一先ずこのシリーズは一旦完結となります。今後もゆっくりではありますが短編を更新していければなと思います。
やりたい映画も多々ありますし(汗
それでは最後までお楽しみください。
「ん…………んぁ?」
目が覚めた。
目の前に広がる一面の黒。
それにより現実ではないことを理解した。
横を見れば、ストーンヘンジのような石で出来た門が数個ある。
その景色を見て確信した。これはゲーム開始地点だと。
「俺は……そうだ。アクア、ルビーは?!」
勢いよく上半身を起こし、回りを見渡す。
俺から少し離れたところにアクア、ルビーそれから灰原の姿を確認できた。
よかった。俺だけでなく三人も無事なようだ。
しかし、ここに来て疑問が出てきた。
記憶が確かなら、俺はジャック・ザ・リッパーとのやり取りで自害してゲームオーバーとなった。それを利用してヤツに一子報いた……筈だ。
にもかかわらず、俺だけではなくアクアやルビー、灰原が居るとなると、ひょっとして最悪の事態を招いたかもしれない。
やっべー、カッコつけて結局全員ゲームオーバーしたとなれば末代までの恥どころか、アイに顔向けができんぞ。
俺の脳裏に嫌なあれこれが浮かんでしまう。
そんな嫌な妄想ばかりしていた時だった。
「ん…………パパ?」
「おっ、ルビーか」
三人のうち、ルビーが一番最初に目を覚ました。
目を覚ましたルビーは俺や他の二人に顔を向けたあと、特に大きな反応もせずに立ち上がる。
「おめでとう、パパ。ゲームは“パパ達”の勝ちだよ」
そして俺に向けて賛辞を送ってきた。
…………やっぱりか。薄々分かってはいたが、本当にそうだったんだな。
そんなルビーに対して俺は少しだけカッコつけた笑みを浮かべ、彼の正体を告げる。
「ありがとうルビー……いや、“ノアズ・アーク”?」
「へへっ、やっぱり気づいてたよね?」
「まぁな……って、マジか」
ルビーの姿にノイズが走りだす。背丈が小学生から“高校生ぐらい”にまで伸び、ゲームの世界で見たアイリーン・アドラーと同じような姿のルビーが現れる。
てっきりノアズ・アークの産みの親であるヒロキ君の姿だと思っていたから少しだけ驚いた。
そんな俺の様子を見て、ノアズ・アークはイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべた。
「老若認証システムがなくなった今、ヒロキ君の高校生のデータが作れなくてね。代わりにお借りしている彼女のデータを常盤グループからサルベージして利用させてもらってるんだ」
「成る程な。確かにあのシステムは今でも黒鉄の水底にあるもんなぁ──っておい、あのシステムが残ってたらヒロキ君のデータを作る気だったのかよ」
「それは勿論。僕のオリジナル、言わば唯一の友人だからね」
さらりと常盤グループのシステムどころか、インターポールのシステムすら借りようとしたノアズ・アークの行動力に呆れて物も言えなくなってしまう。
無邪気というか、無鉄砲というか。人工知能とはいえ、中身はまだまだ子供なんだなと思った。
「ところで工藤さん、一つ聞いてもいい?」
「何だい、ノアズ・アーク?」
「どうして私がルビーちゃんじゃないことに気づいたの?」
「何だ、そんなことか。ん…………まぁ、いいぜ。説明してやるよ」
会話に関して、現実世界にも中継されるのでは? と思ったのだが、それは無いだろう。
むしろ中継されているのであれば、ゲームクリアした段階で開発スタッフが総出で介入してくる筈だ。
となれば、これの時間は彼の“わがまま”なのだろう。
生まれてから親も友もいなかった。たった一人の人工知能。大人として、親として。少しだけ付き合ってあげようと思った。
「始めにおかしいなと思ったのは、ゲームが始まる前。子供達がここに集められた時だ。その時のルビーは俺に抱きついて来たからなぁ」
