関係者からの聴取を終えたミルヤは社務所を出ると、ライトアップされた桜を見にきた観光客や地元の人間で鶴ヶ城は賑わっていた。
「ミルヤ」
「米村孝子」
「あいかわらず、フルネームで呼ぶ癖は抜けないようね」
二人で駐車場に向かいながら、桜のトンネルを並んで歩く。
「癖と呼ばれるのは心外ですね、私は私なりに敬意を持って呼んでいます。もちろん、ラフな場所では名前で呼びますよ」
「なんと、じゃあ名前で呼んでくれ」
「言われて言えるものじゃありませんよ孝子」
「ほほーっ!知り合って六年、はじめて名前で呼ばれたな」
「ふふ、嘘をいわないでください。言ってますよ」
人混みをやや避けるように堀側の柵に寄り、二人で周囲を見渡した。
それで、と孝子は真面目なトーンで一言尋ねる。
「間違いありません、会津戦争の折に会津藩士によって珠鋼を使った武器を引き渡さないために、集めて隠したようです。何度か折神家と陸軍が共同で捜索したようですが」
「見つからなかったんだな」
「斗南藩から戻ってきた会津戦争参加者の証言と照らし合わせて、約百四口の珠鋼刀剣が行方知れずでした。今日、狐が場所を示すまでは」
「百四…あの時の反応は約三十二…まだどこかにあるんだな」
「ええ、ある程度の埋めた地点は確定できますが、状況が捜索の時間を与えてくれません。なので別の良い方法をとりましょう」
二人は自然と目を合わせていた。
「聞こうか」
「核を探します。赤羽刀の荒魂化…実際になった現象に遭遇したのは人工的なものだけでしたが、赤羽刀の意思が群体の荒魂を産み、凶暴化することはこの目で確認しました。そして、その中心には必ず強力な写シを持つ赤羽刀の暴走がありました」
「スルガ事件か、たしかミルヤが指揮した最初の調査隊が討伐したのだったな」
「はい、相楽学長の意図はまったく別でしたが、結果として大荒魂と化した暴走赤羽刀を鎮めることに成功しました。そして、荒魂の特性上は異種の群体が統一した行動をする場合は、その群体は一つの意思のもとに行動している。赤羽のスルガ事件ならスルガ」
「この妖狐の一件なら、あの白い狐…ではないな」
ミルヤは小さく微笑んで頷いた。
「その根拠は何とする?地域の証言か?私たちに敵意を見せなかったことか?」
いいえ、と首を振って燕結芽とニッカリ青江と言った。孝子は小さく首を傾げて見せた。
「前から不思議だったんだが、ミルヤはあの燕結芽に何を見出した?」
「笑わないでくださいよ。直感です」
ミルヤは入念に理詰めするタイプである。かならず戦闘に必要な戦術や手を揃えてくる刀使であり、それは今も変わらない。だからこそ、思考が停止し、目を瞬かせることしかできなかった。
「タギツヒメをめぐる近代刀使の道程から、今は日本各地でタギツヒメから隠れたり、隠されたりしてきた存在が現れ始めている。それは、時に血筋という形で発現している。かくいう私も日本人の血が流れている故に、こうして今も御刀と縁に結ばれています」
燕結芽という少女の経歴の、その不思議さに驚かないかと孝子に言いながら足元に落ちていた桜の花を拾った。
「燕結芽は刀使の能力を発言したことで不二の病気となり、一時は死を覚悟したがノロで延命し、親衛隊最強としてその太刀を振るい。そして、死んだ。けれど、ノロによって隠世に繋ぎ止められた現世の写シを引き戻し蘇生。タギツヒメのヒルコノミタマといった対超大荒魂戦で活躍した…しかし、隠世の向こう側へ行くとされる現世の写シは完全に個を失い、虚となる。それはもはや個人ではなく、分解される魂そのものなのです」
孝子はやや不快な結芽の話に、目を大きく見開いた。
「それが本当なら、隠世との境界に突入した調査隊と親衛隊の二人が救い出したという燕結芽そのものは…なるほどな」
「燕結芽は死んでも、燕結芽という個を失わなかった。まるで地上の記憶を全て失って天上に向かうかぐや姫のように…」
孝子は少し寂しげな面持ちでため息をついた。
