◎・ミレニアムタワー 近くのビル屋上・
「思ったよりも冷えるな」
グランはミレニアムタワー近くのあるビルの屋上でスナイパーキャノンを構えていた。右手にキャノンを構え、左手にはミレニアム中心街の地図が握られていた。
「さて……コールサイン・02『角楯カリン』か……。使用武器は13.97mm弾の対戦車ライフル。……俺がミレニアムタワーを狙撃するなら第7大型立体駐車場か第3校舎の屋上からだが、彼女はいるかな?」
グランはそう言ってスコープを覗き込んで第3校舎の屋上を確認する。するとグランの視界には白いメイド服が写りこむ。
「……狙撃でメイド服は目立ち過ぎだな。お?」
ドガアアァァーーン!
「射撃を始めたということは、マキやコトリはコールサイン・03と交戦を始めて、先生たちが02に見つかったということか。……こちらも始めるか」
そこまで言ってグランはスナイパーキャノンの構えを解いてカリンに背を向ける。そしてビルの屋上から屋上を跳んで移動する。その間に通信機を取り出して作戦の連絡を入れる。
「ウタハ、ヒビキ、やはり02は第3校舎の屋上だ、頼んだぞ」
『了解した、任せてくれ』
『グラン先輩も気を付けて』
ビルの壁を伝い地面まで下りたグランは夜のミレニアムの街を歩いていく。そんな彼の元に別の人間から通信が入る。画面を確認したグランは直ぐに通信に応える。
「よ、そっちはどうだ? 便利屋68 」
『こっちはもうすぐ突破されちゃいそー。あんまり長くは持たないからやっぱり
通信の相手は便利屋68の室長、浅黄ムツキだった。現在、便利屋68はグランからの依頼でミレニアム内での人探しとその目標のミレニアム本校舎到達の足止めを依頼されていた。しかしこうして連絡をしてきたということは状況は芳しくないようだ。実際ムツキの通信の奥からは爆発音と怒号、そして社長であるアルの悲鳴らしきものまで聞こえる。
「そうか……お前たち4人でも厳しいか」
『そうだねー♪。というかどう考えても
「実際に戦ったらどっちが勝つか気になる対戦カードだな」
『うんうん、私も気になる♪』
本当に戦闘中なのかと疑うほどムツキはいつも通りの調子だ。しかし後ろで聞こえる戦闘音はどんどん激化しており、状況は厳しさを物語っている。
「俺が行くまで持たせられるか?」
『んー? あとどれくらいかかる?』
「10分」
『5分で来て』
「了解した」
それだけ言ってグランは通信を切って、駆けだす。勢いをつけて跳び、川を、高速道路を、モノレールを超えて、便利屋たちがいる座標に向かうのだった。
◎・ミレニアム 郊外 裏路地・
「ちっ、おらおらァ! さっきまでの勢いはどしたぁ!?」
2つの銃口が連続して日を噴いて轟音が夜の街に響き渡る。
「うっ……痛い……けど、まだ倒れるわけには!」
「ダメ、ハルカ一度距離を取って! 一度仕切り直す! 社長!」
「えぇ! 狙いは外さない!」
便利屋68は相手とは常に一定の距離を取りつつ各地に仕掛けた罠を駆使して攻撃するが目標はその攻撃を物ともせずに突き進んでくる。ハルカも負けじと接近戦を仕掛けるがカヨコはそれを危険と判断して撤退を促す。
「ん? オラぁ!」
「は?」
目くらましの意味も含んで、アルが目標の頭部を狙撃するが、目標はその弾丸をあろうことか拳で叩き落とした。そのあんまりな光景にアルは一瞬呆然とする。だがその一瞬は目標には隙をつくには十分すぎた。
「よぉ、テメェがリーダーか」
「嘘でしょ!? この一瞬で!?」
目標の2つの銃口がアルを捕らえた。そして引き金が引かれようとしていたその瞬間、目標は何かを見つけて飛びのく。
ドカアアァァッン!
