燕百奇譚   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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其ノ三十九『もう一振りの小烏丸』

 

 

 このお話は結芽が調査隊加入の直後の話である。

 

 

 

 秋が始まり、田んぼでは稲架に架けられた稲が金色に輝き、木々がそれぞれの色に変わり始める。

 残暑も遠くなりはじめるこの季節、燕結芽が調査隊に入ってはや一週間たっていた。

 しばらくは今までの調査資料に目を通したり、両国近隣の荒魂討伐の支援に出向いたりしていたが、ついに調査任務に参加することとなった。

 

「詩織ちゃん、いつのまにかしおりんって呼ばれてるね」

「その呼び方をするのは未久ちゃんだけですよ! わたし、そんなちっちゃいとか華奢なつもりないんですけど」

 木寅ミルヤの自家用車に乗って中央自動車道を走って四時間近く。半ば公用に機材が増設されたボルボ内で結芽と後輩である柳瀬詩織と山城未久は隣り合って後部座席に座っていた。

 特別車内が狭いから……というわけではなく、結芽が話をしたいとやや強引にこの形で乗ったが、その思いは二人も同じだったので自然と会話が弾んでいた。

 

「ちっちゃくて、愛嬌あって、まっすぐな性格、それにおっ……それは置いといて、しおりんってとってもかわいいんですよ!」

「うん! 初めてあったときもかわいかったよ!」

 結芽の満遍の笑みに、詩織は思わず苦笑いした。

「結芽先輩の可愛かったの意味! 絶対違いますよねー!?」

「うんうん、それもかわいいとこ、だよね? 未久ちゃん?」

 未久はその言葉に何度もうなづいた。

「普段引っ込めてるけど、ちょいっと猪突なところが……」

「こーらー! 未久ちゃん!」

「あはは! 謝りませんよー! だって褒めてるんですからー!」

「そうだねぇ……たまには褒めてあげてかわいいところ出してもらわないと……」

 ニヤニヤする二人に詩織は頬を膨らませた。

「あーもー! 結芽先輩いろいろ知ってるから危ないと思ってたんですよーっ! あと、おっぱいって言いかけたよね未久ちゃん」

「ぎく」

 ジトーとした目が未久に突き刺さる。

「やや! いけないな〜ぁ! 気にする子は気にするんだぞ〜!」

「ぐぬぬ……結芽先輩ずるいですぅ〜っ!」

「ふふ! 未久ちゃんも一本取られたね!」

「しおりん〜っ! やれやれ今日は引き分けにしときましょうか」

「うん! いいよ!」

 詩織と未久は調査隊となってからはじめて会った仲だが、二人の結芽とのつながりはもっと以前のものだった。

 それについてのお話はまたいづれしたい。(詩織は其ノ三、未久は其ノ二十六を参照)

 運転席のミルヤが三人にまもなく高速を下りると伝えた。

 

 飛騨高山。

 

 歴史は古く、街の中心に飛騨国の国分寺が残ることや、幕府直轄地として郡代が置かれていたことからもその確かさがわかる。街には江戸時代の建築が多く残り、多くの古い街に漏れずここを訪れた人々から『小京都』の名を賜っている。

 

 とある敷地内の駐車場に停めると、車を降りた目の前に三重塔とそれに並ぶ黄色く葉の色づいた大銀杏が立っていた。

「では燕結芽、初任務と行きましょう。いままでに比べれば地味だと思いますけどね」

「任務といっても、いつも討伐か朱音様の付き添いくらいでしたから、かえって新鮮な気分ですよ」

「おーい! 結芽ちゃーん! みんなー!」

 山門の方から大きく手を振る明るい調子の女性と、いたって落ち着いた目の切り立った顔立ちの良い女性が二人とも腰に御刀を佩いている。

「可奈美さん! それに姫和さんも!」

 結芽と可奈美はそれがいつものことと両手でハイタッチした。

 可奈美は大人びれこそすれど、調子はあいも変わらずであった。

「もしかして二人ともミルヤさんに呼ばれて?」

「いいや、正確には朱音様と私の共同の依頼だ。可奈美は美濃関の代理人として来ているんだ」

「そうなんだ! 詩織ちゃんも未久ちゃんもひさしぶりだね! 元気にしてた?」

「はい! 稽古もぬかりなく重ねています!」

 詩織は明るく返事をした。可奈美は美濃関卒業後も戦術および剣術の指導に当たっていたので、詩織にとっては師に当たる存在である。

「衛藤師範もお変わりなく! また杖太刀術の指南を受けたく存じます!」

 未久にとって可奈美は現存数の少ない大太刀術の中で柳生新陰流のものを継承、のちに尾張刀使会から正式に柳生新陰流の刀使代表として『柳生の大太刀』を継承していることから、大太刀術にも長けている。

