義理の兄、なんだそれは!?   作:鞍馬エル

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 少女がひたすら求めたもの

男にとっての心残り
女にとっての遺したかったもの

20年もの月日を経てようやく


 繋がり

叔父であり、父として慕っていたラウムの死はオードリーことミネバにとってあまりにも大き過ぎる傷を残す事になった

 

親しい者の死は悲しい事だが数多く経験したことのある彼女であった。しかし、既に彼女の両親や親族は絶えて久しい。そう思っていたからこそ、ラウムの死は彼女自身すら想像しない程に深い精神的傷を残す事となった訳である

 

 

そんな彼女の支え足らんと夫バナージは何とか精神的に持ち直した。彼とてラプラスの箱を巡る一連の騒動の発端となる際に実父カーディアスを亡くしている

親しかった人達をあの戦乱で喪い『それでも』と必死で手を伸ばし続けたからこそフル・フロンダルにも勝てた

想い人であるオードリーと共に困難を乗り越えようと決意し、彼はその為に行動した。その結果、望外ともいえるラウムとの出逢いに繋がったのだからバナージの努力は確かに報われたのだろう

 

しかし、長い間絶望と共に過ごして来たラウムの身体は控え目に言ってもボロボロであり、ラウム自身が強烈なまでの病院に対する不信感を持ってしまっていた事も災いし、僅か2年も経たぬうちにラウムはその人生を終えてしまった

 

 

義父(ちち)としてラウムの事を慕っていたバナージにとってもラウムの死は決して浅くない傷をバナージにも残した

 

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そんなある日の事だ

 

いつもの様にオードリーとバナージはラウムの墓に行き、そこで墓を念入りに掃除していた

実のところ、オードリーとバナージが掃除するのは『週に3回』であり、セイラが週に2回。アーシタ夫妻とビダン夫妻がそれぞれ1回ずつしていたりする

 

掃除する必要、あるの?

と他人からすれば思われるだろうが、葬式が残された者達が前に進む為のものであるのと同じであった

 

ある意味ではまだオードリーとバナージ、セイラは前を向けていないと言うことでもあるのかも知れない

 

 

 

 

「…オードリー、誰かいる」

 

「…ええ、誰かしら?」

 

2人は見慣れない人物がラウムの墓の前で手を合わせているのを遠目で見た

 

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ラウムの墓は確かにアパートの外周にあるので、外部の人間でも訪れる事は出来る

しかし、ラウムの実家とも言えるクラヴァスはラウム達がコロニーに移住して以降疎遠というレベルではなかったと聞いてもいた

生前少なくともオードリーやバナージの知る限りでラウムを訪ねたのはハサウェイの一件くらい。心当たりなどなかったのである。故に困惑するのも仕方なかったといえよう

 

何せラウムの両親であるケイムとセリアの葬儀に出ないどころか、弔電の一つすら寄越さなかったくらいであるからして、元よりラウムも歓迎するはずがない。そんな話を知るからこそ当然だが、オードリーとバナージもクラヴァス本家の者達に良い感情など持てるはずもなかった訳である

ラウムはその交友関係の殆どが一年戦争前後のものであり、その殆どの者達は既に故人だろう。何せ既に20年以上経つのだから

 

ただの20年ではない

一年戦争を発端にグリプス、第一次ネオジオン、シャアの反乱、ラプラス事変

それ以外にも列挙出来るほどの武力衝突が起きた激動の20年だ

 

それこそ、ラウムの様に息を殺して歯を食いしばって生きる位の事をしなければ当時の者達は生きてはいられまい。そう思える程に過酷な時代だったのだから

それか、極少数ではあるがブライトの様に度重なる戦火をくぐり抜けるだけのものを持っているか、だ

 

 

殆どの者はジオンやザビの妄執に取り憑かれるか、或いはそれを言い訳(・・・)にして反連邦運動をするかを選んだ

 

かつてティターンズという宇宙市民に対して苛烈な事をした組織に属しながらも、その残党の一部はアクシズや火星圏のジオン系組織、またはシャアのネオジオンに合流していたりする

思想的には全く相容れない筈のティターンズとジオン系組織

その様な歪極まる道筋を選んだ理由の一つは憎悪だったのではないだろうか?

