◎・ミレニアム エントランス・
「……」
「……」
「なるほどな……」
グランとネルが朝食を共にして暫く経った頃。ネルはグランと別れC&Cの他の部員と合流し昨夜何があったのか報告を受けていた。
「ゲーム開発部、か。知らねぇ部活だったが……そいつらにしてやられた、ってことか。……なるほどグランのやろーもそこの……」
「……申し訳ありません。この依頼を受諾して、作戦を準備したのは私です。メイド部の名に、傷をつけてしまいました……」
アカネはネルに対して深々と頭を下げる。その様子を後ろのカリンとアスナも緊張した顔で見ている。
「んなこたぁどうでもいい」
しかしネルは本当に心底どうでも良さそうにそう答えた。
「……え?」
そのあんまりな物言いにアカネも愕然とする。
「それにさっき飯食ってるときにリオから連絡が来た」
「セミナーの……ミレニアムの生徒会長から?」
「あぁ。依頼は撤回。無かったことに、だとよ」
「!?」
ネルはグランとの食事中に掛かってきた電話の内容を部員たちに伝える。その内容にカリンは目を丸くする。
「それは、いったいなぜ……?」
「あたしの知ったことかよ……けど多分、リオもヒマリも確かめてみたかったんじゃねぇのか?」
「確かめる……私たちの力を、ですか?」
ネルの言葉にアカネが首を傾げながら問う。ネルは目を細めて戦闘の際に見せる『強者』としての顔を見せながらアカネの意見を否定する。
「逆だ。そのアリスとかいう奴の方だろ。……ま、その辺の事情は知ったこっちゃねぇ。依頼とは関係なくなったが……アカネ、調べておいてくれ」
「はい? 何をですか?」
「ゲーム開発部だ、関係者もまとめてな。……あとブラックマーケット代表のこともだ」
ネルはそうとだけ言って部室に向けて歩き出す。慌ててアカネたちもネルの後ろをついて行きながら話を続ける。
「いきなり何故……リベンジ、ですか? それに『代表』ですか?」
「その表現はなんか癪だな……あたしの方は勝ってたわけだし。……まぁ、ちょっと興味があってな。一通り情報が洗えたら、そいつらん所に行くぞ」
ネルがニヤリとしながらそういうと、アカネもネルの後ろで眼鏡を光らせながら笑う。
「はい、望むところです。今頃あの子たちはメイド部に一泡吹かせたと喜んでいるはず。ふふふっ、次にお会いする時はどんな表情を見せてくれるのか……楽しみです」
そう言って部室へと歩いていたC&C達だが、ふとアスナはネルの顔を覗き込みながら話しかける。
「そういえば、リーダー」
「んだよ、アスナ」
「代表のことそんなに気に入ったの~?」
「はっ? ばっ、バッカ! そんなんじゃねぇよ!」
アスナの予想外の言葉に顔を赤くして立ち止まり拳を振り上げながら否定するネル。アスナは振り上げられた拳を見て軽く『キャー』など怖がるふりをしてから更に言葉を続ける。
「でも代表の話をしているときのリーダーとっても笑顔だったよ!」
「あら! 『ウチの学校のナヨナヨした野郎に興味なんかねぇ』と言っていた部長にも遂に春がやって来たみたいですね! 私も代表についてはあまり詳しくは無いので噂程度ですが、エンジニア部の部長とは特に親しくしているようです」
「それはリーダーにとっては良くない情報だな。リーダーの体躯じゃウタハとは属性が違いすぎる」
アスナの言葉に続いてアカネやカリンもネルとグランの仲を揶揄するようなことを喋り出す。その内ネルは我慢ならなくなったのか顔を先ほどとは別の理由で赤くして大声を出す。
「うっせぇ! いつまでもそういう事言ってっとマジでぶっ飛ばすぞ!?」
そうして部員たちを黙らせて再び歩き出したネル。ふと先ほどまで一緒に食事をしていた男の事を考える。
(水戸グラン。ブラックマーケットの代表……本当に、惜しい男だったぜ)
◎・ゲーム開発部 部室・
「何だ、この状況は?」
グランはネルと朝食を共にした後ゲーム開発部の部室に訪れていた。『鏡』を手に入れたので、G.Bibleを使って『テイルズ・サガ・クロニクル2』の製作に勤しんでいるものと思っていたグラン。しかし実際にグランが部室に入って見たのは、呆然とした表情モモイにミドリ、ユズ。そしてあちゃーと言った表情をしている先生とオロオロしているアリスだった。
「あ、お兄様! 無事でよかったです」