「いいね! いいね! じゃあ今からやろっか!」

「か・な・み」

「あっ」

 姫和の大きなため息が溢れた。

「稽古は後、今は調査任務の付き添いだ。やれやれ……」

「ごめん! つい!」

「可奈美さんはあい変わらずだなぁ」

 詩織と未久はやや驚いた表情をしていた。

 無理も無いことだが、大学生になった姫和は優しくも厳しい頼り甲斐のある刀剣類管理局の幹部候補である。現に皇室の刀剣を管理する水無御剣庫長の役職を賜っている。

 そんな彼女が呆れたり、タメ口を使うのが信じられなかった。

「うん、普通はあんな感じ。紫様にかなり言葉遣いを直されていたから、その成果だね! 私見てたから!」

「結芽、お前は少し黙ってろ……最近は素で喋るタイミングがないだけだぞ」

「そーなのー?」

 結芽は姫和が皇室関係の御刀に関する警護職……つまり学長・本部長クラスの出世コースに乗るにあたって、紫から所作指導を受けるために本部通いを始めた頃からの仲だった。

「これだから姫様にタメ口が許された奴は……その話はいいんだ本題と関係ない。木寅室長。では、江間の小烏丸を実見に行くとしましょうか」

 ミルヤは改まった姫和の言葉に笑顔でうなずいた。

「ええ、では参りましょうか」

 

 ◇

 

 メガネの住職が案内すると本堂内には既に敷かれた毛氈と、東南アジアから輸入された裂を用いた緋色の刀袋が置かれている。

「十条姫和、小烏丸を隣に置いてください。山城未久は三脚にサーモ式スペクトラム計カメラを設置してください。柳瀬詩織はスペクトラム計の受信感度をレベル5に引き上げて待機。燕結芽は私と御刀の実見を、あなたが手に触れた所感も聞かせてください」

「それでいいんですか?」

「ええ、おそらく御刀に触れればわかりますよ」

 ミルヤは結芽に思うところがあって調査隊に呼んだのである。まずはその言葉を信じることにした。 

 結芽は姫和の隣に座って左脇に彼女の御刀である『ニッカリ青江』と『和泉守兼定』を置いた。

 

 カメラの設置が完了すると、録画を開始し、有線で繋いだノートPCには繊毛の上に白く表示される小烏丸の姿があった。

「それではご住職、御刀を拝見させていただきます」

「はい。よろしくお願いします」

 正座したミルヤは刀袋へ礼すると、紐を解いて休め鞘を繊毛の上に置いた。

「山城未久、反応は?」

「ありません。対珠鋼スペクトラム計にも変動なし」

 古い休め鞘には刃長とその御刀の号が墨書きされている。

「号……小鴉」

 逆手に持ち替えてやや硬い鯉口をゆっくり切ると、刃が日の光を浴びて白く輝いた。

(おー……あれ? 姫和さんのと形が違う……)

 続いて目釘を取り、左手首を三、四度と小さく叩くと鎺の鳴る音と共に刀身が小さく飛び出た。

 柄を引き抜くと、錆身の茎を手にとって鎺も外して置いた。

 ミルヤが腕を水平に伸ばしながら、切先を天井に向けながらその姿を見た。

 沈黙の中、その詰んだ小切先、茎は寸が詰められ本来の腰反りをうかがえないものの、その幅広からゆったりと先細る姿は平安期の上古刀らしさがあった。

 ミルヤはそのまま刀枕に棟から刀を下して置いた。

 姫和から預かった小烏丸も同じ手順で江間の小烏丸の隣に置いた。

「では、燕結芽。私と場所を代わりましょうか」

 結芽は目の前に並ぶ二振りの小烏丸に奇妙な印象を抱いていた。

「あなたの今見た直感を教えてください」

 ミルヤはボイスレコーダーを手にしていた。

「え、でもミルヤさん。私は刀の専門家じゃないですよ?」

「存じています。ですが、刀の専門家ではなく、燕結芽あなたの率直な感想が聞きたい。彼らから何が聞こえてきますか」

「聞こえる? ……ああ! 御刀の声を聞くってことですか! なら……見てすぐに思ったのですけど、こっちの小烏丸に写シがないですよね? でも、二振りとも同じ器って印象を受けます」

 姫和は思わず結芽の顔をじっと見た。

「結芽、写シが有無がわかるのか?」

「え? うん、はい。目で見るっていうより、刀にそれがいるかどうか……ぐらいかな? 見えないの? 詩織ちゃんも未久ちゃんも」

 詩織と未久は見合わせてうなづきあった。

「はい、御刀は手に取ってはじめて写シがあるか感じ取れる……というのが常識です」

「うそ……刀使になってずっと感じていたの私だけ?」

「いいえ、私にはありました。燕結芽、あなたにはおそらく初歩的な鑑刀眼のスキルがあるのでしょう。今ので確信に変わりました。かなり稀な能力なので、たとえ完全でなくても刀を見る場ではとても有効なのです」

