◎・山海経 玄龍門 六和閣・
玄龍門の門主、竜華キサキは六和閣の最上階にある私室で月を見ながら茶を飲んでいた。その側で控えていた近衛ミナはいつもより上機嫌に見える主に思わず声をかける。
「門主様、何か良い事でも?」
「ん? 何故そう思ったのじゃ、ミナよ」
「いえ……いつもよりもなぜだか楽しそうなので、つい。気分を害したのであれば申し訳ありません」
ミナはそう言い頭を下げる。キサキはそんなミナに声をかけて頭を上げさせる。
「別に構わん。ただ思い出に浸っていただけじゃ」
「思い出、ですか?」
「あぁ」
キサキは茶の入ったコップを置いて頬杖をついて小さな声で、それでも万感の思いを込めて呟く。
「妾の愛しい、愛しい、愚かな大哥との思い出じゃ」
◎・約2年前・
『ODI ET AMO』の野営地、その中心にある廃ビルの一室。そこにある俺の私室に入って来たパンツスタイルの制服に身を包んだ黒髪ストレートの女。そいつは俺のデスクの前までくると若干こちらを見下したような目をサングラス越しに向けながら自己紹介をする。
「今日から護衛を担当する『リュウカ』じゃ、よろしく頼むぞ
「だーか?」
「山海経の一部で使われる言語*1で若い男を呼ぶときの言葉じゃ」
「成程……」
俺がアビドスを離れてブラックマーケットに訪れてからそれなりに時間がたった。ムイという信頼できる部下にも出会いオールドキングの元で下積みも経験して、オールドキングの下請けという形だが、ようやく自分の組織を持てるようにもなった。しかしこの組織『ODI ET AMO』は小さく自前の戦力はまだまだ育ち切っていない。そんな自前戦力の訓練教官兼幹部メンバーの護衛として裏社会に属する人間の警護なども請け負う山海経の玄龍門に人材の派遣を依頼した。そして俺の護衛としてやって来たのがこの『リュウカ』という名の少女。
「……偽名か」
「そうじゃな、この業界では珍しいことでもあるまい」
確かに珍しいことじゃないが、それにしてもなんか……こいつの立ち回りを見ていると……なんだろうな……。
「お前、下っ端……もしくは新人か?」
「……ほう? 何故そう思う?」
「先ほどから周りをチラチラ見ていて落ち着きが見えない、場慣れしていない証だ。……フン、山海経に足を見られたか」
実際、強すぎる人材を送られてもいざというときウチの組織ではそいつの暴走を止められないからな。最低限の仕事ができる人間ならどうでも良いがこんな風にあからさまに舐められるとはな……。どうしたものかと考えているといつの間にかリュウカが俺のデスクにギリギリまで近づいていた。
「おい、何のよう――ガッァ!?」
リュウカは俺の襟元を思いっきり掴み上げ、椅子から俺を立たせると今度はデスクの上に俺の頭を叩きつけて空いた口に銃口を入れてきた。
「下っ端だろうとお主一人ぐらい簡単にねじ伏せることが出来る実力はあるのじゃが?」
「はぁ……やっぱり下っ端か」
「あ?」
おうおう、随分怖い顔をしちゃってさぁ。
「そうやって、すぐにムキになる所がダメなんだよ。あと、腕が一本ない男を組み敷いて自慢げにされても滑稽なだけだぞ」
「気に食わぬ男!」
リュウカは忌々し気に舌打ちしながら俺を離す。身なりを整えて改めてリュウカを見ると完全に拗ねてしまって腕を組んでそっぽを向いていた。
「だが……気配を殺して接近する技術は素晴らしかった。案外変装や潜入と言った方がお前には向いているのかもな。いいセンスだ」
「いい……センス?」
俺がそういうとリュウカは顔だけこちらを向けていた。その表情はなんだか驚いているようでその姿がなんだか可愛らしく思えた。
「これからよろしく頼むよ、リュウカ」
「……あんなことをしたのに契約を続けようというのか」
「滑稽とは言ったが、制圧されたのは事実、確かに腕はあるみたいだからな」
そこまで言って俺はリュウカの頬に手を添える。俺の突然の行動にリュウカはかなり驚いたようで顔を赤くしている。……なるほど、こっちも新人ってわけだな。
「それにお前ほどの美人もそうそういない。侍らせるならお前のような女の方が気分が良い」
「……妾のような女が好きとは随分変わり者だな大哥」
「なんとでも言え。ともかくよろしく頼むぞ」
そう言って俺はリュウカに向かって手を差し出した。リュウカもゆっくりとだが手を出して握手をしたのだった。
◎・・
それから数か月、俺はリュウカと共にブラックマーケットの有力者に対しての挨拶回りや日銭稼ぎに臨んだりした。
「大哥、少し良いかのう?」
