が、あとは本当に余談ばかりになりそう
「熱いんだが」
「でも懐かしい熱さですね、ラウム先生」
「ホント。でもまさか死んでからまた料理を作る事になるなんて
しかも兄さんと、その教え子であるセシリアさんとなんてね」
「お前も俺の教え子だろうが、ゼナ
何を『私は元々料理できてましたよ?』みたいな顔してやがる」
「…そうなのですか?」
ラウムとセシリア、ゼナは揃っていつの間にか出来た簡易キッチンで食事会の為の料理を作りながら談笑に興じていた
「ちょっと兄さん!それはジオンのトップシークレットなのよ?」
「…酷いトップシークレットもあったもんだな」
兄であり、料理などの家事全般の師とも言えるラウムの
その抗議を受けてラウムは遠い目をしてしまう
「ですが、ラウム先生。本来ゼナ様の情報は秘匿せねばならないものでしたので全くの筋違いという訳でもないかと」
「なんだそりゃ、たまげたなぁ」
ラウムは呆れた様な声を出す
----
ザビ家に唯一
勿論、公国内において唯一無二と言える彼女の経歴を巡って、暗闘が繰り広げられていたりする
「確かに
が、かの人物は敵を作りやすい。なれば実直なドズル・ザビや素直な人柄であるガルマ・ザビの方が遥かに要らぬ敵を作りがたかろう」
ガルマか国内に居たのであれば、まず間違いなく縁談が数多く彼の元に舞い込んだ事だろう
そう言った意味もあり、ガルマが地球方面軍司令になった訳でもある
困った事に
が、ドズルは一貫して
「いや、すまないとは思うが妻ゼナは俺自身が頼み込んで妻になってもらった女性だ
ゼナについて俺は不満を持っている訳ではない。その気遣いは無用だ」
とその誘いを断っている
ゼナの侍女であるマレーネ・カーンはあくまでも
まぁ、欲に目が眩んだ者達からすれば
「ウチの娘はダメなのに、何故あの娘だけが!」
となるのだろうが、当人からすれば勘弁願いたい話だった
何せ
「
と何かあればドズルに殴り込んできそうな義兄と姉がいるのだ。そりゃ怖い
ドズル自身かなりメンタル、フィジカル双方強いイメージがあるとされているが、やはりそれでも
そして、キシリア
「ラウム殿。もし、我が弟が何か不調法を働いた場合はこのキシリア・ザビ。その職権全てを行使してでも味方します。
「おい、キシリア
そうギレンか真顔で苦言を呈する程にあの時のキシリアの言葉は真に迫っていた
なんだかんだで男所帯であったザビ家。その中にゼナという妹が増えた事はキシリアにとって、かなり喜ばしい事であったのだ
事実、距離的にそこまで近くない筈の
端的に言えば妹であるゼナができた事で舞い上がっていたという訳なのだが、それを指摘するのは憚られた
父デギンとしては、妻を亡くしてからというものの独立運動に注力していた事もあってか後妻を持とうともしなかったし、親子間のコミュニケーションをしっかり取っていたと言う訳でもない
寂しい思いをさせてしまったのではないか?
という負い目があるのも事実なのだ
そしてギレンとしても、キシリアが喜ぶ理由が分かるだけに中々強く注意するのも気がひける
父やサスロと同じ様にギレン自身もまた独立運動に力を注いだ結果、家族内での関わりがかなり希薄になってしまっていたのだから
というよりも、だ
ドズルがしっかりしていれば良くね?
