「復活ライブを見に行く俺たち」
「その道中、工藤晋一の意外な過去が明らかに」
「たった一つの真実を見抜く。見た目は子供、頭脳は大人」
「その名は──────名探偵コナン」
《時間は遡り、アイがアクアとルビーを出産して数ヵ月がたった日になる》
「それでは皆さん、また明日」
『せんせー、また明日ー!!』
担任の先生の挨拶に合わせて、俺を含めた生徒全員が元気よく帰りの挨拶をする。
この場にいる子供たちが、この頃は素直に大きな声で挨拶ができても、将来は「……ッス」といった変な挨拶になったり、最終的にはちょっとした会釈のみで挨拶をしなくなるんだろうなと思うと、何故だか悲しくなってしまう。
まあ、この場(小学校一年生の教室)でそんな事を思うのは目の前の担任と、俺の相棒くらいか。
(おっと、んなバカなことを考えてる暇ねぇんだった)
「さーて、ちゃっちゃと帰りますか」
「あら、そんなに急いでどうしたの?」
ランドセルを背負い、急いで帰ろうとする俺に声がかけられた。
赤毛かかった茶髪がトレードマークである俺の頼れる相棒、灰原だ。
(そう言えば、灰原に今日の予定を伝えてなったな)
灰原とは大抵一緒に登下校をしているため、理由も知らずに急ぐ俺が気になったのだろう。
詳しく説明する時間もないため、俺は端的に理由を灰原へ伝えた。
「わりぃ灰原。今日は夕方からライブに行く予定があってな」
「ライブ? ………あぁ。そう言えば、今日だったわね、あの子の復帰ライブ」
「そうそう。んで、俺は別に行かなくてもいいんだが、あいつらがどうしてもって聞かなくってな」
「……ふーん。あいつらが、ねぇ」
灰原から怪しいものを見る目で見られた。
急いでいる中、わざわざ時間を割いて説明したというのに、その視線はなんだってんだよ。
「んだよ、何か変なこといったか、俺?」
「別に。大変ね、“お父さん”は」
「なっ?! ばっ、ばーろー。んなことここで言うんじゃねぇよ」
さらっと、とんでもないこと(俺にとって)を言いやがる。
そんな灰原の様子を半目で見れば、おもちゃを見つけた子供と同じ目をしていた。
こりゃ完全に遊ばれてるわ、俺。
ここでムキになって灰原と言い争いをしても俺になんの特もないどころか勝てる見込みが一ミリもないため、俺は帰ることを優先することにした。
「とにかく、家の事もあるし、今日は早めに帰らねぇといけねぇんだよ。んじゃな、灰原」
「ハイハイ。江戸川君も家事と引率、頑張ってね」
「気持ちの込もってねぇ声援ありがとよ」
「込もってなくて悪かったわね。あっ、江戸川君。貴方、ライブ会場にはどうやって行くつもりなの? 博士、今日は珍しく学会で居ないわよ?」
先程とはうって変わって心配してきた灰原。
確かに灰原が言うように、博士には移動手段としてお願いをすることが多い。
事実、今回のライブも頼んだのだが用事があると断られたのだ。というか博士、学会に参加とかするんだ。俺に告げなかったのは俺が灰原にされたようにからかわれたくなかったからだろうな。
まあ、そんなわけで博士は使えない状況であるが、俺に抜かりはない。既に手は打ってある。
「それについては大丈夫だ。ちょうど暇してた喫茶店の店員さんにお願いできたからな」
「喫茶店の店員さん……あぁ、あの人。なら、博士よりも安心したわ。子供たちの安全も大丈夫ってわけね」
「あの人素性からして情報が外に漏れることはない。完璧だろ?」
「なら、せいぜい子供たちと一緒に楽しんできなさい。あぁ、私の事はあの子のグッズでいいわ。ちょうど復帰祝いの新しいマグカップが出るから、よろしく」
「おう、わかった──って、ちゃっかりグッズねだるなよ。いやまぁ、買ってくるけどさぁ」
復帰ライブの日程どころか、新規グッズの情報まで仕入れているとは………。我が相棒ながら末恐ろしい物を感じたぞ。
その後はマグカップ以外に欲しいグッズのリストを灰原から受け取った俺は足早に小学校から帰路に着くことになった。
しかし、このときの俺は知る由がなかった。
事件かって? いや、事件はいつも身近にあるからいいと………はならねぇが、それよりも大きな出来事だ。
まさに“謎”探偵との出会いだったんだよ。
……………
………
…
「「ライブ、ライブ!!」」