 

何に対しての憎悪なのか?

それは人それぞれだろうが、恐らくティターンズよりもエゥーゴを選んだ連邦政府ひいてはその様な世論を形成した連邦市民に対してではなかろうか?

一部からは『ジャミトフの私兵集団』と呼ばれていたティターンズであるが元々地球連邦軍の一組織に過ぎない

 

 

0083におけるジオン残党組織『デラーズ・フリート』

旧公国軍親衛隊隊長エギーユ・デラーズが中心となって作り上げた当時の地球圏における最大規模を誇る残党の集まり

 

如何に3年ほど前(一年戦争時)地球圏における大きな脅威であったジ

オン軍の頭脳であろうとも、所詮は非正規軍

連邦軍に比べてあらゆる点において劣っていた筈

 

 

…その筈だったのだ

 

 

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新型ガンダム開発計画、通称GPシリーズ計画

後世、つまりジャミトフやバスクや現在フロンティアⅣに駐留する予定の連邦艦隊司令タチバナなどもこの言葉を聞けば顔を顰める

 

「…恥の上塗りでもしたいのかね?」

とは当時ジャミトフら北米閥のトップを務めていたジーン・コリニー中将の言葉である

 

RX78-2(ガンダム)とその僚機であるガンキャノン、ガンタンク、コアブースターに母艦ホワイトベース

この部隊によるジオン軍のエース撃破は連邦軍人からすれば『己が職責を民間人に押し付けた』ものでしかない

 

「軍の機密に民間人が触れた?

おかしな話だ。軍の関係者ですら触れる事が難しい。故にこそ機密と言うのではないかね?それを吹聴されるのは困るが寧ろその機密に触れられる様な状態にした者達こそが真に非難されるべきではないのかな?」

とガンダムの一件を総括してとある連邦軍大将は断じたとされる

 

「戦争だ、非常時故の措置」

そんな言葉で民間人、ましてや少年少女の徴用が許されるなぞ旧世紀においても問題にしかならない愚行な筈

 

だからこそ『職業軍人』というものがあり、それが大きな立場を持つ事を政府などは認めている

 

その連邦軍の怠慢と傲慢の象徴ともいえるガンダムの新型を造るなどと云うのは余りにも外聞が悪過ぎる話だった

とは言え、製造元のアナハイムからすれば、連邦軍製しかも名前の知られているガンダムの開発実績があるとなれば企業としての今後に繋げられるだろうという思惑もあった

何せ当時のアナハイムはあくまでもMS開発、生産事業については旧ジオニック社関係者を中心としたものでなければまだ未成熟。それ故にアナハイム・エレクトロニクスとしてのMS事業に対する立ち位置は定まっていなかったのである

 

…それ故に彼等は危険なものに手を出したとも言えるのだが

 

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本来なら極秘計画であったこのガンダム開発計画を一介の残党組織であったデラーズ・フリートは見事に利用する事に成功

 

0083オーストラリアトリントン基地において、ガンダム試作二号機コードネーム『サイサリス』の武装である核弾頭の搭載が行われたその当日にトリントン基地は襲撃を受け、試作二号機はソロモンの悪夢ことアナベル・ガトーにより強奪される

デラーズ・フリートに協力したジオン地上軍残党はトリントン基地司令部に対する攻撃を行ない、マーネリ准将(当時)以下基地司令部要員を壊滅させ基地機能の排除を成功させた

 

宇宙への離脱用にデラーズ・フリートが用意したコムサイは撃破したものの、試作二号機と基地襲撃に参加したMSらは戦域を離脱。臨時に新型ガンダム開発計画において運用母艦としてトリントン基地にあったアルビオンとトリントン基地残存部隊は連携して二号機らの追撃を行なった

 

…が、『ジオン(敗戦国)の残兵』と侮ったか或いは二号機の危険性に注意が逸れたか、トリントン基地所属のカレント小隊とアルビオンのバニング小隊による捜索を行なう

そして死神の鎌はカレント小隊の命を奪い、オーストラリアジオン残党の決死の抵抗もあってか試作二号機はオーストラリアよりの離脱に成功してしまう

 