「ミルヤ、あなたがどこまで考えているかは今は詮索しない。でも、燕結芽が調査隊の一人であり、また調査対象の一人なのだということは理解したわ。本人にその自覚は」
「ありますよ。今までの自分の身の出来ごと、そして今回のような怪異への高すぎる遭遇率。燕結芽は常にそうした自分の境遇を気にしていますよ」
「…稲河がやたらとあの子を気にかける意味がわかったわ、あぶなっかしくて」
「高飛車で、上司を振り回して当然、なのに討伐の最先方にはかならず彼女が立ってくれる」
「ふふふ!嫌悪を抱くのが馬鹿馬鹿しく思えるわ!」
突然、緊急の応援要請を告げるブザーが鳴り響いた。
端末に表示された内容を見ながら二人は駆け出した。
「ミルヤ!もしかして、今日あった狐型荒魂と人を襲っている荒魂は何度も戦っているんじゃないのか!?そして、一人で対処しきれずに私たちに応援を」
「確証はありません、ですが、いままでの出現地点は明らかに戊辰戦争の戦場だった場所を行き来しています!私はその可能性は大いにあると考えています」
「そうか…神指城もその故地というわけか」
駐車場に停めていたパトカーを急発進させ、神指城へ走っていく。
◇
一方、結芽たちが真っ先に動き出していた。
「未久ちゃんと裕姫ちゃんの足は早くないから、私たちが先行して狐型を抑えるよ!さすがに凶禍じゃないと思うけど」
「もしものためにと膝丸もってきましたけど…やっぱり不安ですね…」
会津若松の中心から西へ、阿賀川沿いの田畑は暗闇に包まれているが、目指す方向に禍々しい光が何度も明滅し、そこに土手らしいシルエットが浮かび上がった。
「間違いない!しかも襲われているんだ!」
もはや後続と連絡を取り合っている時間はない。
二人は八幡力でめいっぱい大きく跳躍した。結芽はにっかり青江と兼定を、詩織は車太刀を納めてから薄緑を抜き払った。
「詩織っ!隙をつくるから荒魂にキツいのぶつけて!」
「はいっ!」
着地と同時に一秒だけ状況を確認した、本丸の中央には禍々しい光に包まれる狐型が九つの尾を揺らし、それを囲む刀使たちは七割が倒れていた。
「むっ」
迅移で飛び込むと、九尾はすぐに尾を結芽に向かって走らせたが、それを避けて一本を半ばから切り捨てて懐に入り込んだ。
その狐型の黒い体につけられた痣から、琥珀の輝きが走っている。
「凶禍…!やばっ」
二刀を巧みに振り分けながら、黒い狐の尾とカギ爪からの応酬を捌いて瘴気を撃ち放つ隙を与えないようにする。
(なら…!)
結芽はニッカリ青江で大きく右前爪の斬撃を弾くと、二歩後ろに躓いた。
そこに滑り込ませるように、黒い禍々しい瘴気の塊がサッカーボール大の球体となって膨らむ。
「はぁあああああああ!」
八艘による迅移二段目に匹敵する加速と長大な薄緑から来る斬り付けは小さいが、的確に黒狐の頭部を斬り、しかし切先を下から撫でるように繰り出された逆切りは普通の剣術とは違っていた。
詩織が過ぎ去ると、狐型は朦朧と首を上げて空を鼻で描き撫でた。
「硬い…!?」
だが瘴気は収まらず、結芽へ指向している。
「逃げられないみたいだね。みんなはこの曲輪から退避!急いで!」
「結芽先輩!」
兼定を鞘に収めると、ニッカリ青江を八双に構えた。
「私の後ろに隠れてて、集中しないと写シのストック全部持ってかれるから!」
球体は野球ボール大に急収縮、結芽に向かって撃ち放たれた。
他の隊員が逃げたのを確認し詩織は結芽を信じて、身を低くして左足を半歩下げた。
「はぁっ!」
迅移と八幡力を発動、瘴気の球体を袈裟と逆袈裟で同時に切った。だが、結芽の体が後ろへ押される。
「んっ!」
胸を張り、下段から速度の落ちた球体を突く。突いて、できた切れ口に突く。
球体を纏う流れが乱れて、押しつぶされるように霧散した。
直後、狐型が正気を取り戻した。だがその背中から伸びた手で首を切りつけられた。
「やっぱり硬いっ!この荒魂っ」
