義理の兄、なんだそれは!?   作:鞍馬エル

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人は出逢いと別れを繰り返しながら、明日へと向かう

その背を見送るは


 家族

「やはり溜め込んでおったか」

 

「そりゃそうでしょうよ

幾らミネバが強い娘だとしても、それはあくまで『斯くあれかし(そうあれ)』と周囲から願われたが故の事

あの子は家族の温もりをこの広い世界の中で求めていたのですから」

 

20年越しの再会を涙ながらに喜んでいる3人を少し離れた所で見ていたデギンの呟きにラウムはそう応えた

 

 

「…自分達のした事について間違っているとは思わんし、思う訳にもいかん

が、ああして姪が涙を流しているところを見ると流石に心苦しくはあるものだな」

 

「そりゃそうでしょうよ

ギレン義兄上とて、血の通っている人間なんですから

それはこの場にいる者達や親衛隊長(デラーズ氏)、セシリアも知ってますよ」

 

「…ふ、そうだな」

 

ギレンは思わずこぼした言葉にキチンと応ずる律儀な義弟に少しだけ口元を緩ませる

 

 

「気高く生きたものだ

が、余りにもミネバに多くを求め過ぎたのではないか?

後で色々話をしなければ(・・・・・・・)ならんな」

 

「…程々にしてやって下さいよ?サスロさん」

 

明らかに不穏な雰囲気を纏っているサスロにラウムは無駄と思いながらも自制を求めた

 

(まぁ仕方ないと諦めてもらおうかな

頑張れハマーンの嬢ちゃんとキャスバル。…が、フロンタル。貴様は別だ)

ラウムは此処に来る直前、娘達(シスターズ)からフロンタルを見つけたと聞いている

何やら喧しい男が張り付いているらしいが、関係ない

 

クェスに確保(・・)する様に話をしている

なので問題ないだろう

何せ相手は可愛い姪を利用しようとした輩だ。是非ともゆっくり話をしなければならないとラウムは考えていた

 

 

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extra mission

 

フロンダルを確保せよ!

 

敵ユニット

ローゼン・スール(???)

シナンジュ(フロンタル)

ギラ・ズール(袖付き親衛隊)

 

自軍ユニット

α・アジール(クェス)

クシャトリヤ(マリーダ)

クィン・マンサ(プルツー)

量産型キュベレイ(プルシスターズ)×7

キュベレイMk-Ⅱ(プルツー遠隔操作)

 

友軍ユニット グループA

キュベレイ(ハマーン)気力限界突破

ゲルググ・マリーネカスタム 指揮官仕様(シーマ)戦意MAX

サザビー(シャア)気力限界突破

エルメス(ララァ)戦意MAX

ハンブラビ(ヤザン)楽しそうなので参加

ハンブラビ(ラムサス)

ハンブラビ(ダンケル)

バイアラン(???)

ガブスレイ(???)

ジ・O(シロッコ)渋々参加

 

友軍ユニット グループB

グワデン(デラーズ)

ノイエ・ジール(ガトー)

ドラッツェ(デラーズ・フリート兵)×12

 

フロンタルは生き残る事が出来るだろうか?

 

 

 

なお時間が経つと(ターン経過で)増援として

グレート・デギン(デギン)

ドロス(ギレン、ラウム)

ドロワ(サスロ)

グワジン(キシリア、ゼナ)

ビグザム(ドズル)

グワリブ(ガルマ)

グワンザン(ハスラー、マハラジャ)

が参戦する模様

 

 

 

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閑話休題(それはそうとして)

話を戻す

 

「強いと言っても1人の娘

いったい何をあの娘に求めていたのやら。嘆かわしい事ではありませんか?ラウム」

 

「そうですね

私ももう少し早くミネバを見つければ良かったのやも知れませんが」

 

キシリアの言葉に己の不甲斐なさを悔やむラウム

 

「勘違いしてはなりませんよ、ラウム

確かに貴方とて一市民としては破格の経歴を持ってはいるでしょう。加えてゼナの兄で我等兄妹の義理とは言え家族

だからこそ、貴方もまた担がれるに不足ない神輿たり得るのです。私も父も兄達もそんな事を望んではいません。貴方は貴方の出来るだけの事をしたのです」

 

ラウムの言葉を聞いたキシリアはそうラウムを諭した

 

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キシリア・ザビという人物は確かに謀略や策略を好む部下を多数持ち、兄ギレンや兄サスロの様な冷徹な事すら平然と行なってきた

 

されど、それはそうしなければならなかったが故の事

 

私人としてのキシリアはなんだかんだ言っても優しい、ともすれば甘いとすら言える様な気質を持つ女性だった

それは義理の妹であるゼナが弟ドズルと共にソロモンに赴任する際、自身の配下の女性士官を10名程度ゼナの直属としてつけようとしていたり、ゼナがミネバを宿した時にはグラナダ中の店をまわろうとした事などからもわかる

 

余談ではあるが、キシリアの話を聞いたデギンは

 

「むぅ、ならばどうしたものか

…おおそうだ。確かサハリンに妹がおったと聞く。その者をゼナの従者として付けるとしよう」

と公王府で発言している

なお偶然居合わせたダルシア・バハロジオン公国首相は

 

「…お気持ちは分からなくもありませんが、流石に公私混同が過ぎますぞ。それに総帥が認めるとも思えません。再考すべきかと」

と意見している

 

キシリアとデギン両方の提案を聞いたギレンは

「父上もキシリアも舞い上がるなとは言わんがな

もう少し節度を持ってもらいたいものだ」

と頭を抱えたとかなんとか

 

結局、ゼナの事情(クラヴァス)に多少理解のある人間が望ましいとしてサイド3に残っていたマハラジャの娘であるマレーネが選ばれた訳ではあったりする

 

 

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「20年ぶりの再会、か

私達のした事がこうやって家族を引き裂いたということなんですね」

 