 

その後、連邦軍の対応は常に後手に回り続けた挙句同年11月、つまり僅か半月後にコンペイトウ。旧ジオンの拠点ソロモンにて行われた観艦式の襲撃を許し、連邦軍総旗艦バーミンガムを始めとした参加艦艇の大半を試作二号機による核攻撃にて喪失した

 

戦力としても痛かったが、何より連邦軍の人員という意味においてもその観艦式襲撃の被害は大きく、デラーズ・フリートの残存部隊を討伐した僅か後に発足したティターンズ。それに対抗する為に結成されたエゥーゴ

これらに属さない真に連邦軍たり得た者達の何と少ない事か

 

 

そして、ティターンズとエゥーゴはあくまでも『地球連邦軍の一組織』であるにも関わらず増長した

ティターンズはエリート意識を持つ様になり、エゥーゴはそのティターンズに対する危機感からか身元の定かではない人物すら自勢力に加え始めた。挙げ句の果てには民間人すら志願兵という形で動員したのである

 

 

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ティターンズの新型ガンダム、ガンダムMk-Ⅱはあくまでも正規兵による運用を行なう事で一年戦争におけるガンダムの運用つまり民間人に対する戦闘行為の強要。の記憶を上書きする意味もあった

 

ところが、グリーンノアにおいてエゥーゴに強奪された新型ガンダムのパイロットはまさかの民間人

この事実を重く見た連邦政府はティターンズに対して『速やかな事態の解決』ならび『新型ガンダムの運用の停止』を命じた

 

ところが、奪取された機体のみならずティターンズ士官エマ・シーンが自身の登場するガンダムMk-Ⅱを持ってエゥーゴに投降。これをエゥーゴはそのまま運用する事になる

 

 

繰り返すが、ティターンズもエゥーゴもあくまでも『地球連邦軍』の部隊の一つに過ぎず、いわばティターンズとエゥーゴは内乱を引き起こしていると言われてもおかしくないものだった

 

政府はこのエゥーゴのやり方に対して猛反発。一年戦争におけるレビルの独断を想起させるが如き所業を行なったエゥーゴの指導者ブレックス・フォーラに対して非情とも言える決断を下す事となる

 

「地球圏の平和を保つのが連邦軍の仕事

いつの間に君達は自分の主張の為に勝手に戦争を出来る権限を与えられたのかね?」

連邦政府高官はティターンズに対してブレックスの処理(暗殺)を指示。更にアジアにてエゥーゴの地上活動の支援していたカラバならびそのスポンサーであるルオ商会らに対してそれ相応の対応(・・・・・・・)をする事とした

カラバの指導者は一年戦争の際に民間人でありながら戦争に参加させられていたハヤト・コバヤシ

 

だが、それがどうしたというのか?

それについての補償を連邦軍は行なっているはずであり、今の彼は一民間人に過ぎない

 

 

結果、カラバに対する支援を打ち切る様にルオ商会などに圧力をかける事となる

更にダカールにおける連邦議会占拠を受けて、連邦政府はエゥーゴを危険因子と判断。結果第一次ネオジオン紛争におけるエゥーゴへの援護などが行われない事に繋がる事となった

 

ジュドー等からすれば、決着がついてから来たと見えるだろう

 

 

その通りなのだ。連邦政府にとってエゥーゴとは『テロリスト以下の存在』であり、地球連邦軍として認めていない

故にアクシズ()エゥーゴ(テロリスト以下の存在)を争わせて最後だけ介入する

 

という大凡現場の将官達の考えなど完全に無視したやり方を彼等は選択したのである

何せ連邦軍はティターンズとエゥーゴ。それに連なる組織の暴走を何一つ防げなかったのだ

であれば、最早連邦軍の組織としての権威など必要なかった

 

「指示はする。君達はその通りに動きたまえ」

 

当時の連邦軍総司令官は連邦政府よりの通達に対して何も反論出来なかった

人材がただでさえ一年戦争時に消耗したのに、僅か3年後の『デラーズ紛争』における観艦式襲撃で更にダメージを受けた。その上『グリプス戦役』においてティターンズとエゥーゴで勝手に争い消耗

元々連邦軍の組織であった筈の彼等の抗争は贔屓目に見ても『自分の手足が勝手に喧嘩して傷付いた』ものであった

 

「戦力が足りない?