薄緑を逆手に持ち、車太刀を前へ潜らせるように斬ったが切断できない。だが、結芽は正面から傷口から光るものを見ていた。
「なるほどね」
にっかり青江を手放すと同時に鯉口を切った。結芽の意図を察して、薄緑で狐型を地面に固定するように深々と突き立てた。
狐型が瘴気を集めようとした時には、瘴気ごと首筋のものごと兼定が横一線に斬り、続け様に右袈裟で完全にそれを断ち折った。
ようやく黒い狐は地に伏した。
「やれやれ…」
地面に突き刺さったニッカリ青江を回収すると、二刀を抜き身のまま黒い狐のそばに寄った。
結芽と詩織はその傷口から顔を覗かせるものを見て、互いに見合った。
その瞬間、結芽は目を見張った。
詩織の後ろに完全な状態の黒狐が飛び込んできたのである。
「まだいまぁーす!」
見守っていた刀使が叫んだが、間に合わない。
そう思った結芽の背筋に冷たいものが這った時、狐型は土埃と共に真っ二つとなって地面を転がった。
「きぇぃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!」
はち切れんばかりの猿叫が、天を指す長大な切先を震わせた。未久である。
「ナイスタイミングっ!」
結芽はすぐに迅移でまだ動く上半身を足で押さえ、にっかり青江と兼定を同時に突き立てた。大きく斬り捌きながら叫んだ。
「警戒!輪陣形!」
結芽の号令に三人は互いの背中をカバーするように周囲を警戒した。
詩織と未久は大きく息を切らせながら、周囲をこまかく見渡した。
二匹目がいた。
緊張が鼓動を加速させ、首をひたすら右へ左へ見渡させる。
「…りちゃん、詩織ちゃん!」
肩を叩かれて振り向くと、笑顔の結芽がいた。
「あぶなかったね」
しばし瞬きし、安堵のため息をついた。
「うぐぅー…」
緊張と体力の限界か、未久は崩れ落ちた。
「未久ちゃんもお疲れ様、タイミングバッチリだったよ」
鞘に御刀を納め、周囲の警戒を残存隊員に任せながら、未久を詩織と抱えて起こした。
「あー、間に合ってよかったんですが…」
「どうしたの?」
「遠目に二人が見てない場所から荒魂が現れて、間に合わないと思って民家の屋根をめいいっぱい蹴っちゃいまして…」
「屋根なら私が無警戒になったせいだから、私が謝るよ」
「いや、しおりん私のせいです…」
「わたしだよ未久ちゃん」
「私だって!」
「わたしのせいだよ!」
「ぷ!あははは!ふひひひ、あははは!はいはい、その話はあと」
警戒にあたっていた刀使が島田の名前を呼んだ。
「あ、裕姫ちゃ…わぁ!」
全身がノロまみれになった彼女は涙目で口をへの字にしていた。
「ど、どうしたの?もしかして…」
「もう一体いましたぁ、だから何度も切りつけたんですけど倒せなくってぇ!仕方ないから組み伏せて強引に傷口からこれ抜いて倒したんです!」
裕姫はノロまみれになった錆だらけの物を見せた。しかし、わずかながらに青い輝きが走った。
「結芽先輩、私の車太刀を防いだのも、未久ちゃんの一撃がきまらなかったのも…」
「赤羽刀…のせいだね」
錆に覆われた身の中に微かな白鉄が見えた。
◇
「どうもみなさん八幡電子から特祭隊に派遣されております森下きひろです。ご存知の方はもちろんご存知ですよね?では!さっそく新型S装備の調整を!」
「きひろさん!お願いです…本題を最優先してください」
「名字!ほほぉ!なるほど、かしこまりました!それでは広域深部ノロ探索実験装置二十八号について説明します!」
話は翌昼すぎとなる。
調査隊と遊撃隊は負傷者の収容とノロの回収、そのノロを狙って集まってくる荒魂の対処で夜遅くまで任務につき、刀使たちは昼まで強制的に休息の時間となった。
昨晩のうちに具体的な対策を打つために、すでにミルヤが必要な人材と機材の派遣を本部に要請していた。
そうして飯盛山を目の前に立つ福島県警、その建物奥の会議室に、調査隊と遊撃隊残存部隊二個分隊と非常事態のため隊長に復帰した島田裕姫。舞草方面隊の連絡役である米村孝子と県警警備部担当者、そして本部からヘリで今朝到着した森下きひろといった面々が揃った。