とギレンも少しばかり思ってしまった事と本件は関係ないのかも知れない
ガルマは兄と姉の間に入って仲裁するには少しばかり経験が不足していると言えよう
というよりも、せっかくあの世とはいえ再会したのだから仲良くして欲しいと言うのがガルマの本音だろう
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なので、間違いなどありはしないのだ
ゼナは気を遣ってくれるし、日々の激務の合間に出してくれる軽食はドズルの支えになっていた
加えて軍事拠点であるソロモンにおいて、自身の居住スペースを最低限のものとし出来る限り兵達の負担を軽くしようと努めてくれていたのをドズルはよく知っている
その上、煩わしい事この上ないと聞く『上流階級との
ドズルとしては余りに贅沢や我儘を言わないものだから、逆にドズルの方が気を遣う始末だった程
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戦時であり、軍事拠点に住むにも関わらず
戦争を知らぬ訳でない。ゼナとて、1週間戦争の時には看護兵が足りぬ事を見てマレーネ共々看護兵の一人として動き回っていたのだから
それでもなお、明るさと気高さを忘れない
それでいて、兵士達に近しい価値観を持つのがゼナ・K・ザビという人物だったのだから
----
「いやぁ、ゼナがねぇ」
「…ううっ、やめて」
ニヤニヤしながら
流石のゼナであっても、兄に知られたくなかった事を知られてしまっては赤面するしかない
とはいえ
「ゼナ、手元はしっかり見る!」
料理中なので、容赦なく兄ラウムからの注意が飛んでくる訳だが
理不尽である
が、
(でも、昔に戻ったみたいで嬉しいのよね)
ゼナは内心で喜んでいる自分がいる事に気が付いていた
愛する夫であるドズルと結ばれ、
女として間違いなく満たされた人生だったとゼナは思っている
だが、それでも思うのだ
兄と
両親を喪って、ほぼ全ての財産を取り上げられてなお、自分を守る為に懸命になってくれた、不器用で素直でなかった
それでもゼナにとって、最高の兄
そんな兄と生き別れなくても良い
そんな未来はなかったのだろうか?と
『後悔とは後に悔やむ事』
取り返しのつかない事になってから、その重さに悔いる事
だが、それでも
それでもゼナは思ってしまう
あの光景の中には兄はどうしていないのか?
と
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ゼナ・クラヴァスという少女にとって、兄ラウム・クラヴァスという存在は両親を喪った後は父であり、母であり、兄であった
父ケイムや母セリアは決して悪い人物ではない
が、些か以上にお節介な部分があり、また良くも悪くも
別にそれ自体は構わないとゼナは思うのだが、問題は良かれと思って周囲を混乱させる事があると思うのだ
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ゼナにとって、地球にいた頃の記憶などあまり無い
しかし、いつも周りの人達と温度差があったのではないか?そう後から思い返してみると思えた
コロニーに移住してからというものの、平穏とは無縁の生活を送り続けた。
独立運動時には連邦やサイド3政府側の警察から追われ
両親が独立運動から身を退いた後は、連邦や『元仲間』からも狙われる様になった
しかもそれを知ったのは夫ドズルに嫁いで
勿論ゼナはどう考えても問題にしかならない事を承知の上で夫に頼み込んだ
「兄を
ラウム兄さんを守ってください」
と
ドズルもゼナの頼みであれば聞いてやりたかったのだろうが、こればかりは無理だった
当時のラウムの立場は詳しく事情を知る者ならば『ザビとダイクンに挟まれて身動きの取れぬ者』。何せザビ家についたと見られて、ラウムの居所が判明すればダイクン過激派の凶刃はラウムの首を刎ねるだろうから
余り知らぬ者ならば『独裁者一味に魂を売った連中の子供』
下手をすればラウムを旗印として、反ザビの運動が激しくなりかねない
それでは国内が混乱し、下手をすれば軍内部にいるダイクン派の蜂起すら招きかねない
無論、戦争については可能な限り早期終結を目指すつもりだが、何事にも予定外というものは存在する。ましてや戦争ともなれば相手が、連邦がある訳であり、国内を割るなど到底許容出来るものではなかった
「よいな、ドズル
お主がどう思おうと、ゼナがどう言おうとも
ラウムについては手出し無用(表向きは)。アレへの危険が無くなる事は残念だが、我等ザビ家が族滅してジオンの名が遥か過去のものにでもならぬ限りなくなるまい
お主が、ゼナが
真にラウムの長生きを望むのであれば、何もするでないぞ」
父デギンよりそう言われていたドズルは最愛の妻ゼナの願いであっても頷けなかったのだ
----
故にこそ、たとえ自分が死んだ後であったとしても兄に会えたのは嬉しいし、言葉を交わせるというのはゼナにとってこの上ない喜びといえるだろう
…まぁ、その兄の周りに娘を称する
マリーダやプルツー達?
