もはや刀使ノ巫女の二次創作が人生の楽しみと化しつつある白寅Ⅰ号です。
第一話は顔見せおよび、全編がこう言う雰囲気の作ということをお知らせするお話であり、そして、燕結芽は絶対に幸せになる、いや俺らがするんだよ。という旨のお話です。
あらためて近日中にプロローグを投稿いたしますので、どうぞ百話のお付き合い、よろしくお願いいたします。
初春の厳しさも落ち着き、やわらかな風に梅の香りが流れてくる。
甘酸っぱい、春の目覚めの心地よさ、そんな季節の息吹を楽しみながら、駅から博物館からまでの足取りを歩く。
結芽は博物館前の庭園に入ると、ひそひそと立ち話をする美久と詩織の姿を見つけた。何か楽しそうに手のものを見せ合っている。こちらには気付いてないと踏んで、木々の間の道を縫うように駆け、軽やかな足取りであっという間に二人の前に立った。
「おはよう美久、詩織」
二人は結芽の足の速さを知っているはずなのだが、慌てるように手元のものを背中に隠した。
「はは、ははは...おはようございます、結芽先輩」
詩織はいつもと違ってぎこちない笑顔。
「おはようございます。さすがは現役刀使最強と名高い健脚、見習いたいです」
美久が冷静に取り繕うとしたが、演技が様になりすぎてかえって作為を感じずにはいられなかった。とうの結芽は隠し事をされる理由が思い浮かばず、首を傾げた。
「うん、ほめてくれてありがとう。ところで今日って『ひなまつり』以外に何かあったっけ?」
「ふぇ!?」
詩織がつい声を上げた。美久とともに目を丸くして、空いた口が塞がらなくなっていた。
「嘘ですよね?」
詩織はついにその言葉を口にした。今日は三月三日、あなたの誕生日ということを。
物腰柔らかくなったとは言え、いつもはそう感情をひけらかさない室長のミルヤが耐えきれず笑い出していた。
むすっと、結芽は頬を膨らませた。
「ちょっと!ミルヤさん!」
笑いを抑えながら、話を繋げようとしたが、駄目だったのか笑いは治らない。
「ふふ、いえ、ふふふ、最近やたらと親しい人たちから今好きなものとか、欲しいものはないか聞かれて、でもひな祭りはパーティーしようで自分の誕生日のことを本当に忘れてしまって、彼氏からも隠し事があるのに気付いておいて、ふふ」
恥ずかしそうに、机の上の書類の束を掲げた。
「だって!このあいだの行方不明の御刀調査で私も余裕なかったんですよ!
それは仕方ないですよね。そうフォローした詩織の机にも各機関提出用の報告書を何重もの束になっている。美久はため息をつきながら言葉を繋いだ。
「まさか御刀を盗んだ女性が、御刀の引き渡しを拒んで籠城。説得に応じず、隣部屋の通報で所轄が来て女性はパニックになり、まさかの写シを発動...目的だった元彼への復讐のため部屋を飛び出して、偶然通りがかった車を半壊させて、新しい彼女さんと過ごす元彼さんと修羅場になる寸前で、結芽先輩が抑えてなんとかことなきを得ました」
「ほんと!手加減する身にもなってほしいよ。向こうの署のやつ、なんて言ったか覚えてる?あなたがたは御刀でトラブルしか起こせないのかって...わかるけどさ、言わないでよねぇ」
まぁまぁと、手で宥めるようにジェスチャーし、卓上の刀を収納するアルミケースを見てうなづき、視線を結芽に戻した。
「一生懸命やってくれているのは、よく承知しています。だからこそ、私もこうして気を緩めたくもなるのです。結芽さん、改めてお誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます!結芽先輩!」
「おめでとうございます。そして、いつもありがとうございます」
結芽は照れ臭そうにしながら、三人に笑顔を返した。
「うん、ありがとう。みんな」
「私たちからプレゼントありますから、お昼休みはみなさんで外にでも」
美久がミルヤへ目配せすると、小さく頷き返した。
「いいですね。では、この面倒な書類作業を終わらせてしまいましょう」
元気の良い返事が返ると、各々の作業に戻っていった。
これまでの誕生日といえば、両親のと、同級生のと、そして親衛隊の人たちとの一緒のことばかりだった。
彼氏とは去年の四月からの関係だし、調査隊は一人一人との付き合いは長いけど、隊として一緒の時間はもっと短い。
もっとも、新しい環境になってから色々新鮮なことばかりで、飽きもしないし、暇もない。誕生日のことを忘れていたなんて、はじめてのことだった。
ひなまつりのニュースを見たときに、どうして思い出せなかったのだろう?