ミルヤは開口一番に、この会津には百八口の御刀がいまだ行方知れずということ、それは地中に埋められて発見を安易ならざるものにしている事実を告げ、自身がかつて体験したスルガなる大荒魂について話した。
その話にほとんどが驚き、言葉を発せられなかった。
「あーあ、話しちゃった」
結芽の一言に詩織と未久は揃って彼女に視線を向けた。
「きのう見たでしょ?人工的にできるってことは、過去にも何度もあったってことだよ。これで驚いていたら、親玉に当たった時にどうするの?」
ミルヤはこのスルガのように中心となる荒魂の存在を示し、仮称『玄狐』を探し出し討伐、同時に会津に散った赤羽刀を回収し尽くすことが急務であると告げた。
「それは技術的に可能なのか?君たちでさえ機材不足なのに」
「はい、そのために特祭隊の研究機関で試験中の機材を持ってきてもらいました。その説明はその研究員にお任せしましょう。
メガネで雑に伸びたロングヘア、シールが貼り尽くされた端末を手にまんべんの笑みで前へ進み出てきた。
「どうもみなさん八幡電子から特祭隊に派遣されております森下きひろです。ご存知の方はもちろんご存知ですよね?では!さっそく新型S装備の調整を!」
「きひろさん!お願いです…本題を最優先してください」
「名字!ほほぉ!なるほど、かしこまりました!それでは広域深部ノロ探索実験装置二十八号について説明します!」
県警本部の駐車場から、約五十機ものドローンが飛び上がった。
「この!広域深部ノロ探索実験装置二十八号ドローンは!全て特定の信号を抽出する能力に優れており、ピンポイントで特定の荒魂やノロ、ひいては珠鋼の反応を地中、海中、山中、空気中関係なく無制限に拾うことができるのです!そして、その探知結果はこの中継車とこのマザードローン『アマテラス』がみなさんのスペクトラム計に一斉送信されます!!これでしたら『玄狐』をすぐに見つけ出せるでしょう!」
「あの…きひろ…国交省に許可は」
孝子の問いに、目を点にさせて既にそちらで対応済みではと問い返した。
「あー…わかった!!話は県警と特祭隊でつける!」
「おおいに助かります!しかし、ミルヤさん孝子さん、この探索に必要なものが一つ足りません」
「サンプルですね」
結芽、詩織、未久が三つのアルミケースをマザードローンの前に持ってきた。ミルヤの指紋認証で開錠すると、そこにはあの黒狐の中に埋まっていた赤羽刀の姿があった。いずれも、新刀〜新々刀の姿形である。
「うむ!それでは、探索を開始しましょう!」
マザードローンに専用のケースへ収めた赤羽刀を一振りずつ、同期する反応を探し出すことになった。
「わぁ!」
その巨大なドローンは風を立てて一気に空高く垂直に登っていく。
きひろはメインとなる『アマテラス』の管制に注力。随時、修正と調整。
「風速安定、『アマテラス』高度350を維持」
詩織が各地に散った子機の反応と電池残量を確認。
「各機、異常ありません!」
未久は通常のスペクトラム系と二十八号スペクトラム計を注視する。
「各機からの信号波正常に出ています」
結芽はニッカリ青江を抜いて、裕姫率いる二個分隊が写シを張ったまま待機。
「肉眼と明眼にそれらしいのは見えないよ」
きひろがミルヤに視線を送った。その指はすでにエンターキーに触れている。
「一号赤羽刀の探知、はじめてください」
「はいさーっ!ぽちっとな」
キュピョョョョョーン…
間抜けなBGMとともに探知開始。
未久の眼前のモニターが子機ごとに最新情報を送ってくる、そしてみるみる彼女の顔が青ざめていく。
「ミルヤさんっ!」
すぐにPCを手にミルヤの傍に立った。結芽もそれを覗き込んだ。
「これは…」
