流石にエピローグは結婚式だけで終わらせるべきだと内なるゴーストが囁いたのでわちゃわちゃする事が確定する結婚式後の事は今回になりました
計画性?
知らない子、ですかねぇ
オードリーとバナージの結婚式は厳かな雰囲気でありながら、どこか優しい空気を感じる中終わりを告げた
主役であるオードリーとバナージの立場的に、また2人の心情的にも余り時間をかけたくなかったというのが本音だった為に
ミネバ改め、オードリー・M・K・リンクスは式後養父となってくれた人物の元へ駆けつける
はっきり言って、彼の体調は彼女やバナージ達が思う以上に悪かった。それでも弱音一つ恨み言一つ言わずに居てくれる彼にオードリーは頭の下がる思いしかなかったのである
そして、どうやらそれは夫も同じらしく、挨拶回りもそこそこに父と呼ばせて貰った人物の元へと駆けつけていた
「大丈夫ですか?ラウムさん」
「いやホントすまないなぁ、セイラ
こんなおっさんの介護なんてさせてしまって」
金髪の女性セイラさんは父の言葉に
「そうでもないのだけど
昔あなたに遊んでもらった。それをようやく今少しでも返せると思っているのだから私としてはどちらかと言うと嬉しさの方が勝るのよ」
「…あの兄の後ろで隠れていた嬢ちゃんが立派になって」
「どこの目線で話しているのかしらね?」
…私としては心中複雑ではあるけれど、彼女が父を案じる気持ちに偽りがない事くらいは理解できる
元々ブライト司令にも実父を倒されたという恨みを持つつもりなど私にはない。セイラさんにも勿論そうだ
「大丈夫ですか?ラウムさん」
「…ええ。申し訳ないと思っています
初めまして、ですね。ブライト・ノアさん。オードリーやバナージ、それにセイラから話を聞いております
遅くなりましたが、私にとっての希望を守ってくださりありがとうございます。オットー艦長にもお礼を」
「あ、いえ。本来ならバナージ君やオードリー嬢に負担をかけるなどあってはならない事でした
私達連邦軍がもう少ししっかりしていれば、そう恥いるばかりです」
「…私を恨んでおりませんか?
オードリーさんにも聞いたのです。ですが、あなたにとって残された最後の家族を結果的に私達は奪った。それは事実かと」
「それが戦争でなく、テロであったのならば私とて許す事はないでしょう。ですが戦争だったのです
殺し、殺されそれでも平和な明日を目指したのでしょう。ならば胸を張っていただきたいと私は思います」
お父様はそう言ってブライト司令とオットー艦長を見つめました
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「セイラ。まさか此処で君に会えるとは思わなかったが」
「奇遇ね、ブライト。私も思っていなかったわ
でも、これも何かの導きなのかしら?
柄にもない事だけど、そう思えてならないわ」
「そう、だな」
私は殆ど会う事のなかった友人との予想外の再会に戸惑いつつもどこかで安心していた
何せ彼女もまたオードリー嬢とは別の意味での『ジオンの姫』
そして7年前に起きた『シャアの反乱』の首魁である男の唯一の親族であり、ダイクンの姫なのだ
何があってもおかしくなかった。事実妻ミライはその事をとても気にかけていた
…最近息子のハサウェイの様子が少しおかしいと感じるのは果たして私の考えすぎなのだろうか?