おかしな事を言うものだ。少なくとも新型を開発、量産出来る程度には予算はつけているし、地球圏において大規模な争乱は起きていない筈だが?

『対外戦争』はデラーズ紛争以来の筈ではなかったかね?

…ああ、そうだったな。君達の『思想の違い』で起きたグリプスがあったのだったか」

 

グリプスの傷の癒えぬまま、ハマーン率いるアクシズとの戦争に突入した。それを受けて当時の連邦軍総司令官は政府に対して『早急に連邦軍を立て直す』べく予算などを求めた際、財務大臣から言われた言葉だった

 

それはある意味事実であったが故に連邦軍総司令官は返す言葉を持たなかったという話もある

 

「我々の目下の脅威はアクシズかも知れぬ。が、それよりも片付けねばならぬ問題もあるのではないか?」

 

連邦軍再建の為の臨時召集された議会の場にてそう発言した者がいたくらい彼等は『連邦軍に対する不信感』を深めていた

それと同時にアナハイムのやり方に対しても嫌悪感を示す者達が政府内において密かに増えていった訳だが

 

 

そして『ロンド・ベル隊』創設において、その不信感は最早拭い去れる程度の物ではなくなった

 

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ロンド・ベル司令

ブライト・ノア大佐(・・)

MS隊隊長 アムロ・レイ大尉(・・)

 

 

この人事を目の当たりにした連邦政府高官の多くは連邦軍に対して嘲笑或いは冷笑をぶつける事を躊躇う事をやめた

 

 

この両名はグリプスの一連の戦いにおいてティターンズ(連邦正規軍)に対して刃を向けてきた人物である

エゥーゴが勝ったなどという事はどうでも良い事(・・・・・・・)

 

大事なのは両名は連邦軍に対して不利益を与えた事である

一年戦争時には確かに貧乏籤を引かせたのは間違いないだろう

 

 

が、当時少尉であったブライトは僅か数年後には中佐にまで出世している

異例以外の何者でもないだろう

 

アムロについては確かに政府として軟禁していたのは事実だ

だが、だからといって反連邦組織に所属して良い理由にはならない

 

 

 

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政府としての見解はティターンズは連邦正規軍であり、エゥーゴは()連邦軍所属のアナハイムの私兵組織というものだ

 

勝ったからエゥーゴが正規軍

などと頭のおかしな理屈など、軍組織のみならず政府の信用問題にも関わる重大すぎるものである。当然だがあり得ない

 

 

元ティターンズ将兵が連邦軍に帰参するのであれば、連邦政府としては咎める理由はない

 

そう

連邦政府()

 

 

言うまでもなく、グリプス戦役において連邦軍に対する信頼は失墜。ティターンズは地球市民の利益の為。やり過ぎた部分もあるだろうが、その基本スタンスは変わらなかった

シロッコとか言う青年がティターンズを掌握するまでは、だが

 

エゥーゴは反ティターンズを掲げ、活動していた

加えて連邦軍拠点ジャブローに対する侵攻や連邦議会占拠。挙句ブレックス亡き後の指導者は『ジオンの赤い彗星』と名乗る事を躊躇わない男。更に本来認めてはならない、いやそもそも交渉などしてはならないはずのエゥーゴが独断でアクシズと交渉している

 

背任行為の上に越権行為にテロ行為

野球で言えばスリーアウト。エゥーゴの取り潰し待った無しであろう

残念ながら、グリプス直後の連邦軍の弱体化のタイミングでアクシズが本格的に地球侵攻を始めたが為にそれが叶う事は終ぞなかったが

 

 

が、連邦軍に当時属していた、つまりティターンズにもエゥーゴにも参加しなかった者達からすればグリプス戦役自体が理解に苦しむものであった

月にコロニー落としを敢行しようとしたり、再度の毒ガス攻撃を企図したティターンズ。やり方こそ問題であったが、前者はエゥーゴのスポンサーであり、戦争の火種を地球圏にばら撒くアナハイムに対する制裁(・・)の意味が大きかった

加えて、0083におけるデラーズ紛争時自らを守る為とはいえデラーズの思惑に手を貸す事となった月面都市に対する恫喝でもあった訳だ

 

後者については、最早言うまでもない

一年戦争において3つものサイドがジオンの攻撃により崩壊。更にサイド5ルウムはルウム戦役の余波を受けて壊滅的被害を受けている

が、ジオンはこれの復興をしないばかりかそれで出来た暗礁空域はデラーズの拠点の隠れ蓑として機能すらしていた

忘れてはいまいか?

