燕百奇譚   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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其ノ二十『切先のその先』中編

 

 抽選中に見学者たちも入場し、まもなく始まろうとする選抜会に興奮と緊張感が混ざり合った、独特な空気感に包まれていた。

 真希、寿々花、沙耶香は二階の会場を俯瞰できる場所から見守っている。

 中継カメラ越しには、各校の刀使や視聴を希望した生徒たちがクラスごとでモニターから様子を見ている。

 姫和が最終の確認を済ませると、刀使で明眼の能力を持つ審判の二人と共にフロアに描かれた円の前に立った。

「これより!御前試合選抜会をはじめる!一回戦、第一試合の選手は線の前へ!」

 

 第一試合。

 

 西方に結芽、東方に歩が白線の前に立ち、二人の刀使の審判が二人に御刀を抜かせて拵え、体調に異常がないか確認した。

 鞘に戻させると、姫和に報告し、二人は旗を持って審判位置に着いた。

 旗は源平に倣って、赤が西方、白が東方という判定になる。基本は主審の姫和の判定が基本だが、二人の審判は自身の判断で勝敗に異を唱えられる。これは、刀使しいては剣士として恥ずべき行為をした刀使を見逃さないことを念頭に置いた判定方式である。

「これよりの主審は私、十条姫和が決勝たる御前試合まで務める。両者、礼!」

 二人が礼をし、頭を上げると『抜刀』の号令が走った。

 この濃口を切って型を決めるタイミングが、この選抜会の最初の勝負となる。

 結芽は平青眼、歩は八双の構えと、すぐに構えて号令があるまでピタリと動かない。

「写シ!」

 白い影が両者の全身を包み、すべての準備が整ったことを告げた。

 

 今少し、時間が間延びする感覚に襲われた。空気はひりついて、吸う空気が重く感じる。

 だが、二人は不思議と心躍っていた。

 

 歩からは、自分の師ともなった衛藤可奈美に十勝し、現役最強の称号を持つ刀使。

 結芽からは、好敵手たる衛藤可奈美の一番弟子であり、もっとも実力の近しい刀使。そして、期待の人物。

 そんな相手と戦えることに、緊張や不安よりも喜びに満ちていた。

 

「始めっ!」

 

 号令の瞬間、二人が同時に姿を消した。

 そして、会場の北側で歩を押し込む結芽の姿が現れた。

(読まれた!でも、同じ行動!)

(わかるよ!だって、カウンターを誘って速攻をかけたいもんね!)

 だが、歩は結芽の思い通りにカウンターを出さずにひたすら結芽の斬撃を避けながら、迅移での回り込みを繰り返す。

「落ち着いて、焦って二つや三つの手段にこだわらない。まずは五つ、だよ」

 観客席に座る可奈美は、すでに歩が自分の想像した以上の腕を持ってきたことに満足していた。

 迅移に紛れて、隙を見つけて結芽の切り払いを八幡力を発動して弾き、彼女の近間へ果敢に飛び込んでくる。しかし、結芽の返しを冷静に受けてくる。

(歩ちゃんすごい!まるであの頃の可奈美おねぇさんと戦っているみたい!)

 そうして、十分も通しで迅移による応酬を繰り返し続けた。

 沙耶香は歩の可奈美譲りの胆力に驚いた。

「すごい、結芽についてこられてる。でも」

「ええ、結芽ほどには肩の力が抜けていませんわ」

 さすがの歩も困惑してきた。

 可奈美と十分以上続けての通しで掛かり稽古を何十回としてきた。だが、今のこの応酬は並の稽古のそれをはるかに超えた内容である。自分がそれについてこられることに自信が湧いてきたが、次第にそれが裏返り始めた。

 それにも関わらず。目の前の刀使は最初からアルカイックスマイルの崩れる一瞬もなく、それどころか大仰にこけてペースを何度も崩してくる。

 どうしてここまで相手は余裕のなのかと、集中が散漫になり始めた。

(歩ちゃんすごいよ!もっと伸びる!だから、ここは麦踏みといくよ!)