素直な子はゼナも大好きである
という訳で
「ふふーん♪」
ゼナは絶賛ご機嫌であった
何せ
「うううううっ」
四六時中兄にくっついているクェスは
「料理中はダメだ
刃物を使っているし、何より食べる人の為にも手を抜きたくない」
とラウムから料理中のスキンシップ(クェス基準)を拒否されている
「料理、か」
「プルの奴はパフェがどうとか言ってたけど、大変そうだな」
「むむ」
「手伝いすら出来ない
…無念」
とマリーダ達はそれぞれ思い思いの感想を口にしていた
他の妹達は
「ぼわってした!」
「熱そう」
「ととさま大丈夫?」
など大騒ぎである
元より曲がりなりにも地球連邦政府高官の娘であったクェス
そもそも『戦争の為』もう少し踏み込んで言えば『ハマーンやその支持者であるアクシズ軍を倒す為』にクローンニングされたプルツー達
シスターズの中では最も長生きしたとは言え、おおよそ真っ当な生活を送れたと言い難いマリーダ
料理などに触れる機会はなかったのである
----
なお、設備については
原材料については不思議なパゥアーで赤いの達がそれぞれが用意したらしい
「…なら、料理もそうすりゃあ良かっただろうに」
というラウムの呟きに対して冷や汗をかきながら、視線を逸らした金髪の仮面やグラサンが妙に似合う赤いのがいたとかなんとか
「…私とてラウム兄さんの料理を食べてみたいのだ」
とララァに愚痴っていたらしいが、真偽の程は定かではない
某人物は
「ラウムくんの料理?
…待てデギン。私は食べていないぞ?」
とデギンに詰め寄り
「……」
ひたすら穏やかではない目でギレン達を見ていた
----
「先生、味付けお願いします!」
「ゼナ、盛り付け!」
「クェスも運んで!」
それなりの参加者数になった為に一人一人が最後まで作るのは効率が悪いとして、セシリア→ラウム→ゼナ→クェス+プルシスターズによる運搬となっていた
因みにつまみ食いしようとするプルシスターズ(マリーダ以外)に対しては
「運べよ?(ニッコリ)」
と満面の笑みのラウムによる説得が功を奏したのか防がれている
「つか、野菜炒めだけとか
どうなのよ?それ」
「先生と言えば野菜炒めですから」
「兄さん、考えるのが面倒になったら野菜炒めかカレーじゃなかったかしら?」
「…仕方ないじゃないか
栄養パランス考えていつも違うメニュー出すのは無理だったんだから」
日々働く事で日銭を稼ぎ、その上で妹が学校生活を楽しめる様に、健康的な生活が過ごせる様に
当時のラウムはそれこそ、『身を粉にして』動き回っていたと言っても大袈裟ではなかった
覚えねば、習得せねばならぬものは幾らでもある
それ故に比較的栄養管理のしやすい野菜炒めやカレーやシチューなどはラウムにとって重宝するものであったといえよう
その内、殆ど調理に意識を割く事なく野菜炒めは作る事が出来るほどになった
今回の様に数人がかりともなれば、流石に意識しないと危ないが
セシリアが切り
ラウムが炒めし この食事
ゼナが盛り付け
娘が運ぶ
と言ったところであろうか
----
「はっ、器用なもんだな。ラウムの奴は」
「ええい、ヤザン!離さんか」
「…ちっ、なんで俺まで」
「そう言うものではないわ、ジェリド」
「…カミーユの知り合い、なのね」
「お兄ちゃんの知り合い。今度話を聞きたい」
と何気にヤザンは
勿論、ジェリドは生前カミーユから話を聞いていたラウムによるお説教を既に受けた
曰く
「人の名前はデリケートなもの
『自称』エリート様はそんな事すら分からないのか!?」
との事である
これにはその場に居合わせた者全員がラウムに同調するしかなかった
シロッコは己が野望を打ち砕いたカミーユがまさか
なお、ラウムはラウムで生前
「だからと言って、軍人に殴りかかるとか先生も血の気が多かった時期があったんだなぁ」
「いや、その」
とカミーユの若い頃のやんちゃぶりを聞いて少し呆れてしまった
