『Fang』-lengthy prologue-   作:墓脇理世

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第7話「Supernatural Collision」

「その女をこちらに引き渡してもらおうか」

「断る、と言ったら?」

「困る。我々は一般生徒の保護を……」

 亜矢を連れて逃げ出した哀光は、警備服を着用した男たちと接触していた。

「あぁ、なるほど……だとしたら、尚更君たちに彼女を渡すわけにはいかないな」

「何故だ?我々は暴児止め(チャイルドストップ)だ、この危険な場所から生徒を安全な場所に……」

「暴児止めは暴児止めでも落第生、それも行き過ぎた正義から暴走する君たちレプリメンズに誰が知り合いの妹を渡すと?」

 哀光は指摘する。

「レプリメンズ……?あのような大した理念もない恥晒しどもと一緒にするな!我々エレクトメンズはやつらのようなチンピラとは違う!」

「根っこは同じだろう?それも、どちらの根っこも根腐れを起こした不良品だ。君たちにこの子を渡すことはできない」

 亜矢を庇うようにして、哀光は言い放った。

「我らの正義に逆らうのであれば……致し方ない。不良生徒に対しての補導行為を開始する」

 エレクトメンズ、と名乗ったリーダー格と思われる男が指を鳴らす。それと同時に、何人もの男が、哀光に飛びかかった。

 


 

「それじゃ……行くよっ!」

 ユリカと名乗ったコスプレ少女が、右の掌をアズリアに向けながら走り出す。

「フン、その程度の風、ワタシからすればそよ風だけれど?」

「だねぇ〜!君自体はそうかもしんない!!でも……建物の方は、どうだろ〜ね?」

 ユリカの掌から吹いた爆風。それが、『ファング』のセーフハウスの壁を貫いた。

「君がランク10の超能力者だってことは調べてあるよ〜?戦う相手のことを調べもしないやつはいないよね〜?」

 一歩後ずさりするアズリアに対し、嘲るように笑いながらユリカは言う。

「君の能力『吸血黒翼(ヴァンプブラッド)』は血を操る能力……例えば血を止めたり、血小板の働きを促進して鋼のような硬さのカサブタを作ったり、対策無しじゃ勝てっこないけど……逆に言えば、対策すれば勝てるってことだよね〜?」

「そうだな。……その対策とやらがどのようなものかは知らないけれど、ワタシを完封できる秘密の策ってものを見せてもらおうじゃないか!あるのであればな!!」

 アズリアは中指を立てて挑発する。

「うん。……じゃ、今見せてあげるよ」

 旋風の刃が、アズリアの左肩から右の腰にかけてを両断する。アズリアはその傷を塞ごうとしたが、うまく能力が発動しない。

「あれれ〜?ランク10の超能力者様ともあろう人が、あたしみたいな三下の能力でゼェゼェ言っちゃってぇ!おっかしいなぁ〜!確か君は傷なんてすぐに塞げる能力者だって聞いてるんだけど〜??」

 小型のライトを左手で弄びながら、ユリカは笑った。そのライトの光が逸れた瞬間だけは、能力を思うように使用することができた。

「まさか、そのライトか……!」

「せいかーい……一発でわかるとは、やるねぇ?でも……これを奪おうったって、そうはいかないぜ?」

 口から血液を漏らしながら、アズリアは呻く。

「ホラ……必死に飛んでも遅いんだよね〜!!」

 ライトを強奪しようと、黒い翼を広げて飛びかかったアズリアの脳天を、ユリカの踵が撃ち抜いた。

「言っとくけど、あたしの能力はただ風を起こすだけじゃないよ〜?むしろあたし的には接近戦の方が好きだし?だから……あんまり自分より下だってナメないでほしいね」

 繰り返し、アズリアの顔を蹴り飛ばす。

「いっや〜ごめんね〜?ほんとの所あたしも君みたいに可愛い子にここまでしたくはないんだけどさ〜……全部まとめて二度と立ち上がれなくなるまでドロドロのグチャグチャにしろって命令だからさ、悪く思わないでね〜」

 赤い血に染まったアズリアの頭蓋を踏みつけながら、ユリカは言い放った。

(くっ……まずいな、少しでもこいつから離れなければ本当に命を落としかねん……!)

