ここから一気に物語を進めたいが、いかんせんリアルが忙しすぎる!!
「よっし、今のところ判明した情報を整理するぞ」
ジャック・ザ・リッパーを取り逃がした俺たちはジャック・ザ・リッパーが警察のいる現場に戻ってくることはないと判断し、全員で手分けして町の人々や警察に聞き込みを行い、できる限りの情報を集めた。
全員で集めた情報は以下になる。
①現在地点はホワイトチャペル地区。
②ジャック・ザ・リッパーの事件は今回の未遂も含めて4件目。
③英語圏の筈であるが、急に住民が話す言葉が日本語になった。
④警察はジャック・ザ・リッパーの事件を“レストレード警部”へ報告するとのこと。
⑤外部からの手助けは“不可能”
これらの情報を元に、俺たちは今後の行動について話し合いを行う事となった。
「以上の五点が主な現状、分かる情報だな」
「工藤さん、コクーンの開発者がいるのに、どうして手助けは不可能って考えてるんですか?」
「いい質問だな、秀樹君。理由としては単純にノアズ・アークが許さないからだ。そもそも外部からの手助けができるんだったら、既にゲームは強制的に終了してる筈だろ?」
「確かに。俺の爺ちゃんも黙って静観するとは思えないし、他の三人も同じだと思う」
秀樹君は友達三人方を見て、三人も秀樹君に同意するように首を縦に振る。
実際に外部からの干渉ができるのなら、真っ先にゲームを止めさせる。俺でも思い付くなら、親父が思い付かないわけがない。
それに、既に“できることはしている”と思われる。
「既に干渉できる範囲で、親父達は動いてる。どうしてだか分かるか、皆?」
問いかける形で子供達に質問を投げ掛ける。
アクアと灰原も既に答が分かっている様子だが、ここはみんなに考えてもらいたいという俺の意思を汲んでくれ、静観を決めていた。
数秒間子供達が頭を悩ませていると、光彦君が「あー!!」とてを叩いて閃く。
「言語設定の変更ですね、工藤さん!!」
「そう、光彦君大正解。流石に小学生が中心のゲームでネイティブ英語なんか聞き取れる子なんて殆どいねぇからな。だが、逆を言えば“フェアプレイ”の範囲でしか許可されないと言うことだ」
俺の補足に二人を除いて全員が納得し、頷く。
話が難しかったのか元太くんと歩美ちゃんが首をかしげ、代表して元太くんがアクアへと尋ねた。
「なあアクア。フェアプレイってなんだ?」
「フェアプレイってのは公平な試合ってこと。よくサッカーなんかの試合でフェアプレイをしましょうとか言うだろ? つまり、このゲームにおいては、小学生だからクリアできないっていう不公平は無いってことだ」
「そっか。小学生でもクリアできるってんな、俺たち少年探偵団なら余裕じゃねぇか!!」
「そんなに甘いことではないわよ?」
「哀ちゃん。それってどういうこと?」
このゲームが一応公平であるということに対する“落とし穴”を、俺の代わりに訪ねられた灰原が答えていく。
「小学生でもクリアできるゲームなら、クリアできなかったらノアズ・アークは本気で私たちの脳を弄ってくるわ。なんせ、ノアズ・アークとの“公平”な試合で負けてしまったと言うことにもなるからね。つまり、言い訳もたたないってわけ」
そうなんだよなぁ。灰原が言うように、公平な試合で負けた場合、言い訳ができない。何しろ、子供たち自身が勝負に負けたのだからとノアズ・アークは考える。そもそものゲーム乗っ取りは度外視するとしてな。
つまり、相手が公平な範囲で外部からの干渉も許可した時点で、本当に負けるわけにはいかなくなったのだ。
事実を再確認した全員が顔を青ざめる。
事実とは言え、言い方ってもんがあるだろ灰原──と思うが、結局は誰かが言わなければいけない事。多分灰原は敢えて汚れ役を引き受けたのだろう。
そんな灰原のお膳立てを無下にするわけにはいかない。
「まっ、そこまで怖がる必要もないさ。元太くんが言うように、小学生でもクリアできるってことには変わらない。なら、俺たちはゲームクリアを目指すだけさ」