「なんだ?」
「その書類だが―――」
俺が作業していた書類で何か気になる点があれば指摘したり……。俺はアビドスを中退したわけでまともな教育は受けていなかったからこのリュウカの指摘にはよく助けられた。
◎・・
「おぉ、綺麗なガールフレンドじゃないか、グランくん! ……でも君相手にしてはちょっと若すぎないかい?」
「なんじゃと?」
「えぇ、とても素敵な彼女ですよ。……それに彼女は私が今まで見た来た女性で一、二を争うほど良い女です。体だけで男に媚び諂うだけの女とは違いますから」
「……大哥」
いつも着飾った豊満な体の女ばかりを侍らせているブラックマーケットの有力者の一人に挨拶した時、暗にリュウカの体型が貧相だと言われたときに言い返したりもした。……よく考えるとあれ結構危なかったよな。帰り道、すっかり暗くなった街中をリュウカが運転する車で帰る。月明かりに照らされた橋に差し掛かった頃、リュウカはバックミラーでこちらを見ながら喋り出す。
「……のう、大哥よ」
「んだ?」
「……ありがとう」
「俺は自分が思ったことを言ったまでだよ。実際お前は見た目も心も美人、というのに相応しい女だよ」
「……童貞がかっこつけおって」
「そ、それは今、関係ないだろうが! というか雰囲気台無しじゃねぇか!」
「妾が相手してやっても良いのだぞ?」
「バッッカ!? そういうのは本当に好きな人とするんだぞ! 冗談でもあんまり言わない方が良い」
「冗談なぞでは言ってないわ、阿呆め」
「なんて?」
最後の言葉だけ上手く聞き取れなかったんだがまぁ、銃向けたり殴り掛かれたりしてないから嫌われたわけではないようで安心したよ。
◎・・
「おい、リュウカー。生きてるか?」
「なんとかのー」
「まさか商談丸々罠だとは思わなかった」
『ODI ET AMO』の勢力拡大の為にある組織に商談を持ちこんだ。妙にセッティングが速かったり向こうがやけに好意的で少しばかりきな臭さは感じていたが、まさか建物ごと爆発させてくるとは……。ヘイロー壊れるかと思ったぞ。おまけに建物の倒壊を生き残っても相当部隊が派遣されるとはな……。
「だが、妾と大哥の敵ではなかったな」
「ほんとか~? 大分焦っていたように見えたが?」
本当にリュウカがいて良かった。俺一人ではこの場を切り抜けることは決してできなかっただろう。今も心臓がバクバクしてる。そんな中リュウカは煤にまみれ、服も所々破けていたいたが満面の笑顔をして俺のほうを見ていた。俺はそんなリュウカがたまらなく愛おしく見えて思わず抱きしめる。
「あー! 本当にリュウカがいて助かった。ありがとな! お前は最高の女だよ!」
「ふふふ、そうじゃろう! そうじゃろう! 大哥もカッコ良かったぞ!」
二人して危機的状況を脱したことで興奮状態にあったのだろう、互いに大笑いしながら抱きしめ合ってた。
◎・・
「このっ、大馬鹿ものが! 護衛を庇って大怪我なんぞしおって!」
「はは……全くその通り……だよ。……けど、リュウカに怪我して……欲しくなか、った……」
足が痛い……俺の……俺の左足、どこ? どこに飛んでいった? あぁ、ダメだ……血が止まらない……意識が、視界が……目を開けてられない……。
「嘘じゃ! 大哥! もうすぐ、もうすぐ大哥の所の衛生兵が来る! 目を閉じては駄目じゃ! 嫌、嫌じゃ、大哥! 大哥! 目を、目を開けてくれ……グランッ!」
あぁ……そんなに泣かないでくれリュウカ。折角の美人が台無しだ……。
◎・・
「もう、お別れか。寂しくなるな」
「そうじゃのう……大哥の組織も大きくなったし、そもそも妾は護衛の任務を全うできなかった。もうここにいる意味はないじゃろう?」
「あるぞ」
「ほほう? 妾では想像もつかん、是非教えて欲しいのう」
新たな『ODI ET AMO』の拠点となったビルの屋上にある庭園。夜ということもありライトアップされた庭園を俺とリュウカは並んで歩いていた。ニヤつきながら俺の顔を見上げるリュウカ。……本当に顔が良いな、コイツ。
「俺の目の保養」
「ほんっとうにお主は妾の事が好きじゃのう」
「あぁ、大好きさ」
「……」
立ち止まり、頬に手を添えながらそう言ってやる。今まで余裕そうにしていたリュウカの動きがビシリと固まり動かなくなった。
「くくくっ」
笑いながら手を離して歩きはじめる。リュウカはまだ固まっているが復活すればすぐに隣に走ってくるだろう。
「わ、妾も!」
「ん?」
