義理の兄、なんだそれは!?   作:鞍馬エル

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あり得たかも知れない未来

遠き光は闇の彼方へ




誤字訂正ありがとうございます
何度見直しても誤字脱字の減らない作者で申し訳ない


 (異伝)誇りを胸に

 宇宙世紀0100

 

ジオン共和国首脳は幾つかの決断をする事になる

数々の謀を巡らせて地球圏に混乱を招いていたモナハン・バハロを反連邦運動教唆並びテロ首班として拘束、即時処刑

 

 

更にこの地球圏の平穏に対する裏切りの責任をとって、現共和国首班は全員退陣する事となった

 

 

そして、その後任には

 

オードリー・M・K・リンクスジオン共和国首相

バナージ・K・リンクス首相補佐官

アルテイシア・ソム・ダイクン内政担当大臣

ブライト・ノア国防大臣

ラウム・クラヴァス政策主席補佐官などを中心とした新体制を発表

 

共和国新政府は混乱の収まらぬ地球圏の平穏の為に連邦政府との協調路線を打ち出す事となった

 

 

----

 

「…やられましたな」

ジオン共和国首相よりの地球圏全土に対する熱意のこもった演説などの後、連邦政府首脳陣は臨時の緊急会議を招集する事となる。その席である人物は苦々しく口を開く

 

「ザビ、ダイクン、クラヴァスにビスト

全くもって我々が恐れていた連中が一つにまとまるとは」

 

「加えてノアまでいる

確かにあの男は連邦軍を退役しているが」

前年0099付でブライト・ノア中将(・・)は連邦軍を退役しており、その後の足取りは不明ではあった

 

連邦政府としてはブライトの政界進出を未然に防げたとして、祝杯を挙げていたのだが

 

「更にクラヴァスの残党共が宇宙に上がったとか」

マフティー崩壊後のゴタゴタもあってか、オセアニアのクラヴァス一族はほぼ滅んだも同然。連邦議会において純然たる影響力を未だに有し得るクラヴァスは他の地域や派閥からすると危険なものであった為にこれを無力化出来た事を喜ぶ者も多い

 

…だが、決してクラヴァス一族は滅んだとしてもクラヴァスの縁者や支持者までが滅んだ訳でもなかった

彼等はクラヴァス一族の生き残りであり、新たな旗印となり得るラウムの生存を聞きジオン共和国へと向かっていたのである

 

「…面倒な事を」

 

ラウム・クラヴァス

この名が今更になって表舞台に出て来た事に対して彼等は心底不愉快であり、恐ろしくもあった

 

何せ『ザビとダイクンの架け橋』と一部から言われていた人物であり、ジオン共和国の一部からは高い支持を得られる事が期待されているのだ。そして連邦政府としてもそれは恐れるべき事である

何よりも彼自身が第一次ジオン共和国独立における立役者の1人であり、当時の対連邦政策顧問を務めていたとされケイム、セリアの息子である。何処ぞの要塞内で終戦を迎えておきながら、軍人としての責務を果たしたという人間とは異なり、間違いなく独立運動に参加している

 

それは他ならぬ彼等連邦政府の人間の方がよく知っているのだ

 

そして、最早どれだけ生き残っているか定かではない当時の独立運動に参加していた者達にとっては紛う事なき同胞なのだから

 

 

更に

 

「聞けばブッホもこの政権の支持を大々的に打ち出しておるらしい」

 

「マイッツァーめ、抜け目のない事だな」

 

コスモ貴族主義を掲げた軍事組織C・V(クロスボーン・バンガード)の結成を目論んでいたマイッツァーであったが、ある意味でその体現者ともいえるラウムの参画するジオン共和国に彼は一つの希望を見出す事となる

長男ハウゼリーはクラヴァス政策主席補佐官の秘書として既にジオン共和国首班の一員となっており、義理の息子となったカロッゾもまたラウムの元で働く事が内定している

故にマイッツァーはその活動拠点を完全にサイド3へと移転させる事を決意しており、長女であるナディアもまたサイド3に移住を決めていた

 

マイッツァーのブッホコンツェルンやその傘下の企業群がサイド3へと移転するに及び、サイド3の経済は俄かに活性化

更にコロニー間の物資移動やジャンク回収を生業とするシャングリラを本拠とする『シャングリラ・ギルド』もその活動拠点をサイド3に移転させる事と経営首脳陣の判断から決まっている