「ありがとうな、アリス。繰り返すようだが、これは何だ?」
グランは近寄って来たアリスの頭を撫でながら正気を失っているゲーム開発部の方を再び見る。すると先生が横からグランに話しかける。
「実はいつかのグランの予言がね……。当たってたの」
「……はい? それってアレか? 『ゲームを愛することです』の一言だけだってことか?」
「そう」
絶句。先生から告げられた事実にグランは自分が言い出したこととはいえ信じられず唖然とする。
「とどのつまりG.Bibleは……ただのゴミ?」
グランの一言が聞こえたのだろう、ゲーム開発部の面々が一段と肩を落とす。その様子をみてアリスはユズたちの元に向かっていく。
「こんなに落ち込んだのは……『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプをアップロードした時以来……」
「あ、あの、モモイ……?」
「ふふっ、ふへへへ、全部終わった! おしまいだぁ!!」
「み、ミドリ? その、大丈夫ですか?」
「アリスちゃん、ごめん……今は何も話したくない気分なの……」
「えっと、ユズ?」
「怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱……世界は今、破滅に向かって……」
アリスが順番に声をかけていくが返ってくるのはどれもネガティブな言葉ばかり。
「大分参ってるな」
「まぁね」
グランがその様子を見て言葉をこぼせば、隣の先生が相槌を打ってくれた。
「あ、あのこの状況はもしかしてG.Bibleのせいですか?」
「「「……」」」
「まぁそうだな」
アリスの言葉にスッ、とゲーム開発部の面々は顔を逸らして、グランは肯定の言葉を返す。
「えっと、G.Bibleは、嘘は言ってないと思いますが……」
「そ う い う 問 題 じ ゃ な い っ !!」
「!?」
恐る恐るアリスが言ったことにモモイが切れた。
「いっそのこと嘘って言ってくれた方がまだマシ! う……うぅ……うああああん、終わった! 私たちはもう廃部なんだ! ふえぇぇぇん!」
気丈に振舞っていたモモイだが、途中から何かをこらえるような顔しだして遂に泣き出してしまう。さして暫く先生、グラン、アリスの三人は他の面々を泣き止ませることに尽力することになった。
そしてどうにかモモイ達を泣き止ませて暫くした頃。
「あの、モモイ、デイリークエストしないのですか? いつも、『デイリークエストより大事な物なんてない』と言っていたのに……」
「アリス……私のHPはもうゼロだよ……」
モモイの肩を揺するアリス。しかしモモイは死んだ目で虚空を見つめるのみだった。
「えっと……ミドリ……?」
「ごめんね、アリスちゃん……知ってたけど、現実って元々こういうものなの……そう、つまりこれがトゥルーエンド。ハッピーエンドとはまた別の到達点……」
今度はミドリの方に寄っていくが、ミドリはモモイよりもうつろな目をしてなぜか先生に抱き着いていた。
「……ゆ、ユズは……ユズはどこに?」
「多分、またロッカーの中に引きこもってるんだと思う。よく見て、ロッカーがたまにプルプルしてるでしょ?」
次にユズを探すアリスだったがユズの姿がどこにも見えず狼狽えているとモモイが部室の隅にあるロッカーを指さして教える。そのロッカーを見てから部室全体を何だか遠い目で見るアリス。
「今のみんなの姿は……。まるで正気がログアウトしたみたいです」
「うぅ……仕方ないじゃん、最後の手段だったのに! それが、あんな誰でも知っている文章が一つ入っているだけだなんて! 釣りにもほどがある! 知ってた! 世界にはそんな、それ一つで全部が変わって上手く行くような、便利な方法なんかないって! でも期待ぐらいしたっていいじゃん! うああぁぁんっ!」
「……っ!!」
モモイの子度はに何か思うところがあったのかグランの顔が険しくなる。
(……"それ一つで全部が変わって上手く行くような、便利な方法なんかない"か……。そうだよな、モモイでも分かることを当時の俺たちは分からなかった。その結果が今のザマ……。この子たちは俺みたいに人生自体が滅茶苦茶になる前にこの経験が出来て良かった、と思うべきなのか?)