「そういう事だ

とは言え、こればかりはどうにもならんさ。日常生活を送っていても死別する事はある。戦争を肯定するつもりなど微塵もないがな」

 

「ラウム義兄上の日常生活は世間一般のそれとかけ離れている気がするのですが」

 

「ん?そうか」

 

ガルマは意外とその辺に無頓着な義理の兄に苦笑する

何せコロニーに渡ってからはコロニー独立運動という鉄火場に身を置いていたし、ゼナを守る為にかなり危ない橋を渡っていたと父や兄達からこちらに来て聞いた

 

「アレもまた狂っていたのだ

ただその方向が我等とは違うだけでな」

とは兄の言葉

今でこそ朗らかに笑う様になった義理の兄だが、此方に来るまでの兄は本当に見ていられなかった

正確には彼を一番良く知るゼナはいつも沈痛そうな表情を浮かべていたのをガルマだけでなく、皆が知っていた

 

そして漸く兄と義理の姉も娘と再会出来たのだ

これを喜ばない家族はいない

 

 

「争いはまだ続くのだろう

が、既にそれは俺達の責ではない。俺達を都合の良い言い訳にしているに過ぎんさ」

 

「…やはりまだ起きますか」

 

ガルマの問いに

 

「ハサウェイについては足をギリギリで止めたが、彼に従おうとした者や連邦政府に不満を持つ者は寧ろ一年戦争の時よりも増えているまである。暴力で抑えつけていたとしても何れそれは崩壊するだろうよ

それこそ旧世紀の歴史を紐解けばそのくらい解ろうものだが」

 

「歴史、ですか」

 

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」

 

「…それは?」

 

「旧世紀に言われていた事らしいな

過去から学び想像を働かせられるか否か?そういう事なのだろう

昔の事と思わずに学べば意外と面白いものだ」

 

それに当てはめるならば、今の連邦は間違いなく愚者以下なのかも知れない

ガルマはそう思った

 

「ミネバ達は大丈夫なのでしょうか?」

 

「なぁに心配する事はないだろうさ

あそこにはそれなりに優しさと強さを兼ね備えた者達がいる

今更ジオンやザビの旗を掲げようとするのは余程の物好きだけだろうよ」

 

ガルマの心配をラウムは笑い飛ばす

実際のところはそんな訳はないとラウム自身思っている

が、既に常世に在るものでない義弟を悩ませるものでもないとラウムは思っている

 

生者は明日へ向かい

死者はただ佇み、その背を見送るのみ

 

自分達に出来る事は無いに等しい

この再会を以てラウムは一切の介入を止めるつもりだ

 

 

「いつまでも死者が常世に介するなど道理から外れているからなぁ」

とシャアやララァ、ハマーン達からの質問に対するラウムの答えだった

 

 

 

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「ミネバにも背負わせてしまったな」

 

「元よりそれを理解していたでしょう

唯一残っていた親族でありながら、20年もの間放置していた自分こそ責められるべきかと」

 

「いや、儂等の目算が甘過ぎただけの事

あまり気に病むでない。ラウムよ」

 

デギンとラウムは感慨深そうにミネバ達を見つめていた

ラウムは確かにゼナの兄ではある

が、立ち位置的にはどちらかと言えばゼナの保護者、親的なものでありデギンと似た様な見地にある事が多い

ましてや、ミネバの父として最期の頃は振る舞っていたラウム

癖の強いザビ家の兄妹の父であったデギンとはシンパシーを感じていたりもするし、デギンもそれを嬉しく思っている

 

当然の様にジオンを煽り倒していたりするが、これは生前からの恒例行事なのでその辺を知っているギレン、サスロ、ラウム、マハラジャらはスルー安定だが

 

 

「あの子は漸くザビ家の呪いから解き放たれるでしょうね」

 

「まこと優しい子だな。不甲斐ない儂等の責を背負って、それでも立派に生きてくれた」

 

ラウムの言葉をデギンは否定しない

そうザビ家の栄光だ、ジオンの栄光だと言うものもいるがこれは呪いとしかデギン達には思えない。無論自分達のした事ゆえにそれを甘んじて受ける覚悟はとうの昔に出来ている

 

が、余りにもデギン達の思惑を超えてジオンやザビ家に囚われてしまった者達が多かったのも事実なのだ

 

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ラウムとしてはあまり現世に介入したくはない

しかし、あのままではミネバがバナージとの子を成すとは到底思えなかった

子を持つ事だけが幸せとはラウムとて思わないが、少なくともその選択肢すら持てないのは不幸であるとは考えている

 

勿論、子供が出来るかどうかは本当に縁があるかないかの問題にもなるのでそこまでは関知しないが

 

 

それに

 

「叔父を父と誤魔化し続けるのも限界がありますからな」

 

「…すまぬな。死してまだお主には負担をかけておる」

 

ラウムとしても父と慕われるのは悪くなかった

いや、寧ろ嬉しかったとすら言えるだろう

 

だが、やはりキチンと正さねばならない事でもある

 

 

 

届かぬ星に手を伸ばし続けてもいつかは折れる時が来ないとも限らない

 

故にラウムはミネバの手を取った

 

 

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だが、ラウム・クラヴァスにとってミネバ・ザビは愛する妹ゼナと愛すべき義弟ドズルの娘

それは例えどれだけ世が変わったとしてもラウムの中で変わる事のないただ一つの真実

 

ましてやその2人と会う事が出来ると言うのにどうして臆面もなくミネバの父と名乗れようか?

