「真実の“アイ”は、いつも一つ!!」   作:あるく天然記念物

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この場にて謝罪を。
blood borneの訳を間違えておりました。未熟な狩人で大変失礼しました。
また、ベイカー街編も後少しで完結できそう(願望)
少なくとも推しの子のアニメが終わるまえには終わらせます!!


劇場版 名探偵アクア『ベイカー街の亡霊』第5話

 子供達がトランプクラブへと向うのを見送った後、俺は部屋で一人レストレード警部の来訪を待っていた。

 子供達の事がどうしても不安になり、一回だけこっそり部屋を抜け出そうとしてみたものの、

 

「ダメですよ~☆」

 

 ドアの前にアルカイックスマイルを浮かべたハドソン婦人がスタンバイしていたため、敢えなく脱出は失敗におわった。

 本格的にどうしようもなく、やる事も無かった俺は、これまでのことを整理することにした。

(ノアズ・アークは確実に俺の動きを読み、そして動きを封じてきた。だが不思議なことに“関与”その物は例外はあるものの特に邪魔はされなかった)

 思い返してみれば、俺は確かにホームズのキャラクターに固定され、ジャック・ザ・リッパーへの挑戦権や推理に参加することができなくなったが、子供達と共に行動することは許可されている状況。

 モラン大佐とモリアーティ教授といった物語の根幹の人物に会いに行くのには弾かれてしまったが、根幹部分以外では問題なく行動できた。

 それが一番引っ掛かってくる。なぜ最初から“俺を省いたシナリオを作らなかった”のか。

 本気で子供達の記憶を弄るのを目的としているのなら、わざわざ俺をホームズへと固定するのではなく、関与が一切できないNPCへと固定もできた筈だ。それを行わず、わざわざホームズに固定した意味があるのか?

 もしかして、ノアズ・アークは子供たちがゲームオーバーするのではなく、ゲームクリアを“望んでいる”のか? いや、ただクリアするのではなく、子供達が自らの力でクリアするのを望んでいるのだとしたら…………俺がホームズ───“大人”として見守っていて欲しいと言うことなのか? ダメだ。状況証拠ばかりで、推理が飛躍しすぎている。これでは推理ではなく妄想だ。

 もう少し深く考える必要があるな、と。俺は再度考え込もうとするも、それは許されなかった。

 

「失礼するよ」

 

 突然の声に、俺は思考の海から帰還する。

 時間にして十数分程度思考に耽っていると、“見知った公安”の顔をした人物がやって来た。

 

「やぁ、ホームズ君。少し待たせてしまったかな?」

「安室──じゃなかった、レストレード警部。いえ、そこまで待ってませんよ」

 

 やべぇ、そっくりすぎて本人かと思っちまった。

 それくらいにレストレード警部は彼、安室 透に姿が酷似していた。

 安室 透。それは日本の公安に所属する凄腕の警察だ。嘗ては黒の組織、公安、喫茶店ポアロの店員という三つの顔を巧みに使い分け、黒の組織壊滅や日本のテロ防止に尽力してきたスペシャリスト。

 そんな彼も、親父からすれば一刑事にしか見えてないのか。

 

「安室? まあ、いいか。時間も押している。手短に話そう」

 

 レストレード警部は話ながら、俺に幾つかの資料を手渡してきた。

 そのどれもが、ジャック・ザ・リッパーに関するものだ。

 

「ジャック・ザ・リッパーの事件は日に日に多くなっている。そのどれもが女性を狙った犯行だ」

「女性だけ? モリアーティ教授が指示したから女性のみを狙っているのか?」

「鋭いね、ホームズ君。やはりモリアーティ教授の関与には気づいていたか。しかし、それにしては腑に落ちない点が生まれているのには気づいたかい?」

 

 レストレード警部は俺にジャック・ザ・リッパーが殺害した被害者のプロフィールを纏めた資料を手渡してきた。

 

「どれどれ…………ほぉ、コイツはぁ妙だな」

 

 貰った資料に目を通していく。

 確かにジャック・ザ・リッパーの殺害した被害者のどれもが女性である。しかし奇妙なことに、二件目のハニー・チャールストンのみ“遺留品”が残っており、それ以外には一切の痕跡が残っていなかった。

 それにハニー・チャールストンの殺害現場にあったとされる二つの指輪。サイズが違うとなれば、被害者本人が身に付けていたものは考えにくい。となれば、被害者ではなくジャック・ザ・リッパー本人が置いて行ったものと考えるべきだろう。

