クローンセクトニアがタランザを見下ろす。ただただ言葉に詰まるだけの彼に「誰だ」と吐き捨て、タランザは視界が揺らめいてくる。起きすぎている、いろいろなことが。
「っはァ、は、ぁ……セクトニア、さま、セク、」
「わらわが何だというのだ」
居る、存在している。現実だ。
「ワタクシです、貴女の、あなたの一番の部下、忠臣たるタランザです!」
「お前のような醜きもの、見覚えがないわ」
詰まった息で呼吸ができない。「ボクを覚えていない」「生きているならいいじゃないか」「いやだ」「よかった」。全部がごった煮になり、まるで喉を内側から圧迫する。
そんな彼の背をさすったのは、スージーだった。
「ひ、秘書さん……?」
「……大切な人が、自分を覚えてない。ま、ツラいのは分かるわよ」
「キミに、何……が……」
振り返るタランザは、スージーの目の奥に色々なものを見た。苦しみを、背負っている。背負って、でも、前を向いている。
「あいつにホエヅラかかせたかったけど、それはまあ良いわ」
あんたも前見なさい、と、そういうかのように、タランザの背中をポンと、押して。タランザは少しだけ、少しだけ、セクトニアを見上げる準備ができた。
「もうよい。ちょうど暇をしていたのだ」
剣を構えたクローンセクトニア。戦いたくない、いやだ、そんな風に想いが巡る。
同時に、「逃げたくない」「声を聴いてほしい」と、心臓の奥から声がした。ああそうだ、声を聴いてもらわなくちゃいけない!
「っく、ぅ」
セクトニアは、強い。タランザがその剣技に見とれてしまうのもあるが、それにしたってやはり強い。放つ突きをかわしても、そのあとの瞬間移動からの斬撃に反応できない。
まあ近くで女王を見てきたタランザゆえに防御は間に合うのだが、しかし反撃に転じることができない。
「弱い、弱い!」
丸い刃をその身から出現させ、美しくも飛ばし。糸を天井に絡めてかわしつつ、タランザボールを投げつけ。軽くはじき返され、斬撃を続けてもらい。転がって。それでも立つが、すでに窮地に彼はいる。
「……っ」
現状一番火力を出せるワールドツリーの幻影も、頃合いをみなければ読まれるだけ。肩で息をして、ただ防御するだけのタランザも、そろそろ限界が近い。
「その勝負、待った!」
「……?」
とどめを向けるクローンセクトニアを前に、突如、紺色の影が割り込む。スージーたちを一瞥し、今度はタランザを見つめて。剣士メタナイトが、セクトニアに剣を向けた。
「私が相手……と言いたいところだが」
ふふ、と笑い、金色の直剣をタランザに差し出した。
「……え?」
「君が付けたい決着なのだろう。それに割り込むのは、剣士の道が許すことではない。……フン、まあ、一度手を合わせてはみたい相手だがな」
「メタナイト……。っ、ありがとうなのね!」
剣を取り、メタナイトが「あいつと同じものだ」と差し出した、緑の帽子をかぶり。ソードタランザが、セクトニアに駆け出す。
剣術なら、糸の扱いほどではないが覚えがある。
「来るなら来るがよい。わらわを飽きさせてくれるな!」
「セクトニアさまのご命令とあらば!」
放つ連続斬りを喰らい、やるなとばかりにセクトニアの振り下ろし。くるっと回避して回転斬りを放つが、それはセクトニアも回避。雷撃でもって迎え撃たれる。
「……まだまだなのね!」
「よいぞ。タランザと言ったな。醜きお前の剣技、覚えておこう」
「ふふ、いっぱい練習したのね」
「自分で言うか」
「ええ、自分を磨く努力ができるとカッコいいと、聞きましたのでッ」
「……ククク」
セクトニアの百裂突きを防ぎ、かわし、……きれない!ぶっ飛ばされ、さらに、突き! 上方で構えるセクトニアを前に、タランザは身構え。
「……僭越ながらッ!」
ワールドツリーの幻影は自らを持ち上げるためのカタパルト。その勢いそのままに突き出すのは。「かわさない」という選択肢。
「であああ!!」
「くぁああ!」
自分も食らったが、セクトニアはもっとまっすぐ食らった。雌雄を決するのは、相手を受け入れる姿勢。
……まあ、セクトニア様になら、クローンだろうと斬られていい、というのはいささか妄執的だが。
ぼてっ、と床に落ちて、タランザはすぐに体勢を正す。
「……まだ、まだだ」
それでもふらふら立ち上がるセクトニアを前に、タランザの脳裏で光景が映し出されていく。
ワールドツリーとその身を一つにした、主。黄泉還って、自身すら見失って、哀しみの咆哮と笑みで、ただ戦い続ける
「もう、終わりでいいのね……! もう戦う必要は……」
「それを決めるのは、わらわだ……!」
クローンでも、その独善ははっきりと蘇っている。かぶりを振って、タランザは剣を捨てた。
「タランザ、彼女は……」
「いいから、見てるのね!!」
スゥ、
息を吹き込み、優しい音色が、穏やかに響く。タランザが吹いた横笛を前に、セクトニアはそっと、剣の手を止める。
「煩わしい、音色……だ……」
そっと頭を抱え、地面に手をつく女王。
「なんだ、この音は……!」
「セクトニアさま、これが好きでしたよね」
「鬱陶しいぞ!」