 

これらの動きにより、雇用は拡大し資金は流入。ジオン共和国は建国当時を思わせる活気を取り戻す事となったのだ

 

マイッツァーはC・VのMS開発部門などの技術をジオン共和国に提供。C・Vにおいて予定されていた武装組織の予定兵員達をジオン共和国国防隊に志願させる事とした

 

何せ、国防大臣は英雄(・・)ブライト・ノアであり、MS隊総司令官にはカミーユ・ビダン少将。艦隊司令にはスベロア・ジンネマン同じく少将がいる

従うには不足のないメンバーといえるだろう

 

 

更にコウ・ウラキ元連邦軍退役中佐やチャック・キース同じく元連邦退役大佐など旧連邦軍関係者も多い

首相オードリーの掲げる『地球圏の安定』の旗に偽りなし。そう言える人員といえるのだろう

元ジオン軍人と連邦軍人にエゥーゴの志願兵。更に元ティターンズの兵士などの志願も受け入れているとも聞く

 

正に地球圏に存在したありとあらゆる組織の垣根を超えた組織となっているのが現在のジオン共和国国防隊なのだ

 

「しかし中々やりますな」

恰幅の良い人物はジオン共和国新体制をそう評価する

 

----

 

『私はジオン共和国首相オードリー・M・K・リンクスです

地球圏の皆さん、初めまして

少し私の話に耳を傾けて下さい

私の過去の名はミネバ・ザビ。そうです、旧公国を支配していたザビ家の末裔

今なお公国の為に、ジオンの為に剣を取っている者達に告げます

貴方達の戦争は終わったのです。いつまでも剣を持ち、その手を血で汚し涙を流す必要はない

…帰ってきてください。貴方達が守ろうとした祖国はもうないのかも知れませんが、それでもあなた方がその命を散らす事を私達は望んでいないのです』

 

『ジオンの、宇宙市民の自治権獲得の為にその命を、その人生をかけて戦い抜いた戦士(もののふ)達。私はラウム・クラヴァスだ

我々の戦いは終わった。終わらせねばならないのだ

我々の次に続く者達の為にも

悲劇があった。怒りもあろう。嘆く事だってあっただろう

その全てを飲み込んで未だに闘おうとする誇り高き勇士達。その剣を置くのは決して君達の今までの人生を否定する事ではない

帰って来て、語り合おう

亡くなった者達の墓標の前で色々な事を話そう。今を生きる我々だからこそ後の世に語り伝えねばならない事があるはずだ』

 

オードリーとラウムによる地球圏への呼び掛け

これは地球において行われていた一部の反連邦運動の沈静化に繋がる事となり、彼等はジオン共和国へと渡ったとされる

 

逆にそれでもなおテロ活動を続けている者達に対してジオン共和国は公式声明を出し『地球圏に住まう人達の敵』と断じ、それらに対する対応を連邦政府と協調して行なう事を宣言していた

 

 

此処まで言われてしまっては連邦政府としても流石にジオン共和国を無碍に扱う訳にはいかなくなる

何せ彼等は間違いなく地球圏の安定に向けて協力しているのだから

 

----

 

「…しかし、不穏分子を引き取ってくれたのは感謝すべきかと」

 

「ふん。お陰でタチバナの小僧を始末できるかどうか怪しくなったがな」

連邦政府上層部の中ではブライトが居なくなった今一番脅威に思っているのが今度フロンティアサイドの艦隊司令として派遣されるカムナ・タチバナであった

 

 

カムナの父もまた連邦軍人であり、彼は連邦軍に入隊した時から出世の約束されていた所謂エリート

だが、カムナは一年戦争において出世コースである司令部勤務ではなく、前線で戦うMSパイロットを選んだ

 

カムナの部下として配属されたシャーリー・ラムゼイやパミル・マクダミルにオペレーターのエレン・ロシュフィルと共にジャブロー防衛戦、オデッサ攻略作戦、ソロモン攻略作戦にア・バオア・クー攻略作戦に参加。欠員なく終戦を迎えた

 

星の屑において、父を喪うが地球軌道戦におけるデラーズ・フリートとの戦闘においても無事全員生き延びている

 

 

が、その後カムナ達はティターンズに所属していたのだがティターンズのやり方に不満を覚えたカムナとシャーリー、エレンはティターンズを抜けエゥーゴに投降。エゥーゴの一員として活躍する事となる