 

ラウムには娘はいない

娘の様な存在は何故か死後増えているが、ラウムの血を分けた親族は存在しないのだ

 

寂しくないと言えば嘘になろう

が、これが在るべき姿であって今までが歪だっただけの事

 

 

ラウムはデギン達と並んで3人を眩しそうに見つめていた

 

 

「…」

それを横目で見られている事すら気付かない程にラウムは漸く再会できた家族を見つめていたのである

 

 

 

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「すまん、親父に兄貴達

本当ならすぐにでも話をしてもらうべきだったのだが」

 

「ドズルよ

お主等は20年以上会う事がなかったのだ。何故再会を喜ぶ事を責めようか

そこまで儂も皆も器が小さい訳でもない。気にするでない」

 

「そうは言いますがお義父(とう)様」

 

「ゼナ

父上も我等もお前の兄も誰一人として気にしておらん

寧ろたった30分程で良かったのか?と聞きたい位だな」

 

「…ありがとうございます

ギレンお兄様」

 

気にやむゼナに対してしっかり口に出して気遣うギレン

そのギレンに頭を深々と下げるゼナ

 

 

なんだかんだ無茶苦茶やっていたりする彼等であるが、それでもキチンとした対応が出来るからこその生前の立場なのだ

 

「しかし、なんだな

権力者になぞなるものではない。お前達を此方から見ていた時から俺はそう思ったが」

 

「あの時はそれが最善だと思えたのですよ、サスロ兄さん」

 

「とはいえ狂騒に飲まれていなかったか?

と聞かれたなら、そうではなかったとも言い切れませんね」

 

「あの時は本当に時代の変革期だったのではないかと思いますよ

後になってからああだこうだと言えるでしょうが、果たしてあの時に居合わせて果たしてどれだけの事が成せるやら」

サスロの言葉にキシリア()が、ガルマ()が、そしてラウム(義理の弟)がそれぞれの反応を返す

 

 

サスロ・ザビという男はギレンの様な冷徹さ、いや冷酷さとやもすればドズルの様な少しばかり粗暴な面を持つ人物だった

周囲にそう思わせる事がサスロ自身の狙いだったとはいえ、流石のサスロとて家族にすら自身を偽らねばならなかったのは本人は認めないだろうが相当の負担を彼に与えていた

 

それが死んだ後とはいえ、今はどうだ?

兄や父、妹や弟達とも何のしがらみもなく話が出来る

挙句、弟夫婦の娘と会おうとすらしているのだ

 

(人は変わるもの、か

至言だな)

サスロは内心の苦笑を何とか取り繕っていた

 

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サスロは権力を握る前に死んでいるが、その後の事を見ていると権力というものを欲する者達の気がしれないと思っている。何せあれだけの支持を集めていたジオンは斃れ、その後サスロからすれば比肩しうる者が殆どいないと思える程に優秀な兄や父を以ってしてもジオン公国を完全に統制しきる事が出来なかったのだから

妹も弟達も決して無能ではない

寧ろ一方向に関しては兄や父に迫る程の才覚を持っていたとすら内心では思っていた程

 

それでも完全に組織に翻弄され、ジオン公国は連邦と戦争しながら内部抗争にも勤しんでいた様なものだったのだから

 

ミノフスキー粒子による既存のレーダーの無効化

新兵器MSによる有視界戦闘

 

それ等を以ての電撃的侵攻作戦

今でこそ当たり前となったこれらは父デギンが地球の学会から『詐欺師』とのレッテルを貼られたミノフスキー博士らをサイド3に招き、当時はその存在が疑問視されていたミノフスキー粒子の研究を継続させたが故のものだった

 

間違いなく批判や異論はあっただろう

何せ地球の学会においての悪名はサイド3にも届いていた

 

サスロも父がミノフスキー博士らを招いた時には

 

「そこまで拘る必要があるのか?」

と思ったものだ

 

 

 

そして作業用人型重機であったものを軍事転用してMSとし、連邦には欠陥機の情報をさりげなく流す事により、連邦軍のMS開発研究の初動を大きく遅らせたのも大きい

 

まぁそれもギレンや父から言わせると

 

「国力を考えれば圧勝以外の選択肢はなかった

が、それにより一部の者達の考えが緩んだのもまた事実だろうな」

 

「皮肉なものよ

早期停戦の為に圧勝した結果、連邦軍を侮る者達が民間人どころか軍内部にもかなりの数を抱えてしまったのだからな」

 

との事だった

その毒は一年戦争が終わって尚も宇宙市民の中に残り続け、後の世代にまで戦争の火種を継承する事になったと言うのだから呆れる他ない

 

国家なのだ

旧世紀の中世の未成熟な国家ではない

キチンとした組織や指揮系統の存在する近代国家、それがジオン公国だった筈

ところが、多くのジオン軍人はその剣たるMSを終戦後も置く事なく残党として活動する事を選択した

 

サスロは軍人ではない

だが、ジオン独立において命を賭けて闘った男の一人である事は間違いない

その独立がジオンが失われるとすれば、それこそ激情を堪えるのにも必死にならざるを得ないだろう

 

 

だが、それは連邦を打ち破ったとしても同じ事

いや母数が多い分、連邦の方が遥かに激しい事になる筈であろう

 

ラウムは言っていた

 

「ザビ家の呪い」

的確な表現だ。奴らしい

が、同時にこうも言っていた

 

「歴史を、戦争を知らぬからこそその様な事が出来るのでしょう

能力(ちから)があるからなんだと言うのでしょうか?

多方面に実力を発揮するギレンさんやシロッコであっても、全てができる訳ではない

だからこそ、人は繋がらねばならない。レジオンやグレミーの小僧がした様なクローンニングにどれだけの意味がありましょうか?

遺伝子のみで人の優劣が決まる

そんなのは唯の戯言にすぎません。学者特有の思い上がりと言っても良いでしょう

娘達を見てみれば分かるでしょう?」

 

奴は戦争や紛争を少し引いた立場で見つめていた

だからこそ、その歪さも理解出来たのだろう

 

「人の才能はあるかも知れません

ですが、それが芽を出すか否かは環境などの要因が絡むと思うのです

プルツーやプルスリー達を見れば分かるでしょう?

同じ人物からクローンニングされたあの子達であっても、誰一人として同じ子はおりません

古い考え方にはなりますが、人には精神の核となる魂というものがあるのではないでしょうか?

