其処には確かに安らぎと穏やかな日々があった
そのままでいられたなら、どれだけ良かっただろう
男は幼き頃に亡くしたはずの光景を
女は持っていなかったと思っていた景色を
少女は未来に続く道標を
確かにそこに感じていたのだ
時は流れる、平等に
人は動き続ける、残酷に
死者はただ立ち尽くすのみ、動かない
ゼナ・ザビ死去
その報はアクシズ内を駆け巡った
僅か一歳のミネバを残してこの世を去らねばならなかった彼女の無念の程を殆どの者達は感じ、喪に服した
それは受け入れ先であるアクシズ側の指導者であるマハラジャ・カーンも同じであり、アクシズの軍事責任者であるユーリー・ハスラー少将もまた喪章を付けて軍務に当たったほどである
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「惜しい人物を亡くしてしまった」
「そうですな。トワニング少将よりも『ドズル閣下に相応しき奥方だった。余りにも早すぎる死だと思う」』
そう聞いております
マハラジャ・カーンとハスラー少将はマハラジャの私室にて話をしている
「うむ。デギン公から子細を聞いていたが余りにも報われぬ人生を送らせてしまったと私も思う」
マハラジャの悔恨に満ちた表情と言葉に
「閣下。失礼ながら何をご存じなのでしょうか?」
思わずハスラーは訊ねてしまう
「私もデギン公やジオン・ダイクンと共にサイド3での独立運動に参加していたのだよ、少将
それ故にデギン公から信頼して頂いていた。無論ギレン総帥からもな」
「なんと」
ハスラー少将にとって初耳だった
「何せこのアクシズはジオン本国が失陥した場合、最後の拠点ともなり得る所。その上、木星船団との貴重な中継地でありここ自体がジオンにとっての最重要資源採掘地だ
そんな重要拠点に信頼できぬ人物を責任者として配すると思うかね?
地球降下後はオデッサの存在により連邦軍の目
とはいえ、オデッサで採掘できる資源とアクシズにおいて採掘できるソレは種類が異なるものであり、精査すれば連邦はいつか気付くであろう。そうマハラジャは確信していたが
それと同時に
『そうであるが故にこのアクシズに連邦軍が大挙して襲来するのはほぼあり得ない』とも確信していた
地球連邦軍が今の様な巨大な
そう、
つまり巨大な連邦軍という暴力組織が
そして、
その状況下において、軍縮を市民が認めるだろうか?
認めはしまい
更にいえば『連邦軍がジオン残党組織の動きを誘発する』事でジオン残党の脅威を目に見える形で示す事すらありえるだろう
マハラジャは独立運動に携わっていたからこそ、地球連邦という組織を侮る事は決してない
彼等は必要となれば、守るべき市民の
「では、ゼナ殿の事は独立運動に関わる事だと?
…まさか、ダイクンの遺児であると!?」
マハラジャから見れば荒唐無稽にも程がある結論に至ったハスラー少将は慌てた様に発言する
「落ち着け、少将
それはあり得んよ。寧ろ彼女にとってダイクンに与する者は許せぬ仇。ダイクンに与するなどあり得んよ」
「と、言われますと?」
「彼女は独立運動に地球市民でありながら関わったケイム・クラヴァス氏とセリア・クラヴァス女史の娘なのだ、少将
となると、もしやラウム・クラヴァスは既にこの世に居らんのかも知れぬ。…本当に度し難い連中だな」
あの聡明な
それでもゼナ嬢がドズル閣下に嫁いだ事を考えれば、最悪妹の重荷にならぬ様命を絶ったとしても不思議ではない
いや、そもそもドズル閣下とゼナ嬢が付き合ったのは公国が成立して暫く経ってからの事だと聞く
それまでの間、あの少年はゼナ嬢を独り守り抜いたと云う訳か
胸の詰まる話だ
クラヴァス夫妻が遺した資産の9割近くがダイクン派の活動資金となり、残ったものも相続税などにより失われたそうだ
あの時期のダイクン派の無法ぶりを知る者からすれば、たとえダイクンの遺児であろうとも支持しようとは思えぬ
それくらい奴等のした事は陰惨で愚かな事だったのだから
「まさか」
「そのまさかだよ、少将」
ダイクンを信奉しているカーティス達に聞かせてやりたいわ
子供の
「ダイクンにより両親と人生を奪われた、と」
「勘違いするな、少将。それでもゼナ嬢はそれを必死で飲み込んでドズル閣下の伴侶として恥ずかしくない振る舞いをなされたのだ
恨みたかったであろう。ザビ家やジオンという国家とて彼女にとって『
が、それでも彼女は間違いなくドズル閣下に愛され、そして閣下を愛した。それがどれだけ難しい事だったのかなど我々には想像もつかんよ」
少将は深く考え込んでいた
そうだ、それで良い
ジオンの復興と言うのは簡単だ
ダイクンの理想の為と語るのも
だが、我々は一度足を止めて自らの足元を良く見なければならない
私達の足元には無数の犠牲者が横たわっている事を忘れてしまえば、それはただの人殺しの集団と成り果てるのだから
果たして我々が目指す未来の為に、誰かを犠牲にせねばならぬのか?犠牲となった者達の恨みを我等は受け止められるのか?を
マハラジャはこの事実をまだ年若い娘であるハマーンに伝える事はなかった
それは自分達の世代でこの様な陰惨な事と決別したい
そんな彼なりの思いから立ったのだろうか?