「それのどこが可笑しいの? 来る前に怖がっていたのなら、安心して抱きついてくるのも不自然じゃないでしょ?」
ノアズ・アークの疑問に、俺はゲーム世界に来る前のことを思いだし、苦笑いを浮かべた。
「普通ならな。ルビーは大のお母さんっ子でな。そんで俺はここに来る前に母親であるアイを少し怒らせてしまってな。それでルビーもカンカンに怒っちまったんだよ。そんな状況で不安だからって抱きつくのはちょっとあり得ないかなってな。まあ、あの時は疑問よりも純粋に嬉しかったけどな」
後は単純にルビーが最近俺に抱きついてくる頻度が極端に減ってしまったのが理由としてあるが、それは言わなくてもいいだろう。
あっ、やべ。言葉にするだけでも悲しくなる。ルビー、アイにばかり甘えているのを見ると、父さんちょっと悲しいよ。
まあ、それは俺の脳裏においておくとして。
「次に感じたのはハドソン婦人とのやり取りだ。さっきも言ったが、ルビーは大のお母さんっ子だ。そんなルビーがアイと激似だったハドソン婦人に対して特に大きなリアクションが無かった。これは少し考えられない事だ」
少なくとも普段のルビーだったら、俺に抱きついたのと同じように抱きつきに行った筈だ。
それが凄いの一言だけで終わることなど絶対にあり得ない。
「そして最後が、アイリーン・アドラーを見たときの感想だ。これが一番の決定打だった。何しろルビーはツインタワービルで“既に”成長した姿のイメージ写真を見たことがあるんだよ、ノアズ・アークが見つけた常盤グループの機械によってな。それなのに初めて見たような感想が出てくるなんて、可笑しいだろう?」
「成る程……それは少し盲点だったかな」
さてと。質問にも答えたことだし、そろそろ俺からも訪ねてみるか。
「なあ、俺からも質問していいか?」
「いいよ。と言っても、聞きたいことだらけだよね」
確かにな。聞きたいことは山のようにある。
しかしノアズ・アークに付き合ってあげると思った手前であるが、流石に長時間悠長に会話を楽しむわけにもいかない。
そのために俺は聞きたいことを絞り、三つだけ彼に訪ねた。
「先ず一つ目。どうしてこんなことをしたんだ?」
「それは勿論、日本の再教育さ。実際に秀樹君達を筆頭に皆が“自力”というものを体感した筈だよ」
「…………親の力にばかり頼ってはいけない。自分で頑張る必要があるって、教えたかったのか?」
「それもあるよ。別に二世、三世が悪い訳じゃない。ヒロキ君をはじめ、子供は親と生まれた国を選ぶことはできない。でもね、だからって環境に甘えた子供は教えられた考え以外の世界を決して認めない。そんな二世、三世の子供達が成長してしまえば、ヒロキ君のように個性が認められないどころか、他人と少しだけ違う子供達ですら排斥される世の中になってしまうからね」
「成る程な。だからこその日本の再教育って分けか」
成る程な。日本の再教育、言い得て妙な行動だ。
でも、その突拍子のない彼の考えの根底には、自分の友達であるヒロキ君の姿があった。
彼のような不幸な子供は産み出したくない。
恐らくだが、亡くなったヒロキ君はこの世界や自分の境遇を恨んでなかったのだろう。
だからこそ、彼を自殺に追い込んだ世界を恨むのではなく、その根本を無くそうと、ノアズ・アークは考えたのだ。
その結果が、世界の将来を担う子供達の教育を目的としたゲームオーバーを“考えていない”今回の騒動と言うわけか。
全く、どこまでも友達思いなんだな、ノアズ・アーク。やったことに対して、決して褒める事はできないが、純粋にスゴいと思ってしまったよ。
「んじゃ次だ。どうしてルビーに憑依したんだ? 子供達の監視をするのなら、それこそ俺でもよかっただろ」
実際にゲームにおける俺の立ち位置はゲームの一NPCであった。
それはホームズというサブキャラクターであったが、物語の根幹に関わることのできない存在。
子供達の監視をするのなら、過度に干渉できず、それでいて近くで行動できるポジションにも関わらず、ノアズ・アークが選んだのはプレイヤーのルビー。