 

あの忌まわしい一年戦争によって

 

人類の約半数が死んだ

という事を

 

加えて言えば、その犠牲は一年戦争開戦初期、所謂『1週間戦争』とも言われる時期に発生していた

それだけの犠牲を生み出した温床とも言える宇宙市民に対して連邦政府が神経を尖らせるのも当たり前とすら言える

 

 

ティターンズの暴虐の象徴とも言われている『30バンチ』

このコロニーとて、連邦政府が一年戦争後コロニー再生計画の一つとして再生させたに過ぎない

更にデラーズ紛争においては中立であるはずのコロニー公社にすら牙を剥き、輸送中のコロニー2基を強奪。その1つを地球に落としている

 

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「反連邦の声を上げるのも自由だ

が、彼等は数年前に自分達の同胞達が地球に何をしたのかすら忘れている様だ」

 

「やれやれ

地球市民の資産を使ってまで再建させたと思えば、声高に反発するか

…やむを得ない。デラーズ共の様な存在を生みかねない温床は潰さねばならぬ

ティターンズに事態の鎮圧を要請(・・)せよ」

 

30バンチにおける反連邦運動が起きた際、当初連邦政府は穏便な解決(・・・・・)を求めた

が、それに対するバンチ側の反応は余りにも鈍く、連邦市民にこれが伝われば漸く落ち着きを見せてきたはずの『反宇宙市民感情』がまた高まりかねないと判断

ティターンズ(治安維持部隊)に然るべき処置を命じたのである

 

 

やり過ぎであった事は間違いない

が、一々コロニー一つの反連邦運動を穏便に治める労力を連邦政府としても供出するつもりなどなかった

 

「生活出来るだけの環境は整えた

それで不満があるというなら、それなり(・・・・)に扱うしかなかろうよ」

一年戦争から5年程経っていても、一年戦争の傷跡は地球各地に残されていた

速やかなる復興を望む連邦市民にとって、それを妨害する宇宙市民のやり方は不満しかもたらさなかったのである

 

更にデラーズ紛争自体は連邦軍の公式記録から抹消されていたが、連邦政府としては当然因果関係やデラーズ・フリートの背後にいる者達についての調査を政府主導で進めていた

その結果判明したのが、中立を盾に残党を受け入れている月面都市や密かにデラーズへと支援していたジオン共和国などの存在

 

言うまでもないが、発端となったガンダム開発計画を行なっていたアナハイムについて連邦軍は重用していたが政府としては代わりがいたなら即座に切って捨てる意見も出ていたりする

同計画の発起人にして最高責任者であるジョン・コーウェンについては軍法会議などというなまぬるい(・・・・・)事を許す事はなかった

 

MSや運用母艦の独自運用を行なった士官や佐官についての処分は連邦軍に任せていたが、その件についても不信感を持つ理由となっていたりもする

 

 

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そんなこんなの事情はさておき、ブライトについて政治家の一部の連中が「あの男が政界に出ては面倒」などと暗躍していた

本人としては甚だ不本意だったかも知れないだろう

 

が、事実としてブライト・ノアは一度『軍組織にありながら軍の混乱を助長させた』エゥーゴに参加したという事実がある

 

少なくとも、当時の連邦軍の資料にブライト・ノアをエゥーゴに参加させるという様な命令は存在しない

 

 