子供たちを勇気づけるように励ます。子供達の顔に程よい緊張感が走る。
よし、これで士気は十分だな。皆いい表情だ。
「ところで父さん。この後はベイカー・ストリートを目指すって事でいいんだよね?」
「ほぉ、その理由は?」
これからの目的地を俺がヒントを出す前に、アクアが提案する。
理由を訪ねる俺に、アクアが全員へ伝えるように根拠を話す。
「まず、このゲームはお爺ちゃんの作ったシナリオを元にしている。だったら、警察よりも頼りになる存在がいる」
「頼りになる存在だって? お前の父さん、工藤さんよりも頼りになる存在がいるってのか?」
「諸星さんの疑問も最もだ。でもここがゲームの世界なら、必ずいる。お爺ちゃんの性格上、そして“レストレード警部が存在する”のなら、世界一有名な名探偵が必ずいる!!」
「………ん? あっ!! お兄ちゃん、そうことなんだね!!」
「ルビーも気づいたか。あぁ、必ずいる。世界一の名探偵───シャーロック・ホームズが」
シャーロック・ホームズ。
名前だけなら知らない人はいないであろう世界的名探偵。それは推理小説の原点でもあるアーサー・コナン・ドイルが産み出した想像上の名探偵の事だ。
当然、想像上の人物であるため、ジャック・ザ・リッパーとは違い、実在する人物ではない。
しかし、先ほどアクアの言ったようにこの世界は親父のシナリオが元となった世界。そして親父はシャーロック・ホームズの大ファンである。
となれば、親父が登場させないわけがないのだ。
シャーロック・ホームズが居ることが分かり、皆の表情が一気に明るくなる。
「ホームズがいるなら百人力ですよ、アクア君!!」
「おぉー、なんかよくわかんねぇけど、スッゲー探偵がいるんだな!!」
「私たちの少年探偵団の大大大先輩だね」
「お兄ちゃん、何だか今日は冴えてるね~」
それは少年探偵団だけでなく、彼ら四人も同じだった。
「諸星君、ホームズって物語上の人物だよね?」
「そうだな、菊川。お前の言う通り確かに実在しないが、ここはあの工藤さんの子供が言ったようにゲームの中。んでもってゲームはゲームでも推理ゲームの世界なら、とんでもない最強キャラって事になるな」
「つーことは、俺たちもうゲームをクリアしたって事じゃね? なあ、江守!!」
「だな!!」
皆の様子を見る限り、どうやら全員がシャーロック・ホームズに会いに行くことに反対する事は無さそうだな。
となれば、行き先は決まったな。
「それじゃあベイカー・ストリートへ向かおう。とは言え、ちょっと遠いな」
「えっ、そうなのパパ?」
「あぁ。徒歩約45分。ちょっとした散歩だな」
「うわー。聞かなきゃよかった──くしゅん」
「おっと」
突然可愛らしいくしゃみの音が聞こえたと思ったら、ルビーが寒そうに肩をさすっていた。
今日のルビーはパーティーに参加するために肩を露出させた服を着ていた。だから、この深夜の風は凍えるのだろう。
俺は自分の着ているジャケットを脱ぎ、ルビーへ差し出す。
「ほら、ちょっと大きいけど、暖かいぜ」
「あっ、パパ……ありがと。へへっ、暖かーい」
笑顔を浮かべ、俺のジャケットに袖を通すルビー。
「…………」
その様子を一言も喋らず、ジト目で見つめる相棒の姿を、俺はどうにか無視できた。
すまん、灰原。同じ薄着の女性なら、俺は娘が優先なんだ。
「えっと、哀さん? 俺のジャケット着ます?」
「………えぇ。ありがとうアクア君。ここでは、役に立たない名探偵よりも気が利くわね」
「……聞こえてんぞー」
しょうがねぇだろ。というか、娘が寒がっているなかで相棒優先したら親として間違ってるだろうが。
アクアからジャケットを受けとる灰原もその事はちゃんと理解しているようで、それ以上からかってくることはなかった。
ほんとうに、いい性格してるぜ、相棒。
こうして一抹の不安を覚えながらも俺たちは、世界一の名探偵、シャーロック・ホームズへ会いにベイカー・ストリートへと向かったのであった。