綾小路に入った年も、その前の年も、パパはプレゼントと一緒に雛人形を飾ってくれた。それが幼い私には二つもイベントがあるって無邪気に喜んでいた。今思えば、ママはそうして一緒くたにされて嫌がることを、私に期待していたはずだ。
だって恥ずかしいもの。クリスマスに誕生日の人の話があるじゃない?あの話って、自分の記念日に他人のイベントを重ねてほしくないって、ごくごく普通の感情じゃない?ひな祭りは女の子の成長を祝う行事なんだから、私は私の記念日だけを両親に祝って欲しかった。でも、パパとはしゃいでいた私にも罪があるのは自覚してるつもり。
それから...それから思い出したくないことが色々あったけれど、親衛隊に入ると姉たちが年下の私のためにあれこれと世話を焼いてくれた。お姉さんたちは妹が一人増えたくらいに思ってくれたのでしょう。両親にも甘えたりなくって、なのに寿命がないと言われて、刀使になったら友達に連絡しづらくて、ひとりぼっちになった私に残っていたのは剣一本だけだった。
自分のしたいことを、たったのそれだけでしなくちゃいけない。
誰にも頼れない、だから嫌われたって構わない。
なれるよ、それが自分なんだ。そうなれるよ、わたしならってね。
でも、誕生日に花束とねこだいふくの大きなぬいぐるみをお姉さんたちがくれたとき、とってもうれしかった。久しく忘れていた、誰かからの贈り物のあたたかさ。
本当に嬉しかった。
それから一度死んで、でも死んでなかったから連れ戻されて、気がついたら周囲にいっぱい友達や仲間や先生がいた。
誕生日が来ると、信じられないくらいプレゼントをいっぱいもらった。それと同じくらい、みんなの誕生日にプレゼントをあげた。
自分じゃ手に入らないものは親しい人たちが知っていて、親しい人たちが欲しいものを私がいっぱい知っている。
ここまで来てみなかったら、そう思えなかったよ。
新橋のカプセルタワーの部屋に戻ってくると、読書をしていた執豊は目を丸くした。
「ずいぶん貰ったね...」
親しい人たちの送ったプレゼントは結芽の両肩と左手を埋めていた。
「重い。手伝って」
場所もないのでとりあえずベッドの上に広げると、その隙間に入るように結芽も寝転んだ。
パーティーの後なのに、お腹が空いたと言う彼女を横目に魔法瓶のお湯の温度を確認し、上の棚からカップやら諸々の道具を取り出した。
「はぁ〜楽しかった」
「今年は皐月さんからのお米のプレゼントはないんだね」
「明日、届くって新米10kg」
「皐月さんのところのお米おいしいから嬉しいな」
「ともくん!お米は私へのプレゼントだよ!ほしいなら、私に毎日おいしいコーヒーを淹れてね。酸味が少ない、コクが深い一杯を」
起き上がると、執豊の淹れてくれたコーヒーを一口飲んだ。
「わたくしのコーヒーでよければ、よろこんで毎日ご用意しましょう結芽さん」
二人して笑うと、執豊は数枚のレターカードを取り出した。カップを置くと、差出人の名前をまじまじと確認した。
「届いていたよ、紫様、衛藤さん、鳥喰さんに」
結芽はその差出人の名前を見て、すぐにその手紙を手に取った。
「ご両親のが来ていたよ」
両親は娘との距離感を気をつけてか、手紙のみとしていた。
何やら準備をしている執豊を気にせず、手紙の文面を熱心に読んだ。クスリと笑ったり、寂しそうに目を瞑ったり、呆れたような半笑いをしたりした。
封筒に残っていた写真を取り出すと、思わず笑い出してしまった。
「まったくもう、ママは私の味方だと思ってたのに」
執豊が準備を終えて向かいの席に着くと、結芽はその写真を見せた。そこには両親とあの雛人形が写っていた。
「ふふふ、やられたね」
「ところで」
下目に顔を覗きながら、あなたは何をプレゼントしてくれるのか訪ねた。彼は白い紙箱を置くと、プリントされた店のロゴを見てすぐにそれが何かに気づいた。
「これ..一日十個限定で、イチゴ大福ネコの公式コラボの苺大福!それも限定グッズつき!」
「このあいだ任務が忙しくて買いそびれた話してたからね。これが僕からのプレゼントだよ結芽さん」
箱の中の苺大福をしばらく見てから、彼へと向き直った。
「ありがと」
そのやさしい笑顔に、自然と顔がほころんだ。