92話
◎・オデュッセイア海洋高等学校 ゴールデンフリース号・
いつもとは少し違うスーツを身にまとい、ヘリに揺られながらグランは眼下に佇む豪華クルーズ船ゴールデンフリース号を見つめる。
「代表! 随分遠い目をしていますが何かありましたか?」
「ん? あぁ、まぁ色々とな」
ヘリのパイロットから声をかけられて曖昧な返事を返すグラン。今グランの脳裏にはかつてこの船での苦労が思い起こされている。
「Aクラスになるまで本当に大変だったなぁ……」
そんな思い出を振り返っているとヘリがヘリポートに着陸する。ある程度風邪が収まってからヘリから降りるグラン。目にはモノクル、手にはステッキを持ち、腰には今のスーツに合わせて違和感が出ないように軽装なショットガン『USG-11 ELMIRA』を装備している。
「代表、よい休暇を!」
「おう」
ヘリはグランが下りたことを確認すると再び空へと舞い上がり次第に見えなくなった。そうすると船内からフロント係がやってきて礼をする。
「これは、これは、『代表』。この度はゴールデンフリース号へのご乗船ありがとうございます。お部屋にご案内いたします」
「よろしく頼む」
フロント係に荷物を預けて部屋へと向かうグラン。船内は豪華クルーズ船というだけあって隅々まで清潔で高級感にあふれている。部屋までの廊下をゆったりと歩きながら依頼について考えるグラン。
(さて……今回の依頼。元々ユウカから依頼されたのは俺だけだったとはいえ、先生不在とはな……。先生は山海経に呼び出されたと言っていたが……まぁ、危険はそれほどないはずだし、当番の生徒もついて行ったから問題ないだろう。とはいえ、C&Cを俺一人で制御できるかぁ……? あー、頭が痛くなってくる)
グランは思わず頭を抱えそうになるが努めて我慢する。先生も山海経に向かい、グランもオデュッセイアに向かうことなっていたため、現在シャーレは休業しており先生やキッドたちからの提案もありグランは休暇としてこのゴールデンフリース号に乗り込んだのであった。
(と、言っても明日にはC&Cが来るし実質的な休みは今日一日だけ……。いい機会だし、ゆっくり休ませてもらうか)
「こちらのお部屋になります」
「ありがとう。荷物はそっちの端にでも置いといてくれ」
「かしこまりました……。それではごゆっくりどうぞ」
そうこう考えている間にグランの宿泊する部屋に到着し中に入る。ゴールデンフリース号上部のロイヤルスイート、それが今回のグランの部屋だった。このロイヤルスイートは、リビング、ベッドルーム、バスルームがそれぞれ独立している。リビングルームにはゆっくりとお食事が楽しめるダイニングテーブルと大人数でもゆったり座れるソファーがある。オーシャンビューなバスルームでは洋上から朝日や夕日を眺めながらのバスタイムが満喫できる。さらに天気の良い日にはルームサービスを頼んで、バルコニーで食事をとることも可能だ。部屋内に入ったグランは最初に行ったことはかたっ苦しいスーツを脱いでラフな格好になることだった。
「ふぁーーー。いや、マジで苦しかった」
Tシャツとズボンだけのラフな格好になったグランはふらふらと歩きながら窓を開けてバルコニーに出る。そこには青い空、どこまでも続く海面、鼻をくすぐる海の香り、自分が今船の上にいると再認識するのに十分な情報が流れ込んでくる。
「最っ高の天気だな」
グランはサンダルを履きながらバルコニーに出てバルコニーに置いてある椅子に腰かける。ポケットからガサゴソとライターとタバコを取り出して火をつける。そしてボーっと海を眺めながら一息入れるのだった。
「……なんか……久々だな、こうして一人でいるのも」
空を見上げながらそうポツリとこぼすグラン。吸っては吐いて、時たまタバコの灰を灰皿に落としてを繰り返しながらグランは思考を巡らせる。
「どうしてこうなったんだろうなぁ……。俺はただユメ先輩とホシノとで努力して苦しい時もあるけど、支え合って、笑いあっていれたらそれで幸せだったんだけどなぁ……。どうしてこうなったんだろうなぁ……」
ハイライトの消えた目で二本目のタバコに火をつける。今度は椅子から立ち上がりバルコニーの手すりに寄りかかるようにして水面をジっと見つめる。
(どこで間違えた……。ホシノに退学を告げたとき? アビドスに戻った時? 先生と出会った時? シャーレの部長に就任した時? 連邦生徒会長に目を付けられたとき? 『ODI ET AMO』を創設した時? キッド2と出会った時? ブラックマーケット入りした時? アビドスを離れたとき? ユメ先輩を見殺しにした時? アビドスに入学したとき?)
