蛇足的な話かも知れませんが、出来てしまった以上肥やしにするのもアレなので投下します
多数のお気に入りや評価ありがとうございます
震えながら確認しております
なお、執筆中は森口博子氏の『もうひとつの未来』を流しておりました
クラヴァス夫妻と言うのは旧ジオン共和国成立前から独立運動に携わっていた者達からすれば正しく『異端な者』だった
スペースコロニーへの移住者というのは基本的に社会的地位が低い者や場合によっては地球において犯罪を犯した者などが送られる一種の『流刑地』扱いされる事もままあった
増えすぎた人類の新しい住処
そんな謳い文句でコロニー居住者を募っているが、コロニーという作られた大地でこそ人は生存を
諸説あるが、そもそも宇宙市民が好んで宇宙を『そら』と呼びはじめた理由の一つは何れ宇宙の民が地球における
旧世紀において空は鳥達が駆ける場所であり、そこに人の居場所はなかった
かのライト兄弟を始めとした多くの者達が大空に魅せられ、挑みそして徐々にではあるが人は空を我がものとしてきた
旧世紀における二度の世界大戦は空に対する意識と熱意を大きく変えた転機であったとも言えないだろうか?
そして、人々は地球上で行けない場所がない。と言えるほどの技術を手に入れる。その熱意は光の届かぬ深海や古代から人々を
かの旧世紀最大の大国たるアメリカは遂に月面にまでその影響力を伸ばす事に成功し、彼等は深淵なる宇宙の果てを見んが為にボイジャーという衛星を地球より送り出した
人の欲望や夢は尽きることも飽きることもなかったといえよう
が、宇宙と聞いて大抵の人が真っ先に思い浮かべるのは人の生存を許さぬ
黒とは古来から不吉なものとして避けられてきた事の多い色
それ故に希望の象徴とも言え、人類にとって身近な存在を連想する
イメージ一つと侮る事なかれ
同じ意味であっても言い方一つで受け入れられるか否かが変わってしまうのが人という生き物だ
宇宙に浮かぶ閉塞空間であるコロニーに住まうと言うのは地球で暮らしている経験のある者達にとっては、多大なストレスを無意識に与え続けるものでしかない
しかし、コロニーで生きていくしか選択肢がない以上下手に暴動などを起こされては困るのも事実。そこで宇宙という場所に『希望』を与える為にいつしか宇宙の民は
ニュータイプには宇宙は『蒼く』見えるとも言います。青は暗さを強めると藍色となり、やがて黒となります
もしかしたらその辺にも理由があるのかも知れませんね
そして、宇宙は果てしない
月面や資源衛星たるルナツーの様に豊富な資源を有する小惑星や衛星も間違いなく存在するのだ
であればこそ、そこに宇宙の民の意識を向ける事で団結と希望を与えようとしたとしても何の不思議もないのではないだろうか?
しかし、どれだけ言葉を偽ったところで地球に比べコロニーや月面都市は生きづらいのは事実である
地球においてならば一切気にすることのない空気すらコロニーで賄えるものではないのだから。無論生産設備は存在するが、それゆえに旧世紀のフランスにおいて悪名を轟かせた『空気税』というものがコロニーには存在するのだ
フランスのルイ15世の時代はイギリスとの7年戦争の敗北による賠償の結果北米の植民地を失い、王族の浪費などによりフランス財政は逼迫していました
そこで当時のフランス財務長官エティンヌ・ド・シルエットが当時の特権階級であった貴族や僧侶に課税する事で財政危機を乗り切ろうとしたそうです。ですが、勿論特権階級であった彼等は猛反発。シルエット長官は断念し、その代わりに導入したのが空気税だった
言うまでもなく人が生きていく時に空気は意識せず吸うものであり、これに課税すると言うのは常軌を逸した行動でした。市民もまた猛反発しシルエット長官はその後程なくして辞任に追い込まれました
余談となりますが、そのシルエット長官は影絵を趣味としていた事から影がシルエットと呼ばれる事になったとの説もあるそうです
それくらいとんでもないのが空気税
地球ではそうでもありませんが、コロニーにおいてある意味では命を盾にした税金とも言えるでしょう
そしてこの空気税は『収入の大小に関わらず、一定額』を納めるシステムであり、低所得層にとってはそれこそ死活問題につながるものだったのです
文字通り『払えなければ死ね』と言わんばかりの徴収であったとも言います
そんなコロニーに地球から移住してきたクラヴァス夫妻とその子供達はコロニー住民からすれば理解不能な狂人にも見えたそうです
