「真実の“アイ”は、いつも一つ!!」   作:あるく天然記念物

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「事件が無事に解決して芸能界にも平穏が戻ってきた」
「しかし、世間は新たなネタを欲していた」
「ついに短編集編始動!!」
「たった一つの真実の見抜く。見た目は青年、頭脳は明晰」
「その名は、名探偵────晋一!!」



短編集
『一番星の花嫁』


 扉の向こうから、流れ星がやって来た。

 真っ白な衣装を見に纏い、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。

 その姿はまるで、現代の聖女のようであった。

 そんな聖女が俺の隣まで来た。

 あぁ────本当に、

 

「綺麗だぜ、アイ。この世界の誰よりも」

「エヘヘ…………何か、上手いこと言い返せないや」

「別に言わなくてもいいさ。昔っから、アイの考えてることなんてお見通しだらかな」

「もう………なら、エスコートお願いできますか、名探偵?」

「────喜んで」

 

 出逢った時とは違い、アイの差し出される手を握り、俺たちは教会の宣誓場所まで歩みを進めて行く。

 

『新郎工藤晋一さん、あなたはアイを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?』

「誓います」

『新婦工藤アイさん、あなたは晋一を夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?』

「誓います」

 

 俺とアイは牧師の問いかけに、一切の迷いなく答える。

 

『それでは誓いのキスを』

「───ッ」

 

 

 俺はそっとアイ顔にかかっている純白のベールを捲る。

 そうして現れるのは、俺にとって世界一の宝石であった。

 その宝石の唇に、俺は自分の唇を重ねた。

 

「………っん」

 

───ワアアァァアァァアア───

 

 教会内が歓声で埋め尽くされた。

 今日この日、俺はアクアとルビーにとって、本当の父親となった。

 

……………

 

………

 

 

《時間は神木事件から数日後まで進む》

 

 とある部屋に三人の人物がいた。

 

「先ずはドームライブ成功おめでとうと言っておく」

 

 茶髪にサングラスを掛け、チョビヒゲが生えた男性────アイの所属する事務所《苺プロダクション》の社長、斉藤 壱護はそう言って対面しているアイへ頭を下げた。

 

「いやいや、佐藤社長。別に私だけの力じゃないよ。これも《B小町》のみんなのお陰───「だがなぁ」──だよ?」

 

 アイが謙遜しようとしたが、斎藤社長はそれを遮った。

 そして一呼吸置いた後、手にする“雑誌”のとあるページを思い切り広げ、

 

「ついにやりやがったな、クソアイドルがぁぁあッ!!!!!! これはなんだぁ!!!!!!!」

 

 有らぬこえで叫んだ。

 …………あぁ、やっぱりすっぱ抜かれてしまったか。

 斎藤社長が手にする雑誌には大きな見出しでこう書かれていた。

 

【熱愛発覚!!】

【今をときめくアイドル、二児の母となる!!】

【アイドルのお相手は超有名大学生探偵!!!!】

【大学生探偵、芸能界の事件を解決し、アイドルを手にする!!】

【ドームライブの打ち上げはホテルにて?!】

 

 等と言ったゴシップがこれでも載っていた。

 ご丁寧に俺とアイ、アクア、ルビーの四人が《劇団ララライ》から出てくる様子が写った写真や、ドームライブ後に一時保護として泊まることとなったホテルに入る姿まで写されていた。

 紛れもなく、俺とアイ、そしてアクア、ルビーの事がトップスキャンダルとして取り上げられていた。

 

「どうするんだよ、これ?! もう支援企業全部に知れ渡っちまったし、お前の子供を俺たちの子供って事にしていた嘘までバレちまったよ!! もう苺プロダクションは終わりだぁぁぁああぁッ!!!!!!」

「まあまあ、佐藤社長。嘘は何時かはバレるものだよ?」

「バレたらダメなんだよ!! 俺は最後まで貫き通せって言ったわ!! つーか、お前は嘘のプロフェッショナルだろうがクソアイドル!! 何でファンへの“愛してる”は嘘つけて、子供と彼氏の事は嘘つけねぇんだよぉおおおおッ!!!!!!」

 

 斎藤社長は「あぁ…………夜逃げってどうすればいいんだっけ?」等と恐ろしいことを言いながら力なく社長席に座った。

 

「はぁ────。まぁ、こんだけ言っちまったが、バレちまったもんはしょうがねぇ。しかも状況を警察やニュースから見聞きした限りじゃあ、クソアイドルが殺されかけたんだろ? 人命がかかってんなら、スキャンダルがすっぱ抜かれる程度、安いもんだ」