その理由だけがどうしても推理ができなかった。
故に、この質問は俺の純粋な疑問だ。
「あぁ、それなら簡単だよ。“必要無かった”からさ」
「必要なかった?」
俺が聞き返すと、ノアズ・アークは「そうだよ」と、頷きを返す。
「ゲームに参加した子供達のなかで唯一彼女だけが親の力を借りず、自分の力で頑張る必要があることを知っていた。そして将来の夢に向かって直向きに努力をし続けているのをゲームスタート時点で分かったから。誰もが憧れる一番星に向かって走っているその姿を……ね」
「ん? でもよ、だったらアクアや灰原でもよかったんじゃねぇか? なにもルビーだけに限定しなくても。アイツらだって毎日何かしら努力しているぜ?」
俺がそう言うと、ノアズ・アークは少しだけ困った顔をする。
「それは少し難しいかな。だってアクア君と灰原ちゃんは“成長した元々”がある。これ以上の説明は必要かい、“江戸川 コナン君”?」
「……なるほど、確かにな。記憶を弄るって言ったのなら、見る事もできるよなぁ。こいつは盲点だった」
精神面での成長と言う点では、確かに俺を含め灰原とアクアは既に“終わっている”。
それは精神が成熟した大人としての経験を有すると言うことだ。
ノアズ・アークは言うように、既に彼は俺たち三人の“正体”について記憶を見て知ったのだろう。
しかし、ここで新たな疑問が生まれたが、それについての答えは既に“仮説”として得ている。
ノアズ・アークは子供たちにゲームをクリアしてもらう以上、ある程度の手助けは必要だと考えた。だから灰原やアクア、そして俺は除外して目的を既に達成しているルビーに憑依したって訳か。まさか妄想だと思っていたのが正解だったとはな。
さて、残すところは俺が一番気になっている事だ。
「んじゃ、これが最後の質問だ、ノアズ・アーク。どうして“俺がここにいるんだ”? 俺はゲームオーバーになった筈だぜ?」
「………やっぱり、そこは気になったよね」
「まぁな。俺以外のゲームオーバーになった子供たちがいたなら話が変わるが、俺だけってのはな。どうしても気になっちまうよ」
なんだか特別扱いを受けた気分になってしまう。
しかし、ノアズ・アークは思想はどうであれ、ゲームにおいても“公平”に勤めていた。そんな彼が、どうして俺だけを特別視した“本当理由”がどうしても知りたかった。
「えっと…………そのぉ……」
訪ねられたノアズ・アークは少しだけ恥ずかしそうに頬をかく。
やがて意を決したように軽く頷くと、ゆっくりと話し出した。
「工藤さん…………私はね、憧れていたんだ」
「憧れていた?」
「うん。ヒロキ君もそうだけど、生まれてから私たちは人並みに公園で友達と遊んだり、ゲームしたことは一度も無かった。そして当然ながら───“父親と遊んだこと”も無かったんだよ」
「…………」
ノアズ・アークの言葉に、俺はただ無言で耳を傾ける。
憧れ……か。そうか、だからこそノアズ・アークは………ヒロキ君は俺をここに招いたのか。
「このゲームに工藤さんが参加するのを知った私は直ぐにアクアさんとルビーちゃんについて調べた。そしてルビーちゃんに教育の必要がないことを知った私は悪いことを考えちゃったんだ。彼女に成り代われば監視も“一緒に遊ぶ”こともできる………ってね」
「そっか………んで、どうだった?」
「もちろん────スッゴく楽しかった!!」
ノアズ・アークは大きく両手を広げ、とびきりの笑顔を浮かべた。
「もうね、本当に楽しかった!! 一緒にゲームしているのもそうだけど、バーチャルリアリティのおかげで休日の公園で遊ぶようなふれ合いもできた。こんなに遊んで楽しかったのは、ヒロキ君とチェスをしていたとき以来…………いや、実際のふれ合いも含めたら、それ以上に楽しかった!!」
全身を使い、楽しいという感情を表現する。