「な、なんなのよおぉぉーー!」
アルの近くに爆弾が投げ込まれる。目標は寸でのところで避けたが、アルは綺麗に爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。だが、そのおかげでアルたちは目標と距離を取ることに成功した。一度吹き飛んだアルの位置に集合する便利屋68。
「アルちゃん、無事ー?」
「無事じゃないわよ! 一体どこに行ってたのよムツキ!?」
爆弾を投げた人物はムツキだった。彼女は爆発で煤で汚れ、うつ伏せに倒れたアルににこやかに笑いながら近づく。それに対して倒れていたアルはガバリと顔を上げてムツキに怒鳴る。怒鳴られたムツキはそんなことはまるで気にしておらずニコニコ顔のままアルに話しかける。
「どこって……くふふ、クライアントを迎えに行ってたんだよ。これで依頼達成だよアルちゃん」
「ほえ?」
アルがキョトン顔をさらし、ムツキはそんなアルを見て更に笑みを深める。ニコニコ顔のムツキの背後の暗闇から黒ロングコートの男が現れる、グランだ。グランは便利屋の方に軽く手を上げる。
「よっ、陸八魔。元気だったか?」
「『よっ』じゃないわよ! 来るのが遅いわよ、代表!」
「悪い悪い。だが、お前たちなら無事だろうと思っていたんだ。そしてお前たちは俺の期待通りにやり遂げた。やはりお前は素晴らしい女だよ、陸八魔アル」
グランが笑いながらアルの元に歩いて行き、アルに向かって手を伸ばす。アルはその手を取りながら立ち上がり身なりを整える。立ち上がったアルはなぜか一度グランに向かってキメ顔をしたあと自分の周りにいた便利屋のメンバーたちを抱き寄せる。
「うわっ!?」
「いきなり……どうしたの社長」
「あ、アル様!!??」
アルに抱きしめられた便利屋メンバーはそれぞれ反応を見せる。そしてアルは便利屋メンバーを抱きしめたまま再びグランの方にキメ顔をする。
「『私が』素晴らしいんじゃないわ! 私一人じゃ、出来なかったもの。『私たち』が素晴らしいのよ!」
「……そうだな」
アルの一言に便利屋メンバーの顔に笑顔が浮かぶ。そんな様子をグランは眩しいものを見たかのような顔をする。そして顔をアルたちから外して目標の方に向き直る。目標は片方の銃を肩に担いで楽な体勢を取りながらこちらを見つめていた。
「さて……お待たせして申し訳ない」
「いや、構わねぇよ。そんで? アンタがそいつらの雇い主か?」
「そうだ。初めまして、美甘ネル。この後倒れる最初の人物」
グランは便利屋たちの前に立って目標こと、コールサイン・00『美甘ネル』に対峙し一礼する。一方ネルはグランの言葉を聞いて青筋を浮かべて目じりをヒクつかせる。
「ほぉーん……言ってくれるじゃねぇか。あたしが誰だかを知っていてそんなことを言えるたぁ大した奴じゃねぇか。お前なにもんだ?」
「……そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は連邦議会ブラックマーケット代表兼『ODI ET AMO』代表兼連邦捜査部シャーレ部長、水戸グラン。よろしく、美甘ネル」
グランの自己紹介を聞いたネルは方眉を上げる。
「シャーレっていやぁ、最近よく聞くようになったあの組織か……。それに『代表』……お前が『あの』代表か」
「『あの』ってのは一体なにを指しているのか気になる所だ」
「しっかし、分からねぇな。『ODI ET AMO』は
ネルが頭をガシガシと掻きながら、便利屋の方を睨む。そのネルの目線を受けて、便利屋たちは戦闘態勢をすぐにとる。
「んー、まぁ、そこの辺りは複雑な理由があるんだか……。簡単に言うと、妹の為、かな」
「妹だぁ?」
「代表、あなた妹いたの?」
グランの言葉にネルとアルが疑問を浮かべる。そんな二人の様子にグランは気恥ずかしさを覚えたのか少し頬を掻く。
「んん゛っ゛! とにかく、今お前をミレニアムに到着させるわけにはいかない。ここで倒させてもらう。それから便利屋、依頼の完遂に感謝する。これからは俺一人で大丈夫だ」
グランはそう言いながら武器を構え便利屋たちに下がるように言う。しかしアルたちは一度顔を見合わせた後、グランの隣に並んだ。
「おい」
「ここまでやって『はい、お終い』はないでしょう? こうなったら最後まで付き合うわよ」
「アル様が行くなら私も行きます!」
「まだまだ爆発させたりないしぃ~」
「……だ、そうだから」
グランは数舜悩んだ後、口を開く。
「……弾薬費は保証するが成功報酬は増えないぞ」
「構いやしないわ!」
「そうか……なら頼んだぞ!」
グランが一気に駆けだす。続いてハルカが突撃する。カヨコとムツキがその場で突撃したグランとハルカを援護するように射撃を開始する。アルは一度離れて狙撃に適したポイントを探しに行った。
「おいおい、そう簡単に狙撃手を移動させるかっての!」