「でもラウムさん。私はあの戦いがあったからこそこの人と一緒になれたとも思うんです
…勿論あの戦争で亡くなった人達の事を忘れるつもりはありませんけども」
「先生も本当に良い方を見つけられたんですね
正直少し羨ましく思いますよ」
「まぁ、そうかも知れません」
ラウムの憂いを帯びた力無い笑みの前にカミーユも上手く説明出来る自信は無かった
アムロ程ではないにせよ、カミーユとてラウムの姪のアクシズと最終決戦時には交戦している。そしてそれが、後々エゥーゴとアクシズの全面衝突の遠因にもなっているとカミーユ自身は思っていたから
ラウムのアパートに住む者達は何の因果か『ラウムの身近なものを傷付けようとした』者達ばかりだ
体制側からすれば『死んでなきゃ駄目じゃないか!』と言われる様なカミーユ達
事実、カミーユやジュドーは何度か元ティターンズ関係者や元アクシズ関係者から襲われていたりする
『グリプス戦役の英雄』
などと言われていても、それはあくまで直接戦争の被害を受けなかった者達の言葉
その言葉の裏には無数の
カミーユは一時昏睡状態になり、ジュドーは木星圏にいた為にあまり地球圏での名前は知られていない
…というよりも、グリプス戦役において最も名を知られたのは『赤いの』ことシャア?クワトロであり、個人のパイロットとしては尋常ならざる戦果を叩き出したカミーユであっても
カミーユが医師になった時、当然彼の来歴も調査される訳だが『グリプス戦役の傷病者』との扱いであったカミーユに対しては医師会側も同情的であり、なおかつカミーユを親身になって看病し遂には医師資格を取得したファ・ビダンの関係者ともあってか、そこまで問題視されなかった
----
まぁ、そんなこんなでラウムの姪であり娘でもあるオードリーの事はカミーユも含め、アパート住民皆心配していた
「ご馳走様でした」
「…オードリー、大丈夫?」
バナージは未だに顔色の優れない妻を心配し声をかける
「…大丈夫よ、バナージ」
(その間が怖いんだけどな
父さんと会った話をした時のオードリーは少し元気だったのに)
バナージとしても義父ラウムの死は余りにも重い
が、だからとていつまでも塞ぎ込んでいたとなれば
「ミネバの事頼むって言ったよね、俺(憤怒)」
と眉間にいつもより皺を増やして怖いラウムが夢枕?とやらに立ってきそうだ
…とは言え、怒られるとしてももう一度
というのが本音ではあるのだが
「…もう少し、父さんから料理を教わりたかったなぁ」
妻にとって、養父の作る料理は自分の母親や親戚にも繋がるかけがけのないもの
もっと沢山のレシピを持っていたであろうラウムから色々教わって、自分達の子供にも受け継いで欲しいとバナージは思っている
ラウムがバナージの呟きを書いたとすれば
「う、うん?
ソ、ソウダネー(滝汗)」
となる事請け合いだろう
何せこの男、家事全般など習得するのに必死だった為か料理のレパートリーが凄まじく偏っているのだ
しかも、何故かクラヴァスで流行っていた「NIHONSYOKU」つまり日本地区の料理を中心としたものばかり
「軽食なら分かるし、紅茶への飽くなき探究も凄いと思う
…でもなぁ」
との事
一度ラウムの誕生日祝いに
見た目で幼き頃のラウムは全面降伏した
それ以来、彼の国の料理に対して苦手意識を持ったとしても何の不思議があろうか?
「同じ島国なのに、何で此処まで違うのやら」
ラウムは親日家であったクラヴァス家に出入りしていた料理人に嘆いたらしい
見た目にも拘る『WASYOKU』というものに幼いラウムは魅了された
が、その精微な見た目通りそれを習得するにはかなりの年数を要する。そう聞いたラウムは落ち込み、その料理人はならばと『日本の家庭料理』をラウムに教えた
勿論それすら幼いラウムにとっては難しいものであったが、必死にメモを取りながら勉強するラウムの姿に料理人も次第に熱が入る様になる
結果、ラウムの両親がクラヴァスから出る決断をするまでに
----
