「真実の“アイ”は、いつも一つ!!」   作:あるく天然記念物

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『皆様、大変長らくお待たせしました!!』
『次世代体験型ゲーム“コクーン”。ゲーム、スタート!!』
『正体不明の人工知能“ノアズ・アーク”に支配された子供たち50人』
『それは100年前のロンドンを舞台としたサバイバルゲームだった』
『歴史上の殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーを捕らえなければ、全員の命が危ない!!』
『果たして俺は“父さん”抜きで、このデスゲームをクリアすることができるのか?!』
『劇場版第一弾《名探偵アクア ベイカー街の亡霊》』
『真実は────いつも一つ!!』


劇場版 名探偵アクア『ベイカー街の亡霊』第1話

《時はアクアとルビーが帝丹小学校に入学して数ヵ月がたった世界》

 

「ふぁ───おはよう、父さん」

「おう。おはようアクア」

 

 気持ちのいい朝。

 アクアとルビーの小学校入学を気に引っ越しをした新居のリビングにて新聞を読んでいると、2階からアクアが降りてきた。

 

「父さん。後で俺にも新聞─────いや、何でもない」

「んー? アクア、別に遠慮することはないぞ?」

「いや、小学一年生が朝から新聞を読むのはおかしいかな~って思ってさ」

 

 そう言ってアクアはバツが悪そうに頬を掻く。

 えっ、おめぇ今さらそんなとことを気にすんの? 真面目だというか、なんというか。

 

「おいおい、今さら過ぎんだろぉよ。おめぇたちが生まれてから、一応“側で”見てきたんだぜ、俺は。どんな過去があろうと無かろうと、おめぇは俺の息子なんだ。今さら新聞一つで気にすんなよ」

 

 俺も“コナン”の時には大概のことをやらかしたが、アクアたちも俺がいる目の前でオタ芸やらアイの携帯弄くってたんだが、そのこと忘れてねぇか?

 もっとも、そんな無粋なことを指摘せずに俺はアクアへ既に読み終えている新聞を手渡す。

 何度もいうが、俺はどんなことがあろうとも、二人にどんな過去があったとしても、今は一端のアクアやルビーの父親だからな。……………世間では4年近く育児放棄してるとされてるけど。

 

「とっ、父さん」

「ほら、俺は読み終わったからやるよ」

「………ありがとう」

「良いってことよ。んじゃ、俺は朝ご飯作るから、読み終わったらアイとルビーを起こしてやってくれ」

「あぁ、わかった」

 

 アクアへ新聞を渡し、朝食の準備に取りかかる。

 そんな中、俺は先程読んでいた新聞のある記事が気になっていた。

(シンドラー・カンパニーが、日本のゲームメーカーと共同開発した次世代体感ゲーム機の開発披露会を来週の日曜日、日本で行う……か)

 シンドラー・カンパニー、そして次世代ゲーム機となれば、思い浮かぶのはあの“映画作品”である。

(俺が“コナン”である内に起こると思っていたが、まさかアクアやルビーが小学生の時期に起きてしまうとは。これは歴史の修復作用と考えるべきか)

 鍵となるのは人工知能────。

 

「ノアズ・アーク……か」

「えっ、父さんどうしたの?」

 

 俺の独り言を拾ってしまったのか、ちょうど新聞を読み終えたアクアが心配そうにこちらを見つめていた。

 いかんいかん。まだ不確定な状態でアクアに心配をかけさせる訳にはいかない。

 

「何でもねぇよ。ほら、読み終わったんなら、アイとルビーを起こしてやってくれ」

「うっ、うん。わかった」

 

 アクアがアイとルビーを起こしに2階へ行くのを見送りつつ、俺はこの後の動き方について考えることにした。

 今回のケース。舞台はリアルの事件とゲーム世界の2つだった、筈。流石にもうかれこれ“30年”以上の前の記憶のため怪しい部分が多いが、とにかくリアルでの事件を親父が解決し、ゲームの方をコナンで解決したのは覚えている。

