「私はちょっと肌寒いから、アクア君に任せるわ」
「えっ?! 俺かよ………はぁ。コクーンは繭、繭を作るのは蛾の幼虫である蚕。つまり──」
「それって………あぁ!! うわっ、めっちゃ寒い……お兄ちゃん、私温かいもの貰いに行ってくるね」
蚕→カイコ→解雇 よって答えは②
もれなくルビーだけでなく、子供達全員が温かい飲み物をもらいに行くのであった。
後悔先に立たずとは、よくできた言葉だと、今この瞬間の俺は痛感していた。
『我が名は、ノアズ・アーク』
俺は自分の思い込みで、息子と娘だけでなく、その友人たちも危険にさらしてしまった。
しかし、嘆いてばかりはいられない。
この場にいる49人の命が、俺“たち”の肩に背負わされたのだから。
……………
………
…
───晋一が聞けなかったコクーンの紹介について───
『このカプセルは人間の五感を司り、感触も痛みも匂いも全ての感覚が現実のような世界にプレイヤーはおかれます』
『電気的に“中枢神経”に働きかけるシステムが用いられ、身体に害は全くありません』
『それでは、コクーン体験試乗までの間の時間を、イメージガールであるB小町の渡辺さん、そしてニノさんのデュエットライブをお楽しみください』
「へぇー。渡部さんとイノさん、最近は仲がいいと思ったら、デュエットデビューしてたんだ~」
「アイ、あんたねぇ。自分の所属しているチームのメンバーの近況くらい把握してなさいよ……」
「エヘヘ……すみません」
「まったくこの子は」
──────
パーティー会場から場所は移り、次世代ゲーム機、コクーンが並ばれているフロアへと俺たちはやって来た。
アイを残し、俺と少年探偵団の6人は観覧席とコクーンが置かれたステージを繋ぐゲートを潜る。
ゲートはコクーン参加バッチのGPS信号に反応し、問題がなければ青のランプが点灯。その後は係員のお兄さんかお姉さんが指定するコクーンへと向かう。
ルビーは勢いよくコクーンへ乗り込むが、アクアは少しぎこちなく座っていた。
「いよいよだね、お兄ちゃん、パパ!! 私、こう見えてもゲームは大得意だから、二人には負けないからね!!」
「おいおい、ルビー。別に勝負をする訳じゃねぇんだぞ? っと。アクア、大丈夫そうか?」
「うん、ありがとう父さん。ちょっと緊張しちゃって」
「お兄ちゃん大丈夫だって。例えゲームが下手だとしても、パパは笑わないって」
「そっ、そんなんじゃねぇよ!! ただ、自分の“脳波を機械が電気的に読み取る”のが少し怖ぇんだよ」
「まあ確かに。アクアの言う通り、言い方を変えれば脳に電流が走るんだもんな。このコクーンの原理上」
「ちょっ、パパ。怖いこと言わないでよ」
「悪い悪い。一応、スタッフは身体に害は無いって言ってるから、アクアも気にしすぎるなよ」
「うっ、うん。わかった」
アクアだけでなく、少し怖がらせたルビーへ「大丈夫」と声をかけながら、俺たち三人は係員により脳波を感知するヘッドギアを取り付けられる。
周りを見れば、既に少年探偵団のみんなは準備が完了していた。
身に付けられるヘッドギアを見ながら思う。確かにこのヘッドギアから電気的に中枢神経へ働きかけられ、俺たちはコクーンへと意識を委ねられる。
他人ではなく、機械に自分の脳を預けるのだ。
ルビーに大丈夫と言った手前、怖がる訳にはいかないが、確かにアクアの言う気持ちが少しわかる。
これは、少し恐ろしく感じるな。
『50名、全員搭乗を完了。ブレーンギア、セット完了』
ついに全員の準備が完了し、アナウンスが鳴り出した。
『カプセルビット、クローズ』
そのアナウンスと共に、俺の搭乗するコクーンの蓋が閉じられた。
コクーンが少し後方へと傾き、コクーンの椅子に体を預ける形のなって体勢が楽になる。
『ゲーム────スタート!!』
会場の電気が落とされ、辺りが暗くなる中、俺の乗るコクーンは眩い光に包まれていく。
視界一面が真っ白となり、まるで眠るように。