余談ではあるが、ギレンは地球侵攻作戦実施にあたり、
極東の島国については、その文化を最大限
何せかの地方は海外から文化を取り入れて、それを独自に発展させた挙句、逆に元となった文化を持つ国家に輸出するというギレンをして理解不能な事を幾度となくしてきた地方なのだ
「下手をすると文化的逆侵攻を受けかねぬ」
ギレンは真剣に危惧していた
事実として、ギレンとてラウムの作った野菜炒めとやらの
この時点でジオンの中枢に対して日本の食文化が攻勢をかけている
何せまだサイド3独自の文化というものは殆どない
そこに強烈すぎる文化が浸透して来たとなると、飲み込まれる可能性も普通にあり得る
地球からの独立とはそれすなわち
独自の経済圏は元より文化圏の構築もギレン達は念頭に入れていたのだから、それはもう大変な事だった
既に弟ドズルはラウムの教えを受けたゼナの料理(野菜炒めやカレー、各種シチューやスープ)の虜
ギレンよりも、文化の滋養に積極的であったダルシア・バハロジオン公国首相は
「バカな、早すぎる」
と戦慄したとも
開戦から僅か1ヶ月足らずでゼナの教えを受けたマレーネやソロモンの食堂担当らによって、『ゼナ式メニュー』という名前で拡がりを見せつつあったのだから
幸いにもソロモンは軍事拠点
ましてや、宇宙攻撃軍の司令部があるとはいえ
いや、
開戦から1ヶ月の間に主戦場は宇宙から地球へと変化し、第二次降下作戦の成功を以て地球方面軍司令部が北米ニューヤークにその拠点を持った
結果、宇宙攻撃軍やグラナダの突撃機動軍はあくまでも地上作戦における『予備兵力』としての機能を果たす事となった
第三次以降の降下作戦参加部隊の所属はあくまでも『地球方面軍』
ソロモンにおける日本食ブームが他所に波及する可能性は宇宙攻撃軍と突撃機動軍の組織間の対立からほぼあり得なかった
故にダルシアとしてはこの問題が『ソロモン内』で収束すると判断したのである
…実際のところは総帥府の最上位者であるギレンや
ダルシアがそれを知ったのは、『主席秘書官が総帥の食事を用意している』という話を聞いてからであり、手遅れともいえる状況
が、ダルシアとて独立運動を駆け抜けた漢
直ぐに思い直すと
「よく考えると、これはこれで構わないか
これに異を唱える連中がいれば、そいつらの周辺を洗う事で何か掴めるかも知れない」
コロニー住人にとって、暗殺はあっても『食事に毒を混ぜる毒殺』というのは余り馴染みのないもの
故にこそ、網を張り易くもあったのだ
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一年戦争より前
ジオン公国成立時より、ダルシアは一貫して『反ザビ』の姿勢を貫いていた
それはダルシア自身がザビ家を嫌うのではなく、連邦との戦争後を見据えての事である
『反ザビ』と言っても、『反
一部のダイクン支持者は公然と『反ザビ家』を主張していたが、ダルシアからすれば理解出来ない
そもそも共和国時代から政治体制的には大きく変化したジオンだが、その実経済的に考えるとさして変化はない
…つまり、である
デギン・ザビが協力を要請した経済界がそのまま公国の経済の中核を担っていたのである
仮にデギンらザビ家を一掃したとして、果たしてそう言った連中は『ザビ家の人間』を生かしたままにするだろうか?
恐らくしないだろう
何せ復権の可能性の芽を摘み取りたいはずなのだから
が、そうなった場合経済界がどう動くか?
それはダルシアにすら予測出来ない
小惑星アクシズの開発や資源採掘とて、デギン主導の誘致が成功したからこその事業
そのデギンを排除した後の政権に経済界が果たして協力的な態度を取るだろうか?
無論、実利を考えれば新政権に協力する方が良いかも知れない
が、『都合が悪くなれば切り捨てる』という前例を見せた者にどれだけ信用を置けるのかは相手次第
その時点で新政権による経済界への影響力を増すのは難しくなるのではないか?