ネルはそう言ってアルを狙い銃身を低くして一気に加速する。その速さは驚愕すべき速度でカヨコやムツキ、ハルカは視界からネルが一瞬で消えたように見えた。ただ唯一、グランだけがネルの姿を認識していた。
「その言葉そのまま返すぞ。狙撃手の元に簡単に行かせると思ったか?」
「っ!?」
姿勢を低く移動していたネルを狙ってグランの強烈な蹴りが繰り出される。不意打ちに近い形で繰り出された蹴りをネルは顔面でそのまま受け止めてしまい勢いよく後方に吹き飛ぶ。轟音と共に後ろにあったビルの壁をぶち破り跳んでいくネル。ハルカは直ぐにグランのもとに寄ってきて頭を下げる。
「だ、代表さんすいません。同じ前衛なのに簡単に抜かれちゃって、すいません、すいません、すいません」
「いや、正直俺もかなりギリギリだった。それよりも……まだ来るぞ」
グランは謝り続けるハルカを止めて、顎で土煙の方を見るように指示する。ガラガラッと瓦礫が崩れ中から口の辺りを手で拭いながらネルが瓦礫を跨ぎながら出てくる。
「っち、口の奥切ったな……。おい、代表!」
「なんだ」
「なかなかいい蹴りしてんじゃねぇか。ただの役人野郎かと思ってたが違ぇみたいだな」
「……頭が回るだけじゃブラックマーケットではのし上がれないからな」
「そりゃそうか。……もう油断しねぇぞ」
そう言って今度はグランに向かって突撃してくるネル。
「早っ!?」
「遅ぇ!!」
その突撃の速度は先ほどよりもはるかに速い速度でグランもギリギリで反応して銃口を向けるが、それよりも早くネルはグランに飛び掛かる。
「まずは、しっかり返しとくぜ!」
「っ゛ぐ!?」
ネルはグランの頭の高さまで跳びあがり先ほどの仕返しとして、グランの顔面に蹴りを叩き込む。それを受けてグランは思いっきりのけぞる。グランを蹴ったことで動きが止まったネルに対してハルカが銃を向け、発砲する。しかし、ネルは空中で器用に体勢を切り替えハルカの銃撃を避けつつ片手のSMGをハルカに向けて逆に攻撃する。
「きゃっ!? っく、まだです!」
ハルカは攻撃を受けながらもショットガンを発砲する。
「おっ? ガッツはある見てぇだな!」
「それは……俺もだ!」
「なっ!?」
ハルカに追撃しようとしていたネルの足をグランが掴んで地面に叩きつける。地面に叩きつけられたネルは肺から空気が抜けて数テンポ行動が遅れるがすぐに両手のSMGをグランに向ける。そして引き金を引いたのはネルを攻撃しようしていたグランのショットガンと同時だった。ネルはグランの四連装ショットガンの衝撃でさらに地面に押し付けられ、グランはネルのSMGで連続した攻撃を受けて後ろに倒れこむ。
「っち!」
地面に強く押し付けられたネルは視界の端で何かが光るのを見て素早く自分の銃の片方を盾代わりにする。瞬間、銃に重い衝撃が走る。その衝撃で銃が吹き飛んでいく。
「あのスナイパー、良い腕してるじゃねぇか」
ネルは吹き飛んだ銃を手繰り寄せようと、銃に着いた鎖を引っ張るがガシャンと音がなり反対に引っ張られる。
「あん?」
「い、行かせません!」
ネルが不思議に思い、鎖の先を見る。するとそこにはネルの元に銃を行かせないように鎖を引っ張っているハルカがいた。
「ハルカちゃん、ナイス! そのままお願いねー!」
ハルカがネルの動きを封じているのを確認したムツキはネルに向かって爆弾の沢山詰まった鞄を投げつける。そして大爆発が起きて、爆音が夜のミレニアムに響きわたる。
「……やったの?」
「カヨコっち、そーいうのは言わない方が……」
「え、うわわぁぁぁああ!」
「ちょっ、ハルカちゃん!? キャァッ!」
今まで鎖を持っていたハルカが急に引っ張られ振り回される。そして振り回されたハルカはムツキの方に向かって投げられる。そしてハルカとムツキはぶつかってゴロゴロと転がっていく。ハルカが手を離した銃は煙の中に吸い込まれていく。
「ったく、痛ってぇーな。アカネみてぇな奴もいるのか……メンドイな。ったくよぉ」
そして煙の中から、頬や体のあちこちに煤や多少の傷が付いたネルが出てくる。
「あれだけやってこの程度か……恐ろしな」
「あ? なんだよ、今更怖気着いたのかよ?」
「んな訳あるか。今どうやってお前を倒すか考えていたところだ」
ネルの状態を確認したグランがネルの余りの耐久力に毒づく。対照的にネルはニヤニヤと笑いグラン達が次になにをしてくるのか楽しみにしているようにも見える。
(美甘ネル……想定以上の膂力と耐久力だ。俺の蹴りもムツキの爆弾も大して有効打になってない。……あの鎖をどうにか掴んで、首に巻き付ける、それを俺とハルカが反対から同時に引いて窒息に持ち込む。他の便利屋には美甘ネルの手足を攻撃して動きを封じて意識消失まで持って良ければ……。クソっ、成功のビジョンがまるで想像できねぇぞ……。だが、これしか!)