しかも、地球の役人でもないただの地球の一市民がコロニー独立運動に参加していたのだから当時の活動家達はこぞって
と陰で一部の者達が揶揄していたのも仕方のない事ではありました
何せ彼等コロニー住民にとって望んでも叶わない地球での生活を捨ててまでコロニーの独立運動に参加するなど一部の者からすれば、自分達を馬鹿にしている様にすら見えたとも言います
独立運動の先頭に立って活動していたジオン・ダイクンやデギン・ザビも当初は警戒していましたが、ともに活動するにつれて夫妻の行動に何らやましい部分はないと理解しました。その結果、クラヴァス夫妻は活動に加わったのが遅かったにも関わらず、『地球側の視点』を持つという理由からダイクンやデギンに重用される事になります
活動したところで、連邦側が受け入れられない手段を幾ら取っても徒労にしかならないのですから
特に独立運動に参加する多くの者達は『生活に余裕がない』者達であり、それ故に運動が過激になる恐れと要求が過大になり過ぎる傾向にありました
ダイクンもデギンも、そしてデギンの補佐を務めていたギレンやサスロもまたいきなり過大な要求をしたところで連邦がそれを受け入れるはずもない
ということは理解していたのです。下手をすれば連邦軍による武力鎮圧すらあり得てしまう。その為、地球の事情に詳しいクラヴァス夫妻と認識を共有する事でなるべく穏便な独立を勝ち取ろうとしたのでした
しかし、新参でありしかも忌むべき地球市民であったクラヴァス夫妻に対して公然と不満をぶつける者は
一部の者達はクラヴァス夫妻ではなく、夫妻の幼い子供を狙おうとしたのです
これはダイクンの側近であったジンバ・ラルらによってギリギリのところで阻止されましたが、これを受けてクラヴァス夫妻は今までの様な活動を自粛する事としました
息子と娘を犠牲には出来ない
すまない、ダイクン。デギン
そう言ったそうです
これに喝采を挙げたのはダイクン達と共に独立運動をしていた者のごく一部。殆どの者はその様子を見て嫌悪感をあらわにしたり、それをきっかけに独立運動から身を退く者も出てきました
自分達の未来の為に未来を担う子供を犠牲には出来ない
概ねそう言った意見だった
結果大きなうねりとなっていた筈の独立運動はその規模を縮小させ、その代わりに過激な思想を持つ者達の影響力が増す。という最悪の結果を残してしまいます
それでもダイクンやデギン達は粘り強く連邦と交渉を重ね、遂にジオン共和国の成立を果たす事が出来ました。宇宙世紀0058の事でした
しかし連邦は共和国誕生により、連邦軍の役割を治安維持から『外敵に対する抑止力』へとシフトさせ始めます
翌年には連邦による経済的圧力を強め、更に60年には資源衛星ルナツーの軍事要塞化や宇宙艦隊の整備に各種兵器の開発や再設計などを急速に推し進める事となりました
翌年61年には一年戦争初期における連邦地上軍の主力である『61式戦車』が正式採用され、TINコッドなどの配備も進みます
連邦宇宙軍の強化は続けられ、宇宙世紀0064においては新造艦を中心とした観艦式が挙行されました。その後も定期的に観艦式は行われる様になりましたが、この目的が共和国に対する示威行為である事は明白でしょう
軍備の急激な増強に勤しむ連邦に対して、独立運動の中心的役割を果たしたダイクンとデギンは徐々に連邦に対する姿勢の違いから対立していく事となります。奇しくも連邦政府によりコロニー自治権整備法案が廃案となった時期より少し前の事でした
クラヴァス夫妻はこの時点でダイクン、デギン両方から距離を置き共和国における地位も得ることなく舞台から降りたのです
いや、正確には
降りたつもりだったのでしょう
そして遂に0068にダイクンが死亡する事態に発展すると、事態は急速に動き始めました。共和国誕生から僅か10年後の出来事です
ダイクンをザビ家に暗殺されたと憤ったダイクン
更に土壇場で裏切ったクラヴァス夫妻を事故死に見せかけて始末。更にクラヴァス夫妻と親交の深い弁護士を
事故については警察の一部に手を回し、事故として処理させると共に残った子供達も亡き者にしようとします
しかし、デギンは初動に遅れてしまったもののダイクンの跡を継いだ共和国首相である事などを利用して彼等の凶刃からラウムとゼナを守りました
ですが、デギン達に出来たのはそこまでです。その為、クラヴァス夫妻の葬式に参列する事で『兄弟に何かあれば儂が黙ってはおらんぞ』とアピールする事が精一杯となってしまいます
