バレンタインデー。
この頃には魔法界のアレっぷりを理解していた悟なので、チョコは既製品の蛙チョコでもらうこととしていた。やらかした悟にチョコをくれるものがいるかは別として。
蛙チョコは沢山の魔法界の魔法のお菓子の中で、唯一悟が受け入れられるものである。
悟もこの記憶がなければ……と思ったことは一度ならずある。
だって記憶があったら愛の妙薬入りのカップケーキを持って突撃なんて出来ないし、ゲップがなめくじになる魔法をかけてふざけて遊ぶなんて無理だ。
魔法界の子供は強い。
女装ぐらいの悪ふざけならやってのける悟でも、これはやったらまずいでしょ、という良識があって、それを壊せずにいた。
上級生の色恋沙汰の狂想曲を眺めながら、まだ思春期の来ていない11歳の坊や達は気楽なもんである。だった。
「見て! カップケーキを配っていたの!」
エマが嬉しそうにカップケーキを持ってくる。
「変なのじゃないだろうね」
悪気なく魔法のお菓子を食べさせる奴はいる。例えば、頭の痛いことに、傑とか。
「学校で毒は配らないさ」
傑はカップケーキをもちあげる。
オリバーと稔も。
「愛の妙薬ですって。五分間目の前の人にメロメロになるみたい」
「へー」
一切の躊躇なく口に放り込む傑。
咄嗟に止めようとして間に合わず、傑の目を塞ぐ僕。
「何してんだよ、エマ!」
「何を怒っているんだい、悟?」
まじか。傑マジか。
ひょいひょいと稔とエマも食べる。
「あっ ちょ、まっ」
珍しく慌てる悟。目隠し呪文は必要性を感じなかったのでまだ覚えてなかった。
こう言う時に使うのか!
とにかく、両手は傑の為に塞がっていて動けない。
「オリバー!」
「郷に入っては剛に従え。日本の言葉だね」
そうして、勇気を持って食べるオリバー。やめろ収拾がつかなくなる。なった。
「悟……? 僕と両思いになろう!」
「そうよ悟、私と両思いになりましょう」
「ぎゅーです、悟様」
そうして悟の口にカップケーキが詰め込まれる。
さて、悟の中の人は思春期? なにそれ。な、キスどころかぎゅー止まりな11歳児ではないのである。
……問題が起こったのは当然の帰結といえよう。
傑を押し倒した悟と傑の名誉は、オリバーの猫ちゃんが連れてきた寮監のおかげでスンデのところで守られたのだった。
「Mr.五条。どうやら、貴方は魔法への耐性が低いようですね。きっと、大人びていたがために魔法のアイテムから遠ざかっていたからでしょう。魔法の耐性を得て、理解をする為にも。お友達と遊ぶことは大事ですよ」
「嘘だろ」
「嘘ではありません。よく学びよく食べ、よく遊ぶ。その中で、強く逞しく育ってくのです」
「く……減点ですか?」
「Mr.五条。貴方は確かにとても大人びているようですが、それを理由に減点にはしませんよ。これは事故です」
「いや、薬入りのカップケーキばら撒いてたやつと食わせたエマを減点してくださいよ……」
「鍛錬ですよ、Mr.五条」
「嘘だろ」
「そもそも、切り裂くとか爆破とか、貴方の魔法は偏りがありすぎて不健全です。しっかり学ぶのですよ。将来、貴方でしたら優秀な闇祓いになるでしょう」
「将来……」
呪術師以外の将来か。
考えたこともなかった。
生まれ変わってすらも。
校長先生は、瞳を輝かせた。
「貴方が、偉大なる何かの生まれ変わりなのは知っています。ご両親も」
「!!」
「でも、Mr.五条。貴方は生まれ変わったのです。生まれ変わったのですよ。もうお友達を殺さなくていいし、戦わなくてもいいのです」
「……わかってはいる。分かってはいるんだよ」
「貴方は、予言を破壊した。それが出来た。ならば、貴方の予言とて、破壊してもいいではないですか。どうか、お友達を闇の中に連れて行かないで。貴方の帰る場所は、過去でも闇でもなく、光の未来なのですよ。生まれ変わったのですから。貴方も、お友達も」
「先生……」
それでも。それでも、僕は忘れられない。忘れられるはずがない。
「忘れる必要はないのですよ。ただ、貴方の周りには、貴方を心配している人がいる事を知りなさい」
「はい」
「それと。トロールの件について、わかりました」
「!」
「貴方達は、多くの者に固唾を飲んで見守られています。魔法使いの繁栄を望むもの、新たな時代に望みを託すもの、マグル支配を望むもの、マグルと手を取り合う事を望むもの、隠れる事を望む者。マグルと交わり、消えゆく事を望む者。かつてはここに純血主義も加わっていたのでしょうが、それは貴方の始祖と遺伝についての論文で随分と力を失いました。始祖と純血は同じだけの価値がある、でしたか。ただ、これは普通のマグルの蔑視を加速もさせました。そして、今年、貴方達の入学を同じくして、新たな予言が生まれていたのですよ」
「その予言は?」
「『偉大なる魔法使い達は出会った。全ての運命は鍋に投げ入れられた。破壊、贄、依代、劇薬、祈り、術師にしろ非術師にしろ、鍋が壊れる前にそれを従えた者が新たな未来を作るだろう。まずは五つの運命の望みを叶えよ』」
「俺の願いを王様狙いのお節介が叶えてくれるって?」
「あらゆる誘惑が貴方達を襲うでしょうね。でも、私はこの予言で安心したのです。未来は変えられる。いい方向にも」
「悪い方向にも?」
校長先生は重々しく頷いた。
「だからこそ、私は全力で貴方達の子供時代を守るつもりですよ。鍋が壊れるのを少しでも遅らせるためにもね」
「……俺は。今の所、鍋を壊すつもりもないし、今の平穏が好きだよ」
「でも、貴方の場所はここではないと感じている」
「……」
「貴方が真の意味で満たされる事を、心から望んでいますよ。そして、私の望む未来を……平和を、実現してほしいと願っています」
そうして、校長先生とのお話は終わった。
「悟! 私、いっぱい魔法のグッズを買ってきたよ!」
「悟の変態! エッチ! むっつり! ごめん!」
「お、大人なんだね、悟。だって君、チューをしていたし」
「悟様ー! 大丈夫でしたか! 話は聞きました。僭越ながら、悪戯魔法には自信がありますので、訓練に付き合います!」
「「「「じゃあ、遊ぶぞ!」」」」
崩れ落ちた五条悟は、悪ガキどもに連れ去られていった。
五条悟はまだ知らない。愛の妙薬問題は、魔法界ではとても根の深い問題なのだという事を。最も、魔法使いは問題視していないのだが。
とっ散らかった話になってしまいました。