「あなたも大変ね。いつまでも軍が離してくれないのかしら?」
「それも確かにあるだろうさ
だが、アムロが命すら擲って守った平和。せめて守らねばならないと思うよ」
「…ブライト。明日時間をもらえるかしら?会って欲しい人がいるのだけど」
どこか楽しそうに話す彼女は一年戦争の時の彼女と全然受ける感じが違う
(当然だろうな。あれから20年が過ぎたんだ
寧ろいつまでも軍人をやっている私の方がおかしいのかも知れん)
ミライやチェーミンは私が軍人を続ける事に決して賛成している訳ではない
本心で言えば、私も軍人であり続ける事に疲れと虚しさを感じているのは間違いない
が、それでも割り切れないのだから本当にどうしようもない
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「初めまして、リディ・マーセナスと言います」
「多分知っていると思うがラウム・クラヴァスだ
君のおかげで私はオードリーと出会う事が出来た。本当に感謝しているよ」
俺は目の前で椅子に座っている相手をさりげなく観察する
別に後ろ暗い事がある訳でも、害意がある訳でもない
ただ、純粋な興味はある
あのザビ家の人間と親交のあった。しかも殆ど明らかとなっていないプライベートの部分で、だ
勿論オードリーの養父であり、バナージにとっても義理の父親にあたる人物である事も理由の一つだが
「とはいえ、助けられて何だが権力の私的利用は余りすべきではないだろうな?マーセナス君」
「そうですね、確かに」
別に悪い人ではない様に見える
「しかし、初代首相リカルド・マーセナス氏の血脈が今なお残っていると言うのも感慨深いものがあるな」
「ええ。そしてジオン独立運動の立役者の息子さんもこの場にいる様ですし」
俺とラウム氏は顔を見合わせて、少しだけ笑った
…ああ、心配する事はなさそうだ
オードリーとバナージにとって、この人物は安らぎを感じられる人になる
俺はそう確信した
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「皆良い人じゃないか」
「ええ。良い人に巡り会えました」
お義父さんは様々な人に挨拶され、楽しそうに話をした後オードリーと談笑している
本当にオードリーの家族がいて良かったと思う
キャプテンやアルベルト兄さんとは言葉少なく話をしていたが、それでも誰もが笑顔だった
それが俺にとって何よりも嬉しい
「ところでお義父さん。良かったんですか?」
「ん?何かなバナージ」
せっかく義理とは言え親子の関係になったんだから、俺の事もオードリーの様に呼び捨てて欲しい
そう俺はお義父さんに頼み込んだ
流石にそれは受け入れ難い話だったみたいだけど、オードリーやセイラさんからの援護や
「オードリーの名前で」
そう、確かに俺からすれば彼女は
でも、彼女の名前は
「気にする事はないさ
義兄殿達も言っていただろう?『幸せの為になら捨てても構わない』と」
その言葉を聞いても俺の心は晴れなかった。オードリーもだろう
あの映像ディスクと再生プレイヤーは俺達への贈り物だとお義父さんは俺達に渡してくれた
そしてある時オードリーは気付いたのだ
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「バナージ、少し良い?」
あの日オードリーといつもの様に過ごしていたんだけど、オードリーは珍しく少し慌てた様子で声をかけてきた
既にお義父さんから結婚を許して貰った後、オードリーは叔父や叔母さん、祖父の唯一遺されたソレを何度も見ていた
まるで彼らと会話をしているかの様に
「これを見て欲しいの」
オードリーはディスクを再生する
ドズルお義父さんの話の後、一時停止すると妙な事に気がついた
『再生時間が明らかに残っているのだ』
しかし、1分ほど再生を続けてもそこには誰もいない
だが、2分後の事だった
『ふむ、どうやら気付いてくれた様で何よりだ
ミネバが気付いたのか?それともミネバの人生の伴侶が気付いたのかな?』
画面には誰も映っていないが、その声はギレン叔父さんのものであった
『私達の親愛なる義弟殿はあれで結構余裕のないところがある
残念ながら、
さて、ここ迄時間を取らせたのには理由があってな
私からの個人的な贈り物をしたいと思う。受け取ってくれるならば嬉しいのだが』
オードリーと俺は顔を見合わせた
『さて、初孫で浮かれきった父上は生まれてくるドズルとゼナの娘の名前をつけたいと言い出してもので、色々困った事になったものだよ』
そう言いながらも、どこかその声色は優しいものだった
『しかし、名前とは生まれてくる新しい命にとって初めて与えられるべき
幾ら何でもそんな無法を許すつもりは私達兄妹になかった』
意外としか思えない叔父の心配りにオードリーと俺は目を丸くしていた
『そも、父の希望を通すとなれば義弟殿の立場はどうなると言うのか?そう言って私達は父を説得したのだが、困った事にこの件に関して父は全く譲る気はなかったらしくてな?