そもそも遺伝子で人の優劣が定まるならば、それこそ遺伝子操作をする事の出来る立場。つまり富裕層や権力者が常に支配層にある社会となるのではないかと」

 

地球にあって、幼い頃から歴史に傾倒してきた奴ならではの意見なのかも知れないが自分や父、兄妹たちには決して見えぬ視点だろうと感心する

勿論口に出すつもりなど毛頭ないが

 

 

思う事は多々あれど、今はその寸刻の再会を喜ぶべき

その程度にはサスロとて姪に対する愛情はあるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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お、お父様ぁ、お母様ぁ

 

「あらあら、泣き虫なのねミネバは」

今も涙を流し続ける愛娘を抱き締めながら、赤子の時の様に優しくあやすゼナ

 

「む、むぅ。どうすれば良いのか皆目見当がつかん」

そして狼狽するドズル

 

ミネバが抱きついてきた時にはしっかりと抱き止めて、抱き返した

そして出来る限り優しく声をかけたつもりだ

しかし、どういう事かミネバは泣き止む事なく今も尚涙を流し続けている。これには元々ミネバと接する事のほとんど無かったドズルもただ狼狽するのみ

 

ならばと思い、頼りになる義兄(ラウム)に助けを視線で求めるが

 

 

(当方に援軍の余裕なし

独力で対応されたし)

と視線で言われる始末

 

明らかに父や兄達と朗らかに談笑しているだけだと思うのだが、どうにもこういう時に1番頼りになるラウムは動くつもりがないらしい

 

ならばと父に視線を送るが

 

(何をやっておるか、ドズル

お主が父親であろう。しっかりせんか)

と視線で一喝される

 

兄に視線を送ろうとそちらを見ると

 

(ドズル。貴様の娘の事だろう?

我等を頼ってどうするというのだ。ここでへたるなよ?)

と視線で激励されてしまう

しかも珍しい事に口元だけでなく、割と分かりやすく楽しげな表情付きで

 

なお、サスロやキシリアの方は見れなかった

明らかに其方からは明確な怒気が感じられたからである

 

(そこで娘と向き合えずして何が父親か)

 

(20年も時間があって、その程度の準備すら出来ていなかったと?

ゼナやラウムにあそこまで手をかけさせておいて貴方は何をやっているのですか?)

 

(ドズル兄さん。流石にそこは自身ですべき事かと)

 

…恐らくそんなところだろう

 

 

 

 

というか、普通に義兄の顔に青筋が立っているのはかなり怖い

 

あの時の様に怒鳴りつけられるのだろうか?

 

 

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今なんつった!

 

「いや、ですから」

 

ふざけんな!例えかつて過ごした家でなくとも、この家が俺のいるべき場所だ!お前にゼナは任せたが俺の世話までしてくれといつ頼んだ!!

生前ドズルが宇宙攻撃軍司令に内定され、妻となったゼナを伴い宇宙要塞ソロモン行きが決まったある日

ドズルはゼナの兄であり唯一の家族、ドズルにとっても義理の兄であるラウムも共にソロモンに行くべきではないかと思いラウムに話を切り出した

しかし、その話を聞いた瞬間ラウムはいつもの飄々とした態度を一変。ドズルに対して怒鳴りつけたのである

 

「お前が守るべきはゼナやこれから生まれてくるお前とゼナの子供

それにお前に従う兵達だろうが!

そこに余計なものを入れてどうするつもりだ!」

 

「そ、それは」

 

怒鳴ったラウムだが、深呼吸をして落ち着いてから

 

「あのなぁ

その気持ちは嬉しくはある

が、俺は死ぬまで此処を離れるつもりはないんだ

…俺はな、ドズル」

 

「はい」

 

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あの時受けた衝撃は今でも忘れられない

実はソロモンにゼナの為に用意していたとゼナには言っていたが、ドズルとしてはラウムも連れて来たかったからこそそれなりの区画を用意していたのだ

 

他人には恐らく言うことはないだろうが、ドズルとしても妻であるゼナがふいに寂しそうな表情(かお)をしているのは分かっていた

ドズルとしても、兄や父達からの話でラウム(義兄)の立場の危険さはある程度理解していた

 

何せ親衛隊や公王府の人間が頻度こそそこまでではないものの、見回らねばならないくらいだったのだから

 

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しかし、ドズルには理解し難い事だったが、ラウムは何よりも『妹が帰ってこれる場所』を失う事を当時恐れていた

ともすれば己の生命を失う事よりも

 

そしてそれと同じくらいラウムは『妹の負担』になる事もまた極端に恐れていた

 

 

既にラウムは自身を『生ける屍』とすら定義しかねない程に憔悴しており、誇張抜きでゼナの存在と幸せのみがラウムの生きる理由だったのである

 

ラウムの身辺警護の意味もあったが、万一の事(自殺など)が起きないかどうかを見守るという意味も巡回にはあったのをドズルが知ったのは死後の事であった

 

 

 

殉教者

もしくは狂信者か或いはただの狂人か

 

そう密かに言われる程、当時のラウムは歪みきっていた

 

 

 

だが、そんな彼の転機となったのがドズルとゼナの娘であるミネバ

ある意味では救いであり、別の意味ではラウムにとっての呪いともなったミネバ

しかし、結果としてラウムはボロボロになりながらも地球圏規模の3度もの戦乱の時代にありながら命を繋いだのもまた事実

 

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とは言えあの時はどちらかと言うと後ろ向きな感情の発露であったが、今回は純粋に不甲斐ない己に、可愛い姪の為に怒っている訳でありドズルとしても後ろめたさを感じる事はあれどそれが不快とは思わない

 

が、ドズルとて流石にこの歳にもなって怒られるのは勘弁願いたいと思っている

…こちら側にはどうにも拗らせた者が多いので誤解されそうだが

 

 

そしてドズルもゼナの夫としての

ミネバの父親としての自覚はある

 

(まったく

俺という男はいつまで経っても変わらんらしいな)

誰かに背を押してもらってドズルは人生を歩んできた

 

父や兄達の背を見て、ジオンの為に戦うと決め

親友との誓いを胸に共に戦場を駆けた

 

 

だが、愛する妻を求めた時や尊敬する義兄と話をする決断は己自身で決めたもの

どうして愛する娘に対して言葉をかける事を躊躇しようというのか?