そこまで黙って色々なことを考えていたグランだか思考の沼に嵌り脳裏にネガティブな嗜好が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。そしてある考えが口を出てしまう。
「そもそも生まれてくるべきじゃなかったのかな……。あ」
ふと無意識に飛び出た言葉。しかし、一度その考えが思いつくとずっとそのことが頭から離れなくなる。少しずつ息が荒くなり、呼吸が儘ならなくなる。煙草を海に投げ捨てて座り込み、胸を抑える。次第に今まで自身が犠牲としてきた人間がグランを攻める言葉が聞こえてきて思わず耳を塞ぐ。
「あ、ああああぁぁぁあ゛ああ゛あ゛あ゛! 五月蝿い、五月蝿い、うるさい、ウルサイ! 消えろ消えろ消えろ……どうすれば、どうすればこのウルサイ声は消える!」
グランの視界に水面が写る。すると思考がフラットになりユラユラと立ち上がり手すりにを乗り越えようとする。まるで誘蛾灯に惹かれる虫のようだった。遂に手すりを掴み上半身が海に向かって傾いてついに堕ちそうになったその時、グランの目にナニカが宿る。その瞬間手の力だけで上半身を持ち上げて海へ向かって落ちていた身体を思いっきりバルコニーに叩きつける。
「っぅぐっ! はぁ、はぁ……」
バルコニーの上に仰向けに倒れこみ荒い呼吸を繰り返す。しばらく日の光を浴びながらグランはそうして寝ころんでいた。呼吸が落ち着いたころグランはゆっくりと立ち上がり多少ふらつきながら部屋の中に戻る。
「……ホント何しようとしてんだろうな、俺。約束から……責任から逃げて楽になりたいだなんて……」
リビングのソファーに腰掛けながらそう呟くグラン。穏やかな表情で天井を見上るその姿は正にリラックスしきっている姿だった。だが次の瞬間、グランの表情は憤怒一色に染まりソファーに付属していたクッションを掴み思いっきり床に叩きつける。そして叩きつけたクッションを何度も何度も踏みつける。対象が柔らかいクッションであったことから床への傷や騒音の問題は無かったがグランのその行為は苛烈を極めた。
「大事なアビドスを! ユメ先輩との約束を! ホシノをおいて! 勝手に終わるだと!? ふざけるな! 俺はこんなところで終わらない、終われないんだよ! 今まで一体どれだけ殺したと思っている! 何人、俺のせいで死んだと思ってる!? それを全部無駄にする気なのか? そんな訳ないだろ! それじゃあ、さっきのは何なんだよ! クソがっ! ……ぐすっ。……」
絶叫した後、今度は涙を流し始めたグラン。今度はゆっくりとソファーにうつ伏せで寝ころび顔をスファーの隅に埋めて丸くなるグラン。そうして暫く声を殺しながら泣くグランだった。
「……クスリ飲まなきゃ」
ソファーから起き上がり、ゴソゴソと荷物を開けて中からキッド2に渡されたクスリを取り出して飲み込む。
「んぐっ、くへへへ。あははは? あ~ああ~~~☆!?」
脳の内側で何かがパチパチと弾け、多幸感がグランを包んで怒りも悲しみも全てが消えていく。そうして心が満たされたグランは寝室へ移動して一度仮眠をとるのだった。
◎・・・
「んぁ……。あぁ、そーいや、寝てたのか」
二時間ほど経ったころグランはゆっくりと起き上がる。そしてあたりを見回して状況を確認する。
「折角だから、出かけるか……」
グランはそう言って準備をし、部屋から出ていく。ゆっくりと船内を回るグラン。その顔はワクワクが抑えられぬ子供のようだった。
「おー……流石の豪華クルーズ船。どこもかしこも高級感溢れつつも下品に感じない塩梅に抑えられている。やっぱ船って中を歩くだけでも楽しいな」