「おめぇら、楽しみなのは分かるが、博士の車じゃねぇんだからあんまり騒ぐんじゃねぇよ」
「「ハ~イ!!」」
「……ホントに分かってんのかよぉ」
ライブハウスへと向かう道中。
車内の後部座席で大はしゃぎしているアクアとルビーに対して助手席から注意を行うも、元気良く返事を返された。
これは言ってもどうしようも無いな。数分と経たずに二人は楽しくはしゃぎ始めた。
勝手知ったる博士の車なら問題ないが──『ヒドイぞ、晋一~』─何か聞こえた気がするが、気のせいだろ。とにかく博士の車以外の車内で騒ぐのは、運転してもらっている方に失礼だ。常識的に考えて。
俺は今回運転兼引率をしてくれた店員さんへ頭を下げた。
「安室さん、本当にご迷惑をおかけします」
「気にしなくてもいいよ、コナン君。子供は元気なのが一番だからね」
そう言って朗らかに笑う安室さん。
流石は大き過ぎる恋人を持つ人だ。器の大きさが常人の倍以上ある(生理的に駄目なのを除く)人だ。
下校時、灰原と話した今回博士の代わりに俺たち三人を引率を引き受けてくれたのは安室 透さん。
普段は喫茶店ポアロで働く好青年であり、看板店員。
しかし、その裏の顔は二つある。
一つは俺が"積極的に追うのを止めた"黒の組織の構成員、コードネーム《バーボン》としての顔。
そしてもう一つの顔は警察庁警備局警備企画課(通称公安)に所属する警察官としての顔。
表と裏の顔三つを巧みに扱う安室さんは、まさにプロフェッショナルと呼ばれる存在だ。
そんな安室さんと俺の付き合いについてだが、実は原作とは違って俺が中学一年生の頃から交流がある。
と言うのも、当時中学一年の俺はノー空手という現実に立ち向かうため、できる限りの武術やスポーツ(拳銃の弾を避けられる程度)を納めようと躍起になっていた。
とにかく力をつけたい俺は親父に頼んで東都で一番のスポーツジムに通わせて貰い、がむしゃらにサンドバックへ殴りかかっていた時だった。
『そんな殴り方じゃ、何も守れないよ。怪我するだけだから止めた方がいい』
ジムのインストラクターの注意すら無視してトレーニングしていた俺を見かね、一人の男性が俺を注意してきた。
その人こそが、当時黒の組織に潜入し始めたばかりの若き警官、安室透さんだった。
安室さんは「少し場所を変えようか」と言って俺をジムから連れ出すと、とある場所へと向かった。
それは、こじんまりとしたボクシングジムだった。
『ほら、打ち込んで来な。君に必要なのは案山子への殴り方じゃないだろ?』
俺へ顔を守るプロテクターを投げ渡すと、自分は何もつけずにリングへと上がった。
俺は安室さんがボクシング経験者だと知ってはいたが、それでもプロテクター無しは危ないと注意した。しかし、安室さんは不適に笑うと、こう返してきた。
『大丈夫、言うことを聞かない子供の相手には馴れているから』
そこからの記憶はあまり覚えていない。
ノー空手に対する焦りと自分自身の無力に対する怒りで頭一杯だった俺は安室さんの言葉で簡単にプッツンして殴りかかったところで記憶が途切れ、次に気づいた時には、
『これで多少はスッキリしたかい?』
『…………はい』
リングの上で大の字で倒れ、汗一つかかずに立っている安室さんを見上げていた。
安室さんから「立てるかい?」と差し出された手を取りつつ、俺はどうしてここまでしてくれたのか安室さんへ尋ねた。
原作とは違い、この時点において安室さんと俺の関係は初対面どころか、言うことを聞かない迷惑客と利用者だ。
普通だったらジムから放り出す事はあっても、こうして親身になってスパーリング(俺が一方的にボコボコになった)をしてくれるのはあり得ないことだ。
俺を起こしつつ、安室さんは何処か遠い場所を見るような顔をして答えてくれた。
『そうだね、似ていたから……かな』
『似ていた、ですか?』
『あぁ…………無力な自分を許せない気持ちは、僕には痛いほど良く分かるから』
それから安室さんは俺にお店に迷惑をかけないようにと注意をし、その日は解散となった。
まあ、家に帰ったあと母さんから滅茶苦茶怒られたのは嫌でも覚えてるな。ついでにアイにも怒られたっけ。
後から教えてもらったが、この頃の安室さんは警察学校時代の親友を失っていたとの事だった。
安室さん自身も無力な自分を許せないでいた時にたまたま目に入ったのが俺だったという訳らしい。