 

ドズルは意を決して娘に声をかける

 

 

 

 

 

 

 

----

 

「ミネバ

お前の成長を全く見れなかった駄目な父親だが、俺にとってお前は愛する娘であり、俺やゼナに義兄上(あにうえ)や俺の家族の誇りだ

……良く

本当に良く生きててくれた

ありがとう、俺達の大切な娘よ」

 

「っ!」

止まりかけていた涙がまた溢れてきます

 

「兄さんから色んな話を聞いたわ、ミネバ

辛い別れもあったのでしょう。大丈夫、時間は沢山あるわ

ゆっくりで良いの

貴女の見た事、聞いた事。感じた事を思うままに話してみて?

それを私も貴女の父も聞きたいのだから」

私は童女の様に泣きながら口を開きました

 

 

嗚呼、やっと話が出来るのですね

お父様、お母様

 

 

 

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「お前達は本当に良いのか?」

 

「立派に成長された姿を直接この目に見れた

これ以上を望むのは贅沢が過ぎるかと」

 

「姫様は(未来)を向いて歩いておられます

私はただ父様や姉様達と共にそれを此処から見守るだけで充分です」

 

「私が死んだ後の事とはいえ、私の名を騙る者が彼女に大き過ぎる負担を強いた上に結果として、彼女にとって大切な者を奪った

これでどの様な顔をして会えば良いのか分からないさ」

 

「生憎とアタシがした事は本当に些細な事さね

あの子は多分それすら感謝しているんだろうけど、流石にそれは過分というものですから」

 

ミネバに会う事が決まった時、ラウムはミネバにとって思い入れの強い4人に声をかけた

彼女達はミネバとの再会をする事なく、あくまでも『家族との再会を果たす場所』としてのソレを選んだのだ

 

「…ありがとう」

ラウムはただそう言って頭を下げている

 

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「あの子の旅路には多くの出会いと別れ

そして悲しみに満ちていた」

ラウムは少し離れたところで3人を見守りながら呟く

 

「ザビ家の生き残りとして

ジオンを継ぐ者としてあの子は様々な組織や人から追われた

『生きる事が罪なのか?生まれてきた事が悪なのか?』

あの子もその様に考えた事があったと聞きました

頼るべき大人はおれど、どうしてとあの子の生まれが大人達を縛る」

ラウムの呟きを聞きながらデギンやギレン達の脳裏に人達が浮かぶ

 

「マハラジャ・カーンはゼナの娘として

ハマーン・カーンは本意でなかったとしてもアクシズの象徴として

キャスバルはザビ家の娘として、宇宙市民の希望として

キャプテンは家族として受け入れたかっただろうが、彼もまた元ジオン兵だ。それは叶わず」

ラウムは唇を噛む

 

「しかし、あの子にも良き出会いがありました

バナージ・リンクス

デギンさんは知っておられるでしょうが、『あのビスト』に連なる者でありながらその匂いのせぬ若者です」

デギン達は虹の向こう側から見ていた

絶望に打ちのめされて尚も立ち上がり、最後までミネバを思い続けた少年の事を

 

多くの戦士達がいた

彼等は刃を交え、血を流し、それでも尚と足掻き続けた

だが、その中で『敵を()す』という事に対して躊躇しなくなった者もいた

 

敵は倒さねばならない

それは間違いない。特に戦場においての迷いは自分のみならず味方すら危機に陥らせる事もある

 

 

だが人にはそれぞれ守るべきものがあり、譲れないものがある

 

 

戦争は悪だ

しかしながら、良く言われている『正義と悪』

ギレンは言った

 

「最終決戦時に私は全軍の士気を高める為に演説を行なった

だが、言っている私自身すら『何を愚かな事を』と思っていたものだ

正義と悪?

正義の敵もまた正義。相手とて正しいと信じるからこそ、その組織に命を賭けているのだ

そもそも二極論で物事が片付くのであれば、もっと世の中分かりやすかろうよ」

 

デギンもギレン達も元より己のした事が正義などとは思っていないし、他者から見てみれば間違いなく悪である事も理解していた

それでも彼等はやらねばならないと思った

 

それだけなのだ

かと言って姪にまでその罪を背負って欲しいと思う程に人としての理性を彼等は捨てていない

 

「戦争を始めるは易き事

終わらせ方こそが大事なのだろう」

 

 

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デラーズが地球圏の有力な反連邦思想を持つ残党を集めたのは、公国の残滓であるジオン共和国が存続する為の事でもあった

先年の『水天の涙』はジオンの有力者『ブランケ』の息子が主導していた。まだブランケは共和国となったジオンにあり、その嫡子がテロを主導した事により連邦政府は疑いの目を共和国に向ける事となった

 

「戦争に負けて、それでもそれなりの扱いをしたというのにテロリストを抱えているのか?」

最低限の自衛の為の戦力しか認められなかった共和国にとって、戦後もあまり規模が縮小されていない連邦軍は脅威だった

ともすれば、共和国存続の危機とも言える様な事態となり得ない

 

 

連邦軍は元々の拠点であったルナツーに加えてコンペイトウ(ソロモン)ゼダンの門(ア・バオア・クー)にも部隊を駐留させており、共和国を守る戦力も(要塞)も存在しない

その様な状況下にあって、連邦や連邦軍の不審を買うというのは文字通り死活問題

 

 

デラーズとて、感情面はさておき共和国が宇宙市民にとっての最後の砦である事は理解していた

故に彼等に対する支援などするつもりなどなく、寧ろ戦力が抽出出来たのであれば彼等をデラーズ達が討伐したいまであった程。名目上(・・・)反連邦という事で貴重な指揮官仕様のゲルググを送る事になってしまったが

