では、どうぞ。
睡眠の結果
ハクが劣化してから、既に三十年が経過していた。
嵐華の手伝いもあり、なんとか大妖怪程度の力は取り戻したハクだったが……
「弱りましたね……まさか嵐華が旅に出てしまうなんて……」
嵐華は『旅に出る。また会おう』という台詞を残し、目的の無い旅に出てしまったのだ。
今までは嵐華に相手をしてもらっていたが、こうなると別の方法でしか自分の力を取り戻す事が出来ない。
仕方なくハクは荷造りを始めた。
自分が創った物はそのまま洞窟に置いておき、必要最低限の物ーー主に嵐華との思い出の品ーーをまとめる。
「ふぅ……この洞窟ともお別れですね」
ハクは名残惜しみながらも洞窟を出て、ふよふよ浮きながら旅を始めるのであった。
洞窟を出発して数十分後、森の中でハクはとある事に疑問を抱く。
「もう人間は生まれたのでしょうか?」
しかし、上空に行って辺りを見回しても人の影は見えない。
それどころか……
「……森、広いですね」
見渡す限りの緑。圧倒的広さ。
距離にして半径数千kmはあるだろう広大な森。
ーーしかし、生物は限りなく少なかった。
生物の異常な少なさに疑問を持ったハクだが、とりあえず開けた場所に出ようと再び移動を始めるのであった。
〜数時間後〜
辺りは既に暗くなっていた。
それでも移動したお陰かは知らないが、ハクは少しばかり広い洞窟を見つける事ができ、現在その洞窟で野宿をしていた。
「ふぅ。偶には遠出してみるものですね……」
ハクは拾ってきた木の枝に能力で火をつけ、今日を振り返り始めた。
「森を移動している時、色々見つけましたね」
例えば猿ーーそれも限りなく人間に近づいていたーーを見つけたり、青色の鳥の軍隊を見つけたり。
中でも一番衝撃的だったのは、緑一色の森に似つかわしくない銀色の怪物を見たことだろう。
その怪物は強靭な二本足で立ち、ハクとは比べ物にならない大きな翼。
十人が見たら十人が震え上がる厳つい体に、更には口から火球を吐く、某狩猟ゲームの“火竜種”を見たのだ。
しかし、ハクが見た時には……
「餓死してましたからね……」
どれだけ強かろうと、食事が必要な種族が食事を取らなければ死んでしまう。
その竜の死骸の周りには無数の骨があり、恐らくこの竜が食い尽くしていったのだろう。
……猿は逃げ切ったようだが。
この時ハクは、自分が食事の必要無い種族で良かったと語る。
お腹が減った感覚にはなるが。
尚、その怪物の近くに落ちていた綺麗な鉱物らしき物。
所謂紅玉と呼ばれる物は拾っておいたらしい。綺麗だから。
「これ以上は旅をしても無駄ですかね……?」
実はハク、表現ではふよふよ飛んでいたが、今日だけで移動した距離は約二千km。
流石にもう何も無いと判断したのだろう。
早速ハクは睡眠グッズを能力で創り、更に魔力で洞窟に結界を張った。
結界の効果は『外部との干渉を無効化』と『結界内の魔力、神力を一年間で倍にする』。
この睡眠の目的は、結界を使っての力増幅、それと時間経過による人類の出現だ。
しかし、万が一結界が破られた時の為にハクは防犯用の人形を置いておく。
侵入者を発見すると、ハクが起きるまで生きたまま冷凍保存。更には自動で結界も直してくれる代物だ。
「では……二百年程眠りますか」
二百年。計算すると2の200乗だ。
考えただけで恐ろしい数字になるが、流石のハクにも限界はある。
一定以上の力が溜まってしまうと、それ以上は増えないのだ。
なので、神力と魔力が洞窟の中で吹き荒れるなんて事故が起こる可能性は微塵も無い。
「では、お休みなさい」
ハクはベッドの中に潜り、意識を沈めていった……
〜???〜
……ここは……どこでしょう?
「…………み……ま」
っ!?誰ですか!?
「お…………だ……い」
「……し……ま、お……けく……さ……」
……なんですか!?私に何の用ですか!?
「天使様、お助け下さいっ!」
〜約二千年後〜
「はっ!?……夢ですか」
悪夢……とまでは行かないが、月に行った知り合いから助けを求められる夢を見て起きたハク。
額にはびっしり……ではないが、少しばかり汗をかいていた。
「何の夢だったんでしょう?」
少し不安になったハクは、能力で時計を創り出して時間を確認する。
「……約二千年睡眠、ですか」
流石に寝すぎてしまったハクは、とりあえず人形を回収してから外を見る。
ちなみに、現時点でハクの力は最大まで回復していた。
結界を解き、ハクが外を見ると……
「……知らない場所ですね」
寝る前は森だった筈だが、今見えるのは恐らく人間が建てたであろう建築物達。
ーー村だ。それも、大きな村。
ハクは、もっと近くで見ようと村に近づく事にした。
翼と光輪を見えなくして、力もほぼ全て抑える。
これで今のハクは、限りなく一般の人間にしか見えない筈だ。
「さて、村に入りましょうか」
ハクが歩いて村に近づくと……柵があった。
妖怪侵入対策なのかは知らないが、高さは恐らく3mはあるだろう。
柵があるなら、何処かに門もある筈だと辺りを見回す。
すると、案外近くに門があった。
門の大きさは大体2m位。
そして、門があると必ずそこに佇む者がいる。
ーー門番さんだ。それも二人。
ハクは、とりあえず門に近づいてみる。
「すみません、旅の者ですが……」
「妖怪ではないのなら入って良いぞ」
……即答。
ハクが入って良いか聞く前に許可をした門番。果たしてそれで良いのか。
ハクは門番に一礼し、村の中に入ると……絶賛稲作中の人々が忙しなく働いていた。
見る限りでは、今年は豊作。
大量にお米を収穫出来ていた。
「よしっ!諏訪子様には感謝だなっ!!」
村の者の発言が気になったハク。
『諏訪子様』とは一体誰なのか。
そんな事を考えていると突然、体が段々重くなっていく感覚がハクを襲った。
人間や中妖怪程度なら動けないであろうこの呪いの様な何か。
ーーしかし、ハクからしたら障害として認識する程ではなかった。
「この力は……神力?それにしては黒いですね」
とりあえずハクは神力(仮)を逆探知し、相手の場所を突き止める。
そしてそちらに向かうと……見えたのは、大きな湖。そしてこれまた大きな社。
ハクは恐らく『諏訪子様』がここの神様的存在で、名前から察するにここは『諏訪湖』なのだろうと仮定した。
社に近づくと、唐突にハクの頭上から神力(仮)を纏った鉄製の輪が落ちてきた。
それを軽くハクが避けると同時に、一つの幼い声が辺りに響きわたる。
それは、怒りの篭った、威圧する様な声。
「ーーよく来たな、侵入者」