◯ ◯ ◯
ホワイトチャペルからベイカー・ストリートまでの道のり、約45分の散歩を行い、俺たち一行はベイカー・ストリートへ向かう。
そんな俺たちを最初に待ち受けていたのはシャーロック・ホームズではなく、とんでもない事実であった。
「ねぇパパ、あの時───」
「おい、なんかあの時計、挙動が可笑しかったぞ?」
ルビーから声をかけられるのと同時に、秀樹君がロンドンの有名な時計塔──ビッグベンを指差した。
その時計は時刻、0時48 分を指していた。
一見すると何の変哲もないただの時計塔。しかし、次の瞬間、
「あっ、0時47分になっちゃいました」
「時計の針が逆に動いたぞ?」
光彦君や元太君が言ったように、時計は“逆回転”をしたのだ。
逆に回転する時計? と言うことはあれは時刻を指してないな。現実の時間も深夜は回ってなかった。となれば────まさか。
「あっ!! また変わった。今度は一気に45分になってしまいました」
「47分から一気に45分………ッ!! そうか、分かったぞ!!」
俺と同じ結論に至ったのか、アクアは声を上げた。
「これは、ゲームの残りの人数だ!!」
「だな、となれば、既に何処かのステージで5人が早くも脱落したってわけか」
アクアの言う通り、おそらくあの時計スタートは50分だ。
そしてそれはゲームの参加人数を示すもの。となれば、あの時計がちょうど0時を示したとき、ゲームの敗北が決まるってわけか。文字通りの0ってか? 随分と洒落たことをするもんだ。
しかし、俺はそれとは別の事に少し奇妙な違和感を感じた。だが、結局は判断材料が足りないため指摘せず、そのまま221Bの建物へと向かうことを優先した。
その道中、もう少しでベイカー・ストリートへ入るといったところで、俺たちは奇妙な男に出会った。
「ジャック・ザ・リッパーに気を付けろ~。夜道でお前を待ってるぞ~。死にたくなけりゃ、どうする~? お前も“命を選ぶこった”~」
アコーディオンを弾きながら、浮浪者のような男は俺たちの側を通りすぎて行く。
擦れ違う瞬間、一瞬だけ俺と目があったような気がしたが、男は俺に話しかけることなく去ってしまった。
「諸星くん、どういう意味かな?」
「さぁな、テメェの命を守れなきゃ、死ぬだけって事だろうさ」
清一郎君に尋ねられた秀樹君は軽くそう言っていたが、俺は妙な引っ掛かりを感じた。
(命を選ぶ? 死にたくないのなら命を“守る”ではないのか?)
疑問は残るが、所詮は歌。気にしすぎても調べようがなく、今はゲームクリアを最優先と考え、俺たちは先を急ぐのだった。
◯ ◯ ◯
「あった、ここだ」
ビッグベンの一件から数分後、俺たちはようやく目的地へたどり着いた。
時間が時間であるため、大人である俺が代表して、その建物の扉をノックする。
扉の奥から「はーい」という“何処かで聞いたことがある声”が聞こえた。
誰の声だ? 俺が疑問を浮かべるなか、唐突に扉が開かれた。
「はーい、どちら様でしょうか?」
「うそ……」
「………マジ?」
そこにいたのはハドソン婦人───ではなく”アイ”だった。
俺とアクアは思わず声が漏れてしまう。
いや、アイはゲームに参加していないため本人ではないのだが、それを抜きにしても本人と遜色ないくらいにそっくりだった。
「すごーい、ママそっくり」
ルビーすら納得するほどそっくりであるその人(ハドソン婦人)は、俺たちを見るなり──いや、俺たちというか、俺を見るなり急に笑顔を浮かべだした。
そして彼女はとんでもないことを口にし始めた。
「あー!! こんな夜更けまでどこをほっつき歩いていたんですか? “ホームズ”さん!!」
「──は?」
ホームズ? えっ、誰が? まさか近くにいるのか?!
そう思った俺は急ぎ後ろを振り返るも、そこにいるのは一緒に来た子供たちのみ。
えっ、では彼女の言う“ホームズ”って────まさか?!
俺は恐る恐る彼女の方を向き直す。その様子を怪訝な表情で見つめる彼女。…………マジ?
