『Fang』-lengthy prologue-   作:墓脇理世

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こちらは、私が投稿しているオリジナルライダー小説「仮面ライダーO」の過去を描くスピンオフ小説となっています。
こちらを読んだ上であちらを読んでいただけると、あちらの話をより楽しめるかと思います。


第1話「The Day Before…」

 ここ誘宵学区には、無数の能力者が存在している。発火能力、透視能力、洗脳能力など、大半の学生は何かしらの能力を所有している。もっとも、それらの多くは能力とは名ばかりの微弱なものなのだが。

 しかし、中にはおよそ人の身には余るほどの能力を有するものもいる。誘宵学区ではそのような学生達には通常よりもはるかに高額な奨学金が保証されている。だからといってまともな生活が送れるかと問われれば、その限りではない。

 高位能力者たちは、たいてい、その場にいるだけで周囲の顰蹙を買う。無理もあるまい。強大な力を持つものは、いつの時代も周囲に恐怖を振りまくものなのだから。

 そして、恐怖を振りまくものである立場を逆手に取り、闇の中で人知れず街を守るものもいる。

 無論、裏社会の組織に身を置くものの全てが高位能力者というわけではない。割合で言えば高位能力者の方が多い、というだけで。

 ──これは、誰かのために闇に身をやつした、愚かな人間たちの物語。

 では、時計の針を戻すとしよう。破り捨てられたカレンダーを拾い集めろ。2016年の夏。黒薙(くろなぎ)颯斗(はやと)が仮面の戦士となる3年前の出来事を、名も無き第三者が語るとしようじゃないカ。

 


 

 陽は落ちて数時間が経つ。およそヒトの出歩くべきでない時間に、とある少年が証明写真機に入っていった。

 少年は宙に浮かんだモニターを操作する。暗号らしきものを入力すると、音も無く椅子が下降を始めた。

 それから1分と経たぬうちに下降が止まる。少年は立ち上がり、再びモニターにパスを入力する。扉が開き、褐色の男が少年を出迎える。

「いや、歓迎するぜ少年。イマドキ現場で取引しようなんて度胸のあるヤツもそういねぇからな……ご所望の品物はなんだい?」

 男の目が変わる。

「資金洗浄に工作用の人材、銃火器に法的にはヤバいクスリと色々揃えてるが最近の目玉はアレだな」

「アレ?」

「ホルス促成装置“sister”だよ、何ともホルス器官を無理矢理刺激して本来の能力以上の能力を使えるようにするらしい。そんなもんに頼ったところで、オチは見えてるがね」