エゥーゴのブレックスやヘンケンは元より論外。クワトロやアポリー、ロベルトらも同じく論ずる必要すらないだろう

そして、ブライトやティターンズから勝手に(・・・)投降した挙句エゥーゴへと参加したエマ中尉については軍法に照らし合わせれば極刑間違いなし

グリプスという明らかに連邦政府からすれば意味不明な争いにより、連邦軍は疲弊し、結果としてアクシズによる地球圏のさらなる混乱が引き起こされたのは紛れもない事実なのだから

 

あくまでも、特殊な事情(連邦軍の戦力払底)によりブライトは温情をかけられただけ

しかし、一度思想で動いたブライトを信用しろと言われたところで信用出来るはずもないのも事実であった

 

 

クワック・サルヴァーのやり方は問題しかなかったが、連邦政府はおろか連邦軍内においてもブライトに対する不信と不満は確かにあったのである

それ故にマフティー(ハサウェイ)を利用してブライトの声望を貶めようとした者達も実は存在したのである

 

 

 

度重なる戦火

その勝利の度に疲弊する地球圏と傲慢になる連邦軍や連邦政府に属する者達

 

だが、それを良しとしない者も確かにいたのである

 

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「…おや?君達は」

 

「あ、いえ」

 

「私達は」

ラウムの墓の前で手を合わせていた老齢の人物

その人物はバナージとオードリーに気付くと頭を下げる

 

「いやお互いの為にも名乗らない方が良いかも知れないね

私は唯の老人で、君達はこの人物に縁のある者達

それで良い」

 

「…そう、かも知れませんね」

バナージとしても、あまり妻オードリーの事を詮索されたくなかった為にこの提案を受ける事にした

 

老人も少なからずラウムの事を知っているが故に目の前の2人が何者であるのかは理解している

が、既に彼の役目は終わったのだ

 

『老兵は死せず、ただ去るのみ』

極東における慣用句の一つであるが老人は真理であると思っているし、彼もまたそうあるべきだと常々考えていた

 

ある意味ではこの場に来たのも自分なりのケジメに過ぎない 

 

「知り合いなのですか…この人とは?」

オードリーとしても自分達の立場の危険性は理解している為に話を合わせるしか選択肢はない

とはいえ父として慕っているラウムを他人の様に扱わなければならないのは彼女にとって辛いものだったが

 

「名前は伺っていた。お会いした事はないが」

男は感慨深そうに目を閉じた

 

 

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彼はオーストラリア生まれの人物であり、育ったのも同じオーストラリア

一年戦争の時の記憶はあまり無いが、それでも『空が落ちてきた(・・・・・・・)

あの光景だけは死ぬまで忘れないだろう

 

ジオンによるコロニー落とし

その直接的被害者の一人である

 

が、当時彼の両親や親戚達が必死に生活している中で助けてくれたのが同じジオン軍であったのは何の皮肉だったのだろう

 

 

混乱極まった当時のオーストラリアやオセアニア地区

連邦政府は早期の復興の為の臨時予算を決定した。しかし、ジオンとの戦争継続により壊滅的被害を受けた連邦軍の再建を急がねばならなかった。その為、復興予算の大半は連邦軍再建に回される事となり、結果としてコロニー落としによって壊滅的被害を受けたオーストラリアやオセアニア地区に対する支援は限定的なものになってしまう

 

しかも、その支援すらも『連邦軍維持』の為に必要とされる所へと優先的に回される始末

当然現地住民からは不満の声が上がったが、それを統治者側や地区の代表であるはずのクラヴァスは無視

シドニーやキャンベラといった消滅した都市郡の残骸から物資を探す者すらいたと言えば、その困窮の程が理解出来るだろうか

 

 

連邦軍はジオン軍による地球降下作戦の成功を許してしまったが為に、復興を担う筈の地上すらも戦火に晒される事となった

 

これには連邦政府も仰天し、連邦軍参謀部や総司令部に対して

 

「ジオンは地上にまで攻め込んで来た

しかも連邦軍は各地で敗退続きだと聞く。これでも君達はまだ戦争を続けるつもりなのか?」

と何度となく質問している

 

因みにジャブロー襲撃を凌ぎ切り、オデッサを奪還した時点でも連邦政府はジオン側との停戦について考慮すべしとの意見はあった

 

