力を求めた者と
力を求める事を諦めた者
世界を動かすことのできた者と
世界を見る事しか出来なかった者
一度だけ
2023/06/12訂正
『初めまして、かしらね?』
「随分と多くの人間の人生を狂わせてきた割にはマトモそうな顔をしているみたいだな
なぁ、マーサ・ビストさんよ?」
それは誰も知らない会合
バナージ・リンクスの叔母マーサ・ビスト
ミネバ・ザビの叔父ラウム・クラヴァス
決して相入れる事のない者達の話
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「随分と監獄暮らしだと言うのに贅沢な事で」
『生憎ね。立場がある者はそれ相応の扱いを受けるものなのよ?』
ラウムの皮肉を受け流すどころか、逆に皮肉を返してくるマーサ
そこには確かに長年ビストの闇を支配してきた女帝としての貫禄があった
「子供達の人生まで狂わせておいて、よく言う」
『子供の様に逃げ回った男の言うセリフかしらね?』
まさに対極。決して交わる事のない相手
だが
「が、その手段を問わない点は素直に凄いとは思うがな」
『権力という力がすぐそばにあったというのに、良く耐えられたもの』
それはそうとして互いの事を認める程度の度量はあった
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実は彼女の刑の執行が決まった事を受けて、リディがラウムに連絡を入れて最初にして、最後の話をする事になったのである
「アレでも確かにバナージの叔母なのです
…分かり合えなどと言うつもりも、理解してやって欲しいなどと願うつもりもありません
ですが、せめて彼女の息子として貴方との話をさせてやりたいのです」
ダイクンとザビの架け橋クラヴァス
それは大衆は知る事のなかった事だが、事情に詳しい者であれば知る事の出来た話でもあった
ジオン側、ザビ家がどれだけ情報を秘匿しようともそのザビ家に反発するダイクン派や反ザビ派などがそれぞれの思惑でその情報を売り渡す事も確かにあった
…まぁ、そう言う連中の大半が独立運動で命の危険を感じた事のない『当事者でありながら傍観者』だった者だったが
謂わばジオン・デギンの協力体制の最も外側にいる者達
事情を知っていると言っても、殆ど大衆の知っているそれと変わらない連中といえる
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ジオン公国敗戦により、『コロニー自治』の道が断たれたと勝手に絶望した者達の中には、連邦に恭順する事で自分の立場を得ようとする者達もいた
が、連邦からすれば既にそれは『終わった事』だ
彼等の齎した情報は確かに重要なものだろう
しかし、それを利用するにしても『ダイクン』は没落し『ザビ』は滅び、『クラヴァス』の影響力は既にない
強いて言えばオーストラリア選出議員共には多少効果がある
程度の情報なのだ
「何を今更」
連邦政府の者達からすれば『旬の過ぎた情報』などに何の意味も感じなかった訳だ
それよりも、ジオン残党などの情報の一つでも持ってくるならまだマシとすら考えた
当然、そんな
本当に小銭程度を渡して『ハイおしまい』だ
しかし、当時ジオニックを共和国から買収して、地球の一企業から大きく飛躍したアナハイムの関係者であったマーサはそう受け取らなかった
何せ彼女が欲してのは、自分の父を殺したサイアムに対する力だった
それは財力であり、影響力でもあり、人脈であって、軍事力でもある
ましてや、旧共和国独立の原動力となった人物ともなれば利用価値などいくらでもある
しかも、オセアニアにおいて大きな影響力を持つクラヴァスともなれば尚更
当然この様な情報が表沙汰になれば、まず間違いなくクラヴァスの求心力は低下するだろうし下手をすれば連邦議員すら輩出しているクラヴァスの政治的影響力を大幅に削ぐ事も出来るだろう
そこで、マーサはこの情報を使いクラヴァス本家に囁いたのだ
「この情報を発信されたくなければ、ジオン残党を匿いなさい」
と
幸いにもジオニックを買収した事により、ジオン公国のMSのパーツについてはアナハイムで用意できる体制が出来ていた
弾薬や部品はアナハイムが
残党を匿う場所はクラヴァスが
それぞれ担当する事により、オセアニアにいるジオン残党という不穏分子を残す事に成功する
しかも、アナハイムは北米閥でありクラヴァスはオセアニア閥に属している