 結芽が飛び込み三段突きを繰り出した。

 だが、当たらぬように狙いを外した突きだった。だが、歩が混乱するには十分すぎた。

(まずいっ!押し負ける!)

 突きに沿って刃を返して、上段になった。その瞬間、その判断の危うさに気づいた。

 結芽は歩の狭まった視界の外ギリギリに迅移で移動すると、鳩尾と胴に二度の切り払いを叩き込んだ。

 彼女が視界やや左にいる相手に気がついた時には、自身の写シは消し飛んでいた。

「んっ…!」

 歩は膝を突いたが、両手から御刀を離さなかった。

「そこまでっ!」

 不快感に耐えながら立ちあがろうとする歩の腕をとって、結芽が立ち上がるのを支えた。

 二人は小さく笑顔を交わした。結芽の額には僅かに汗が滲んでいた。

「双方、礼!勝者、燕結芽!」

 最初の激戦に、拍手が巻き起こった。

 選抜会の最長試合時間、十四分二十秒を記録した。

 

 待機所に戻りがてら、二人は自然と並んで歩いた。

「すごいよ歩ちゃん!あと十分戦ってたら負けてたよ!」

「え!さすがにあと二分が限界だったよ…私もまだまだだなぁ」

「でもまだ強くなるでしょ?わかるよ、可奈美おねぇさんと最初に全力で戦った時と同じ感じだったもの、剣はすぐに追いつけるよ」

「ありがとう。戦えてよかったよ。いい思い出になった」

 汗を拭いながら、葉菜の座る待機室前に着いた。

「何言ってるの?これからも私と立ち会いをしようよ!真希お姉さんと寿々花おねぇさんに言っておくから」

 理由を聞こうとしたが、待機室のベンチに座るなり結芽がぐったりと項垂れてしまったため、聞こうにも聞けない。

 歩は目を瞬かせながら、自身は会場を出て武道場の裏庭に出た。

「歩ちゃん、お疲れ様!」

 可奈美が後ろから変わらぬ笑顔で自身の前にいる。歩は胸の底からあふれんばかりの悔しさが溢れ出てきた。

「可奈美さん…!わたし…!今日まで…頑張ってきて!燕さんにあと一歩だったけど、一歩足りなかったのが….とっても悔しいです!」

 歩を両手で抱きしめ、悔しいなら泣くのが一番と言った。

「いーっぱい泣いて、吐き出しちゃえ。そしたら、また頑張ろうよ」

「うう…うぇえええええええん…!」

 歩は悔しかった。だが、嬉しさもあった。

 可奈美の隣に立つまであともう少し、そのことがわかっただけでも彼女にとって燕結芽との試合は有意義なものだった。

 やはり勝ちたかったという悔しさを涙で流しながら…。

 

 なおこの後、寿々花に呼び出されて特務警備隊候補生に誘われるのだが、それはまた別のお話…。

 

 

 第二試合。

 

「始めっ!」

 相手に行動を取らせないために迅移を発動したが、すでに正面にミミの姿はなかった。

(八艘飛び!)

 止まったふたばはすかさず金剛身で斬り付けをいなして、背の低いミミの頭上を何度も切り叩いた。

 鍔と峰で受け止めながら、ふたばから逃げるように下がっていく。

 だが、ミミは呼吸を置くタイミングを見逃さなかった。

「やぁーっ!」

 懐に飛び込んでくると、ふたばの腕と柄を掴んで投げ飛ばした。

「ん!斬撃を恐れず、しかし、甘くみない。いい見切りだ」

 真希の関心をよそに、宙を舞うふたばは冷静にミミを見ていた。

(こういうのは可奈美にやられ慣れてるのっ!)