 すると二件目の犯行だけは、明確な“目的のあった”犯行だったと言うことなのか。

 

「二件目の犯行だけは、ジャック・ザ・リッパー本人が目的のあった犯行……ですよね?」

「お見事。けど、どうしてジャック・ザ・リッパーがハニー・チャールストンを狙ったのかは、スコットランド・ヤードでも分かっていない。ホームズ君は何か思い付いたかい?」

「ふーむ」

 

 正直に言えば、心当たりが幾つかある。

 だが、ここで推理を披露してスコットランド・ヤードに語ってしまえば、間違いなく“捜査が進展してしまう”。

 回り回って、子供たちよりも先に警察がジャック・ザ・リッパーへとたどり着いてしまうと、クリア条件が満たされない可能性がある。

 仕方がない、誤魔化すことにしよう。それにホームズと言えば、あの台詞が有名だ。

 

「レストレード警部。確かに幾つかの可能性、推論はある」

「なに、本当かホームズ君?!」

「だが───」

「だが?」

 

 俺は口角を少しだけ上げながら、口元で人差し指を立てる

 

「今はまだ、その時ではない」

「ホームズ君、君ってヤツは…………」

 

 額に手を添え、呆れたように頭を左右に振るレストレード警部。しかししょうがない。これがホームズってヤツなのだから。

 

 

 その後は子供達のためにレストレード警部からジャック・ザ・リッパーの資料を貰い、解散となった。

 レストレード警部は最後、何かあれば連絡をしてくれと俺に連絡先を渡し、スコットランド・ヤードの待機所へと戻っていった。

 それからは“護身用のアイテム”等を鑑賞・準備しながら過ごすこと数時間。

 

「ただいま…………父さん」

 

 ようやく子供たちがトランプクラブから戻ってきた。

 アクアの声を聞き、無事に戻ってきてくれたことにほっと安堵しながら出迎える。

 しかし、現実はそう甘くはなかった。

 

「おう、無事────じゃねぇみたいだな」

「………………」

 

 アクアが申し訳なさそうに俯く。

 

「……ごめ…………なさい」

「……俺………俺は……」

 

 そんなアクアの後ろにはアクア以上に思い詰めた表情をする秀樹君と進也君。

 

「はぁ………」

「パ……パパ……………パパぁっ!!」

「おおっと……よしよし」

 

 そして疲れた表情を見せる灰原とルビーがいた。

 ルビーは戻ってこれたことに緊張の糸がほどけてしまったのか、勢いよく俺に抱きついてくる。

 よっぽど大変な目にあったのだろう。俺はルビーの背中や頭を撫でつつ、他に戻ってきた子がいないか確認をするも、ルビーと灰原を最後に、入ってくる子供たちはいなかった。

 無事に帰ってこれたのは、この五人だけ。

 出発するときにいた光彦君、元太君、歩美ちゃん、清一郞君、晃君の五人が、一気にゲームオーバーになってしまったか。

 

「俺……俺、ルビーを守ることで精一杯で──」

「アクア、ちょっとこっちに来い」

「……わかった」

 

 ルビーをあやす手は止めずに、俺はアクアと向き合う。

 今のアクアがどんなこと思ってあるのかなんて、表情を見れば推理するまでもなく分かる。

 だからこそ、その思いは“俺が背負う”だけだ。

 

「何があったかは聞かない。あんまり言いたくないだろうからな。けどお前の事だ、ゲームオーバーになった皆の事で、俺に申し訳ないとか思って後悔してるんだろ?」

「……うん」

「バーロー、何でもかんでも一人で背負おうとするんじゃねぇよ」

「と、父さん?!」

 

 ルビーを撫でる手とは逆のてでアクアを抱き寄せ、頭を思い切り撫でる。わしゃわしゃと、乱雑でありつつ、よくやったと褒めるように。

 そもそも、子供のアクアが後悔すること自体が間違ってんだよ。

 

「おめぇはよくやった。その証拠にルビーはちゃんと守ったんだろ? 兄としては満点じゃねぇか。それにな、途中で脱落しても、クリアすれば皆帰ってくる。というか、元はと言えばゲームに参加させてしまった俺が一番悪いんだから、お前が後悔する必要も、義理もねぇんだよ」

「…………いや、それは違うよ父さん」

「アクア?」

 

