義理の兄、なんだそれは!?   作:鞍馬エル

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少しだけ違った話


 異伝 悪意の先に

 ラウム・クラヴァスはアクシズにいた

 

どうにも『ギレン(亡き義兄)の息子を()る人物がいるとの話を聞いて、である

 

何やら周囲は

「これで正当なるジオンを再興できる」

だの

「あんな小娘に従わずにすむ」

などと言っているが、所詮雑音以下の価値しか持たない

 

 

ラウムの胸中には

 

(あれだけ親しかったセシリア女史の思いを無視してまで、あの道を進んだ義兄の誇りを汚した阿呆はどこのどいつだ!)

という怒りの感情しかなかったのである

 

 

権力の持つ恐ろしさも

自分が自分でなくなるという恐怖も

自分の意思に反した事すら自分の意思となる理不尽さも

 

何一つ理解していない連中などに興味を持つ訳はない

ラウムがアクシズに出向する事を聞きつけた一部の者達はラウムが声をかけるまでもなく集まっていた

 

 

懐かしい顔が多くいた

所謂『独立運動に参加した闘士達』である

 

更にそれより数は少ないものの、明らかに覚悟の違う眼をした若者もそれなりの数がいた

 

 

(どいつもこいつもあの時代に取り残された亡霊たちばかりか)

ラウムは自分も含めてそれなりの数の者達が今なおその牙を磨き続けていた事に呆れと少しばかりの憧憬を抱く

 

ラウムを招き入れた者は阿呆にも

 

「これだけの同志がまだいたとは!」

と喜んでいたが、そんな馬鹿な話はない

 

 

彼等は当時言われていた『離脱組』と呼ばれていた者達だ

ラウムが危険に晒され、ケイムとセリアが運動から去った時。或いはダイクンがサイド3の首相になった時。またはダイクンとザビによる権力闘争が始まった時

 

彼等は『運動当時の理念が失われたと失望して去った』者達なのだ

 

 

彼等が求めるのは最早そこまで多くはない

権力でも財力でもない

 

名誉なのだ

 

 

自分達があの運動をした事により、何か確かに変わった

自分達の名誉など犬にでも食わせてやれば良い

 

そんなもの(・・・・・)に価値はない

 

だが、『死者の名誉』は生者によって容易く貶められる

事情を知らなくとも、知ろうとするならまだ良い

 

が、今回の様に『ギレン・ザビ(ジオン公国総帥)』の何も知らない連中が名前だけを借りるかの様な所業は決して許してはならない

ギレンは家族を失い、命を失い。そしてジオン公国の為に戦ったという形すら失った

 

その上、『味方を後ろから撃った男の父親』という全く的外れな汚名まで着せようというのか?

確かにダイクンに従っていたこの中の人間にもザビを毛嫌いする者もいる

だが、それでも彼等もまた仲間だったのだ

 

その誇りを守れるのはあの世に旅立った者達ではない

今なお生き続ける自分達の役目なのだ

 

 

それがラウムと彼等が共有する唯一にして絶対の決まりだった

 

 

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「お前がラウム・クラヴァスか

よく来てくれた。私がグレミー・トトだ」

 

ラウムに上位者として振る舞おうとしているのか尊大な態度で接するグレミー

 

「お招きいただき光栄です

聞けば亡き総帥の縁者(・・)と聞きましたが?」

 

「縁者ではない。私はギレン・ザビの息子だ」

 

ラウムの言葉を否定するグレミー

 

「…それはそれは

驚いたものです」

 

ラウムは驚いた様なそぶりを見せる

 

「私も聞かされた時には驚いたものだ

だが、そうであるならば私は父の遺志を継がねばならない」

 

「…ほう?

其の遺志とは?」

 

ラウムの言葉に不穏なものが混じり始める

だが、グレミーは気付くこともない

 

「ザビ家による地球圏の統一だ。腐敗した連邦を、そして幼いミネバを排し傀儡とするハマーンを排除しなければならない」

 

 

今、確かにグレミーはラウムにとって許せぬ事を口にした

仮にこの場にラカンがいたなら、即座にラウムを取り押さえただろう

 

だが

 

「私に従おうとする者と会うのに護衛など必要ない」

とグレミーはそれを一蹴した

 

この時点でラカンは

 

(どうやらつく側を間違えたか?)と後悔するが時既に遅しだった

 

 

 

そして

 

偉そうに語るな、小僧風情が

凶刃は振り下ろされる

 

「がっ、何故?」

 

致命傷を避けたグレミーだったが、大量の出血により意識が朦朧とする中で問う

 

「所詮人形風情が人の真似をするなよ

トト。随分懐かしい名前だ。貴様の父親の名前はギレン・ザビなどではない。〇〇だ

そして、この俺達から全てを奪ってくれた弁護士だよ」

 

「べん、ごし、だと?」

 

「俺はギレン氏の義理の弟なのさ。ミネバ・ザビの実母ゼナ・ザビ。旧姓ゼナ・クラヴァスのな」

 

「ば、かな」

 

「俺の前で義兄の名を騙り、挙句その理想すら歪める。その時点で貴様を生かすつもりなどない

しまいには妹や彼等の希望であるミネバの命を奪うだと!?