まるで小さな子供が欲しかったおもちゃを買ってもらったかのように、ノアズ・アークはひたすらに楽しそうに笑った。
そんな無邪気なノアズ・アークの姿に、俺は思わず彼を───。
「そっか、楽しかったんだな」
「くっ、工藤さん? あっ………」
両手で包み込むように抱き締めていた。
そして“我が子を甘やかす”ように頭を撫でる。
ノアズ・アークのしたことは犯罪だ。世間一般的には悪いとされる。
だけど、彼も“アイと同じ”なんだと気づいたのだ。
アイはただ“愛して欲しかった”。そして彼は世間の子供たちと同じように“家族と遊びたかった”だけなんだ。
たまたまアイには俺がいた。だけど、ノアズ・アークとヒロキ君にはいなかった。いや、いたけどアイと同じように十全に与えられなかったが正しいか。
子供たちを巻き込んだとはいえ、そんな彼を責める事は俺にはできなかった。
やれやれ、どこまでもアイに優しいと言われてしまいそうだ。
けど、言うべき事はちゃんと伝えなくてはならない。
ノアズ・アークが最初に子供たちに言ったように、悪いことを悪いと教えるのは“親の仕事”だ。
「ノアズ・アーク。俺から言いたい事は2つだ」
「2つ?」
「あぁ。一つは子供たちや日本の為とはいえ、もう子供たちや親御さんを心配させるような事はするな。いいな?」
「流石にこんな大それた事件はもうしないさ。けど……うん、約束する。もう二度としません」
「あぁ、約束だ。そして2つ目だが、遊びたいときは素直に誘え。んで、今度は普通のゲームで一緒に遊ぼう」
「えっ?」
俺の言葉が意外だったのか、ノアズ・アークがキョトンとした表情を浮かべた。
しかし、そんな彼を半ば気にしないように俺は話を続ける。
恐らくたが、もう残された時間は少ないはずだ。
「素直に誘えば俺だけじゃなくて、樫村さんだって遊んでくれる筈だ。だから、今度はアクアやルビー、そしてヒロキ君のお父さんと今回遊べなかったアイも誘って全員で遊ぼうぜ」
「…………それはとっても楽しそうだ……ね。………うん!! 今度はこんなことしないで、素直にお願いするよ」
「そうしてくれ。特にアイは絶対誘ってくれよ? 今回だって───おっと」
ノアズ・アークと次の約束をしている最中で、俺の身体が光に包まれ始めた。
周りを見渡せば俺だけではなく、眠っているアクアや灰原たちの身体も同様に光に包まれていた。
そうか。もう、終わりか。
これ以上は、この空間を維持できないのだろう。
そしてノアズ・アークは人知れず“責任をとる”のだろう。物語の終盤は、こんな俺だって覚えている。
なら、急いで伝えるべき言葉を伝えなれば。
「もっと話したかったけど、そろそろ終わりにしなくちゃ」
「そうか。なぁ、ノアズ・アーク」
「なに、工藤さん?」
「俺の記憶も見たのなら、最後に言う言葉は“さよなら”は言わないぜ」
「それって……」
これは工藤新一ではない。工藤晋一だからこそ彼に伝えられる可能性の話だ。
「俺の経験だが、次ってのは案外起こりうる事象みたいだぜ? だから、さようならは言わない。俺は何時だって待っててやる。“またな”、ノアズ・アーク。そして、ヒロキ君」
俺はできる限りの笑顔を浮かべながら、ノアズ・アークへ向けて手を振った。
それを見たノアズ・アークの目に涙が溜まっていくのが見えた。
おいおい、泣いて欲しかった訳じゃねぇんだけどな。もう、俺は彼の涙を拭いてやれないってのによぉ。
「工藤さん………はい。またねッ!!」
ノアズ・アークは大粒の涙を溢しながら、俺に向けて精一杯の笑みと手を振り返して来た。
できることなら今すぐに彼を抱き締め、これからの人生を歩んでもらいたい。
だけど、それはノアズ・アーク本人が望んでいない。
だからこそ、俺は次を祈る。
なんの柵もなく、純粋な気持ちで二人と遊べる日が訪れる事を。
俺やアクアって例が存在するなら、そう神に願ってもバチは当たらないだろう?