 急にアクアの様子が変わった。

 慰めるように頭を撫でていた俺の腕を、アクアは両手でどかす。

 そして顔を上げると、先程の思い詰めた表情から一転。少しだけ成長した男の子が、そこにいた。

 母親に似た瞳を“輝かせ”て。

 

「ありがとう、父さん……でも、これは俺が背負わなきゃいけないんだ。ここで父さんに全部背負わせたら、俺は“進めなく”なっちまう。父さんに母さん──アイを頼んだあの日から何一つ」

「アクア…………たく、おめぇよぉ」

 

 どうやら俺はアクアの事を見くびっていたようだ。

 子供の成長ってのは、早いものだな。いや、元々があるからこそ、追い付こうとしたのか。子供だから、息子だからって、頼むとか言いながら俺はアクアの事を信じきれてなかったのか。

 それに“過去の話”まで出されちまったら、俺がアクアの重荷を背負うわけにはいかなくなっちまったな。

 俺はもう、アクア(雨宮 吾郎)から頼まれてたもんな、彼が背負うべきだったものを。

 なら、やることは一つしかねぇな。

 

「だからこそ父さんには、ゲームをクリアする為にも何があったかを知って欲しい」

「分かった。なら、アクア達を待っている間に俺が知り得た情報と交換といこうぜ」

 

 事件解決へ向けて、俺たちは“共に進む”。

 そのために、俺(未だにルビーをあやし中)とアクアは互いに何があったかを話し合うのであった。

 

◯ ◯ ◯

 

 そんな彼らの様子を、人工知能は静かに見守っていた。

 

『…………これが成長……か』

 

◯ ◯ ◯

 

《時間は少しだけ遡る》

 

 アクアたち少年探偵団と諸星の率いる四人グループは、無事にダウンタウンのトランプクラブへとたどり着いた。

 

「それじゃあ、俺が裏口から様子を確認するから、ルビー達は待っててくれ」

「それはいいけど、お兄ちゃん一人で大丈夫なの?」

「あぁ。逆に大勢で行った方が目立ちすぎるからな」

 

 そう言うと、アクアは全員から離れ、一人トランプクラブの裏口へと向かった。

 

「………よし、行こうぜ」

「あぁ」

 

 後から続く“二人の同行者”に気づかずに。

 

「よっと」

 

 アクアは裏口よりトランプクラブへと潜入。

 トランプクラブの構造上、メインフロアから裏口、および続く通路は死角となっていた。

 そのままアクアは通路の影からメインフロアの様子を伺う。

(あれがモラン大佐か。他の人と明らかに雰囲気が違う)

 メインフロアは出入り口側と裏口側の2ブロックで構成され、モラン大佐と思われる人物はアクアにとって都合よく裏口側にてポーカーに興じていた。

 モラン大佐がポーカーに興じているテーブルには他に三人のプレイヤーと一つのワインが置かれた空席があった。

 そしてポーカーの行われているテーブルの横には、誰かのペットと思われる猿がエサを食べている。

 他の三人も民間人ではない様子が感じ取れたが、モラン大佐と思われる人物はそれ以上“凄み”を身に纏っていた。

 流石はホームズシリーズにおけるナンバー2の悪投であると、アクアは感じ取った。

 

「一枚チェンジだ」

 

 モラン大佐の正面に座る男性がカードのチェンジを行う。

 その直後、アクアは奇妙な光景を目にした。

(あの猿……男がカードを受け取った瞬間にエサを食べた? …………なるほど、そう言うことか。モラン大佐、抜け目ないヤツだな)

 アクアは目にした光景により、モラン大佐の危険度を一段階引き上げた。

 その時。

 …………トントン

 ふと、誰かに肩を叩かれた。

(────ッ!!)

 誰かに気づかれたか? そう思い、急いで振り向くアクア。そこにいたのは、イタズラが成功した子供(実際に子供)のような笑みを浮かべた二人の少年、諸星と滝沢の二人がいた。

 どうやら肩を叩いてきたのは諸星のようである。

 

「よお、赤髪。なんか見えたか?」

「おっ、お前ら」

 

 どうしてここにいる、とアクアが言う前に、滝沢がアクアに対して告げた。

 

「いくら工藤さんの子供とはいえ、お前だけに手柄は一人占めさせねぇよ」

「…………分かった。ただし、大人しくはしてろよ?」

「それはこっちの台詞だぜ」

「なら安心だ。ちなみに手前にいるのが、モラン大佐だ」

 