唯一残ったパミルは上官や同僚がエゥーゴに裏切った事により立場を失い、ティターンズもまたグリプスでの決戦により崩壊

 

言うまでもなく、連邦政府や連邦軍はグリプスにおいてシロッコに従ったティターンズ将兵に温情をかける事を良しとしなかった

ましてや、パミルの原隊の人間は唾棄すべきテロリストであるエゥーゴに寝返った者ばかり。彼の連邦軍に居場所はなかった

 

 

エゥーゴに参加し、第一次ネオジオン紛争の勝利に貢献したカムナ達であったが、連邦軍や連邦政府は冷淡であった

まして、カムナは父もまた連邦軍将官であり、その任を真っ当して戦死しているのだ。にも関わらず、軍規を逸脱した行為を行なった事が問題視され、内勤という名の軟禁状態に置かれる事となる

 

ところが、シャアの反乱においてカムナは前線に出ていた元部下のシャーリーの部下としてMS戦に参加

ネオ・ジオンの一員となっていたパミルと戦闘の末和解していた

 

 

 

とは言え、カムナの知るところではなかったが、パミル・マクダミルはシャアの反乱終結後の半年後、連邦軍軍事法廷において極刑(死刑)が執行されている

シャーリーもまた軍規違反(カムナの前線投入)の咎により、連邦軍を強制除隊させられていた

 

不思議な事に(・・・・・・)彼女は連邦軍除隊後、半月程して事故死(・・・)していたりするが、これもカムナの知らない事

 

 

 

その後カムナは連邦軍少将に昇進

フロンティアサイド駐留艦隊司令としての赴任が決まっていた

 

 

フロンティアサイド

連邦政府によるコロニー再生計画により大規模なコロニー再生事業が行なわれた事により再生した(・・・・)サイド

 

 

 

そう、再生

つまり此処にはかつてコロニー群、サイドがあったという事

 

そのサイドは5

サイド5

 

別の表記ならばこう言おう

ルウム

 

 

----

 

ルウムそれは一年戦争の記憶がある者やその時代について調べた事がある者であれば、聞き覚えがある事だろう

 

一年戦争開戦初期の1週間をさして『1週間戦争』とも言われるが、その1週間戦争最後の最大規模の戦闘がサイド5付近にて行なわれた

一年戦争を通しても艦隊戦という意味においてならば有数の戦い。それが『ルウム戦役』である

 

 

ジオン軍によるオーストラリアへのコロニー落とし

それを阻止出来なかった連邦宇宙軍は第二のコロニー落としの阻止の為、これ以上の戦火の拡大を防がんとしてサイド5ルウム付近の宙域て大規模な艦隊戦が行なわれる事になった

 

が、地球物理学会から追放されたミノフスキー博士が発見したとされるミノフスキー粒子

 

『詐欺師の妄想の産物』

とすら揶揄されたそれが地球に牙を剥いていた

 

 

「最早同数のジオン軍に勝てる可能性はないだろう

ならば圧倒的物量をもって彼等を打破せねばならない」

連邦軍司令官レビルはそう判断し、動員できる全戦力をジオン軍にぶつける事を選んだ

 

だが問題となった事もある

ミノフスキー粒子により、レーダーはその機能を失い誘導兵器もその誘導性という優位性を失った

 

となれば、連邦軍の取れる有効な戦術は限られよう

 

 

そこで連邦軍が選択したのは弾幕であった

点による制圧ではなく、面による制圧を行なう事を是としたのである

 

が、弾幕とは命中弾が比率で考えると低いもの(・・・・・・・・・・・・・・)である

ジオン側とて、演習やシュミレーションは行なっていたがやはりと言うべきか数で勝る連邦艦艇から放たれる濃密な弾幕には手こずる事となった

 

 

 

此処までは純粋な軍事的見地からのものだ

 

 

 

しかし戦場となったのはサイド5ラウム至近の宙域

濃密な弾幕故に有効弾もそれなりにあっただろう?