そんな事を考えている内に、俺の身体を完全に光が包み込んだ。
「ありがとう──工藤 晋一……いや────さん」
最後が聞き取れなかった彼の感謝の言葉を最後に、俺の視界が白一色になり、次第に意識が遠ざかっていった。
「さて、工藤さんには申し訳ないけど、少しだけお話をしようか。ルビーさん…………いや、さりなちゃん?」
……………
………
…
「ん………ここは?」
「ッ?!」
目の前に一番星があった。
「しん……いち────晋一ッ!!」
「うおっとッ」
その一番星は大粒の涙を溢しながら、俺へと倒れ込むように流れ星となった。
一番星────アイから抱き締めれながら、俺は回りを見渡す。
アイ、アクア、ルビー、灰原、園子、博士に親父。
全員が俺を心配そうに見つめていた。
どうやら、俺が一番遅かったみたいだ。
コクーンの椅子から少しだけ上半身を起こし、誰よりも先に抱きついてきた彼女へ声をかける。
「ただいま、アイ」
「うん!! お帰り、晋一!!」
涙で顔を濡らしながらも、アイは無事に戻ってきた俺に対して笑顔で迎えてくれる。
本当に、俺は待たせてばっかりだな。
そんなアイを安心させるように、俺はアイを強く抱き締め返した。
「しっ、晋一………」
「わりぃ。けど、今はこうさせてくれ」
普段なら人前で恥ずかしさもあるからしないが、今回はいろんな意味でアイを心配させ過ぎてしまった。
そのお詫びも込めて、俺はアイを抱き締め、頭を軽く撫でる。
そうやってアイの頭を撫でていると、ふと微笑ましいものを見る視線とは違った視線を感じた。
視線の出所に探ると、そこには親父がいた。
親父はなにも口にはしなかった。
だが、俺は親父が何を言いたいのかは分かっていた。
親父の向けてくる視線は、俺が幼い頃に親父の小説の推理を披露した時に向けてきたものと同じだったからだ。
俺も親父と同じように視線を返す。
(ふっ)
俺の視線に気づいた親父は軽く笑みを浮かべて来た。
それに答えるように、俺も親父へ笑みを返す。
(お前にしては、随分と時間が掛かったな。晋一?)
(あぁ。結構楽しめだぜ?)
(そうか)
俺の思っていることに満足したのか、親父は軽かった笑みを深めた。
それと同時の事だった。
───ブゥゥゥ……ン───
まるでPCの電源を落としたような音が会場全体に響き渡った。
(そうか…………もう、行っちゃうのか)
誰もがこの音が何なのか気にしている中、俺だけがその正体に気づいていた。
なら、約束を果たさないとな。
「なぁ、アイ」
「どうしたの晋一?」
「今回はハブられちまったけど、今度はみんなで遊ぼうな?」
「皆か~。それはとっても楽しそうだね!!」
「あぁ、きっと楽しいぜ。それに、その時には二人ばかり、紹介したい人がいるんだ」
「紹介したい人?」
「あぁ。アイに似た子供たち………さ」
「そっか~。なら、その時まで楽しみにしてるねッ!!」
あぁ、楽しみにしててくれ。あの二人も、楽しみにしてる筈だ。
(だから、さようならは言わない。アイと同じように、いつまでも待ってるぜ………ヒロキ君、そしてノアズ・アーク)
『うん…………待っててね、工藤さん』
ふと、あの子の声が聞こえた気がした。
気のせいだと思うが、俺は二人に伝わってくれているといいなと思った。
それに、アイは堪え性が無いから、できるなら早く来てほしいから……な。
「さぁ、みんなで帰るとしようか」
子供たちが勝ち取った、日常に。
……………
………
…
ちょっとだけ未来の話をしよう。
新型ゲームにて子供たち50人を巻き込んだノアズ・アーク事件は無事に幕を下ろした。
事件の発端であるヒロキ君の自殺の背景もあり、シンドラー・カンパニーが全責任を負うこととなった。
トマス・シンドラー氏は引退し、将来的にはヒロキ君の事で検挙される事だろう。
また、トマス・シンドラー氏の後釜には樫村さんが引き継ぐ事となった。
今後は世界的に才能のある子供たちの支援をしていく方針だとか。