「社長…………」

「…………でもなぁ、苺プロダクションが終わりなのも事実なんだよなぁ」

 

 そう言って斎藤社長は机に肘を乗せ、頭を抱えてしまう。

 人としてはアイの命が助かって嬉しい。しかし、経営者としてはスキャンダルによる倒産が目の前まで来ているという現実に、斎藤社長は頭を悩ませる。

 そんな彼に対し、俺ができるのは頭を下げることだけだった。

 

「斎藤社長、この度は本当に申し訳ありませんでした」

「…………工藤君、君はよくやってくれたよ。こんなクソアイドルから知らぬ間に襲われ、勝手にガキこさえられたってのに、逃げることもせず、その上クソアイドルの命すら守ったんだ。お前さんは誇っていい。問題抱えんのは、このクソアイドルと苺プロダクションだけで十分だ」

「そうはいきません。アイが背負うべき問題があるのなら、俺も背負います。俺はもう───父親ですから」

「お前────ハハッ、こりゃあ、とんでもねぇ男を捕まえたもんだな、クソアイドル?」

「エヘヘ~。そりゃ“嘘つき”な私だけの名探偵ですので!!」

「調子にのってんなぁ、クソアイドルが」

 

 俺とアイのやりとりでいくらか調子を取り戻した斎藤社長であった。だがしかし、この状況、どうにかしなければ苺プロダクションは終わってしまう事実に変わりはなかった。

 斎藤社長、アイ、そして俺の三人でどうすればいいのか考える。

 

「一応、今の苺プロダクションが抱えている問題について再確認するぞ」

 

①アイと工藤晋一の熱愛発覚

②社長夫妻の双子の子供は、実際はアイの子供だったのが全世界に発信された。それにより社長夫妻にて隠蔽したことも発覚。

③苺プロダクションの支援企業全部にバレたため、違約金やら契約解除を迫られている。バカ正直に支払うには苺プロダクションがあと三つぐらい必要。

 

「これら3つが主な問題だ…………正直に言って、もうどうしようもないと俺は薄々感づいている」

「んー、私が開き直って活動しても無理?」

「あぁ。クソアイドルの才能ならスキャンダルがいくらあろうと問題ないだろうが、《B小町》はもう解散だろうな。さすがにユニットとして雇う財力が苺プロダクションにはミジンコレベルで残ってねぇよ」

「そっか………“残念だなぁ”」

「アイ…………おめぇ」

 

 珍しくアイは本心で残念がっていた。

 できることなら、《B小町》としてのアイの活動を支援していきたい。

 しかしながら、今の俺はもとに戻ったとはいえ、一大学生に過ぎない。親父や母さんに土下座したところで会社一つを救うのは難しいだろう。

 …………いや、意外と親父ならできるかもしれないが『晋一、一家の大黒柱とは、自身で家庭の問題を解決するものだ。それができないのに父親になったのかね? ハハハハハ』とか言って俺が苦しむのを楽しんできそうだ。

 

「「「はぁ…………」」」

 

 三つのため息が重なった。

 八方塞がり。探偵として解決策が見つからないと言うのは認めたくないのだが、金銭という明確で残酷な問題に、何一つ策が思い付かない。

 本当の本当に、もうダメかもしれない。

 これはいよいよもって親父に土下座するしかねぇか、と俺が思った時だった。

 

 神は俺たち三人を見捨ててなかった。

 

「ちょっと~。なーにお通夜みたいな空気出してんのよぉ、あんたたちは」

「社長、お客様です」

 

 一人の女性が、社長夫人のミヤコさんと共に部屋に入ってきた。

 その女性を、俺は知っていた。

 

「園子!! おめぇ、どうしてここに?」

 

 鈴木 園子、それが入ってきた女性の名前だ。

 園子は俺とアイの幼馴染みの友人である。

 そんな彼女が実際にお通夜になりかけていた苺プロダクションにやって来た。

 

「どうしてって、工藤君。あんたねぇ、親友のアイが襲われたなんてニュース見て、心配しない友達がいると思う?」

「園子………わりぃ。そんな親友はいねぇよな。それに、それが園子だったら尚更だったわ」

「あったり前でしょう!!」

 