ある意味で過激派であったとはいえ、同じ独立運動をしてきた者達。デギンは彼等の事を信じ過ぎていたとも言えるのでしょう
「奴らを信じるなど、親父も目が曇ったか」
そうデギンやギレンに忠告していた
とは言え、この一事をもってデギン総理(当時)やギレン補佐官を責めるのは酷とも言えます。ダイクン暗殺により混乱する共和国内部の統制やともすれば連邦に対する暴発も懸念される事態もあり得たのですから、其方に注力するのがジオン共和国首相としてあるべき姿であったのでしょう
結果、デギンやギレンが再び異常に気づいた時には全てが終わっていました
ジオン共和国はまだ新しい組織でした。それ故に縁故主義が純然とした力を発揮していたのです。遺産管理を任されていた幼い二人の後見人である弁護士を脅し、法務の者を買収しました
何せこれが通れば
そして幼いクラヴァス夫妻の子供であったラウムとゼナは住んでいた家を失い、弁護士の男が何とか用意できたアパートに移る事が出来ました。勿論弁護士の男に対してラウムは憎悪を募らせている事を弁護士自身も理解していましたが、それは正当なものであると男は弁明する事は終ぞなかったのです
ねぇ、兄さん。どうして引っ越ししないといけないの?
事情が飲み込めていなかった
本来ならば高等教育を受けていたラウム少年は自分達の生活資金が殆ど残されていない事を悟ると通っていた学校を即日自主退学。その後就職活動を始めました
幸いと言うべきか、当時の共和国国内はまだまだ整備すべきものが多く共和国国防隊も錬成途上でありました
それ故に内需もそれなりにあった事からラウム少年の就職も僅かな間に決まる事となり、妹であるゼナの学校生活まで犠牲にする事はありませんでした
この少し後にラウムは自身の苗字であるクラヴァスを周囲に名乗る事を控える様になり、妹ゼナにもまたそれを徹底させました
両親からもらった、いえ遺された唯一の繋がりともいえる苗字を
幸いにもラウム少年の働く事となった町工場の者達は深い事情を聞く事なく、彼の言葉を受け入れました
そしてその頃、デギン総理は国内におけるダイクン派の中でもクラヴァス夫妻の一件に関わったとされる者達に繋がる者達の政治や公職からの追放。それが叶わなければ権力の奪取に動いていました
無論全てを除く事は出来ませんでしたが、少しでも保身の働く者は
今(ダイクン派について)動けば身の破滅を招く
と理解して息を潜める事になります
そして、このクラヴァスの一件を知らないダイクン派や一般の者達からすればこの動きは
デギン総理やギレン補佐官によるダイクン派への弾圧と見えるのも仕方のない事ではありました
因みにデギンやギレンはダイクンの遺児であるキャスバルやアルテイシアの詳しい事は知りませんでしたが、手を出す事はなかったのです
デギンやギレンにとってどのような事があったとしてもジオン共和国誕生にジオン・ダイクンの存在はなくてはならないものであったのは間違い無かったのですから
仮に、もし仮にジオン国内でキャスバルが育ち政治家を志したとすれば、デギンやギレンは自分達の支持者が何と言おうともそれを認めるつもりではありました
共和国はダイクンのものではありませんが、ダイクンの遺児の意志もまた尊重されて然るべきものだったのですから
良く誤解されがちではありますが、後年ジオン公国においてデギン公王の跡を継いだ。いえ、正確には実権を奪ったギレン総帥のやり方や公国軍の内容を見て『ジオン公国はザビ家の私兵』と侮蔑される事がありました
しかし、当時の軍関係者の主だったものは国防隊時代からの『親ダイクン色』を色濃く残していた者が多くともすれば反乱の恐れすらあったのです。それ故にジオンの三軍全てを身内に預けると言う暴挙に出る他道はありませんでした
加えて、デギン公王という共和国と公国成立の立役者をも権力の座から引き下ろした事による不満も国内にあったのは確かです
ドズル・ザビは士官学校校長として経験を積みました。ギレン・ザビはデギン公王の補佐官として長年政治に携わってきたのです
であればこそ、批判はあれどその地位に文句をつける事は難しかったと言えるでしょう
しかし、突撃機動軍司令キシリア・ザビと地球方面軍司令ガルマ・ザビについての扱いには不満が大きかったのも事実
前者二人は下積みがあった。しかしこの二人にあったとしても、正式な役職などはなかったのですから
統制出来るか分からない人物に組織を預けるか?それとも信用出来る身内に組織を任せるか?