 おどろく結芽はそのまま可奈美の顔を見た。

「いや、だって、はじめて可奈美さんと姫和さんに会った時、千鳥と小烏丸が普通の気配じゃなかったから……きっと紫様と同じと思ってたんだよね……」

「あーだから私のこと最初は『千鳥のおねーさん』だったんだね! そして、その能力にミルヤさんが気づいていたわけなんだ」

「確信はありませんでした。ただ片鱗は何度も見ていましたからね。燕結芽、江間の小烏丸を持ってみてください。何が聞こえますか?」

 結芽はおそるおそる手に取った。

「……空っぽ? の……つもり? 自分は器の役目は終えたから折ってくれ……?」

 結芽はその場にいた全員の視線が集中するのを感じた。

「いやいや! この小烏丸の声だよ! じゃあ逆にこっちの小烏丸は……」

 

 御刀を持ち替えた瞬間、結芽の視界が白く消し飛んだ。

 その先の緑に生い茂り実がついた一本の梅の木が立っている。

 黒い大きな翼を広げたシルエットが木に降りてきた。

 その三つ足、金の光彩を纏い、その鋭い目が結芽に向いた。

 

「結芽!」

 姫和の声を聞いて、そっと小烏丸を元に戻した。

「ふぅん……それがあなたの本当の姿なんだ」

「大丈夫なのか」

「うん! ありがと姫和さん! でも……小烏丸はすごいね……でもミルヤさん、これは口に出していいのかな?」

「察しはつきます。構いません」

 次の一言に詩織と未久は互いに顔を見合わせた。

「江間の小烏丸は今の小烏丸の元の器……ですよね?」

 

 ◇

 

 高山市からさほど離れていない場所の、参拝者のいない山奥の神社。

 

 石段の上に鎮座するやや古びた鳥居、その門の景色がにわかに波たち始める。

 すると、波をかき入るように黒い手がすぅ……と出てきた。

 そのあまりにも長い……長い腕は3メーターを越さんとする長さであった。

「気配があった……小烏丸が……新たな主人を選んだ……」

 だが、鳥居から出てきた体は人型であり、足は極端に短い小さな体躯であった。

「だが、つい最近だが主人を選んで我々が試練を課した」

 鳥居からは頭と両足が出てきた。だが、今度は胴体が出ても足が一向に出終わらないほどに長い。

「かような速さで小烏丸は主人を変えるのか……?」 

 こちらは極端に腕が短く、代わりに足が長かった。

「しかし、小烏丸は主人を選んだ。我々は荒魂の代表として小烏丸の新たな主人が相応しいか見極めねばなるまい」

「左様、では行こうか長腕公」

「ああ、長脚公」

 風がサッと吹くと、2体の姿は影もなく消え去っていた。

 

 ◇

 

 鞘に戻した小烏丸を脇に置きながら、ミルヤたちはしばし話の整理がてら休憩に入った。

「写シが移動可能というお話、初めて聞きました……」

「無理もありません。柳瀬詩織、御刀の写シが消失する例は聞いたことがありますよね?」

「破断されたり、ノロ錆が生じたり、ヒヒイロカネの含有率、写シを再び張るまでに年月が立ちすぎると消えてしまうと習いました」

「そう、一般的にはその認識です。ですが、刀身を失っても写シを生きながらえさせる方法があります。それは……」

 ミルヤが指をさしたもの、これは古い金網のかかった香台であった。

「お香ですか?」

 住職が運んできた拵えを収めた箱の隅に、手のひらサイズの古い華やかな柄の裂で仕立てられた包みがあった。

「やはりありましたね……」

 包みを取ると、さらに小さい木箱が姿を現した。やはり年月を感じる。

 蓋をとった中身は木片が一片のみ入っていた。

「これは仙影木香、現在は地球上には存在しないと言われている香木です。この香木には写シをこの中に留め置くことができるという特徴があります」

「え? でもいまここにありますよ?」

「そうです。使われたり、回生の香として用いられていないものは残っています。これは使用済み……といったところでしょう。ただし、未使用品の現存は香木として加工の済んだ物のみ」

「木そのものがないということですか?」

 結芽の言葉にミルヤは頷いた。

「伝承では蜀の国の奥深くの仙人たちが住まう『仙境』、その仙人たちが千年もの眠る影で育つ……と言われています。東西冷戦時代に米ソがその香木を探しましたが、結局は日本に残っていたもののみでした」