ある程度歩いた時に後ろから大声がして振り向く。すると先ほどと同じ場所にサングラスを外し、顔を赤くしながらも真剣な表情でこちらを見つめるリュウカがいた。
「妾も、大哥の事が好き、大好き、愛しておる。そう、愛しておるのじゃ」
「リュウカ……」
それはからかい等ではなく真剣にこちらに好意を伝えていた。両手を握りしめて肩を震わせ、緊張で目を見開いて涙がこぼれそうになっていた。これはこちらも真剣に答えないとな。というか、また女子の方から告白させちゃったな。一度リュウカから視線を外して庭園の端まで歩いていく。そして転落防止の手すりに両手を置いてそこから見下ろせる夜景を眺めながらリュウカに話しかける。
「リュウカ、俺もお前のことを愛してるよ。だけど今はどうしてもこの『ODI ET AMO』を大きくしたいんだ。俺の……、ユメの為に。だから誰かと付き合ったりとかはできない。ごめん」
俺は卑怯者だ。真剣に答えないと、とか言いながらリュウカの顔を見るのが怖くて、こうやって背を向けながら返事している。ほんと、最低だ、俺って。リュウカが動き出したのか足音が近づいてきて俺の隣で止まる。しかし何も言わないリュウカを不思議に思って俺は横を向く。そこには何故か晴れやかな顔をしたリュウカが俺と同じように夜景を眺めていた。
「知っておったよ。でもどうしても大哥に妾の想いを伝えたくてな。大哥よ、少し屈んでくれ」
「あ、あぁ」
リュウカに言われて目線を合わせるように屈む。
「妾の名前は『竜華キサキ』」
「それは……」
「今度は偽名ではないぞ。大哥には本当の妾を知っていてほしかったのじゃ。……名を呼んではくれないかのう、大哥?」
リュウカ、いやキサキはそう言いながら俺の手を両手で握る。
「……愛してるよ、キサキ」
「! ッ……大哥! 妾の、妾の大哥! 嫌じゃ、もっとここにいたい! もっと大哥と一緒にいたい! もっと、もっと……大哥と……」
「キサキ……」
泣き出してしまったキサキを抱きしめる。何か気の利く言葉をかけられれば良かったんだが、ただ俺は背中を擦ってやることしかできなかった。しばらくしてキサキは泣き止んで俺から体を離す。するとガシッ、と肩を掴まれた。
「明日、妾は山海経に帰る。故に……今宵、妾を抱け」
「え?」
「部屋に戻るぞ」
「あ、え、ちょ?」
キサキに半ば引きずられる形で庭園を後にする。
え? 俺、これから童貞卒業するの?
◎・山海経 玄龍門 六和閣・
「ふふっ。思い出したら体が疼いて来たのう……」
キサキはその夜にあったことを思い出して僅かに身震いする。
「次来るのは、いったい何時になるのじゃろうな……。妾の大哥なのに……最近、余計なものがくっつきすぎではあるがのう」
「も、門主?」
「ん? 何も気にするな。妾は部屋に戻って寝る。後を任せる」
「はっ」
そう言ってキサキはゆっくりと部屋を後にしたのだった。月が爛々と光る妖しい夜の日の話だ合った。
キサキは早く実装しろ。セイアも早く実装しろ。チアキも早く実装しろ。オトギも早く実装しろ。ハルカと付き合って褒めまくって自己肯定感を育ててから彼女のせいで死にたい。
四脚、心の俳句。
いつか考えているイベント回グランが若返ります。1年や幼児は体の年齢。記憶は頭の中身、なしだとその体の当時の記憶しかない。ケガは主に四肢欠損のありなし。
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一年、記憶あり、ケガあり
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一年、記憶なし、ケガあり
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一年、記憶あり、ケガなし
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一年、記憶なし、ケガなし
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幼児、記憶あり、ケガあり
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幼児、記憶なし、ケガあり
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幼児、記憶あり、ケガなし
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幼児、記憶なし、ケガなし