 アクアが二人にモラン大佐の場所を伝えると、諸星と滝沢もアクアと同じように物陰からモラン大佐の様子をうかがった。

 その頃、丁度モラン大佐達のポーカーの勝負が行われた。

 

「この勝負、頂いた。ストレート」

 

 男は勝利を確信したように、モラン大佐へ手札を開示する。だが、相対するモラン大佐は微塵も焦りなど感じさせない様子で、カードを開示した。

 

「悪いな。フラッシュだ」

「なにぃっ?! くそッ!!」

「ハハッ、今夜はツイているなぁ」

 

 男は悔しがり、モラン大佐は男が賭けていたチップを全て奪っていく。勝てると思っていた男は頭を抱え、ひどく悔しがる。

 

「あのモラン大佐ってヤツ、ギャンブル強いんだな」

「イカサマだよ」

「なに? どう言うことだよ赤髪」

 

 諸星の疑問に、アクアはモラン大佐の勝ちの秘密について説明をする。

 

「テーブルの奥にいる猿。あれはおそらくモラン大佐の飼い猿だ」

「そうかもしれないが、猿が何のイカサマをしてんだよ」

「食べているエサだよ」

「エサ?」

 

 モラン大佐の飼っていると思われる猿、その猿は赤と黒の身を食べていた。

 相手の手札を見て、右と左の手で食べるエサにて手札をモラン大佐へ伝えていたのである。

 右手でクローバーとハートを、左手でスペードとダイヤを示す。

 後は対応する色と数字にあわせて身を食べることで、モラン大佐は相手の手札を知ることが出来たのだ。

 それらのからくりをアクアは諸星へ伝えると、諸星の顔が怒りに染まる。

 

「んだよ、それ。警視副総監の孫の目の前で、そんなイカサマなんざするなんて、許せるかよ」

「も、諸星? おい?!」

 

 滝沢の制止の声も虚しく、諸星はフロアの方へと歩いていく。

 本来ならアクアも全力で止める筈なのだが、そのアクアは別のことに思考がとられていた。

(あの空席……もしかして)

 アクアがより深く考え込もうとした。

 その時、

 

「イカサマだッ!!」

「なにっ?!」

「──っ」

 

 諸星の凛とした声が、フロア中に響いた。

(嘘だろ?! 大人しくしろって言ったってのにッ!!)

 アクアが心で悪態をつくも、ここで飛び出すのが悪手であるため、動けないでいた。

 その間にも、諸星はアクアから聞いたカラクリについて、モラン大佐達へ説明をし始める。

 

「モラン大佐、あんたはイカサマをしたッ!!」

「──ほぉ、中々面白いことを言うな。しかし、イカサマの証拠でもあるのかね?」

「証拠ならあるさ。あんたの友達の猿が、その証拠だよ。右手と左手でカードの種類を表し、食べた実の数で数字を表す。右手で赤い実を三つ食べたら、ハートの3って具合にな」

「……ぬぅ」

 

 諸星が話すアクアの推理が当たっていたようで、モラン大佐は言葉に詰まった。

 その様子を見た男は驚愕し、モラン大佐へ問い詰めた。

 

「なんだと?! 汚いぞ、モラン!!」

「ふん、この程度のイカサマに気づけない貴様が間抜けなのだよ」

「なぁにぃー?!」

「まぁ、待て。ところで小僧、俺のイカサマを指摘して何がしたい? わざわざこんなところに来て、何の目的もないわけではあるまい?」

「それなら一つ。イカサマをロンドン中にバラされたくなかったら、教えな。モリアーティ教授はどこにいる?」

「なぁッ?!」

 

 諸星の語る名前に、モラン大佐の顔は驚愕に染まった。

 なぜその名前を子どもが知っている。そして呼び捨てにするような言い方に対する怒りの二つによって。

 

「……小僧、口の利き方には気を付けろよ。あのお方の居場所を教えろだと? どうやら命が惜しくないようだな」

「口の利きかたに気を付けるのはオッサンの方だぜ? いいのか? モラン大佐ともあろうお方が、トランプで女々しくイカサマをしたってロンドンで知れ渡ってしまっても」

「…………なるほど。それは少しだけ困るな」

「だったら────「貴様を殺すことにするさ」───えっ?」

 

 パァン。と、乾いた音がフロアに広がった。

 気がつけばモラン大佐の手には煙をあげる銃が握られており、諸星は恐る恐る自分の足元に目をやった。

 そこには真新しい銃痕で出来上がっていた。

 突然の非現実的な出来事に、諸星は硬直した。

 そんな諸星の様子を見て、モラン大佐は小僧がただの子供だと判断し、大声で叫んだ。

 