旧世紀からの慣習とでも言うべきか、世界の中心的役割を果たしてきたと自負する北米閥は他の地区との関係は思わしくない。開戦初期にコロニーを落とされて甚大な被害を受けたオセアニアはその復興を戦時中声高に主張しており、その後行われた数度にわたるジオンの降下作戦において戦場となった地区との関係が悪化していた
政治的には対立していると言って良かったのである
故に両者が手を結ぶと言うのは政治や経済に明るい者程予想出来ないものであり、結果この関係が露見するのはラプラス事変後までかかってしまう
そもそも、ジオン軍はさておきアクシズ軍がオセアニア地区にまで大規模侵攻する必要などない
にも関わらず、ガルス系などの改修機がトリントン襲撃において参加した事や完全に新型と言っても間違いではないMAシャンブロがオーストラリアの残党組織にある事自体が不思議な事であろう
彼等をオーストラリア方面に逃したのが、アナハイムやビスト
そしてクラヴァスであった
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それらは0083における『デラーズ紛争』において新型ガンダム二号機『サイサリス』強奪にも充分機能しており、仮にマーサが逮捕されていなければアデレードにおける連邦高官襲撃にも役立つ筈であった
まぁ、結果としてマーサが自供した事によりオーストラリアのクラヴァスも族滅の様な事になった訳ではあるが
「はん。親父やお袋に刃を投げつけたアイツらなんぞ死のうがどうでも良い。が、仮にも連邦政府の一員でありながら馬鹿な事をしたもんだ」
『彼等からすれば、貴方達のせいと言いそうだけど?』
「知ったことかよ。元より「この屋敷から出た瞬間に我等はお前達を一族とは認めん」なんて言った連中だ
寧ろオードリーを利用しかねない連中だったから有難いとすら思うがな」
皮肉を込めたマーサの言葉に対してもいっそ冷酷とも言える言葉を吐くラウム
「もしも、何かが違ったならアンタとは良い関係が築けたかもしれんなぁ、マーサ・ビスト」
『…確かにそうかも知れないわね
本当に後悔してもしきれない。貴方は間違いなく『連邦を滅ぼす方法を考えていた』のでしょう?』
「考えない訳なかろうさ?何せ家族を奪ってくれた憎い仇だ
まぁ、やるんならやるでキャスバルみたいな
そこにあったのはオードリーの叔父やゼナの兄でなく、反政府運動に命を賭けた1人の男の姿であった
「そもそもアクシズだなんだと拘る必要はない
別にルナツーでも良いし、ソロモンでも良い。何だったら月を落としてやっても宇宙に住んでいるなら問題にならんさ
…尤もその後何も残ることはないだろうがな?」
『…恐ろしい事をさらっと言うのね?』
流石のマーサも顔色を真っ青にする
しかし、ラウムは顔色一つ変える事はない
「人を殺すのにMSも何だったら銃すら要らんよ
この身一つで、何だったら言葉一つで他者を破滅に追いやれるのが人間なんだからな
その点で言えば、シロッコもハマーンもキャスバルもマーサ。あんたもあまりにも甘いし、手ぬるい
一年戦争初期に各サイドを全滅させた理由、分かるか?」
『理由?』
「そう。何を恐れて連邦政府は南極で終戦条約を結ぼうとしていたのか?
俺なら、間違いなく交渉が不首尾に終わった時点でサイド2のコロニーを追加で落とす判断をしただろうよ」
ラウムは口元を邪悪に歪ませる
『とんでもない事を言うのね』
マーサは顔を引き攣らせる
「なに、交渉のテーブルに着いておきながらたかが1人の将軍の発言程度で方針を変えたんだ。まだ
態々着弾位置を指定する必要なんてない
次々にコロニーを阻止限界点までエスコートすればそれで足りる
悲劇が足りないなら、惨劇が足りないと言うならそれらで溺れ死ぬくらい増やしてやれば良い」
それはラウムが常々考えていた方法
ルウム戦役の敗戦により、連邦宇宙艦隊はその機能を一時的に喪失していた
となれば、あとは推進剤さえ手配していたなら壊滅したサイドからコロニーを調達して程々まで護衛すれば良い
外道も何も無い
戦争を終わらせる用意があると伸ばした手を払い除けたのは連邦なのだ。ならばそれ以降地球がどうなろうとも彼等の力が無かっただけの事だろう
地球市民という重石がなければ何だかんだ言っても自給自足出来る程度の環境は確かにあったのだから
「地球は確かに豊かな星だろう
が、それを食い潰したのは人間だ。逆を言えば
人間さえ居なくなれば地球環境は改善に向かうと思わないか?」
まるで明日の事を話す様な気楽さでラウムは話す
マーサはその非道さに声すら出せない
「復讐、だったか?アンタが色々した理由は
本気で復習を果たそうとするのに、どうして自分の手が綺麗であろうとするんだ?