「へぇ……この世のものじゃないみたいだね」

 可奈美の答えにミルヤが折神家の公式見解はそれであると答えた。

「そして、この香木がここにあるということが小烏丸の来歴の証左です」

 未久は息を呑んだ。

「あの……まさか小烏丸は……」

「山城未久、あなたが考えている通りです。現在、小烏丸の本歌はこの現世に存在しません」

「じゃあ……やっぱりこの二振りはどちらも小烏丸であって、小烏丸じゃない……のですね!」

 驚きと興奮の入り混じる目は、刀の好きな人間のそれであった。

「本歌の行方については調査を続行しますが、江間の小烏丸が本物の小烏丸という証左得られましたね」

 ミルヤも心なしか早口であった。

 姫和はやや面持ちを固くしたまま、端末を取り出した。

「小烏丸のことについては確信が行ったようだな。じゃあ、そろそろだな」

「そろそろ?」

 結芽と未久に詩織のキョトンとした表情に可奈美は苦笑いを浮かべていた。

「今回の調査、可奈美さんが呼ばれた理由と関係ある……?」

「ミルヤ、言ってないのか?」

「小烏丸に認められるか確証がありませんでしたので、極力リラックスした状態で接触してもらいました」

 結芽は何かを察した。

「まさか……! あの八咫烏が見えるの、知ってたんですか!」

「ああ、小烏丸の刀使は必ず一度その姿を見たという。かくいう私も見た。そして、ヤツらとも戦った……!」

「ってことは、もしかして荒魂?」

 詩織の手元にあったタブレットが警告音を発した。だが、それは荒魂が出現したときのそれではなかった。

「これは……隠世との通行を示す境界波検知反応です! ですが、ノロの反応検出なし!」

「すべてのパターンで探知をかけてください!」

「わかりました! スキャン完了は7分ください」

 可奈美、姫和、結芽は素早く立ち上がって自身の御刀を手に取った。

「お願いします。衛藤可奈美、十条姫和両名は待機をお願いします。対荒魂戦は燕結芽にお願いします。柳瀬詩織と山城未久をあなたの指揮下に置きますので、存分に使ってあげてください」

「了解です! 詩織ちゃん、未久ちゃんよろしくね!」

「はい! 次郎太刀と私にお任せください! 間合いの長さと力がお役に立てるかと!」

「足が少し早いので先行して動けます。トリッキーな指示もお任せください」

「うん! 遊撃隊隊員百人力は伊達じゃないって私に見せてね!」

 ミルヤは江間の小烏丸を、直近に奉納された新しい拵えに収めた。

「さて……では燕結芽、和泉守兼定を置いて江間の小烏丸を手に取ってください」

「はい!?」

 差し出された総漆塗りの古風な太刀に目を瞬かせた。

 

 ◇

 

 寺の庭に出た一同は結芽を中心に、数歩離れた位置で見守っている。

 

 結芽は兼定に代えて、江間の小烏丸を佩く。

「うーん」

「その反応は半信半疑と、いったところですか?」

 ミルヤの問いにそうではないと、言葉を続けた。

「写シがいる確信はあります。でも、自分は小烏丸の写シがない以上は御刀ではないって……言ってる気がする」

「結芽先輩は御刀の声が聞こえるんですか?」

 詩織の問いに可奈美が即座に答えた。

「いや、たぶんみんな一度は聞いた……いや感じ取ったはずだよ。御刀が自分を選んだ思念みたいなの」

「ん! 自分の刀使はお前だ……みたいな、感触なのか、意思なのかわからないヤツですよね?」

「そう! それを結芽ちゃんは今の小烏丸からも前の小烏丸からもはっきりと感じ取っている。試す価値はあると思うな!」

 肩近くに小型カメラを付け、未久は端末と接続し録画を開始した。

「録画開始しました! いつでもどうぞ!」

「いや……声が聞こえても、誰でも彼でも写シを張れるわけじゃないでしょ……」

「それを含めての検証です。お願いします燕結芽」

「はい……」

 本能的に嫌な予感がすると思いつつ、しかし物事を進めないことには先に進まないので鞘に手をかけた。

 今まで燕結芽のわずか十八年ほどの人生でしかないが、打破できなかった事態などなかったのである。

 文字通り、その実力をもってである。

「んっ」

 太刀佩きの鞘を回して刃を天に向けながら、鯉口を切るとその古風な姿の刀が姿を現した。

 そして目を瞑った。

 手の内の御刀に集中する。

 瞼の奥。深い深い闇の中で星が走り出し、その奥に小さく縮まるような光が見える。

 結芽側から走る光が枝となって小さな光へと繋がっていく。

(いる。まちがいなく写シがいる。でも、出てきてくれない……写シが全身に繋がる感覚がない……)

 光は何かの気配に気がついて瞬いた。

(え? 何かが来るの?)