「ガキを捕まえろ!! 絶対に逃がすな!!」

 

 その言葉に出入り口側にいた男達が一斉に動き出す。

 どうやらトランプクラブにいた男達は“全員がモラン大佐手下”であったのだ。

 

「うっ、うわぁあああぁあっ!?」

 

 このままでは不味い、と。諸星は取り乱しながらも、その場から逃げ出そうとする。

 だが、その行く手をモラン大佐手下達が塞ぐ。

 その様子の一部始終を見ていたアクアは、もう隠れることは不可能だと考え、諸星を助け出そうと動き出す。

 

「このガキー!!」

「────っちぃ」

 

 だが、アクアの姿を見たモラン大佐手下に当然見かってしまい、その手を逃れるように動くアクア。

 テーブルの上を滑り、そしてテーブルを倒して盾として手下の動きを止める。

(不味い、このままだと諸星君が危ない)

 どうにかして助け出さねばならないとアクアが考えていると、事態は更なる混乱が待ち受けていた。

 

「加勢するぜ、アクア!!」

「助太刀します!!」

「おっ、お兄ちゃん大丈夫?!」

「あなた達、ちょっと待ちなさい!!」

 

 騒ぎを聞き付けたのか、少年探偵団がトランプクラブへとやって来たのだ。

 さらに、彼らだけではない。

 

「諸星君、大丈夫ですか?!」

「俺もやってやるぜ!!」

 

 諸星の仲間二人も、やって来た。

 つまり、全員がトランプクラブへと来てしまったのだ。

(おいおい、冗談だろ。全員参加じゃねぇか?!)

 いくら加勢に来てくれたとはいえ、相手は大人。最悪“全員がゲームオーバーになってしまう”可能性が出てきてしまった。

 アクアはどうにか収拾をつけようとするも、すでにトランプクラブは乱闘騒ぎと化してしまった。

 大人の何人かは子供達の連携で気絶させていってはいるものの、何時誰がヤられてしまうか油断できない状態である。

(なんとか、何とかしなければ!!)

 そんなアクアが少しだけ考えに時間をとられてしまった時だ。

 

「くたばれ!!」

「あっ、危ないアクア君!!」

「菊川君?!」

 

 手下の一人が椅子を振りかぶり、アクアへと振り下ろそうとしていた。

 それに気づいた菊川が、アクアを抱き込むか形で庇った。

 バキッ、と大きな音を立てて崩れる椅子。それと対称的に菊川君に傷は一つもついていなかったが、庇う前と後で決定的な違いが生じていた。

 

「あはは……ゲームオーバー、みたいですね」

「菊川君……」

 

 菊川の身体に虹色の線が何度も走りだし、次の瞬間には彼の足元から輪っかの形をした光が走り出す。

 その光は菊川の身体を足元から上り、消して行く。

 

「そう気を落とさないでくださいアクア君。僕は年上として当然の事をしただけです。ゲームのクリア、お願いしますね」

 

 アクアへとゲームクリアを託し、菊川はこの世界から消滅した。

 このゲーム開始してから、初のゲームオーバーが出てしまった。

 

「くそッ!!」

 

 アクアは自分の不甲斐なさを感じつつも、助けてもらったこの瞬間を無駄にはできないと、今度は周りに注意しながら考える。この状況を打開する方法を。

 しかしその間にも、ゲームの魔の手が、子供達へと襲いかかる。

 

「危ない、歩美ちゃん!!」

「きゃ?! あっ、ありがとう光彦君」

「いっ、いや~。この程度大したことありませんよ」

 

 歩美が襲われそうになっているのを、光彦がスライディングして手下を転ばせ助け出す。

 そんな光彦の姿に歩美は感謝し、光彦も満更ではない表情を浮かべて照れていた。

 時間にして数秒の停止。その数秒が命取りだった。

 

「ふん!!」

「オラァ!!」

「「えっ?」」

 

 パリン!! と、二人の頭に酒瓶が叩きつけられた。

 

「光彦!! 歩美!!」

「光彦君、歩美ちゃん?! このッ!!」

「ぐへっ!?」

「ガハッ?!」

 

 急ぎアクアと灰原が酒瓶と灰皿を投げつけて手下を気絶させるも、時はすでに遅かった。

 アクアと灰原が駆けつける頃には、二人の足元から光が上り始めていた。

 ゲームオーバーの印である。

 