それを知る術はもう、ない
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アクシズに到着した私達はゼナ殿の喪に服した後、行動を開始した
アクシズに到着した者達の癌であるアサクラ大佐
彼は密かにミネバ様を
そんな事を私は勿論、トワニング少将やシーマ大佐(ゼナ殿の護衛に葬儀の取り仕切りや今までの功績から昇進)等が許すはずなかった
「個人的な怨恨は今は捨てるさ
アタシもジオン軍人でいつの間にか上級士官サマになってしまったからねぇ
それにゼナ様の娘であるミネバ様を利用するなんざ、アタシは認めるつもりはないからさ」
アサクラを襲撃する時のシーマ大佐の言葉だった
とはいえ、あの男を守ろうとする者がいるはずもなく、部下に抵抗を命じたところで
「わ、私はジオンの為にやっているのだ!
こやつらは反逆者だ!構わん、撃て!!」
「はっ」
パシュン
「がっ!
だ、誰が私を撃てと命じたか!?」
「反逆者を撃て。そうお命じになられたのでは?
ですから私は反逆者であるあなたを撃った。それたけですが、何か?」
まるで喜劇を見ているかの様なやり取りの末にアサクラはあっさり命を落とした
…部下の信頼を損ねるという事はこういう事を招くのだという事がよく分かった
…しかし、だとしたら妙な事もある
キシリア閣下がギレン総帥を司令部で射殺した時、話によると「真後ろから撃ち殺した」との事だ
しかも、その状態で総帥と閣下は言葉を重ねていたとも
普通ならば抵抗するなり、閣下と向き合うくらいの事をしてもふしぎではないはずだが
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「アンタら誰をこれに乗せるつもりなんだい!
対G性能の低い高機動型のMAなんざ、パイロットを殺すだけの兵器じゃないか!やり直しな!!」
あれから2ヶ月ほど経った
ゼナ様を喪ったミネバ様はマハラジャの親父の願いにより、ハマーンという娘が養育する事となる
そりゃあ、アタシらではマナーなんて教えられないだろうし教えられる事なんてパイロットとしての在り方くらいだろうさね
あと前線に出た事のある技術士官がいるなら、もう少しマシな機体を作って欲しいもんだよ、本当に
あと、そこの元政治士官はもう少しプライベートと公務の区別をつける努力をしな!
時に新型機の性能評価を
アタシらはジオンの中の最底辺の人間のはずなんだけどねぇ
何でこうなるんだか
「もっと周りをよく見て動きな!
ほらほら、右側がお留守だよ?」
『くっ!』
「そんな腕で戦場に出ようってのかい!?
相手に
もっと真剣にやりな!!」
何でアタシがマハラジャの親父の娘のMSパイロット訓練に付き合わされているんだか
「…何が拙かったでしょうか?」
「んな心配する必要はないよ
全部ダメさね」
「流石は歴戦のエースである大佐だな
私はハマーン嬢にパイロットとしての可能性を見たのだが」
訓練が終われば赤いのも交えての反省会
「アンタの言うニュータイプとか言うやつかい?