 目を開いて振り向くと、寺の門前に縦に長い二体の影が見えた。

 脚と腕がそれぞれ長い人型荒魂が山門より先の寺内へ入らぬ場所に立ち、結芽たちを見下ろしている。

「スペクトラム計……反応がありません!」

 未久が端末を見ながらミルヤに報告した。

「探知できる荒魂の特徴である負の感情がないのでしょう……ですが味方とは限りません」

 

 だが、彼女たちを見定めるのか、それとも戒律があるのか、二体はじっと立ち尽くしている。

「やはり現れたな」

 姫和は苦笑いでその二体の名を呼んだ。

「久しぶりだな手長、足長」

 長い足の足長と呼ばれる荒魂が、ゆっくりと口を開いた。

「十条姫和、お前の試練は終わっている。しかし、小烏丸が新たな主人を選んだ。それは誰か? 真であれば、まぐれであっても試練を受けてもらわねばならない。それは誰か?」

 結芽が名乗ろうとしたが、やむなしと遮るように手長がつぶやいた。

「出てこぬのであれば、規定通り試練を受ける理由を作ろう。複数で我々に立ち向かうことも構わぬ。無論、試練を受けぬこともできるが……その時は小烏丸に触れたその業を破壊をもって味わってもらうからそのつもりでな……」

 手長足長は身を翻すと、道路の方へと歩み出した。

「相変わらず容赦がないな……」

「姫和おねぇさん攻略法はあるの?」

 結芽のふとした問いに、一寸考えて首を振った。

「強いて言えば……懐に入ることだな。腕が鉄柱のように硬いから斬り離すことは諦めた方がいい」

「それ以外は?」

「間合いがやたら長い」

 ゆったりと歩む二体の背中を見て、結芽は頷いた。

「見たまんまか……詩織ちゃん! 未久ちゃん! 抜刀写シ!」

「「はい!」」

「ミルヤさん」

「荒魂は任せます。半径1キロ範囲の避難は完了」

「市街地への被害を抑えながらの討伐ですね……バックアップお願いします!」

 結芽は歩き出した。二人も続いてその後を追った。

「作戦、簡単に説明するね……」 

 

 手足足長は寺を出ると、さも当然のように目の前に立ち塞がった無人の車両をその長い手で叩き飛ばした。転がった先の商店に車が突き刺さった。

「未久ちゃん!」

「行きますっ!」

 次郎太刀を担ぐようにして駆け出した。

 迅移は決して早くないが二体の脇を抜けながら、身を右足を軸に身を翻しながら長大な刀身の柄を両腕で頭上高く振り上げた。

「だーっ……りゃっ!!!!」

「来たかっ!」

 手長の頭上に走った刃を両腕を交差させて受け止め、そして下へと真っ直ぐ流すように交差を解き放した。

「だが甘い!」 

 六尺五寸とされているが、次郎太刀の全長は244センチ……つまり八尺の大太刀である。

 姉である山城由依はその強靭無比な腕力と適応力があった、未久も少なかれその資質を持っている。だが、姉とは決定的な違いがあった。

(開いた……!)

 手長の手を合わせて未久の写シを叩き割ろうと、胸を大きく開いた。

 その行動を読んでいたように、未久は身を沈めて次郎太刀は水平で刃がぴたりと制動してみせた。

 そして、ふんじばった左足を迫り出しながら、刃を反して切先を手長の首筋に伸ばした。

 

 彼女の資質、それは大太刀に対しての知識と操刀技術である。

「器用じゃの!」

 手長は攻撃を諦めて短い足で思い切り飛び退いた。

「やっぱり未久ちゃんには大太刀がぴったりだね!」

 結芽がそう感嘆の言葉を漏らしながら、軽いジャンプでウォーミングアップする。

「お先です!」

「うん!」

 

 隣の足長が左足の腹で追い立てようとした次郎太刀を蹴り上げた。

 未久の体がふわりと浮かんだのも束の間、蹴った足を素早く踏み込んで右足を浮かせた。

「とらえたぞよ」 

 右足の甲が未久に向かって走った。

「はいっよ!」

 白い影が右足の踵に飛び乗ってすぐさま蹴り飛んだ、さらに膝裏を蹴ってそれは足長の頭に乗った。

「なぁーにぃーっ!」

「あ! 詩織ちゃんの『八艘』! すっかり自分の足だね!」

「ほっ!」

 頭を蹴り上げて電柱に取り憑いた……と同時に飛び出した剣が左膝裏を切っていた。

「今降りた時に確信しました! 全身くまなく硬いわけじゃない!」

 溜めが一切必要のない迅移連続発動能力、壇ノ浦を飛び戦った伝説の武士の故事から『八艘』と呼ばれている。

 その武士のゆかりと伝えられる『車太刀』という脇差ほどの小太刀が彼女の御刀である。

 詩織は手早く未久を抱えて飛び上がり商店の屋根に飛び乗った。

「大丈夫、未久ちゃん?」

「なんとも! でも狙うべきところははっきりした! あいつらの距離が詰まっている今なら……手長にフェイントかけながら足長の膝の傷口こじあけるから」

「手長の空いた腕関節を私が狙うね。結芽先輩」

(もうちょういかかるかな……ヤバそうだったらニッカリで出るから)

「お願いします!」

 未久はその場で高く跳躍、詩織は手を伸ばし未久の降りてきた左足を受け止めて『八艘』を腕に適用して未久を弾き飛ばした。

 すぐさま詩織は右肩に車太刀を担いで、クラウチングスタートの構えをとった。

 手長は自身の間合いに入る直前で着地しようとする未久に警戒をとった。

「どぅおっせいッッッッ!」

 着地と同時に体重と次郎太刀の重さを一点にかけて、刀身を右脇に落とした。

 次郎太刀の長大な間合いに足長が入った。

(決まった!)