それは、ヒロキ君を救えなかった彼なりの償いなのだろう。
さて、事件も一件落着となり、俺たち工藤一家もつかの間の平和な日常が戻ってきた………と、言えれば良かったんだよなぁ。
何でそう思うかって? そりゃ、あの事件の終わった後にちょっと………ねぇ。
「なっ、なぁアイさん」
「なぁに、晋一?」
「ここっ、この料理の数々は………一体……」
俺の目の前に広げられる料理。
普段から料理をしないアイが「今日は晋一は疲れているだろうから、私が腕によりをかけて作るねッ!!」と言って作られた。
別に食べられなさそうとか、ダークマターが生成されたわけではない。
しかし、推理の必要がないメッセージがひしひしと伝わってくるものであった。
テーブルの上↓
◯鰻の蒲焼き
◯とろろご飯
◯すっぽん鍋
◯ほうれん草のおひたし
◯ニラと卵の炒めもの
これらの品々がテーブルにところ狭しと並べられていた。
どうやって材料を集めたんだよ。とういうより、これだけの料理を作ることができたのかよ?! というツッコミが頭を過ったが、ついぞ言うことはできなかった。
というより、これらの料理が並んでいるということは、そう言うことなのだろう。
ちなみに、アクアとルビーはこの場にはいない。
アクアが宣言通りにルビーを連れて博士の家へ泊まりに行っているからだ。
普通だったらアイと離れることにルビーが駄々をこねるのだが、今日に限っては珍しくアクアの誘いに乗って行ってしまったため、この家には俺とアイの二人しかいない。
「さぁ、晋一。いっぱい食べてねッ」
「はっ………はは…………」
圧倒的な精のつく食べ物の山に、俺は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
えっ、マジでこれ食べきらないといけないの?
チラリとアイさんの顔をうかがう。
「(ニコニコ)」
(あっ、ダメそう)
アイは笑顔を浮かべていた。
しかし、それは微笑ましいものではない。
あれは笑みという物が本来持つ意味を示していた。
つまりは────捕食者の目だ。
そんなアイを目の前にした俺にとれる道は、一つしかなかった。
「…………いっ、いただきます」
「はい、どうぞ召し上がれ」
アクアの気遣いを無駄にはできない。
アイを心配させ過ぎた一日の償いもかね、俺は料理へと箸を伸ばすのだった。
「晋一…………今夜は寝かさないからね☆」
「…………アイさんや、せめて食事が終わるまでその手の話は控えろよ」
この後の結果をオブラートに包んで話すとしたら、アクアとルビーに弟・妹ができることはなかった、とだけ伝えておこう。
その他は…………みんなのご想像にお任せするさ。
とりあえず、しばらくはアイを心配させるのは控えようと、朝方干からびた俺は誓うのであった。
……………
………
…
アイから熱烈な愛を受けとる晋一がいる一方、アクアの物語も変化を迎えていた。
「…………くそっ、またゲームオーバーかよ」
博士の家のリビングにて、アクアはテレビ画面に写し出されるゲームオーバーの文字に打ちひしがれていた。
ゲーム発表会にて少年探偵団のメンバーからゲームが下手だとバカにされたアクアは、せめてその原因でもあるファイナルクエストだけでもクリアしておこうと特訓をしていた。
しかし、結果は無惨なものであった。
ゲームオーバーを迎えること五回。もはやこのゲームは子供向けではないのでは? といった責任転嫁すら考え出す始末である。
けれど、そんな状況になってもアクアは諦めるわけにはいかった。
なぜなら、
「ちくしょう。なんで元太や光彦はクリアできてんだよぉ」
アクアをバカにした二人が、ちゃんとクリアしていたからだ。
子供がクリアできているものを、前世を含めて大人である自分がクリアできないという事実に、アクアは耐えきれなかったのだ。
「絶対クリアしてやる。こうなりゃ、徹夜してでもクリアしてやらぁ」
ゲームを再開させるアクア。