難しいものでしょう
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オードリーことミネバはラウムの元に時間の許す限り通う事になりました。何せミネバにとって、父と母を良く知る人物です
無論、軍人としての父やその妻としての母を知る者はジンネマン達もいるでしょう
しかし、私人としての
母はどんな幼少期を過ごし、何を趣味にしていたのか?
どんな光景を見て育ったのか?
何一つ分からないのです
一部の者はゼナもまたジオンの上流階級の者であったと言いましたが、幼くしてハマーンなどから薫陶を受けていたミネバはそれを信じませんでした
だってそうでしょう?
そうであるならば、もっと実家が声を上げる筈なのだから
「おじ様はお父様の事をどう思っておられたのですか?」
私はまるで童女の様に訊ねます
何もかも知らなかった想像上の両親。それは『他人から聞いた、しかも殆ど話す本人の主観のみで語られた人物像』でした
私にとってそれは『色のついていない絵』としか映らなかったのです。勿論父は軍人としてザビ家の人間として立派だったのかも知れません。でもそこに『ドズル・ザビ』という一人の人間の素顔はなかったのですから
その点で言えば、おじ様は父にとって『義理の兄』
真っ直ぐな伝え聞く父の性格から考えて素顔を見せたと思うのですから
「最初に思ったのは、そうだな『随分と見た目で損している男だな』
そう思ったよ」
「確か父は巨漢だったと聞きましたが」
私の問いにおじ様は懐かしむ様な顔で
「確か2メートルを超える巨漢だったな。とはいえ、体格としては彼の兄である人物もかなりのものだったからそこまで圧倒される事はなかったが」
?ギレンおじ様がそこまで体格の良いという話は聞いた事がない
そう私が困惑していると
「そう言うことかな?ミネバ
君は自分の伯父や伯母を
おじ様は苦笑いしながら私に問うてきました
「私が知っているのはギレン伯父様にキシリア伯母様、それにガルマ叔父様ですが」
「やっぱりか。サスロ氏を忘れているね」
?サスロ・ザビと言う人について私は今まで聞いた事が無いのですが
「まぁ、一年戦争からザビ家一族を知っている者なら知らないのも無理はないだろう。確かミネバを保護していたのは元ジオン兵のジンネマンとやらだったね?国防軍時代の人間なら知らない者もいるかも知れないな
サスロ・ザビはデギン・ゾド・ザビ氏の第二子で次男になる
性格は決して好ましいものではなかったが、それでも彼なりの信念はあった生きづらい生き方を貫いた人物だよ」
「何故私が知らされなかったのでしょうか?」
「ミネバを養育したのはアクシズのハマーン・カーン女史やキャスバルなのだろう?
不要な情報と判断したのか、或いは知らなかったのか。今となっては分からんね」
…おじ様はシャアの事をキャスバルと呼びます
そしてその名を出す時には複雑な表情をされるのです
「私は子供の頃ダイクン氏に会ったことやまだ幼かったキャスバルやアルテイシア様にお会いした事がある
ダイクン氏の息子である以上、敬う気持ちも確かにあるのだが
それでも私はあの頃の幼子がああなってしまった事を今でも受け止められないのさ」
以前おじ様はそう言っておられました
ジオン・ダイクンに従って独立運動をしていたクラヴァス夫妻の息子であるからこそ複雑なのでしょう
「しかし、ギレン氏やガルマ氏はともかくとして、キシリア女史が伯母様と呼ばれている事を知ったら激怒するかも知れんなぁ
…いや、意外とギレン氏達と一緒にミネバを甘やかすかも知れない。何だかんだでキシリア女史も身内には甘い方だったからな」
「そうなのですか?アクシズにいたトワニング提督達から聞いたイメージは『冷徹な人物』という印象を受けましたが?」
「曲者揃いだったらしいからな、キシリア女史の突撃機動軍とやらは。油断も隙もないと嘆いていたよ」
本当におじ様と話をすると私の知らない話が次々と出てきます
「おじ様から見てザビ家の人間はどう見えましたか?」
「損な役割を引き受けた一族、だろうな
ダイクン氏の暗殺によって1番利益を受け取ったのはザビ家だろう。が、その一方で1番苦労したのもまたザビ家だと私は思う
何せギレン氏は長年連れ合っていたはずのセシリア女史と結ばれる事はなかったと聞くし、キシリア女史も密かに想っていた人物に思いを伝える事はなかった。ガルマ氏も地球に降りてからも不便だったと聞いてもいる。であるからこそ、ドズルくんを一族総出で応援したのだろう
信じられないかもしれないが、あれでギレン氏やキシリア女史は家族思いな部分があったのだよ」
その言葉は意外でした
「『父殺し』や『兄殺し』をしたのに、ですか?」
「そうだろうと私は思っているよ
ギレン氏とは戦時中もときおり話す機会があったのだが、日に日に憔悴していく父親であるデギン公を見るのは忍びないと疲れていたよ
何せジオンと連邦の戦争が継続した理由の大きな一因がデギン公が主導した『レビル逃亡劇』だったのだからね
アレをしなければ、もっと別の形の未来があったのではないか?