…どちらが子供かわかった物ではない』
明らかに疲れた様子の叔父の言葉にオードリーはクスリと笑う
『そこで私達は一つの企みを考えたのだよ
…ガルマが言うには『姪の名前を考えよう作戦』だそうだ
……セシリア。これを読む必要があったとは私には思えんのだがな』
『何を仰います、総帥。せめてミネバ様やその伴侶の方には世間では誤解されている総帥の素顔をお見せになるべきではないでしょうか?』
そしてセシリアという女性の声もどこか楽しげだ
『…ふん、まあ良い
そこで私達は………
ふむ、今思い返してもあの時の私達は色々おかしかった様な気がしてならんが
とにかく生まれてくる子供の名前についてドズルやゼナも交えて話し合いを行なう事になったのだよ』
なお、ギレンは簡単に言っているが発信源が総帥府であり、受信場所は公王府に突撃機動軍司令部、宇宙攻撃軍司令部である
当時この通信を秘匿する為に数々の謀略戦が駆使された訳であるが、まさか連邦軍諜報部もその理由が
生まれてくる姪の名前を決める為などと言う理由だと知ってしまった場合
ふざけんな
と怒り心頭になる事は避けられない未来であっただろう
付け加えるならば、この通信を傍受出来なかった事で当時の連邦軍諜報部副局長が責任を取って職を辞していたりするのだが、何というか
滑稽(笑)
な話ではないだろうか?
そんなこんなで話し合いをした結果
『義弟殿の意見も聞かないと、流石に信義にとるのでは?』
との結論に至った
独裁者としての権限を躊躇いなく行使した結果が
連邦軍とジオン軍の関係者は泣いても許されると思う
そこで、勝利したキシリアはとんでもない行動に出た
何と自分の動かせる突撃機動軍の
俺とオードリーは余りの話に頭が真っ白となった
だってそうだろう?
あの残虐非道の代名詞であり『一年戦争最大の戦犯』とまで呼ばれているキシリア・ザビがオードリーの名前の為だけに部隊を動かしたのだから
なお、その時グラナダ司令部では
「マ、直ぐに支度をなさい」
「お待ち下さい、キシリア様
どちらへ?」
「それは私が指示する。お前はエレカを回せばそれで良い
急げ!時間は待ってくれぬのだぞ!」
「し、しかしキシリア様のお出になる程の事態となれば護衛も準備しませんと」
「…貴様、私に義弟殿が危害を加えるとでも思っているのか?」
「と、とんでもありません
しかし」
と機動軍司令部により丁々発止のやり取りが繰り広げられ、顔色の悪いとある人物の多大な犠牲により、キシリアの
なお派遣されたサイクロプス隊は
「国内に不穏分子でもいたのか?」
「流石にそれはないと思うがな、隊長」
「ったく、だからって何でサイド3まで態々行く必要があるんだっての」
「油断は出来ない!」
とそれぞれ反応していた
なお、サイド3の管轄は一応総帥府であり、サイクロプス隊の者達はそれなりに面倒な手続きを踏まねばならなかったりする
そして
「あの子には色々と
ですがそれでも真っ直ぐに生きてもらいたい」
との言葉により姪の名前は決まったのだ
辛い事もあるだろう
逃げ出す事もあるだろう
それでも目を逸らす事なく現実を受け入れる強さを
それがミネバという名前に込められた
『下手に古人の名前などより付けるよりも私達は相応しいと思ったのだよ
名を捨てても構わんと言った事に嘘はない
ただ、お前のその名前に込められた想いだけは決して捨てる事なく、忘れる事なく生きていて欲しい
それがギレン・ザビという一人の人間の願いだ』
俺とオードリーは絶句した
それだけの想いの込められていた名前を俺は一度もあの人の前で呼ぶ事はなかったのだから
自身の祈りを無視されていたあの人は俺をどう思ったのだろう?
それを当たり前の様に受け入れている彼女に寂しさを感じる事は無かったのだろうか?
俺なら、多分不満に思うだろう
穏やかな表情の下では、手を握り締めて耐えていたのではないだろうか?