デギンとギレンは『生贄』なのだ
ダルシアはその後の道筋を作り終えた後、『適当な罪状』でダイクンの急進派などを道連れにして死ぬ
そうすれば、残るはザビ家の中でも真っ直ぐな性分のドズルとガルマにやや捻くれているがそれでも『正しくあろうとする』キシリア
…些か連邦政府とやり合うには不安が残らなくも無い面々だが、最悪
それである程度ならば何とかなる
そういう算段であった
工業製品や資源を原資として経済を回す
というのは一見有効そうに見えてそうでもない
これが地上における資源採掘であれば、何ら問題ない。しかし、資源採掘するとしても先ずその為の基地や輸送艦などが停泊するに足る最低限の港湾施設が必要となる
その上、当然だが働く者達の住居や長期間の滞在に耐えうるだけの小売店などだけでなく、其れ相応の町が必要だろう
そこまでして、漸く資源採掘に取り掛かれる
しかも、最重要の『空気』は地球側に独占された状態で
技術において、先行していたとしても元々のマンパワーが桁違いな連邦にかかれば技術の解析からの発展系を生み出しての大量生産はそこまで問題になるとも思えない
故にこそ、ダルシアは『コロニー独自の文化圏形成』というものを目指しているのだ
----
そんな結構上が悩んでいた原因は
「ええぃ!次から次へと
まだ要るというのかよ!」
「人数が人数ですし
とはいえ、これではどうにもなりませんね」
「…どうしましょうか?お父様」
延々と
元よりラウムにせよ、セシリアにせよ
自分の料理を食べるのは
と言った考えの持ち主であり『大勢に振る舞う』という考えは元よりなかったのだから
現在、ゼナの代わりにマリーダが入っており彼女的には
『お父様の手伝いが出来る上に、いずれ来るマスターに手料理を振る舞いたい』と考えているのでラウムやセシリアの調理を近くで見れるのは大きい
「兄さん!追加人員捕まえて来たわ!」
「でかした、ゼナ!」
ゼナは
ラウムから教えられた事をゼナはマレーネに
マレーネもまたゼナから教えられた事をセラーナに
それぞれ教えていた
…1人足りない気もするが、気のせいだろう
----
「…くっ、まさか己の不明を恥じる事になるとは!」
と
「この子はもう少し、かしらね?」
とやんわりと断られた事にショックを隠せない少女?がいたらしい
----
「よし、ラインを一つ増やす
ゼナはマレーネ、セラーナと組む。…やれるな?」
「頑張るわ」
ラウムなりの激励にゼナは力強く頷いた
余談ではあるが
「どうだ、デギン殿
ウチの娘達はラウムくんの間接的だが教え子なのだぞ!」
「むむむ、中々よなマハラジャ」
「アルテイシア、キャスバル」
とまぁ、見事に親バカを発揮している元アクシズ最高責任者の姿があったとかなんとか
----
「で、出来た」
「まさか此処までの量を作る事になるとは」
「…ふぅ
お父様、セシリアさん。お水です、どうぞ」
…仮にもMSパイロットであったマリーダ
独立運動、建設会社勤務以来そこまで運動してないラウムとそもそも共和国政府によって軟禁されていたセシリアでは体力の面において圧倒的な差があったのだ
というよりも、ラウムにせよセシリアにせよ
結構な高齢になってから此方に来た訳であり、幾ら外見が若くとも体力はそれ相応に低下していたりする
この世界において、大事なのは『イメージ』であり、プルシスターズ達が量産型キュベレイなどを喚び出せるのも、彼女達の人生において大半がMSに搭乗しての訓練や実戦に当てられていた為
デギンやマハラジャは死んだ時そのものであり、ラウムもそうしようとしていたのだが
「兄さん?」
との妹からの
が、中身は間違いなく死ぬ直前のラウムであり、体力もそれに準じたものとなっていた訳だ
なお、なんだかんだでマレーネとセラーナは元気だし、ゼナは
「夫であるドズルが元気なのに、妻である私が病弱では何の為の妻か分かりません」
との事で割と元気だったりする
「へぇ、美味しいもんだな」
「美味しい」
「…食べやすい」
それぞれ感想を口にするシスターズ
----
「ふん、これをアイツがか
アレもそれなりに苦労していた様だな」
「ラウムくんは器用なのだな
…やはり
「…まさか、政府から聞いた時は眉唾ものだと一蹴したものだが
クラヴァス議員の親族がジオンにいたとは
…ある意味ギレン・ザビやデギン・ザビの判断に救われた、と言ったところかも知れないな」
口々に感想を言い合う者達
地球と宇宙
連邦とジオン
立場的に分かり合える筈もない者達だったが、漸く彼等もまた戦争に囚われていた者達ともいえるだろう
----
「架け橋になるべし、か」
「兄さん、それは?」
皆で食事をしているところから少し離れた場所でラウムはそんな光景を目を細めて見ていた
ラウムの呟きにゼナが聞くと
「元々クラヴァスは欧州の家だったそうだ
本国の人間だったと昔爺様から聞いた事がある。だが、政争に疲れて豪州に移住したとも」
旧世紀におけるオーストラリアの宗主国は世界的に見ても謀略や策略を好んで駆使する国家だった
その国家において確たる地位を築いていた当時のクラヴァスの人間もまたそれに相応しい権謀術数を用いて政治の世界を生きていたと