俺の意識は無くなっていった。
「工藤さん────ごめんね」
◯ ◯ ◯
ゲームが開始した同時刻。
ゲーム会場では大騒ぎが起きていた。
「どっ、どう言うことだ?!」
樫村はコントロールパネルに移るエラーメッセージの数々の対応に追われていた。
それと同時に、子供たちの搭乗するコクーンのシステムに、相次いで異常が出始める。
ゲーム進行を確認するため制御室に来ていた優作はいち早く異常事態を感じとり、樫村に尋ねた。
「樫村、何があったのだ」
「分からない。突然、システムが異常を起こし始めた。まるで制御を第三者に奪われたかのようだ」
「ちょっと失礼」
優作と同じように来ていた阿笠博士は、システム調整の担当をしていたこともあり、スタッフの座っていないパソコンへと向かう。
そしてシステムのエラーをチェックしていると、突然────。
『我が名は、ノアズ・アーク』
制御室の一部のモニターに光輪のような絵が写し出された。
そして一人の“人工知能”が、自己紹介を始めた。
『我が名は、ノアズ・アーク。ゲームはもう止められない。体感シミュレーションゲームは、“私”が占拠した』
その自己紹介に、樫村は驚愕の表情を浮かべた。
「ノアズ・アーク。どうして…………」
「樫村、ノアズ・アークは確か、ヒロキ君が作り出した人工知能だったな?」
「あぁ。一年で人間の5年分の成長をする人工知能だ。今の年齢はヒロキを超え、“高校生位”か。だが、一体全体何が起こって──」
樫村含めてスタッフ全員が困惑しているため、優作はこの場を代表してノアズ・アークへと話しかけた。
「ノアズ・アーク。子供たちのゲームを占領して、一体何が目的だ」
『私の目的。それは────“日本の再教育”だ』
……………
………
…
ふと、意識が目を覚ました。
辺りは真っ暗闇で覆われており、自分の周りに人影がうっすらと確認できるが、人物の特定は難しい。
そんな暗闇の中にいること数秒。
突然『パッ、パッ、パッ』とピンスポットが一人一人に照らされ始めた。
その数が俺を含めて50回行われると、ようやくフロア全体が明るくなった。
そこには円形のフロアに、等間隔で5つの石でできた門が配置され、門からはそれぞれ道が延びている。
まるでストーンヘンジようなフロアに俺は立っていた。
どうやら、ゲームの世界には無事に来れたみたいだ。
しかしながら、コクーンは一種の催眠状態にも関わらず、そんな感じは一切しない。軽く手を開閉させると、普段と同じ感触を感じる。
けれどこれら全ての感覚が全てゲームによって管理されてると思うと、すこしゾッとしてしまう。
「パパ!!」
「父さん」
「おぉ、アクアにルビー。一先ず無事にゲームには参加できたようだな」
ルビーが勢いよく抱きつき、アクアがゆっくりと俺の元にやって来た。
しかし、ルビーが俺を見つけるなり抱きつくとは珍しいな。ちょっとゲーム開始前に怖がらせ過ぎたかもしれない。
安心させるようにルビーを撫でていると、
「あっ、工藤さん、アクア君、ルビーちゃんです!!」
「おっ、てことはこれで少年探偵団全員集合だな!!」
「よかった。最初は真っ暗だったから心配だったよー」
「──みっ、皆と無事に集合できてよかったね、お兄ちゃん」
「あぁ。そうだな」
光彦君たち少年探偵団も俺のところへと集まってきた。
皆が集まったことで恥ずかしくなったのか、ルビーが俺から離れる。
それを見た俺は──すこし、ねぇ。
「…………少しだけ残念がってない、工藤君?」
「そんな事おまへんで」
「なんで大阪弁なのよ、貴方」
普通に内心を相棒から指摘されてしまった。流石はコナン時代からの相棒である。
そんなことを思っていたら灰原が「はぁ」とため息をひとつついたため、今思っていることすら読めているのかもしれない。何だか奥さんに隠し事がバレたお父さんの気分になってしまう。
しかし何だろう、この察しのよさ。最近アイだけでなく、灰原にすら怖く感じてしまうのは気のせいだろうか?