やっと
やっと見つかった唯一の
そんな事を俺たちは知らなかったとは言えしていたのだ
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「昨日、知ったんです
オードリーの名前に込められた意味を」
バナージは絞り出す様に苦しそうに声を出します
気付きもしませんでした
考えもしなかったのです
お父様は言っていたのに
「だからこそ
と
お父様は恐らくお母様が死んだと知った時に死にたかったのです
それでも歯を食いしばって、心では涙と血を流しながらも生きる事を選んだ
…他ならぬ
私はお父様と初めて会う時住んでいたアパートを見て
『時代から取り残されている』
そう感じました
そうなのです
お父様にとって、生きる事は苦痛であり義務だった
今でもお父様は過去に生きているのです
其処にお父様の意思はなかった。託された思いを繋ぐためだけにあろうとした
本来なら戦傷者でもないはずのお父様
にも関わらず、キャプテンやブライト司令達に比べてもお父様の身体は弱りきっていました
セイラさんがいうには
「これでも私と再会した頃に比べたらまだ元気になった方なの
私が医学を嗜んでいたのをここ迄感謝した事はないと思うくらいには」
お父様に私やバナージ、セイラさんも何度となく病院に行くべきだと勧めました
でも、お父様は一切それに応じてくれません
一度だけバナージとお父様はお酒を酌み交わした事があったそうです
その時
「俺が病院に行かない理由か?
簡単な事さ
バナージはお父様と別れた後、少尉やキャプテンに連絡を取ったそうです
そこで知ったのが、お父様の母親であるセリア・クラヴァスはその頃体を悪くしており定期的に通院していた
そして
という恐ろしく、悍ましい真実だったのです
そして、その病院もまたダイクン派による一年戦争中の一斉蜂起により襲われた、とも
背筋の凍る様な真実でした
お父様はお母様に偏食を一切許さなかったと聞きます
当初は
お金に余裕がないから
私とバナージはそう思っていたのです
でもそうだとすると全く違った考えが私の頭の中を
健康的な食事を摂る事で、可能な限り健康を維持しようとしたのではないか?と
でも、一年戦争が終わった後のお父様の食生活はとてもではありませんが健康的なものとはかけ離れたものだったと思います
働いてはいました
コロニー内の建設事業の作業員という健康的にはかなり気を払わねばならないはずの仕事を
その会社もグリプス戦役と翌年のネオ・ジオン紛争における混乱期に無くなったと聞いています
それ以後はセイラさんが居たからこそ、そして私の生存を信じたから『死ぬ事はなかった』
そういう事なのでしょう
嗚呼
私が『呪われたジオンの姫』などと一部で呼ばれているそうですが、お父様の方が余程苦難の道を歩いていたのです
夫はラプラスを巡る戦いの中でダグサ少佐から言われたそうです
「歯車には歯車の意地がある
お前もお前の役割を果たせ ここが知っている。自分で自分を決められるたったひとつの部品だ。無くすなよ」
と
その部品をお父様は遥か過去に無くしていたのだと感じた
それを私達はまざまざと理解させられたのです
幸運にもセイラさん以外にも
「…そうか」
夫の言葉にお父様は苦笑いします
「ふぅ
恐らくそこまでしたのは義兄殿だろうな
あの人は本当に情の深い人だった。だが、私は構わないと思うのさ
オードリーにバナージ。お前たち2人は私の想いを確かに受け取ってくれた。そうだろう?」
お父様は柔らかい笑みを浮かべました
「オードリー・
本当に私からすれば勿体ない位に素敵な名前だよ」
お父様はそう言って、遠くを見つめる様な目をしました
それはまるで、一つの物語が終わった事をここにいない誰かに伝えるかの様に
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ブライト・ノアはセイラに言われた通り、結婚式の翌日とある場所に来ていた
「随分と年季の入った建物だな」
思わず私は呟いてしまった
明らかにひと世代前の様な佇まいのアパート
その前に
「ようこそ、ブライト」
「態々お忙しい中申し訳ない」
セイラとラウム氏の姿があった
「此処は本来なら立て替えて然るべきものなんですが
なにぶん色々と事情がありましてね」
ラウム氏は苦笑いしながら私をアパート内の中を案内する
セイラはラウム氏の隣に寄り添いながら、柔らかい表情をしているだけだ
…もしや、そういう事なのだろうか?