そうデギン公は嘆かれていたよ
それでも一縷の望みをかけて公はそんな人物と
キシリア女史もまた、苦しむ父デギン公を殺す決断をしなければならなくなった兄ギレン氏を思ったのだろう。ジオン公国とその前身である共和国成立に奔走したのは他ならぬギレン氏だったのだから
だからこそ、敗軍の将としての責任を全て自分が背負おうとしたのだろう。優しく不器用な兄を生贄にしたくなかったと」
そうだとすれば、なんと残酷な事だろう
「戦争を始めるなど容易いものだと私は思うよ
一発の銃弾でも戦争の引き金になるのだから
だが、ひとたび始めた戦争や戦闘を止める決断をすると言うのは余りにも難しい問題となる」
「…そうですね」
それは先のラプラス事変において私自身が何度も思った事である
「戦争に勝っているうちに和平を切り出す事は出来るだろう
しかし、和平とは受け取る側がそれを受け取らねば意味はない。もう少し言えば、自国民にも和平を
が、交渉の席につく者の殆どは前線を知らないし理解しようともしないもの
『勝っている側から和平を言い出したと言う事は相手にも余裕はないはず。もう少し時間を稼げばもっと良い条件で和平を結べるのではないか?』そんな救いようのない考えに至るのが政治家というものらしい。
当たり前だが、下手に相手に譲歩した条件提示をすれば自国民からの批判や誹りは免れまい
勿論、負けている場合講和論は台頭するだろうが、それはほぼ無条件降伏と同義になる
そう南極条約が結ばれた後ギレン氏やデギン公は嘆いておられたよ」
ジオンの名で
ザビ家の名の下で
どれだけの悲劇が生まれたのか
それはミネバ・ラオ・ザビという少女が背負うにしては重すぎる十字架だった。しかしそれを背負って生きていくと私は決めたのだから、逃げるつもりはない
「開戦前、一度だけザビ家の方々と会う機会を設けてもらってな
その時彼等から託されたものがある。既にゼナの妊娠が発覚していた時のものでな
あの時だけはドズルくんもグワリブを使ってサイド3に戻ってきていたのさ。ソロモンにも医療施設はあったし、ゼナの出産の為にかなり無理をしたらしい。だが、やはりサイド3いやズムシティの病院に比べるとドズルくんとしては不安だった様でゼナも密かに連れてきていたのだ」
おじ様はそう言いながら、金庫に入れて厳重に保管していた記録ディスクと再生プレイヤーを取り出した
「ところで、ミネバ。私の気のせいでなければ想い
あの時初めて会ったミネバに感じたのはかつてドズルくんと付き合いだした頃のゼナと同じ感じだったからな」
おじ様のその言葉は嬉しい様な恥ずかしい様な複雑なものを私に与えました
確かに両親の様などれだけ困難な道であってもバナージと支え合いたいとは思っていますし、否定しません
でも、私も年頃の娘なのですからその辺は少し慮っても良いと思うのも間違いありません
「ははは
そんなジト目で見ないで欲しいな
…本当にゼナに良く似ている。あの子もそうやって私をジト目で見つめたものさ。どうやらデリカシーが私には足りないと言われていたのだが、あれから20年以上経っても変わらぬみたいだな」
…そういう言い方をされると私だって怒ろうに怒れない
ズルイ人だと思います
「た、確かにバナージとはその様な関係になりたいとは思います。ですが」
私はバナージの気持ちを知っていてもやはり自信を持てません。余りにも私が背負うべき十字架は重いのです
バナージも両親を失う事になり、祖父であるサイアム氏は事変の最中に亡くなりました。バナージの肉親と言えるのは逮捕された
決してバナージも私と然程に変わらないのです
「今度、そのバナージくんも連れて来てもらえないかな?