「もぉ、ホームズさんったら、そんな変なことしてどうしたんですか? 犬に噛まれて変な病気でも貰ったんです?」
「………ハハッ、マジかよ」
彼女は間違いなく、“俺の方を向いて”ホームズと言った。
つまり、俺はここでも勘違いをしていたようだ。
俺はこのゲームにおいてガイド役ではなく、登場人物にさせられていたようだ。
それも飛びきりの名探偵────シャーロック・ホームズ役に。
しかし、お陰で納得もできた。いくらガイド役とは言えどうやってノアズ・アークはプレイヤーの俺を縛り付けているのかと思っていたが、ホームズのキャラデータに当てはめていたのなら納得だ。なにしろこのゲームにおけるホームズは“主人公ではない”からな。主人公を差し置いてボスを攻略できないのは世のRPGの宿命だ。
俺がノアズ・アークの二手三手先を打ってくる手腕に驚愕する中、彼女は子供達の方て「なるほど」と手を叩いた。
「君たち、ホームズさんと一緒ってことは、もしかしてあの子供達ね。もう、お客様が来るなら早く教えてくれればいいのに。全くホームズさんったら。ささ、立ち話もあれだから中に入って入って。今温かいミルクティーでも用意するね」
そう言って彼女は俺たちを家の中へ招き入れる。
子供達が追い出される事が無かったことはよかったが、話し合いを再度しなければいけなくなってしまった。
「ねぇパパ。あの人、私たちを誰と勘違いしたのかな?」
ホームズの下宿先へと入ろうとしたところで、俺はルビーに質問を受けた。アイのそっくりさんに会ったというのに、妙に落ち着いている。まさか……な。
俺は一瞬だけ頭によぎった考えを振り払いつつ、ルビーに答える。
「アイ──じゃなくて、ハドソン婦人が俺をホームズと見ているのは間違いないが、ルビー達の事はベイカー・ストリートイレギュラーズと勘違いしてるのかもな」
「ベイカー・ストリートイレギュラーズ?」
「あぁ、ルビーはあまりホームズの物語の事は知らないか。ベイカー・ストリートイレギュラーズってのは──」
ベイカー・ストリートイレギュラーズ。それはホームズが雇った浮浪者の子供達の事。
大人では入り込めないような場所にも潜入し、ホームズの手助けをしてくれた子供達だ。
その事をルビーへ説明していると、光彦君は「少年探偵団の先輩ですね!!」と例えていた。
まあ、見方によっては俺も目暮警部たちも助けられているため、あながち間違っていない。
そうして皆にベイカー・ストリートイレギュラーズについて説明し終える頃には、俺たちはホームズの部屋へとついていた。
「さっ、ここがホームズさんのお部屋だよ。それじゃあ私はお茶を入れてくるから、ホームズさんはお客様の相手をしっかりしててくださいね?」
「あっ──あぁ、分かった」
ハドソン婦人はお茶を入れるために退室し、それを見届けた後、俺たちは再度話し合いを始めることにした。
何しろ、話さなければならないことが急に山積みになった。
「それじゃあ、二度目の作戦会議といこうか、皆」
「はい、工藤さん。一つ聞いてもいいですか?」
「何だい、秀樹君?」
「これからジャック・ザ・リッパーについて調べる訳ですが、どうすればいいのでしょうか?」
秀樹君の質問に皆が確かにと首を動かす。
その質問だったら、答えは簡単だ。
「ホームズだったら間違いなくジャック・ザ・リッパーについてはレストレード警部から情報を得ているはずだ。だから、その研究資料がこの部屋にあるはずだよ」
「なるほど。なら、俺たちは手分けしてそれを探せばいいんですね、工藤さん」
「その通り。だんだん探偵の動きが板についてきたね、秀樹君」
「あっ、ありがとうございます」
「それじゃあ部屋中の本を片っ端から探そうか、皆。あっ、二人は少し残っててくれ」
「「「「「「「「分かりました!!」」」」」」」」
「えぇ」
「分かった」
そうして俺はアクアと灰原を除いた全員に指示を出した後、改めて“本題”について会議を開く。
「で、随分と楽しそうね“ホームズ”さん?」
そう言いながら灰原は肩である方向を指す。
そこには、ホームズとワトソンが写っている写真があり、それを見た俺は頭を抱えたくなった。
そこには俺と、少し変わった息子が写っていた。
(ホームズが俺で、ワトソンが成長した“アクア”か。どんだけ孫が好きなんだよ、父さん)
親父の遊び心と、俺の“ホームズ設定”に灰原も気づいてるいるからこその指摘なんだろうなぁ。
とは言え、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「からかうのはよしてくれよ、灰原。事は重大だぞ?」
「分かってるわよ。でもまさか、ガイド役どころか、NPCに固定されるなんて予想外ね」