 詩織は八幡力でスタートを切っていくつもの電柱を駆け飛ぶ。

「お前たちの手はもう読めたわ」

 にやりと笑った足長は、左足を曲げ上げながら股を全開に開いて足を天高く上げた。

「早いっ!」

 次郎太刀の物打ちに捉えていた左膝が消えた、だが大切先が右足に届くことを見出して思考を切り替えた。

 それが足長の策だった。

「足ばっか見てると肝心なもんは見えんぞォ! なぁ長腕公ッ!」

 すでに腕立て伏せの形を取っていた手長は、腕のバネだけで大跳躍。

「まずい! 江間の小烏丸!」

 結芽は何かに勘付いたが、江間の小烏丸はかすかな反応のみで写シが発動しない。 

 その合間に天を向いていた足長の左足裏に着地、両手をさらに天で握り込み間断なく振り下ろした。

「はっ!」

「わしらが手と足だけと思ったら大間違いよ……」

 動いた手長の動きに合わせて詩織が電柱と電柱の間を飛ぶ……彼女が空中にいるその一瞬を突いて腕が詩織を天から地上へ叩き落としたのである。

「詩織ちゃん!!」

 写シを張った結芽が迅移で詩織を抱き止めたが、写シが剥がれて気を失ってしまった。

「しおりんっ!」

「刺客がよそ見は感心せんのぅ!!!」

 詩織が飛ばされた瞬間、足長は崩れるように左踵を未久に叩き落とした。

「ぐっ!」

 とっさに腕を頭上に突き出して鎺と鍔の間で受け止めたが、重量とその落下エネルギーに負けて未久は後ろへ大きく弾き飛ばされた。

 背中をアーケードの屋根の柱を押し曲げるほどに打ちつけたが、両足をふんじ張りながら切先を蹴りくる足長に向けた。

「石のようなやつだ! だがこれでとどめだ…….むむっ!」

 左手のニッカリ青江の切先を足長に向けて立っている少女に、二体の動きがぴたりと止まった。

「ミルヤさん、詩織ちゃんをお願いします。あと未久ちゃんも下がらせてください……」

 ミルヤは頷いて背中で気絶する詩織を抱えて結芽から離れた。

〔結芽先輩まだいけます! 〕

 無線機越しの音割れた未久の声に、遠くから笑顔を見せた。

「未久ちゃん、無理は禁物だよ。見ればわかるって。後は私に任せて」

〔かなり強いですよ……〕

「わたしより?」

〔ずるいですよそれ……〕

「ふふ! じゃあ……二人には申し訳ないけど、二体分のスコアもらっちゃうね」

 

 ◇

 

 手長足長は結芽が不気味に思えた。

 

 先の大太刀と小太刀の刀使は無関係、おおよそこの目の前の刀使の手下だろうと認識していた。

 本命の試練の挑戦者は彼女に違いない。その手の小烏丸が、本来の小烏丸の写シが去った『別の小烏丸』であるのは理解しているが、しかし間違いなく彼女は一瞬とは言え小烏丸の写シを発動してみせた。

 ならば、たとえその手に小烏丸がいなくとも試練は与えなければならない。

 

「さて、どうしようかなぁ」

 先の刀使も同様、生きとし生きるものには気配がある。それは、概ね感情の産物であることが多い。

 先の二人には殺気や怒りではなく、倒すという明確な指向性があった。

 多くの刀使が荒魂を祓う、鎮める対象として見ているが故の気配である。

 だが、気配がない。風のない水面のように穏やかである。

「お前は私たちに対して、何を思う」

 手長は揺さぶりをかける。

 だが、彼女はやや口角を尖らせたまま微動だにせず答えた。

「江間の小烏丸が写シを発動するための試験台」

 前にもいた。勝負になったときに全ての感情がフラットなる刀使……いや剣士が。

「ふ……はっはっはっはっ! お主はそういう刀使か! 我々もお前が小烏丸の主人に相応しいか……盟約に従い試験するまでっ!」

 手長は腕で大きく跳躍し、結芽の後ろに回った。足長は右足を後ろに駆け出すポーズをする。

「さぁいくぞ! 小烏丸に選ばれしものよ!!!!」 

 その長大な腕を脇に畳んで、両手のひらを結芽に向けた。

 跳躍した長大な腕に対して決して長い足ではないが、明らかに迅移に匹敵する加速をした。

 結芽は目の前に迫る手を避けた。

 さらに手が迫る。

 手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手! 

「あいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあい!!!!!!」

 そのリーチの長さと、人間型の腕から物理的な動きとは信じられない張り手が絶え間なく……ひたすらに絶え間なく走る。

「ふぅ…… んッ!」

 避けながら、左手のニッカリ青江が受けたり、軌道を変えたり、スッと切先を皮膚に当てたりする。

(見てた通り切れない、あと手の関節部を手で隠してるね)

 結芽の表情は崩れない。それどころか結芽はその場から一歩たりとも動いていない。

「やるのぉ!」

 そう言いながら脚長が結芽の右後ろへ回って、短い腕で低い逆立ちになり足の平を結芽に向けた。

「やいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいーっ!!!!」

 張り手の容量で遠間から、結芽の背中めがけ足を叩きつけてくる。

 江間の小烏丸は写シを発動しない。写シの発動していない御刀は意外にも脆く、その拵えも例外ではない。

 だが、柄を避けながら八幡力を足の平が接触する0.2秒発動、接触する寸前に解除し金剛身を0.08秒発動し肉体強度を確保、0.33秒発動して次の足と手の張り手に拳と腕で対応する。

 これを0.01秒単位で長短をコントロールすることで、手長脚長の反撃を一切許さない。

「さすが結芽ちゃん! 迅移・八幡力・金剛身を全て使った刀使界最高の業師だけあるね!」

「だがいつまでも同じとはいかんぞ」

 

 今度は足元へ集中的に張り手が走った。結芽は右足を下げながら、払い対応する。

(誘いに乗らない……足長さんを信頼してるんだ)

 くるりと反転して背中を向けながら着地した足長は、即座に右後ろ蹴りを走らせた。

(早い! ちょマズっ!)

 首元そ狙ったその早い蹴りに、結芽は咄嗟に小烏丸の鎬で受けながら、やや前進して物打ちで露出した関節を切った。

「ばかな! カウンターだとっ!?」

 切先が右膝後ろを切った時、たしかに写シが発動した。ごく一瞬ではあるが、たしかに発動した。

「いま……! ふぅんそういうことね……!」

 足長の動揺を結芽は見逃さなかった。

 そのまた内さらに入り込むと、手長の張り手が足長の伸び切った足を一度叩いた。

 長すぎる間合いの接触による一拍にも満たない静止。

 結芽は押し出された長い足の上を迅移で掛け走り、ニッカリ青江で足長の胴体に袈裟斬りを浴びせた。

「こ、このワシらが……!」

 連携を乱された。結芽は手長を視界に入れながら、ニッカリ青江を鞘に戻した。

「さぁ……斬ろう! 小烏丸!」

「まだまだーっ!」

 張り手を浴びせかけながら間合いを詰める。

 だが、先ほどと違う。

 張り手を避けられるが、触れる感触がある。それは手のひら下部の筋の部分である。

「なっ! あの一瞬で小さな関節部を切っただとーっ!」

「小烏丸といえば」

 結芽は背を低くして、刀身に纏う白い輝きを認めた。

「突き技だよね」

 手の動きが鈍った手長の懐に迅移で結芽が飛び込んできた。

「……! 見事っ!」

 三段突きが丹田、水月、喉を正確に突き、崩れた肉体に向かって最後の払い切りが止めを刺した。

 

 倒れる手長を見守る彼女の全身を、白く輝く江間の小烏丸の写シが包み込んでいた。

 

 

 ◇

 

「試練は合格! そなたは晴れて小烏丸の御使である!」

 どこから出したのか、足長は金に日の丸の扇子をパッと広げてみせた。

 二体は深手を負わされたが、そもそも普通の荒魂ではないため穢れもなく、切られた部位も自然に治り出していた。

「あんなに苦労して切ったのに……」

 詩織と未久は残念を越えてゾッとしていた。

「カッカッカッ! ワシらのように本体がここにない荒魂に本来切り祓われるという概念はないのだ。残念だったの童!」

 手長の言葉に詩織は顔を膨らませていたが、未久は違った。

「じゃあタギツヒメみたいに、本当に祓おうと思ったら」

「隠世の奥深くが本体の居場所じゃ、神にでもならねばこれぬし、許しがなくばそこにおれん。深く心配の必要はない」

 改まった体で二体は結芽の顔を覗いた。

「して……本当に正式な御使でない……? よくあの空っぽの刀から写シを引き出したノゥ」

「本当だよ。今も小烏丸は十条姫和さんの腰にあるよ」

 二体は十条姫和を見て、あーほんとだわと口を揃えた。

「その口ぶり変わってないな……」

「お前、ノロ取り込んで不老になっておらんか? 成長を感じんぞ」

「また一つの太刀でバラバラになりたいらしいな……だが私も気になった。よく写シが張れたな」

 直感だけど……と結芽は言葉を繋いだ。

「荒魂を切る自信がなかったみたいなの。今まで本物の小烏丸の写シがいた影響かもしれないけど、ここにいる江間の小烏丸という別の御刀としては生まれたてだったみたい。だからとっさに切った時に私が八幡力を僅かにこめる感覚を手の先に送ったら、切る瞬間写シが張ったってわけ」