 

では、命中しなかったものはどうなるか?という話を無視したならば最良の作戦であっただろう

 

宇宙空間での物体にかかる重力は存在しない

故に外れた弾はそのまま速度を殺す事なく、近くにあるサイド5のコロニー群に牙を向く事となる

 

 

それらにより、重厚なコロニーの外殻に損傷を与えコロニーは崩壊

当然だが住民が生きていられるはずもなく、事実上サイド5ルウムはその機能を失う事となってしまう

が、戦闘の余波であるが故に連邦軍総司令部はこの件についてジオン軍の攻撃による被害

そう政府関係者に説明していたりする

 

 

1週間戦争によるサイド市民虐殺は確かにジオン軍の作戦により行なわれたものであるからして、連邦軍総司令部のその報告にも一定の説得力があった。加えて敵指揮官であるドズルも少なからぬコロニーが自軍の戦闘の影響により崩壊したとの報告を受けていた

故にドズルはその非難を甘受した訳である

 

 

さて、そのサイド5であるがその後数奇な運命を辿る事となる

サイド5の観光用コロニー『テキサスコロニー』において、ジオン突撃機動軍司令キシリアの懐刀との評価の高いマ・クベ少将は連邦軍の優勢の証ともいえるRX78-2ガンダムを己が手で破壊せんと戦場に選んだ

 

なお、条約によりテキサスコロニー付近一帯はコロニー公社との取り決めにより中立地域と指定されており、戦闘行為の一切が禁じられていた事を此処に記す

 

 

0083にはジオン残党デラーズ・フリートが『星の屑作戦』を実行し、連邦軍に大打撃を与えたが、彼等の本拠地『茨の園』こそがサイド5の暗礁空域にあった

 

0096における『ラプラス事変』の中心人物であるバナージ・K・リンクスとジオンの、いやザビ家の姫君であるオードリー・M・K・リンクスの出会った場所、インダストリアル7も此処にある

 

 

此処はアナハイムの私有するコロニーであったが、アナハイムの新会長であるアルベルト・ビストはこのコロニーの所有が地球圏の安定を妨げかねないとして連邦政府に無償で移譲している

アナハイム高専については0099を以て閉校

 

サイド3において新しくアナハイム高専を再建する事としていた

 

 

此処数十年における重要な地域とも言えるサイド5、いやフロンティアサイドないしは新サイド4

ルウム(呪われた名前)を過去のものとする為に連邦政府が行なった小細工とといえるのかも知れない

 

 

----

 

そんな事情から現在フロンティアサイドに住んでいる者達は此処で何があったのかを正確に知る者はいない

 

本来ブッホは此処を重要拠点としていたのだが、ジオン共和国の新体制発足をラウムから聞くに及び、其方への梃入れこそが真の貴族主義を実現させる為の近道であるとマイッツァーは判断

ブッホ関連企業はフロンティアサイドからサイド3に活動拠点を移す事となった

 

 

結果、フロンティアサイドにおける雇用率の低下などが起きる事となり、住民の中には今後の生活に不安を覚える者も少なくない数出始める事となってしまう

 

そんな微妙な空気の中、フロンティアサイドに連邦艦隊司令部が置かれるとなれば

更にサナリィ(海軍戦略研究所)の工場が新たに造られるとなれば

 

 

フロンティアサイドの民心が動揺する事は避けられまい

 

 

連邦軍総司令部としても、いつまでも過去の亡霊に居座って貰っても困る

と言うのが偽らざる本音だった

 

「これが彼に用意する最後の花道だ」

とは連邦軍総司令部のある人物の言葉

 

連邦軍としても過去の英雄というのは既に扱い難いものでしかなかったのであろう

 

 

 

----

 

連邦政府はジオン共和国の新体制に対し明確なコメントを控えていたが、宇宙世紀0101において

 

「地球圏の平穏を願い、行動する友邦(・・)の存在について連邦政府は歓迎の意を示したい」

と発信している

 

 

ジオン共和国と地球連邦

地球圏の平穏を守る者として同じ道を歩もうとしていた

 

 

 

----

 

「それでクラヴァス主席補佐官

…これは間違いないのですか?」

 

「はい、首相

マイッツァー氏やアルベルト氏などにも確認をとりましたところ、裏から手を伸ばしていた事は間違いないとの事」

 

ジオン共和国の会議においてオードリー首相はクラヴァス政策主席補佐官からの報告について確認を行なっていた

 

「…木星船団

いえ、木星帝国(ジュピター・エンパイア)ですか」

 

「どうにもおかしいと思っておりました

私にも過去数度接触がありましてな。最初は単なるご機嫌伺いと言っておりましたが」

当時のラウムは隠棲していたただの一個人に過ぎない

そんな男にご機嫌伺いなどとは随分彼方の人間にはジョークのセンスがあるものだ。ラウムはそう感じていた

 