「あー、やってしまいました。アクア君、灰原さん。ゲームクリアを頼みます」

「ごめんね、アクア君、灰原ちゃん。私たち、先に待ってるね」

 

 そう言い残し、二人はゲームから消滅した。

 早くも、三人がゲームオーバーとなってしまった。

 また、それと同時期に、

 

「あぶない、諸星ッ!!」

「あぶねぇ、ルビー!!」

 

 諸星の元にたどり着いた江守と、ルビーの近くにいた元太。

 互いに違う場所でありながら、二人とも放たれようとする銃弾に気づいた。

 そして──パァン!! 乾いた音が二つなった。

 

「江守? おい、江守!!」

「へへっ、無事だったか諸星。俺はここまでだけどよ、ゲームクリアはお前に託したぜ」

 

「あちゃー、やられちまったか」

「げ、元太くん?」

「ルビー、少年探偵団としてジャック・ザ・リッパーになんか負けんじゃねぇぞ?」

 

 二人は守った相手に最後の言葉を残し、他のゲームオーバーとなったプレイヤーと同様に光に包まれ消えていった。

 その姿を見て、呆然と立ち竦んでしまう二人。

 

「おい、このまま留まってたらヤバイって!!」

「あっ、あぁ」

 

 諸星の方はどうにか助けに来れた滝沢により動き出す。

 だが、

 

「あっ………」

 

 近くに誰もいないルビーは一人、その場に取り残されてしまった。

(ッ?! 不味いッ!! このままじゃルビーがッ!!)

 その姿を目にしてしまったアクアは必死で頭を働かせた。

 この状況でルビーを確実に守れる方法を考える。

 助けにいく? いや、最悪二人同時にやられてしまう。

 声をかける? ダメだ。呆然と立ち竦んでいる状況で呼び掛けても意味がない。

 諦める? それは一番あり得ない!!

(考えろ。絶対にある筈だ。この状況での起死回生の一手が──あれは?)

 ふと、アクアはあるものが目に入った。

 それは一人の男だった。

 その男は大事そうにワイン瓶を抱え込んでいた。この状況、酒瓶で子供達へ襲いかかってくる中、どうして“武器にしない”のか。そしてあのワイン瓶はモラン大佐が興じていたポーカーのテーブルの空席に置かれていたもの。

(─────ッ!! もしかしたら、いける!!)

 それらを考えたアクアの脳裏に、“父親譲り”の電流が走った。

 自分の考えが正しければ、皆が助かる起死回生の一手となりうる可能性が、彼の中に生まれた。

 もしかしたら失敗するかもしれない。けれど、それ以上に行動しなければどのみち全滅してしまう。

 そう結論付けたアクアは、一直線にワイン瓶を持った男へと向かった。

 男もまさか向かってくるとは思っていなかったのか、アクアが目の前に来るまで無防備に突っ立っていた。

 今しかチャンスはない。

 アクアは男へと飛びかかり、ワイン瓶を奪い取る。

 

「こっ、こいつッ?!」

「いいから、よこせっ!!」

「こっ、このガキッ?!」

 

 男とモラン大佐がアクアに対して悪態をつき、さらにモラン大佐はアクアへと銃口を向ける。

 しかし、その時にはもう、彼らにとって手遅れだった。

 

「おっ、お兄ちゃん?」

「大丈夫だルビー、俺が何とかする」

 

 ワイン瓶を奪い取った時の勢いでルビーの元にたどり着いたアクアはルビーを背中へと庇いつつ、モラン大佐達へ見えるようにワイン瓶を掲げた。

 そしてモラン大佐達へと話しかける。

 

「俺を撃ってもいいぜ? けど、そしたらこのワイン瓶は割ってしまうかもな?」

「…………それがどうした? たかがワイン瓶だぞ?」

 

 モラン大佐は額に汗を浮かべながらも、銃口をアクアへと向ける。

(やはり、思った通りだ)

 この時点で、アクアは“勝ち”を確信した。

 自分の父親がそうしたように、銃に臆することなくアクアはモラン大佐へと告げる。

 

「そう? 貴方にそれができるの? “モリアーティ教授のワイン瓶”を割ることができるんですか?」

「────ッ。それはただのワインかも知れないのだぞ?」

「そう、じゃあ撃ってみなよ。このワイン瓶が粉々になってもいいならね?」

「ッ……」

 

 モラン大佐が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

(さぁ、ここが分かれ目だ。モラン大佐がモリアーティ教授の事をどこまで恐れているのか)