俺が灰原に対して妙な寒気を感じていると、突然フロアの上に光輪が現れた。
『さぁ、皆。ゲームの時間だよ。僕の名前はノアズ・アーク。よろしくね』
───よろしくねー!!───
光輪がフロア全体に挨拶をし、それを聞いた子供はイベントの一種だと思い全員が挨拶を返す。
そんな中、俺は光輪が名乗った名前に一種の不安を感じた。
(ノアズ・アーク………だって?)
何故、ノアズ・アークが出てきたんだ? あの人工知能が出てきたのは“シンドラー氏がディスクを挿入したから”ではないのか?
俺の頭に数々の疑問が浮かび上がる。
『今から5つのゲームのイメージ映像を流すから、自分の遊びたいゲームを選んでね。ただし、注意してね。これは単純なテレビゲームじゃない』
そんな俺をノアズ・アークは───絶望へと叩き落としてきた。
『君たちの────“記憶”がかかったゲームなんだ』
(俺たちの“記憶”だって? …………ッ、まさか?!)
ここに来て、俺は自分の考えが、“思い込み”が誤っていたことに気がついた。
そしてノアズ・アークは俺の考えに正解を教えるかのように子供たち全員へ告げてきた。
『全員がゲームオーバーになったら、現実の世界に戻る前に少しだけ君たちの頭を“弄らせて”もらうんだ。死ぬわけじゃないけど、真剣にゲームをしてほしい。なに、たった一人でもゴールに辿り着けば、君たちの勝利。それまでにゲームオーバーになった子も全員が何もなく、無事に現実に帰ることができる。これが僕の決めたルール。理解してくれたかな?』
フロアにいる子供達がざわつき始めた。
幼いながらも、これが普通じゃないことに気づき始めたようだ。
ノアズ・アークはそんな子供たちへ“万が一”の事について説明を始めた。
『もし君たち全員がゲームオーバーになったら、君たちの脳へ直接電気信号を送り、立派な大人になれるように“教育を施させてもらう”。当然ながら、君たちの記憶や自我は消滅してしまうかもしれない。けれど、それで親から“教育をされなかった”君たちが立派になるのだから、日本にとっては良いことだよ? これが僕の目的────“日本の再教育”さ』
ノアズ・アークの説明により、俺は確信した。いや、してしまったというのが正しい。
やはり間違っていた。映画の舞台は現実とゲームであるが、俺はそれが連動していると勘違いしていた。
実際は────独立している!!
『ここにいる君たちには聞こえていないけど、今大人達が質問をして来たから、それに答えるね。君たちを───』
ノアズ・アークが自身の目的を話してくるが、一切頭に入ってこない。
俺は顔に片手を当て、力なく片ひざをつき、強い後悔に苛まれる。
(────やってしまった)
安全だと思っていたゲームが危険なものであり、あろうことかアクアとルビー、そして少年探偵団のみんなを“俺が巻き込んでしまった”。
「……ど……ん」
どうすればいい。親父達がなにもしないわけはない。だが、実際にノアズ・アークが言う通りであれば、ゲームをクリアできなければ子供たち全員の記憶と自我───実質命が危ない。
「工藤………ん」
ちくしょう。何が安全だったらアクアとルビーに楽しんでもらいたいだ。子供たちを危険に晒してしまうなんて。
俺は───俺はぁッ!!