よくぞ吠えた。その無謀さに免じて今は(・・)生かしておいてやろう。俺は元独立運動に参加した闘士の1人だ。死なない程度に重傷を負わせる術くらい知っているからな」

 

動揺するグレミーに言葉の刃を投げつけると

 

通信を繋ぎ

 

「此方ラウム・クラヴァスだ。緊急事態につきハマーン・カーン様にお繋ぎ願いたい

『ミネバの叔父』とこの名前を添えてくれればおそらく話くらいはさせてもらえるはずだ」

 

 

----

 

「どういう事だ!?

ラウム・クラヴァスだと」

 

「確かゼナ様の旧姓がクラヴァスだったし、それを知っている者は限られていると仰っていたけどねぇ」

 

連絡を受けたハマーンはすぐにシーマを呼び、対応を話し合う事とした。勿論時間などほとんどないのだが

 

「とにかく話をしなければどうにもならん、か」

 

「いざって時はアタシたちが動く」

 

「頼む」

 

言葉少なく打ち合わせるとハマーンはモニターに向き合った

 

 

----

 

『お噂はかねがね。ハマーン・カーン様

ラウム・クラヴァスと申します。一応ゼナ・K・ザビの兄に相当する者でございます。お見知りおきを』

 

「その名を知っているという事は本人か。或いは余程親しかったかのどちらかだろうな」

ハマーンは内心の動揺を必死で押し隠していた

 

ゼナ・K・ザビ

それは亡きゼナが語った『家族の中』でしか使われる事の無かった名前。そうシーマから聞いていたからだ

 

「似てるね、確かにゼナ様と」

シーマはそう口にした

 

----

 

どうやらあちら側としては混乱の極みにある様だ

当然だろう。いきなり『ミネバの叔父(ゼナの兄)』を名乗る人物がアクシズ内から連絡してきたのだから

 

ピピピピ

懐にある端末が音を出した

 

「音が4回、安全確保完了か

相変わらず手際の良いことで」

 

俺は未だにかつてを思い出させる様な連中に呆れてしまった

 

 

----

 

「な、なんだ貴様らは!」

 

「こんな事をしてタダで済むと」

 

全く状況が飲み込めなかった。何故俺たちは拘束されている?

何故グレミーが招いた男と共に来た者達が武装している?

何もかもが理解できない

 

そして何より

 

「お、お前ら!?

た、助けてくれ。仲間だろう?俺達は」

 

グレミーの相談役だった連中が何故あそこまで動揺しているのか

 

「仲間?笑わせるな

お前らを俺達は仲間と思った事などアレ以来一度もない

ジオンやデギン達に先に行って詫びるんだな」

 

「ま、待っ」

 

 

パシュン

 

 

言葉を失った

俺だけではない。今まで抵抗の声を出していた連中全員だ

 

コイツらは俺達を制圧する時殺さない様にしていた筈

それなのに、アイツらだけは命乞いしようともあっさり殺したのだ

 

しかも、妙な事を言っていたのが気にかかる

デギンは恐らくデギン公王の事だろう

が、何故国に詫びる必要があるというのだ?

 

この後、グレミーを扇動していた元過激派連中の粛清(・・)を彼等は淡々と行なっていった

その余りにも非情ともいえる行動を見たグレミー軍の兵士達は漸く自分達が危険な状況にあると理解したのである

 

 

なお、独立運動に参加していた者達の中で『武器を隠し持つ』というのは『最低限』の事であり、それすら出来ない連中に居場所などなかったりする

 

いや、一つだけある

あの世という場所が

 

 

----

 

「…つまり何か?貴殿はグレミーの『ギレンの息子』という明らかな嘘に腹を立てて此処アクシズに来た

そしてその信念ひとつ理解していない上にミネバ様を害すると口にしたから殺した、と」

 

『一つ誤りがありますな

殺してはおりません。このまま放置すれば失血死するでしょうが、まだ(・・)生きておりますので』

 

「ああ、こりゃ本人さね

ゼナ様の言われた通り身内に対する悪意には過剰なまでの反応(報復)をしかねないと言っていたからねぇ」

 

シーマの言葉に不承不承ながら同意した

 

「すぐに部隊を送る。そこで待機しておいてもらいたい」

 

『分かりました

あと一つ。どうやら連中強化人間?とやらを造っていたそうです』

 

「…後で詳しく聞かせてもらう」

 

私はモニターを切ると

 

「頼めるか?最悪武力制圧も視野に入れねばならんが」

 

「はっ、アタシらが元々何をやっていたかお忘れかい?