幾らでも汚れるのを覚悟せずしてどうして復讐が出来ると思う?」
「俺の手は真っ黒だと思っている
本来なら、こんな手で子供達に触れる事すらするべきじゃ無い」
『黒?』
「知らんのか?血ってのは時間が経てば黒く変色するもんだ
俺はニュータイプじゃないからよく分からんが、彼等は宇宙が蒼く見えるらしいな?
俺は全くそうは思わんが
俺には宇宙はドス黒い赤に見えるがね」
通信越しの筈のマーサですら背筋に冷たいものを感じる程の狂気
「男性社会が憎い?大いに結構じゃないか
別に俺自身はその辺に興味はない。死に貴賤も何もない
死ぬ時は老いも若いも、男も女もない
死ぬときゃ死ぬんだ」
『…』
「面白いもんでな?
普段高圧的な人間に限って、死ぬ間際は無様なもんさ
みっともなく命乞いして「殺さないでくれ、死にたくない」なんて平気で口にする
でもな、戦争やテロ。俺達みたいに独立運動なんて反政府運動していた以上いつ死んでも、殺されても文句は言えない
あの時俺は何度となく人の死を見てきた」
自分達をいたぶってきた連中が市民達によって殺された事も
普段嫌な人と思っていたのに、自分を庇って死んだ人
いつも綺麗事ばかり言っていたのに土壇場で逃げ出した奴
「俺は思うのさ
復讐を旗印にする以上、誰かに復讐されるのも受け入れなきゃならんとな
さて、マーサ・ビスト
アンタにその覚悟はあったんかね?」
『…』
「そうだろうな。アンタは自身の手を汚さない様に立ち回ってきた
狡猾で実に自分本位
ある意味では俺とアンタは似てるんだろう
アンタは復讐したいのに、恨まれたくなかった。だからどうしても『他人の力をあてにしなきゃならなかった』
俺は復讐したかったけど、力がないと恨まれたくないと『逃げ続けた』。同じ穴の狢さ
だが、心配するな。俺やアンタが居なくともバナージやアルベルト君はキチンと前を向いて歩き続けられるだろう」
『…そう
あの子も強くなったのね』
ラウムの言葉にマーサの表情が少し穏やかなものに変わる
「『子は親の背中を見て育つ』と言う
ならアンタも立派に母親してたんじゃないのかね?
それが反面教師だとしても、な」
『子供がいない貴方に言われても、ね?』
マーサは苦笑混じりに言うと
「言ってくれるなよ。それは俺自身が一番気にしてるところなんだからな」
『本当に人生なんて分からないものね』
「出逢いがあって、別れがある
それで人が強くなる事もあれば弱くなる事もある
でも」
『そうね』
マーサとラウムは笑い合うと
「『だからこそ人生は面白い』」
「もう会う事もなかろうよ
最後まで息災でな、マーサ・ビスト」
『ええ。精々悪足掻きしなさいな
ラウム・クラヴァス
…バナージの事をよろしく頼むわね』
「おいおい、おっさんに何を期待しやがるんだか
…ま、死ぬまでは見守っておくさ
また何処かで会おう。そん時は
『ええ、兄カーディアスにも話しておくわ
…さようなら時代を見届ける者』
ラウムとマーサはそう言って通信を切った
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それから2日後、マーサ・ビストの処刑が執行された
だが、この時の会話についてマーサとラウム以外に知る者が現れる事はなかったという
なお、この日朝から夕方までラウムが居なかったせいでオードリーの機嫌が最悪に悪かった模様
バナージと
帰ってきたラウムを出迎えたのが、ふくれっ面のオードリーと疲れ果てたバナージだったとか何とか
その晩はラウムが手料理を振る舞う事で何とかオードリーの機嫌が治ったらしい
IFルート
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狂った者(公国ルート)
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潜む刃(ソフィルート)
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悪意の先に(アクシズグレミー討伐ルート)
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その他