弱い事が罪であると強くなろうと誓った者がいた
弱くても大切な人を守ろうと齧り付いた者がいた
弱い事を恥じながらも強くなれぬ者もいた
思いは全て違えど、その源泉は同じ
守りたかった
それだけなのに
宇宙世紀0080
ジオン公国は地球連邦に敗れ、かつて地球の3割を制圧していた彼の国の
しかし、公国の敗北を受け入れる事なく抗い続ける事を選んだ者達もまた存在していたのである
それらは大きく分けて3つ
連邦軍のMS開発や戦力の回復などにより、戦線を押し込まれてしまい結果として地上における重要拠点のことごとくを喪失
最早『地上軍』としてのまとまりを欠きながらも、各拠点単位や部隊単位で抵抗や潜伏を行なう事を選んだ『地上組』
キシリア・ザビによる最終決戦時の唾棄すべき
その後、一年戦争初期における最大の戦役『ルウム戦役』の余波により壊滅的被害を受け未だに復興の目処の立っていない旧サイド5。ルウムにある暗礁空域に独自の拠点を構え、機を伺っているギレンの親衛隊長エギーユ・デラーズ大佐率いる親衛隊の部隊を中核とした『地球圏に留まり反連邦運動を選んだ者達』
そして、最後が
「ゼナ様。ミネバ様のお加減は如何ですか?」
「大丈夫です。いつもありがとうございます」
「いえ、我々の至らぬばかりにドズル閣下を喪ったばかりかゼナ様やミネバ様にも苦しい思いをさせる事、不甲斐なく思っております」
「ありがとうございます。ですが、兵達も様々なものが不足していると聞きます
ミネバについては、私が必ず守り抜きます。なので、あなた方も自分を大切にして下さいね」
「…ありがたきお言葉
では、部屋の前で控えておりますので何かあればお知らせ下さい」
ドズルの命により、自分達もドズルと共に
ドズルの妻であり、ザビ家の血を残すミネバの母であるゼナはジオン公国最後の拠点である小惑星を改造した資源採掘拠点であるアクシズに向かう艦隊にその身を預けていた
と言っても、彼女に選択肢など無いに等しい。
「ゼナ、貴女には申し訳ないと思いますがアクシズに逃れていて欲しいのです。アクシズは父上が共和国時代から我が国の鉱物資源確保の為に企業群を誘致して開発していたアステロイド群の中にある拠点です
仮に連邦が攻めてくるとしても、そこまでの戦力を回す事は不可能。何せ我が軍が敗北したとしても、それを受け入れられる者はそこまで多くないでしょうからね
軍艦の中での不自由な生活を貴女に強いるなど、
「いえ
今の私はドズル・ザビの妻であり、
ゼナの言葉にキシリアはマスクを外し
「ゼナ。酷な事ですが、貴女は死んではなりませんよ
ミネバに母親というものを覚えていて貰わねば、ミネバは父親の顔も母親の顔すら知らぬままに育つ事になるのですから
…貴女が無事にアクシズで生活できる事を私は祈っています」
「ありがとうございます
この様なやり取りがあった
実のところ、グラナダからゼナを送り出す為の戦力を抽出した事によりア・バオア・クーへ送るべき戦力やグラナダ守備艦隊の戦力も低下する事になるのだがキシリアは迷う事なくその決断を行なった
結果としてキシリア不在の上にグラナダ守備艦隊という軍事的な拘束の弱まった為、グラナダ基地司令であるノルド・ランゲル少将とダルシア・バハロジオン公国首相と連邦軍特務艦隊による講和の為の一連の動きを許す事になってしまったのだが
アクシズに逃れる者も存在したのだ
更にグラナダより先発した筈のアクシズへ向かう
結果、ゼナとミネバをアクシズへ無事に送り届ける為に小規模とはいえ艦隊を派遣する事をキシリアは選んだ
更にこの艦隊とて連邦軍に対抗出来るほどのものでは無いが故にアクシズへの最短ルートを選ぶ事は出来ず、連邦軍の監視網の目をかいくぐりながらアクシズへと向かう事となる。キシリア最後の
本来であれば、此処にマレット・サンギーヌ大尉の部隊もこれに含める予定であったのだが、最近のマレットに不穏なものをキシリアは感じた為に取り止めている
とはいえ、流石に最精鋭のキマイラ隊まで護衛につけるわけにはいかず連邦艦隊と遭遇したとなれば
それ故に最終決戦後に戦線から離脱した者達の艦隊と然程に変わらぬタイミングで集結ポイントとなったカラマ・ポイントに彼等も集まらざるを得なくなってしまった