 結芽が鞘から江間の小烏丸を抜くと、写シと唱えた瞬間白い光が全身を纏った。

「生まれて数百年も自力で写シを張ったことのない御刀が、今日はじめて御刀になったわけだな。不思議な巡り合わせだな」

 姫和がそう言った頃にはミルヤは手長足長の周りを一周し終え、計測機器がデータの収集完了を告げた。

「ご協力ありがとうございます。長腕公さま、長脚公さま」

「なーに構わん! わしらはとくゆーはちょー? なるのはわからんからなぁ! それに現世に呼ばれると色々壊すからノォ、準備してくれるのはありがたいことだ」

「だからって車一台と商店はバカにならんぞ……」

「細かいことは気にせん気にせんカッカッカッ! では、長脚公」

「おう長腕公」

 二人は立ち上がると、彼女たちを見下ろした。

「行かれる前にもう一つ! わたし、小烏丸に触れた時に烏が見えたんです! 小烏丸って本当はどんな刀だったんですか?」

「八咫烏様は変わらず健在のようだな……この世に大いなる災いのある時、小烏丸とその刀使が災厄を顕現させる定めを持っている。わしらは小烏丸次第だ。小烏丸は幾世代を重ねてなお力は衰えていない。きっと、現世と隠世に平穏をもたらすだろう」

 結芽の顔を見て、微かに笑みを浮かべた。

「だが、抜け殻の刀の写シを起こすそなたはまた、違う力を持っているようだがな」

「え? それって……」

「ではさらばよ! 刀使の巫女の諸君!」

 

 二体はあっという間に視界の奥彼方へと消えていった。

 

 

 夕方すぎ、日は落ちてパトカーのランプが周囲を包む。

「んーやっぱそっかー」

「どうしたんです結芽先輩」

 結芽は帯剣装置から江間の小烏丸の拵えを外しながら、詩織の問いに答えた。

「うん、手長足長さん。本気じゃなかったね。手加減してくれてたみたい」

「……あれでですか?」

「可奈美さん、紫様、それにタギツヒメと戦えばわかるよ! 詩織ちゃん」

 詩織は全力で戦っていただけに、結芽がまだ全力ではないのだろう? と諭しているようで落ち込んだ。

「それって私と未久ちゃんじゃ手に余るやつではないでしょうか……」

「何言ってるの? これから一年半一緒なんだから私がみっちり稽古つけて上げる! もちろん実戦もね!」

「うぅ……あれから御前試合優勝したのに……私まだまだなんですね……」

 詩織の背中を可奈美の手が叩いた。

「大丈夫! 結芽ちゃんは今の親衛隊全員倒せてるんだよ? 私だって沙耶香ちゃんに勝つの大変だもん! だからまだ強くなれる!」

「詩織には姉譲りの責任感がある。今の強さもこれからも保証するよ」

「ぇへ……いや……! 頑張ります! 見ててください!」

 元気を取り戻した詩織に三人は笑顔になった。

「すぐに調子乗るとこ、かわいいんだよねー」

 結芽の一言に顔が真っ赤になった。

「ゆ、結芽せんぱーぁいっ!」

「ははは! ごめんごめんーっ! ふふふ」

 

 未久は観測機器の回収を終えると、現場の収拾を地元警察に託して戻ってきたミルヤに笑顔を見せた。

「機器の撤収完了です!」

「ご苦労様です山城未久」

 未久の敬礼にミルヤも軽く敬礼を返した。

「ご住職さんにも江間の小烏丸の御刀登録をお願いしておきました。美濃関で預かってくれるならぜひにとおっしゃってました」

「依頼当初からぜひにとお願いされていました。よい結果になってよかったです」

 二人は戯れ合う詩織と結芽を遠くから眺めた。

「結芽先輩、本当に不思議な人ですね……強いだけじゃない人も、御刀も、荒魂も惹きつける魅力があります」

「彼女のことに関して不可思議なことではありません。確証を得たわけではありませんが、調査隊での活動が必ず燕結芽にも、私たちにも大事な気づきを与えてくれるでしょう。山城未久、あなたも大いに励まねばなりませんよ?」

「はいっ! 精一杯頑張ります!」

 ミルヤは笑顔で頷いた。

 詩織が二人に気づいて背伸びしながら大きく手を振った。

 

 

 警察庁刀剣類管理局局長直属、木寅ミルヤ率いる特殊御刀調査隊は燕結芽を副隊長に迎えて、あまりにも劇的なそして鮮烈な一年半を駆け抜けることになる。彼女たちは局長折神朱音から与えられた『契巫特務調査隊』の名を『特巫隊』と略し、広く呼ばれることとなる。

 

 

 了……

 

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