 アズリアは目を見開いて逃げられる場所がないかを必死に探す。

「痛……ッ!あっこら待て!君を逃がしちゃったらあたしが怒られるんだって〜!!」

 そして、ユリカの右足にナイフを突き刺し、一瞬の隙を作ると、アズリアは視界の外へと逃げ出した。

「あ〜もうめんどくさいな〜!あたしの仕事を増やすな〜!!」

 ユリカは浅くナイフが刺さった傷跡を止血すると、アズリアが逃げたと思われる方向へと走り出した。

 


 

「ラキュラスの援護に回りたいところだからな、お前の相手は一瞬で終わらせてやる」

「えぇと……僕、君みたいなか弱い女の子に暴力は振るいたくないから……大人しく降参してもらえますかね?」

「は?……お前のような甘い男が『スパーク』にいることに驚いたよ。『スパーク』も存外大したことはないようだな?」

「……言ってくれますね。仕方ないです……僕も、一切躊躇いませんからね」

 天井は冷たく言い放つ。

「先んずれば人を制す、私はお前を倒してあちらの援護に向かわせてもら……ッ!?」

 ノコギリナイフを構え、天井へと駆け出した日向だったが、直後に、足元が覚束なくなる感覚を覚えた。

「あぁ、ごめんなさい……足下には、注意したほうがいいですよ」

 流砂のように、吸い込まれるような感覚。

「な……っ、あァッ!?」

「驚かせてしまってごめんなさい……そこから先、君は僕に近付くことすらできずに沈んでいくので注意してくださいね?」

「こ、の……ッ!」

 砂のように崩れる足場に、左足が沈んでいく。このままでは下の階まで落ちると判断した日向は、地面に向けてウィル=オ=ウィスプを放った。青白い炎が爆ぜ、爆風とともに日向の体が宙に舞う。

「仕切り直しだ……行くぞ」

 瞬く間に天井の懐まで転がり込む。しかし、その腕が天井を捉えることはない。

「あぁ、クソッ……ベタベタして戦いづらい!この感覚、まさか……砂糖、か!?」

「よく気がつきましたね!そうです、僕の能力は砂糖を操る能力ですよ!!甘いものって美味しいですよね!!よく見たら、君もそこそこ美味しそうじゃないですか!!」

「気色の悪い男だ……ッ!」

 顔色を変えた天井に舌打ちし、日向は飛び退く。

(……砂糖を操る、と奴は言った。しかし、先ほどの流砂のようなアレ……あれを『砂糖を操る』枠組みで語るとすると、最初から砂糖を撒いておく必要が出てくる。が、ここは私たちのセーフハウス。常に誰かしらここにいる以上は、事前に砂糖を撒くなど不可能だが……)

「戦場でよそ見は禁物、ですよ?裏に入った時に習いませんでしたか?」

 淀んだ瞳が迫り来る。見た目に反して力強い拳が、日向の顔の真ん中に突き立った。

「か……ッ!?」

 その一撃を受け、一瞬意識が飛びかけたのを、釘を自らに突き刺すことで無力化する。続けて放たれた右ストレートを、ノコギリナイフで右に逸らした。

「痛……っ!やってくれますね……!」

 横薙ぎに荒く切り裂かれた指の傷を拭いながら、天井は言う。

「まぁ……この程度、飴細工で塞げばなんとかなっちゃうんですけどね?」

 ぺろり、と舌を出して笑った。

「飴細工をカサブタがわりにする、か……」

「どうかしました?」

「いや、なに……頭のおかしい男もいるものだなと」

 日向が言うと、天井はふふっと笑った。

「おかしい、おかしい……お菓子?もしかして、ウケ狙いで言ってます?」

「さぁな?……よし、準備は完了した。ここからはもうお前の能力は効かないぞ」

 黒い外套を脱ぎ捨てて、日向は言う。

「僕も、まだまだ能力を見せていませんからね?その程度で勝てると思われるのは、その……ちょっと、心外です」

「そうか。……だが、そう悲しむな。お前が次に能力を使えることなどないのだからな」

 


 

「オラオラァ!そンなに逃げちゃってどォしたんだァ!?もしかしてアタシが怖いのかァ!?あァ!?」

 自らを追う風下から逃げながら、フローラは舌打ちした。

「チッ、しつこい女ね……ッ!!」

「テメェこそしつけェンだよ!!イイ加減大人しくアタシに殺される覚悟キメやがれってンだ!!」

「そんな覚悟、誰が決めるか……ッ!」

 閃光弾を放ち、風下の視界を阻む。その隙に赤萩たちの援護に向かおうとしたが……。

「くッだらねェなァオイ!?ンなチンケなコケオドシがアタシに通用するとでも思ってんのかァ!?」

 しかし、逃走は失敗した。フローラの足下で何かが弾け、その勢いで転倒したのだ。

「アタシの前で逃げ場なンてモンはねェ。一触即発の状況をバルカン半島なンて喩えンのはたまァに見るが、アタシにしてみりゃァアタシの前以外にその言葉が似合う場所なンてねェと思うがなァ?」