「クラヴァス補佐官の人脈と声望が欲しかったのね?」

 

「…余り言いたくないけど、そうなのかも

アルテイシア内務大臣にはそう言った話はなかったんですか?」

 

「無かったわね。私はマス家と疎遠だったし、ダイクンの旗を掲げるなら兄の方が余程良かったのではないかしら?」

セイラの言葉にバナージが疑問を口にすると、彼女はそれに応じる

 

現在ジオン共和国首脳陣が議題としているのは、木星に対する対応だった

 

 

ジオン共和国に合流した地上にて活動していた組織やブッホとその関連企業群。更に一部のサイドから齎された情報

これがかなり危険なものであると彼女達は判断し、臨時会議を行う事とした

 

「その辺りはどうなのか、ホルスト政務官?」

 

「は、確かに木星からの支援があったのは間違いないかと」

ラウムからの問い掛けに答えるのはホルスト・ハーネス

 

シャアの反乱において、シャアの政治的副官を務めた人物である

彼はアクシズ落とし失敗の直後、ジオン共和国に出頭。本来ならば死罪相当であったが、モナハン・バハロはその政治センスを惜しみ拘禁刑に押し込んだ

 

数少ないシャアのネオ・ジオンの内情を知る人物であった為にラウムは彼を自身直属の部下として迎え入れた

まぁ、ラウムが死んだ場合ホルストの保護観察役が不在となる為獄中に逆戻りする事になるのだが、ホルストはそれを知りながらその沙汰を受け入れている

 

「私は総帥に人類の未来を託したのです

その総帥が亡くなったのであれば、その後の未来に責任を持つべきなのでしょうな」

とは言え、ホルストとて説得したのがオードリーやバナージ、セイラでも首を縦に振らなかっただろう

 

----

 

 

ホルストはシャアに命じられて、ラウムの口座に資金を振り込んだ事がある

当時のネオ・ジオンにとって資金や資源は貴重なものであり、幾ら総帥の私費とはいえ誰とも知らぬ人物にその様な扱いをするのは反対であった

 

「総帥、誰とも知れぬ相手にそこまでする必要があるのでしょうか?

我々の存在はギリギリまで秘匿せねばなりません。コロニー住民が味方しているとはいえど、それとて絶対ではないのです」

 

ホルストは連邦の強大さを侮っていない

自軍の中には露骨に連邦を侮る者が多くいる。だが、ホルストはどうしてとその様な者達の意見に頷く事が出来なかった

 

例え総帥であろうとも、必要ならばそれ相応に振る舞って貰う

シャアは作戦前の演説の後こう溢している

 

「これではただの道化だよ」

 

そこまで最高指導者に言わせてなお、ホルストはネオ・ジオンの為に働いたのだ

…断じてシャア・アズナブルという個人に対して盲信的になる事はなかった

 

 

それ故にホルストはラウムという人物について独自に調べる事となる

 

 

それがジオンの歴史を紐解く事になるとも知る事なく

 

 

----

 

「一つ伺いたい

何故貴方は立とうとしなかったのですか?」

 

無期懲役刑に処されていたホルストの元を訪ねたラウムにホルストは問いをぶつけた

 

ラウムの生まれ、そしてコロニーに渡ってから築き上げた人脈

それがあれば反連邦運動を主導したとしても多くの賛同者を集めただろう

 

だがそうはしなかった

 

 

なのに

 

なのに今更表舞台に立った

 

ホルストには理解出来ない

理解出来ないからこそ、直接その質問をぶつけるのだ

 

 

「俺は逃げ続けた男だ

人によってはやれ『歯を食いしばって耐え抜いた』などと美辞麗句を言ってくるが、な

両親を喪い、生まれてくるはずだった妹をも喪い

唯一無二の妹が繋いでくれた義理の家族もその悉くが黄泉路へと旅立った。そして妹は俺の手の届かない所で死んだ

…それでも唯一残った繋がりがあったのさ」

 

「それがドズル・ザビとゼナ・クラヴァス(・・・・・)の間に生まれたミネバ様と」

ホルストの言葉にラウムは薄く笑う

 

「我ながら愚かしいものだよ

姪が居ると聞いたと思えば、その姪はアクシズの動乱の中で命を落としたと聞いて全てに絶望した

…自分の目で確認した訳でもあるまいに」

 