そして、アクシズに向かう艦隊編成の話をする事となったのだが、ここでゼナは一つだけ『自分の意思』を押し通す事となった
カラマ・ポイントに集まったジオン残存艦隊
しかし、その全てがアクシズに向かえた訳ではなかった
その数少ない例外が、海兵隊のシーマ・ガラハウ中佐の率いる『シーマ艦隊』である
いや正確には唯一と言っても良かっただろう
彼女の部隊は一年戦争の最序盤におけるコロニー襲撃において『毒ガス』をコロニー内に注入
コロニー住民を虐殺した経歴がある
だが、それについて総帥府や宇宙攻撃軍、突撃機動軍両司令部に地上方面軍司令部より連名で
彼女らの働きにより、開戦直後の作戦は速やかに推移した
また、この作戦はジオン軍総帥などにより決定された『正式な軍事作戦』に基づいた軍事行動である
と発信した事により、彼女達に対するジオン軍内での扱いは少しだけマシなものとなった
しかし、
「しかし、新しきジオンの旗を掲げようとする我等がコロニー住民にとっての禁忌である毒ガスを使った者達と共にある。それは余りにも風聞が悪くなりはしないか?」
そう発言したのはアサクラ大佐
彼はギレンの元でソーラ・レイの発射指揮を行なうなどギレンから信任されていると
この場においてはシーマ以外知る事はないが、元々『神経ガス』を使用してコロニー住民を無力化。強制的にコロニーより退避させる作戦であったのを彼が
この結果に対してギレンは不満に思ったのだが、かと言って開戦直後に越権行為や独断専行があったとするには余りにも組織として都合が悪かった為に黙認した
しかし、勿論それでは問題しか残さない為に当時ギレン直属であったアサクラ中佐(当時)を妹であるキシリアの突撃機動軍に
その結果、シーマ少佐(当時)にも要らぬ負担をかける事になった為に彼女達の名誉を守る為に先の発言をした。その上で、当時最新鋭であった『ザンジバル機動巡洋艦』を彼女の部隊の旗艦として与える事により、少しだけでも彼女達の苦労に報いる事としたのである
言うまでもなく、ギレン直属から突撃機動軍への異動は
その為、アサクラはシーマを疎んじておりキシリア配下になった後も彼女の部隊に対する補給を遅らせたりと様々な妨害をしていたのである
勿論、これは立派な『軍令違反』であり発覚した場合アサクラは軍人としての立場どころか命すら失いかねないものであった
その為、彼は何としてもシーマ艦隊のアクシズ行きを阻止しなければならなかったのである
なお、シーマ艦隊が最新鋭機であるゲルググ・マリーネを受領出来たのはアサクラがギレン直属に戻された後の事だったりする
仮に彼がシーマの上司であった時にそれが通達されていたのならば、シーマ達に機体が渡る事はなかっただろう事は想像に難くないだろう
アサクラというギレンの腹心(事実は全く異なるが、そう見える)の発言によりシーマ艦隊のアクシズ行きの雲行きが怪しくなってくると
「お待ちなさい」
凛とした声がその場を支配した
「ゼ、ゼナ様
何を」
「シーマ中佐については夫より話を聞いたことがあります
彼女もまたジオン勝利の為に手を血に染め、心を傷つけたと」
「しかし」
アサクラはゼナの話に割って入る
このままではマズイと理解したからだ
だが、それに対して
「アサクラ大佐。今はゼナ様が話をされているのだから、先ずは話を聞くのが筋ではないだろうか?」
「シャ、シャア大佐」
シャア・アズナブルがアサクラの発言を咎めたのである
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ザビ家への復讐を終えたシャアであったが、その心中は決して穏やかなものではなかった
(私は父の仇であるザビ家を滅ぼしたはずだ。なのに何故こんなにも虚しさを感じるのだ!?)
ララァ・スンという少女に感じたニュータイプへの希望
アムロ・レイという少年に感じた未来へ進もうとする熱意
それに比べて自分は何をしているのか?
シャアは無意識下でそんな自分を否定していたのだ
そして何より
「君の生まれの不幸を呪うがいい!」
「…そうか、それが君の出した答えなのだな
ならば私も私なりに君の憎悪に応えるとしよう」
「…何だと!?」
「私の背中には守らねばならない者達の命と明日がある!
ガウを木馬に向けろ!!最早我等の命はない。かくなる上は木馬を倒し、守るべき者達の明日を紡ぐのだ!