 唇を真横に裂き、風下は下卑た笑みを浮かべる。

「さァて、鬼ゴッコはもォ終いでイインだよなァ?ぶっちゃけアタシはもォテメェの相手に飽きてンだよ。もっとアタシを本気にさせてくれよ。必死で抵抗してアタシの予想を上回ってみろっつってンだよクソ女ブチ殺されてェのかァ!?あァン!?」

 風下の爪先が迫る。

「チッ、仕方ない……ッ!そんなに構って欲しいなら全力で構ってあげますよクソ駄犬!」

「ハッ……よォやくアタシを本気にさせてくれンのかァ!?遅ェンだよ!!」

 風下は犬歯をむき出しにして、フローラへと飛びかかった。

「(私は体質上、あまり能力を酷使はできない……けど、能力を使わずに能力者を封殺する戦い方は学習済み。『暴児止め』の捕縛術を戦闘向けにアレンジしたものだけど、ある程度の道具にはなるはず)」

 風下の力強い一撃一撃を、流れるような身のこなしでフローラは逸らし続ける。

「チィッ、ちょこまかと……ッ!どォせなら一発一発が核爆弾級にヤベェ本気の殺し合いでもしよォぜ、なァ!?」

「お断りよ……あなたごときを相手に死ぬのは真っ平でね」

「アタシごとき、かァ……調子に乗ってンじゃねェぞ三下がッッ!!」

 風下の本気の蹴りが、フローラの体を宙に浮かせた。

「オラオラァ!!その程度で気ィヤってンじゃねェぞォ!!」

 先程までと違い、一発一発が命を奪うために放たれる攻撃。その猛攻に、フローラは防戦を強いられる。

「く……ッ!流石に、能力を封じたままS級傭兵組織と対峙しようなどとは、無理があったかしらね……ッ!」

「あァン?テメェ今なンつった?もしかしてアタシを相手に手ェ抜いて戦ってたってのか?」

「失礼したわ……一瞬でケリをつけてあげる!!」

「ヤってみなクソ女ァ!!」

 フローラは能力を全力で解放する。天井にぶら下がったライトを全て氷柱に変え、空気を凍結させて人工的な吹雪を生み出し──現在出し切れる全てを風下にぶつけよた。

「ハァ、やった、わね……?」

 答えはない。それを確認し、今度こそ赤萩の援護に向かおうと試みたフローラだったが。

「……ハッ、少しはヤるじゃねェか!!だがまだだ、アタシを倒すには遠く及ばねェなァ!!」

 風下に投げつけられた物体が、フローラの背中から数ミリ離れた地点で爆発した。それにより、フローラの体が前方に突き飛ばされた。

「あ、っづゥッ……!」

「どォしたよ、テメェが能力本気で使ってきてくれたからアタシもソレに応えてやっただけだろォが!まさかテメェ、その程度でギブかァ?だとしたらつまらねェ奴だな、ソレじゃ殺してもアタシがスッキリしねェだろォがよォォ!!!」

 風下は自分の発言に怒りを覚え、唐突に激情を叫んだ。

「オラ、もっと抵抗してみろよ!!まさかさっきので終わりじゃねェだろ!?もっとだ、もっとアタシを昂らせろ!!本気でテメェをブチ殺してェと思わせてみやがれってンだよ三下ァァァ!!!!」

 次々と投げつけられては爆発する謎の物体。それを必死に躱しながら、フローラは逃走を始めた。

「ふざけてる……ッ!なんなのよアレは……ッ!!読めない、奴の能力が読めない……ッ!!」

 


 