 

「…………後悔するなよ?」

「あぁ、しねぇよ」

 

 モラン大佐が銃の撃鉄を上げる。

 その姿を前にしても、アクアは臆することなくモラン大佐を睨み付けた。

 睨み合う両者。数秒間時が制止したと錯覚するほどに、彼らの間の緊張が高まる。

 ゆっくりと、モラン大佐は銃の引き金に指をかける。

 それでもアクアは一歩たりとも動かない。

 遂にモラン大佐が銃の引き金を引こうとした。

 その瞬間────。

 

「モリアーティ様が皆様にお会いしたいと仰っています」

「ッ?!」

「あっ、貴方様はッ?!」

 

 突然出入り口より、一人の老人が姿を表した。

 誰もがその老人へと顔を向けた。それはモラン大佐も例外ではない。

 モラン大佐は急ぎ銃を下ろし、老人へと話しかけた。

 

「しっ、しかしあれは────」

「モリアーティ様がお待ちですとお伝えしました。それとも、モリアーティ様に逆らうおつもりですか?」

「───わかり、ました」

「よろしい。では子供達の皆様、私についてきてください」

 

 子供達を案内するように、老人は裏口より外へと出ていく。

 その頃にはモラン大佐を始めとした男達は力なく腕を下ろし、襲ってくる様子は微塵も感じられなくなっていた。

 

「お兄ちゃん? もしかしてあの人って……」

「あぁ。けど、せっかくモリアーティ教授が会ってくれるって言ってるんだ。ついて行こうぜ」

 

 老人の後を、生き残った五人はついていった。

 

◯ ◯ ◯

 

 老人の後に続くと、そこには一代の馬車が止まっていた。

 

「皆様をお連れしました」

「ご苦労。さて坊や、そのワインを頂こう」

「分かりました。どうぞ」

 

 モリアーティ教授と思われる人物より言われ、アクアは老人へとワインを渡した。

(ん? この香り……あぁ、そう言うことか)

 渡す瞬間、アクアは老人からハーブ系の香りがすることに気づいた。

 先程のモラン大佐の件と、今回の香りで一つの結論に至った。

 アクアは馬車に乗っている男性ではなく、“案内してくれた老人”へと話しかけた。

 

「ところで、見定めは終わりましたか?」

「…………それはどういう意味かね?」

 

 馬車に乗っている男性から話しかけられるが、アクアは一向に視線を老人から逸らさなかった。

 

「言葉を通りの意味です。そこにいる“モリアーティ教授”のお眼鏡には叶いましたかと、訪ねているのです」

「………なるほど。そういう意味ね、アクア君」

 

 アクアの突然の物言いに、納得する灰原を除いて全員が驚く。

 それは老人も同じだったようだ。

 

「フフフフフッ。やはりホームズの小飼たちは侮れんなぁ」

 

 そう言いながら、老人は深く被っていた帽子を取る。

 そこには明らかに異質の空気を見にまとった人物がいた。

 シャーロック・ホームズの宿敵、モリアーティ教授だ。

 

「何時から気づいていたのかね?」

「モラン大佐が貴方様と言っていました。そしてモリアーティ教授は天然ハーブ系のコロンを好むと“父から”よく教わっていたので」

「ほぉ、流石だ。まるでミニホームズを見ているようだ。それで、私に何のようかね?」

 

 モリアーティ教授は少し機嫌よくアクアへと訪ねた。

 どうやら教授のお眼鏡には叶ったようだ。そう判断したアクアは直球で用件を訪ねることにした。

 

「ジャック・ザ・リッパーは貴方が関わっていると思っています。一連の事件は貴方が“彼”に指示したのですか?」

「うむ。当たらずも遠からずだ。確かに私は彼を育てた。だが、一連の事件はあの子の“暴走”によるものだよ」

 

 そうしてモリアーティ教授はジャック・ザ・リッパーとの関係について話し始めた。

 もともとジャック・ザ・リッパーは貧民街の浮浪児だった。

 それを偶然見かけたモリアーティ教授は一目で見抜いた。

 彼は優秀な殺し屋になると、犯罪者の審美眼によって。

 そこからはモリアーティ教授はジャック・ザ・リッパーに殺しの技術を伝授することとなったのである。

 しかし、次第にジャック・ザ・リッパーはモリアーティ教授の想像を超えることになった。

 