私も
そうだとすれば私やミライは素直に祝福したいと思う
セイラも最後の肉親であるシャアを失った悲しみもようやく落ち着いたはずなのだから
私はそう思いながら2人の後をついて行った
----
「では、ブライトさん
一応心の準備をしておく事を私はお薦めしますが」
「は、はい?」
いきなり3階にある部屋の前に来て何やら不穏な事を言ってくるラウム氏に私は戸惑いを隠せない
「ブライト。連絡はあったのでしょう?」
「あ、ああ。確かにそんな事を書いていたが」
確かにバナージくんの丁寧な文字で
何やらお義父さんは考えがあるみたいです。一応用心して来てください
と書いてあったが
「では、どうぞ
ブライトさん」
私は何かに導かれる様にその部屋へと足を踏み入れた
----
「な」
声が出なかった
何故争いは続く 心の中で この
「やぁ、遅かったな。ブライト」
そこにはベッドから身体を起こす
寄り添う事も うまく出来なくて
「なにぼうっとしてるんですか?ブライトキャプテン」
「死んだと思っているアムロさんと再会したんだから当たり前でしょ、カミーユ」
そして、そのアムロの傍らにはカミーユとファが
笑顔の向こうで 誰かが泣いているけれど
「ったくラウムさんもさ、もう少し早く呼べば良かったんじゃないの?」
「あのね、ジュドー。そんなに簡単な話じゃないのよ」
キッチンからはジュドーとルーが
夢を抱きしめたら 未来は変えてゆける
「やれやれ。これでようやく肩の荷が下りる」
「ご苦労さま」
もうひとつの明日へ 想いのまま走るよ
「ところでラウムさん。あの話なんだけど」
「…今度オードリー達と話するか」
私の後ろでセイラと恐らく苦笑しているであろうラウム氏が
悲しみさえも越えてみせる きっと
セイラとラウム氏の話が遠くに聞こえる
もしも、セイラとラウム氏が新しい人生を歩むというなら、その時はミライやハサウェイ、チェーミンも連れてこよう
此処には確かに
ただひとつの愛を 知るために痛みがあるなら 何も怖くはないから
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ラウムの管理するアパート
実はこの物件の購入資金は誰あろう、ザビ家一同からの結婚に対するお祝いだった
『そう言えば、兄さん達に姉上
私は気になっていたんですが』
「なんだ、ガルマ?」
『気になる事を放置して碌な事になる事はありませんよ、ガルマ
そういったものは早々に片付けるものです』
『確かにな
キシリアの言う通りだぞ、ガルマ』
ザビ家による戦略会議の後、
『ゼナ
でも、それで
『うん?
意味がよくわからん。詳しく話せ』
と
『いえ。家賃とかは大丈夫かな、と』
『家賃?』
『どう言う事ですか?』
「なんだそれは?」
ガルマの言葉にギレン、
何せ彼等はジオン公国の公王の子供達
言い方を改めるならば
更に全員が何らかの高い役職にある訳で
そんな雲上人ともいえる彼等が『賃貸物件』と言うものに興味や実感を持つ事もない訳です
----
ジオン国内に拠点を持つギレン、ドズルは勿論の事
半ばジオンの領土となっているグラナダに拠点を持つキシリアもそれなりの規模の生活拠点を持っています
ドズルは要塞内にプライベート・スペースを少しばかり設けて、そこに妻のゼナやアクシズ最高責任者の長女であるマレーネ・カーンが侍女としてゼナの身の回りの世話をする事に
…そう、過去形です
ゼナをソロモンに連れて行く際、元々デギンの従者であったマレーネがゼナ付きの侍女として指名されます
そして、ドズルはゼナとマレーネを連れてソロモンに入った訳ですが
「あなた
これはどういうつもりかしら?」
何と到着して落ち着いたと思ったらドズルはゼナに正座させられて怒られる事になったのです
「ま、待てゼナ
すまんが何故お前がそこまで怒っているのか俺にはさっぱり分からんのだ」
ドズルという男は何よりも実直な男であり、虚飾を何よりも嫌います
故に分からないとなれば、それをキチンと口に出せる人物でした
「私はあなたの妻です
どの様な場所に行こうとも、あなたを支えてこその存在だと思っています
なのに、何故私の為に貴重な要塞の空間を必要以上に使おうとなさるのですか!?