冷めない興奮にグランの足は自然と早くなり、船内にあるダンスホール、図書館、バッティングセンターなどを遊んで回った。次に船内にあるブティックに入りオデュッセイア海洋高等のロゴの入ったTシャツやタオルを手に取る。
「なんでこういう所のシャツとかって無性に欲しくなるんだうな……。ッスーーー……部屋着としてならギリ使えるよな……。あぁ、これは無駄遣いじゃあない」
結局Tシャツの他にゴールデンフリース号が刺繍されたタオルとサンダルを買ったグランは部屋に戻り買った衣服に身を包み船上デッキに行ってプールに足先だけ水につけて遊んだりして時間を潰す。
「あー、水着でも持って来ればよかったか? 少しもったいない事したな……」
ある程度の時間足を水につけて遊んだグランは船上デッキに置かれているデッキチェアに寝ころび、スタッフにドリンクを注文する。届けられたドリンクを飲みながら波の音、カモメの泣き声、鼻をくすぐる潮の匂い、吹き抜ける潮風を味わう。日々の喧騒から離れゆったりとした時間を過ごすグラン。特に思考を巡らせるわけでもなくボーっとして日没を見届けた後、ふと空腹感を覚えるグラン。
「……腹が、減った……」
ポン、ポン、ポン、三テンポほどの間があったのちにグランはデッキチェアから起き上がる。
「店を探そう」
一度グランは部屋に戻りゴールデンフリース号に訪れたときの正装に着替えて部屋を後にする。そうして再び船内を見回り、船内にいくつかある食事処から恐らく一番オーソドックスであろうメインデッキにあるダイニングルームに向かう。
途中見かける女性スタッフはその殆どがバニー姿という事もあり、グランの目を楽しませる。丁度夕飯時ということもありダイニングには多くの人がいたが、『A』ランクを持つグランはVIP席にすんなりと通してもらうことが出来た。
夜もとっぷりと落ち、ゴールデンフリース号の煌びやかなライトを反射して光り輝く海を眺めながらコース料理に舌鼓をうつグランだった。
「旨い……。魚、アビドスを出てから初めて食べたけど見た目の割に旨いよな……」
ダイニングで食事を楽しんだグランは一度この『ゴールデンフリース号』の目玉であるプレイラウンジへと足を運ぶ。既に夜本番と言った時間帯ではあったがプレイラウンジは常に盛り上がっており歓声や悲鳴でごった返していた。そんな喧噪を見下ろし、サービスのドリンクを煽りながらグランは微笑む。そんなグランの姿を見かけてかラウンジガイドが声をかけてくる。
「代表様、ようこそプレイラウンジへ。本日は一体何でご遊戯されますか?」
「ん? ……あぁ、悪いな。今日は見学だけだ」
「左様でございますか」
「くくっ、そんな顔をするな。明日からが本番だからな。頼むぞ……『色々』とな」
「そうでしたか! それではまたの起こしをお待ちしております」
グランの『色々』を色んなゲームをするという意味で受け取ったであろうプレイガイドはにこやかな笑顔でラウンジを去るグランを見送った。
「うわーーーーん! なんでーーーー!」
グランがプレイラウンジを去るときに一層大きな声がラウンジ中に響くのだった。
部屋に戻ったグランは手早くシャワーを済ませて明日からのC&Cとのミッションに備えてベッドにもぐりこむ。目を瞑りながら今日あった事を振り返るグラン。
「生きるのって……難しいなぁ……」
……三テンポの元ネタ伝わるだろうか。というかネタだと伝わったのだろうか。
リロちゃんみたいな名ありのサブキャラ
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いる!
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いらない!