 

 

マスドライバーという人類が宇宙に進出した歴史的遺産

それをテロ行為に使うつもりだったのだ

 

核攻撃、毒ガスの使用、コロニー落とし

間違いなく後世において何処かの組織が倣うだろう

マスドライバーによる地球への直接攻撃もそうだ

 

前例を作った時点で枷が外れる

 

アクシズに残存部隊を回収してもらう様な手筈を整えたのも

 

デラーズ・フリート残党(不穏分子)が地球圏に留まらない様にする為だった

 

デラーズは半ば確信していた

一年戦争の遺した傷跡は間違いなく宇宙世紀最大の呪いになる事を

 

 

故にこそ、デラーズは自分達残党を己自身の手で絶対的な負の遺産とせねばならなかった

 

ジオン・ダイクンの名を使い

ジオン共和国を売国奴と名指しで非難し

 

 

そうする事によって、共和国と自分達敗残兵が対立関係にあると連邦に思わせねばならなかった

共和国のダルシア・バハロを独立運動の頃から知っているデラーズからすればダルシアという男はデギンやギレンの様な能力に秀でている訳ではない

しかし、流れを読んで上手く立ち回る事については彼以上の適任はないと考えていた

 

デギンやギレンがダルシアを公国首相としたのは何も傀儡が欲しかった訳ではない

議会を掌握できるだけの能力があると考えたが故の人事だった

 

 

アクシズのマハラジャには悪い事とは思うが、デラーズはアクシズに公国軍のそれなりの残存兵力が合流した事も把握していた

 

元々アクシズにいる者達の中で連邦の恐ろしさを理解しているのはほんの僅か

アクシズへと逃げ延びる選択をした者達は『公国敗戦』を認めようとしなかった者達や連邦の元で生きる事を拒否した者達

双方が混じって連邦に恭順する選択を選べるとデラーズは考えていない

そこに自分達の同胞が多少入ったとしても何の問題もないだろうと考えていた

 

「二の矢は放てぬのだ」

デラーズは星の屑作戦においてそう発している

 

 

デラーズは不穏分子となるであろう者達と共に連邦に撃たれねばならないと思い定めたいたという

その為に連邦軍の戦力の集中するであろう観艦式を襲撃し、連邦軍にとって『力の象徴』ともいえるガンダム2号機を使って観艦式に核攻撃した

彼の目的は『後々地球圏において火種となる者達を束ね、連邦軍に敗れる事』だったのである

これにより連邦軍の、連邦の強大さを共和国にいるであろう不穏分子にも見せつけ、軽挙妄動を止める

それこそが生き残る事を選択したデラーズ最後の公国に、総帥に対する忠誠だった

 

 

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一方で自分達に対して協力を持ちかけてきた企業(アナハイム)もまた危険と見做していた

何せガンダム奪取のみならず、グラナダの旧ジオニック工場にてデラーズ・フリート向けのMSの生産まで打診してきていたのだから

 

 

連邦軍は確かにMSの生産や開発をしている

が、やはりというべきか性能の高い高級機ともいえるガンダムに支援型のガンキャノンとガンタンク

そこに量産機であるジムというものだった

 

時間が無かった中でこれだけの機体を生み出せた事には感嘆を禁じ得ないが、良くも悪くも連邦軍はこの系統とそのマイナーチェンジのみの運用となっている

 

 

連邦軍がジオン軍に対して優位に立てた理由は様々あるが、その中の大きな要素として『ビーム兵器』の有無はあっただろう

ジオン軍において『携行型ビーム兵器』の配備は一年戦争末期に生産された名機ゲルググとその他少数にとどまった

 

だが、ジオン軍にはザク系統から対MSなどの近接戦に特化したグフ

重装甲でありながら、高機動力を実現したドム

一部からは『ジオン最大の脅威』と呼ばれていたアッガイやゴッグを始めとしたジオン水陸両用MSなどとバリエーションに富む

 

 

機体設計としてジムが優秀であった事は事実だろうが、量産機故にそこまで拡張性も高くない事が災いして、一点特化型の多いジオン軍MSに対して連邦軍は同数の場合不利になる事もあったそうだ

 

まだまだ連邦軍におけるMS産業は発展途上

そこにアナハイムは活路を見出したのだろう

旧ジオン系の技術を吸収し、連邦軍のMS技術と併用する事により連邦軍のMS開発や生産に大きく食い込もうとの心算だと

 

故にアナハイムに痛撃を与えねばならないとデラーズは考えた

「戦争の痛みを知らぬというならば、しかと受け止めよ」

 

 

結果としてティターンズを生み出す事になってしまったのは大いなる誤算だったが

 

 

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「喪ったものは多く、あの子に遺されたものは余りにも少ない

私ですらあの子程では無かったと思うのですから相当ではないかと思いましたよ」

 

それでもミネバは道を違える事なく、光の差す道を歩み続けた

憎しみや悲しみに暮れた時もあったろうに

 

「私や義兄上達には子などおりません

それが不幸と思う事もありません

…ありませんが、あの子は未だに囚われている

いえ、私の死をきっかけにまた過去に囚われようとしているのです

…一時的にとは言え、あの子の父をしていた身。流石にこれを放置すべきではないと思いましてこの場を整えました」

ラウムとて、オーストラリアの名家クラヴァスの人間だった男だ

 

家の名前の重さや煩わしさは幼い頃に嫌という程思い知っている

しかし、ミネバの背負う事になったものはそんなレベルではない

 

 

ミネバが血を残す(子をつくる)事に躊躇いがある事をラウムとて知っていた

が、こればかりはラウムであってもどうにも出来ない問題である

夫であるバナージと共に時間をかけるしかない

 

そうラウムは諦めてすらいた

 

 

ところが、である

どういう訳かドズル(父親)ゼナ(母親)

そして祖父(デギン)叔父(ギレン)達と引き合わせる機会を手に入れる事が出来た

 

ならば、あの子の叔父として、あの子を残して逝った最後の餞を送るべきではないか?