そこでこれをミネバとバナージくんにも見せるべきだと私は思うのでな」
おじ様はいつになく真剣な表情で私にそう言いました
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「オードリーのおじさんか。何があるのかオードリーは知っている?」
「いえ、私も知らされていないわ
ごめんなさい、バナージ」
俺の質問にオードリーは申し訳なさそうに謝ってくる
「いや、寧ろ俺もオードリーのおじさんと会ってみたかったんだ
本当ならもっと早くにオードリーのおじさんに会わなきゃならなかったんだけど」
オードリーが謝る必要はない。オードリーは天涯孤独だと思っていたから。どちらかと言えば、伯父でも生きていたのならそれは彼女にとって救いとなるだろうと思っている
最近オードリーと話をする時にはオードリーの両親の話をする事が多い。はっきり言って俺も嬉しい
何せオードリーの両親については公人としての話以外知りようがなかったのだから
俺も力になりたかったけど、難しいのが実情だった。リディ少尉(今でも俺とオードリーは彼を少尉と呼び、少尉は苦笑しながらそれを受け入れている)が手を尽くしてオードリーの肉親を探してくれたのは本当に有り難かった
奇しくもジオン共和国が自治権放棄をする為に連邦政府と戸籍などのやりとりをしていたから判明したそうだ
オードリーには黙ってもらっているが、地球の有力者の中にはオードリーを
…言うまでもない
あの地球圏に発したオードリーの祈りを自分の為に利用しようとする者達だそうだ
少尉の父であるローナン・マーセナス議長も
「この様な話に彼女を巻き込むつもりはない
こちらで全て対応する。それが彼女や君達を巻き込んだ大人としてのせめてものケジメだ」
との伝言を受け取っている
オードリーにとって頼りになり、親しい大人と言えばキャプテンが思い浮かぶがそれは難しいだろうとも思っている
どうしてもキャプテンはオードリーを『
それは理解できる
でも、どうしても納得が出来ない
リカルド・マーセナス初代地球連邦首相は未来に祈りを残した
なのに、何故あんなに気高く優しいオードリーには何一つ残されていないのか?と
ジオンの名将、勇将である事よりもオードリーの父親として何かを残してやれなかったのか!と分かっていても思ってしまう
此処しばらくの間、俺はオードリーに何かを残していないか探し続けた。キャプテンやガランシェールのみんなにも協力してもらい、少尉にも協力してもらった
俺は母さんや父さんと死に別れたけど、それでも思い出は残っている
でも、オードリーにはそれすら残っていない
だからこそ、俺はオードリーの伯父さんが見つかった事に喜んだ
それは
「あなたの方が私よりも嬉しそうなんて、おかしなものねバナージ」
とオードリーに言われるくらいだった
そんな俺がオードリーの伯父さんから呼び出されたのだから色々思う事はあった
何故もっと早くにオードリーの前に現れなかったのか?
オードリーの
いろんな事が聞きたいと思う
そして俺は知った
心を殺してまで、理想の為に最後まで抗った不器用な人達の事を
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おじ様を訪ねると奥の部屋に案内された後
「初めましてだね。ミネバから話を聞いているよ
バナージ・リンクス君、だったかな?
私はラウム・クラヴァス。ミネバの母親であるゼナ・クラヴァス・ザビの兄だ」
とバナージに挨拶をします
私にとって母親のその名前は初めて聞くものでした
「この名前は、デギン公王やギレン氏など
故公王が『たとえドズルの嫁になろうとも、ゼナがクラヴァスの娘である事に恥いる事など何一つない』と言われて頂戴した名前さ
もっとも公式の場で使う事は決して許されなかった名前だが」
おじ様はそう言って、父や母と共にザビ家一家が写っている写真の下の部分をナイフで削りました
そこには
ゼナ・K・ザビと家族の肖像と確かに書かれていました
「公的にはゼナ・ラオ・ザビになるのだが、基本あの子はその名を使う事は殆どなかったと義兄殿からは聞いている」
おじ様は苦笑いしながら話をしてくれましたが、それだけおじ様はギレン伯父様と懇意にしていたのでしょうか?
