プロローグ
「あぁ、くそ。」
男は酔っぱらっていた。
「何だよ、」
千鳥足で特に目的地もない
「何で誰も俺を認めねぇ!」
持っていた酒瓶を投げつける。
壁に当たるとガシャンと言う音と共に砕けた。そんなことにお構いなしに男はがなりたてる。
「金も無ぇ学も無ぇ、女は寄り付かねぇしバイト先は首になる!一体俺が何したってんだ!」
男は酔った勢いのまま虚空に向かって当たり散らす。
「夢ばっか追いかけてこの様か?あぁ!?わーるかったなぁ才能無くてよ!どいつもこいつも見る目がねぇんだからよぉ!」
そう言って虚空を蹴りあげる。
「いてっ!いってーなぁこの!何だよどいつもこいつもバカにしやがって!」
蹴りあげた勢いで転んだ男は地面に向かって喧嘩を始める。最早近所迷惑の域を超えていた。
「俺にだって、夢見たっていいだろうがよぉ・・・。」
とうとうグズリ始めた男は仰向けになって空を見上げる。
その空に黒い物体が見えたので男は目を擦った。
見間違いかと思ったそれは少しづつ大きくなる。そして、
「その夢、私が叶えてやろう」
頭の中に声が響いてくる。声の主を探して飛び起きるが姿かたちは見当たらない。
「此方だ、貴様の上だ」
そう言われて先ほどの黒い物体が意思を持っていることに初めて気がつく。
「なっ、なんだありゃあ?」
上を見て呆然と呟く男を無視して声の主は続ける。
「夢が欲しいのだろう?どのような夢か私が見てやろう。」
言うが否や黒い物体から触手なようなものが伸びてくる。
「さぁ見せてみろ、貴様の夢を!」
「うああ、あやだあだあだ」
触手が向かってくる。言葉になら無い叫びと共に四つん這いになり逃げ出そうとするが直ぐに捕まった。足を、腕を、胴体を、首を、逃げられないように絡めとり持ち上げる。
「そんなに逃げるな。怖がらなくて良い。ただその夢に身を委ねれば良いのだ。」
黒が男の体を侵食する。
「なぁに、直ぐに手放せなくなる。」
黒い物体に吸い込まれ、全身が黒く染まる。全身が染まると何事もなかったかのようにもとに戻った。
「どぅわ!」
空中にいたために落ちて地面とぶつかる。
「いちちちち、一体なんだったんだぁ?」
もう一度先ほどの黒い物体を探すも最早どこにもなかった。代わりに手元に一冊の本があった。
「なんだこれ?こんな漫画持ってたか?」
男はその本を手に取るとその使い方が解っていたかのように手の平に持ち上げる。
「こいつは良い、こいつは良いぞぉ!アハハハハハハハ!!」
その日の事件が、これから日本中で巻き起こる事件の第一歩だった。