しかし、時に応じてとはいえども『他者を陥れる』が如き所業をしなければ地位を維持していけない事に当時のクラヴァス当主は疲れ果て、結果として命令として本国を離れてオーストラリアへと移り住んだそうだ
----
言うまでもないが、クラヴァスの人間全てがこの狂行に賛同した訳でもなく、当主に近い者達はオーストラリアへと向かったが分家などはそのまま本国に残ったとされる
が、言うなれば『権力闘争から逃げた』クラヴァスの名は本国においてその力を大きく落としてしまう
残ったクラヴァスの縁者達は故に決断した
クラヴァスの名を捨てる事を
そうして、本国の人間の記憶からクラヴァスという家は遥か過去のものとなった
----
ところが、である
旧世紀における2度もの世界大戦は従来の支配体制を揺らがせるに充分なエネルギーを有しており、世界各地において第二次大戦後独立の機運が高まることとなった
その機運はオーストラリアにおいても同様。そしてクラヴァスはオーストラリア独立運動において重きを成した家となった
中世ヨーロッパにて一部貴族階級に浸透していた『
結果、オーストラリア独立運動におけるクラヴァス一族の働きはのちに発足するオーストラリア政府に評価される事となり、オーストラリアにおいてもそれなりの立場を得ることとなる
そして、その地盤が宇宙世紀になってなお続いていた訳だ
…まぁ、そのある意味では『古臭い保守的な空気』に耐えかねてラウムの父ケイムは両親や親族などの反対を押し切ってまでセリアを選んだ訳であり、その結果クラヴァスから出奔したも同然なのだが
幼い頃は
「仕方ない人達だなぁ」
と苦笑いする程度だったラウムだが、今となっては
「ざけんな」
と日頃の温厚な仮面を脱ぎ捨てて両親には言うべき事が山程ある
自らの選択の結果として、不幸になるのはまぁ許容しよう
が、その結果幼い妹に何をしてやれたのか?
と言う事に関してはそれこそ小一時間どころか丸一日話をしたとしても足りるとは思わない
…ラウムとしても、これが八つ当たりであるとは思っているし当然自覚もしている
が、これに関しては自分も含めてコミュニケーションが圧倒的に不足していたのではないか?
と思うのだ
なので、此方に来ても両親と会った事はない
会いに行くつもりもない
ラウム・クラヴァス
実はな自分の両親に最も怒りを抱えていたりする割と面倒な人物でもあった
因みに生前や此方でのラウムとの会話からラウムが自身の両親に対して穏やかではない感情を持っている事を察したデギン、ジオンは自身の子供などにさりげなくその事を伝えていたりする
「ケイムやセリアも儂の友人だ
だが、ラウムは儂にとっても可愛い息子の様なもの。2人には悪いがラウムの肩を持たせてもらうとしよう」
との事
なお娘のゼナは
「あまり好ましくは思えませんね
此方に来て知りましたが、そもそも兄が必死でダイクンとザビの間でもがいていた時に子作りをするという神経が理解できませんから
…まぁ、かく言う私もそうかも知れませんが」
と両親の話を聞かれたゼナは答えている
なお、この話に対して
「…ふむ、それは違うと思うがな
ゼナ、お前はドズルの妻として、またジオンの次代を育む責を果たしたに過ぎん
ドズルや我々はその事をしかと理解している。何も恥ずべき事はないだろうよ」
「…唐変木な兄上と同じ意見と言うのもアレですが、ゼナ
貴女はドズルとの愛に生きたのです。子を危険に晒してそれを放置する親と貴女を比べるのは酷かと思いますよ?
胸を張りなさい、ゼナ。貴女は何一つ間違っていないと私は信じていますので」
「兵達や私達は連邦と戦う事を選んだのです、
その心はありがたく思いますが、選択の果てに滅びがあったとしてもそれを嘆く訳にもいかないのです
少なくとも、私達はでき得る限りの努力をして結果、此処にいるのですから」
悪の巣窟の様に後世では言われているザビ家とて、優しくなる時はあるのだった
----
「初耳よ、兄さん」
ゼナは兄から初めて聞いた話に不機嫌そうな顔をした
「と言ってもなぁ
旧世紀からのとか、地球からのとか
いるか?ゼナ」
「…要らないわね、確かに」
ゼナとしてはジオンの人間として生きていくつもりだった
別に地球でどうとか、煩わしい事にしか思わなかっただろう
「空気という圧倒的なアドバンテージを持たれている以上、余程の事がない限り宇宙の勢力はキツい
だが、俺達クラヴァスは『地球を捨てた者』だ。元より離れるつもりもなかったが、仮に戻ったとしても良くて軟禁。悪ければ差し出されて終わりだろうさ」
「…ホント、権力って面倒ばかりなのに欲しがる人間が多いわね」
「ホントになぁ」
ゼナはザビ家に
ラウムはクラヴァス、ダイクン、ザビに
それぞれ深く関わったが故に2人はため息を吐く
----
そもそも、シロッコは自身を天才と称したが、事に軍政における天才とはギレンやデラーズの様な者だとラウムのみならず、ゼナも思っている
そんなギレンですら、ジオン公国という国家運営を十全に行えなかった。その一点においても如何に権力者というものが
事実、地球圏に戦乱を招いたとされるジオン公国、ティターンズ、アクシズは内部に問題を抱えており、それが土壇場で表面化した結果滅亡したといえなくもないのではないか?