「だな。こりゃ、俺が推理するわけにもいかなくなっちまったなぁ」
「父さんがホームズってことは、ゲーム的には父さんと協力して“俺たちだけ”でジャック・ザ・リッパーを捕まえるどころか、“見つける”必要もあるってことだよね。完全に、父さんの動きを封じてきたって訳か、ノアズ・アークは」
さすがはワトソン君、いい閃きだ。と、俺は現実逃避がしたくなる。
ここに来て、俺が完全なお荷物になってしまったのだから。
「おそらく、ジャック・ザ・リッパーへとたどり着く道すら、俺ではなく“子供達”で見つけてもらう必要もあるな、こりゃあ」
「そうね。逆にプレイヤーではないホームズが解いてしまえば、それは正式なクリアとはならないって、ノアズ・アークが判断する可能性もあるから、工藤君が手伝いしすぎないように、注意する必要も出てきたわね」
「もしくは既にノアズ・アークによって“そうさせられている”かもしれねぇけどな」
「えっ、父さん。それってどういう意味なの?」
「簡単な事さ。既にそういうシナリオをノアズ・アークが“構築済み”って可能性があるって事だ」
むしろそれが一番可能性として高いだろう。
ノアズ・アークとしては脱落者を出すのに一番の障害となるのは間違いなく俺だ。その俺と子供達を強制的に切り離すシナリオの一つや二つを用意してないとは考えにくい。
これからどうするかと考えていると、
「ちっ、何もねぇな」
ふと、本を乱雑に戻す秀樹君が目に写った。
乱雑に戻された本の衝撃により、本棚の上に置いてある古めかしいボールが、秀樹君の手元へと落ちてくる。
「よっと。んだこのボール? …………ん?」
ボールを手にした秀樹君は、そのボールを注意深く眺め、やがてその顔が驚愕へと変った。
「おい、菊川、江守、それから滝沢、こっちに来てくれ!! これ、100年前のサッカーボールだぜ!!」
秀樹君の声に反応した三人も集まり、全員がサッカーボールにテンションを上げている。
どうやら彼ら四人はサッカーが大好きなようだ。
確かに100年前のサッカーボールは好きな人には堪らない代物だろう。
しかしなんだ。好きなものに熱中する辺りマセていたとは言え、彼らも年相応の子供達だなと思っていると、
「あっ!! 見つけましたー!! 工藤さん、ジャック・ザ・リッパーに関する資料です!!」
光彦君が資料を片手に、俺の方へとやって来た。
どうやら、本命会議はここまでのようだ。
アクアが光彦君から資料を受け取り、皆に見えるように開く。
「一番最近の事件は………これか」
アクアが資料から最近の事件をピックアップし、読んでいく。
《ジャック・ザ・リッパーに関する考察》
〈9月8日(土)〉
二人目の犠牲者はハニー・チャールストン。
一人暮らしの女性。
遺体発見場所はホワイトチャペル地区、セント・マリー協会に隣接する空き地。殺人現場の遺留品は、二つのサイズ違いの指輪。
ロンドンを恐怖のどん底に突き落としたジャック・ザ・リッパーは、前代未聞の社会不安を引き起こした点から、悪の総本山、モリアーティ教授の関与があると私(ホームズ)は確信している。
読み終えたアクアは、少し悩む素振りを見せ、やがて考えがまとまったようで、顔を俺たちの方へ向けた。
「モリアーティ教授とジャック・ザ・リッパーが関わっているとなれば、先にモリアーティ教授と接触した方が、ジャック・ザ・リッパーにたどり着ける」
「そうね。正体のわからないジャック・ザ・リッパーを闇雲に追うよりも、その正体を知っているモリアーティ教授と会った方が、より確実ね。ちょうど、モリアーティ教授と関わりのある人物の手がかりもあるわ」
アクアの考えを補足する形で説明した灰原は、一冊の本を提示した。
そこに書かれていたのは〈セバスチャン・モラン大佐の動向について〉。
モラン大佐ならば、モリアーティ教授について確実に知っている。
だが、モリアーティ教授とモラン大佐。どちらもホームズシリーズでは屈指の悪役だぞ。
「モラン大佐はここ最近、ダウンタウンのトランプクラブを根城にしているみたいね。そこに行けば、モラン大佐には会えそうね」
「なら決まりだ。父さん、それでいいよね?」
アクアが確認のために俺へ話を振り、俺はそれを首を縦に振る形で答える。
ここは、俺が体を張った方が良いかもしれないな。
「あぁ。現状は多少の危険を侵しても、情報が必要だ。よし、ここは俺がみんなの盾となって──」
「ダメですよ~」
「────エッ?!」
急に聞こえた第三者の声に、俺は思わず声が漏れてしまう。
声が聞こえた方に顔を向けると、そこには全員分のミルクティーを持ってきたハドソン婦人がいた。
まさか、ここでもノアズ・アークは先を行ってるのか?
