◎・ゲーム開発部 部室・
C&Cの襲撃を振り切って再び部室に戻って来た俺たち。散らかった部室を片付けた後、部室には再び平穏が訪れていた。
「ねぇねぇ、アリス見て見て~。じゃ~ん、メイド服~!」
「ひぃっ!」
モモイがどこから入手してきたのか、メイド服を取り出してアリスに見せつける。するとアリスは怯えた表情を見せて、すぐに俺に抱き着いてきた。抱き着いてきたアリスを抱きしめ返しながら頭を撫でてやる。
「あはは! 良い反応!」
「何してるの、もう! アリスちゃんが完全に怯え切ってるじゃん! アリスちゃん、大丈夫?」
「あ、アリス、しばらくメイド服は見たくありません!」
「身体の方は全部直ったみたいなんだけど、心の方はもうちょっとかかりそうだね」
俺の腹に顔を埋めながらそう嘆くアリスにミドリが優しく声をかける。
「モモイ、アリスをあんまり弄らないでやってくれ。心の傷は……厄介なもの……だからな」
モモイを諫めるように語り掛ける。傷の深さに大小は関係ない、傷は傷だからな。妹にはいつも健やかにいてほしいものだからな。そう話しているとユズがおずおずと手を上げて喋り出す。
「あの、建物を壊しちゃった件について、生徒会のところに行ってきたんだけど……。幸いなことに、部活中の『事故』として処理してもらえたよ」
「嘘っ、ユズそれどうやったの!? もし部が存続したとしても、弁償代として部費は諦めなくちゃって思ってたのに……!」
確かにおかしな話だ。今まで、ゲーム開発部に敵対的だったのに……、というか実際部室の襲撃にも来ていただろうに。なんでいきなりこんな対処を……? ユウカやノアあたりではこんな判断はしないだろうし……ビッグシスター、か?
「私じゃなくて、C&Cの方が処理してくれたみたい。それと……ネル先輩から伝言。私たちに『また会おう』グランさんに『次も飯奢れ』……って」
「ひぃっ!?」
「……あ、モモトークの方にも通知が」
ネルからのモモトークを確認するとちょっと高めの個室焼き肉店のURLが共有で送られてきた。……ここを奢れって言ってるのか? ……接待、これは接待代なんだ。
「ああっ、アリスちゃん! ロッカーの中に入っちゃダメ! ユズちゃんを見て変なことを覚えちゃったよ! ふう……まぁそれならそれでよかった。ところで……」
「……うん。ミレニアムプライス、始まったね」
ユズの一言に騒がしかった部室の空気がビシリと固まる。
「もし受賞したらクラッカー鳴らそっか。でも、もしそうじゃなかったら……」
「直ぐに荷造りしないとね」
「……確かにそうなんだが、真剣な表情しながらクラッカーを構えるのは止めてくれないか。どうしても笑いが先に来る」
深刻な表情しながらクラッカーを両手に持つという奇行に走る才羽姉妹。その姿を見て思わず吹き出しそうになり口元を抑える。
「……そうだね。ゴメン」
やはり自分でも思うところがあったのか、クラッカーを置いて顔を赤くするミドリ。
「私たちはさておき、ユズちゃんとアリスちゃんは……」
「……」
「……」
ミドリの言葉に2人の表情が曇る。そんな中、テレビから軽快な音楽と、ついこないだ聞いた声が流れ出した。
『これより、ミレニアムプライスを始めます! 司会および進行を担当するのは私、コトリです! 今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。恐らくは生徒会の方針変更により、部活維持のために「成果」が必要になった影響かと思われます!』
テレビから流れてきたのはミレニアムプライスの審査会場となっている建物とその前に立って、画面に向かって解説をしているコトリの姿だった。
「……コトリちゃんたちの方も、無事だったみたいだね」
「エンジニア部は元々、ミレニアムの中でもかなり功績が認められている部活なこともあったし……でも、本当に良かった」
ミドリとモモイが安心したように頷いているのが視界の端で見える。
「うん。ところで、史上最多の応募って……」
「それはちょっと困るなぁ……」
「みんな、自分の所の部活を残そうと必死なんだよ」
ミドリとモモイが不安そうな表情をすると先生が後ろから二人の頭を撫でながらそう言い聞かせる。そう、今回のミレニアムプライスはただの発表会じゃない。いくつもの部活の命運……まぁ、退部に追い込まれてるのはここぐらいなのかもしれないが、それでもこれからの部活の運命を握る大会なのだ。
『昨年の優勝作品である生塩ノアさんの「思い出の詩集」は、本来の意図とは少し違ったようですが……その形而上的な言葉の羅列が、ミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました』
