どうにも需要があったみたいなので、勢いに任せて書いてみましたのでお納め下さい
幼少期のなかった、それを奪われてしまった少女の優しい時間
愛する家族はなく優しい人たちはいても、そこに少女が本当に欲しかったものはなかった
少女は手を伸ばし続けた
届くはずがないと知っていても
でも、彼女はそれを掴むことができたのでした
「私にとって、ザビ家と言うのはお前の母であるゼナを抜きにしても中々縁のあった一族だった」
お父様はそう話をされます
既に照明は落として、コロニー内の明かりも少なくなっています
元々このアパートのある地区はダルシア・バハロ元首相による再開発計画からは少し外れた所にあります
その為、良くも悪くも少し古い街並み。ノスタルジックなソレがありました
勿論、本来ならそれは贅沢でしかないのですが予算の不足を名目にダルシア氏はこの近辺の開発を頑なに拒んだと聞いた事があります
…多分、お父様の事をダルシア氏も知っていたのではないか?と私は思いますが、それを聞こうとは思いません
既にダルシア氏も故人
人の優しさに思いを馳せるのも悪くないと今の私は思えるのですから
「お前も知っての通り、私とゼナの両親ケイムとセリアは地球の出身だ。本来ならばコロニー独立運動など他人事でしか無かった
だが、あの人達はとかく正義感の強い、いや強過ぎる人達でな?それ故にコロニー、しかも不穏な雰囲気の漂っていたサイド3への移住を決めたのだ
当時ゼナはまだ幼かったからそこまで覚えていないだろうが、それこそ両親の実家連中からはかなり批判されたな
何せ、一応とは言えクラヴァスの家は豪州においては名士だったのだから」
「豪州、それはまさか」
「…ああ。ゼナにも、ドズルくんたちにも話をする事は終ぞ無かったがクラヴァスの本家は確かにシドニーにあったのだよ、ミネバ」
息が詰まる思いでした
つまりお父様は
「が、私も薄情なものでね
父と母が死のうとも何一つなかったクラヴァスの連中よりも、私はゼナやドズルくん達の気持ちを優先したのさ
お前が気にする事はない。良くありふれた悲劇の一つだ」
そう、なのかも知れません
でもそれをお父様はずっと独りで抱えてきたと思うと
「本当に優しい子に育ってくれた。さぞお前を育ててくれた人達は人間味に溢れていたのだろうな」
涙を流す私の方を向いたお父様は私を抱き寄せました
まるで愛しい宝物を守るかの様に
「デギン公は私から見ても、本当に指導者として立派な方だった
…まぁ、その分家族に対しては過保護というレベルではないほどは気にしておられたが
それも早くに奥方を亡くした為だと聞いた事がある。であれば仕方ないことだったのだろうよ?
とはいえ、『いつも誰かに見られていると思って行動せよ。さもなくばそれがいつか自分の苦しい時に我が身に返ってくるだろう』と言っておられたそうだ」
「意外です」
「そうか?義兄殿が言うには、『自分の目付きが悪いからその威圧感を隠す為に態々色眼鏡をした』らしいぞ?」
「色眼鏡、ですか?」
「ああ、そうさ。まぁ、『あれでは逆に威圧感を増しただけだと思うのだが、私の考えすぎかな?』と態々連絡してきたのだから、義兄殿も中々愉快な性格だったと思う」
「ギレン叔父様とか特に仲が良かったのですか?」
「さて
私としては義兄殿からの話は真剣に捉える様に努めたつもりだし、義兄殿もなんだかんだ言って月に一度くらいは近況報告を兼ねた連絡をしてきたから悪く無かったとは思うがね」
(それは普通に仲が良かったのではありませんか?お父様)
私は声に出す事なく心の中で聞くに留めた
今はこの話を穏やかな空気の中で聞いていたかったのだから
そもジオン公国の総帥が暇であるわけはないだろうとは思う
にも関わらず、それだけの頻度で連絡してくるのだから仲が悪いなどと言う事はないだろうとも感じるのだが
「なんだかんだ言って、私には対等な友人という者に恵まれなかったからね」
何でもない事の様に言いますが、それは明らかに悲しい事のはず
「そう悲しむな、ミネバ
確かに一般的に言えば、私は決して幸せでは無かったのかも知れん。が、それでも私はたとえ何度人生を繰り返してあの地獄を見る事になったとしても同じ様にお前を待つさ
それが私に出来る数少ない事、だからな」
私はお父様の胸の中で首を左右に振ります
それではお父様の幸せがどこにもないのですから
「ああ、やっぱりお前は優しく、そして強い子に育ってくれたんだな」
お父様はいつもよりもさらに優しい声で続けます
「古来地球の一部地域において、私達の様な大人の事を『先達』と言ったそうだ
『先に達する』と
いい言葉だと私は思う。ミネバやバナージよりも先に私は生まれた。何が出来たか、してやれたかは私にも分からん
だが、それでもお前達のためにしてやれる事はある」
「いや、です
おとうさまとわたしははなれたくない」
私はもう何が何だか分からなくなりました
なんでお父様はこんな
…遺言?