「ダメですよ、ホームズさん。これからレストレード警部がお越しになるのですから、貴方は残ってもらわないと。一度出ていったら、いつ戻るから分からない貴方の外出は許せません」
ハドソン婦人はそう言いながら俺にミルクティーを差し出す。
受け取りながら、彼女の表情をうかがう。
その顔は笑っているが、目が一切笑っていない。アイにそっくりであるためか、異様な威圧感を感じてしまう。
だが、所詮はゲームのキャラクター。この程度、本物と比べたら何て事はない。少し粘ってみるか。
「いや、子供達だけでモラン大佐のところへ向かわせるのは危険だ。だから俺が──「ダメですよ」──」
俺の言葉を遮るように告げるハドソン婦人。
子供達へミルクティーを配りながらも、彼女は話を続ける。
「ダメですよ、ホームズさん。貴方は残ってもらわないと、ダメなんです。子供達の“活躍の機会を奪ってしまう”のは大人としてダメじゃないかな~?」
「………なるほど、そう来たか」
やはりノアズ・アークが先を行っていた。
ここまでハドソン婦人が言うのであれば、ここからモラン大佐に会いに行くのは“子供達の物語”だ。ホームズである俺がでしゃばってしまえば、最悪ゲームオーバーとなってしまう。
俺はアクアの方を見ると、アクアは決意したように頷く。
「アクア、頼めるか?」
「父さん…………分かった。任せてくれ」
俺とハドソン婦人とのやり取りを見ていたアクアは事情を把握し、俺の頼みを引き受けてくれた。
不安が大きいが、ここはアクアを、子供達を信じるしかない。
いざこの立場になってみると、凄く怖いんだな。こんな思いを、アイ達にさせていたのか、俺は。それを笑顔で待っててくれたのか、アイは。やっぱり、アイツはすげぇや。
かくして俺はアイの凄さを改めて感じつつ、人生で初めて“待つ”側に立つことになった。
ボツネタ
ノアズ・アークが選んだ恐ろしいゲームたち
①大正ロマン、鬼滅伝
【舞台は大正時代。君たちは鬼と呼ばれる化物を退治する組織に入り、鬼の親玉である鬼舞辻無惨を倒すんだ】
②新ゲッターロボ
【ここでは、とあるロボットのパイロットとして地球侵略を目論むインベーダーを倒してもらうよ。ロボットには三人一組で乗り込んでもらい、協力してインベーダーを倒すんだ】
③人類最後の召喚士
【ここでは少しだけ愛と勇気の物語を体感してもらうよ。君たちは人類最後の召喚士として多くの仲間を召喚し、奪われた未来を取り戻す旅に出るんだ】
④スピラ物語
【大切な仲間たちと共に、シンと呼ばれる怪物の討伐に参加してもらう。旅の先々で大きな試練が、君たちを待っているよ】
⑤血と生誕
【ここではかなりのホラー体験が君たちを待っている。君たちはとある街で青ざめた血と呼ばれるアイテムを探してもらう。強力な武器を手に、夜を駆ける】
さあ、好きなゲームを選びたまえ。誰か一人でもクリアすればいいんだよ?