 男は乾いた下卑た笑みを浮かべる。

「それで、注文は決まったかい?」

「そっか、客として行くって言ったわけだし勘違いしてもおかしくねぇよな?」

 少年はホルスターから銃を抜き、男の背後の棚を撃つ。

「客といっても俺は買い物客じゃねぇ。そうだな、『ファング』って言えばわかるか?」

「ま、さか、てめぇ……ッ!」

「潰しに来たぜ、『デパート』」

 パン、パンと銃声が立て続けに響く。

「クソッ、応答しろッ、『ファング』に襲撃された!」

『仕方ない、支店“D”は店じまいか。お疲れ様。社長の名においてあなたをここに解雇する』

「待てよ、それじゃ俺は……ッ!」

 男の携帯が撃ち抜かれる。

「そうだ、取引をしよう……ッ!俺はここにある商品を無償で『ファング』に提供する、だから命だけは……」

「安心しろ、殺しはしない。お前には情報を吐き出して貰わないと困るからな」

 少年は掌から炎を上げながら男に詰め寄る。

「『デパート』の上位組織の情報をよこせ。そうだな、“sister”の出処も含めて全部教えてもらおうか」

「知らねぇ、俺は社長の顔も名前も知らねぇ……ッ!指示を受けて支店を経営してただけだ!」

「……その様子じゃ“sister”の出処も何も知らなさそうだな。能無しには死んでもらうか」

「待……ッ!話が違う!」

「安心しろよ、こっちにゃ死人から記憶を引き出す能力者がいる。情報を持ったまま死んでも誰も困りやしねぇ」

 炎が男の横顔を掠める。顔が焼ける直前で男は身を翻して逃げ出した。

「どこに逃げても逃げ場なんてねぇよ死ね」

 少年はすぐそばの本棚を蹴倒し、火を放つ。炎は先程撃ち抜いたウォッカやシンナーに引火し、たちまち豪炎と化し、男から逃げ場を奪った。

「嫌だ、俺はまだ死にたくない……ッ!」

「いい子にしてりゃ殺しはしねぇから安心しろ、悪い子なら問答無用で焼き殺す」

 男はやがて気を失い、少年の足元に倒れ落ちる。

「……ったく、ガラにもねぇことさせやがって」

 


 

『ハロー、ハル。『デパート』の支店はブッ潰せたんだよな?』

「あぁ。下っ端は何も情報は持ってなさそうだったけど、万が一もあるし生け捕りにしておいたぞ。後はナツにでも任せておけばいいんじゃないかな、ヴァン」

『おいおい、俺には罪科(つみとが)七志(ななし)って名前があるんだ、コードネームで呼ぶなんて他人行儀だ、よしてくれよ』

「いや、最初にコードネームで呼べっつったの誰だよ……」

『アレ?そうだっけ?メンゴメンゴ』

 少年が電話をかけている相手は『ファング』リーダーの罪科七志。こんな調子ではあるが、誘宵学区に10人といないランク10の能力者、その第6位である。

「しっかりしてほしいもんだな、罪科さん。最近妙に依頼が増えてんだろ?」

『それに関しては大丈夫、ウチに入りたいって奴らが山ほど来てるからな。明日あたりオーディションやるからハルも仕事空けとけよー』

「なんで俺がそんなこと……ナツと罪科さんだけでいいだろ」

『あれあれぇ〜?まさかナツ1人で俺の横暴止められると思ってるのかハル?おまえが来ないと幼気なJCが胃潰瘍で入院する羽目になるぞ』

「アンタろくな死に方しねぇぞマジで……」

 少年は舌打ちをし、

「つーかさっさとバンをよこせ夜中にこんなところにいたら優しいセンセイ方に補導される」

『今向かってますよお坊っちゃん、そういきるなって』

 

「……で、罪科にまんまと言いくるめられて選考員にされた、と。一度聞いておこうか赤萩。貴様は馬鹿か?」

「馬っ……いや、俺は日向の胃痛を……」

「それを馬鹿だと言っているんだ赤萩。戦場で味方が怪我をしているから立ち止まるのか?その甘さ、いつかお前の命すら奪うぞ」

 つい昨日、『デパート』の支店を破壊しておきながら、現在進行形でポニーテールの少女──日向(ひゅうが)奈津美(なつみ)に叱られ、丸くなってしまっている少年は赤萩(あかはぎ)陽希(はるき)

「相変わらずイチャついてるねぇ、おじさんいくらでもご祝儀あげるから早く結婚しな」

「「イチャついてねぇ(ない)!!!」」

「ほーら相性いいじゃん?いやぁ尊いねぇ、枯れたおじさんには眩しい」

「そもそも罪科、お前まだ大学生だろう?社会的にはおじさんと呼ぶには早いと思うぞ」

「そういう話してませんー!というか、中学生組からしたら俺なんておじさんだろ」

 自虐的に笑う罪科。

「罪科さん、顔いいんだからそこそこモテるだろアンタ?」

「モテるのと彼女がいるいないのは無関係だぞハル〜?いくら可愛い子に迫られても、心が動かされなければ男女関係なんて成り立たないだろ?」

 逆もまた然り、と罪科。

「恋バナに花を咲かせている暇はないぞ。罪科、赤萩、時間だ」

「はいはい。今回こそ一発合格の有望株は捕まるかねぇ」

「誰が来ても焼き殺すつもりで挑むぞ」

 