 八幡力でミミの腕を振り解いた。

 着地姿勢を整える間に兼元の切先をミミに当てるように、腕をのけぞらせた。

 目の前に置かれた切先にミミは動かない、はずであった。

(その手は食いませんからー!)

 迅移で着地してきたふたばの正面に八双の構えで回り込んできた。

(このミミって子、強い!)

(うそっ!もう隠し剣の構え!)

 だが美炎に何度もやられた手であっただけに、ふたばの体は自然とミミの斬撃をいなしながら切り落としを加えた。

(だったら、虎の子!)

 腕を広げてふたばの真っ向斬り付けをずらすと、迅移でふたばの周りを激しく動き回り、ふたばの死角に入った瞬間、ミミは視界から消えた。

(どこ!?)

 ふたばの直感がミミの位置に気づいた時、鉄傘を蹴って加速したミミは一文字吉房を逆手持ちし、ふたばの写シを左袈裟から切り払った。

 ミミが消えたわずか、〇・八二秒の攻防であった。

「そこまでっ!」

 

 礼をし、待機所に戻ってきた椅子にもたれかかって大きなため息をついた。

「ん〜っ!あと一息!いや!一拍あれば、あの天井からの一撃をいなせたのに」

 何か言おうとする美炎を手で遮った。

「いい!自分の実力はよくわかっているから、あの加賀美って子が私よりも一枚上だっただけよ。かえってスッキリしたわ」

 笑顔で喉を潤すふたばに嬉しそうに笑顔を返した。

「やっぱ、ふたばは強いよ。この先で当たると思うと」

「でもさ美炎、加賀美さんの次の相手、燕結芽よ。さっきみたいな試合見せられたら、正直あの子でも勝てるかわからないよ」

「だね、でも、今は自分のことに集中しなくちゃ」

「勝ってよ!」

「もちろんだよ!」

 

 

 第三試合。

 

「双方、礼!」

 清香は澄と稽古したこともなく、任務で同道しても平均的に任務をこなせる刀使と見ていた。

 だが、この目の前の大人しい刀使は、五箇伝屈指の練度を誇る鎌府内で一位の実力者である。

 生半可な気持ちでは当たれない。

「抜刀!」

 澄は国光の太刀を抜き、清香も景光と輝広を順に抜き払った。

「構え」

 その号令と同時に澄は納刀し、柄をやや前に出しながら体をまっすぐに座した。

「居合で対する子が舞衣以外にいたんだ」

 沙耶香が感心しながらも、真希は少し嬉しそうに見ていた。

「でも、相手が型に精通していると簡単に読まれる。それでもあえて卜傳流と二天一流を修めた清香に挑むか」

 清香はあえて無構えで対した。

「はじめ!」

 真正面から来るとは踏んでいた。

 だが、清香は一つ思い違いをしていた。それは、澄の御刀である国光の太刀がウブではないということ、そして彼女の恵まれた長身故にいささか短いということである。しかし、迅移や八幡力といった刀使の能力はそうした刀の持つデメリットを相殺する。

 普通の刀使ならそうする...澄はそれを見透かすように受けに走った輝広を避けて、左腕を左手での左右逆抜きで切り落とした。

 可奈美と舞衣とともに観戦していた歩はおもわず声が出ていた。

「可奈美さん!あれって!」

「逆抜き不意打ち斬り!試合で使ったの私だけだと思ってた!」

 景光は転んだが、全身の写シは消えていない。

 即座に引いた清香は印の構えで対した。

(しまった…今ので落ちたと思ったのに、なんて頑強さ…!)

 澄は自身の目論見が崩れたことに、顔には出さないが鼓動は早まっていた。

(片腕がなくなったけど、もう長崎さんのスピードはわかった)

 しばらく睨み合い、澄はふたたび鞘を引き出して納刀し、立ち合いで清香に対した。

 しずかに、しかし深く深呼吸をした。

 対した清香は、口を小さく開け、長く息を吐き続けた。

 息が整った瞬間、澄は抜きつけて左袈裟めがけて振り落としたが、小さく振られた輝広が打ち払う。

 そのまま踏み込んできた清香の足めがけて、刃が走った。だが、清香はあえて斬られるに任せたのである。

(勝った!)