私はその考えに至ったとき、それこそ自分が奈落へと落ちていく様な感覚に襲われたのです
「心配するな
まだもう少しくらいは皆待っていてくれるだろう
私にも
「お父様、死なないで」
物心つく頃には既に両親はなく、姉がわりとして育ててくれたのは母の護衛であったシーマお姉様
そしてハマーンくらいでした
もっともハマーンは私に淑女教育など『ジオンの姫』としての立ち振る舞いを学ばせる事に注力していたみたいでしたが
アクシズが地球圏に帰還してしばらく後に私はとある人物に暫く匿われました
そしてその後少しの間、シャアに匿われた後にジンネマン達の元に身を寄せたのです
ですが、行く先々でどうしても見てしまうのです
勿論私とお父様に直接の血の繋がりはありません
本来なら、以前の様に『おじ様』と呼ぶのが当然なのでしょう
でも、私は憧れていたのです
親子というものに
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私がお父様の存在を知り、お父様のところへ行く様になってから私はお父様と出来る限り関わる事を望みました
時にいきすぎた事があればお父様は私をやんわりと叱ってくれるのです
…私にとって、誰かに負の感情をぶつけられるのはいつもの事と言えました
でも、私を誰一人として叱ってはくれなかった
シーマ姉様ですら、やんわりと嗜めるくらい
それが私には悲しかったのです
お父様にとっての私は
それがどれだけ私にとって欲しかったものか、お父様は理解しておられるのでしょうか?
…いえ、お父様なら理解していようが、してなかろうが
私にとって自慢の夫はバナージであり、自慢の友人は今は亡きマリーダでしょう
バナージとの出会いが私を変えてくれた。そう思います
…でも、私が1番好きな大人は間違いなくお父様です
セイラさんの結婚について私が消極的に反対したのは子供の癇癪の様なものなのかも知れません
でも、そんな私の意思を尊重してくれたあの人を私はいつか『お母様』
と呼ぶ事に迷いが無くなると思います
…でも
…でも、もう暫くは私だけの大切な
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「しかし不思議なことにデギン公からは一度だけ『義兄殿の補佐官にならぬか?』と言われた事があるのだが、とうの義兄殿からは終ぞそんな話はなかったな。今思えば」
…何というか意外です
お父様がそう言った事をするイメージが全く湧かないのですが
「ま、これでもダイクン氏達の手伝いを親父達がしていた頃は、子供なりに手伝っていたからな
うちの両親は親バカを発揮して『この子が大きくなったら、キャスバル様の側に仕えさせる』なんて言ってたからなぁ」
「そんな事があったのですか?」
私は驚いた。また一つ私の知らないお父様を知る事が出来たのは嬉しいものだが、なんというか『びっくり箱』みたいな人だとお父様に感じてしまったりするのだ
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なお、この発言を聞いたギレンは父のところに文字通り『殴り込んだ』
「父上、あなたは何を言ったのか本当にお分かりか?」