グランはそこまで考えて、自分が暗に"部活動ぐらいなら無くなっても良いだろう"と考えていることに気が付いて自己嫌悪に陥る。首を振りながら俯き目頭を揉む、そうしないと自分のひどい表情に気が付かれてしまうと思ったからだ。
「……」
じっと先生に見られているとは気が付かずに。
「ごめんね、アリスちゃん……私たちは……G.Bible無しじゃ、良いゲームは作れない……」
「……いいえ。否定します」
ミドリは先生に抱き着きながらアリスの方を見てそう言う。しかしアリスはそれを否定してミドリの顔を真正面から見つめる。
「アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームは、面白いです」
「え?」
「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……。このゲームを、どれだけ愛しているのかを。そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅すると……胸が、高鳴ります。仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……夢を見るというのが、どういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました」
アリスは胸に両手を当て目を瞑ってまるで祈るかのようにしながらゲームに対する思い出を語る。
「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです……」
その姿はいっそ神聖さを感じさせるほどに美しく、アリスの笑顔が輝いて見えた。
「この夢が、覚めなければいいのに……と。アリスはそう思うのです!」
アリスはそう言って目を開いて立ち上がりゲーム開発部全員に見えるようにに笑う。
「アリス……」
「作ろう……」
「うわぁ! ユズちゃんいつからそにに!? というか……なんて?」
ユズがいつの間にかロッカーから出てきていて先生の隣に座っていた。
「私の夢は……私が作ったゲームを、皆に面白いって言ってもらうこと。でも、私が初めて作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは……4桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって……。それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもってた時……2人が、訪ねてきてくれた」
ユズは昔を懐かしみながらミドリとモモイの手を取る。
「一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を完成させて……今年のクソゲーランキング1位になっちゃったけど……」
「うっ……」
「……」
「その後、アリスちゃんが訪ねてきてくれて……。面白いって、言ってくれた。それで、私の夢は叶ったの。心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう……ずっと一人で思い描いているだけだった、その夢が」
ユズが感慨深そうに語るとミドリとモモイの方からもユズの手を握る。
「これ以上は、欲張りかもだけど。叶うなら、わたしはこの夢が……この先も、終わらないでほしい」
「ユズちゃん……」
「……うん、よし! ねぇ、今からミレニアムプライスまで、時間どれくらい残っている?」
モモイが両ひざを叩いて立ち上がる。
「……まさか、作るのか?」
「もっちろん!」
グランが少し驚いた表情をして聞くと、モモイはグランの方を見て自身気な表情を見せつける。それを見たグランは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。
「お姉ちゃん……!」
「6日と4時間38分です」
「……それだけあれば十分。さぁ、ゲーム開発部一同! 『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発、始めよう!」
「「「うん!」」」
そうしてゲーム開発部はモモイの掛け声を合図に作業に取り掛かる。
「あぁ……、お前たちは本当に眩しいな」
「あ、そうだ! 折角だしグランと先生も参加してよ」
「俺達がか?」
モモイの言葉に首を傾げるグランと先生。
「そう! 声優としてだけどね! はい、これ先生の台詞。こっちがグランね」
モモイにセリフの書かれた原稿用紙を渡される。そして先生がマイクの前に立ちテストのつもりなのか一部の台詞を読み上げる。
『お前ら、笑うなっ!!』
「おー、先生の鬼気迫る声、良い感じじゃーん」
先生の演技にゲーム開発部の面々は大盛り上がり。そして目線はグランに集中する。グランはそんな視線を受けて溜息を一つついてマイクの前に立つ。
『抵抗すること無く、その命を差し出せ。そうすれば痛みは無い。だが、拒絶するなら、愚劣さの対価として、絶望と苦痛の中で死に絶えることになるだろう』
「おぉ……流石"代表" 圧が違うね……。実際に言ったことあったりしない?」
モモイが恐る恐る聞くとグランは反笑いになり方を竦めた後一言。
「似た感じのニュアンスの言葉なら何度か」
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