 清香の右足が膝下から切り払われ、喪失感に耐えながら切り口で着地し、踏ん張って姿勢を保った。

 国光を振りかぶり、着座した清香の頭上に刃を振り落とした。

(勝った…)

 体を右へずらしながら、止めの斬り付けを受け流し、そのまま急所二箇所を突いた。

 清香が残心する間に、澄の写シが消し飛んだ。

「ふぅーっ…」

 思わず安堵のため息が出た。

「それまで!」

 澄はしばし目を瞬かせ、事実を受け入れて鼻から息を吐いた。

「やはり、長崎さんに六角さんの相手は厳しかったようですわね」

「だが、あの冷静さと柔軟性、体格を十二分に活かした戦い方は評価したいな」

「ええ、それは真希さんと同じですわ」

 

 礼をすると、二人は待機所に戻る道半ばで握手した。

「おめでとうございます。六角さんすごかったです…!片腕を失いながら、私の必中の太刀をことごとくいなしちゃうなんて…」

「ありがとう長崎さん。でも、最初の居合から続けて切りつけられてたら、私は負けてたんだよ?ほんの少しだけ私が我慢強かっただけだよ」

 清香の優しく、まっすぐな目に澄は少し照れた。

「そんな…でも、きっと清香さんは上位に行きます!見守っています!」

「うん!頑張るよ!そして、優勝してみせるから」

 澄は驚いた。だが、清香の立ち合いには確かに優勝を渇望する覚悟のこもった執念深さがあった。

「…!はい!」

 尊敬すべき先輩がいることに、澄は嬉しくなった。

 

 

 第四試合。

 

「どっせいやっ!」

「すごっ!」

 山城由依という刀使は大太刀を扱う刀使たちの中で、頭ひとつ飛び出て剛腕を誇る刀使であり、蛍丸を悠々と使いこなす姿は多くの刀使の中で有名であった。それだけに、正面に立つ突撃バカが蛍丸を大ぶりに弾き飛ばしつづける姿は際立っていた。

 だが、双方に笑顔が絶えない。

「堅っ!まいっちゃう!」

「やだーっ!こんな子がいたなんて!」

 ひたすら正面から飛び込んでくる茜だが、由依の攻撃は絶えず繰り出される。

「どっ…せい!」

 大きく上段から振り落とされた一撃を受けて絶えた。

 だが、由依は構わず即座に振りかぶり、上段から一撃を叩きつけた。

 二度の叩きつけに床が大きく響く。

 しかし、茜は姿勢を沈ませながらも、衝撃に耐えながら踏ん張っている。

「まだまだいくよーっ!」

「しゃっあ!どーんとこい!」

 三度目の渾身の一撃。

 茜はその重さに一瞬だけ感覚を失ったが、耐えて蛍丸が弾けた。

「きたっ!」

 迅移を発動しようとしたその時、四度目の振り上げが見えた。

 茜は受けの姿勢を解いたことの危うさに気づいたが、かまわず飛び込んだ。

「だーっりゃ!」

「とーどーけぇー!」

 茜の突きは僅かに届かず、四度目の切り落としが写シを消し飛ばした。

 会場全体が震度2程度の揺れに震えた。

「それまで!」

 起き上がった茜は頭を掻いているが、満足そうに笑顔だった。

「立てる?」

 由依の伸ばされた手をとり、勢いよく立ち上がると、茜はそのまま由衣にハグした。

「すごかったよ!いい勝負をありがとう!」

「こちらこそ!うへへ」

「ふたりともっ!元の位置に戻れっ!」

 

 

 第五試合。

 

「結芽くん、僕の出番だ。行ってくるよ」

「…うん」

 タオルを被り、表情を見せないようにしながら、明らかに想定以上の消耗をしているのは明らかであった。

 