 確かあれは犯人が“何かディスクを入れた事によって”子供たちの遊ぶゲームがおかしくなったみたいな感じであった。

 となれば、リアルでの事件は親父に任せっきりでもいいが、人命がかかっている以上、できることなら防ぎたい。

 そしてゲームについては…………俺は参加できるのだろうか? あれは子供たちのみが参加できたものだったような気がする。

 んー、最悪はアクアに頼むしかないのだろうか? まあ、事件を未然に防げばディスクの挿入もされることはないし、子供たちも危険にさらされることもないから大丈夫だろう。

 危険がなければ、それこそアクアやルビーには純粋に楽しんでほしいものだ。

 と言っても、今のところは披露会への招待はされていないため、タラレバどころの話ではないが…………ねぇ。

(“俺”に関わる物語故に、全く巻き込まれないってことは無いんだろうなぁ~)

 

「まっ、その時になってから考えるとしますか、っと」

 

 目玉焼きと焼いたベーコンを皿へ盛り付けつつ、俺は場合によっては“自分よりも頭がいい”息子へ“依頼”をしようと考えていると、賑やかそうな足音が三つ聞こえてきた。

 

「んー、美味しそうな匂い~」

「ちょっとママ? まだ顔を洗ってないよ?」

「そう言うルビーも、寝癖直ってないぞ?」

「えっ? お兄ちゃん、それマジ?」

「う~。顔洗うのめんどくさいよ~。晋一──洗うの手伝って~」

「おめぇはガキかアイ。さっさとルビーと一緒に顔を洗ってこい。あぁ、アクアは朝食の配膳を手伝ってくれ」

「「はーい」」

「わかった」

 

 アイとルビーを洗面所へ向かわせ、アクアに朝食を運ばせている最中であった。

 

 ピピピピピ────。

 

 俺の携帯に着信がかかった。

 

「こんな朝早くに誰からだ? 悪いアクア、残りをお願いしていいか?」

「大丈夫だよ、父さん。こっちは俺一人で問題ないから、電話に出てあげて」

「悪い。って────マジか」

 

 キッチンから離れつつ、その携帯に表示される人物の名前を見て、俺は出るのをためらってしまう。

 しかし、着信にでなければ出ないでもっと面倒なことになるため、俺はその電話を取ることにした。

 

「…………もしもし?」

『ふむ。大方、出たくはなかったが、出ないともっと面倒になるため出た。といったところかな、晋一?』

「そう思うなら時間を考えて架けてくれよ────親父」

 

 携帯電話に表示されていた名前、それは工藤 優作。

 つまりは、俺の親父である。

 親父はアメリカで仕事をしているため、時差を考えたら向こうは今夕方ぐらいだろうか。まあ深夜に架けられて無いだけマシだと思っておこう。

 

『私はお前の父親だからな。息子へ電話をするのに時間を気にする必要は無いだろう? それはそうと晋一、お前は来週の日曜日は暇か?』

「来週の日曜? 取り急ぎの院の講義も依頼もないから、俺個人は暇と言えば暇だけど?」

『そうか。晋一、シンドラー・カンパニーが新作ゲームの披露会を日本で行うのは知っているな?』

 

 おっと、親父から告げられる単語に嫌な予感がしてしまう。

 

「…………披露会に参加しろって話か?」

『ふっ、流石は私の息子だな、晋一。だが、少しだけ違う』

 

 予感的中と思ったが、少々込み入った事情があるようだ。

 

「少し?」

『あぁ。詳しくは言えないのだが、今私はある依頼を受けていてな。当日に私もアメリカからそっちへ行く。そこで、その依頼の手伝いを“2つ”ほど頼みたい』

「2つ? それは別に構わねぇけど、親父でも手が足りなくなる位に大変なのか? その依頼ってのは?」

『いや、一つについては私一人で殆ど終わったも同然なのだが、もう一つの方が少し特殊でな』

「特殊? ますます訳わかんねぇなぁ」

『そう言ってくれるな、晋一。依頼については披露会に説明しよう。それと披露会については私の方から手配をしておく。友人も誘ってきてくれて構わない。ただし───』

 

 電話口の親父の声が、数トーン低くなった。

 いつも飄々としている人なだけに、電話口であっても緊張感を感じてしまう。もしや、何か大きな事件が関わっているのか?