 と言って園子は胸を軽く叩いて見せた。

 本当に、おめぇ程の友人はいねぇわ。当たり前を“当たり前”に言葉にできるのは園子の一種の才能だと、俺は改めて感じさせられた。

 そんな園子はアイのもとへと駆けていく。

 

「アイー───!! あんた、無事だったのね?! よ゛がっだよ゛ぉ~」

「園江~、私は無事だよ~」

「うんうん!! 私の名前を間違えられる程度には大丈夫ね゛ぇ゛~……」

 

 園子はいつものようにアイに名前を間違えられて呼ばれたのに安心し、泣きながらアイに抱きついて胸に顔を埋めた。

 そんな園子をあやすように、背中を軽く叩いてあげるアイ。

 これは推理するまでもないが、園子は本気でアイの心配をしていた。だからこそ、アイもそれをわかって園子をあやしている。

 一通り泣いた園子はガバッ、と効果音が出そうな勢いで顔を上げた。

 

「アイ、あんな週刊誌に負けないでね!! あんたと工藤くんはお似合いなんだし、アイドルも恋愛も子育ても全部頑張りなさいよ!!」

「アハハ………それなんだけど…………」

「えっ、事件で何かあったのッ!?」

「んー、私がって言うよりは苺プロダクションがっ、て話かな~」

「苺プロダクションが? ちょっと教えてみなさいよ」

「えぇ………とぉ」

「まっ、アイと工藤君の友人なら話して大丈夫だろ」

「うん、わかった。あのね園魅、実は────」

 

 斎藤社長の許可が降りたことにより、アイは現状スキャンダルによって苺プロダクションが窮地に陥っていることを園子へ説明した。

 アイの説明を受けた園子は、

 

「何よそれぇッ!? どうしてそんなスキャンダルごときで契約が無くなるのよ?! アイ、悪いこと言わないからそんな支援企業とは縁を切りなさい!!」

「いやー、逆に切られて今ピンチになっちゃってるんだよねぇ………アハハ」

「アハハって、あんたねぇ………はぁ、ちょっと工藤くん? あんたのお得意な推理でどうにかしなさいよ!!」

「無茶言うなよ……」

 

 園子のあまりの物言いに、俺は思わず頭を抱えた。おめぇは推理を便利道具か何かだと勘違いしてねぇか?

 

「はぁ、全くつかえないわねぇ、この推理オタクは。何のための名探偵よ? それくらい簡単に稼ぎなさいよ、アイたちの大黒柱でしょ?」

「推理でアイと子供たちを食わせることはできても、会社一つを救う金は生み出せねぇよ!!」

 

 むしろそれができるだったらとっくにしてるつーの。

 そんなお手上げ状態である俺の様子に園子は「やれやれ」といった感じに首と両手を降る。

 

「しょーがないわねぇ。まっ、今回はタイミングよかったわ」

 

 タイミングがよかった?

 俺やアイ、斎藤社長が首を傾げるなか、その人はやって来た。

 その人は俺の姿を見るなり、不適な笑みを浮かべながら片腕をあげて挨拶をしてきた。

 

「久しぶりじゃのぉ、キッドキラー!!」

「じっ、次郎吉さん?!」

 

 その人は俺が高校生探偵として活躍していたときから何かと交流のある爺さんだった。

 名前は鈴木 次郎吉。

 鈴木園子の伯父に当たる彼はとんでもない肩書きを持つ。

 

「鈴木次郎吉………ッ??!! もっ、ももっ、もしかしてあの、世界の鈴木財閥の次郎吉様ですか?!」

「ほぉ、弱小規模のプロダクションであっても、ワシの事を把握しておるとは感心じゃな」

 

 斎藤社長はやって来た爺さんが次郎吉であることを把握し、驚愕により目を見開く。

 まあそれも仕方がない。何しろ鈴木財閥は日本を代表する四大財閥の一つである四宮財閥を超えていると揶揄されているぐらいには知名度と財力がある。

 そんな鈴木財閥において次郎吉さんは相談役という肩書きを持つ。本人は既に経営から隠居して遊びまくっているが、その保有資産や財閥における発言力はとんでもないとされる人であるのだ。

 そんな鈴木次郎吉と俺の関係は、依頼人と探偵。

 そして共通の相手は────怪盗キッド。

 キッドとの戦いの数々については、またの機会にしよう。

 今まだ、語るときではない。

 

「キッドキラーよ、何やらスキャンダルで色々困っとるらしいな?」

「あぁ、いや俺は別に問題は無いんだが、どっちかといえばアイの所属する事務所が少し……」

「えぇい、勿体ぶらず端的に教えんか、キッドキラー」

「実は────」

 