 

「志望動機が薄い、その程度の闇でこちらの世界に入ればすぐに潰れるぞ、次」

 

「ん〜、動機はいいけどなんかキナ臭いし不採用♡」

 

「お前少しこっちの世界に理想抱きすぎてないか?焼き殺されたくないなら帰れ」

 

 何人もの志望者を無慈悲に叩き落とし、ついに最後の1人が残った。

「次、入室しろ」

「……失礼します」

 扉が開く。

「35番、フローラ=レーギンレイヴです……って、陽希様!?」

「……なんでてめぇがこんなところに来やがる」

「あら、知り合いだったか〜?」

「知り合い、なんてもんじゃねぇよ。こいつは、フローラは、俺と妹の侍女(かぞく)だ」

 赤萩はメイド服の少女フローラを睨み付け、

「俺は認めないぞ、フローラ。俺が何の為にこの世界に足を踏み入れたと思ってる」

「それは……」

「お前や亜矢が傷つかないようにするためだ。何も言わずにやってたとはいえ、お前が自分から傷付く選択をしようって言うなら、主人(かぞく)としてそれを止める義務がある」

「……赤萩。仕事に私情を持ち込むな。先ほど注意したばかりだぞ」

「何と言われようと俺はフローラの採用だけは認めないからな」

「は〜いはいハルもナツもそんなにヒートアップしない、とりあえず志望動機とかは読ませてもらったけどその子、なかなかどうして悪くない」

 オーディションそっちのけでヒートアップする二人の間に罪科が割って入る。

「ハルの事情もわかった、が。ウチの人材が不足してるのもマジだ。ひとまずその子に関しては仮雇用という形を取らせてもらう。それでいいな?」

「あっ、はい」

 首肯するフローラと奈津美。一方で、赤萩は未だに納得していないようだった。

「不満げだな、ハル?お前の立場から見ればそれもわからんでもないが」

「わかってるならなんで」

「だから言っただろ、人材不足なんだよウチも。それにハル、その子がウチのオーディションを受けようとしたのだってお前を思ってのことなんだぞ〜?」

 飄々とした様子で赤萩を諭す罪科。

「志望動機を読ませてもらったんだが、もう驚いたよ……お前がウチに入った時と同じこと全く言ってるんだからな」

「俺、なんかそれっぽいこと言ったっけな」

「『家族を守りたい』」

 名は体を表す、と言ったところか。赤萩の顔が途端に赤くなる。

「ベタな理由だけど、そういうバカの方が俺は好きだな」

「馬っ……馬鹿!ふざけんな、そういうのはもっと、こう……馬鹿、馬ー鹿!!別に家族を守りたいなんて言ってねーし!!! 」

「おっ、生ツンデレいただきましたぁ。 って、そんなに涙目にならなくてもいいだろ俺が悪かったって」

 その言葉を聞いたフローラは、

「……すみません、陽希様。陽希様がそのようにお考えとは存じ上げず……」

 と、申し訳なさそうに頭を下げた。

「……もういいよ、言わなかった俺も悪いしな。けど、お前じゃ力不足と判断したら俺はすぐお前に解雇通知を叩きつけるからな」

 赤萩も頬を掻きながら言う。

 

 赤萩陽希がフローラ=レーギンレイヴの正規雇用を認めるようになる出来事は、もはや目前まで迫ってきているのであっタ。




というわけでOのスピンオフシリーズ『Fang』開幕です。
タグにもある通り、このお話は黒薙がライダーの力を手に入れる三年前の話ですので、ライダー要素はありません。
ちなみに、本作の主人公は、その名前からも分かる通り、Oのヒロイン・亜矢の兄(義理)となっています。
赤萩たちが誘宵学区の闇で生きた軌跡をぜひ楽しんでいってください。
感想などございましたら、コメントなどいただけますと幸いです。墓脇でした。
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