……あ、ノアのこと言ってる。……へぇ、『不眠症対策』ねぇ……結構良い詩集だと思ったんだがミレニアムだとこんな評価なのか。ふとノアに渡された詩集をよんだときのことを思い出しながらテレビの音声に耳を傾ける。
『今回も、「歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ」、「ミサイルが内蔵された護身用の傘」……「ネクタイ型モバイルバッテリー」、「光学迷彩下着セット」、「ちょうど缶一個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫」……そして! 今キヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、「テイルズ・サガ・クロニクル2」などなど! 今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのは、たったの7作品!』
「ゴクッ……」
ユズが生唾を飲み込む。そちらに目を向ければ、ユズはテレビの画面にくぎ付けになっており手はギュッと服を握りしめている。
『それでは7位から、受賞作品を発表します! 7位はエンジニア部、白石ウタハさんの「光学迷彩下着セット」です! これは身に着けてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からないというエキセントリックな作品ですが、露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるようになるという点で、高い評価を……その評価をした審査員が一体誰なのか気になってしまいますね! とにかく7位!』
「今度絶対にウタハ自身に穿かせてやろ……」
なんなんだその発明品は、というか本当に評価した奴は一体何なんだ。そいつも露出症なのか? まぁ、なによりも次ウタハとヤるときはウタハ自身に身に着けさせて夜間青姦かな……。
「ふぅー……。まっ、私たちのゲームは7位にはふさわしくないよね」
「随分汗をかいてるくせによく言う」
自身満々のように見えてじゃ感震えているモモイに突っ込みを入れるとキッ、とこちらを睨んできたので口を紡ぐことにする。
『そして6位! この製品は……』
「……」
『5位は……』
「私たちの名前……呼ばれないね」
次々に受賞作品が発表されるなか、自分たちの作品が呼ばれないことに不安を感じてきたのかミドリが思わず声を出す。ミドリのとなりにいた先生がミドリを安心させるように笑顔でミドリの頭を撫でる。……距離が近くない? まえから思ってたけど先生とミドリ、距離近くない?
『次です、4位……!』
「ううぅっ! そろそろお願い!」
『さぁ、ここからはベスト3です! 3位は……』
「も、もう心臓が持たない!」
「お願い……お願い……」
中々、呼ばれないなぁ……。……正直なことを言うとあのゲームで賞をミレニアムプライスのベスト3は厳しいだろう。内心俺はもう諦めている。しかし、この場合アリスはシャーレに寝泊まりするほうが安全だろう。兄として心苦しいがブラックマーケットから通学させるのは危険すぎる。
『僅差で2位を受賞したのは……!』
「……お願いします、私たちの名前を……!」
「くっ、2位でもない……! っていうことは……!」
部室内の空気が張り詰める。
『最後に! 今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!』
遂に最後の発表か……。この部室で過ごした期間は長いようで短い。それでもまさかこんなに感傷的になるとは自分でも意外だ。
「ドキドキ……」
『その1位は……!』
「うぅ……っ!」
『CMの後で!』
おい。 思うところがあったのは俺だけではないようで。アリスが武器を構えだす。
「アリスっっ!!」
「充電完了、いつでも撃てます!」
「気持ちはわかる! 気持ちはわかるけど、授賞式会場もこの画面も撃っちゃダメ……!」
ミドリが急いでモモイとアリスを止める。
「うぅ、もう焦らさないでほしい……」
二人を止めたミドリ自身も焦れているようで、唇をかみながらそうこぼす。そしてCMが開ける。
『さぁ! それでは発表します! 待望の一位は……新素材開発部――』
あっ。
――ダンダンダンッ!――
突如聞こえた銃声にアリスを押し倒して守るように覆いかぶさる。銃声が止んだ後、辺りを確認するとモモイがテレビに向かって射撃をしていた。
「きゃぁっ! 本当にディスプレイを撃ってどうするの!?」