ドズルがその時受けた衝撃はどれほどのものだったか
ゼナは自身の私室以外を使う事を厳に慎み、兵達と要塞内で出会っても柔らかく笑うだけだった
何せ要塞に移って暫くの間だけであったが、兵達と共に夫共々食事を摂っていた程
ドズルの友人である某人物は
「素晴らしい御仁だな
なかなかできる事ではない。その分苦労は増えるだろうが
あれだけの人物を射止めた事に比べれば大した事でもないだろう」
と笑っていた
それ故に兵達がドズルとゼナの結婚式を正式に挙げていない事を聞きつけると、『簡素』であったがささやかなソレを行うべく要塞のNo.2であるラコック大佐に直談判する程であった
因みにゼナの侍女であるはずはマレーネは要塞の食堂要員として偶にゼナと共に料理を楽しんでいたらしい
なお、某公王は
「その手があったか!」
と思わず舌打ちをしたとかなんとか
----
余談はさておき、侵攻先に司令部をおいたガルマは自然と兵達との距離も近く家賃の存在について知る事ができたという訳だ
『お前の言う家賃とやらは理解した
が、それがどうしたと言うのだ?』
『ですからラウム
『む』
『確かに』
「それは気になるな」
今更ながらにラウムの状況が自分達の想像するよりも悪い事に彼等は気づいてしまった
…なお、繰り返すが『戦略会議』の後にしている雑談である
この時連邦軍諜報部は何とかして通信を傍受、解析しようとリアルタイムで奮闘している訳であり、それを考えるとある意味では陽動作戦になっているとも言えなくは
ないかもしれない
そしてギレンは
デギンはジオン建国の功労者であり、ダイクンの不得意とした財界などの者達との協力体制を築き上げた傑物
その一点においては未だ自分も及ばないとギレンは考えていたが故の判断だった
そして勿論デギンは暴走した
「全く、父上にも困ったものだ」
『兄上も甘いようで』
そんな会話がギレンとキシリアの間にあったとかなかったとか
さて、思いっきり上流階級のザビ家一属
しかも初孫や初の姪っ子の最後に頼るだろうラウムに対して、彼等がどれだけの資金を自分の所から出したかについては
考えない方が精神安定的にも良いだろう
余談ではあるが、ラウムが口座を持っている金融機関は一応『サイド3における最大規模』を誇るところである
その頭取と支店長が揃って対応する
それくらいの額なのだ
世間からは『地球圏を混乱の渦に叩き込み、のちの騒乱の芽を育てた極悪人』と言われている彼等であったが
どこにでもいる身内に対して甘い者達だったのだ
----
当然ながらラウム1人では到底使いきれない額だった
しかし、宇宙世紀0092にも彼の口座に入金があった
入金履歴には
エドワウ
との名前だけがあった
そして、それらの資金が生死の境を彷徨っていたアムロの命を繋ぎ止め、ラプラス事変の直後に彼は目を覚ました
カミーユはジュドーに連れられてラウムの元を訪ねた。木星から帰還したジュドーはセイラから少しだけ聞いていた
「兄の恩人なのよ」
との言葉を数年考えて、パートナーであるルーとも話し合って彼等なりの結論を出した
ビーチャ達と帰還後再会し、リィナとも話をした
そんな中でシャアの反乱が起き、色々あってカミーユと再会したのである
カミーユはラウムが昔のシャアの知り合いと聞き、色々と言いたい事があって彼の元を訪れた
が、ラウムのソレはグリプス戦役を駆け抜けたカミーユであっても死者に見紛うばかりの様子であった事から、カミーユを助ける為に医療技術者を学んだファと共にラウムのアパートに住む事とした
ジュドーとルーもある意味ではハマーンの原点でもあるジオンについて知りたい気持ち。それにジュドーが渡した『一房の髪』を未だに大切にしているラウムを助けたいと思った為にアパートに住みたいと申し入れた
その結果、『時代に取り残されている』アパートに『時代を切り拓いた』ガンダムのパイロット達が集合するというある意味皮肉な状況が出来上がったのである
なお、それをラウムと会って程なく知らされたオードリーは
「どうすれば良いのか、私にはわからないのです」
と叔父であるラウムの胸の中で泣きじゃくっていた
それは
父、ドズルを直接死に追いやったアムロ・レイ
自身を育ててくれたシャアの人生を決定的に変えたカミーユ・ビダン
シーマと共に不器用な愛情を注いでくれたハマーンと、自分の身代わりとなった少女の命を結果的に奪ったジュドー・アーシタ
仮にオードリーが何も背負うものも
…でも、それは出来ない
してはならないのだ
父ドズルもハマーンも戦争をしていたのだ
『誰かを殺した』ならば『誰かに殺される』のも受け入れねばならない
バナージは後悔している事がたくさんあると言ったが、その中でもよく口にしているのが
ロニ・ガーベイという少女の事だ
バナージは彼女を殺したくなかった。でも結果として死なせてしまった。そう後悔していると
彼女は言ったそうだ
《b》これは、私の戦争なんだ!