「既にあの子は私が想像するよりも大きく殺人鬼としての才能を開花してしまった。そこでだ」

 

 モリアーティ教授は、アクア達に一つの提案を持ちかけてきた。

 

「君たちがジャック・ザ・リッパーを捕まえたいのなら、私も協力しようじゃないか」

「協力?」

「既にジャック・ザ・リッパーは私の手には負えぬのでな。どうにかしてもらえるのであれば、私としてもありがたい。それに、暴走していても私が殺しの指令を送れば、まだ従う筈だ。君たちがそこに先回りしたまえ」

「どうやってですか? それに誰を殺すおつもりで?」

「明日のサンデー・タイムズの広告に彼へのメッセージを送る。それを見て推理したまえ、リトルホームズ。幸運を祈るよ」

 

 そう言い残し、馬車へと乗り込んだモリアーティ教授は闇夜へと消えていくのであった。

 得るものは得た。

 だが、それ以上に大きな犠牲が生じてしまい、アクアの心を蝕むのであった。

 

「アクア君。取り敢えず、今は彼の元に戻りましょう」

「お兄ちゃん?」

「………あぁ、そうしよう」

「なぁ赤髪」

「諸星君?」

 

 晋一の元へと戻ろうとしていると、諸星と滝沢が突然アクアへと頭を下げた。

 

「すまなかった。謝っても許されないかもしれねぇ。俺の身勝手な行動のせいで五人もゲームオーバーにさせちまった」

「俺も諸星を止めれなかった。悪い!!」

「……まぁ、済んだことは仕方ねぇさ。今は父さんのところに戻ろう」

「貴方達がそう思えたのだけでも、一歩前進じゃない?」

「赤髪、茶髪…………本当にすまねぇ」

 

 こうして図らずも子供達の間に絆が深まり、ダウンタウンのトランプクラブの一件が幕を下ろすのだった。

 

◯ ◯ ◯

 

「なるほどな。つまり明日の新聞にはモリアーティ教授からジャック・ザ・リッパーへの指令が下るって分けか」

「あぁ。それに父さんが受け取ったレストレード警部の資料。これとホームズの資料があれば、ジャック・ザ・リッパーの決定的な手がかりが見つかりそうだ」

「だな。一先ずは俺の手助け無しに考えてみな、アクア。今のお前なら、十分に真実に辿り着ける筈さ」

「分かった。それで、父さんはどうするの?」

「俺か? 俺はジャック・ザ・リッパーが“逃げ出せない策”でも考えておくさ」

「それってどういこと?」

「言葉通りさ。俺は捕まえることはできなくても、“逃がさない”事はできるからな」

「んー?」

 

 アクアが頭を悩ませるように首をかしげる。

 まあ、こればっかりは場数を踏まないと分からないか。捕まえることと、逃がさない事は別物なんだよなぁ。

 悩むアクアを見て、探偵としてはまだまだひよっこだと思う俺であった。

(まあ、この感性に至るレベルでアクアが事件に巻き込まれてほしくねぇけどな。それはそうと、ノアズ・アークについても整理しとかないとな。アクアの話も本当だとしたら、…………が怪しいが、どうだろうなぁ~。まっ、明日を待つしかねぇか)

 アクアが推理を纏めた頃を見計らい、俺たちは体を休めることにした。

 俺の探偵としての感が囁く。

 明日、全てに決着がつくと。

 

 

◯ ◯ ◯

 

 翌日。

 ハドソン婦人より渡されたサンデー・タイムズにて、俺たちはモリアーティ教授の指令を見つけた。

 

《今宵、オペラ劇場の掃除をされたし。MよりJへ》

 

 そして新聞にはオペラ劇場の情報も掲載されていた。

 

《凱旋公演! ワルシャワ王室オペラのプリマドンナ、アイリーン・アドラー》

 

「父さん、これってつまり」

「あぁ。モリアーティ教授、手伝うとか言いながら抜け目ねぇなぁ、ほんと」

 

 モリアーティ教授はホームズの唯一愛したとされる女性を殺せと、ジャック・ザ・リッパーに指令を出したのであった。

 

 




今後の予定
ベイカー街編終了後、コナンの子育て編かコナンとは関係のない短編を一つ投稿したいと考えています。
コナンに関係ない方につきましては、フォーカスするのは推しの子ファンから絶大なる不人気を誇る男性と、東映版のあの人。
この作品に投稿するか、それとも新しいシリーズとして投稿するかは未定ですが、完成後読んでいただけたら幸いです。
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