「どうせ全部持って行かれちゃうんだし、もう関係ないない! うえぇぇん! 今度こそ終わりだぁぁぁぁ!!」
遂に泣き出したモモイ。それに釣られるように部室の空気が死んでいく。
「うぅ……。結局、こうなっちゃうなんて……」
「落ち着いて、お姉ちゃん。でも……」
「……分かってるよ! 全部が否定されたわけじゃない、へこたれる必要なんて無いって……。ネット上の評価も悪くなかったし、クソゲーランキング1位のあの時から、ちゃんと成長した。これからも、きっと成長していける。次こそはもっと良い結果を出して、今より立派な大きい部室だってもらえるはず! ……でも……」
モモイの声は徐々に小さくなり、視線も下がっていった。
「うん……だって、ここを追い出されたら、ユズちゃんとアリスちゃんは……」
ミドリの声は震えていてチラチラとユズとアリスのほうに視線を向けている。
「……心配しないで、ミドリ。わたし、寮に戻る」
「えっ?」
「もうわたしのことを、クソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思う。ううん、もし仮にいたとしても、大丈夫。今のわたしには……この三人と、先生がいるから。ありがとうございました、先生」
そういってユズは先生のほうに頭を下げる。そして頭を上げたユズは決意に満ちた表情だった。
「先生がこの部室に来てくれた時から……わたしたちは、大きく変わることが出来ました。ただ、アリスちゃんは……」
そう言ってユズはアリスの方に視線を向ける。アリスは状況を飲み込み切れていないのかキョロキョロしていた。そんなアリスの近くによって先生は真剣な表情で頷く。
「……うん、私に任せて」
「……アリスちゃん」
「……」
「ごめんね」
ミドリは小さくアリスの服の袖を掴んで謝る。
「いえ。先生のこときは、信じられますから。ですが……もう……もうみんなとは……一緒に、いられないんですね」
そう言ったアリスの目には涙が浮かんでいた。それを見たゲーム開発部の面々は次々にアリスに抱き着いた。
「うっ、ごめんね……ごめんね、アリスちゃん! 私、毎日シャーレに行くから! 本当に、絶対に毎日行く! どこに行っても! 一緒にゲームを作ろう!」
「うううう……! やっ、やっぱり嫌! 先生! やっぱりアリスを連れて行っちゃだめ! わ、私の部屋に連れていく! ベッドも一緒に使おう! ごはんも二人で分けて食べるから!」
「わっ私の分もあげるっ!」
モモイとミドリがアリスの両腕に抱き着いてワンワンと泣く。
「二人とも、先生を困らせないであげて……それに、もしそのことがバレたら、モモイもミドリも……」
ユズ自身も涙を目に浮かべながらモモイとミドリの二人を諫める。……しっかり部長出来てるじゃないか。……ただ、この部活がなくなってしまう今にその才が発揮されたのが惜しいな。ん? なにか足音が……。
「モモイ! ミドリ! ユズ! アリスちゃん!」
部室に飛び込んできたのはユウカだった。随分早い到着だな。
「ひいっ! もうユウカが!」
「ちょ、ちょっと待って! そんなすぐになんて……!」
「悪魔め! 生徒会に人の心は無いわけ!?」
「おめでとうっ!」
ユウカは満面の笑みでアリスたちを抱きしめて祝いの声をかける。ん? 『おめでとう』? 抱きしめられたアリス達も何があったのか分からないようで頭に?を浮かべている。
「……?」
「……え?」
「え、えっ……?」
「?」
「え、何この反応?」
お? ユウカもアリス達の反応を見て、混乱してきたらしい。
「結果、見てなかったの?」
「……結果?」
「私たち、7位以内に入れなくて……」
「はぁ? 何を言ってるの、今も放送中なんだからちゃんと見てなさいよ」
ユウカが呆れた表情でアリス達に話す。……けどなぁ……。
「ユウカ、アレを見ろ」
「グランさん? ……何あれ」
俺が声をかけながら壊れたテレビを指さすとユウカは表情を硬くした。
「お姉ちゃんがディスプレイを吹っ飛ばしちゃって……」
「ほんとに何をしてるのよ……ほら、見てみて。私もスマホで見てて、途中から走ってきたの」
そう言ってユウカはスマホ画面を表示する。小さい画面を全員で覗き込むためか、ギュッとユウカにくっつくアリス達。……若干ユウカの鼻の下が伸びている気がするのは黙っておいてやろう。
画面に映し出されていたのはミレニアムプライスの審査員だった。