赤羽刀に侵食したノロは、同一した行動をとるには、荒魂同様にその四割を一個体の荒魂が占める必要がある。それには荒魂本体が膨大なノロを自己に内包している必要がある。これはスルガ、タギツヒメ、そして冥加刀使が明らかにしたことだった。
会津若松の地図には飯盛山から、かつて戦場になった市街地を塗り潰すように赤羽刀と、それに結びついたノロの反応でびっしりと埋まっていた。
「これ…もう散らばってて、昨日みたいなのが一斉に起きる!」
結芽の言葉に未久は、すでに赤羽刀の回収では間に合わないと言った。
「そうです…玄狐の反応は!」
「それらしいのは…ないですね」
「すぐに二号刀も試しましょう!」
キュピョョョョョーン…
ふたたび緊張感を削がれながら、反応がいくつか別の反応を検知し、それを一号刀の結果と照らし合わせる。
「うーん…三号刀もいきましょう。
だが結果は変わらなかった。
「でも、これで百八口中、百六口の所在が判明しました!」
裕姫の言葉に結芽とミルヤの表情は曇った。
「あくまでも玄狐が見つからなければ意味がありません。きひろさん」
「はいさ」
ミルヤへの返事に何か含みがあるような明るい返事であった。
「技術的な知見や経験はあなたが一番です。玄狐をピンポイントで探し出す良い方法はありませんか?」
実は…とその言葉を待っていたように言葉を繋いだ。
「朱音様からあまりこの方法を試すなと言われていますが…サンプリングに赤羽刀とノロではなく、完全な状態の御刀を使えばいけるかもしれません。ただし」
「ただし、土地に縁の深い御刀でないと、土地に深く結びついた写シと珠鋼を探し出すことはできない」
きひろのメガネが白く輝いた。
「やはり報告書を読んでいましたね。この場の裁可権はミルヤさんにあります」
「YESです。ただし、ここからの探索データのサンプリングは」
「もちろんです!また呼び出しは嫌ですからね!」
詩織は何の話なのかと尋ねたが、いずれわかるとだけ告げた。
「さて、この会津若松に深い縁故を持ち、そして核となる赤羽刀の写シと同じ波長を持つ御刀…その候補は」
未久は何かに気がつき、裕姫に写シを解いてくるように言った。
「はい〜?わたしが何を」
「その御刀をお貸し願えますか?そうですよねミルヤさん!」
ミルヤは笑顔で小さく頷いた。
「それと、燕結芽も」
「ん?はーい!」
サンプルケースに入った裕姫の御刀が『アマテラス』とともに点高く飛び上がった。
「それにしても、私の御刀が会津の刀工さんの作である大和守源秀國とよくご存じでしたね…」
「裕姫ちゃんが教えてくれたじゃん?それをミルヤさんと未久ちゃんに教えてあげたのは私。新新刀のことで私の兼定を念入りに見てる時に」
帯剣装置から外された赤石目の拵えは、かつてその御刀を持っていた人物に由来する。
「土方歳三所用の和泉守兼定ですか…」
裕姫の御刀の作者は、源秀國は元興の名も持つ水心子正秀の弟子の孫という会津藩お抱え刀工であり、初代が正秀から授かった秀国の名を受け継いだ。そして、結芽の御刀の作者和泉守兼定は会津兼定十二代目の会津に移り住んだ兼定直系の刀工であり、偉大な初代と同じ和泉守の官位名を授かった最初で最後の兼定である。
どちらも会津に深い縁を持つ御刀である。
「所定の高度に達しました。珠鋼による特殊探知を開始します!」
「お願いします」
きひろがエンターキーを押すと、会津若松城に巨大な白い反応が何重にも走った。
「玄狐!?」
詩織の声に違うとミルヤが言った。
「そうです。今は珠鋼と写シの反応のみに絞っています」
(白狐…)
それに気がついたが、これはあえて口にしないほうがいいと詩織と未久は押し黙った。
だが、飯盛山から北東の位置にかすかな反応が見えた。
「反応!しかし微弱!」
「ここは?会津の地理がわかる人は?」
すぐに孝子が電話を切って、モニターを覗き込んだ。
「城から飯盛山へは白河街道が通っている。今は廃道となった白河街道の山中の古道とは別に、山を大きく迂回する道が新たにできているが、ここは…」