 葉菜は自身の位置に立つと、目の前にいる自信に満ちた目を向ける美炎に向き合った。

(さぁ、美炎。僕は強くなった。けれど君はもっと強いはずだ)

 

 抜刀の号令で吉家を抜き払い、そして構えとの声に晴眼で対した。

 乗り換えた村田刀を置いてきて三条吉家を持ってきた。

 今日だけは参謀ではなく一人の刀使として、この場に立っている。

 

 美炎は深く腰を落とした左脇構えとなる。彼女の得意の型である。

「始めっ!」

 その合図と同時に切先を大きく背で円を描き、真っ向から袈裟斬りを加えてきた。

 葉菜は自身の間合いと相手の動きを軸に、美炎の激しい斬り付けを最小限の動きで受けていく。

(その奇を衒う戦い方!あいかわらずだね!)

 しかし、隙を見て迅移で細かに変化を繰り返しながら、切先を揺らしながら攻めかかる。

 鈴本葉菜は刀使の中でも珍しい剣道のように御刀を使う刀使である。

 一見、激しさや派手さ、そして他の試合者のような際立った個性はないものの、その正確かつ後の先を打つ戦い方は、美炎が苦手とするところだった。

(葉菜、やっぱり強くなってる!冥加刀使だったとき以上に隙がない!でも!)

 最小の動き、最小の能力発動、そして相手には必要以上の消耗を強いる。

 ゆえに、美炎は攻めを崩さなかった。

(ふぅん、こんなに激しく攻めてくるのに、僕のカウンターへの返しが早い!)

 全身を大きく使って、攻めと防御を繰り返す。

 八双の構えから、刀を肩に担ぐような動きでラグのない攻撃を繰り返し続ける。時には葉菜の正面からの大きな斬り付けを弾いて、刀身を回すように斬撃を繰り返す。そして、変則的に置かれる間が葉菜に必要以上の警戒を強いた。

「ふぅーっ」

(今のところは負けはしない、が…どうやら仕上げてきたらしい美炎くんは!なら!)

 葉菜は八幡力で迅移を相乗させ、さらに八幡力を相乗させてある動きを加速させた。

(受けるんだ!清光がはじけるよ!)

 美炎の足を狙うと見せかけて、清光が小さく巻き込まれて天頂にむかって投げ出され、美炎はその巻き込みの強さにバランスが崩れた。

 空いた胴めがけて右袈裟斬りを振り下ろしたが、咄嗟の金剛身で弾かれた。

(さぁこのフェイントをどう受ける!?)

 小さな迅移に加速させて突きが走った。

「んっ!」

「んん!?」

 目を見張った。

 美炎は瞬時にのけぞって、僅かに突きを避けたのである。

 突きによって伸び切った葉菜の胸を、上半身の回転をバネに最小の動きで右から切り払った。

(やるね!これが君の剣の極地か!)

 御刀を手放さなかったが、その斬撃の深さに写シが解けると同時に崩れ倒れた。

「そこまでっ!」

 

 試合が終わり、会場外に出てきた美炎は大きくため息をついた。

「なんとか勝ったぁ…」

「なんとか、だったとは意外だなぁ」

 美炎は驚いて振り向くと、自販機で買ってきた炭酸ジュースを差し出す葉菜がいた。

「おつかれさま。そして、一回戦突破おめでとう」

「なんか、勝った相手からもらうなんて照れ臭いよ」

「いいじゃないか、僕は君と真剣勝負ができただけでも選抜会に出られてよかったと思っているよ」

 プルタブを引いて開け、爽やかなのどごしが強張った体を潤した。

「ぷはぁ!葉菜はそう言うけど、稽古での勝率は上だったじゃん!しっかり対策してなかったら、いつものように呼吸の間を突かれて負けてたよ」

「結局、スタミナの問題はある程度解決したけど、さっきみたいなハッタリがないと続かない。ということか」

「葉菜がそう見るなら、次の相手には通じないね…」

 笑顔の裏にある緊張を感じて、美炎の変わらないまっすぐな姿勢に笑顔になった。

「君はいつだって実力に過分な相手と戦ってばかりだね。でも、今度も勝ったじゃないか。行こう、まだ試合は続くよ」

「うん、行こう!今度こそ優勝したいから!」

 