 そう思い身構えている俺を親父は、

 

『孫を必ず連れてくるように!! お爺ちゃん、アクアくんとルビーちゃんに会えるのを楽しみにしてるからな!! お土産もたくさん買ってくるからなッ!!』

「ただの孫バカかよっ?!」

 

 いい意味で裏切ってきた。ははっ、無駄に緊張したよ。

 とりあえず親父にはアクアとルビーを必ず連れていくことを伝え(最後の最後までアクアとルビーのことを連れてくるように念押しされた)、電話を切る。

 しかし、これで俺は“映画”に関わることが確定したということだ。

 ここまで歴史がお膳立てしてきたのであれば、仕方がない。こっちとしては盛大にちゃぶ台をひっくり返させてもらうとしよう。

 

「晋一──もうみんな揃ったよ~。早く食べようよ~」

「パパ~?」

「父さん?」

 

 おっと、親父からの電話に時間を掛けすぎてしまったようだ。

 もう待ちきれないとばかりに三つの声が俺に投げ掛けられている。

 

「わぁーってる。今行くよ」

 

 一先ずは家族全員で朝食を取ることにしようか。

 

……………

 

………

 

──とあるニュース中継──

 

『はい!! こちらBST放送局の高峯です!! 本日はここ、米花シティーホールへとやって来ています!!』

『本日、米花シティーホールでは、あのシンドラー・カンパニーと日本のゲームメーカーの共同開発した最新バーチャルリアリティゲームの披露会が行われることとなっています!!』

『我々BST放送局を含めた報道陣へ配られた資料によりますと、《コクーン》の愛称で呼ばれていますこのゲームは、繭の形をしたカプセルのなかに入り、最新の音声認識装置と対話をしながらバーチャルリアリティの世界で遊ぶという、最新のテクノロジーのすいを集めたゲームとなっています!!』

『このゲームにはプレイヤーが自由に遊べる五種類のステージがあるとの事ですが、どんな仮想現実の世界かは、今日子供たちがゲームに参加してわかるという完全なる“スニークプレビュー”、覆面発表会となっています!!』

『選ばれた高校生以下50人が、日本初のコクーン体験者となるのです!!』

『私も是非とも遊んで視聴者の皆様にお届けしたかったのですが、流石にもう大人。残念ながら参加権はありませんでした。では、お次は発表会の様子を生中継でお届けしようと思います!! お相手はサインはB!! でお馴染みの《B小町》、高峯でお送りしましたー!!』

 

……………

 

………

 

 

 親父から依頼を受けてから一週間後の日曜日。 

 俺たちは東京都、米花シティーホールへと来ていた。

 入り口での金属探知、および手荷物検査を受け終え、発表会会場へと“子供たち6人”を連れて向かっていた。

 

「それにしても晋一、ゲームの発表会ってだけなのに、スッゴく厳重な警備だね」

「まあ、アイたちとは別ベクトルで人気というか、注目されているからな。特にシンドラー・カンパニーは世界有数のIT企業でもあるから、ここ最近はサイバー攻撃なんかも頻発してたらしいぜ?」

「へー、そうなんだ」

「…………ところでさ、興味あるのか、アイ?」

「ない!!」

「んなら、聞くんじゃねぇよ」

「えー、でも説明だけは聞きたいじゃん」

「おいおい…………」

 

 仕方なくアイへ今回の披露会が大がかりである理由を説明していると、連れてきた子供たちは子供たちでゲームの話で盛り上がっていた。

 

「工藤さんの言うように、今回の新作ゲームの発表を契機に市場地図が塗り変わるって話なので、日本メーカーがこぞって動向をうかがっているとニュースで言われていました」

「おいおい光彦、高々ゲーム一つの話だろ? そんなんで市場が大きく動くのか?」

「あれ? なんかアクア君、興味が無さそうですね。あっ、そう言えば、アクア君はゲーム苦手でしたもんね?」

「未だにファイナル・クエストに苦労してるもんな」

「元太君、その話本当なの? えー、お兄ちゃん、なんかダサい」

「あっ、アクア君は少し手先が不器用なだけだもんね?」

「うっ、うるせぇよ、お前ら」

「こらこら、みんなしてアクアを苛めないであげてねー」

「か、母さん…………」

 

 どうやらアクアはゲームが苦手なようだ。

 アクアはそれを歩美ちゃんを除く全員から指摘され、少しすねたような表情を浮かべていた。 

 そんなアクアを庇うように(俺の説明に飽きた)アイが来たことで、アクアが更に項垂れてしまった。アイよ、よかれと思ってしてくれていると思うが、それはアクアにとってトドメなんだよ。

 しかし、アクアもこうしてみれば年相応だな───って。えっ、マジで? 俺知らなかったんだけど…………いや、コントローラーではなくバーチャルリアリティなら大丈夫だよな? 