ジオン国民に、栄光あれ!!」
復讐の為に利用した
「貴様がガルマを守れなかった事について、俺がとやかく言うつもりはない
どうやら俺が何を言うまでもなく、貴様自身が何かを感じているのだろうからな。暫し軍務を休め。その後でまたこき使ってやるわ」
弟を喪いながらも、それでも部下を気遣ったドズル・ザビ
「あなたがダイクンの遺児である事をまさか私達が知らなかったとでも思っていましたか?
知っていましたよ、私も兄上もドズルもそしてガルマも
その上であなたを『シャア・アズナブル』として扱いました。名を偽るということはそういう事なのですよ?キャスバル・ダイクン」
私の素性を知りながらもそれだけだったと言い放ったキシリア・ザビ
「ふん。ダイクンの息子の割には随分と捻くれた様だな
が、同情などせんよ。貴様が我々ザビ家のせいで人生を狂わされたのと同じ様にダイクンによって人生を狂わされた者もいるのだ
我等を簒奪者と言うのならば結構な事だ。が、覚えておくがよい
「
私の未来は決して明るいものではないと警告したギレン・ザビ
そして、ザンジバルの艦橋で私は見た気がした
最期になると言うのに、柔らかく笑うキシリア・ザビの姿を
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私はその後、友軍艦隊に拾われアクシズへの合流を目指す者達の話し合いの席に参加していた
だが、その胸中は穏やかなものとは程遠い
ジオン軍に入隊したのはザビ家への復讐と力を手に入れる為だった、はずだ
事実ザビ家の生き残りといえば、ドズル・ザビの娘であるミネバ・ザビのみ。もしかしたら、夫人であるゼナ・ザビもそうなのかも知れないが不思議な事に復讐しようという気が起きなかった
この場にそのゼナ・ザビがあると言うのに
どうやらシーマ中佐のアクシズ行きをアサクラ大佐は疎んじているらしかった
私からすれば、核攻撃やコロニー落としをしておいて今更な気もするのだが
なお、ダイクン暗殺後地球に逃れていたシャアには実感が薄い事であるが、コロニー住民にとって『空気』とは必要不可能なものであるのと同時に『連邦支配の象徴』と見られていることが多い
そう『空気税』を連想させるからである
故にその空気を汚した行為に対するコロニー住民の反応というのは想像したくない程に過激なものになってしまう事もある
が、それについてあまり実感のないシャアはその話にそこまでの興味を持たなかった
しかし
「お待ちなさい」
今まで全く発言しなかったゼナ・ザビがその口を開いた事でシャアは興味を持つ事になる
アサクラ大佐の保身の為の言い分などに価値はない
シャアにとって、目の前の女性が何を話すのか?
それだけが彼の興味を引いていたのだから
「失礼しました。ゼナ様、続きを」
シャアは敢えて口に出して続きを促す
「此処にいるものは全てジオン軍の者
シーマ中佐もジオン軍人、違いますか?アサクラ大佐」
「そ、その通りですが」
どうやらアサクラとゼナ様では全く
私は内心感心した
「しかし、ゼナ様はジオン軍人ではないと思いますが」
「軍事拠点であるソロモンに起居していた私が民間人と?
その様な理屈が通ると本気でお思いですが、シャア大佐」
「…通りませんな、その理屈は」
「そうでしょうね。軍人ではなくとも、私もまた『ジオン軍関係者』でありましょう
シーマ中佐のした事は軍令に基づくものでありませんでしたか?トワニング少将?」
「は。間違いなく軍令に基づいたものであったと小官は記憶しております」
中々に強かな女性だ
アサクラ大佐よりも上位のトワニング少将にも確認を取る事で実質アサクラ大佐の反論や抗弁を封じるか
なるほど。あのドズル・ザビの妻である事も頷ける
「信賞必罰は組織の要と聞きます
既にシーマ中佐は今は亡きギレン総帥の部下より外され、危険な任務に従事する事で罰を受けたのではありませんか?」
「しかしながら」
まだつまらない言い訳をするつもりなのか、この男は
既にゼナ様の発言でほぼ決した様なものだと言うのに
「そこまでにしたまえ、アサクラ大佐
貴官はシーマ中佐の上官であった筈。その貴官が何故元部下を謗られると思うのか?