 

 一回戦最終戦。第六試合。

 

 試合は始まっている。

 栖羽の打ち込みに、早苗の構えは崩れない。が、額には汗が滲み始めていた。

(ああ…なんて執念深いの攻めなの…)

 栖羽は斬撃を繰り返しながら、受けてくる早苗から写シに僅かでも傷つけられる隙を執拗に狙って、小さな斬り付けを繰り返してくる。

 勝ちの目を貪欲に狙い研ぎ澄ますのは栖羽に稽古をつけた北斗の傾向、写シの特性を熟知して引き剥がすことに特化するのは栖羽だけが持つ唯一無二の戦術であり、澄への予選会敗北理由はひとつ、栖羽の土俵に入る前に居合で決着をつけからである。

(これだけ写シを傷つけても構えは崩れない…強い!油断はできない!)

(まるで北斗先輩みたいっ!)

 早苗が大きく踏み込んで近間から、斬り付けを栖羽の体軸を崩すように何度も打ち込んだ。栖羽は簡単に怯み、二、三歩引いてしまう。

(脆い?)

「そうよ栖羽、はったりも技よ」

 見守っていた北斗の言葉通り、栖羽は崩れるのも構わず早苗の膝を撫で切った。

(死角に滑り込まれた!??でも、手を止めればまた!)

 早苗は突きを中心に、何度も剣越しに栖羽の軸をぶらす。だが、何度も、籠手、太もも、首筋、右胸、膝、と切先が早苗の斬撃の死角から滑り込まれる。そして、ようやく自分のとった行動の危うさを悟った。

(体が勝手に動いてくれる。あとは岩倉さんにやられないこと!)

(今までは伊南さんが、攻撃の隙を誘うための演技!いや、本気だった。どっちでもいけるんだ。この子は自分と同じ耐久型の刀使相手がもっとも戦いやすいんだ)

 写シを切られすぎたために、早苗の消耗は限界に達した。

(でも、まだ負けられない!)

(普通ならもう写シが消滅してもおかしくないのに…まだ立ってる…どうやったら勝てるの…?)

 肩で息をする早苗は、自身なさげだが落ち着いて青眼の構えをとる栖羽に対し、敗北を察した。

(伊南さん、現役最後の御前試合選抜会。あなたが相手でよかった)

 深く下段に構えながら、やや間合いを遠くしながら栖羽の間合いへの浸透をいなしては、短時間で斬り付けて引くを繰り返す。

(…それしかないが…もう、もたないな。早苗は)

 姫和は目の前で剣を押し弾かれ、体が右後ろへ軸が崩れた瞬間をはっきりと見ていた。延寿国村の物打ち部が早苗の胸の前で止まった。

 栖羽が切るより先に早苗の写シが限界を迎えたのである。

 だが、軸の崩れを立て直した刹那の決着であり、早苗は息を切らせながら、少し残念そうに一瞬だけ目を閉じた。

「それまでっ!」

 

 

 これで第一回戦は終わり、やや長めの昼休憩となる。

 

 午後よりの第二回戦の対戦表は以下の通りである。

 

 第一試合___〈特〉燕結芽 対 〈長〉加賀美ミミ

 

 第二試合___〈平〉六角清香 対 〈綾〉山城由依

 

 第三試合___〈美〉安桜美炎 対 〈鎌〉伊南栖羽

 

  

 

 

 つづく





二週かけながら二週間以内に完成しませんでした。
申し訳ないです!
後編は10/28に投稿します!
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