五条悟は戸惑っていた。
まず、白い梟がやってきて、くっそ分厚い手紙を置いていった。
過去の五条悟様へ、という不穏な手紙である。
まあ一応写真は撮って生徒に梟から手紙をもらったとしっかり自慢はしたのだが。
冥冥さんが使うのは鴉なので、知らない術師だろうか?
しかし、呪力は見えなかった。伝書梟? まさか。
手紙には、これから起こる事が順に書いてあった。
だが、それは荒唐無稽だったし、出鱈目の可能性もあった。
いや、むしろ出鱈目だった。
何せ、今の噂の事は手紙にこれっぽっちも書いてなかったからだ。
その上、内容は胸臭くなる最低な内容。真実味が多少あるのが腹立たしい。あくまでも多少だが。
いや、乙骨の親戚関係は一応洗わせておくが。
「だーかーらー! 僕に隠し子なんていないって! 術師非術師以前に心当たりがないんだって!」
誰だ、失礼な噂をばら撒くやつは。僕が隠し子を作って非術師だから捨てたって? そんな事をするはずがない! 第一、僕に子供はいない。それはしっかり断言できる。何度も何度も答えている間に、腹が立ってくる。
まったく、火の無い所に煙は立たないというが、本当に心当たりはないのだ。
あまりに聞かれるのでウザくなって情報源を特定。
締め上げて、傑が僕の子供と暮らしているという話を聞いた。
そんなものは存在しないのだが。
そうして、あろうことか存在しないはずのものに証拠写真も出てしまったのだ。
学長に問い詰められ、硝子に揶揄われ、伊地知に認知しないのは人としてダメなのではとオドオドと進言される。
写真を見せてもらうと、傑が僕そっくりの子供と笑っている写真が。マジで誰だよお前。
傑を騙しているとなると腹が立つし、しかし写真に映る以上呪霊ではない。
整形にしたって、僕の目そっくりの目はどうするんだって話になるわけで。
僕は、思い切ってこっそり傑を訪ねる事にした。
傑の位置はどこからでもわかる。転移で一瞬だ。
「心配はいらないよ。私がなんとかするからさ。利久も、びっくりしたね。大丈夫だよ」
「傑! 僕の子供を保護してるって一体どういう事だよ!?」
そうして、目撃したのが、子供達を優しく抱きしめる親鳥の如き傑の姿である。
僕そっくりの子と傑そっくりの子供。え、双子?
僕の頭は真っ白になった。呪術師じゃない。天与呪縛のフィジカルギフテッドなのか、呪力が皆無の二人。もちろん、呪霊でもない。真っ白になった頭の中で、伊地知の言葉がよぎる。「認知をしないのは人として最低だと思います」ことここにきて、僕が言えることは一つだった。
「……に、認知します」
「いいかい悟、男同士で子供は出来ないんだよ? それにね悟、私は、将来可愛いお嫁さんをもらうんだよ」
大きい傑の腕の中の、小さい傑が僕に言い聞かせる。可愛い。えっ可愛い。
でも確かにそうだ。男同士で子供はできない。そもそもエッチもしてない。えっでも子供がいるよ……?
僕はグチャグチャの頭のまま、子供達を抱きしめる傑を抱きしめ、そのまま転移した。
「夜蛾セン! 硝子! どうしよう僕認知したっ」
半ばパニックになってパタパタ腕を動かして、子供を指し示す。
「傑!? その腕の中の子はどうした!?」
学長が驚愕してサングラスを外し、勢いあまって握り潰す。
「ウケる、マジかよお前らwww」
硝子がヒィヒィと笑い転げる。
「五条さん!? どうやって作ったんですか!」
伊地知はいつも通りオロオロとしている。僕も珍しくオロオロしている。
人生でこんなに動揺したのは初めてかもしれない。
「わかんないっ えっ 本当に覚えないんだけど、まさかあの日!?」
そういえば、学生時代に一度だけお酒失敗した記憶が!
「あの日もどの日もないよ! 君とはそんな関係も感情もない! っていうか君、自分の事なんだからそれぐらいわかるだろ! 落ち着け!」
以前と同じように、傑が僕に話しかけてプロレス技を仕掛けてくる。ギブギブギブ。
って落ち着いてられるか、傑、非術師は猿って言ってたろ!
「じゃあお前は認知しないっていうのかよ! フィジカルギフテッドも術師だろ。そもそも自分の子を非術師だからって認知しないのはありえな……」
カメラのシャッター音がなる。
ドアの隙間から、一年生が曇りなきまなこをまん丸にして見つめていた。
真希、乙骨、棘、パンダで勢揃いである。
ピューっと逃げていく一年生。ここに拡散は約束された。
「ああああああああああ……どうするんだよ、悟」
大きい傑は頭を抱えた。
「悟。過去の悟も大人なのにバカなの? 過去の悟は悟より賢いんじゃなかったの?」
「あ、うん。その、過去の僕がごめんね……」
小さい傑の言葉に、小さい僕はへにょんとして謝るのだった。
過去の悟? その表現は頭に引っ掛かったが、今はただただ混乱していた。