反応のある場所は、会津若松側の白河街道が途切れている場所だった。
「この反応、移動してますね」
「ミルヤさん、いきましょうか?」
待ってくださいと、裕姫たちに目配せしていた結芽を引き留めた。
「まだ兼定が残っています。ここは柳瀬詩織を隊長に山城未久と第三分隊がすぐに現場へ行ってください。米村孝子は回収班と県警機動隊に正式に応援要請を、部隊を二つに分けるよう言ってください」
「了解した!」
詩織が統制の号令をかけると、ここからすぐに八幡力の跳躍で現場へ赴くように言った。
「現場は山間とはいえ市街地です。障害物によく注意し、荒魂の行動への対処として現場からニ百メーターの地点で分隊防御陣形で突入します!先頭と斥候は私と未久で行います!三分に一回はスペクトラム計情報を確認!質問は?」
「はい!」
振り向くと結芽が手を上げて振っていた。
「結芽先輩〜!」
自然と笑いが出た。
「詩織ちゃん、みんな。無理とわかったら引いて私を呼ぶこと。私は怪我人が出ることは絶対に許さないから、いいね?」
「…はい!」
詩織たちが出発すると、結芽は降りてきた『アマテラス』のサンプルケースの交換作業に移った。
「お願いね、兼定」
すぐに飛び上がったドローンを見上げながら、結芽の隣に孝子が立った。
孝子は忙しく電話をかけていたが、落ち着いた表情を見せた。
「燕結芽、あの兼定が鍵になると思うか」
「なるかも」
結芽のそっけない返しに小さく苦笑いを浮かべた。
「それは例の勘というやつか?まあ、昨日のがあれば信じたくなるがな。燕は自分のそんな境涯でいいのか、考えたことはあるか?」
「そういう言い方好きじゃないよ。孝子さん、私の出会いって悪いことに向かったことはないの。でも、それがその人の幸せじゃなかった。だから、できるだけお互いに幸せになれる道を探し出したいの。出会いの予感が人よりちょっと鋭いぶん」
きひろが所定の高度に問題なくドローンが到着したことを告げた。
「わたしができることしなくちゃ、だからね!孝子さん!」
結芽は笑顔を見せた。誰かに甘えたりない、どこか子供のような無邪気さがあった。
「和泉守兼定、探知開始!」
地図上には、城に住まう白狐と、白河街道末点の反応、そして小田山へ移動する白狐に匹敵する反応が現れた。
「どうやら、我々は見られていたようですね。大方はこの赤羽刀」
ミルヤは玄孤の配置したノロと結びついた赤羽刀を、ドローンのようにして遠隔で探知機として使えるのだと言った。
「我々と同じ装置を内部機関に持つとなれば…向こうからも『アマテラス』の位置は丸わかりですね」
「じゃ、私たちの出番ですね!ミルヤさん!」
すでに結芽の周りに、第五分隊と副隊長に名乗りをあげる島田裕姫が集まっていた。
「燕結芽、今は兼定を欠く状態です。長時間の継戦はできないのですよ」
「そこは随時、裕姫ちゃんにサポートしてもらいます。ね!」
「はい!以前も似たことはあったので、ギリギリまで私たちがサポートする戦術があります!結芽先輩、今のニッカリ青江単独での継戦時間は」
「一度、写シを張ってから十五分ってところ、休み休みなら三分のインターバルで九分いけるよ!」
裕姫は胸は少ないが、厚い胸を拳で叩いた。
「十分です!切り札の結芽先輩を万全の状態で玄孤の元に送れます!」
ミルヤは少しため息をついてから、笑顔になった。
「行くなと言っても行くのでしょう?」
「もちろんです」
「では、今から燕結芽には玄孤討伐を指示します!隊は島田裕姫を隊長に燕結芽の護衛と障害の除去。玄孤をバラバラにして構いません!災厄の発生を必ず阻止しなさい!」
「はいっ!燕結芽、玄孤討伐に向かいます!」
軽く敬礼し、不敵な笑みを見せた
みなさんご無沙汰しております。前回から時間が空いてしまいましたが、話が長くなるので中編と後編に分割します。
ですが投稿ペースは以前に戻していきます。再び百話を目指して頑張ります。
次回は来週土曜〇時の10/26に投稿します。