「サイド3まで連邦が管理出来るわけがない

多少なりとも彼等に自治を許すべきだ。それともいつまた起きるか分からない戦争の為に不良債権(巨体化した連邦軍)を維持し続けるというのか?」

宇宙に進出したからといって、宇宙市民が思う程に地球市民の生活水準が高い訳ではない

高いのは本当に極小数の者達だけ

 

 

かの名将と一部では評価の高いレビル将軍とて、この少数派

本当に貧しさの恐ろしさを知る者は連邦軍、連邦政府の上層部にはいなかった

 

一年戦争には確かに連邦軍は勝利した

しかし、その結果は無様なものだった

 

 

ジオン公国という圧倒的に経済力や軍事力で劣るはずの国家に連邦軍や連邦は半年程の間圧倒され、軍人の質も明らかに低下。更には連邦軍人が平然と政治に対して口を挟む事すら行なえる様になっていた

 

まぁ、政治に携わる者としてはそれでも彼等の役目を果たしているのならば仕方なしと無理矢理納得させられただろう

 

 

その結果がグリプス戦役(連邦軍同士の内乱)

 

パラヤ外務次官がシャアの反乱においてロンデニオンでの交渉を担当したのも『連邦軍に任せては戦争にしかならん』

という根強い不信があった

 

彼もまたそうである

 

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ジオン公国により、MSやMA。更にそれを運用する為の艦艇もそれまでとは違う方向とはいえ進歩したと言っても良い

 

一年戦争が起きたのは0079

それから20年以上もの間にそれらの技術は凄まじい勢いで発展。もはやそれ抜きでの戦争など無謀以外の何者でもない。そう言える程に発展しただろう

 

 

ところが、それに比して経済や地球環境はどうなったかと言えば

経済は軍事産業企業化したアナハイムが連邦軍や連邦政府にすら口を出せる程になったり、旧世紀からの課題とも言える地域格差は小さくなるどころか更に拡大

宇宙に進出した大きな理由の一つである地球の地下資源の保護も全く出来てすらいない

 

度重なるコロニー落としや戦乱により地球環境は悪化の一途を辿っており、正直なところとして見通しは暗い

 

やれニュータイプだ強化人間だ

などと言っても、それらの存在が話し合いによっての解決を望む事なく非正規組織として武力抗争を挑んでくるだけである

 

火星におけるジオンやティターンズ残党

少し前に起きたヌーベル・エゥーゴとやらの蜂起

まだジオン公国という一国家を以て挑んで来たギレン・ザビの方が遥かに話し合いになっただろう

 

 

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男はオーストラリアにおけるクラヴァスの凋落によって、連邦議員としての立場を失った

ラウム・クラヴァスに対して思う事がないとは言わない

 

が、それは泉下のラウム本人にぶつけるものであって、その縁者にぶつけるなど大人としての矜持がそれを許さない

既に自分達の時代は終わったのだ

 

 

余りにも醜く、余りにも悍ましい

そんな時代は確かに終わりを告げた。いや、終わらねばならない

 

連邦軍の裏役である、とある人物もまもなく引退する

次なる戦乱の芽が出ているが、それは最早自分達が出る幕はない

 

男はオードリーとバナージと少し世間話をした後、ラウムの墓を後にした

 

 

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「おやすみなさい、バナージ」

 

「オードリーもゆっくり休むんだよ?」

 

私は夫とそう話をして寝室に向かいました

既にバナージとは夫婦なのですから、別に寝床を共にしても良いのです

 

 

…ですが、私の血を後世に残して良いのか?というしこりが私の中にあるのです

バナージはその辺を察してくれているのか、そこについては触れようとしません。本当に涙が出る程に情けなくもあります

 

お父様も

 

「別に気にしなくても良い

ミネバ。お前という確かな証があるのだから、お前やバナージ。それにジュドー達やお嬢も手伝ってくれる

道を違える事はないだろうさ」

と言ってくれてはいました

 

 

それでも。いえ、だからこそ

私に流れる血は更なる争乱の元になりかねない事を私は誰よりもよく理解しているのです

 

お父様だって、ザビ家の血を継ぐ訳でもないのに20年もの間息を殺して暮らさねばならなかったのですから

私は自分の子供達にそんな苦労をさせたいとはどうしても思えないのです

 