そうラウムは考えた

 

 

自分の様にこそこそ隠れて生きる必要はない

ザビもクラヴァスもお前を縛るなら捨ててしまえば良い

 

生前ラウムはそうミネバはバナージに何度となく言っていた

それでもあの子は優しいから、自分の両親や祖父達の生きた証を否定したくないのだろう

 

死者が生者の重荷になるべきではない

一族だからと、子供だからとその罪の贖罪を求めるならば、旧世紀の中世期などで行なわれた族滅などとさして変わりはしない

 

 

受けた被害に対する対価を支払わせたくなる気持ちはラウムにも痛い程に分かる

『復讐は何も生み出さない』

などと綺麗事を言うつもりなどない

 

 

だが、いつになればその憎悪の連鎖は終わるのか?

それこそ関係者全てを根絶やしにしない限り終わる事はないだろう

 

 

 

野望の為

理想の為

 

御題目などどうでも良い

 

 

戦争を

戦いを

殺し合いをしたいのであれば、好きにすれば良い

 

子供を巻き込むな

 

 

勿論、これはただの勝手な物言いくそに過ぎない

己も自分の家族達も消えない悪名を背負い続ける事となるだろう

 

 

 

自分達の存在は都合の良い言い訳や理由付けになるからだ

『反地球連邦運動』などと言っても、その理由など千差万別

 

逃げ延びた者達が纏まる為に必要な看板だったり

連邦の腐敗を憂いたりと様々である

 

 

だが『何も(前例の)無い』事よりも具体的に想像しやすい前例があると人はそれを利用する事を考えつく

 

 

 

 

 

だが見るがいい

ミネバは連邦軍により家族を尽く失いながらも、それを自分の中で何とか飲み込んでいる

 

なのに、そのミネバよりも年上の者達が

怒りを

憎悪を

悲嘆を

野望を

飲み込もうとしないのだ

 

滑稽ではないか

 

 

武力蜂起がしたいならば好きにすれば良い

その結果、多くの者達から怨まれる事を覚悟した上で

己の名が

家族が

遺される者達が

 

ありとあらゆる者達から憎悪を向けられる事を理解しているなら

 

 

ラウムはそう思っている

世界が滅びたとしてもラウムにとってはどうでも良い(・・・・・・)

 

子供に背負わせるべきで無い荷物を背負わせておいて、平然としている者達が大きな顔をしている世界なぞ、いっそ滅べば良いのだ

 

----

 

「あの時、義兄上達はミネバに想いを届けてくれました

ですが、あの子を本当に救えるのは義兄上たちでも(父の代わり)でもない

あの子の両親とバナージだけなのですから」

 

ラウムは生前ミネバ達と暮らし始めてからはそれまでの隠遁生活とは打って変わって戦乱の芽を叶う限り潰そうとした

あの子達にこれ以上の血を、涙を流させない為に

 

ブッホ側にもある程度の()は与えた

元より彼等が作ろうとしているのは、ブッホ一族いやロナ一族を頂点とする新体制

そこにクラヴァスやザビの残滓(ミネバ)ビストの後継(バナージ)を加えたとあっては、ロナの今後に好ましく無いものとなろう…そう囁いておいた

 

ノブレス・オブリージュ(高貴なるものの責務)

ロナの御当主とやらはそれにいたく感銘を受けていた様だが

 

(己がその信念を抱くのは自由

だが、誰しもがその重荷を背負える訳ではないのだがな)

一度話をした際にラウムは内心で呆れていた

 

確かに旧世紀の中世において、その理念は騎士道などといった形で継承されたのかもしれない

が、忘れてはならないのは騎士というものは誰もがなれるものではないという事だろう

 

 

ただ武力に優れるだけで理性的でなければ、それは獣と同じ様なもの

ともすれば野蛮と忌み嫌われもしよう

 

高潔な精神と武力、それに理性を兼ね備える者だけが真の騎士たり得る。故に騎士は時が経つにつれてその数を減らしていった

その後に軍人というものが出来たとラウムは思っている

 

軍人とて高級将校ともなればそれなりの教育を受けるだろうが、一兵卒に至るまで高い意識、モラルと言い換えても良いがそれを持たせるのは至難の業だろう

事実、戦争が終わってからも勝手に軍を抜けてテロリストになる者の多い宇宙世紀においてもそれが行き届いているとは到底思えない

 

ロナ、いやブッホはあくまでも『家名を継いだ』に過ぎず、果たして精神的に高いモラルを保てるのか?と疑問に思うところだった

 

そして、その子供達や孫達がそれを受け入れるのか?

中々に難しいところだとは思う

 

 

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木星が未だに暗躍している様だが、問題ない

地球を滅ぼすなどと世迷言を言っていたが、彼等が地球を死の星にでも変える事をしない限りは無理な話

憎悪に目が眩んでいる様だが、そもそも曲がりなりにも一国家として連邦に認められる程度の地球圏において影響力や経済力を有していたジオン公国ですら負けたのだ

 

仮にできたとしても、その後が続くまい

貧しさを地球への憎悪で誤魔化していた様だが、地球という明確な脅威を打ち倒した後なんとするつもりなのやら

 

木星船団などと言ってはいても、彼等の居住地は木星本星ではなく、木星の衛星群やその近くにあるコロニーだ

貧しさから逃れる為に連邦を打倒したとして、地球圏の他のコロニー群が果たして自分達にまで牙を向けかねない連中を放置するだろうか?