「ギレン。だが、ラウムは儂やクラヴァス夫妻だけでなくダイクンめも評価しておった程に聡明だ
しかも、お前やサスロも彼に期待していた部分はあったのではないか?」
「確かにラウム・クラヴァスの素質はあると私とて考えております」
「ならば、お前にもセシリア以外で信頼でき有能な補佐官は」
「父上はラウムに死ねと仰られるおつもりか?」
「…なんじゃと?」
「今、ラウムを私の元にこさせた場合、ひと月もせぬ間にあれは死ぬ事になりましょう
そう申し上げたのです、父上」
ギレンはそう確信していた
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サスロが存命中にギレンもクラヴァスの息子であるラウムを鍛えるべく動こうとした
ところが
「やめておけ、兄貴
兄貴のする事は奴を殺すことにしかならん」
そうサスロに止められた
当時のギレンには余裕がなく、そしてダイクンとザビを繋ぐ
しかし、弟サスロはそれをするなと言う
「何故だ、サスロ
お前とてクラヴァスの息子に期待を寄せていたと思っていたが」
ギレンとしては自身の補佐役でなくとも、弟サスロの補佐役でも良いと考えていた
何せサスロは現実主義者であり、そこにリスクがあろうともリターンが上回ると判断すればそれを行う為の準備を怠らない人物
それ故に理解者は少なかった
ならばそんなサスロと少なからず関係のあるラウムは補佐役として適任だと当時のギレンには思えたのだ
「俺達は少なくとも、この国の重要人物だ
それ故に護衛もつけられるな
では、聞くが
アレの身をどうやって守るつもりだ?」
「…その言い方では護衛をつけられん
そういうことか」
「忘れたか?アレがあくまで今ダイクンの屋敷を出入りできるのは『ダイクンがそれを望んでいるから』だぞ?
アレの両親がどうなったか、忘れた訳ではないだろう」
「妬む、か」
「間違いないだろう
そうなれば奴らの一部は嬉々としてアレを狙うか、両親を亡き者にするだろうよ」
「くだらん事を
今我等に必要なのは力だ
内輪揉めしている場合ではなかろうに」
ギレンは不愉快そうな顔をしたが
「兄貴にせよ、親父にせよ『人を信じすぎる』
2人やダイクンみたいに上等な人間ばかりじゃない事を理解しないとその内とんでもない失敗をやらかしそうだが」
サスロはそう不快げに吐き捨てた
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そしてサスロが懸念した通り、ダイクンが死ぬなりクラヴァスの両親は殺されまだ親の庇護が必要だったはずのラウムは大人達によりあらゆるものを奪われた
それでも妹を守れたのは
相手がその存在を知らなかっただけなのだ
その存在を知っているはずのクラヴァス夫妻の頼りにしていた弁護士。彼は最後まで妹の存在を隠し、そして死んだ
その妻は一年戦争後、アクシズに渡った。幼い我が子を連れて
ギレンは弟サスロの懸念した事は現実になりうると判断した。だからこそ、ゼナの兄であるラウムに何のアクションも起こす事はなかった
あの時に比べて、寧ろラウムの周囲の状況は遥かに悪化していたのだから
「父上。もしも我等兄妹と父上
暗殺するとしたら誰を選びますかな?」
「なに?