 今回のゲーム参加は“俺が難しそう”であるため、不安が残ってしまう。

 独りでに不安になる俺を気にして、“元太君と同じぐらいの身長”である一人の少女が話しかけてきた。

 今年で“小学生六年生”となる灰原 哀だ。

 

「どうしたの?」

「あぁ、灰原か。いや、アクアがゲームが苦手ってことに少しな」

「別にいいんじゃない? 人それぞれ得手不得手があるものよ、あなたの音痴と一緒でね」

「悪かったな、音痴で。けど、今回はちょっとな」

「ん、コクーンのこと? でもあの子達全員参加者じゃ────まさか、参加することになるの、工藤くん?」

「あぁ、その予定…………だと思う」

 

 ここで補足しておくと、灰原を含めた“一部”の人には俺が原作という歴史の流れについて説明している。

 しかし、あくまでもそれは“工藤 新一”の物語であるため、晋一となった俺に全てが等しく起こるわけではないが、それでも原作と同じような事件は起きる時は起きるのだ。

 

「そう。貴方がそう言うのなら、私たちはコクーンでバーチャルリアリティ体験ができるってことね。でも…………」

「あぁ。今回のゲーム参加者は“高校生以下”って事になってる。つまり────」

「貴方の代わりに誰かが。それこそ、貴方の子供が参加することになるって考えてるのね」

「万が一って具合だけどな。まっ、俺よりもアクアの方が頭がいいから大丈夫だとは思うんだが、アクアがゲームが苦手と来たか」

「どうにもならないの?」

 

 灰原の問いかけに、俺は首をたてに降る。

 

「あぁ。流石に俺がもう一度“江戸川 コナン”になるわけにはいかねぇからな。まぁ、ゲームで事件が起きるとは決まってないから、大丈夫だとは思うんだが」

「そう? 貴方がいる限り“事件”からは逃れられないと思うけど?」

「“事件”はな。だが、俺の記憶が確かなら、それは現実だ。バーチャルリアリティの中じゃない」

「だったら、そこまで気負う必要は無いんじゃない? せいぜい、現実で起こる方に注力しなさい、名探偵?」

 

 そう言う灰原は少しだけ優しく俺に微笑みかけていた。

 おそらく、今心配してもしょうがないことを悩む俺を励ましてくれたのだろう。

 全く。おめぇはいつでもいい相棒だな、灰原。

 

「あぁ、言われなくてもそうするさ。ありがとな、灰原」

「ん。なら私も期待せずにバーチャルリアリティを楽しませてもらうわ」

 

 若干顔を俺から背けつつ、灰原は子供たちのところへと向かおうとしたが、それを拐うように前から一番星がやってくる。

 

「晋一と哀ちゃ──ん。なーに話してたの?」

「わっ?! ほっ、星野さん?」

「んもー、私のことはアイって読んでってお願いしたでしょ、哀ちゃーん」

「あっ、貴方ねぇ。私も哀だからアイって呼ぶと紛らわしいって言ってるでしょ?」

「えぇー。同じ人を愛する“あい”同士、仲良くしようよぉ~」

「あぁ、もう。貴方はその“愛”がわからないじゃなかったの?」

「それは大丈夫!! 晋一が一生かけて一緒に見つけてくれるから」

「…………あらそう。羨ましい限りね、貴方」

「哀ちゃんも探してもらえば? 晋一は断らないと思うよ?」

「結構よ。私は彼の“相棒”だから。どちらかと言えば貴方のことを彼と一緒に手伝う方よ」

「本当?! じゃあ一緒に探そうよ~」

「あぁもう、貴方はどうしてそうなるのよ?!」

「エヘヘー、哀ちゃーん」

「はぁ……まったくもう」

 