そこからお互いに鍛える…………というより、俺が一方的に安室さんからボクシングを習うようになった。
そうした奇妙な縁が積み重なり、時にはお互いの秘密が早々にバレてしまい、現在のような表の顔の協力者みたいな関係へと至るのだった。
「……ンくん…………コナン君?」
「ん? あっ、安室さん」
「急にボーッとしてどうしたんだい? そろそろライブハウスに到着だよ」
「えっ……本当だ」
安室さんから声をかけられて意識を戻すと、車はライブハウス近くの駐車場へと来ていた。
どうやら、思っていた以上に過去に浸っていたようだ。
「コナン君、気分が優れないようなら車で休んでて構わないよ。子どもたちは僕が責任もって引率するから」
「大丈夫だよ安室さん。少し昔を思い出してただけだから」
「それならいいが、無理だけはしないようにね」
「分かってますよ。ほーら、おめぇら。お待ちかねのライブハウスだぞ~」
車の荷室からへビーカーを取り出しながらアクアとルビーの様子を伺うと、車内での大はしゃぎが嘘のように大人しくなっていた。
一体何があった? もしかして体調が悪いのかと俺は心配するが、その心配は予想外の形で返された。
「あの、兄さん。…………ごめんなさい」
「コナンにぃ、ごっ、ごめんなさい」
「えっ?」
2人をベビーカーに乗せようと近づくと、突然2人が頭を下げて謝ってきたのだ。
どうして謝ってきたのか。それが分からないほど俺は鈍感ではない。
「おめぇら…………安心しろよ、別に俺は疲れた訳じゃねぇから。心配かけて悪かったな」
「でも、今日は無理言って…………」
「でもも鱈もねぇよ。俺や安室さんだってB小町のライブには行きたかったんだから、おめぇらは気にしなくてもいいんだよ。ほら、ルビーもそんなに俯くなって」
「コナンにぃ…………うん」
アクアとルビーを宥めつつ、2人をベビーカーへと乗せていく。
やれやれ、普通の子よりも成長が早い2人とはいえ、幼児に心配してしまうとは俺もまだまだ、だな。
この身体(コナン状態)になったとはいえ、俺は2人の父親なのだから、しっかりしなくては。
とは言うものの、流石に2人を乗せたベビーカーを俺が押せるわけはないため、移動は安室さんに任せることとなる。
「「ライブ!! ライブ!!」」
ライブハウスへ向かう道中、再びキャッキャと騒ぎだす2人を見て、流石に今回は突っ込むのは控えるのとにした。
そんな俺を見ていた安室さんから2人に聞こえない声の大きさで話しかけられた。
「流石は君の子だ。とっても素直でいい子達だね」
さらりととんでもないことを口にする安室さん。
だが、俺は別に気にしないように言葉を返す。
灰原とは違い、安室さんは常に周りを気にしている。下手な場所で情報を漏らすことは絶対に無いのは、原作云々を抜きにしてもこの数年の付き合いで理解しているつもりだ。
「まぁね、自慢の子ですよ。母親も含めてね」
「なるほど、そう来るか。これはライブ中はブラックコーヒーを買っておこうかな」
「安室さんも身を固めたら気にしなくても良くなると思うよ?」
「ハハッ、痛いところついてくるね。そうだね、君の件含めて諸々片付いたらいいかもしれないな。でも、当分はこの国とデートを楽しむよ」
「早めに別れ話ができるよう、できる限りの協力はしますよ、安室さん」
「それは嬉しいね。なら、今回は目一杯僕が力を貸そう。僕の協力者よ」
「あぁ、楽しみにしててよ。ゼロ」
「「…………ハハッ」」
お互いに慣れない話し方をし、2人同時に笑ってしまった。
止めだ止めだ。これからライブだってのに、らしくない会話はするもんじゃねぇや。
借りはいつか返すとして、今日は安室さんの言うように甘えてライブを楽しむとしよう。
しかし、この時の俺と安室さんは知るよしもなかった。
まさかこの後、とんでもない裏の顔を持つ協力者ができることなど、分かるはずもなかったのだ。
……………
………
…
「謎の匂いだ」
Next コナン's ヒント!!
『ストロー』
「次回は遂にあのキャラクターが登場!!」
「うわぁ、あのお弁当も美味しそう」
「おや、どうしたんですか先生?」
「へびゅっ?!」
「…………おいおい」
※前編 中編 後編の3話を予定しています。