自慢にもなりゃしないが、この手の作戦でアタシらより上なのはラルの親父のところくらいさ」

 

シーマに頼んだ

流石と言うべきかあっさりそれを受け入れると

 

「クルト!すぐ動く準備しなっ!」

 

「2分下さい!」

 

「急ぎな!」

 

そう言ってこの場を後にした

 

 

 

----

 

「しかし、まさかミネバ様の叔父と会えるとは思わなかった」

 

「元々こんな事をするつもりはなかったんだがなぁ。義兄達の全てを汚された気がして年甲斐もなく頭に血が上った様だ

申し訳ない」

 

「…いや、元は私が不穏分子を把握できていなかった事が原因

貴殿に謝られるのはおかしな話だろう。此方こそ申し訳なかった」

私は騒動の後自室にラウム氏を招いて話をする事にした

 

「しかし、まさかマハラジャさんの娘さんに会えるとは思わなんだわ。亡くなったと聞いた時は寂しく思ったもんだが」

 

「…父を知っておられるのか?」

意外な事だと思う

 

「…まぁ、色々あってな」

 

「その色々を聞きたいのですが」

 

私の言葉に苦笑すると

 

「マハラジャさんが話をしなかったという事は聞かせたく無かったのだろうと私は思う

流石にその意思を無碍にしたくはないなぁ」

 

「…困ったものだ。そう言われてしまうと流石に私も何も言えなくなってしまうのだが」

 

私は困った様に笑うしか無かった

うまい御仁だ

とにかく私に誠実であろうとしながらも、譲れない一線がある事な譲らない

 

思わず話が弾んでしまうのをどうやら止められそうもない

 

----

 

「では、シャアの知り合いでもあると?」

 

「そうなるな。本当に困った子に育ったものだよ

ま、それはそうとしてあったら少しばかりお説教しないといけない様だがな?」

 

「…程々にしてやってはどうかと思いますが」

 

本当に知らない話が次から次へと出てくる

…話をしなければならないだろうな

 

「実は一つ謝らねばならない事があるのです」

 

ミネバ様の事を

 

 

 

「そうか。いや、その好意だけで私としては何もいう事は出来んさ

寧ろ年若い君やシーマくんには苦労をさせてしまったな」

 

「いえ。状況が落ち着き次第戻っていただこうと思うのですが」

 

「そうか。その時はよろしくと伝えてくれるとありがたい」

…待て、何を言っている?

 

「話が見えません。アクシズにこのまま留まっていただけないのでしょうか?」

 

「いや、サイド3に戻るが?」

 

「何故?」

 

「今更叔父がでしゃばる必要はないだろう?」

 

「失礼を承知で言わせてもらいたい

ミネバ様の家族と呼べる存在はもう貴方のみなのですよ!?今まで独りにさせていたのですから、これからは共にあってあげても良いではありませんか!」

 

落ち着けともう1人の冷静な自分は言うが構うものか

 

「貴方はゼナ様がソロモンに行ってからずっと独りだった

しかし!ミネバ様は物心ついた頃からいつも孤独の中にいたのです!

孤独の辛さを誰より理解している貴方がその孤独をミネバ様に味合わせるおつもりか!!」

 

「む」

 

「それが貴方の!大人の責任の取り方と言うならば!!大人に何の価値がある!!!」

 

私は本当に久し振りに誰かに自分の感情をぶつけたのだ

 

 

----

 

「まいったなぁ。そこまで言わせてしまうとは、私も随分臆病になったものだ」

 

「失礼した」

私は流石に顔を赤くして詫びる

小娘でもあるまいに感情のまま動くなど

 

「いや、目が覚めたよ」

ラウム氏の言葉に私はハッと視線を向けると

 

「どうやら随分錆び付いていたらしい」

そこには先ほどまでの疲れ果てた男はいなかった

 

 

 

----

 

「という訳でその強化人間の娘達を育てようと思うのだが」

 

「待て、なにが『という訳』なのか?」

 

「ハマーン、アンタちょっとヤバいのを目覚めさせたんじゃないか?」

シーマの言葉に全く完全同意しなければならない

 

あれからすぐミネバ様の影武者をしていた少女と会ったラウム氏はとにかく褒めて、撫でて、抱きしめた

彼女の母と亡くなって久しい上に立場が立場であった為に最早甘える事すら許されなくなっていた彼女

最初こそ戸惑っていたが、その内涙を溢れさせながらそれでも楽しそうにラウム氏に甘えたのだ

 