…うむ。そうだな
先ず儂とお前は真っ先に候補から外れよう」
ギレンの質問に一瞬だけ戸惑ったが、すぐに冷徹な公王として頭を巡らせ始めた
「ドズルとキシリアは既に軍司令部への着任が決まっておる
…ガルマ、だろうな」
「では、そこにラウムを入れたならば」
ギレンの言葉に深くため息をつくと
「そういう事か。奴等は何としてもラウムの頸を求める、と」
「その通りです
例え私の補佐官となったとしても、アレは
そう見られるでしょう。そして我等よりも守りは薄い
狙わぬという選択肢はありますまい」
「…忌々しい事だな、ギレン」
「ええ、アレから妹以外のほぼ全てを奪っておきながら奴等は『見逃してやった』と思っている事でしょう
誠に気に入りませぬな。…故に奴等が次に尻尾を出した時は容赦するつもりなどありませんが」
デギンもギレンもダイクンらと共にあった頃、両親の手伝いをしようと必死になっていたラウムを知っている
宇宙移民の事など関係ある訳でもない。それなのに『両親を助けたい』との思いからできる事を探していたラウムの姿は2人やサスロ、ダイクンにとって眩しく映ったのだ
…だからこそ、そんなラウムが自分の
自分達が彼から奪ってしまった
キシリアやドズル、ガルマにこれを背負わせる訳にはいかない
…これは
「宜しいですな?父上
今後アレを長生きさせる為にも、
「…本当に儂はあやつを不幸にしか出来ぬのだな
ジオンの公王が情けない」
ギレンの言葉にデギンは表情を沈痛なものとした
これはまだミネバがこの世に生まれる前の話
そして不器用すぎた2人のささやかな
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「さて、ミネバ
お前は何を聞きたい?」
私はお父様の話を半ば子守唄の様に聞いていました
実は今日お父様に頼んでいたのです
今、この時だけは私を
既に私やバナージも成人と言って良い年齢でしょう
でも、この時だけは私が欲しかったものをねだっても良いと思っていいですよね?
お父様
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そして、私は色々な事を聞きました
実はシャア、いえキャスバルが好き嫌いの激しい子供であった事やセイラさんも昔は引っ込み思案であった事
キシリア叔母様はお父様に
お父様の親友であったマツナガ大尉が本国に戻った時、多くはなかったが実父や母上の事を聞くことが出来たこと
ギレン叔父様の腹心であったデラーズ大佐はお父様の為に親衛隊の人間の一部をお父様の護衛に回していた事など
お父様はその時の情景を私にもそれが伝わってほしいと思っている事がよく分かるくらい話してくれました
私はそんな話を眠りそうになりながらも、聞いていました
「別に時間はあるんだ
幾らでも、何度だって聞きたいなら聞かせるさ」
お父様はそう笑っておられました
いつもの陰のある笑顔ではなく、恐らくこれがお父様の本当の笑顔だと思える様な少し困った様な笑顔
「ミネバ
お前が生まれてくれて、そして生きていてくれて本当にありがとう
お前がいてくれたから私は生きてこれたんだから」
お父様はそう言いながら、私をあやす様に背中を一定のリズムでゆっくり、優しく叩き始めました
「…お父様、おやすみなさい」
私はその不思議な安心感と温もりに身を委ねます
「おやすみ、ミネバ」
お父様のそんな優しい声を聞きながら
お父さんと一緒に寝る
そんなささやかすぎる願いすら少女には叶えられる事はありませんでした。両親はお星様になっていたのだから
少女は必死で寂しさを押し隠しました
そんな事を言ってはみんなに迷惑をかける事を少女は知っていたのです。でも、本当は羨ましかった
夫には自身に希望を託してくれた父がいました。愛を捧げてくれた母もいました
すれ違う事が多かったですが、兄もいます
結局道は
宇宙世紀を見続けていた祖父もいました
でも、少女には何もいません
家族と思える優しい人達はいました
…でも、家族ではないのです
叱って欲しかった。怒って欲しかった
…愛されていると思わせて欲しかった
でも、それは
見えていても、それは
それすら、彼女のものとは言えないものでした
だから彼女は闇の中で独り泣き続けたのです。誰にも知られない様に
でも、そんな彼女をいつも遠くから見守っていた者がいた事を彼女は知った
光ではない。それではいつまでも少女はそれに苦しむから
それは闇でした
彼女と寄り添い、そしていつか消えてしまう
少女はやっと、幼年期の終わりを迎えることが出来るでしょう
そして未来へと歩き続ける。彼女を支えてくれる夫や仲間たちと共に
と、言うわけでオードリーのお話でした
需要があったのなら嬉しく思いますが
なお『ジオンの姫による対決』はのんびりと書いていくと思うので、時間がかかる気がします
勿論、出来たら即投下しますが
誤字脱字ない様に一応見直してから投稿してるというのに、駆逐できないというもどかしさ
悲しいね、バナージ
ミネバの幼少期のエピソード
-
いる
-
いらない
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書けるならどうぞ