お父様が亡くなって、それを考えるとどうしてもバナージの優しさすら痛みに変わってしまいます

 

バナージもビストという血を継いでいると言えるのですが、だからこそそこに触れるのは躊躇われます

 

 

痛みを知るからこそ、優しくなれる

 

…でも

 

その痛みを知るが故に、それに触れる事を躊躇してしまう

 

 

…お父様、私はお父様が思う程に強くないのです

 

 

 

どうして私を置いて行ってしまったのですか、お父様

いつも私はそう呟いて眠ってしまうのです

 

私はまだあの温かな場所に居たかったのに

 

 

 

 

 

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「ここは、どこでしょうか?」

 

眠った筈の私が意識を取り戻すと、私は見知らぬ場所にいました

 

「…月、でしょうか?」

 

遠くに見えるのは恐らく月なのでしょうが、私は全く理解出来ない状況に置かれてしまいただ困惑するばかり

 

 

そこに

 

 

 

「これが儂やギレン、ドズル達の見ておった風景じゃよ。ミネバ」

そう私の背後から声がかかりました

 

 

 

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地球から最も離れた場所にあるサイド3

故にこそ、地球への帰属意識よりも地球による支配体制に対して反発を覚えた

 

彼等にとっての隣人は月、正確には月面都市グラナダであり、他のサイド群すらも遠い存在でしかありませんでした

無論、月の向こう側には地球がありましたが、その地球を一年戦争前に直接目にしたサイド3の人間というのは余りにも少なかったのです

 

全ては映像の、書籍の中にしかない地球

しかし確かに自分達の生活に対して明確な圧力を加えてくる存在。それが多くのサイド3市民にとっての地球という存在だった

 

ジオン・ダイクンや彼の様に他のサイド群で独立運動をしていた者の中には多少なりとも地球に関わる仕事をした事のある者は殆どいなかった。当時地球に携われるコロニー側の仕事が出来るというのはある意味エリート階級と言っても過言ではなかったから

 

 

グラナダ(月の裏側)しか見えぬ。我等は暗に『日陰者』と言われている様な心持ちじゃった

勿論それはただの被害妄想に過ぎぬやも知らなかったがな」

 

「あ、あなたは」

 

「無骨なドズルの娘にしては随分見目麗しいものだ

…いや、ゼナに似たのだろうな」

 

「だが、芯の強さは明らかにドズルに似ている

全くもってよく似ているものだ」

 

「…はぁ、父上も兄上方も開口一番の台詞がそれとは

会うのは初めてですね、ミネバ」

 

「心優しく真っ直ぐだ

本当に義兄上には苦労をかけたのですね」

 

「あ、あ」

私は涙が溢れてくるのを辛うじて堪えます

 

「ほら、あなた。いい加減にしてください

娘の前ですよ?」

 

「さっさとしないか、義弟殿

こんなみっともない姿を娘に見せるつもりなのか」

 

お父様、いえおじさま(・・・・)と金髪の女性に腕を引かれて大柄の男性が来ました

 

「む、むぅ

わ、わかったからそろそろ手を離してはくれんか?」

 

そして、おじさまは先に声をかけてきた人達に目配せして、少し私達から離れます

 

「初めまして。と言うのはおかしな話ですね

久しぶりですね、ミネバ。元気にしていましたか?」

 

「20年以上経つが、よく

よくぞ立派に生きてくれた。ありがとう

そして、すまなかったなミネバ」

 

お父様、お母様

私は、わたしはっ

 

私は涙で前が見えなくなりながらも、両親に抱きつきました

 

「ようやく、やっと貴女と言葉を交わす事が出来ました

辛く、悲しみの溢れる道のりだったでしょう」

 

「よくぞ生きててくれた

俺の

いや、俺達の可愛いミネバ」

 

生まれて直ぐに喪った父の温もり

僅か一年足らずで喪った母の温かさ

 

私はやっとそれを手に入れる事が出来たのです

 

 

 

 

 

 

 




 消しては書いての繰り返し
その結果此処まで時間がかかりました(白目)

来月くらいにはもう一話かけると思います

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