それ以降、彼女は出来る限りラウム氏をそばに置きたいと言ってきた

勿論断る理由はない

母性に溺れる男性は多いと聞くが、逆に父性に溺れさせかねない人物だったのだラウム氏は

 

叱る時はきちんと叱る

褒める時は徹底的に褒める

話をする時には目線を合わせる

 

氏が言うにはそれだけらしいがそんな訳はないだろう

彼女の名前について現在思案中だ

既に本物のミネバ様のアクシズヘの帰還も決まっている

 

そして

 

「…また増えるのか、親父」

 

「そうは言うがな?放ってはおけんだろう?」

 

「否定は、しないけど」

 

ラウム氏の膝の上で拗ねる少女プルツー

どうにもグレミーの所にいたエルピー・プルのクローンらしい

 

最初は辛辣に当たっていたらしいが、そんな事は私達に信じられない

たった1週間もしない内に彼女はソフィと呼ばれる事になるだろうミネバ様の影武者の少女と大好きな父親を争っている

今日はどうやらプルツーが勝ったらしいが

 

----

 

なお、パイロットスーツ位しか用意されてない事にラウムは大激怒

その計画に携わっていた研究者一人一人に丁寧で的確なボディブローをもれなくプレゼントしていた

女性もいたが関係ない

 

「非道に正道が返ってくる訳ないだろうが」

とはラウムの談である

 

更に

「あのクソガキ殺しておくべきだったな」

とかなり物騒な雰囲気を撒き散らしていたが

 

 

「父さん。そんな怖い顔をなさらないでください

そんな父さんを見るのは、辛いです」

 

「親父が私達の事で怒ってくれるのは嬉しい。けどもう終わった事なんだ

それよりどんな服を作ってくれる?そっちの方が私からすれば大切な事なんだ」

 

とソフィとプルツーによる説得により服作りに取り掛かったらしい

プルツーはその結果完成した服が少し子供っぽいと文句を言っていたが、それでも2日にいっぺんは必ずそれを着てラウムに甘える

 

そして判明したのがあと2人プルツーの様な娘がいるという事実

ソフィは

 

「まぁ、妹が増えるの?」

と喜び

 

「なんだかなぁ」

と微妙な顔をしたと言う

 

なお強化人間というのはプルツーが言うにはとてもデリケートらしく、そういう意味でラウムが好ましいらしい

 

なお、その事を話しているプルツーは終始顰めっ面だったらしい

 

 

余談ではあるが既にソフィとプルツーの中で序列は決まっているとの事

 

 

ラウムの長女はミネバ

次女ソフィ。三女プルツー。その下に2人の妹が増えるらしい

 

 

なお、甘やかす手際があまりにも素晴らしいのでアクシズ内では

 

「ラウム氏を保育園や幼稚園の園長に」という意見もあるそうだ

なおそれについては

 

「アクシズの象徴として却下します」

 

「ダメに決まってる。もしそれを通すなら遠隔操作で私のキュベレイ暴れさせるのも辞さない」

との事

 

これにはあちらにいる某人物も

 

『うむ、権力の正しい行使の仕方だぞ』

と満足げであったらしい

 

 

最近ではラウムにあてがわれた部屋にプルツーは住むと言い出しており、ハマーンの頭を悩ませている

 

既に連邦政府との交渉はかなり進展している

密かにハマーンはラウムに相談しており、どうにもラウムの協力者は地球にも多少いるらしい

まだコロニーを落としていない為、連邦政府とそこまで過激に反応していなかったりする

寧ろ各地で頻発するエゥーゴ勢力やティターンズ残党討伐にアクシズの戦力を動かす事で秩序回復に路線変更していたくらいだ

 

結果『幸せなアクシズ』が爆誕している

 

 

----

 

「お父様。そろそろお話を聞かせてもらう時間です」

 

「もうそんな時間か。さて何を話したもんか」

 

「何でもいいと思いますよ?父さんの話なら」

 

「だな。親父あとで少し体を動かそう

長生きしてほしいから」

 

「父ちゃんの話、楽しみ!」

 

「パパのおなはし大好き」

 

 

アクシズの一室で父親を囲みながら笑う少女達

少し歪であったが、そこには確かに笑顔と幸せがあったのだろう




多分ギレンの息子なんてラウムが聞いたらぶち殺しに来るんじゃね?と思ったので書いてみた


もう少し闇成分が欲しかった気もするのだが

まぁ、ヨシッ!

 こういった短編、要ります?

  • いる
  • いらね
  • 書けるなら書いて、ほら役目でしょ?
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