「工藤君ッ!!」
「────ッ?!」
右の頬に痛みが走った。
痛みで思考に潜り込んでいた意識がもとに戻り、気がつくと、目の前に灰原がいた。
そして灰原はおおよそ小学生とは思えない力で俺の両肩を掴んできた。
「しっかりしなさい工藤君。今は後悔している場合じゃないのよ。いい、この場にいる大人は貴方しかいないのよ。“アクア君や私”じゃなくて、貴方だけなの」
「けど灰原………俺はおめぇたちを危険に」
「しっかりしなさいッ!!」
「っ……」
普段から大声を出さない灰原の叱責に、思わず怯んでしまう。
「確かに貴方が誘ったから私たちはゲームに参加してしまった。けどね、貴方が誘わなかったとしても“50人の子供たちは巻き込まれてしまった”のよ。つまり、貴方が何をしたとしても“この状況に大きな変化はなかった”筈よ」
「灰原………」
「起きてしまった事はどうしようもないわ。貴方が“工藤 新一”の記憶を持っていようと“起きるものは起きてしまう”。それは昔から貴方は言ってたじゃない」
「だから、俺はそれを未然に防げた筈なんだ。それこそみんなを巻き込まないように」
「自惚れないでッ!!」
「ッ!?」
二度目の叱責。普段は言わないような声量で怒ったことで、灰原は軽く息が上がっていた。
そして二、三回呼吸を整えた後、俺へ説明を続ける。
「貴方は“工藤 新一”じゃない、“工藤 晋一”なのよ。赤の他人が何でもかんでも“未然に防げる”わけないでしょ。貴方、神様にでもなったつもりなの?」
「はっ、灰原……………」
「もう一度言うわ、工藤君。起きてしまった事はどうしようもないわ。でもね、巻き込まれなかったら“貴方はこの事件に何も出来なかった”。つまり“巻き込まれたことで、貴方は介入ができる”。そうじゃなくて?」
「たし……かに。…………そうだ、そうだよな、灰原。まだ“事件は終わってない”」
灰原から励まされ、俺は勢いよく立ち上がる。
そうだ。まだ事件は“終わってない”んだ。確かに俺は勘違いをしていたかもしれない。だがそのお陰で、灰原が言うように“ゲームに参加できた”。
まだ、俺の手で挽回できるチャンスがあると言うことだ。
けど、今は励ましてくれた相棒に感謝を伝えるのが先だ。
「ありがとな、灰原。お陰で目が覚めたわ」
「あらそう。だったら、この後の役割は分かってる?」
「あぁ、勿論だ」
「だったら、丁度ノアズ・アークがゲームの説明をしてくれているみたいだから、しっかりと見ておくことね」
「おう、親父が関わったゲームを見つけねぇとな」
俺と灰原はフロアに浮かび上がっているモニターに視線を向けた。
『それでは、君たちが挑戦する5つのゲームについて紹介をするよ?』
①バイキング
【君たちはバイキングとして、七つの海を舞台とした大冒険に出てもらう】
②パリ・ダカールラリー
【世界最高峰の過酷なレースに、君たちは挑戦してもらう】
③コロセウム
【強力な武器、強靭な防具を手にしていき、古代ローマ帝国のコロッセオにて強さの頂点を目指してくれ】
④ソロモン王の秘宝
【君たちはトレジャーハンターになってもらう。ソロモン王の秘宝を手にするために世界中を駆け巡る】
⑤オールドタイム・ロンドン
【ここでは、ちょっとしたホラーゲームを体験してもらう。舞台は19世紀のロンドン。現実では迷宮入りとなった事件、ジャック・ザ・リッパーを捕まえるんだ】
どうやら、親父が関わったゲームはちゃんとあったみたいだ。というか、親父は本当に好きだね~あの時代が。っと、今はそんなこと思ってる場合ではない。
ノアズ・アークのゲームプレゼンが終わったあと、俺はフロアにいる子供たちを見渡す。
アクアやルビー、少年探偵団も含めた子供たち全員が一様に不安で一杯な表情をしていた。
そんな子供たちを励ますように、俺は精一杯の笑顔を作った。幸いにも“見本は飽きるほど見てきた”。
「みんなー!! そこまで心配する必要はねぇよ!! 誰か一人でもゴールできれば無事に帰れるんだ。そしてこの俺、大学生探偵の工藤 晋一までいる。それに今回のゲームの内一つは、俺の父さんがシナリオを作ったから、ゴールするのは簡単なんだぜ? だから皆は自分のやりたいゲーム、得意なゲームを選んでくれ!!」
俺の言葉に、子供たちが少しずつ笑顔を取り戻し、それぞれが得意なゲームのステージが書かれたゲートへと向かい出した。
そんな中、
「パパ、本当に私たちクリアできるの?」
ルビーが不安そうに俺に聞いてきた。
いや、聞いてきたのはルビーだが、アクアや少年探偵団の皆が俺の方を不安そうに見つめていた。
先程まで府抜けていたから少々恥ずかしいが、それを圧し殺して俺は堂々と言う。