 教えてくれ、安室さん。こう言う時、俺はどんな反応をすればいいんだろうか。

 恋人が“大きすぎる”人に心で尋ねてみても、答えは帰ってこなかった。

 絡んでくるアイを言葉では嫌そうにしながらも、どこか“妹”をあやすように構ってあげる灰原。俺と同じように正体を見破っているアイからすれば灰原は“姉”のように感じるのだろうか。

 年が離れた本当の姉妹のようにじゃれ会う二人を俺は微笑ましく思いたいのだが、内容が内容なだけに反応に困る。

 

「とっ、とりあえず先にいこうぜ。子供たちが待ってるぞ?」

「はーい!! それじゃ行こっか、哀ちゃん」

「はいはい。どこかのへたれた名探偵の言うことを聞いてあげましょうかね」

「…………もうどうとでも言ってくれ」

 

 話題転換をしようとした俺をヘタレの言葉で片付けられてしまった。

 若干破れかぶれになりつつあったが、実際問題、アクアたちはすでに披露会場へと行っているため、その後をアイと哀を連れて俺も向かった。

 

◯ ◯ ◯

 

 今回の最新ゲーム“コクーン”の開発披露会は2つの会場にて行われる。

 一つは立食パーティーを兼ねた簡易的なステージのあるフロア。

 そしてもうひとつが、コンサートホールを利用して“コクーン”を並べた会場となっている。

 最初にコクーン、および関係者の説明が行われる披露会場へと、俺たちは来た。

 

「それにしても、蘭も来れたらよかったのによぉー」

「元太君、その気持ちはわかります。ですが、蘭ちゃんは空手の大会の関係から難しかったですからね」

「そうだよね。蘭ちゃん、来たかっただろうな」

 

 少年探偵団の一員である“毛利 蘭”が不在であることに、元太君、光彦君そして歩美ちゃんが残念そうな声を出していた。

 事実、アクアやルビーたちも入っている少年探偵団の一員として毛利 蘭も入ってたため、俺は毛利夫妻をパーティーへ招待したのだが、娘の空手の大会が近々あるとの事で、断られてしまったのだ。

 

「お前たちなぁ、残念がるのもいいが、そもそも父さんが誘わなかったら誰もこれなかったんだぞ? それを分かってるのか?」

「うわっ、出ました。アクア君のお父さん、お母さん自慢が」

「アクア本人が偉いわけじゃねぇってのになぁ?」

「アクア君はお父さんとお母さんが大好きだもんね」

「…………ルビー。お兄ちゃん、なんか悪いこと言ったのか? それともアイツらになんかしてしまったのか?」

「ごめん。お兄ちゃんを庇う言葉が、今の私には無さそう」

 

 少年探偵全員から指摘され、同じ立場と思われる妹からも助けてもらえず項垂れてしまうアクア。

 すまんアクア。俺もおめぇを庇う言葉を持ってねぇや。

 そんな中、歩美ちゃんがとルビーがとある子供の一団を見て羨ましそうな声をあげた。

 それは、とあるバッチを配るお姉さんと、それを受けとる子供たちであった。

 

「それにしても、あそこの子供たちはラッキーだよね」

「そうよね~。私もバーチャルリアリティー体験してみたかったな~」

「ゲーム参加のバッチを貰っている姿を見ると、今日噂のゲームに参加できる選ばれた子供たちですよね」

 

 光彦君が言うように、バッチを受け取っている子供たち、そのどれもが“大物の親を持つ”子供たちであった。

 与党政治家の子供、それから大手銀行の頭取や警視副総監の孫まで幅広くいた。

 そんな子供たちを見て、アクアがポツリと呟いた。

 

「まるで、日本の悪しき世襲制の縮図みたいな光景だな?」

「おっ、お兄ちゃん?」

「だってそうだろ、ルビー? こうした世襲制と共に、人間の誤った歴史が繰り返されるんだぜ?」

「いや、それは分かるけど。歩美ちゃんたちが……ねぇ」

「…………やべ」

 

 ルビーの指摘にアクアが他の三人を見ると、一様に首をかしげていた。

 それを見たアクアは「ごほん」と咳払いを一つし、

 

「えーっと──政治家の息子は政治家になる。頭取の息子は頭取になる。これじゃあ何時までたっても日本は変わらないってこと。────とか何とか、テレビで言ってたぜ、みんな!!」

「「「あぁー。アハハハハ!!」」」

「うわー」

 