アタシからすりゃ、その割にはアンタ器用に生きてない気がするけどね?」
「む、それを言われてしまうと返す言葉もないな」
「いいかい、ハマーンのお嬢。こういう奴に懸想したら大変なことになるからね?人を見る目は普段から鍛えておきな」
「ダメンズ、という奴ですね。シーマさん」
「はぁ
誰だい、そんな俗な言葉をお嬢に教えた阿呆は」
「マレーネ姉様とセラーナだけど?」
「あのお転婆コンビ!マレーネの奴はゼナ様の侍女やってたってのに落ち着きなんてありゃしない
誰に似たんだか」
「…余り言いたくないが、ゼナ様ではないのか?」
赤いのの言葉にアタシは一瞬停止する
確かにあの方は私と2人きりになると普段の悠然とした態度から一変。色々と話をした気もするが
…まさか、マレーネにもそう接していたってのかい!?
シーマ・ガラハウ正解!
と思わずクイズ番組的に言いたくなる程正しかった
何せゼナは兄の庇護下にあったとは言え、学校に通い友人達との会話にも興じていたのである
当然かなり人間関係構築の術には長けているのだった
「…ところでシーマ。私がダメンズという事については」
「は?
アンタがダメンズじゃなきゃ、誰がダメンズなのさ?
マハラジャの親父やハスラーの頑固ジジイにトワニングのおっさんだってもう少し生活能力はあるだろう?」
「し、しかしマイ大尉は」
「ありゃ典型的なかかぁ天下さね
あのキャディラックにボンボンが勝てると思うのかい?」
「無理でしょうね、それ」
何を今更言ってるのだか
最近お嬢の妹であるセラーナと仲が良い事をアタシやマハラジャの親父が知らないとでも思っているんだろうかね、このスカタンは
あと比較対象を
「ニュータイプなんて言っても所詮人は人
違うのかい?」
「む、それは否定出来んな」
「でも、シーマさん。便利だとは思いますけど」
「甘えんじゃないよ。言葉を尽くしても人なんて本当の意味で分かり合うには時間がかかるもんさ
んな『心と心を通わせる』なんて事をしていたら、それこそ心を壊すんじゃないかい?
便利だとしても『それを使いこなせない』なら邪魔なだけさ」
「確かにそうかも知れんな。事実、シーマにビット攻撃は余り効果的ではない」
「ああ言うのはそれこそアンタみたいに『無意識下で戦える人間』の方がやり易いのさ。あの場合はお嬢の方がまだ手強い」
「そうなんですか?」
「コイツは戦場慣れしてるからね。『どこが死角になるか?どこからの攻撃が対処しづらいか?』そういうのを考えてしまうのさ
当然アタシもその感覚が理解できるとなれば、対処はしやすい」
「「「ちょっと何言ってるのかわかりません」」」
恐らくこのシーマの言葉をニュータイプ兵器開発チームの者達が聞いていたら、白目を剥いて声を揃えて言う。間違いなく
そもそも、方向がわかる事とそれをかわせる事は別問題
ましてや小型のビットを正確に撃墜できるというのは尋常な力量ではなし得ない事なのだ
彼女もまた二つ名こそ持たぬもののジオンにおけるトップエースの1人なのだという事だろう
「ニュータイプは人類の新しい姿ではない、と?」
「はん。新人類だとして、どうするってのさ?
そんな連中かき集めても大した数にはならんだろうに
赤いの、少し想像してみなよ
自分の上司達が言葉も交わす事なく意思疎通している。で、それを自分
やっていけるかい?そんな環境で」
「無理ですね」
「ああ。確かにそれは無理だな」
「言葉ってのはなんだかんだで1番のコミュニケーションツールなのさ。それを放棄するならそいつらはもう『人じゃないナニカ』だとアタシは思うね」
「やはり、こうして口にするのは大切という事か」
「特にアンタみたいな思い込んだら一直線な奴にはね?」
「ダメンズの上に猪ですか?
流石にフォロー出来ませんよ、シャア大佐」
「あと年下趣味もあるんじゃないかい?