「お、いや。私はバナージ・リンクスです
ア、いやあなたの事はオードリーから良く聞いていました」
明らかにバナージは緊張しています
おじ様はそんなバナージを見て
「ふふ
懐かしいものだ。今のバナージ君の様にあの時のドズルくんも緊張していたのをつい少し前の事の様に思い出せるよ」
「え、
流石に私もバナージと同意見だ
「父にその様なイメージが全くないのですが」
バナージと私の困惑に笑って
「まぁ無理もない。が、人は様々な顔を持つものだ
私の知るドズルくんは
義兄殿もそんな弟を楽しそうに見守っていたし、キシリア女史も少し
そんな子供達を見守っていたのがデギン公だ
彼等とて血の通った情もある人間だったよ、私から見ると」
…全く想像がつかない話です
冷徹な独裁者としての顔しか知らないギレン伯父様
謀略やニュータイプ研究などに意欲的だったキシリア伯母様
国民から人気のあったプリンスのガルマ叔父様
そして、父を始めとした個性的な兄妹をまとめ上げたデギンお爺様
私の知るハマーンやシャア、ジンネマン達誰から聞いても同じ様な答えしか返ってこないというのに
「ミネバをゼナが産む事になった時には義兄殿をして『ラウム、貴様からも父上に話をしてくれないか?どうにも父上は大々的に祝いたいと言って聞かんのだ』と言われた程だったぞ?
キシリア女史も『初孫にして、恐らく暫く孫が見られる事はないと思っているのでしょう、父上は。全く困ったものです』と言っていたがその表情が明るかったのもよく覚えている
ミネバ。お前は間違いなく愛されて生まれてきたのだよ」
「でも、なら何故オードリーには何も残されていないんですか?」
バナージはおじ様に聞きます
「愛してた。なんて言われてもオードリーは信じたくても信じられないと思う。あなたがオードリーを姪として愛しているのは何となく分かりました。でも」
「そうだろうな
おじ様は薄く笑いました
どこか寒気のする様な
「私はネオ・ジオン紛争の時にミネバが死んだ
そう聞いたからこそ、それを疑う事なく信じてしまった。だが、ある少年から死んだミネバは影武者だったと聞かされて、ね
ならば私はせめてゼナやドズルくん。それに義兄殿達の冥福を祈りながらミネバの無事も祈っていた。託されたものを渡す為にも
何とも情けない話だろうがね」
「託されたものとは?」
思わず疑問が口から出てしまいました
「内容までは私も知らない
が、『成長したミネバに無事会えたならば見せて欲しい』
そう言って託されたのだよ」
おじ様はそう言ってあの時私に見せた記録ディスクと再生プレイヤーをテレビに繋げます
「年代ものの私と同じくポンコツだが、整備は欠かしていない
動くはずだ」
おじ様はそう言いながら、セットする作業に取り掛かります
「お、俺も手伝います。一応工業学生だったんで」
バナージもおじ様を手伝おうと声をあげました
「そうかね?助かるよ
なにぶんそろそろお迎えが近いらしく、昔ほど器用に動けないものでね」
そしてセットが完了すると、おじ様の勧めで私とバナージはモニターの良く見える所に座る様に言われました
映像が始まります
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「おい、親父!いつまで考えるつもりだよ!?」
「そうは言うが、ドズルよ」
「やれやれ。公王として君臨する父上も初孫とあってはただの祖父となるか」
「仕方ない事でしょう。兄上
何せドズルとゼナ以外で子供をつくる予定などないのですから」
「本当にドズル兄さんとゼナ
画面の向こうでは大柄の人物が父と思しき人物に声をかけ、父と思われる人物は落ち着かない態度だった
それを長身の男性と赤髪の女性が苦笑しながら見守り、紫色の1番若いと思われる男性は興奮を隠しきれない様子で会話に加わっている
「これは」
私は声が続きませんでした
間違いありません
父ドズルや祖父デギンお爺様にギレン伯父様、キシリア伯母様にガルマ叔父様が映っているのです
「せっかくゼナが娘を産んでくれると言うからミネバにメッセージを残そうと言ったのは親父だろう!?」
「いや、しかしだな」
「仕方あるまい
なら私からまだ見ぬ姪に言葉を贈るとしよう。構いませんな、父上?キシリア、ガルマよ」
「う、うむ。任せる」
「仕方ありませんね。一番手は兄上に譲りましょう」
「私は最後でも構いませんので兄上、どうぞ」