グランは武器を構えなおして左右にフェイントを混ぜながらステップして接近する。
「ハルカ、合せろ! ムツキ、顔目掛けて乱射しろ、視界を潰すんだ! カヨコ、耳も使えなくしてやれ! アル、足を止めろ!」
「は、はい!」
グランの声にハルカは直ぐに反応して、立ち上がりグランとは逆方向からネルに迫る。ムツキもうつ伏せになり正確にネルの顔に向けて連射を始める。
「うざってぇな、っあ!?」
「っぐ!」
「カヨコっち!?「いいから続けて撃って!」
左右から挟み込むような形でのグランとハルカのショットガンの連射、おまけに顔付近への大量の攻撃にいら立ったネルは両手の武器を振り上げてムツキに向かって射撃するが、ムツキの前にカヨコが立ってムツキの盾となる。カヨコの行動に驚いたムツキだったが、カヨコの言葉を受けてそのまま射撃を続行する。カヨコもムツキの盾となりながらも必死に自身の仕事を遂行するべく拳銃のサプレッサーを外してネルに向かって射撃する。カヨコの拳銃の轟音と同時にアルの狙撃がネルの引き金を引いている指を撃ち抜く。
「ウチの社員を好き勝手傷つけられて我慢できる訳ないでしょ!」
アルの狙撃によって指に痺れをきたしたネルは攻撃を中断して、その場から離脱しようとする。しかしその瞬間――
「させません!」
「させないわ!」
ハルカが爆弾を投げて足止めして、アルの狙撃は正確にネルの膝裏を射抜く。ネルに傷をつけることは無かったがネルにとっては強烈な膝カックンを受けたようなもので大きく体勢を崩すことになる。その隙にグランは地面を思いっきり蹴って加速してジャンプする。
「とったぁ! ハルカ、コレを!」
「はい!」
加速したグランはしっかりとネルの銃に着けられた鎖を掴んだ。そして着地までの間でしっかりわっかを作り自身が引っ張るのとは逆側をハルカに投げ渡す。
「引っ張れ!」
「はい!」
「んだとっ!」
「……そういうこと」
「わーお、えっぐい事するねぇ、お兄ちゃん」
「良いから代表とグランの援護よ!」
グランの意図を察した便利屋はそれぞれの反応を見せた後すぐに自分にできることをし始めた。
「美甘ネルはぁっ! 窒息せる!」
「はいぃぃっ!」
「んん゛゛ん゛! くぞっ゛!」
グランとハルカが引っ張ったことで鎖は勢いよく締り、狙撃されたことで手を弾かれ首と鎖の間に入れられなかったネルはもろに首を絞められることとなった。
「……っ゛、ぐっ! ……カハッ!」
次第に酸欠となり動きが大人しくなっていく。
「よしっ! これならっ」
膝をついたネルを見てグランは勝利を確信した。
「っっっしゃおらぁぁぁああああああああ!!」
「何がっ!?」
その瞬間、辺りに暴風が吹き荒れた。その風に煽られグランは吹き飛び気を失った。
◎・ミレニアム 郊外 土手・
「い゛っづぅっ……って! 美甘ネルは!?」
グランが気が付いた時、彼は気を失う前にいた裏路地ではなく、ミレニアムを流れる川の土手の上にある草原に寝転がっていた。夜は既に明けようとしていて、綺麗な朝焼けがミレニアムの街を照らしていた。勢いよく起きるグランの背後から声がかかる。
「あたしはこっちだよ、代表」
「!?」
グランが声のした方に振り向くと、そこにはベンチに座りながら何かの缶飲料を飲んでいる美甘ネルがいた。
「飲むか?」
「え……あ、う、うん」
「ほら隣、座れよ」
ネルは自分の持っている缶の一つをグランに投げ渡した後、自分の隣のスペースをトントンと叩いてグランを座らせる。