「あぁ。父さん──俺は迷宮なしの名探偵────工藤 晋一だからな!!」
「パパ………そうだよね。パパが解決できない事件なんて一個もないもんね!! だったら、最後のゲームはクリアしたも同然だね!!」
「おう。てなわけで、アクア。悪いが参加するゲームはオールドタイム・ロンドンでいいか?」
「父さん…………本職の探偵にバイキングやパリ・ダカールラリーを進めると思う?」
「そうか? これでも父さんはハワイでお爺ちゃんに飛行機や車の運転を教えてもらっているからな。そして腕っぷしも強いぞ~」
「ならコロセウムにでも行く?」
「…………すみません、父さん調子に乗りました」
「「「「アハハハハッ」」」」
俺とアクアのやり取りに、少年探偵団の皆が笑い出し、アクアやルビーも釣られて笑う。どうやら、精神面は大分回復したみたいだ。
そうして俺たちはオールドタイム・ロンドンのゲートへと向かうことになった。
そしてゲートへ向かうと、そこには、既に見知った顔四人がいた。
「あっ、工藤さんも来てくれたんですね」
赤いジャケットの男の子────秀樹君がほっとした表情を浮かべる。
そして青いジャケットの男の子────清一郎君が元太くんを指差す
「君たち、工藤さんを困らせないようにしてくださいよ?」
「それはこっちのセリフだっつーの」
「こらこら、これから協力していくんだから喧嘩するじゃねぇよ」
俺がそう言うと元太君は渋々といった感じで「はーい」と言うのに対し、清一郎君を含む四人は元気に「はい!! 工藤さん!!」と元気よく返事をして来た。
これには俺だけでなく、アクアたち皆がビックリした。
どうやら秀樹君を叱ったことで、彼らの中の上下関係に変化があったみたいだ。まあ、今回に関しては良いことだと思おう。下手に反発されるよりマシであるからな。
「んじゃ、行こう。皆!!」
「「「「「「「「「「はい!!(うん!!)(ええ)」」」」」」」」」」
門をくぐり、俺たちは11人はゲームの世界へと向かった。
途中、元太君が「ちょっと怖いんだけど?」と言うも「早くいってください、詰まってます」と光彦くんに背中を押されてしまうといった小事があったが、俺たちは全員揃って19世紀のロンドンへと足を踏み入れたのであった。
ゲートに入る際、俺はあることが気になった。
果たしてノアズ・アークはガイド役であり、現実でも探偵をしている俺をそのまま“プレイヤーとして”登録をしてくれるのだろうか、と。
万が一の時には、本当に依頼をする必要があると、俺は考えるのであった。
◯ ◯ ◯
19世紀のロンドン。
それは産業革命により工業生産に機械が用いられるようになり、国内生産力が飛躍的に増加した時代。
しかし、その影響も秤知れず。石炭燃料が中心であったこともあり、ロンドンの都市は化学性のスモッグが充満。幻想的な文字とはかけ離れた霧が街に蔓延ることになったのが、19世紀の霧の都である。
「よっと。無事にゲームの舞台には来れたか」
そんな霧の都に俺たち11人は降り立った。
灰原が最後に出てきて、それを見届けるかのように最初のフロアと通じるゲートは消失。
ついにゲームがスタートしたと言うわけだ。
時間帯は夜中。場所的には何処かの路地だろうか? 街灯の光の明かりはあるものの、霧があるため視界は良くない。
「父さん、まずはここがロンドンの何処なのかを調べよう」
「だな。ゲームの説明から既にジャック・ザ・リッパーはいるのがわかっている。ここは分散せずに皆で────」
それは、アクアとやり取りをしている最中だった。
《come on !! Jack the Ripper is out!!※皆!! ジャック・ザ・リッパーが出たぞ!!》
「「「ッ?!」」」
突如として英語で叫び声が聞こえた。
俺とアクア、そして灰原を除く皆が英語が分からずにきょとんとするなか、会話の内容がわかる俺たち三人はその内容に反応した。
アクアと灰原に緊張が走るなか、俺はメンバーの輪から飛び出す。
「父さん?!」
「工藤くん?!」
二人の制止を振り切り、俺は知らない道を先程の声を手がかりに一気に駆け抜ける。
手がかりが一切ないスタート時点であるのなら、普通は情報収集が優先だろう。だが、ジャック・ザ・リッパーが出て来たのなら話は別だ。
最速かつ最短でクリアするのなら、“犯行中”を取り押さえるのが手っ取り早い。
「こっちか!!」
路地裏へと入り込み、狭い通路を少し走り抜けると、隣の大通りに繋がった。
その路上に、女性にナイフを突き立てようとする黒いシルクハットと帽子を身につけた男がいた。
間違いない、ジャック・ザ・リッパーだ!!