「…」

 

「だが、どうにも義理の兄上は俺が思う以上に俺の事を気にかけてくれていた事に今更ながらに気が付かされた

…20年だ、ホルストくん

分かるか?20年もの間、自分が最も敬愛する人物の悪評を聞きながら、自分が守ろうとした国や国民から責められながらもたった1人への想いの為にその口を閉ざし続ける

それがどれだけ苦痛であったかなど俺如きには想像もつかんよ」

 

不器用だと自覚していながら、こんな自分に教えを請うた女性の事をラウムは思い返す

 

「祖国からも、同胞からも間違いなく批判しかされない事を分かってもやらねばならぬと

先が見えていた作戦を己が心すら偽ってでも行なった

彼女も彼も願うのは一つだけ

今は亡き己が()を捧げる者の願いの為」

 

武人として、軍人として間違いなく高潔であろうとした親衛隊長の事をラウムは思う

 

「武器も食糧も資源も人も何もかもが不足しながら

祖国が滅び、その跡を継いだ者達から否定されてなお亡き者達の理想の為にその人生を費やした漢達

どれだけ無念であったかなど、俺には分からん

その父の跡を継がねばならなかった者

守ろうとした者を矢面に出さねばどうにもならない事を理解してなお突き進まねばならなかった

届かぬと知りながらも、その(明日)に手を伸ばさねばならなかった」

 

かつて独立運動において、まだ幼い自分を真剣に心配してくれた人物の事を、話だけしか知らないその娘の事を今更ながらに思う

 

「誰もしもが己の信じる未来の為に全てを賭けた

そして、姪はそんな者達のお陰で生きている

…その姪が自分の家族が愛したものを守ろうと決めたのだ

どうしてそれでも墓穴に篭っていられるのか?」

ラウムにはもう時間はない

 

それは他ならぬラウム自身が一番理解しているし、今もなおこんな自分の主治医として動いてくれているファや献身的な介助をしてくれるルーやリィナちゃんには頭が上がるまい

 

 

だが、愚かと

無駄と言われようとも、叫ぼう

 

「それでも」と

 

----

 

託された願いがある

残すべき想いがある

伝えねばならぬ過去がある

紡がねばならぬ未来がある

 

 

それは死した者達には出来ぬ事

無様に生き残った自分が出来る

 

たった一つの事なのだ

 

 

 

だから、もう一度

最後に残った残骸に火を付けよう

 

それで自身の命が縮まろうとも、愛すべき家族(娘と息子)の為に

 

 

それがラウム・クラヴァスの最期の闘いなのだ

 

 

----

 

ラウムとの話の後にホルストは保護観察処分を受け入れて、ラウムの部下として政務官となった

 

とは言え、実権など何も無い政策案を提示するだけの名誉職

 

 

だがそれで良い

ホルスト・ハーネスという男は既に死んだのだ

 

今此処にいるのは明日を迎える若人(わかもの)達の未来を血を以て切り拓かんとする亡者なのだから

 

 

----

 

『直接お目にかかるのは初めてですかな?』

 

「驚いたものだよ。君は亡霊を墓穴から掘り出すのが好きだと見えるね」

男はモニター越しに見える人物に皮肉をぶつけた

相手はラウム・クラヴァスジオン共和国政策主席補佐官

 

『亡霊が未だ以て現世に留まっている様ですからな

亡霊が居るべきは常世(とこよ)に在らず。還るべき場所へと連れて参りたく思いましてな』

 

「…なるほど」

 

『その為には連邦軍に未だ厳然たる影響力を持っておられる閣下の力添えが必要かと思いまして』

 

「ふぅむ

力添えとはまた穏やかではないね。まして君は今連邦軍(・・・)と言った。つまり君は軍が動かねばならない様な事態が起きる

そう言うのだね?」

 

『言を弄するのはやめましょう

率直に申し上げる。木星です』

 

 

----

 

「木星、か」

ラウムとの通信の後に男は感慨深そうに呟いた

 

ラウムから提示された明確な証拠は多岐に渡る

アナハイムの旧経営陣(・・・・)時代の収支報告書

ブッホコンツェルンに対する

…いや、その軍事部門であるC・V(クロスボーン・バンガード)に対する物資支援の詳細

ネオ・ジオンに対する資源の無償提供の音声データ

更に反連邦組織マフティーに対する不自然な資源、資金提供の流れ

 

