◎・プレイラウンジ・
ゴールデンフリース号のプレイラウンジは普段とは別の喧騒に包まれていた。
「クソっ、数が多過ぎるだろ!」
「ネル! 余り突っ込み過ぎなよ! 一気に飲まれるぞ!」
「わーってるよ!」
ネルとグランに群がる多くのバニーガール・ガード達。一人ひとりの実力は問題なく対処できるが、その数が驚異的だった。倒しても、倒しても湧いてくるバニーガール・ガードにネルとグランの被弾も目立ち始める。そんな中、ゴールデンフリース号に雇われている傭兵が姿を現す。
「へばり切った相手が二人、オイシイ仕事だ」
「ッ、ネルッ!?」
「はぁっ!? お、おまッ、こんな時にいきなり――ズガァッッン!――― は?」
突如として背中合わせで戦っていたネルの方を向いてネルを覆い隠す様に抱きしめるグラン。突然のことにネルは照れてグランの腕のなかで暴れるが次の瞬間、大口径銃の銃声が響き渡り、ネルに向かって弾丸が跳ぶ。しかしグランがネルを庇ったため、ネルに傷はなく、ただグランとグランの左腕が吹っ飛ぶだけで被害は抑えられた。
「お、おい! グラン!?」
「っううぅ……。おいおい、ネルがいくら強いからって今は可愛いバニー服姿なんだぞ。そんな大口径が当たったら肌に傷が残っちまうだろうが……」
その言葉を最後に銃床で思いっきり頭を殴られて倒れこむグラン。倒れたグランを拘束しようと群がるバニーガール・ガードを蹴散らしながらグランの元に走るネル。しかし、今まで一か所に出来るだけ留まって迎撃メインで戦闘していたのとは打って変わって今度はグランの所まで走る必要があった。なれないヒールでの疾走にネルは足が縺れ転びそうになりその隙をつかれてしまう。
「いづッ、クソが! 走り辛くて仕方がねぇな! おい、鎖を引っ張るな! クソ! クソ!」
いくら膂力の差があろうが体格差でどうにもできないことがあり、ドンドン上に乗っかられることで動きを封じられるネル。蹴りや殴りでどうにか時間を稼ごうとするが数の暴力は圧倒的でありネルとグランは拘束されてしまったのだった。
◎・ゴールデンフリース号 臨時の牢屋・
臨時の牢屋に武器を没収された状態で放り込まれるネルとグラン。
「あーくそ、踵が剥けてやがる……。お、おいグラン大丈夫か?」
「まぁ……な」
ネルは放り込まれた牢屋の床で倒れたままのグランの近くによって状態を確認する。グランは銃床の一撃で気絶させられた後、義肢を没収されていて起き上がるのも大変そうだ。なんとか寝返りをうってネルの方に顔を向けて返事をするが、あの大口径の一撃がかなり効果的だったのか、かなりか細い声のグラン。そんなグランを見てネルはグランの近くに正座してグランの頭を横向きにし自身の膝に乗せる。
「ネル?」
「あー、あれだ。アタシを庇ってできた傷だからな、少しでも楽になればと思って……そのー、とっ、とにかくお前はそのまま少し休んでろ!」
直接傷には触れないようにゆっくりとグランの背中を撫でるネル。その優しい手つきにグランの痛みは多少なりとも和らぎ毛分かった表情も落ち着く。グランの状態の変化に気が付いたのか笑顔で愚痴を話すネル。
「にしても、あんな狭ぇ場所で『2対100以上』とか流石に多過ぎだろ……どんだけ警備の奴ら暇なんだよ……」
「実際、ここはたまにギャンブルに負けた客が騒ぐぐらいで滅多に事件は起きないからな。ただ、この船の中で動く金額はかなりのものだから警備の数は凄まじく多いぞ」
「マジかよ……。ったく、『スマートに』とか慣れねぇことすっからこんな無様を……」
離しながら段々と曇り顔になっていくネルを見てグランはまだ残っている右手をどうにかネルの頬まで持って行く。
「そんな顔するな。途中までは上手く行ってただろ? ネルには隠密の才能もあるさ、ただ今回は色々とイレギュラーが重なっただけだ」
「んだよそれ、慰めてるのか?」
「何だかすごく落ち着いてる……落ち込んでる? みたいな気がしたからな」
グランが半分質問のような形でいうとネルは納得した顔になる。
「あー、別に落ち込んではねぇぞ。これくらいのことならよくあることだ。それにまだ任務が失敗した訳じゃねぇ。ただこの後の事を考えるとちっとイライラしてくんだ。それを抑えてる」
「抑える?」
グランがネルの言葉に目を細めると同時に牢屋の前に誰かが歩いてくる。
「やっはー! 先輩、久しぶりーーー!!」
「……はぁ。来ると思ったよこいつ、楽しそうにしやがって……」
「いやー、びっくりしましたよもー」
「黒崎コユキ……」
牢屋の前までやって来たのはグラン達が追っている相手、黒崎コユキ本人だった。
「急にアスナ先輩の懐かしい顔がドーンって出てきて、まさかと思って振り返ったら、いつもの仏頂面のネル先輩が……!」
けらけらと楽しそうに笑いながら話す黒崎コユキ。
「ま、でも今は全然大丈夫! なんたって私は、この船のお客様として丁重に守られてるからね!ここにいる大量の警備は、全部私の護衛兵みたいなもの! いくら先輩達でも、流石に多勢に無勢なんじゃないかな~? さっきもたくさん来たけど、まだまだあんなもんじゃないですよ? それに、いくら半分独自の運営をしているとはいえ、この学校を敵に回したい訳でもないでしょ? もう正体バレちゃったんだし、作戦失敗じゃないですか?」