 

 

…毒は既に仕込んでいる

忘れてもらっては困るが、これでも老いたとはいえかつては連邦の隙をぬって独立運動をしていた経歴がある

 

組織にとって何が嫌な手なのか位はラウムとて承知していた

 

 

----

 

恐らく100年もしない内に連邦はその勢力を衰退させる事だろう

もしかしたら、『地球(・・)連邦』と言いながら月あたりにでも本拠を移すかもしれない

 

 

 

が、そんな事はどうでもいい

その時代に生きる者達が命をかけて取り組む事でしかないのだから

 

 

 

----

 

「明日が当たり前の様に来る時代は未だ遥か遠く、か」

それでもラウムはあの子達の未来だけは守りたいと思う

 

ラウムにとって、若き頃の熱情そのものであったジオンという国はなくなった

が、悲しくはあるがそれも仕方のない事

 

 

これからを生きる者達にとって、ソレが妨げになるならば自分達の感傷など取るに足らない

 

あの子が心を痛めるのであれば、せめてそれくらいは何とかしてあげたい

歪であったとしても、あの子は確かに自分の娘だったのだから

 

 

 

 

----

 

「…ミネバ、よく聞きなさい

私や父ドズル。それにお義父様やお義兄様達、兄さんとも話をしました

が、何にも囚われなくて良いのです

貴女は貴女

ザビやクラヴァスの血に囚われる事などないのです」

 

「俺達の大切な娘である事は間違いないし、誰にも否定などさせん

お前はお前とお前の家族の幸せだけを考えて良いんだ」

お母様とお父様は私にそう優しく語りかけます

 

「…でも、それは」

それはお父様やお母様達の事を否定する様で

 

「…本当に優しく強く育ったのですね

シーマやマレーネ達にも後でお礼を言わないといけません

誰もそうは思いませんよ?ミネバ。貴女が優しく、そして少し不器用な事は兄さんから聞いています

言っていたでしょう?

『時間とは常に進み続ける列車の様なもの。死者はそれを見送る事しか出来ない』と」

お母様はそう言います

 

----

 

バナージと結婚するまでの間、そこまでの時間があった訳ではありませんが私はお父様、いえ叔父様と良く寝床を共にしていました

 

聞きたい事、知りたい事がそれこそ山程あったのです

叔父様はいつも微妙な顔をされていましたが

 

「…はぁ

本当にその辺はゼナと良く似ている。あれも一度決めたとあれば何一つ譲る事はしなかったからなぁ」

と苦笑混じりで認めてくれました

 

叔父様は地球出身だからか非常に旧世紀の事に詳しく、私の周りにいた人達に比べて独特な考えを持っていた様にも思えます

叔父様もお母様も聞けばそれなりの家の出身(後で調べたところ、クラヴァスは連邦議員を何代にも渡って出してきたオーストラリアいえオセアニアきっての有力者だったそうですが)

 

ミネバにとって両親の事や今は亡きザビ家の者達の事を知りたい

そんな気持ちがあったのは間違いない

 

 

だが、父と慕っていたラウムの事をもっとよく知りたい

そんな思いも確かにあったのだ

幸いと言うべきかは未だに迷うところだが、ミネバにもそれなりの繋がりがあり、夫であるバナージが以前異母兄弟であるアルベルトに頼み込んでまだ名前も顔すら知らなかった親族(ラウム)の姿を求めた事がある

 

ラウムの死後、バナージとミネバは一度クラヴァスという家の事を調べてもらった事があった

 

 

 

そこで知ったのはクラヴァスという家が旧世紀より続く名家であり、地球連邦という枠組みが定まる以前よりあった物であったという驚きの事実

何故、母や叔父の両親は恵まれた環境を捨ててまでコロニーへと来たのだろうか?

ミネバとバナージにとって大いなる疑問だった

 

 

----

 

仮に叔父の素性が知れなかったとしても、それはそれで構わないとミネバやバナージ、アムロ達すらそう思っている

 

たとえ叔父の性根が悪であったとしても、ミネバは叔父を尊敬しているし、今でも父と思っている

お父様とお母様とこの様な形とはいえ再会できたのもおそらくは

 

 

 

----

 

 

 

 

「さて、どうされますかな父上?」

 

「ギレンよ

親子の団欒を、しかも20年ほど引き離されていたそれを邪魔するつもりなぞお主にもなかろう」

 

「…あいも変わらず我等が長兄は面倒な性分をしているものだな」

 

「…サスロ兄さんがそれをいわれますか」

 

「…認めたくはありませんが、我々全員それなりに癖が強いのではないかと思うところですね」

 

「見守るのもまた愛の形とも言いますからね

落ち着いてから話をすべきかと思いますよ?」

 

まるでまだ彼等(ザビ家の皆)が権力を有する前の

まだ希望や夢を自由に語れた時の様な会話

そこにラウム(新しい家族)も加わって大切な家族《ドズルとゼナ》の姿を感慨深そうに見つめていた

 

 

 

 

 

彼等はザビ

かの宇宙世紀最大にして最悪の戦争を引き起こし、ジオン公国を我がものとして多くの悲劇や惨劇を引き起こした呪われし一族

そして、その負の遺産はティターンズやアクシズ、火星圏におけるレジオンやシャアのネオ・ジオンにフル・フロンダルの袖付きなどに受け継がれた

 

だが、彼等もまた血や涙を流す人間である事を知る者はあまりに少なく後の時代においてすらも悪鬼羅刹の如き所業をした者達として語り継がれる

それを彼等は不当とも不本意とも思わない

 

 

 

だが、それでもなお

 

「あの子の歩いた道

それがどれだけ苦しかったとしても、それから逃げる事なく向き合った。

それを私はあの子の(家族)として何よりも誇らしい」

ラウムは暫く見せる事のなかった柔らかな、そして

 

心から安堵した笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




男の旅路は終わり、最後まで気がかりだった唯一の事もまた此処に一つの結末を迎えた



ようやく男の背負っていた荷物が降りたのである

歴史にIF(もしも)はない


だが、1人の少女と独りの男の孤独は確かに救われた




 IFルート

  • 狂った者(公国ルート)
  • 潜む刃(ソフィルート)
  • 悪意の先に(アクシズグレミー討伐ルート)
  • その他
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