「─────ッ!!」
俺はジャック・ザ・リッパーに気づかれないように静かに、それして素早く距離を詰める。
地面を蹴りあげ、勢いをつけたまま、俺は右足をジャック・ザ・リッパーの頭部へと叩きつけた。
いや、正確には“叩きつけようとした”が正解となるかもしれない。
俺の蹴りがジャック・ザ・リッパーへ当たりそうになった瞬間、その寸前で何か固い壁のような物にぶち当たった。
衝撃が俺の脚へと来て、ようやくジャック・ザ・リッパーは俺を捉えた。
そうして俺たちの間に、無慈悲な“エラーメッセージ”が挟まっていた。
【Immortal Object】
ゲームにおいてはNPC等を保護するためのプロテクト────不死存在。
俺はこの瞬間をもって、ジャック・ザ・リッパーを捕らえる資格を失ったのであった。
「嘘だろ………」
「────っち!!」
落胆する俺とは逆に、犯行を見られたジャック・ザ・リッパーは路地を駆け抜け、闇夜に溶けていった。
先程のエラーメッセージの件もあり、俺は追うだけ無駄であるため、その場に立ち尽くしてしまう。
「父さん!!」
程無くして、アクア達がやって来た。
それと同時にNPCも被害者を発見し、警察が呼ばれる。
「父さん、ジャック・ザ・リッパーは?!」
「…………逃げられた」
アクアの問いかけに、俺は首を左右に振り、捕まえることができなかったことを伝える。
「アクア、灰原、ちょっといいか?」
ジャック・ザ・リッパーの被害者が駆けつけた警察官により運ばれる様子を皆が見つめる中、俺はアクアと灰原を呼んだ。
「父さん、どうしたの?」
「工藤くん?」
「いいか、二人とも落ち着いて聞いてくれ」
俺は他のみんなには聞こえない声で、先程のジャック・ザ・リッパーとのやり取りで発生したエラーメッセージについて説明した。
そして、俺がどうあがいても“事件を解決できない”という最悪の事態についても。
やはりノアズ・アークは手を打ってきていた。
「そんな──じゃあ父さんは」
「あぁ。このゲームの“ガイド”役に固定されちまってる」
「待って、工藤くん。まだガイド役に固定されたって言うのは早計じゃない? もしかしたら序盤だから犯人を捕らえられなかった可能性が」
「いや、それはない。ノアズ・アークもジャック・ザ・リッパーを捕らえる事をクリア条件にしていた。もし序盤だからという理由でダメだったらゲームの根底から可笑しくなる。それこそ、クリア不可能って具合にな。それに親父が作ったシナリオで、尚且つ親父自身もガイド役として参加予定と言っていた。流石の親父も、ゲームに参加する子供たちを差し置いてジャック・ザ・リッパーを我先にと捕まえるような真似はしねぇし、できるように調整もしてねぇさ」
「なら、ジャック・ザ・リッパーは…………」
「あぁ、そう言うことになる」
アクアが不安そうに俺を見つめてくる。
気持ちは分かる。俺も解決するといっておきながら、なにもできないことに歯痒くなるどころか、自分自身をぶん殴りたくなる。
だが、俺はアクアに“依頼”せざるを得なかった。
この事件を解決するには、俺が推理するだけでは駄目なんだ。もう一人の“名探偵”が必要なのだ。
俺はアクアを勇気づけるようにアクアの肩に手をおき、真っ直ぐに見つめる。
そして、
「アクア、お前がこの世界の────“名探偵”だ。俺が全面的にサポートする。だから、おめぇたちが、ジャック・ザ・リッパーを捕まえるんだ」