シーマ中佐。貴官は堂々とアクシズに合流するべきだ。必要ならばマハラジャ閣下には私から話をしよう」
トワニング少将は話を纏めた
「…はっ、ありがたく」
シーマ中佐は瞳を潤ませながら頭を下げる
「シャア大佐
ゼナ様より『ご助力感謝する』と」
話し合いが終わり、各々が艦に戻ろうとしていた時ゼナ様付きの武官が私に声をかけてきた
「いえ。私もかつてドズル閣下の元で戦っておりましたから
少しでも亡き中将閣下の恩に報いれられたならば嬉しく思います」
私としてもゼナ様の
「しかし、お気をつけ下さい
恐らくアサクラ大佐はゼナ様の御命を狙うやも知れません」
あの様な人物はえてして容易に相手を蹴落とす事に躊躇う事はない
それではあまりにもゼナ様が不憫だろう
「実はシーマ中佐がゼナ様付きの護衛を買って出てくれてな。同じ女性同士、私たちが四六時中護衛するよりも御心を煩わす事はないだろうと安堵しているところだよ」
どうやらあの話し合いの直後、シーマ中佐はトワニング少将に頼み込みゼナ様の護衛をする事を認めさせたらしい
彼女にとって、ゼナ様は確かに恩人なのだろうからその判断は理解出来る
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アクシズ到着を目前とした私達であったが、艦隊はソレどころではなかった
体調を崩しがちであったゼナ様の容態が目に見えて悪化したのだ
特にゼナ様の艦に乗るクルーはグラナダでキシリア少将直々に頼まれた者やソロモンでドズル中将にゼナ様とミネバ様を託された者達ばかり
その憔悴ぶりから恐らく彼女が長くない事が嫌でも察せられてしまう
私とて、あのカラマ・ポイントでのゼナ様の在り方には少なからず感銘を受けてしまった為にショックを受けているのだが
不愉快な事にアサクラ大佐は「これを機に病床のゼナ様よりミネバ様を取り上げるべきではないか?」とどうやら自身の部下達に漏らしたらしい
それに対してアサクラ大佐の部下達は
「作戦として、検討します」
と言ったそうだが、元よりそんな事をする気はなかったらしくトワニング少将に密かに知らせたらしい
結果、トワニング少将はアサクラ大佐に知られる事のない様に艦隊の有力な人物にこの連絡を回してアサクラ大佐の動きを完全に封じ込めている
どうにもアサクラ大佐に人望はないらしい
その事をシーマ中佐は
「当たり前さ。アレに命を預けるなんて怖くてやってられないよ」
と言っていたらしいが
そんな状況下にも関わらず、私は病床にあるゼナ様より呼び出しを受けた為に彼女の艦にいた
「悪いとは思いますが、私も同席させてもらう。こればかりは私としては譲れないんでね。勘弁してもらえるかい、大佐?」
「私としては隠すべき事はない。構わないさ、中佐」
ゼナ様の休んでいる部屋の前でシーマ中佐は私にそう言った
何せゼナ様の病状は悪いのだろう。要らぬ嫌疑を避ける為の処置といったところだと私は理解し、同意した
「よく来てくれました、大佐。先ずはあの時のお礼を言わねばなりませんね、ありがとうございました。お陰でシーマ中佐達の命は救われたのですから」
律儀な方だと思った
上流階級の者に良くある傲慢さなどカケラも見えない
私はダイクン派の者達からゼナ様はジオンのそれなりの立場にある人間の娘だと聞いていたので正直戸惑いの思いが強かった
「ふふ、どうやら大佐は私について誤解があるようですね
無理もないでしょう
本来なら、貴方と私は言葉を交わし合うよりも
銃を向け合う方が正しい立場なのですから」
私は耳を疑った
確かにザビ家と私が敵対しているとすれば、そうなのだろう
「私は知っているのですよ、キャスバル・レム・ダイクン
…シーマ中佐。銃を下ろしなさい
既に半ば黄泉の国にいるものの
どういう事だ!?まさかドズル閣下達が教えたとも思えない
なのに何故?
銃を下げるシーマ中佐に構う余裕もない
それだけ焦る私をよそに
「私の本名を知る者は殆どいません
貴方は幼少期の事を覚えていますか?」
「…全てとは言いませんが覚えている事は多いと思います
しかし、それが何か」
既にこの室内は目の前の女が支配していると言って良い
既に顔色は青白く、それ故に彼女の醸し出す雰囲気は鬼気迫るものがあった
数々の死線をくぐり抜けた私やシーマ中佐をして、息苦しさを覚える程に
「ラウム・クラヴァス
この名に聞き覚えは?」
「っ!」
私は再度驚かされた
それは幼い頃私やアルテイシアの面倒をたまに見てくれた恩人の名前だったのだから
「私のザビ家に嫁ぐ前に
ゼナ・クラヴァスと言うのですよ、ジオン・ダイクンの息子殿」
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私は目の前の状況を飲み込めなかった
情けない話だと思う。だが、何の冗談だと聞きたくなる状況だ
シャア大佐がジオンの息子?