セラーナと良い仲なんて、歳考えな?」
アタシは本気で赤いのの将来が心配だよ、ホント
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あの温かく充実した日々は戻って来ない
父が亡くなってしばらく後、シャア大佐は地球圏に戻り妹であるアルテイシアさんやゼナ様の兄であるラウムさんを探す事とした
シーマさん、いやシーマは今や私の腹心としてアクシズの兵士達を鍛えてもらっている
姉マレーネが父が死んで僅かな後に
どうやら、ダイクン派の過激派が此処にもいたらしい
マレーネはゼナ様の侍女であったのだが、何を勘違いしたのかドズル閣下の愛妾であると見られていたらしい
あの温かく優しい時間の中で叶うならばミネバ様を育てて差し上げたかった
だが、それはもう叶うまい
アクシズは地球圏へと帰還しつつあり、帰還次第アクシズを地球圏に認めさせねばならぬ
せめて、ミネバ様の為になる世界を作り上げねば
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その後の事を少しだけ語ろう
エゥーゴとティターンズの戦闘に介入したアクシズは当初の計画通り双方にダメージを与える事に成功した
が、エゥーゴの指導者としてシャアがクワトロと名を変えて立ちはだかったのである
が、シーマやシーマ海兵隊との弛まぬ戦闘訓練に明け暮れたハマーンは百式に乗るシャアを圧倒
しかし、亡き妹の想い
翌年、地球に対して侵攻を開始。戦況は優位のまま推移していったのだが突如として『ギレンの息子』を名乗るグレミー・トトが反乱を起こしたのである
反乱鎮圧に手間取っている間にエゥーゴ残存部隊であるガンダムチームの介入を許し、本拠であるアクシズのコア3付近の戦闘にまて発展した
なお、シーマ海兵隊は新型機や試作機を多く擁するグレミー軍のおよそ2割を道連れに全滅
指揮官であるシーマはグレミー軍の親衛隊をまとめるラカン・ダカランのスペース・ウルフ隊やオウギュスト・ギダン率いるドライセン隊と部下であるマシュマー・セロ、イリア・パゾムと共に戦闘
マシュマーとイリアを喪うものの、両隊の討伐に成功している
が、乗機であるゲルググマリーネ・カスタムも損傷が酷くシーマ自身も深い傷を負っていた
そこにガンダムチームのジュドーが到着し、なし崩し的にプルツーの操るクインマンサとの戦闘を開始
苦戦するジュドーに
「ったく、ガキが戦場に出るのが当たり前の時代なんて来て欲しくなかったねぇ!
ボウヤ、アンタは本体だけ気にしな!
あの鬱陶しいのはアタシが片付けてやるさ」
『でも、アンタ。そんな機体で』
「はっ、言うじゃないか
舐めんじゃないよ!アタシはアンタよりも長い事戦場に生きてきたんだ。それに
大人が子供を守れずして、何を誇ろうってんだい!!」
それはゼナの絶望を知った
そしてキャスバルの嘆きを知ったシーマだからこその怒りだった
「癇癪持ちのガキの相手には慣れてるんでねぇ!」
獅子奮迅。その時の彼女を表すならばこの言葉が1番似合うだろう
クインマンサの搭載するファンネルの数は30機
それをボロボロの機体を駆り、その全てを叩き落としたのだから
『もう下がってくれ!それ以上やったらアンタが保たない!!』
「優しい子供だねぇ
でもこのシーマにも譲れないものがあるのさ、ボウヤ
…隙を作ってやるから、後は任せるよ?」
『っっっ!!
…分かった。ありがとう、シーマさん』
「ふふ、もしお嬢に会ったらよろしく頼むよ」
そうシーマは薄れゆく意識の中で少年に頼むと
「こんな
クインマンサの左腕を道連れに
(やっと。やっと貴女とお会いできますか?)
彼女の意識は闇に包まれた
その後、ハマーンはジュドーの口から恩師であるシーマの死を聞かされシーマがジュドーに
そして
「帰ってきて、良かった
優しい子に会えて」
彼女もまた
原作とは全く異なる最後を迎えたシーマ
ですが、彼女は幸せを感じたのではないでしょうか?
そして遺された者が動き出す
次回『恩讐の果て』
宜しければご覧ください
ミネバとバナージの結婚式見たいですか?
-
見たい
-
別に要らない
-
書けるなら書いて、どうぞ