 俺はアイが園子に話したのと同じ内容を次郎吉へ伝えた。

 それを全て聞き終えた次郎吉は、

 

「ガハハハハッ!! なーんじゃ、キッドキラーともあろうものが、その程度の些事に悩まされておったのかぁ~!!」

「いやいや……爺さん、流石に笑い事じゃねぇっての」

 

 お通夜状態の俺たちとは対照的に笑い飛ばす次郎吉………爺さんの姿に俺は苦笑いしかできない。

 そして一頻り笑った爺さんは「すまんすまん」と言い、豪快に笑う姿から想像できないぐらいに優しく、俺の肩に手を置いたてきた。

 

「じっ、爺さん?」

「キッドキラーよ、ワシは常日頃あの怪盗小僧との戦いに助力してくれるお主に感謝しておる」

「いや、それは探偵として依頼を受けたからには当然ですよ」

「いやいや、いくらワシが園子の伯父に当たるとはいえ、お主はワシから全うな報酬を受け取らぬではないか」

「まぁ、それはぁ………そうですけど」

「毎度毎度断りおって、馬鹿者が」

 

 爺さんが言うように、俺は次郎吉さんからの依頼は無償で引き受けることが多かった。

 というより、実際にキッドを捕まえた訳ではないのだから、と俺から断っている。心情的にも、俺とアイの親友である園子の伯父に金銭を要求するのはちょっと気が引けちまってな。

 だが、爺さん的にはどうもそれが引っ掛かっているようだった。

 

「ワシはのぉ、キッドキラー。お主がよかれと思って断っておるのは知っておる。じゃがな、世の中には受け取って貰うことが恩返しとなる人種もいることを理解してくれんか」

「爺さん…………けどよぉ」

「園子から話は聞いておる。キッドキラー、ワシを手助けしてくれたように、今回はワシがお主を助ける番じゃ。なーに、ワシが遊びに使う金がホンのちょっぴり減るだけじゃわい!!」

「ここは素直に助けられておきなさい、工藤君。それに、これは伯父様にとって無償の奉仕ってわけでもないんだから」

「うむ。園子の言う通りじゃ」

 

 そう言うと爺さんは俺から離れ、未だに呆然としている斎藤社長の元へ向かう。

 

「さて、斎藤社長。改めて確認するのじゃが、キッドキラーとアイ君のスキャンダルによって、この事務所の支援企業がいなくなったこと。そして違約金の支払いが困難である事が解決すれば、事務所は畳まずに済むのであろう?」

「はっ、はひ?」

「シャキッと答えんか!!」

「はっ、はい!! 支援企業が見つかり、違約金の支払いが済めばクソア──いえ、《B小町》は再び活動できます!!」

「よろしい。では、今後は鈴木グループが苺プロダクションを全面バックアップすることとしよう」

「────ヘェア?!」 

 

 言われたことが理解できないのか、目を真ん丸にして驚く斎藤社長。

 そんな斎藤社長の様子を気にすることなく、爺さんは話を続ける。

 

「無論、ただで支援をするわけではない。いくつかは鈴木財閥系列の仕事を請け負ってもらうことになる。じゃが、スキャンダルのほとぼりが冷めるまではワシの方から仕事を斡旋しよう。どうじゃ? 悪い案ではなかろう」

「そっ、それはうちの事務所としては大助かりですが。よっ、よろしいんですか?」

「無論じゃ。一線を退いたワシであるが、商才を見抜く審美眼は未だに衰えてはおらぬ。園子に教えてもらったのが切っ掛けではあるが、ドームライブを成功させた《B小町》は必ず成長できる。ワシが直接見てそう判断した。あとは、社長の判断じゃ」

「えっ?! 次郎津さんもライブ来てくれてたの?」

「アーイ、ここは真面目な場面だから茶々入れないの」

「はーい」

 

 場の雰囲気を壊さないよう、園子はアイを次郎吉と斎藤社長から遠ざけて行った。

 アイがある程度離れたところで、

 

「それで、答えを聞かせてはもらえぬか? ワシからの支援を受けるか、それとも事務所を畳むのか。お主の社長としての判断を」

「…………」

 

 爺さんは斎藤社長へ究極の二択を迫った。

 その問いかけをされた社長は少しだけ顔を伏せ、数秒沈黙した。

 その後、社長は勢いよく顔を上げる。

 そこには、驚愕も悲壮感も不安も一切の無い。

 覚悟を決めた男の姿が、そこにあった。

 