ゼナ様がシャア大佐を恨んでいる?
全く理解できない
だが
「シーマ中佐。もしも私に少しでも恩を感じるのなら大佐との話の席に同席してくれませんか?
私の残された時間はもう殆どないでしょう。だからこそ、私は大佐に問わねばならない事があるのです」
そう言われている以上、私もそれを無碍にするつもりはない
しかし最下層の人間だったアタシがこんな立場になるなんて
ホント人生ってのはわからんものだね
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まさか、目の前の人物がかつて私達兄妹の面倒を嫌々ながらも引き受けたラウム・クラヴァスの妹などと到底信じられるものではなかった
「信じませんか、それも仕方ない事
では貴方に聞きましょう?
ジオン・ダイクンがザビ家に暗殺されたと貴方が信じる理由は何ですか?」
私はそれに答える事が出来ず、顔を伏せるだけだった
「本当に悔しいものです。もし私があの人の妻でなく、あの子の母でなければ貴方を躊躇う事なく撃ち殺せるというのに」
顔を伏せたままの私に彼女は初めて
「復讐したいと言う気持ちは貴方や私の様な立場であれば誰しもあるでしょう
それで?貴方は復讐を果たした以上、誰かに復讐される覚悟は当然おありなのでしょうね」
冷ややかな声だった
「…」
答えられる訳がない
「貴方自身は復讐の対象になっても後悔しないかも知れません
ですが、その刃が必ずしも貴方を貫く訳ではないのを忘れてはいませんか?」
「…妹は関係ないだろう」
反論したものの、それは余りにも説得力に欠けるものでしかない事を私自身が良く知っていた
「では、何故貴方はデギン公やギレン総帥を狙わなかったのですか?ガルマ様はあの時貴方の父上を害せるはずがない事くらい聡明な貴方ならば理解出来たはず」
そうだ。私はザビ家の一族というだけで本来関係のないガルマを謀殺したのだ
「『復讐など何も生まない』などと私は綺麗事を言うつもりはありませんよ?キャスバル
ただ私はその復讐心を抱えながら、それでも家族を守ろうとした人を知っているのです」
「…そういう事でしたか」
私の中でようやく理解が出来た
彼女やラウムの両親は私の父が死んだ時の混乱の中でダイクン支持者に殺されたのだろう
それでもラウムは必死に堪えて彼女を守り抜く事に全てを尽くした
それを見ていたからこそ、彼女はこの様な形で私と話をしたのだと
「ジオン・ダイクンの理想
確かに尊く気高いものでしょう。ですが、忘れてはなりませんよ?貴方の行動一つで悲劇は容易に生み出せるのですから」
「…心します」
私は素直に彼女に向かって頭を下げる事が出来た
そう言えばいつぶりだろうか?
こうして面と向かって叱られるなど
「私はこの昏い想いをミネバに託すつもりはありません
恐らく兄やギレン様達もそんな事は願わないでしょう
キャスバルにシーマ。あの子を、ミネバの事を頼めますね?」
彼女は疲れた様にベットに倒れ込みながらそう言った
「…しかとその任承りました」
「どこまでやれるか分からないけど、精一杯尽くす事だけは約束します」
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その様な会話をして僅か半月後、私達は無事にアクシズへと辿り着いた
そして、それから1週間後には彼女は亡き夫達の元へと旅立った
私とシーマ中佐はアクシズ内にある礼拝堂で、彼女の冥福をただ祈った
彼女は夫がいたから、過酷な要塞内での生活に耐えられました
ですが、それは彼女が平気だったという訳ではありません
彼女にとっての家族は夫も義理の兄妹達も娘もそうです
しかし、兄の姿はそこになかったのです
彼女から見た男は忌々しいものでした
彼女はかの人物の話を聞くたびに思います
「何故兄はあれだけ苦しんだのに、あの男には守ろうとする者達が沢山いるのか?」と
それがどれだけ醜いものであるのか、彼女とて理解していました
そして、彼女の命の灯が尽きようとしていた事を知り、彼女は思いの丈をぶつける事にしたのです
優しく、気高くあろうとした悲しき女の話でした
ミネバとバナージの結婚式見たいですか?
-
見たい
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別に要らない
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書けるなら書いて、どうぞ