と
一年戦争は確かに終わった
でもそれは『ジオン公国と地球連邦による武力衝突が終わった』だけ
その憎悪を
その無念を
その虚しさを
抱えて生きている人達がいる限り、一年戦争は終わっていないのかも知れない
だからこそ、ミネバは叔父の胸の中で
彼女は知っているから
叔父もまた抱えきれない程の憎悪と哀しみを抱いて生きている事を
----
その為、オードリーとバナージはアムロ達に会う事をしないし、アムロ達もそれを望もうとはしない
その架け橋となっているのがセイラとラウムだったのだ
「そうか
そんな事があったのか」
俺からの話を聞いたブライトは目を伏せる
恐らく俺やカミーユ、ジュドーとオードリーにバナージを知っているからこそ苦しんでいるのだろう
(全く、不器用にも程があるだろうブライト)
俺は内心変わらない友人の姿に苦笑してしまう
「憎しみを抱えて、哀しみを抱いて生きていくのも人間だろう
…それで?君達は満足するのかな。そんなしんどい人生を最期まで送って」
ラウムさんはそう言って俺達とある時話をした
恨まれているだろう
憎まれているだろう
それは仕方のない事だと俺は思っている
「恨み続けながら生きていくのは疲れるのだよ、アムロくん」
俺の心中を慮ったのか、ラウムさんは言った
その表情は戦争に身を投じていた俺達でもゾッとする様な表情だったのだ
俺とラウムさんの関係は微妙だ
いや、正確には俺がラウムさんとの距離感を未だに測りかねているという方が正しいのだろう
カミーユはシャアとラウムさんの話を聞いて
「…なんでそんな事になったんですかね」
と力無く項垂れていた
無理もない。ラウムさんは幼い頃のシャアやセイラさんの相手をしていたそうだ
セイラさんからの話では彼女もシャアもそれに感謝していたらしい
そんなラウムさんは両親を他ならぬダイクン支持者によって奪われ、それでも妹さんだけは何とか守ろうとしたらしい
そして守り続けていた妹さんはドズル・ザビに嫁ぎ、義理とは言え家族を再び手に入れた
しかし、その家族の一員であるガルマ・ザビを直接手にかけたのは俺達で最後の一押しをしたのがシャア
その後も義理の弟であり、妹の夫であるドズル・ザビを俺達が倒し、両親の友人であり妹にとっては義理の父であるデギン・ザビはラウムさんにとっての義理の兄であるギレン・ザビによって殺された
そのギレンもまた妹であり、ラウムさんにとっては義理の姉であるキシリア・ザビに殺され、そのキシリアもシャアによって殺された
そして、最愛の妹であるゼナは
生きている姪はアクシズの象徴として存在することしか許されず、そのままアクシズの崩壊と共に命を落とした
これだけの事が僅か20年程の間で彼に降りかかったという事だ
そしてジュドーの手により、ミネバ・ザビが生きていた事が知らされた
そう、その事でラウムさんは
そして、ラウムさんは『ミネバ・ザビの影武者の死』すら背負って生きている
その壮絶な覚悟と悲壮な生き方は余りにも救いがないと思う
そうだろう?オードリーが彼を見つけたから、彼は救われた
だが仮に
ミネバが彼を憎んでいたら?
彼の存在を知らなかったら?