「そんなの…………そんなのは決まっています!! どうか、どうか苺プロダクションをよろしくお願いします!! クソアイドル───アイは、《B小町》は必ず大成させてみせます!!!!」

「うむ!! よく言った!! これからよろしく頼むぞ、斎藤君」

「はい!!」

 

 爺さんは斎藤社長へと片手を差し出し、斎藤社長はそれを両手でしっかりと握りしめた。

 握手の最中、まるでいたずらが成功した少年のような悪い笑みを浮かべた爺さんが、俺の方を見てきた。

 まったく、この爺さんには敵わねぇわ。

 

「ということじゃ、キッドキラー────工藤晋一くん。ここは、ワシを助けると思って、話を受けてはくれぬか?」

「はぁ…………たく、ここまでしてもらえて、いやと言えるほど、俺は人でなしじゃねぇよ。爺さん、苺プロダクションをよろしくお願いいたします」

「うむ。任せておけ」

 

 こうして図らずも苺プロダクション倒産の危機は、一人の道楽爺さんのてによって救われた──「じゃが!!」──かと、思われた。

 爺さんの言葉に、全員の視線が集まる。

 唯一園子だけが「あちゃー」といった何やら後悔するような表情を浮かべていた。

 …………最後の最後で、何をやらかす気だ、この爺さんは?

 視線を一身に受け止めた爺さんは、最後にこう語った。

 

「それはキッドキラー──工藤君とアイ君の結婚と、その披露宴にワシらを参加させることが条件じゃ」

「「はっ? はいいいいいいぃいぃぃいいいいっ?!」」

 

 本日一番の叫びが二人分、事務所中を駆け巡った。

 そんな中、唯一アイだけは、

 

「えっ、それって………ッ!! 私、晋一と結婚して良いの!?」

 

 飛びっきりの笑顔を浮かべていた。

 

 

……………

 

………

 

 

 

「しっかし、爺さんの最後の言葉には驚いたぜ」

「えー、私は嬉しかったな~。スポンサーとして結婚しても、子供作っても大丈夫って言われたのと同じだし」

「バーロー。おめぇは恋愛禁止の中、事務所に黙って勝手に子供作ってただろうが」

「エヘヘ~。あっ、あの時の晋一の寝顔はものすっごい、きゃわーだったよ? 私が用意した睡眠薬ですやすや~って──」

「バッ?! バーロォー!! 何の話してやがんだ、おめぇはッ?!」

 

 というかアイさん、睡眠薬で眠らせた相手を襲うのは十分に犯罪です。

 えっ、というか、アクアとルビーが誕生した秘密を四年越しにはじめて知ったぞ?!

 

「で、晋一。どうするの?」

「どうするって、言われてもなぁ~」

 

 爺さんからとんでもない条件を言われてからある程度時間がたった現在、俺とアイは事務所の屋上に来ていた。

 爺さんの条件を言った理由を要約すると『スキャンダルで困るのなら、開き直ってしまえばいい。鈴木財閥としては特に問題はない』との事であった。

 園子は当初、先走った爺さんには苦言を呈していたが、最終的には、

 

『工藤君!! アイを幸せにしないって言うのなら、地獄の底まで問い詰めて殺るからねぇ!!』

 

 などと、アイの幸せを一番に願う言葉を俺に伝えてきた。

 まったく、俺ってそんなに信用が無いのだろうか…………あぁ、よくよく考えてみれば、世間から見たら子供をつくって4年近く放ったらかしにしてたようにしか見えんのか、俺。そりゃ信用ねぇわ。

 

「ねぇ、晋一」

「ん、どうしたアイ?」

 

 どこか不安げな表情を浮かべているアイ。

 …………もしかして。

 

「晋一は私と結婚するの嫌…………だよね?」

「アイ。おめぇ」

「だってさ、私は本物の“愛”を欲しさに勝手に子供作っちゃったし、今でも私は晋一を依頼で縛り付けちゃってる。それに晋一とは所詮、探偵と依頼人の関係だし」

「…………それで?」

「だからさ、いい機会だから私と別れない? 園子については私から説明するし、苺プロダクションも鈴木財閥の支援で存続できるから、問題なーし!! ………でしょ?」

「…………」

 

