、我がことながら手に負えない。
同時に、そんな鈍感野郎だった『俺』の心を射止めた『彼女』には心からの敬意と、とてつもない罪悪感を覚える。
そんなセンチメンタルな気分になりつつ、撮影を続行する俺。まあ先ほどあんなことを言ったがもう大丈夫だろう。ヒーローが現れたからには、こんなチュートリアル怪獣などサクッと……
「……あれ、なんか苦戦してないか」
サクッとどころか、吹き飛ばされ、火の玉に打たれ、挙句頭のランプがピコンピコン言い出す始末。おかしいな、たいていこういうのは初回は圧倒するはずでは……
とまあそんな一幕がありつつも、再び立ち上がった巨人は怪獣に組み付き、殴打し、そして首をもぎ取る!投げる!
そしてそれでも倒れぬ怪獣へ向けてトドメの一撃をお見舞いする!
『グリッドオオオオオ、ビーーム!!』
……絶妙にダセェ。
とまあ無事(?)に爆散した怪獣。謎の巨大ヒーローは、ウルトラマンのように飛び去る事なく、そのまま消えていくのだった。
「はあ、ひとまずなんとかなったか」
とりあえず事態は収束したと判断した俺は、スマホをポケットに滑り込ませる。今夜は徹夜だろうな。
「とりあえず安心だ。といっても不安だろう。だいぶ暗いし、家まで送るぞ」
そんな俺の提案に、問川は俺の背中でこくりとうなずいたのだった。
「これからどうなるんだろう……」
その後、問川の家、中華料理屋『龍亭』の前で、彼女はそう呟いた。普段は快活で大ざっぱな性格の彼女だが、まあこれだけのことがあればまあ仕方ないだろう。
といっても、彼女の心配はある意味──少なくとも彼女にとっては何ら問題はない。
あの巨人の影響も即座には出ないだろうし、明日からはいつも通りの日常だ。見かけ上は。
「大丈夫心配するな。ぐっすり眠れば、全部忘れるさ」
だから俺のあれこれの発言も忘れてくれるとありがたい。普通に黒歴史ものなんだわ。
◆◆◆
翌朝、一睡もせずに学校へ向かった俺を待っていたのは。俺の顔を見るなり顔を真っ赤にしてどこかへ走り去っていった問川と。
「直っ、て、る」
綺麗に元通りになった校舎を前に唖然とする響、内海、そして宝多六花であった。
ははーん、さてはお前らだな?
アカネ「学年一の人気者ってなんだか疲れそう……デコイ作るか」
主人公の謎はおいおいね♡
ちなみに問川はヒロインじゃないです。多分。現時点では。
一応双葉先輩×問川ファンの皆様(いるのか?)ご注意ください。(手遅れ)