「や、あの人が無理なのに誰が出来るのやら」
ラウムとしては正直そう思ってしまう
----
死後、様々な者達と交流した結果火星圏においてレジオンなる組織があったとも聞いている
最初その話を聞いた時ラウムが思ったのは
「は?舐めてんのか?そいつらは」だった
アリシアとやらについてラウムが殊更思う事はない
ギレンがセシリア以外を愛する事はないし、例え政治的意味があったとしてもその様な不義理な事を出来る程かの人物のセシリアへの愛情が浅くないのも知っているからだ
おおかた遺伝子によるクローンニングかその辺りだろう
ザビの名を騙るのは好きにすれば良い
それで着いて行くのならば、
だが、ジオンの名を冠したのであれば話は別だ
ジオンとはジオン・ダイクンの名であり、ジオン共和国と公国を示すものであり、そして何より
宇宙市民の独立への願いが込められたもの
なのだから
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「こうして見ていると、何とも珍妙な光景だな」
「そうね、兄さん」
ラウムは目の前の光景をそう評し、ゼナも苦笑しながら同意した
ジオン、連邦、ティターンズ、アクシズ、ネオジオン、袖付き
様々な組織に属していた者達が思い思いに話をしている光景
各々が
「…架け橋になれたのかね、俺らは」
「分からないわ。でも、やっと兄さんもゆっくり出来るんじゃないかしら?
私としてはそれが嬉しいのよ?」
兄に苦労ばかりさせていた自覚のあるゼナとしては、自身の死後直ぐに兄の様子を観察していた
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ザビ家の者達が悉く死に絶え、唯一の肉親である自分と兄にとっての最後の願いとなるミネバは遠くアクシズにあった
そして、自分もまたアクシズにて帰らぬものとなる
兄の心中は如何ばかりだったのか?
それでも兄は生きる事を選んだ
見ていただけの自分の無力が余りにも情けなく、兄に色々な物を託されておきながら孤独のみを残した自身のあり様に情けなさしか感じなかった
兄に生きていて欲しかったのは嘘ではない
間違いなくゼナの偽らざる本心だ
しかし、兄の人生の後半の殆どは失意と絶望の中にあった
確かにミネバはセシリアさんのお陰で兄を見つけられた。それは素直に嬉しい事だ
「…ねぇ、兄さん?」
「どうした?」
ゼナの言葉に食事会の方を向いたまま応えるラウム
「兄さんは後悔していないの?」
「後悔したとしても、それがいつか笑い話になる時が来るもんさ
道は沢山あった。その中で俺は待つ事を選んだ
そしてあの子は周りの人達に助けられて俺の事を見つけた
…俺はな、ゼナ
人生における最大の財産ってのは出会いだと思っている。良き出会いになるか?悪い出会いになるかは知らんがな」
いつもの様に兄は淡々と話す
元々口数は多くなかった兄だが、自分が幼い頃は色々な話をしてくれていたのを朧げながらに覚えている
「そうなんだ
兄さん、お疲れ様」
「おう。漸くのんびり出来るかもしれんなぁ
ま、ゆっくりやるとするか。時間だけは飽きる程にあるんだからな」
私は兄と顔を見合わせて笑った
…そう、まるで兄と2人で暮らしていた時の様に
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時代により、道を
兄は妹を
妹は兄を
大切に思いながらも、それを口に出す事すら出来なかった2人
やっと2人は笑い合う事が出来たのです
あの貧しくも温かな生活を送っていた頃の様に
あとはミネバとの対面とイフルートの補完くらいになりそうな感じ
コロナになったみたいなので、皆様もどうかお気をつけて
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