 アイ………どうしてお前はそんなに“嘘”をつきたがるんだ。

 そして嘘をついているってのに、どうしておめぇは────大粒の涙を堪えているんだよ。

 顔をくしゃくしゃにしながら、どうして我慢してまで俺に“嘘”をつくんだよ。

 …………まぁ、アイがそう考えてしまうのは“俺のせい”でもあるか。

 

「だから私と────「結婚するぞ、アイ!!」──わ……かれ……」

「きっかけは正直忘れた。でも、俺はおめぇの事が好きだ」

「晋一…………私に気を遣わなくても………」

「嫌いな人が勝手に産んできた子供を育てるのを手伝うヤツがいると思うか?」

「それは、晋一が優しいからだし…………ほら、アクアとルビーはスッゴく可愛いから」

「嫌いな人と三年も同じ家に住めるか?」

「…………晋一だったらできるよ」

「嫌いな人と“二人っきり”で遊園地に遊びに行くのか?」

「…………そっ…………それは……」

 

 恐らく。恐らくだが、アイは“怖い”のだろう。

 誰かを“愛”したことが無いから、“愛”される資格が無いと思ってしまっているのだろう。

 結婚とは一般的には男女が愛し合った結果に行うもの。子供を作るのと違い“相手が必ず必要”になる行為だから。

 だからこそ、俺は言葉にして伝える。

 そんな心配なんてする必要がない、と。

 正直に言えば、俺はアイが心から欲する真実の“愛”はまだ見つけきれてもいないし、検討もついていない。

 けれど、俺の持つ────俺だけのアイへの“愛”は言葉にできるから。

 

「アイ。もう一度言うぞ。俺はおめぇを“愛”している。だから結婚してくれ、アイ」

「晋一…………どうして、どうして私にそんな───」

「好きだからだよ」

 

 アイの言葉を遮り、俺は──俺の“愛”を伝える。

 

「おめぇの事が、この世界の誰よりも好きだからだよ」

「晋一………私、晋一に対しても本当に“愛”せるかわからない子なんだよ?」

「関係ぇねぇよ。俺はおめぇの事が世界で誰よりも好きだ。から、おめぇの側で────一生を懸けておめぇの欲しい“愛”を見つけさせてくれ」

「…………“嘘”じゃないよね?」

「バーロー。探偵が嘘ついてどうするんだよ。それにな、アイ。俺はおめぇにだけは“嘘つけたことが一度もない”んだぜ?」

「晋一────晋一ぃッ!!!!」

 

 アイが俺の胸へ飛び込んでくる。

 飛び込んできたアイを抱き止め、その背中を優しく撫でる。

 

「アイ、改めて言うぞ。俺と結婚してくれないか?」

「─────はい、喜んで」 

 

 こうして俺とアイは結婚することが決まった。

 ちなみに事務所に戻ってきた後、今のアイ以上に園子が大泣きしたのは内緒だ。

 

……………

 

………

 

 

 同時刻。

 阿笠邸にて、三人の子供達が犯人追跡メガネを使って一連の会話を“傍受”していた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。推しと推しが結婚するのは嬉しいんだけど、どうして口の中がこんなにも甘ったるいの?」

「安心しろルビー。それは人間として正常だ。事実、俺はブラックコーヒーをがぶ飲みしたい」

「まったく、あなた達ねぇ。こんなパパラッチみたいな真似させるためだけに私を呼ばないでよねぇ」

「えー、哀さんだって気になっていたじゃないですか~。二人の事について」

「そっ、それは…………」

「哀さん、安心してください。哀さんであれば俺たちは母さんが幸せであること前提ですけど“どんな事でも受け入れます”から」

「アクア、貴方ねぇ。…………はぁ、ポアロにでも行きましょうか。コーヒーなら奢ってあげるわ」

「わーい!! お兄ちゃん、行こ行こ!!」

「あぁ。御馳走になります」

「はいはい。さっさと支度していくわよ」

「はい「はーい!!」」

(…………工藤君、私も“諦める”つもりはないからね?)

 

 阿笠邸を後にし、ポアロへと出掛けていく三人。

 それら一連の様子を見ていた阿笠博士はポツリと語る。

 

「晋一…………ワシは助けることができそうにないぞ………」




next コナン,s ヒント!!

『恋愛リアリティーショー』

「次回はあの西の高校生が登場」
「ねぇ晋一、お色直しって何回までしていいの?」
「いや、知らねぇよ」
「「次回もお楽しみに!!」」


「この時を待ってたでぇ、工藤!!」
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