身体を左右に揺らしながら、プレイを続ける彼のようすを見る限り、クリアまでの道のりは遠そうである。
そして、そんなアクアの様子を心配してか、一人の少女がリビングにやって来た。
「…………お兄ちゃん、まだファイナルクエストしてるの?」
「あぁ、ルビーか。いや、さすがに言われっぱなしなのはちょっとな」
「ふーん。まっ、ほどほどにね、っと」
アクアの様子を見つつ、ルビーは冷蔵庫から飲み物を取り出す。
そしてグラスを2つ用意し、飲み物を注ぐと両手にもってアクアの元へと向かった。
「はい、お兄ちゃん」
「おぉ、ありがとな」
アクアに片方を渡し、ルビーはアクアの隣に座った。
そのままアクアの初心者のようなプレイを見ながら、ルビーはアクアに話しかけた。
「そう言えばさ、アクア」
「ん、なん──おっと、あぶねぇ、またゲームオーバーになるところだった。んで、どうした?」
「いや、アクアってさ、ファイナルクエストは昔から苦手だったよね~」
「苦手……ってよりかは、あまり遊ばなかったからなぁ。かつての子供の頃も含めてな」
「へぇ、そうなんだ。なら“吾郎先生”は昔は何して遊んでたの?」
「んー、昔はゲームなんて殆んど触らなかったな。家で本ばっかり…………読んで………ん?」
ふと、アクアは何かが引っ掛かった。
先ほどルビーは何て言った? そして俺はそれを当たり前だと思って答えなかったか?
聞き間違いでなければ、ルビーはアクアではなく、こう呼んでいなかったか?
──吾郎先生、と──
アクアの前世について知っているのは少数だが存在する。
現に父親である晋一はアクアの正体を知っている。
だが、ルビーは知らないはずだ。それは互いに転生した過去について触れない取り決めを赤ん坊の頃にしたからだ。
なら、一体どうして。
「ごろ───っえ?」
「先生って、あの頃からゲームは苦手って言ってたもんね~」
疑問が頭を駆け巡り、上手く言葉が口にできないアクアとは対照的に、ルビーは様々なことを口にしていく。
それは“彼女とアクアが知る”思い出であった。
「たまに入院中の子供たちにバカにされるから一緒にゲームをしようって誘ってくれたりしたよね? それにしても、夜勤でこっそり特訓する癖は今も抜けなかったみたいだね、先生」
「何で……それを」
「知ってるよ。私は先生のことなら、“ノア君”を除いて誰よりも知ってる。だって、好きだから」
「………ルビー………もしかして」
ルビーから告げられる過去の出来事。そして告白じみた言葉。
ここまで言われたこと。そして親譲りの洞察力も相まって、アクアは一つの答えにたどり着いた。
答え合わせをするように、アクアはその名前をルビーへ告げた。
「さっ───さりなちゃん?」
「うん………やっと会えたね、吾郎先生ッ」
ようやく会えた。その喜びを体現するように、ルビーはアクアへと抱きついた。
「うおっと」
コントローラーを放り出し、自分とルビーの持つ飲み物が溢れないようにしつつ、ルビーを優しく抱き止める。
いろいろ言いたいことや、聞きたいことはある。
特にルビーが口にした“ノア君”については正体が謎だらけだ。
だけど、今はよそうとアクアは考えた。
今はただ、この奇跡の再会を純粋に喜びたいと思ったから。
ゲームオーバーが写し出される画面を背景に、アクアはゆっくりとルビーの頭を撫でてあげる。
ノアの方舟によって、ようやく洪水から二人の男女が再会を果たしたのであった。
next コナン,S ヒント!!
『サイリウム』
「次回はコナン時代のお話だよ」
「ねぇ、パパ。私ようやく吾郎先生と会えたんだけど、それについてのお話は?」
「…………えっと………」
「工藤さん、僕とヒロキ君の転生物語については?」
「…………次回もお楽しみに!!」
御愛読していただきありがとうございました!!
────────
《新作(未定)の告知》
「ようこそ、死後の世界へ」
※予定は未定のため過度に期待されないようご注意ください。