 誤魔化すように、とりあえずテレビで得た知識ということにしたようだ。

 そうしてアクアがルビーにチベット砂狐のような視線を受けていると、一人の女性が俺たちの元にやって来た。

 

「工藤くん、アイー」

「あっ、園実ー」

「園子な、アイ。よっ」

 

 それは、赤いドレスを身に纏った園子であった。

 しかし、最近の園子は珍しく“一人”であった。

 

「あれ、なぁ園子。京極さんは一緒じゃないのか?」

「そうなのよねぇ~」

 

 京極 真。園子の彼氏であり、世界最高峰の防衛システムと名高い実力を持つ空手の達人だ。

 現在は園子の婚約者となっており、園子がパーティーへ行くときは必ずボディーガード兼用で来ていたはずだ。

 

「京極さん、今度ある空手の大会の運営責任者するみたいなのよね~。ほら、あのボーイズ&ガールズの一員である蘭ちゃんが参加する大会よ」

「あぁ。そうゆう繋がりかあったのか」

「そうよ。だから今回は私一人よ」

「えぇ~。なんか一人ぼっちだとかわいそうだね、園子」

「…………あのねぇ、アイ。あんたこう言うときこそ名前は間違えなさいよね」

「えっ?! 晋一、名前は間違えなかったのに園子が怖いよ~」

「…………ノーコメントで」

 

 園子が「がおー」と、アイに怒っていると、子供たちの方に別の子供たち四人グループが話しかけているのが見えた。

 その子供たちの一人が、少し聞き過ごせないことを発した。

 

「そもそもお前ら、ちゃんと招待されてんのか?」

「君たち、失礼だぞ」

「っ、父さん」

「パパ…………」

 

 思わず声が出てしまった。

 しかし、子供とは言え言葉は刃物。探偵としてその事を教えてあげなくてはと思い、俺は四人の子供たちのところへと行った。

 “精神的に大人である”アクアが何か言いたそうにしているのを見た感じ、四人の子供たちが何やら言ってきたのだろう。

 

「彼らは俺の息子と娘の友人で、俺の正式な招待客だ。それと君たち。どういった事情でそんな言葉を言ったかは知らないが、言葉は刃物だ。扱い方を間違えたら相手を容易く傷つけてしまう。それは理解しているのかい?」

「オッサン、誰だよ?」

「僕たちが誰か分かって言っていますか?」

 

 赤い服と青い服を着た少年二人が、俺を少し小馬鹿にしたように話しかけてくる。

 そんな彼らなど俺は────。

 

「あぁ、知っているとも。警視副総監の孫である諸星 秀樹君と、狂言師の息子である菊川 清一郎君。他にも銀行頭取の孫の江守 晃君に現与党の息子である滝沢 進他君だろ?」

「なっ?!」

「えっ?」

「うそっ、俺たちのこと分かってんのかよ?」

「マジかよ、このオッサン」

 

 俺が名前を全員当てたことで、四人たちが驚きの表情を浮かべた。伊達や酔狂で公安やFBIと関係は持っていない。

 そして、そんな彼らだと“分かった”上で彼らの親がしてこなかった説教の一つでもしてやるか。

 

「君たちがどういった教育を受けてきたかは俺には分からないが、世の中には確かに選ばれた存在というのはある。だけど、こういう言葉も同時に存在する『noblesse oblige』。持つものは、それ相応の責務があるということだ。それは知っているかい?」

「んだよ、オッサン。俺たちに楯突いてどうなるか分かってんのか?」

 

 赤い服を着た少年──諸星君が好戦的な事を口にする。

 だが所詮は子供の戯れ言。本物の“脅し”を知っている俺にはその程度の脅しなど意味はないぞ。

 

「分かっているさ。けれど、そういった脅しをしてしまえば、君たちが盾にする家族の品性や品格を疑われてしまうことを覚えておきなさい。君たちが家名を武器にするということは、その発言は一族の発言と捉えられてしまうよ」

「てめえ……俺たちに説教するとはいい度胸──」

 

 諸星君がそこまで言った時であった。

 

「秀樹ッ!! お前は何をしているのだ!!」

「おっ、お爺ちゃん」

 