その場合、彼の歩んできた時間は全て無駄になる
それを知らない訳がない
なのに彼はそれでも歩み続けた
カミーユもそう思ったのか
「なんで、そこまで」
と聞くと
「兄は年下の弟や妹がいて、初めて兄になるのさ
先に生まれた私が何故
「言葉とは便利であり、不便なもの
だが、私はそれが何よりも愛おしいとも思う
言葉があるからこそ、人を信じ
言葉が足りないからこそ、人を疑う
私ラウム・クラヴァスは父ケイム・クラヴァスと母セリア・クラヴァスの息子であり、ゼナ・クラヴァスの兄なのだ
これは私がどれだけ長く生き続けたとしても変わる事のないただ一つの
私の行動には亡き両親の名がついて回る。どうして無様な事が出来るというのか」
「でも、知らない人もいると」
カミーユはそう言うが
「誰が知らずとも、私自身が知っている
私は私が思う両親の為にも無様でも生き続けねばならんのさ」
「それじゃあ、あなたの幸せはどこにあるんですか!」
カミーユは嘆きの声をあげる
「分からんよ
…そうだな。もし、ミネバと再会できてあの子が幸せに生きてくれると確信したのならその時考えるとしよう」
カミーユとそばで聞いていたファはその言葉を聞いてカミーユは天を仰ぎ、ファは泣き崩れた
ジュドーとラウムさんの関係はかなり良かったらしく
「ねぇ、ラウムさん
一つ聞きたいんだけど?」
「構わんよ
とは言え、所詮は世捨て人の
「そうとは思えないけど
あのさ、ニュータイプって何だと思う?」
あの時のジュドーとラウムさんの会話を俺は一生忘れる事はないだろう
----
「それで、アムロ
ラウム氏は何と言ったんだ?」
長い事話し続けた俺にその続きを催促するブライト
「おいおい、ブライト
俺は一応怪我人なんだ。今日のところは勘弁してくれないか?」
俺もなんだかんだでブライトとの再会でいっぱいいっぱいのところがあるからな
「む、しかしだな」
「あまり面倒な事をすると怖い人がこの部屋にはいるんだ」
「ブライトキャプテン
アムロさんは
カミーユが
「…分かった。また明日来るとしよう
勿論ラウム氏の許可をもらってな」
…いや、別に明日でなくても良いと思うんだが
ま、その方がブライトらしいと言えばそうかも知れないな
俺は苦笑いしながら
「ならせめて、明日は何か買ってきてくれ
何せラウムさんは好き嫌いを許してくれないし、カミーユやファも食事にはうるさくてな」
そう言ってブライトを送り出した
----
あの後、私は一階にあるラウム氏の部屋を訪ねて明日も来たい旨を伝えた
「別に構いませんよ。一応声をかけてもらえると助かりますが」
「ブライト。貴方少し若返ったかしら?」
ラウム氏は予想していたのか苦笑いしながらも受け入れてくれた
…おい、セイラ。流石にその言い草は私もショックなんだが
そして私はホテルに戻る為にエレカタクシーを呼ぼうとして、少し考えた後歩いて戻る事にした
コロニー環境は常に一定に調整されている
だが私にはいつも通りのその光が妙に優しく感じた
という訳で後日談(前編)となりました
…無計画此処に極まれり
弁明のしようもありません
ですが、これを書くうちに『これだけは外せない』と私自身が決めたテーマについてのものなのでご容赦下さると嬉しく思います
お気に入りが減るとしたら悲しいですけど
それもまた私の至らなさ故
そう思う事にします
しかし、まさか投稿して1週間程度で此処までの反響をいただけるとは思いもしませんでした
毎回マイページを開くたびに
『嘘だと言ってよ、バーニィ』と呟く私
本当にありがたい事だと思う次第です
この作品が皆様の暇つぶしの一つになれば嬉しく思います
そして、次から次へと出てくるアイディア
これ、短編どころか一話限りだったんだよ?
無計画さに呆れてしまいますね
では宜しければ次回『ニュータイプ』でもお会いしたく思います
曲はPS2ソフト
Gジェネレーションスピリッツの曲
『もうひとつの未来』(英字部分は省略)です
ミネバの幼少期のエピソード
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いる
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いらない
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書けるならどうぞ