「あ、そーいや、あの便利屋どもはアンタより先に起きて帰っていったよ」
「そうか」
「それよりも
「ん? うわぁ」
ネルはそう言いながら缶を持ちながら手でグランのポッケを指さす。グランはポッケの中から自身のスマホを取りだしてその通知の量に若干引く。
| 先生:グラン、こっちは鏡を確保したよ! |
| 先生:グラン? |
| 先生:返事して |
| 先生:こっちはヴェリタスの部室に戻ってる。お願い、グランも無事でいて |
| アリス:お兄様! アリスはミッションをクリアしました! |
| アリス:お兄様、返事をしてください |
| アリス:アリスが今助けに行きます! お兄様、位置情報を出してください |
| 小鈎ハレ:ごめんね、勝手に登録させてもらった。そっちがネル先輩と戦闘中なのはカメラをハッキングして確認したよ。ゲーム開発部のみんなはこっちで危険性を教えて留めてる |
「……戦闘中に連絡が来ていたとは。まったく気が付かなかった」
「そりゃー、あんだけ派手にやってたんだ。あたしだってウチの奴等からの連絡に気が付かなかったよ」
ネルは笑いながら自身の端末を取り出してプラプラとグランにみせつける。そのあと、端末をしまってグランの背中をバンバンと叩く。
「いやーっ、にしても惜しかったなァ! あたしも鎖を使って相手の首を絞めたことはあったが、まさかあたしがやられる側になるたぁな!」
「あの瞬間一体何をしたんだ?」
「あん? 力込めてアタシのほうからも鎖を引っ張って振り回しただけだぜ?」
「んな……ミカみたいな……。無力だなぁ、やっぱり」
ネルの回答にグランの全身から力が抜けていく感覚がする。手元の缶を両手で握りしめ視線を落とす。そんなグランを見てネルは一瞬なにかを考えこむがすぐにニカッと笑ってグランの肩に手を回す。
「そーいやー、お前、私になんて言ったか覚えてるか?」
「ん?」
「『初めまして、美甘ネル。この後倒れる最初の人物』……んで? 一番最初にノビて、一番復帰が遅かったのは一体誰だったかな……言ってみろよ」
ネルはグランの肩に回したのとは反対の手の指でグランの脇を突く。グランは脇を突かれながらニタニタ笑っているネルの顔を見て溜息をする。
「俺だよ」
「あぁ? 聞こえねぇな」
「俺だよ! 水戸グランだよ!」
「そうだよなぁ!」
グランの言葉に大声で同意したネルはひとしきり笑った後、ベンチから立ち上がる。
「うしっ! それじゃぁ飯奢れよ!」
「なに?」
「ひとしきり暴れて腹減ったんだ。この辺りに朝からやってる上手い飯屋が出来たらしいんだよ。そこ、奢れよ。それでチャラだ」
ネルはいつまでもベンチに座っているグランの足をゲシゲシと無遠慮に蹴りはじめる。その飯をたかる悪ガキのような様子があんなに大暴れしていた人間とは同一人物に思えず呆れるグラン。なにも言えなくなり今度は天を仰ぐグラン。
「あー、まぁ、足止めはできたしもうなんでも良いか。それ俺も……腹が……減った。店を探そう」
「おう!」
立ち上がり土手の上を並んで歩くグランとネル。そこに戦っていた時の殺伐とした雰囲気はなく、互いにどこかすっきりした気持ちだった。
「……」
「んだよ?」
歩いている最中、ふとグランは隣のネルを見る。
「いや……その体躯のどこにあんな力が……」
「フンッ!」
「い゛っ゛だ!」
ネルの鋭い回し蹴りがグランの尻を叩いた。