 血相を変えてこちらへ向かってくる壮年の男性──警視副総監の諸星 登志夫さんである。

 登志夫さんは俺と秀樹君を見るなり自身の頭を下げたあと、秀樹君の頭を思い切り掴み、俺たちの方へ下げさせた。

 

「工藤さん。私の愚孫がとんだ失礼をしました。ほら、秀樹、お前も頭を下げんか!!」

「でっ、でもお爺ちゃん。先にあのオッサンが──」

「おっさ──?! 馬鹿者!! この人はまだそんな年ではない!! それにお前はこの人が誰なのか知っているのか!! あの有名大学生探偵であり、警察の事件解決へ多大なる協力してくださっている工藤 晋一さんなのだぞ!!」

「えっ、そっ、そんな人だったの……で、でも工藤さんって子供つくっておきながら女房を4年もほったらかしにしてたって人じゃ──」

(いっ、痛いところを突いてくるな、秀樹君) 

「ッ?! お前は何て事を言っているのだ!! このッ!!」

「えっ──」

 

 俺が内心お腹をさするなか、秀樹君の発言により事態を重く見た登志夫さんは思い切り手を振り上げ、秀樹君へと振り下ろす。

 だが、その手が秀樹君へと当たることはなかった。

 俺は秀樹君達へ説教はするつもりだったが、“体罰”をする気はない。

 俺は秀樹君へ当たる前に、登志夫さんの手首を掴んでいた。

 

「くっ、工藤さん」

「登志夫さん。確かに、この子は俺に対して失礼をしたかもしれません。ですが、まだ子供です」

「しっ、しかし」

「もし、貴方がそれを恥だと感じているのなら、それは大きな誤りです。子供は大人の背中を見て育つもの。今回の件で怒り、手を上げるよりも先に、貴方はお孫さんへ『公衆道徳』について教えるべきではありませんか?」

「…………工藤さん」

 

 俺は登志夫さんの手首から手を離しつつ、秀樹君へと向き合う。

 

「秀樹君。君の行いで、お爺ちゃんは俺に頭を下げることとなった。この意味が、賢い君になら分かるだろ?」

「……工藤さん…………ごっ、ごめんなさい」

「うん。謝れる分、君は成長できるよ。でも、謝る相手が違うのではないかね? 君たちもだよ?」

 

 俺は秀樹君含めた四人へそう話すと、彼らはそれぞれアクアやルビーたちに対して「ごめんなさい」と謝罪をした。

 それを見届けた俺は「もう二度と人を身分や見た目だけ判断して横柄な態度を取らないように」と彼らに伝え、彼らへの説教は終了とした。

 登志夫さんは秀樹君達と戻る間際「この子の親である私の息子には、しっかりと教育するように伝えます」と話していたため、程ほどにするようにお願いした。

 そうして登志夫さんたちが去ったあと、アクアとルビーがやって来た。

 

「父さん…………ありがとう」

「パパ、ものスッゴくカッコよかったよ!!」

「なに、これでもお前たちのお父さんである以前に、大人だからな」

 

 秀樹君たちの謝罪を受けたアクアとルビーから感謝を貰うが、こうした説教というのは大人の責任だから、感謝してもらう必要は無いんだけどなぁ。

 でも、実の子供たちから感謝してもらえるのは親冥利に尽きるものだ。

 さらに嬉しいことに、今回の件は“一番星”も喜んでくれていたようだ。

 

「晋一、カッコよかったよ!!」

「あぁ。ありがとな、アイ」

 

 そうして気を取り直してパーティーを楽しむこと数十分。

 

『会場へお越しの皆様、大変長らくお待たせしました。今回の《コクーン》開発にてシナリオの提供をしてくださいました、超有名推理小説家の工藤先生が、アメリカよりご到着されました!!』

 

 ようやく俺の“依頼人”が披露会へと到着したのであった。




※ここまで読んでくださった皆様に感謝を。こんなにお気に入り登録がされたことに驚きで胸がいっぱいです。
もともと前編後編だけであった、このシリーズがまさかの好評を頂き感謝感激です。これからも皆様が楽しめる作品を書ければと思っています。
そして劇場版の記念すべき一作目はヒントで既に分かった方も多くいると思いますが《ベイカー街の亡霊》となります。
果たして晋一ではなく、アクアが名探偵として事件を解決できるか楽しみにしててください。
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