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し、「実用性」を軸に据えて授賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。しかし今回の作品の中には、新しい角度から「実用性」を感じさせてくれたものがありました。とある「ゲーム」が実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです。よって私たちはこの度、異例の選択をすることにしました。今回は「特別賞」を設けます。その受賞作品は……ゲーム開発部の「テイルズ・サガ・クロニクル2」です』
「えぇ、嘘っ!?」
「何が起きてるの……?」
「マジかよ……」
本当に現実かコレ? 思わず自分の頬をつねる。……うん、いってぇ。
『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観、と、最初は困惑の連続でしたが……。新しい世界を旅して、ひとつひとつ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く……。そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかり込められた作品だと思います。プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になった頃の思い出を、鮮明に思い出しました。そういった点を評価して、この作品に……今回、ミレニアムプライス「特別賞」を授与します』
「え……あ……」
「本当におめでとう! その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しに面白かったとは言えないけれど……良いゲームを遊んだ後の、あの独特な感覚が味わえた」
ユウカは笑顔でそういう。……本心からの言葉だな。ん? まだ誰かの足音が。扉の方に視線を向ける。
「モモ、ミド! あたしも『TSC2』やってみたよ、すっごい面白かった! 今ネット上でも大騒ぎだよ! ヴェリタスの調べだと、有名アイドルの名前より『TSC2』の検索数の方が多くなってるってさ!」
「ほ、ほんとに……?」
部屋に飛び込んできたのはマキだった。……部室が騒がしくなってきたな。脇の方に避けておくか。部室の隅に移動すると先生がそこには既にいた。
「先生、行かなくても良いのか?」
「そういうグランも良いの?」
「まぁ、今はあいつらだけで喜ばしておいてやりたくてな」
「私も同意見だよ」
先生と顔を見合わせて笑いあう。
「今回、後半からはあまり出番が無かったな」
「まぁー、私はゲーム開発に明るいわけじゃないし。G.Bibleを取りに行ったときぐらいかな? 私が手助けしたのは」
「あと、生徒会襲撃か? あとでユウカになんて言われるかな?」
「うっ……」
俺がそう指摘すると先生は笑顔のまま固まり、顔を青くする。そんな様子が何だかおかしくて笑ってしまう。
「あっ、よくも笑ったなー、グラン!」
「いや……ハハッ、なんだかおかしくてしょうがなくってさ」
「むぅーっ!」
むくれている先生から視線を外してみんなでギュッと抱きしめ合いながら笑っているアリス達を眺めるる。
「良かったな、アリス」
「もう。立派なお兄ちゃんだね」
「そうかぁ?」
思わず再び先生の方に視線を向ければ、すでに先生はむくれておらず、なんだか生暖かい目線を俺に向けていた。その視線がくすぐったくて身をよじる。
「あ! 先生とお兄様もこっちに来てください! これからみんなでゲーム開発部存続決定パーティーをします!」
アリスがこちらに向けて手を振って呼びかける。
「呼ばれたからには行ってやらないとな……」
「よっ、お兄ちゃん」
「止めてくれ先生」
後ろで何やら囃し立ててくる先生を止めながらアリス達の元へ向かう。
楽しいパーティーになりそうだな。
これにてパヴァーヌ一章は終了! 仲間と一緒に一つの目標に向かって活動する、これぞ青春! そういう意味でグラン君が今までよりも明るくて、楽しく過ごしているのが特徴のパヴァーヌでした。……は? なんでグラン君が青春を謳歌してるの……? 代償を払ってもらわなきゃ……。
あ、そう言えばこの話で通算100話達成です! 皆さんの応援でここまでやってこれました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
グラン君の苦悩はこれからも続きます!
リロちゃんみたいな名ありのサブキャラ
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いる!
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いらない!