既に男は違和感を感じていた為に独自に調査させていたが、その調査資料とも合致する所が多い

 

「地球に憎悪を抱くに足る過酷な環境か」

男はかつて『ジャブローのもぐら』ととある人物から酷評された事がある。それだけジャブローつまり連邦軍総司令部のある場所に長く居た

ジャブローでの生活は他の地域に比べると確かに快適だろう

故に男にはその様な環境がある事事態イメージが湧かない

 

相手はこうも言っていた

 

「木星への大規模な支援を今から打ち出したとしても逆効果になるでしょうな

クラックス・ドゥガチ。かの御仁が居らねば木星圏の発展は無かったのでしょう。今になって支援したとしても『地球に服属せよ』と歪んだメッセージとして受け取られかねないかと」

 

木星が様々な反連邦運動や組織に裏から支援していたとなるとこれは決して放置してはならない問題となるだろう

 

「地球圏の混乱は彼等にとって遠い所の出来事

我々は金を出していたとは言え、彼等の資源を無意味に食い潰す連中に見えていたのかも知れないな」

 

木星に対して第二次ジオン共和国首相ダルシア・バハロはそれなりの支援を打ち出してはいた

だが、共和国自身の経済力とて旧公国時代や第一次共和国時代に比べると遥かに落ち込んでいたのも事実

 

結果として木星圏に対する支援は縮小していたのである

 

 

 

「…やはり戦争の影響は未だに連邦に暗い影を落とす、か」

自分もそろそろ引退せねばならない時期である

…いや、余りにも遅過ぎる話ではあるだろうが

 

「最後の仕事となるやも知れんな」

男はそうして動き始める

 

 

----

 

「ジオン共和国は各サイドとの協調を以て共に発展していく事を希望する」

かつてフル・フロンダル達が目指した『サイド共栄圏』とは異なる地球圏全ての国家や組織による相互互助協定の成立をオードリーは目指している

 

「武力による解決とは血と涙を流すだけではなく、後世に至るまでの呪いを残すもの

人は容易く憎しみや怒りを捨て去る事が出来ないのです

忘却という名の逃避すら長い時間があっても許されない

何処かでこの負の螺旋を打ち砕かねばならない

明日が当たり前の様に来る未来。子供達が笑って暮らせる世界

人類が求めてやまなかった理想

私達はそこに向かう為に今こそ協力し合わねばならないのではありませんか?」

 

オードリーは各サイドの首長達とのテレビ会談の場において、その様な発言をしている

なお、ラウム発議の『木星帝国討伐作戦』については会議において否決されていた

 

「武器を捨てる事が出来るならばそれが一番

ですが、そうでなかったとしても最後の最後まで話し合いを続ける努力を怠るべきではない」

 

そうオードリーはラウムの提案に対して回答している

 

ラウムはその答えを聞いて

(血生臭い道を歩む事に疑問を持たなくなった俺達の役目はもう終わったのかも知れん。義兄上、ドズル君、義姉上、ガルマくん、義父上、サスロさん。……ゼナ

本当にこの子は強く気高く育ったよ)

と目を少しの間閉じた後

 

「…分かりました首相。しかし、念には念を入れてノア国防大臣やビダン、ジンネマン両少将と対策を協議しておきましょう」

と結論を出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この2年後にはラウムは病死しますし、その翌年にはホルストくんも亡くなります

でも、ラウムは満足のままに逝ける事でしょう
自分達の様な道を子供達は選ばなかったのですから



この世界線の場合、コスモ・バビロニア建国戦争は起きませんし、なんならカムナ君は息子と戦う事もないでしょう(カムナの息子はC・Vに所属しているらしいので。なお娘は連邦軍所属)
もしかしたら、木星帝国との戦いすら起きない可能性もあります

その場合、シーブックはセシリーとパン屋を普通に営むかも知れませんね
トビア君とテテニス嬢の出逢いは、どうなるんでしょうね?







この世界線の場合、ザンスカール帝国の建国フラグが盛大にへし折れる可能性は割とあったりする
カガチさんは意外と共和国か木星に骨を埋めるかも

 IFルート

  • 狂った者(公国ルート)
  • 潜む刃(ソフィルート)
  • 悪意の先に(アクシズグレミー討伐ルート)
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