「……まあ、そのお姿になってからは苦手でしたね」
「何を言うか、わらわの姿は」
「それでもセクトニアさまは!……セクトニアさまは、ワタシの、笛を許してくれたのね……」
「……ぅう、」
しばし、話し終え、笛の音色がまた響く。呆然としたままのハルトマンを一瞥し、スージーは「アタシは昔からアイスクリームが好きだったんだけどね」なんて独りごつ。
安らいだ様子のメタナイトは、タランザを見て、呆れながらも関心を見せた。
ぼこぼこと音を立てた紫の塊は、女王蜂ではなく、クモのような、どこか、タランザに似た姿を示した。
「……え? そ、その姿っ」
「タラ、ンザ……」
「わ、ワタシを思い出して、」
クモの子は、セクトニアは、ただただかぶりを振る。
「……でも、なんだか、すごく、すっきりとした気分。……貴女と居て、安らぐわ」
「…………。」
差し出された手に触れて、それがもはやセクトニアとは違うもので居始めているという事実が顔を見せる。
……まあ、前を見るなら、見るなら。新しい彼女と、女王なんかじゃない、ニセモノでも、新しく生まれたセクトニアと、歩む手だって……。
そんな逡巡のタランザをよそに、彼女は星の夢のコントロール用ヘルメットを拾った。
「わたし、タランザのネガイで産まれたからわかったの。タランザがどうしたいか」
「え……?」
「すぐに会わせてあげる。あなたの知る、セクトニアに。さっきの私なんか、比べ物にならないくらい」
「そんな、の……」
会いたい、キミはどうなる、会わせてくれ、クローンはどう生きる、早く、その姿を見ていたい、
渦巻く思考から出力されたのは、唾をのんで見守るという行動だけだった。星の夢に触るなと、光線銃を向けたハルトマン。その手をセクトニアは糸を放って一瞬で拘束。
星の夢に乗り込み、ヘルメットをかぶった。
『アー……ワタシ、は、』
「星の夢よ。そして同時に、」
『ソウだ、"クィン・セクトニア"デス。』
「正確には、クィン・セクトニアを再現するための、データベース」
『ツマリ、キオク、メモリーそのもの。』
「私達が、」
『ワタシ、タチが、』
「『クィン・セクトニア』」
ごぼっ、ごぼっ。タランザに似た図体の彼女が突如「溢れ」出し、巨大なクィン・セクトニアの上半身を構成する。そう、ハチとしての、あの姿。
また筒状で、また、杭状にも近い、その星の夢を、取り込み、虫の腹のように。体の一部とした。
『ケンサク完了。セクトニアの行動ゲンリ、過去ノ動向ヲダウンロード。ルーチンとシテ、メモリにインストールシマス……』
「……あ、ぁ、ああ、…………」
少し震えを起こし、巨大にして絢爛たる女王……「セクトニアドリーム」が発進する。待ってくれと手を伸ばすタランザの方を見て、そして、見ただけでセクトニアは飛び立つ。
まるで、「セクトニアはこうするでしょう?」「そしたらタランザは喜ぶはずだわ」と、そんな無邪気ささえ浮かべるほどに。
『最適な次ノコウドウをサンシュツ……支配の拡大・及ビ、美ノ追及。』
「ふはは、フハハハハハ!!」
「セクトニア、さま……」
もう、色々なことが起きすぎてタランザはパンクしている。それでも、炎をあげてポップスターの成層圏を飛ぶセクトニアドリームを、良しとはできなかった。
その横でワシの星の夢がと嘆くハルトマンを一瞥し、スージーはため息。
「ミジメな吠え面だけど……あんまりいい気持ちでもないわね。……滅ぼされても困るし、なによりアイツに、星の夢に振り回されるがままっていうが不快だわ」
スージーがリモコンのボタンを操作すれば、インベードアーマーが、どしん……と着地する。
「アイツを、止めて」
「でも……」
空は飛べないし、攻撃手段も心もとない。
しかし、うつむいた彼に、メタナイトが「大丈夫だ」と声をかける。
「大丈夫たって、」
「皆、来ていいぞ」
彼の合図で、割れた窓からフロラルドの民たちが現れる。彼女たちが支え、ツタに吊り下げてきたのは植物を模した大砲。
セクトニアがワールドツリーに寄生した時、状況を打開した装備である。デデデとカービィが乗り込んだそれだが、今回は、メタナイトが乗り込む。タランザも意を決してアーマーに乗り込んだ。
「……うん、力借りるのね!」
灰色と単眼の、味気ない装甲が、持ち主を確かめ変容していく。紫と緑色に代わり、少し髪に似た銀のパーツも現れ、その肩から、合計六本の腕が飛び出る。
がっしりと大砲を掴み、糸も使って固定。またプロペラの付いた輸送装置トランスポーターを三機、スージーが渡す。
それらも掴み、糸で固定し、無理矢理気味な合体ロボが爆誕。
「行くのね、タランザシップ!」
「ダッサ……」
「私は悪いセンスではないと思うぞ」
「ああっ! もういいのね! とにかく、発進!」
プロペラが回転し、タランザシップ、上昇! 遥か上方、宇宙を舞うセクトニアドリームを追った。
なんで剣を持ったかというとまあ、本編クローンセクトニアが剣士として呼ばれてるのを踏まえた演出です。
あくまでゲーム的にはタランザの通常技での戦闘なんでしょうけど、そればっかでも飽きるなと……。