小さな名探偵(アクア)へと依頼するのであった。
「俺が……探偵」
「安心しろ、おめぇは俺の立派な息子だ。それに、捕まえるまでのサポートは俺だけじゃなくて、灰原もしてくれる。だがら、そこまで気負う必要はないさ」
「あら? 最初と言っていることが全然違ってるのではなくて、名探偵?」
「しょうがねぇだろ? 他に方法がない。それに俺は“神様じゃない”からな」
「はぁ。まあそう言うことだから、アクア君。蚊にでも刺されたと思って気楽にやってあげて。私も全面的にバックアップするわ」
「哀さん……分かりました。それしか手がないだね、父さん。だったら、俺はやるよ」
「あぁ、頼んだぜ名探偵(アクア)」
「任せて、父さん」
かくして、小さな名探偵が産声を上げた。
……………
………
…
場所はゲーム世界とは変わり、現実世界。
ノアズ・アークがゲームを占領したことで、ゲームに参加する子供たちの親が慌てふためくこととなった。
初めは二人の親であった。
「馬鹿馬鹿しい」「息子を連れ帰らせてもらう」と言ってスタッフの制止に応じず、子供の乗るコクーンに触れた。その瞬間、電気ショックが二人を襲ったのだ。
それにより大人たちは理解した。子供たちの乗るコクーンが死の揺り篭となってしまったことに。
ある人は泣き。
ある人はどうしてこんなことに、と言ってため息をつき。
またある人は行き場のない怒りをスタッフにぶつける。
そんな会場が騒然とする装いの中、
「…………………」
晋一の妻であり、アクア、ルビーの母であるアイは普段通りの笑顔で三人が乗っているコクーンを見つめていた。
「ちょっ、ちょっとアイ!! 貴方、なんでそんなに落ち着いてられるのよ?!」
「んー?」
「いや、ん? じゃなくて、あんたの旦那と子供が死ぬかもしれないのよ?!」
異常事態にも関わらず、普段と変わりのない親友の姿に園子が正気を疑うも、アイはまるでどこ吹く風といった感じで受け流す。
「大丈夫。アクアとルビー、晋一は無事に帰ってくるよ」
そして“当たり前”のように園子へと伝える。
「アイ………でも」
「それにね、園子。私はもう4年も待ったんだから、これくらい待つのは平気なんだよ?」
「……………はぁ。全く、あんたって子は」
園子はため息をひとつつくと、「ドスッ」という音が出そうな勢いで椅子に座った。
その様子にアイは先程とは逆に園子の心配をした。
「園子?」
「奥さんであるあんたが大丈夫って言うんなら、私も落ち着いて待つことにするわ。んで、帰ってきた工藤くんを一発かましてやるのよ」
「園子……………ありがと」
アイの感謝の言葉に園子は「さーて、何の事かしら?」と誤魔化しながら、アイの“震えている手”に自分の手を重ねてきた。
それにより、アイは理解した。
自分の親友は不安に気づいている。そして気づいた上で共に、みんなの帰りを信じて待つという“闘い”に協力してくれるのを。
これ程心強い味方は存在しない。
そうしてアイと園子は、子供たちがプレイするゲームが中継されているディスプレイを静かに見守るのであった。
もう、アイの手の震えていなかった。
ここまで見てくれた全ての人に感謝!!
ラストまでまだまだ時間はかかりますが、頑張って走り抜けます!!
また、これまで数多くの感想を書いていただき誠にありがとうございます!!