「さて、恐らくこれを見ていると言う事は義弟殿は無事ミネバに会えたという事なのだろう
私から言える事はそこまで多くない
これより我等は人類史上最悪の行為に手を染める事になるだろう。連邦とはそれだけ強大なものだからな
だが、ミネバ。お前まで我等の行為に対して責任を感じる必要はない
伯父としてお前に望むのは一つだけだ
幸せになれ。ザビ家に縛られる必要などない。ジオンに対してもお前が責任を感じる事は一切無いのだ。ザビの姓などお前の幸せの邪魔になるのならば捨てても構わん
そして、最後にお前の伯父として一言言わせてもらいたい
すまない。生まれる前のお前にすら重荷を背負わせる様な大人で」
そう言ってギレン伯父様は深々と頭を下げました
「…」
バナージも私も声が出ません
「兄上。言いたい事を先に言わないでいただきたい
これでは私やガルマが大変でしょうに」
「ふっ、知らんな」
「ふぅ。仕方ありませんね。ガルマ、私が先に言いますが構いませんか?」
「ええ。大丈夫です、姉上」
「ミネバ。私達のまだ見ぬ姪
兄上の言った通り、私たちは勝つためとは言え恐らく人類史に決して拭えない程の汚点を残す事になるでしょう
ですが、其の罪科は私達にあるのです。たとえ他人が何を言ったとしても貴女は悪くありません。悪いのは私達力の無い大人なのです
だから、貴女は貴女の母ゼナの様に優しく、そして父ドズルの様に強く在りなさい。そうすれば必ず貴女を見てくれる素敵な
私達と貴女は違うのです。同一視する宇宙市民や地球市民もいる事でしょう。ですが、貴女の人生を贖罪に費やす必要などどこにも無い
それだけは確かなのです
兄上と同じ事を言うのは気が引けますが、それでも言わせてもらいます。
幸せにおなりなさい
それが貴女より先に生まれ、先に死ぬ私達の願いなのですから」
「やぁ、ミネバ
私達の可愛い姪。恐らく君がこれを見る時私達は誰一人として生きていないだろうとは思う
でもそれを悲しまないで欲しい。私達は死を覚悟してこの道を選んだのだから
兄上や姉上が大体言いたい事を言ったから、あまり私の言葉は無いのだが、もしもラウム
恐らく君にとっての最後の縁者だと思うからね
間違っても政治家や軍人なんてするべきではないよ。平穏に変わらない毎日を過ごして欲しいと私は勝手だけど願ってる
そして、ありがとうミネバ
生まれてきてくれて」
「儂がミネバお主に言える事など殆どないと思う
ザビ家の呪いとも言えるものやジオンの呪いは私が生み出したと言っても過言ではないのだから
だが、そんな儂であってもお主が産まれてくれた事に感謝したい
お主の母ゼナが両親を喪ったのも元を正せば儂やダイクンのせいと言えるのだ。儂の両手は血に
今は亡きサスロも間違いなくお主の誕生をあちらで喜んでいる事だろう。ザビやジオンに囚われる事なく、お主自身の幸せだけを追い求めて欲しい
宇宙市民の権利よりも、ミネバ。儂達はお主の幸せを何よりも願っておるよ」
私は画面向こうにいる人達の姿が涙で霞んでよく見えませんでした
私はおじ様の言う通り、確かに愛されていたのです
「ミネバ。俺の、いや俺とゼナの可愛い娘よ
俺は軍人として敵を殺さねばならん。恐らく碌な死に方はしないだろう。間違いなく父親としては失格だと思う
俺達兄妹は母親を早くに亡くし、ゼナは両親を亡くした
そんな俺達夫婦がその苦しみを娘であるお前にも体験させてしまう事は何よりも辛い
だが、それでも俺は曲げられぬものがあるのだ、許して欲しいと言うのすら
だが、一つだけは約束しよう
お前の事を俺達夫婦や兄貴達や親父は愛している事を
もしも、お前が愛する者を見つけることができたのであれば、俺達の名前が邪魔となる場合は捨てても構わん
ザビの名前よりもお前の幸せだけを考えてくれ
それで良い。ゼナもラウムの
ラウム・クラヴァスの兄上
恐らく辛い中でミネバと会うまで耐えてくれたと思う
勝手なことばかり言ってきたと思うが、それでも頼みたい
俺たちの大切な
幾ら独裁者であろうが、極悪非道の悪人と呼ばれようが彼等もまた人であった
そんな話
次回以降は回想編となる予定です
私なりに一部のセリフの意味を考えた結果なのでツッコミどころ満載となるでしょうが、それでもよろしければお付き合いくださるとありがたいです
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