「さて……そっちからかかってきていいよ。ちょうど罪科七志もいないことだしね」

「てめぇ……!舐めやがって……ッ!!」

 罪科が一般客を避難させている、と言って、ハンデをくれてやると言わんばかりに言った逆巻に、赤萩は怒りを露わにする。

「いいぜ、そっちがそんなに死にてぇなら望み通りにぶち殺してやる」

 タッ、と駆け出し、懐から拳銃を取り出すと、それを逆巻の額に突きつけた。

「死ね」

 引き金が引かれる。パン!と、乾いた銃声が響き、逆巻の額から噴き出た血が赤萩の顔を赤黒く染める。──ということはなかった。

「あッ、がァァァッ!!??」

 攻撃したはずの赤萩の方が苦しみに喘ぐ。その様を見て、逆巻は愉しげに嗤った。

「ははっ!無様だねランク8!無策で僕に突っ込んでくる間抜けを見るのはいつの時代も面白いが……あの表情で特攻して沈む君は飛び抜けて面白い!!」

 倒れた赤萩を蹴りつける。

「な、にが、起きた……ッ!?」

「さぁね?今君が受けた感覚からある程度は察せられると思うけど?」

 逆巻は掌の上で釘をくるくると回すと、それを赤萩に投げつけた。

「……あッ、ぶねぇな……ッ!!」

 赤萩は放たれたそれを全て、直撃の寸前で溶かす。

「やるねぇ?じゃあ……これはどうかな?」

 続けて、黒い粉末が逆巻の右手に集まる。それは剣のような形をとり、赤萩へと向けられた。

「チッ……!面倒な真似しやがる……ッ!!」

 対する赤萩も、空気を燃やして炎の剣を作る。逆巻の剣が赤萩を切りつけ、赤萩の剣が逆巻の皮膚を灼く。

「痛ってぇな、てめぇ……!」

「熱いんだよ……僕の顔に火傷の跡が残ったらどうしてくれるんだ?」

 逆巻は初めて怒りを露わにして、赤萩を睨み付けた。

「ま、いいか……あぁ、ちょっと失礼、君の能力で僕のタバコに火をつけてくれないか?そろそろニコチンが足りないんだ」

「知るかよクソ野郎、黙って死んでろ……っつーかてめぇ見るからに未成年じゃねぇか」

「まさか裏の人間なのに未成年がタバコを吸っちゃいけないなんてつまらないルールに縛られているのか君?」

「表のルールも守れねぇ奴に裏のルールを守れるわけねぇからな」

 赤萩は指をパチンと弾くと、空中に浮かべた赤いスフィアから熱線を放った。

「へぇ、なかなかやるじゃないか……だが、僕にはそんな子供騙し、もう通用しないよ」

 それらが逆巻に触れる直前、逆巻は横薙ぎに指を振るった。パチリ、という閃光が、高熱のレーザー光線を消滅させる。

「さっきみたいに僕に全力でかかってきてくれないかな?いくらランク8の無能とはいえ、君の能力はそんなものじゃないだろ?」

「そんなに見たけりゃ見せてやるよ……燃え尽きて死ね!」

 そう叫んで、赤萩が飛び込んだのは逆巻のもとではなく……先程まで昼食をとっていたカフェだった。

「そこに行って何ができるんだ?」

「まぁ見とけって……うまく避けなきゃ大怪我するぞ!!」

 赤萩は札束の入った封筒を誰もいないカウンターに叩きつけると、後ろに並んだ酒の瓶を手当たり次第に逆巻へと投げつけた。

「あぁ、なるほど……そういうことか……!」

「大正解。そのまま焼け死ね……ッ!!」

 あちこちにばら撒かれた度数の高いアルコールに、赤萩の能力で火がつけられる。ボン!!と、爆ぜるような爆音が響く。いくらランクの高い能力者であれ、周囲の物体をまとめて吹き飛ばすそれの中心にいては生きられないだろう。

「よし、やったか……」

「……れが、なにをやったって?」

 赤萩の背筋が冷える。爆発の中心にいて、少なからずダメージを負っているはずの逆巻が、何食わぬ顔で現れたからだ。

「そんなに驚くことでもないだろ?四方を壁で囲めば爆風を吸い込むことは防げるし、燃える煤を帯電させれば火は消える。それに……」

 逆巻は金属板を蹴飛ばして言った。

「君は知ってるかな、電磁誘導で弾を放つ兵器の名前を。最近は漫画か何かでよく知られてると思うんだけど……今から僕が、その漫画の再現をしてあげよう」

 ポケットから取り出したコインを親指で弾き、真っ直ぐに赤萩を見据える。

「撃て──ッ!!」

 そしてそれを、能力で弾き飛ばす。亜音速の弾丸が赤萩の肌を掠める。直後に、激痛があった。

「か、は……ッ!?ま、さか、てめぇは……ッ!?」

「ご明察。僕がランク8の君を無能力者呼ばわりした理由もわかったろう?……僕はランク10の超能力者。『狂乱解電(コンセントレイト)』の逆巻荒天。……君の相手など、造作もない」

 ランク10の超能力者は、歪に笑った。

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