そこまで一息で言い切ったコユキの肺活量にグランは内心驚いていたが、ここでそれを指摘するわけにもいかないので黙っておくグラン。
「んー、もし先輩たちに可能性があるとしたら……。プレイラウンジのゲームでSランクを勝ち取って、VIP扱いになるとか? そうしたら、超法規的な特権が手に入るらしいし、こんな状況何とでもなるかもしれませんね? にははは! ま、でも文字通りそれは夢物語かな~? 別に先輩たち、今沢山お金持ってる訳じゃないでしょ? 私がこれまでかなりのお金をつぎ込んでも出てないんだから、まぁ実質的に無理だと思いますよ~! 私、黒崎コユキは、今度こそミレニアムの魔の手から逃げ出して見せるんだから! この船の主になって、先輩たちを追い出して……何のしがらみもなく、好き放題生きてやる!」
コユキはそう言って手をギュっと握りしめ意気込んで見せる。
「はんっ、ベラベラと、楽しそうじゃねーか。夢中になって目が悪くなったか? それとも礼儀なんて言葉も忘れたか? ……この男、みえてねーのか?」
「この男……。……はっ!? あの、ネ、ネル先輩が膝枕してる!?」
「えっ、あっ!」
ネルがグランの事を指すが、コユキの言葉に改めて自分の格好に気が付いたのか顔を真っ赤にする。
「こ、こんにちは! 初めましてですよね! 私は黒崎コユキです。コードネーム『白兎』と呼ばれて、指名手配で追われてたりします!」
「初めまして、水戸グランだ。こんな格好で失礼する」
「ところであなたは……ネル先輩の彼氏さんですか?」
「は、はぁっ……!?」
「あっ……」
コユキはしゃがみ込んで寝ているグランに出来るだけ視線を合わせて会話する。そうしながらグランに質問した内容にネルは大声を上げて立ち上がる。ネルが勢いよく立ち上がったことで癖ランは膝から落ちて再び床に叩きつけられた。うつ伏せに倒れたグランは痛みに耐えながら顔を上げてコユキに喋りかける。
「ネルは美人だからな、そうなれたら嬉しいけど……」
「へっ!? ば、バカか!? そういうんじゃねぇから!?」
「まぁ……こんな感じだ」
ネルは眼を吊り上げながら否定の声を上げ、グランも苦笑しながら否定する。ネルとグランの様子を見比べた後コユキは何か納得したように頷き、ニマニマと笑いながらグランに質問を続ける。
「ふーん、まぁ、今はそういう事で……。それはそれとして、グランさんこんなところでネル先輩と一緒に何を……?」
「言わなくていいぞグラン! ってか、そんなのテメェが知ってどうすんだよ!」
「……コユキがここで何をしているのか、それを調べに来た」
「おい、グラン!」
グランがコユキの目を見ながら真剣な表情で喋り出す。ネルはグランが話し出したことに驚いて声を荒げる。
「何か犯罪などに巻き込まれていないかと先輩たちが心配していたが、変なことはしていないか?」
「変なこと、ですか……いえ、特に何も?」
グランの質問にコユキは少し考え込んだ後、真顔で何もないと言い切る。
「本当か? 債権は何に使った?」
「債権? ああそれは、あそこでゲームをしていたらお金が無くなったので、ちょっと使いましたが……」
「おい、金額は聞いたがちょっととかいう額じゃねーだろ。てめぇ自分がいくら使ったか把握してんのか? どうせ何も考えずに使ってたんだろ?」
「まぁ、特に計算とかはしてませんね……? テキトーに使ってましたので、確かに合計いくらくらいになったんでしょうね~」
「『でしょうね』じゃねぇよ! アタシも覚えてねーけど結構な額だよ!」
「そんなこと言われましても、数えてませんし……お金なんてなくなったらどこかから貰ってくればいいじゃないですか?」
「……」
途中からネルが会話を代わりコユキに債権の使い道など、その額について話し出す。グランはその間ずっとコユキの方をじっと見つめて無言だった。
「もしミレニアムの金を全部使い切ったらどうすんだよ?」
「他の学校があるじゃないですか」
「……ってか、てめぇはそもそも誰かのお金を勝手に使うってのがおかしいとは思わねーのか?」
「いえ、別に。何かおかしいです? お金は元々巡り巡るものじゃないですか。ただ寝かせておく方がどうかと思いますよ? この船で出会ったノーザークさんも言ってました! 『ある金は活かすべきだ』って」
「そろそろわかったと思うがグラン。こういうやつだ。全然話が通じねぇ……グラン? ッ!!」
「ハッちゃ!?」
ネルが黙りこんでいたグランを不審に思い顔を覗き込む。そうしてグランの顔を見たネルは思わず悲鳴が漏れそうになる。そして正面からグランの表情を見たコユキは腰が抜けてへたり込む。
うつ伏せに倒れながら顔を上げてコユキの方を見上げていたグランの表情は正に修羅と見まがうものだった。
「黒崎コユキ……お前は金というものを稼ぐのがどれだけ大変かを、金がどれだけ人の人生を狂わせるのかを、そして……金が無いせいで死ぬ人間がいるということを知らない。……死んだ人を見たことが無いから"そんな事"を……"他人の金"を奪うなんて発想になるんだ……。絶対に……絶対にここから出て俺がお前を直接、ぶっ潰す!」
グランは今にも牢屋の檻に嚙みつかんとする勢いでそう言い放ち力いっぱいコユキを睨みつけるのだった。
コユキの行動ってグラン……というよりアビドス組にとって地雷なのではと思いこんな感じになりましたが、グラン君に酷い事されるコユキはいないのでご安心くだそい。